烏野高校の猫又君   作:青黄紅白

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2012年4月②

 坂ノ下商店の裏にあって、以前は男子バレー部用の寮として使っていた家を祖父ちゃん祖母ちゃんは第二の家として使ってる。つまり学校までは10分もかからない。

 登下校にかなり楽な道を通って学校へ。俺と同じように新しい制服を着てる生徒が多い。今年の男子バレー部は何人入るのかね。

 

 

 1年5組の教室で名前順で指定された席に座っていると色んな会話が聞えてくる。同じ中学だった人、まさかの幼稚園が一緒だった人、近くの席の人に積極的に話し掛けて顔見知りを増やしていこうとする人。

 俺は適当にぼけっとしとく。俺は影だ。誰にも認識されないように……!

 

「話し掛けて良い?」

「どうぞ」

 

 俺の席は廊下側の右から二番目、かつ前から4番目の席で、右斜めの男子から声をかけられた。影には成れなかったよ……。

 

「俺、星野陽一。宜しく」

「猫又繋護です。ねこでも繋護でも可。ホッシノーで良い?」

「アッシマーと同じアクセントか……」

 

 〝アッシマー〟って何だ? まあいいや。

 

「ねこはバレー部に入るつもりなのか?」

「そう」

 

 星野の視線が俺の筆箱のバレーボールのキーホルダーにいったから、筆箱を持って星野に見せる。この筆箱、実は彩音ちゃんとペアルックです。にひっ。

 

「星野は?」

「俺は軽音。ドラムやるんだ」

「かっけーじゃん。女子からモテモテだね」

「そうなるよう頑張る」

 

 そんな風に星野と話しているとチャイムが鳴って、同時にバインダーを持った担任の先生がやってきた。女性の先生で名前は若林智子先生。入学式の時もそうだったけどほんわかしてる印象が強い。

 

「は~い。皆、席に着いたねー。早速初ホームルームを始めていきまーす。

 入学式の日にも挨拶だけしたけど、1年5組の担任を務めます若林智子です。担当科目は家庭科だからそっちでも宜しくね。受け持ってる部活は家庭科部。

 家庭科部に興味がある人はいるかな?」

 

 若林先生がそう聞くと、ちらほら手が上がった。3人くらいかな。

 

「うん、今日から仮入部期間だから是非遊びに来てね。

 はい! じゃあこれからの流れです。皆に自己紹介をして貰って、校内の案内をします。図書館とか進路相談室とかね。早く高校の構造に慣れていきましょー。

 その後は部活紹介だから仮入部期間中に興味を持った部活に遊びに行ってみてね。では早速安達さんから自己紹介をして貰おうかな。安達さん、宜しくね」

「はい」

 

 トップバッターは安達優子さん。俺は〝ね〟だから結構後の方だ。

 

 

 自己紹介やら校内案内、部活動紹介が終わって放課後になった。仮入部期間がいよいよ始まる。繋心兄ちゃんよりも前に行かないと何されるか分からねえ。早速ゴー!

 

「あ、猫又君ちょっといい?」

「あ、はい」

 

 何だ。何かしたか俺。「荷物持って良いよー」って言われたからリュック背負っていこう。中にはシューズとウェアも入ってる。……それしか無いとも言う。

 準備ができたから前の教卓の方に行くと、「ごめんね、これ職員室まで持っていって貰っても良い?」って聞かれた。ま、仕方ないか。

 

「分かりました」

「ありがと~、助かる~!!」

 

 提出した各家庭の緊急連絡先を書いたプリントを纏めて、若林先生と一緒に職員室を目指す。新入生特有のフワフワしてる雰囲気と仮入部が始まったことによる部活動勧誘期間の慌ただしい雰囲気が入り交じってて飲まれそうだ。こういう時は怪我とかしやすいし、何が起きるか分からない。色々気を付けないと。

 そんなことを考えていると、若林先生が話し掛けてきた。若林先生の身長は150後半だからちょっと目線が下がる。

 

「宮城県どう?」

「…………どう、とは?」

「んー、ほら、猫又君って県外受験者だからさ。今年の新入生でも唯一だったんだよね、ってことで勝手なお節介。

前に烏野で男子バレー部の監督をされていた烏養先生って方がいらしたときはバレー部が強かったから越境入学者も多かったんだよね」

 

 知ってまーす。よく知ってますよー。その人俺の祖父ちゃんでーす。

 

「ああ、なるほど。お気遣いありがとう御座います。

 ……でも、大丈夫ですよ。祖父ちゃんも母さんも宮城出身ですし、ここら辺は土地勘有る方です。今祖父ちゃん家に居候って形ですから」

「あ、そうなんだ、なら良かったよ~。

 首都圏に比べるとこっちの方ってあんまり遊べるところ多くないしね、寒さも桁違いだと思うし気を付けて欲しいなって」

 

 分かる。こっち寒いよな。桜もまだ蕾ですらないし。まあでも平気。

 

「あー……、確かに昼夜の気温の差が激しいですよね。それはちょっと厄介かもしれません。でも空気もご飯も美味しいですから」

「そっか、宮城も良い所多いから色々楽しんで欲しいな」

「はい」

「ということで到着。ありがとね、猫又君」

「いえ、お気遣いありがとう御座いました、失礼します」

「は~い。バレー頑張ってね~。クラス担任としても宜しくね!」

「はい!」

 

 若林先生とそんな会話をしていると職員室に到着して、プリントを手渡すと解放された。若林先生に一礼したらそのまま体育館の方に歩いて行く。

 「烏養一繋は俺の祖父ちゃんです」って言った方が良かったかな? ……まあ良いか。緊急連絡先とか住所みたらすぐにバレるし。でも「なんで言わなかったの!?」って怒られそう。その時は謝ろう。

 それはともかく、ちゃんと生徒1人1人を気に掛けてくれるっぽいから勉強面では負担掛けたくないな。烏の方の祖父ちゃんのことも知ってそうだし、家帰ったら若林先生のこと聞いてみよう。

 

「……良し」

 

 もやっとした気持ちの切り替えも済んだところで、なんだかんだでなじみ深い第2体育館が見えてきた。文化祭とか練習試合の見学でしょっちゅう来てたし。

 正面からそのまま入る、で良いのか? ……ってあれ? 何か聞える。非常扉の方でなんかすっげえ言い合ってんな。あの2人どうしたんだ?

 

「おい影山! どうすんだよ! このままじゃあ……!」

「うるせえボゲェ! 今考えてんだろ!」

 

 俺とそこまで身長が変わらない男子生徒と180cmは有るだろう男子生徒が体育館の非常口辺りで烏野の体操服姿でいがみ合っていた。……うーん、あの大きい方どっかで見たことあるような…………?

 まあいっか。話し掛けてみよーっと。上履きの色は同じだから1年だろうし。もしかしてバレー部に興味がある感じなのかも。入部希望者だと良いね。

 

「こんにちはー」

「「っ!?」」

 

 気づいて貰えるようにわざと足音を鳴らして話し掛けると、暫定バレー部見学者2人が勢いよくこっちを見てきた。ひええっ。その勢いに思わず怯む。

 内心のドキドキを表に出さないように続けた。

 

「あ、驚かせてごめんね。1年5組の猫又繋護って言います。君達もバレー部入部希望?」

「お! おお! マジか!!」

 

 俺とそこまで身長が変わらない方が目を輝かせて走ってくる。……足早いな。あと彼の方が俺より若干身長低い。160前半って所か。たいして変わんねえか。

 それにバレー部特有の筋肉の発達はしてない。どっちかというとサイクリングとかメインでやってる?

 

「俺、1組の日向翔陽! バレー部入るつもり!」

「お、日向君ね、宜しくー」

「日向でも翔陽でもいいぞ、宜しく!」

「おー、俺も猫又でも繋護でも良いよ、宜しく~」

「じゃあ繋護って呼ぶ!」

「オッケー!」

 

 良かった。新入部員俺だけじゃ無い。よしよし。

 ……あとゴールデンウィークにある音駒との練習試合で祖父ちゃんとも会うだろうし、〝猫又〟だと紛らわしいしね。

 

「翔陽は体育館入らないの? バレー部入るんじゃないの? 今日から部活やるよって部活紹介で言ってたよね?」

「うに゛ゅ゛ぅ゛っ……!」

「…………どういう顔?」

 

 そう聞くと、翔陽はさっきまでの楽しそうな表情から打って変わってロシアンルーレットで超酸っぱいものを食べたような表情をした。そのまま「えー」だか「うー」だか唸り続ける。

 まあいっか。今度は大きい方の名前を教えて貰おう。

 

「翔陽にも言ったけど、5組の猫又繋護です。バレー部入部希望、だよね? 名前聞いてもいい?」

「ああ。3組の影山飛雄だ。宜しく」

「影山君ね、宜しく」

「宜しく」

 

 はい、終了。コミュニケーションは苦手っぽい。あと弟というか何というか、構いたくなる雰囲気だ。影山君はバレーやってたな。そういうオーラがある。

 

「……えっ、それだけ? もっと自己紹介しろよ、影山くぅ~ん!」

「うるせえボゲェ! 日向ボゲェ!」

「なんで俺に対してはそんなに喧嘩腰なの、おまえ!?」

 

 翔陽とのいがみ合いをちょっと観察してると、一旦気が済んだのか影山君が話し掛けてきた。

 

「なあ、猫又」

「んー?」

「俺達どこかで会ったこと無いか?」

「え、会ったそうそうナンパ?」

「ちげえ! ちょっと黙ってろ!」

 

 そうだよな。やっぱりそうだ。俺、影山君とどこかであってる。……それにしてもすぐ喧嘩になるな、この2人。こんな姿見られたら入部拒否とかあり得るぞ。

 最悪な展開になるのを防ぐため、かつ、真相を解明するために影山君に話し掛けようとした瞬間に非常扉が開いて、体育館の中から温和そうで左目下の泣きぼくろが目立つ人がひょっこり顔を覗かせた。確か副キャプテンの人だったと思う。名前は聞き取れなかったから分からないけど。

 

「「っ!」」「こんにちは!」

 

 翔陽と影山君が身体を強張らせたのが気になる。……ホント何やったんだ、この2人。

 

「見学希望の子、きょーしゅ!」

「あ、はい! 5組の猫又繋護です! 宜しくお願いします!」

「ささ、入って入って」

「失礼します!」

「俺副キャプテンで、3年4組の菅原ね、菅原孝支。スガ先輩でも可!」

「スガ先輩! 宜しくお願いします!」

「……これだよこれ! 後輩ってこういうのだよなぁ!!」

 

 うわっ、いきなりスガ先輩泣きそうになってんだけど。なんだなんだ?

 促されるまま非常扉から入ろうとしたら、体格ががっしりした貫禄があって部活紹介で挨拶してたキャプテンと坊主頭の人と眼が合った。たちまち坊主頭の人にガンを付けられる。……多分その気は無いのに勘違いさせるタイプの人だろう。……だよね?

 

「スガ先輩どうしたんすか! そのイケメン誰すか? それともまたあいつらが――!」

「違う違う! 早くその顔止めろ! 猫又がびびるだろ!」

 

 ガン付けられてるのは間違ってなかったのか。

暴力沙汰にでもなってバレー部どころか学校辞めさせられるようなことにはなりたくないだろうから手は出してこないでしょ、多分。

 それに、繋心兄ちゃんの指導通りちゃんと足首のサポーターとニースリーブ、カーフスリーブ付けてる。怪我防止には不可欠だよなー。

 

「……し、失礼します?」

「田中が悪いな。さあ入ってくれ」

「あ、はい!」

 

 そのまま上履きを脱いで体育館の中に入る。すると、翔陽と影山君も俺の後に着いてきて――。

 

「おまえ達は駄目だ」

「そ、そんなぁ~!! バレー部入部したいです! お願いします、キャプテン!!」

「俺が言ったことの答えは?」

「今から考えます!」「こいつがいるくらいなら俺は……!」

「何で正直に言っちゃうかな!? 影山君は!!」

「うるせえ日向ボゲェ!!」

「……改善の余地無し、だな」

 

 ――非常扉が閉められて、2人が見えなくなった。ワーワーキャーキャー聞えてくる。

 …………。

 聞いた方が良いのか? 聞いて良いのか?

 これから部活に入部拒否されるんじゃ無くて、もう入部拒否されたところだったのか、あの2人。短いつきあいだったなぁ、南無。

 

「……聞いても良いやつですか?」

「聞かないでくれ……」

「あっ、はい」

 

 結局好奇心に負けた。でも気になるから今度翔陽に聞いてみよう。まあいいや。自己紹介しよう。

 

「5組の猫又繋護です! ポジションはリベロ希望、よろしくお願いします!」

「「「お、おお……!」」」

 

 3人の先輩が感動してる。なんだこれ。

 

「…………どうしたんですか?」

「日向と影山の後に見ると癖無いって言うかさ。

 大地も田中も戻ってこーい、猫又が困ってるだろー?」

「あ、ああ……、そうだな」「そっすね……!」

 

 〝大地〟と呼ばれたキャプテンが数回咳払いをすると、自己紹介の場になった。

 

「スガと同じ3年4組の澤村大地だ。烏野高校男子バレー部のキャプテンを任されてる。宜しく頼むな、猫又」

「宜しくお願いします!」

 

 続いて坊主の先輩。

 

「俺は2年1組の田中龍之介だ! 田中先輩と呼べ、猫又よ!」

「はい、田中先輩!」

「お、おお……! もう1回、……いや、もう2回頼む!」

「田中先輩!」

「っ!!」

「田中先輩!!」

「もう1回!」

「田中先輩! 宜しくお願いします!」

「……猫又良い奴だな! 宜しく頼むぞ!」

「ありがとう御座います」

 

 んー? いい人ではあるけど、多分逆にから回るタイプだろうな、田中先輩は。女子の前では格好付けてダサくて魅力ダウン、みたいな。「さ・し・す・せ・そ」って言い続けてれば絡んでこないはず。

 「流石ですぅ~」のさ〟。「知らなかったですぅ」の〝し〟。「すごーい!」の〝す〟。「センスありますねっ」の〝せ〟。最後に「そうなんですね!」の〝そ〟。

 田中先輩の扱い方は分かった。単純な人で良かった。ていうか、影山と翔陽なら仲良くやれそうだけどな。

 

「大地さん、スガさん、後輩っすよ!」

「知ってるっての」

 

 後輩ができて嬉しいのか、田中先輩は口元が緩んでる。逆鱗に触れさえしなければ良い先輩のままだろう。……何が逆鱗に触れるかは分からないけど。

 

「他の部員は来てから紹介するな」

「はい!」

「運動できる準備は持ってきてるよな? どうする? ボール触ってくか?」

「そのつもりです」

「じゃあちゃちゃっと着替えるべ。部室まで行くのは面倒くさいからステージ裏で良いよ」

「ああ。もちろん明日以降にはちゃんと部室紹介するからな? 明日からはそっちで頼む」

「はい、分かりました!」

 

 スガ先輩と一緒にステージ裏まで行って着替え始める。

 白のバレーボールパンツと黒の半袖シャツ、スポーツ用の五本指ソックスを着たら、ふくらはぎと膝にはロングサポーター、足首には怪我予防のためのソフトなサポーター、腕にアームスリーブ、最後にローカットのバレーシューズを履いてっと。はい完了。

 4月の宮城県の気温は涼しいくらいだからアームスリーブは防寒用。

 見栄えが悪くないようにバッグをステージに置いて、テーピングとかバンドエイドが入った巾着とワイピング用のハンドタオル、ロングタオル、水筒を並べる。……うん、大丈夫。

 フロアに飛び降りて、ストレッチをしてるキャプテン達に混じった。

 

「お、着替えたか。もう少しでコーチと他の部員が来るだろうから、猫又も適当に動いててくれ」

「はい!」

 

 さっそく身体を動かしていこう。まずはストレッチをするための前段階だ。ほんのり汗をかく程度、いきなりやり過ぎは良くない。「これから運動しますよー、起きて下さいねー」って言うスイッチを押す感じ。いわゆる動的ストレッチ。

 身体の中心から末端にかけて。

 指グッパ、手足ブラブラ。肩回し首回し。それぞれの腱伸ばし。エトセトラエトセトラ……。それにしてもやーっと高校生になったよ。

 キャプテン達もすぐ近くでストレッチをしているから話し掛けてきた。

 

「バレーやって結構長いんだな」

「え? ええ、はい。何でですか?」

「運動未経験者だと碌にアップしないでいきなりボール触ろうとするからさ、体育の授業みたいに」

「あー、確かに。あれ見てると怪我しそうで恐いですよね」

「それな! それに、ストレッチ一つ一つに慣れがあるというか、無駄が無い? 徐々に身体を起こす感じとかルーティン化してるだろ?」

「はい、今日の自分のコンディションを確認するためにもやることは均一化してます」

 

 うん、大分身体も起きてきた。ちょっと激し目の奴もやってくか。

 右手で左手の中指を掴んで、そのまま爪が腕に付くように曲げていく。いわゆる手首のストレッチ。すると田中先輩の悲鳴が聞えた。

 

「田中、うるさいぞ!」

「いやいや!? 大地さんもスガさんも猫又の手を見て下さいよ! ヤベーですって!」

「んー? うわっ!」「マジか……!」

 

 キャプテン達の視線が180度近く曲がった俺の左手に止まる。あー、久しぶりだな、この反応も。中学じゃあ皆に慣れられてたからなー。身体の柔らかさには自信がある。

 おっかなびっくりにスガ先輩が指差してきて思わず苦笑した。

 

「い、痛くないんだよな? それ」

「大丈夫ですよ」

「俺そこまで曲がんねぇ……」

「俺も」

 

 俺と同じようにキャプテン達もやろうとするけど、この3人の先輩達の中でもスガ先輩だけが90度以上曲がった。

 

「すげーな、猫又!」

「ずっとストレッチしてきてたので」

 

 猫の祖父ちゃんと烏の祖父ちゃんだけじゃなくて、色んな人が「柔軟性がある方が怪我しにくい」って言ってたからずっとストレッチはやってきた。覚えてる限りだと3歳とかだったような。

 

「前屈どのくらいだ?」

「こんな感じです」

「うぎゃぁぁぁぁ!? 猫みてぇ!!」

 

 立った状態から地面に向かって前屈して鼻が弁慶の泣き所にくっついた。そのまま両手で踵を掴む。「猫みたい」は褒め言葉です。中学みたいに〝化け猫〟って言われるように頑張らないとな。

 ストレッチを続けていると、正面玄関から知らない声と慌ただしい足音が聞えてきた。

 

「お疲れ様です! すいません、遅れました!」

「おー、お疲れさん、縁下。時間は大丈夫だぞー!」

「今年の後輩すげーぞ! 見ろ!」

「田中いきなりだなって、……うわっ!?」

 

 体育館に新しく烏野のジャージを着た3人が入ってきて、俺の前屈を見た暫定先輩達がたまげる。坊主の先輩がタオルを落として慌てて拾った。

「やっば、めっちゃ身体柔らけえじゃん」、「新体操とかバレエやってる女子があんな感じだよな」、「……後でやってみよ」なんて会話が聞えてくる。

 田中先輩が準備を始めた3人の先輩の紹介をしてくれるようだ。慌てて身体を起こして3人の方を向く。

 

「七三分けが縁下力、短髪が木下久志、坊主が成田一仁だ。全員俺と同じ2年だな!」

「遠くからですみません! 5組の猫又繋護です! 宜しくお願いします!」

「「「宜しく~!」」」

「後は3年マネージャーの潔子さんだ! 名前の通り美しい!」

「清水はそろそろ来るな。ああ、ほら、あそこの」

 

 スガ先輩が指差した方を向くと、俺達がいる反対側の防火扉からビブスとジャグを持った眼鏡の女子の先輩が姿を見せた。

 

「清水ー! 今年の1年!」

「遠くからですみません! 5組の猫又繋護です! 宜しくお願いします!」

「ん、よろしく」

「き・よ・こ・さ~~~~ん! 今日も美しいですゥ!!」

「…………」

「ガン無視興奮するっす!!」

 

 会釈を返してくれた清水先輩に田中先輩は駆け寄っていってスルーされた。……あれは気持ち悪がられるでしょ、うん。

 

「……悪い奴じゃ無いんだ、悪い奴じゃ」

「ただ、あんまり女子には好かれないってだけでな。うん……」

「あは、あはははは…………」

 

 苦笑するしか無い。

 そして、普段から見慣れた繋心兄ちゃんも体育館にやってきた。ジャージ姿でリュックも持ってきてる。ここから始まるね。

 

「「「こんにちは! 烏養コーチ!!」」」

「おー」

 

 スタスタこっちに歩いてきてデコピンされる。なんやねん。

 

「1年か? 名前は?」

「はい! 1年5組の猫又繋護です! ポジションはリベロ希望! 宜しくお願いします!!」

「そうか。烏野高校男子バレー部のコーチをしている烏養繋心だ。宜しく頼む」

 

 …………ふっ。

 

「「あはははは!!」」

 

 繋心兄ちゃんと大笑いする。見れば縁下先輩達も集まって皆で大爆笑。

 俺が烏野に入学、バレー部に入部するって話してたんだろうな。こんな茶番してよぉー。

 

「前から言ってるけど、こいつが従弟な。俺の父親の妹の息子。そんで、おばさんが音駒の猫又先生の息子と結婚してる。

 本入部が決まった日にも言うけど、親戚だからって贔屓しねえ。試合に勝てるメンバーを選んでいくから。従弟共々宜しく頼むな」

「「「はい!」」」

 

 肩組むなー。重いー。

 

「……あんまり似てないですね」

「まー、俺はジジイ、コイツは猫又監督に似てるからなー。会ったら多分驚くぞ。『そっくりすぎだろ!?』ってよ。

 それはともかく、メリハリを付けるために言葉遣いはしっかりとしていく。部活中は〝猫又〟って呼ぶから、繋護もコーチって呼べ。いいな?」

「はい、烏養コーチ」

「おし」

 

 烏養コーチが高校生だった時の「烏養監督の孫なのに……」とか「烏養監督の孫だから……」っていう嫌な雰囲気にはさせない。その為にもしっかりとしていかないと。こっから烏野高校男子バレー部を復活させんだよ。

 

「じゃあやっていこうか。

 見ての通りだけど、仮入部が始まったってのに猫又1人しか体験に来てねえ。【墜ちた強豪 飛べない烏】、言葉通りだよな」

「「「……はい」」」

「人数が少ないけど全国に出た高校もあるし、『人数が少ないから烏野は弱い』って言い訳にしていいはずがねえ。

 目標は全国制覇。夏のインターハイと1月の春高。この2つの大会で全国制覇するぞ。気合い入れてけよ」

「「「はい!」」」

 

 キャプテン、スガ先輩、田中先輩、縁下先輩、木下先輩、成田先輩、俺、マネの清水先輩。

 今は7人だ。だから何? 1チーム出来るんだから問題無いよ。おーし。

 

「そんで、さっきボール持った2人の新入生っぽいのとすれ違ったんだけど、何か知ってるか」

「「「あー……」」」

 

 外を見ると、さっきまでいた翔陽と影山君がいなくなってた。「校庭でやろうぜー」とかそんな感じでしょ。

 

「……あー、ちょっと自己中な言動が目立ったので体育館から追い出しました。参加させますか?」

「んー。まあそうだな。仮入部期間ってお互いにやっていけるかを確かめる期間でもあるからな。本来なら3月下旬から新入生も練習に参加するのが基本だけど、ウチはできてねえ。新チーム作りって意味でも1年にも積極的にボール触らせてえかな。インハイ予選まで2ヶ月切ってるし。

 それに、あいつらが『バレー部入れてくんねえから好き勝手やります!』とかだとマジめんどい。問題児は直接監視しておきてえ。

 つーわけで、とりあえず俺も話聞いてみよう。澤村、菅原着いてきてくれ」

「「分かりました」」

「残ったメンバーはストレッチな」

「「「はい!」」」

 

 良かったじゃん、翔陽と影山君。なんとか仮入部できそうだよ。

 そんなわけで烏養コーチとキャプテンは2人のところに向かっていった。田中先輩を中心にアップから始めて行く。

 早歩きとかで軽く動いて動的ストレッチ。徐々に負荷を強くしていくウォーミングアップだ。

 

 

 体育館を追い出された日向翔陽と影山飛雄は校庭の隅で対人パスをしていた。

 

「腕はこうだ! ボゲェ!!」

「も、もう1本! ……あっ! ちわっす!!」

「あんっ!? ……っ! ちわっす!」

「こんな所でやってたのかー」

 

 アンダーハンドパスのフォーム確認をしている日向翔陽と影山飛雄でまず先に日向翔陽が烏養繋心達3人に気が付いて挨拶。そして影山飛雄も続く。

 

「えーっと、さっきはいらっしゃらなかったんだけど、こちらがコーチの烏養さんだ。先週くらいから俺達に指導して下さってる」

「コーチ!? 日向翔陽です! バレー部入部希望です! 宜しくお願いします!」

「……〝烏養〟さん!? 北川第一中学出身影山飛雄です! 自分もバレー部入部希望です! 宜しくお願いします!!」

 

 日向翔陽は純粋にコーチがいることに、そして影山飛雄は〝烏養〟と聞いて〝烏野の烏養〟と言う言葉、更にもしかして以前烏野高校男子バレー部を率いていた監督の血縁者かもしれないと思い至る。

 2人の自己紹介を受けて、烏養繋心もまた自分の自己紹介を始める。

 

「澤村の言うとおり、烏養繋心だ。坂ノ下商店が母親の実家だから烏野に通ってれば何かと会う機会はあるだろう。

 ……まあそれはいい。そんで、日向と影山、仮入部早々やらかしたんだって?」

「「うっ……」」

「何が悪いのか分かるか?」

「人の話を聞かなかったから?」「チームメイトとの協力?」

「分かってるなら良い。

 説教になっちまうけどさ、バレーボールって1人じゃ成り立たない競技なんだよ。コートの中にいる6人が一致団結して勝とうと協力しないと勝てない。

 『こうしたい、ああしたい』って自己主張は持ってもいい。でも『自分が自分が!』ってスタンドプレーになったら、そのチームは崩壊する。6人で1つのボールを追いかける球技だからこそしっかりとコミュニケーションを取っていかないといけない。

 日向と影山がこれからもバレーをするんならちゃんと覚えておかないといけないことだ。意味分かるか?」

「「はい!」」

 

 満足げに頷いた烏養繋心が、ちらりと澤村大地の方を見る。その意図をくみ取った澤村大地が次に話し始めた。

 

「日向と影山、お前らバレー部入りたいか?」

「「っ!! はい!」」

 

 期待を込めて2人は目を輝かせ、苦笑しながら澤村大地が「じゃあ荷物持って体育館に来いよ」と続ける。

 

「「はい!」」

「あと『校庭使います』って野球部とかサッカー部に伝えたか?」

「「? ……いえ」」

「だろうな。面倒くさいとは思うけど、烏野に通ってる以上勝手な行動は許されない。

 野球のボールがお前らのどこかにあたったりだとか、サッカー部と衝突した、あるいはバレーボールが誰かに当たって怪我をさせた、……色々とトラブルを招く可能性はある。

 な? こういう所でも他人と協力していかないといけない。【郷に入っては郷に従え】って有るように、どこかの集団に属するならしっかりとそこでのルールを守って協調性を養っていく必要がある。少なくとも烏野高校ではそういうルールだ。中学とは違うぞ。

 そういうことで、身勝手な行動は許されない。今のおまえ達はバレーボール以前の問題だぞ。気を付けろ。高校生としての自覚を持てよ」

「「……はい」」

 

 立て続けの説教に日向翔陽と影山飛雄は項垂れる。しかし、菅原孝支が口を挟んだ。

 

「ほらほら、バレーやるんだから元気出せって。俺達は先に行くから早く荷物まとめろよ」

「「……はい!」」

 

 こうして、影山飛雄と日向翔陽もまた男子バレー部の仮入部に参加することが決まった。

 

 

 遅れて翔陽と影山君が参加、見学の1年が2人来て今日の仮入部は終わりだ。

 めんどいけど、本入部が始まるまでは早めに帰らないといけない。ルールだからね。仕方ないね。

 

「おーし、じゃあ集合!」

「「「集合です!」」」

 

 パパッと烏養コーチの所に集まってミーティングに入る。

 

「おーし、じゃあ1年は片付ける時間だな。15分くらい使ってしっかりとクールダウンをやるように。クールダウンも怪我防止の為に必須だからな」

「「「はい!」」」

「仮入部期間はまだ始まったばっかだ。チーム練って意味でも14人を目指したいから積極的に新入生を勧誘していこう。1年もクラスの皆に声かけて良いからな。

 良し、じゃあ全国制覇に向けて明日も練習だ。1年はお疲れさん」

「「「お疲れさまでした!」」」

 

 んー、まだ物足りないな。もうちょっとやってたいけど。でもまあ高校生活に慣れることも必要だからしょっぱなから頑張りすぎないのも大事。3年間怪我無くってのも目標だし。

 

「じゃあ2、3年は休憩。猫又、更衣室分かるよな?」

「大丈夫です」

「オッケ。じゃあ影山と日向連れて更衣室で着替えて今日は解散。お疲れさん」

「「ありがとうございました!」」

「……ありがとうございました!」

 

 スガ先輩達から「明日も来いよー」とか「待ってるぜ」なんて言われて心に来る。早速クールダウンしていこう。

 

「あ、おにぎりとリンゴジュース持ってけよ」

「「っ!? はい!!」」

 

 補食大事だからな。

 

 

 猫又繋護、日向翔陽、影山飛雄の3人がクールダウンを行っている間、2、3年は休憩と言うことで雑談も始まっていた。

 

「にしても、影山やべーな」

「さすが北一出身だ」

「あと猫又も。西谷もウカウカしてられねえぞ」

 

 日向翔陽はともかく、猫又繋護と影山飛雄の2人は練習メニューに難なくついてきていた。むしろ余裕げでもあって、「今年の1年ってやべーな」と思い知らされていた2年4人だった。

 

「というかさ、日向どんくらい跳んでた? 田中と同じくらいだったよな?」

「日向の方が高くなかった? ……田中、頑張れよ」

「いや、お前らこそ頑張れよ」

「「「……ごもっとも」」」

 

 このままではスタメン落ちが濃厚ということを感じ取って2年生4人の雰囲気が重くなる。一方で、澤村大地と菅原孝支も去年の北川第一中と雪ヶ丘中の試合で目立っていた影山飛雄と日向翔陽の2人が入学したことを嬉しく思っていた。

 

「早速有望な1年が入ってきたな」

「一緒にやってみて分かる。影山のトスすげえわ。負けてられねえ」

「いやー、猫又もやべえわ。さっき田中達も言ってたけど、西谷も正リベロ取られる可能性有るぞ」

「日向も将来有望だしな」

「来月の音駒戦も楽しみだ」

「だな」

 

 5月のゴールデンウィークで東京にある音駒高校との練習試合が既に決定しており、2、3年は烏養繋心やOBから聞いているゴミ捨て場の決戦に向けて集中している。

 

「おーし、じゃあ始めるぞー」

「「「はい!」」」

 

 烏養繋心の指示で休憩が終わり、烏野高校男子バレー部一同は次のメニューを始めていく。

 

 

 クールダウンを終わらせて更衣室で着替えていると、翔陽と影山君がギャアギャアうる……賑やかだ。俺達以外に使ってないからいいものの。

 

「繋護めっちゃ上手え! ガッと来たボールをシュッって拾って!」「中学はどんな練習してたんだよ!」

「今俺が聞いてんの!」「うるせえ俺だ!」

「はいはい。静かにしろー」

 

 パパッと着替えていくと2人も続く。そのうち他の運動部の1年も来ちゃうでしょうが。

 

「ていうか、繋護ってコーチの従弟なんだな」

「似てないでしょー。よく言われる」

「烏養監督の孫」

「そう、孫」

「……烏養監督って誰?」

 

 これまた珍しいな。烏野は知ってるのに祖父ちゃんは知らないなんて。

 

「〝小さな巨人〟知ってて烏養監督知らねえとかバカなの?」

「だ・か・ら! なんで影山は俺に対してけんか腰なの!」

「ほらほら、帰るぞー」

 

 もー、この2人はすぐ喧嘩するー。そういう所だぞ。

 

「じゃあお疲れさん」

「え、待って!」「っ!」

 

 待たなーい。

 更衣室を出て、昇降口までノロノロ歩いてると2人がやってきた。……やってきた、じゃなくて追い越して帰っていった。しかもいがみ合いながら。

 セットにするとめんどくさいな、翔陽と影山君。俺もかーえろ。

 

 

 10分ほどかけて家に帰ってきた。いやー、登下校が楽すぎてやばいな。祖父ちゃんの知り合いが引っ越して使わなくなった家を改築した家を使って、夏ぐらいから寮もやってくって繋心兄ちゃん言ってるから、そっちはそっちで楽しみだな。翔陽めちゃくちゃ家遠いらしいし。

 

「ただいまー」

「あー、お帰りー。そのままお風呂入っちゃいなさーい」

「分かった」

 

 通りかかった母さんに返事をしたら、丁度お湯が湧いた通知が聞えてきた。帰ってきて即お風呂はすげーありがたい。ありがとう、母さん、祖父ちゃん祖母ちゃん。

 

「どうだった? 学校」

 

 着替えを取りに自室に向かう途中に母さんから今日の学校について聞かれる。

 

「楽しかった。高校生だと身体ができてるからやっぱりボールも重いし。5号球だし。

 繋心兄ちゃんも言ってたけどまだ新体制が発足したばっかりだからギクシャクしてるのは仕方ないかなって感じ」

「そっか~、井闥山とか梟谷蹴ったんだから烏野で結果出しなさいよー。

 あ、お父さんも気になってたから後で話してあげて? 繋心からも聞くと思うけど」

「うん、分かった」

「カビ生やしたくないから今日着たの早く出しといて。洗濯しちゃうから」

「はーい」

 

 小学校の時に汗びたの運動着を出すの忘れてダメにしたんだよな。その時ものすっごく怒られた。般若モードの母さんマジ怖え。絶対に逆らわないって決めた。

 それはさておき、お風呂だー!

 

 

 いい湯だった。それに夕飯も美味しかった。ありがとう、祖母ちゃん、母さん。

 和室でストレッチしながら12日の実力テストに向けての勉強をしていると、湯飲みと薄味の和菓子を持った祖父ちゃんが入ってきて座布団の上に座る。

 

「…………」

「…………」

 

 沈黙が訪れる。祖父ちゃんはチラチラ俺の方を見てきて、いかにも「聞きたいことがあるんですー!」って顔をしてるから、わざと何も答えない。

 ふっふーん、「言いたいことがあるならはっきり言った方が良い」って言ったのは覚えてるもんねー。ちゃんと聞いた方が――「……どうだった、烏野は?」――もうちょっとかかるかと思ったんだけどな。

 ストレッチもある程度終わったから、畳の上にあぐらをかいて祖父ちゃんと向き合う。人と話すときはちゃんと話す態度を取りましょうっていうもんね。

 

「うん、雰囲気良かったよ。人数少ない分和気藹々って感じ。まだまだ実力は足りてないけどさ。あ、あと俺以外の1年は4人共入部届け出したって聞いてる」

「あーいや、そっちじゃなくてだな……。ああいや、そっちもあるが……」

「……あれ、何か間違えた?」

 

 あれ、部活のこと聞いたんじゃなかったの? 今の2、3年生にちょっと教えてたって言うのもあるし、4月から繋心兄ちゃんがコーチになるって話は伝わってると思うんだけどな。……あれ?

 俺は祖父ちゃんの真意を突き止めるために考え込んで、祖父ちゃんは決まり悪そうにしてる。……うーん、さっぱり分からん。

 こんな俺達に救世主が現れた。祖母ちゃんだ。

 

「ちがうよぉ、繋護。この人が聞きたいのはねえ、『烏野の学校生活は楽しかったか?』って聞いてるの」

「わざわざ言わないで良い!」

「へ? ああ、そっちか」

「この子、変に察しが良いから今の聞き方だと『指導者がいない烏野はどうか?』にしか思われてなかったじゃ無いの。

 やっぱり千葉県みたいに利便性は良くないし、放課後に友達と遊べるようなゲームセンターもない。やっぱり関東のバレー部の強豪に進学した方が良いんじゃ無いかって後悔してるか不安なのよ、この人」

「……まあ、そういうことだ」

「なるほど」

 

 祖父ちゃんは祖母ちゃんの指摘に決まり悪そうにしてる。

 祖父ちゃんの真意をちゃんと把握した上で返事をしよう。そんなの決まってる。後悔なんてするわけ無い。

 

「逆に言えば、遊べるものが少ないからバレーに専念できるって考えでもあるじゃん?

 広いから外でも出来るトレーニングが増えるし、取れたての果物野菜を食べられる。それに祖父ちゃんとバレー出来るしね!」

「っ! ~~~~っ!! 明日から学校だろ、早く寝ろ!」

「はーい」

「返事は短く!」

「はい! 烏養先生!」

「そこは祖父ちゃんだろ! 繋護!」

「理不尽すぎる!!」

 

 顔が真っ赤になった祖父ちゃんは勢いよく立上がって和室から出て行った。そんな照れ隠しをする祖父ちゃんを祖母ちゃんと笑いながら見送って、ちょっとしたら「ちょっとお父さん、なんでそんなに顔赤いの!? お酒飲んだ!?」、「飲んでねえ!」、「本当に!?」、「ああ!」なんて母さんと祖父ちゃんの会話が聞えてきた。祖母ちゃんとまた2人で笑う。あー、面白かった。

 

「あ~、笑った笑った。……あ、もうこんな時間、そろそろ寝なさいね」

「あ、うん。……今度祖母ちゃんが作ったばっけ味噌食べたい!」

「ふふふ、繋護が学校に行ってる間にばっけ収穫しといたから明日の夜だすわね」

「うん!」

 

 千葉に生えてるばっけとか汚くて食べられたもんじゃ無い。でもその点こっちは大きく育ってるからね。明日の夜が楽しみすぎて腹減りそう……! さっき夜ご飯食べたのに。

 

「お休み、祖母ちゃん」

「おやすみぃ、繋護」

 

 祖母ちゃんに挨拶してから使ってた勉強道具を手に取って立上っては自室に向かっていく。そして、高画質の写真を撮れる、SMSとか色んなアプリの使い勝手が良い、姉ちゃんと美緒と3人で買い換えたらセールが利く、そんな理由から高校入学祝いに買って貰ったスマホの電源を付けた。

 

「彩音ちゃん、彩音ちゃんっと……。あったあった」

 

 通話アプリで彩音ちゃんの連絡先を見つけては、今日練習終わりに撮ったスガ先輩とのツーショット写真(家族に見せたいから写真撮って良いか聞いたら「この偉大な副キャプテンと一緒に撮ろうでは無いか~、HAHAHA!」なんて歓迎してくれた。嬉しい)と今日練習に来た人全員の集合写真の2枚と【副キャプテンの菅原先輩とツーショット! 部活頑張る!】ってメッセージを送った。

 すると、偶々スマホを持っていたタイミングだったのか、右手で栄養学入門の教科書を持って左手で指ハートを作った笑顔の彩音ちゃんの写真と、何秒かたってから【私も頑張るよ~! XXX】ってメッセージが送られてきた。

 …………。思わず固まる。

 

「(はぁ~、好き、大好き。…………めっちゃ好きなんやけどーーーー!!)」

 

 関西人に聞かれたら絶対に怒られそうな関西弁を心の中で唱えていると、パシャってカメラの音が聞こえてきた。慌てて音が聞こえた方を向くと、ニヤニヤ笑ってる母さんがスマホを構えている。

 ……いま何撮られた? ア゛ッ!?

 母さんのスマホを取ろうと掴みかかるけど、さっと避けられる。

 

「母さん! 駄目だって!」

「んふふ~、良いじゃん照れなくても~」

「母さん!」

「彩音ちゃんに『繋護の写真いっぱい送って下さい!!』って頼まれてるからいいの」

「今の顔はまずいって!」

「大丈夫よ、『彩音ちゃんのこと考えてるときの繋護ってこんな感じだから』ってちゃ~んと補足しておくから、ね!」

「だから駄目なんだって!」

「家の中で油断したあんたが悪い。以上!」

 

 母さんはスキップでもするんじゃないかって浮かれながら廊下を歩いていった。

 あ゛ぁ゛ー………………………………。よし、寝よう。早く仮入部期間終わってくれないかなー、本入部してー。




私学の場合、年度によって日程が変わりますが、3月上旬~4月上旬にさくらバレー(全国私立高等学校男女バレーボール選手権大会)というものがあります。(鎮西、東山、星城、金蘭会、成徳、古川など)

この大会では次年度に入学が決まっている中学3年生も選手登録ができ、高2、高1、中3のメンバーで戦うことになります。
こういった高校は春校が終わって新人戦が始まるくらいから中学生達も徐々に高校の練習に参加し始めます。

一方で、公立の場合は合格発表がでた3月中旬以降でなければ、入学が決まった中学生が部活に参加できません。

そういった意味でも私立と公立の差は開くばかりです。
経験談ですが、部活を目的に高校選びをするならば私立のほうがオススメですね。(お金はふっとびますが、、、)


【登場人物まとめ】
星野陽一
・1年5組で猫又繋護、谷地仁花と同じクラス
・軽音部でドラムをやる予定

若林智子
・旧姓篠宮智子
・1年5組の担任、かつ家庭科部の顧問
・烏野高校OB。クラス担任が烏養一繋で高校生の時から何かと関わりがあり、家庭科部で男子バレー部のサポートをしていた(合宿時のご飯など)

※烏野高校家庭科部について
 全国高校生料理コンクールで入賞やハンドメイド作品を作って文化祭での出品など行っていて、「烏野高校といえば、男子バレー部と家庭科部」と言われるほど力を入れている。
 若林智子の指導を求めて烏野高校に入学する家庭科部希望の生徒もそこそこいるとか。

安達優子
・1年5組
・テニス部に入部予定

込田彩音
・93年度生まれ
・猫又明育と込田慎吾(込田彩音の父)が学生時代からの友人で、猫又家と込田家で古くからのつきあいがある。端的に言えば幼馴染み。
・都内の国立女子大学に進学していて、管理栄養士などの資格を取るべく勉強中

※込田家
 ・込田慎吾、込田咲良、込田彩歌、込田彩音の4人家族
 ・千葉県にある猫又家とは5分ほどの距離
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