烏野高校の猫又君   作:青黄紅白

23 / 26
9月の振り返り
15日(土) 体育祭
22日(土) 込田彩音 誕生日
23日(日) ベンチコートが配られる


2012年10月①

 10月に入って、紅葉が綺麗になっていく一方で気温も低くなってきてる。夜はもう長袖を着ないと寒いくらいだ。そして乾燥対策にマスク、手袋、マフラーよーし。

 そして、今年度最後の音駒での合宿が始まった。6、7、8日の2泊3日だ。

 毎度のように夜烏野を出発して、朝音駒高校に到着。準備をしたら全体で集まって猫又先生が話し始める。

 

「おはよう諸君」

「「「おはよう御座います!!」」」

「早いものでもう10月に入った。烏野さんはもう2週間後に代表決定戦で、他の4校も来月になれば代表決定戦が始まる。

 各々体調管理に気を付けて、風邪を引いたり怪我をしないよう心がけて欲しい。最後の追い込みだ。それでは1セットでも多く練習試合をしていこう。1分1秒でも無駄の無いようにな」

「「「はい!」」」

 

 黒尾先輩の号令で全員が挨拶したらアップの時間だ。俺達は外だけど、音駒が審判だから途中で入れ替わる。

 

「良し、じゃあ外でアップだ。キビキビ動けよ!」

「「「オォーッス!」」」

 

 縄跳びと外履きを持って外へ。

 

 

 アップが終わったら練習試合。

 1巡目。

 梟谷戦、【28-26】で負け。

 音駒戦、【25-27】で勝ち。

 生川戦、【25-23】で勝ち。

 森然戦、【26-24】で勝ち。

 

 お昼を挟んで2巡目。

 梟谷戦、【25-27】で勝ち。

 音駒戦、【26-28】で勝ち。

 生川戦、【28-26】で勝ち。

 森然戦、【24-26】で負け。

 

 3巡目。

 梟谷戦、【25-22】で負け。

 音駒戦、【27-25】で負け。

 生川戦、【26-24】で勝ち。

 森然戦、【25-21】で勝ち。

 

 15点マッチで4巡目。

 梟谷戦、【15-14】で負け。

 音駒戦、【13-15】で勝ち。

 生川戦、【15-12】で勝ち。

 森然戦、【15-11】で勝ち。

 

 木兎先輩が調子が悪いと梟谷にもだんだん勝ち越せるようになってきた。あとはウチの調子を整えることだな。

 最後の森然戦が終わって烏養コーチの元でミーティング。

 

「シンクロ攻撃だったりサーブ決定率だったりレシーブだったり良くなってきてるから、あとはどんどん実戦を積むだけだ。明日明後日と2日間目一杯有効に使っていこう。安定してこの5チームの中で勝てるようにしていくのが目下の課題だな。今日はゆっくり休めよー」

「「「はい!」」」

 

 夕食とお風呂だー。あとテスト勉強も。代表決定戦後にあるからな。

 

 

 来週だったり再来週だったりとどの学校もテスト期間が近付いてるってことで皆でお勉強タイム。まあ、ウチと音駒以外の3校はスポーツ科ってことで軽めに設定されてるけど。

 自然と翔陽とか灰羽、犬岡なんかのギャアギャアゾーンと蛍とか忠、飛雄、手白、芝山なんかの静かなゾーンに別れてお勉強。

 

「何がとは言わないけど烏野も苦労してそうだね」

「んー、でも最近は翔陽だけだよ、あんな風にうるさいの。飛雄も全体的に成績良くなってるし」

「部活停止になるのはごめんだからな」

 

 そりゃそうだ。赤点取ったら部活停止って武田先生と烏養コーチも言ってるから。正直翔陽は部活停止になってもおかしくないと思う。「勉強しなくて良いのー?」って聞いて「後でやるー!」って言ってるから大丈夫でしょう。そこまで面倒見ないよ。

 

「繋護ー、ここ教えてくれー、分かんねー」

「おー?」

 

 秀一から化学基礎のテキストを見せられて、はてなマークがついてる該当箇所を見る。硫酸と水酸化ナトリウムを中和させたときの式っぽい。

 

「酸と塩基を中和させたら絶対に水が生成されるから、あとは残ったものを組み合わせる。となると、硫酸ナトリウムが生成されるって訳。それはもう覚えてくしかないぞー」

「うげぇ。暗記苦手なんだよなー」

「歴史系よりはマシでしょうが。少なくとも化学系は公式があるからとっつきやすいと思うぞ。字面から想像できるからなんとかなる」

「……ウーッス」

 

 秀一は文系科目の方が得意だったからしょうがないか。でも、生物と化学は比較的文系でもとっつきやすいと思う。公式覚えないと歯が立たないけど。

 眠くなるまで勉強しよーっと。

 

 

 

 合宿2日目。

 朝起きてストレッチしながら勉強して、朝ご飯を食べたら食休み。そして練習が始まる。

 1巡目。

 梟谷戦、【25-23】で負け。

 音駒戦、【26-24】で負け。

 生川戦、【26-24】で勝ち。

 森然戦、【25-27】で負け。

 

 お昼を挟んで2巡目。

 梟谷戦、【26-24】で負け。

 音駒戦、【22-25】で勝ち。

 生川戦、【26-24】で勝ち。

 森然戦、【27-25】で勝ち。

 

 3巡目。

 梟谷戦、【26-28】で勝ち。

 音駒戦、【26-28】で勝ち。

 生川戦、【25-20】で勝ち。

 森然戦、【27-25】で勝ち。

 

 15点マッチで4巡目。

 梟谷戦、【15-10】で負け。

 音駒戦、【14-15】で勝ち。

 生川戦、【15-11】で勝ち。

 森然戦、【14-15】で負け。

 

 練習が終わって片付けをしてると翔陽と孤爪先輩の会話が聞えてきた。

 

「やっぱり夜になると東京も冷えるなー!」

「ジャージの上を着ないからじゃん。風邪引くよ」

「っ! キャプテンに怒られる気がする……!」

 

 手に持ってたボールを片付けた後、翔陽はジャージを着てまた孤爪先輩の方へと戻った。

 

「最近思うよ」

「何が?」

「負けたら即ゲームオーバーの試合」

「っ!! ……やろう! もう1回の無い試合!」

「うん」

 

 烏野も音駒も全国進出決めて、なおかつトーナメントも上手くいかないといけないんですけどねー。お互いが決勝戦まで行けば問題ない? それはそう。

 

「まずはお互いキップ勝ち取らないとな」

「ああ」

「俺達は井闥山に勝ーつ!! そんで東京第一代表だ!!」

「ウチが勝ちますぅー」

「かかってこいやー!!」

「生川も頑張らないとな。神奈川は2校だからチャンスあるだろ」

「どこも強いけどなー」

 

 キャプテン5人が話してて、いよいよ始まるんだなって思う。

 

 

 

 合宿最終日。

 朝起きたらいつものルーティンを熟して朝御飯。食休みを挟んだら練習開始だ。

 1巡目。

 梟谷戦、【30-28】で負け。

 音駒戦、【27-29】で勝ち。

 生川戦、【28-26】で勝ち。

 森然戦、【26-24】で勝ち。

 

 お昼を挟んで2巡目。

 梟谷戦、【22-25】で負け。

 音駒戦、【23-25】で勝ち。

 生川戦、【27-25】で勝ち。

 森然戦、【25-20】で勝ち。

 

 隣の梟谷と音駒の試合も終わって、ジャージを着たらいつも通り先生方を前にして各校2列で並ぶ。

 どうやら監督全員が話すみたいで、まずは生川の中崎先生が一歩前に出て話し始めた。

 

「生川高校の中崎です。皆さん3日間お疲れ様でした。

 代表決定戦を勝ち抜いて、この5校が春高の開会式で会い、更に対戦できることを楽しみにしています。頑張りましょう!!」

「「「はい!」」」

 

 続いて森然の笹川先生。

 

「はい、森然の笹川です。

 ここまで来たらもうやるしか無いと思う。体調管理には気を付けて、今度はユニフォームを着て全国で勝敗を付けましょう。

 ここにいる5校が友人であり、ライバルでもある。そんな熱い展開を楽しみにしています。頑張れ!」

「「「はい!」」」

 

 続いて武田先生。

 

「烏野高校の武田一鉄です。

 烏野が初めて合宿に参加させて頂いたときからどの学校も強さに磨きがかかっているように思います。

 我々が先陣を切って宮城県の代表枠を勝ち取るので、皆さんもどうか予選を勝ち抜いてください。東京体育館でまた会いましょう!!」

「「「はい!」」」

 

 続いて梟谷の闇路先生。夜中先生はインターハイ後に迎えた定年で監督を引退された。

 

「えーっと、梟谷の闇路です。

 他の先生方が言っている様に、もうやるしかありません。特に3年生にとっては3年間の集大成である大会なので、自分達のバレーをして悔いの無いようにして下さい。

 春高で皆さんと戦えることを楽しみにしています。頑張りましょう!」

「「「はい!」」」

 

 そして、最後に猫又先生。

 

「音駒高校の猫又です。諸君、3日間ご苦労様。まずはこの合宿で怪我をしたり体調を崩したりする生徒が出なくて安心しました。

 ……そうだな。この4ヶ月間で得たものを発揮して、宮城県、神奈川県、東京都、埼玉県の猛者を倒して、それぞれの代表になろう。そして、ユニフォームを着て春高で相まみえることを楽しみにしてる」

「「「はい!」」」

 

 練習試合では結局ユニフォームを着ての対戦はしなかったから、どの学校のユニフォームは知ってるけどーって感じだ。

 まあ、まずは代表決定戦を勝ち抜く。そうじゃないと何も始まらない。まだ大地さん達4人とバレーやりたいし。ってなったらやっぱり勝つしかない。

 

「じゃあ、次はキャプテンから一言。強羅から」

「え。……あ、はい!」

 

 今の反応は予想外っぽいな。バタバタした強羅先輩が立上がって、前へと出る。

 

「生川高校キャプテンの強羅です。

 神奈川県は2枠ありますが、県内の学校全てに勝って神奈川第一代表として春高に出場します! 気合い入れていくぞ! 生川ー! ファイ!!」

「「「オォーッス!」」」

 

 生川以外の人は拍手で応えて、次は小鹿野先輩だ。強羅先輩と入れ替わるように前に出た。

 

「えーっと、森然高校キャプテンの小鹿野です。

 埼玉県も宮城県と同様に1枠しか春高には出られません。この5校で高めあった実力を遺憾なく発揮して埼玉代表の座を勝ち取ります! 森然ー!! ファイ!!」

「「「オォーッス!」」」

 

 さっきと同じように拍手をする。そして次は烏野、大地さんだ。

 

「烏野高校キャプテンの澤村です。

 去年までは縁が無かった梟谷グループの皆さんとこうして合宿をさせて下さって本当にありがとう御座いました! 一度は弱体化した烏野が復活の兆しを迎えつつあるのは皆さんのおかげです! 本当にありがとう御座います!!

 このお礼は宮城代表の枠を勝ち取ることでまずは返していきます! やるぞ、おまえら!! 烏野ー!! ファイ!!」

「「「オォーッス!」」」

 

 この4ヶ月で得たものは沢山ある。それを発揮して恩返しだ。

 次は黒尾先輩だ。前に出て話し始める。

 

「音駒高校キャプテンの黒尾です。

 東京が開催地ということで枠は3つありますが、ここにいる梟谷や〝王者〟と呼ばれる井闥山、他の都内の強豪全てを倒して東京第一代表の座を勝ち取ります!

 音駒ー! ファイ!!」

「「「オォーッス!」」」

 

 枠って意味ではインターハイより春高の方が可能性がある。ただ、学校数が多い分東京都で勝ち抜くのは至難の業だ。是非とも頑張って欲しい。

 そして、最後は木兎先輩。……できるのか? できるよな?

 

「はい! 梟谷学園キャプテンの木兎です!

 今音駒から挑戦状を叩き付けられましたが、俺達の方が強いって証明します! 井闥山だろうが音駒だろうが何でもかかってこいやー! ってことで東京第一代表はウチのものです!

 梟谷の皆! 俺に着いてこーい! ヘイヘイヘーイ!!」

「梟谷ー! ファイ!!」

「「「オォーッス!」」」

 

 ナイスアシストです、赤葦先輩。闇路先生に小言を貰った木兎先輩が自分の所に戻って座った。その様子を見た猫又先生がまた話し始める。

 

「ここにいる5校がユニフォームを着て東京体育館で会おう。その為にも体調管理はしっかりとして怪我や体調を崩したりしないように。

 この後、簡単な激励会をする予定だから今日はここで終わりだ。全員で片づけをして、激励会に参加できるようにしてほしい」

 

 ……激励会。マジか。そんなの知らなかったぞ。黒尾先輩の号令で挨拶をしたら、一旦烏養コーチの方へと集まる。

 

「そういう訳だ。音駒のOBと父兄の方々が簡単なご飯を作ってくれたから宮城に帰る前に軽く食べていこう。先にボールとかボール籠片付けて、帰れる準備しとけよ」

「「「はい!」」」

 

 15時のおやつにいいもんなー。時間に気づけばお腹減った。おーっし。

 

「じゃあいつも通り、体育館組と教室組に別れて片付けやっていこう。清水とやっちゃんは自分の準備して貰って構わないからな」

「分かった」「はい!」

「良し、じゃあやるぞ」

 

 俺は教室組だー。

 

 

 ポールとかネットを片付けて、体育館が空くとそれっぽい机とかオレンジジュース、牛乳なんかを運んでくる大人に遭遇しながら、俺達も帰る準備が終わった。

 もう一度体育館に集まると、おにぎりとかバナナとか簡単な捕食が机の上に載っていた。続々と各学校の部員が体育館にやってくる。

 各学校のキャプテンが点呼をして全員集まったのを確認して、全員におにぎりとオレンジジュースが行き渡ったら、再び猫又先生が話し出した。他の捕食は机の上にある。

 

「OBや父兄の方々に食事を用意して貰った。まずはお礼を言おう」

「「「ありがとう御座いました!!」」」

「代表決定戦お互いに頑張ろうと言うことで。頂きます」

「「「頂きます!」」」

 

 お腹空いたぜー。……あー、塩っ気あって美味しい~。

 

「おかわり!」

「っ! 抜け駆けするんじゃねえ!!」

「おい! バタバタするな!!」

 

 翔陽と飛雄の手にあったおにぎりは一瞬で2人のお腹の中へと吸い込まれていった。あいつらこの後バス移動ってこと忘れてないだろうな。食べ過ぎたら吐くぞ。

 

「「ヘイヘイヘーイ!! ツッキー!! グッチー!!」」

「っ! ちわっす!」「…………」

「逃げんなよ、ツッキー!!」

 

 黒尾先輩と木兎先輩がこっちの方に来た。巻き込まれるぞ、逃げ――。

 

「どこ行くんだよ」

「……おにぎりを取りに?」

「俺が持ってきてやるよ!!」

「待って、それは駄目ですって!!」

 

 他校のキャプテンパシらせたら顰蹙買うどころじゃないぞ。あ、皆集まってくるぅ。

 

「あっ! 木兎さん!」「木兎さん! 黒尾さん! ちわっす!!」

「お~! 日向に影山~!!

いいか! ウチは烏野も春高でボッコボコにしてやるから、ぜってえウシワカに勝って来いよ!!」

「「負けません!!」」

「ツッキーもグッチーもウシワカ止めてこいよ」

「……まだ当たるとは」「頑張ります!」

 

 トーナメント表通り勝ち抜けば絶対に当たる。あと1回戦であたる青葉城西高校はドンマイとしか言いようがない。是非とも白鳥沢を消耗させてくれ。南無。

 

「ケーゴもな! お前がウシワカのスパイク拾わないと俺の方が弱いってことになっちまうんだから! 30本位拾えよ!」

「任せて下さい」

「それでこそ俺のサンドバックだ!」

 

 ……褒められてるか? んん?

 近くで聞いてた大地さんもこっちへと近付いてきた。

 

「おーい、木兎。それ褒めてないだろ。ウチの後輩虐めんなー」

「ん? いや、褒めてるから。ケーゴから点取るのめっちゃムジィんだよな~。ぶっちゃけ心折れそうになる」

「実際しょぼくれてたもんな」

「うるせえ黒尾!!」

 

 自主練であれだけ拾ったらなー。

 俺が木兎先輩のスパイクを拾う。木兎先輩がもっとスパイクを強化する。俺がそのスパイクを拾う。木兎先輩がもっと強化する。そんなサイクルで木兎先輩は覚醒した。まあ拾えるけど。

 

「ここにいる全員と戦いてーよ」

「……だな」

 

 全国でこの4校と戦うには2週間後の代表決定戦に勝ち抜かないとな。

 

 

 簡単な激励会も終わって、サランラップとか紙皿の分別をすると、いよいよ宮城に帰る時間だ。

 と思ったら、秋紀先輩達庵里出身が集まってきた。

 

「おー、繋護」

「秋紀先輩達。すみません、そっちまで行けず」

「いやいや。木兎面倒だったろ。世話役ご苦労さん」

「……同じチームですよね?」

「『ここが俺んちですよ!』って主張するのすげーじゃん。目立って仕方ねえ」

「偶には静かにしたいんだよなー」

 

 それもそっか。毎日あのテンションで来られるとついてけなくなるかもしれない。

 

「光弥達にあったんだけど、『ウチも烏野と戦ってみてー』って言ってたから頑張れよ」

「光弥先輩達に?」

 

 井闥山に進学した庵里の2つ上の先輩だ。……「井闥山来いよー」って言われてたもんなー。それは梟谷もそうだけど。

 

「ウチも頑張るけど、烏野も頑張れよ」

「はい、また1月に会いましょう」

「今年は初詣行けないか」

「春高いけなかったら実家戻るかもしれないけどね。今の所は帰る予定は無いかな」

「それもそうだな」

 

 去年までの3年間、渉達と一緒に初詣行ったしな。皆は行くのか。……ま、しょうがないね。

片付けをしてると猫の方の祖父ちゃんに呼び止められた。

 

「大分寒くなってるだろうから風邪引くなよ。ベンチコートの出番だな」

「うん、祖父ちゃんも暖かくしてね」

「おう。代表決定戦も頑張ってこい。直接対戦しない限りは応援してるから」

「トーナメント表見たら結構良さそうだし。音駒も頑張ってよ」

「言われるまでもねえよ。じゃあ烏養達に宜しくな」

「うん、また」

 

 と言いつつ、代表決定戦見に来る予定なんだよなー。……あ、その時梟谷と井闥山の皆に会うじゃん。なんだ次は来月か。

 ……やるしかないな。

 

 

 

 ……あ。これ夢だ。寝たはずなのに何故か意識がある。でも俺の部屋じゃなくて、初めて来た場所だ。

 何て言えば良いんだろう、薄暗い空間に4m位のでかくて古めかしい取っ手が付いてる扉が目の前にあった。簡単に言えば推理もののアニメのCMで使われてるような扉。

 何でこんな夢見てるのか分からないけど、疲れるから早く覚めて欲しい。寝てるはずなのに意識がハッキリしすぎてる。

 

「……ん?」

 

 重厚な音を響かせながら、目の前にある巨大な扉が徐々に開いた。何か光源があるらしくて、扉の中はこの空間より明るい。

 ……そう、「こちら側へようこそ」って言われてるような感じだ。不快な感覚は無い、むしろ心地よいって言うか。なんだこれ。訳分かんねえ。

 まあ、いっか。入ってみよう、どうせ夢なんだし。

 そう思って、俺はこの扉の中へと足を踏み入れた。そしたらだんだん意識が薄れてきて…………。

 

 

「…………、…………ないのー?」

「……ん?」

「繋護ー、起きないのー?」

「んん?」

 

 母さんの声だ。俺を起こしに来るなんて珍しいな。

 

「ぉ、はよ?」

「おはよう。合宿で疲れちゃったみたいだね。今7時だよ。ストレッチしないの?」

「……7時!?」

 

 慌てて飛び起きて壁時計を見る。どっからどう見ても7時だ。やっべー、寝坊したー。

 

「……あんたなんかあった?」

「え? 特に?」

「……そう?」

 

 風邪引いたとかって訳じゃない。昨日のバスの移動含めて10時間くらい寝てるはずだし。……ただ、強いて言うなら身体が軽いっていうか。何だろう、この全能感。今なら木兎先輩のスパイク全部Aパスで返せそう。あとで確認してみよう。

 まずは白湯飲んでトイレ行こう。うー、ストレッチしないと。……でも身体軽いんだよなー。

 

 

 朝の身支度をして、ストレッチと庭で縄跳び、直上パスなんかをして分かった。すっげえ調子が良い。もうこの一言だ。

 烏の方の祖父ちゃんにもそう見えたみたいで、なんかニヤニヤしてる。

 

「なーんか調子よさそうじゃねえか」

「うん、すっごい良い。何だこれ」

「バレーの神様が降りてきたんだろうよ。たまーにあるんだ。1日明けたらすげえ上手くなってる奴が現れたりってよ」

「それが俺?」

「おう。帰ったらパスやって確かめるぞ」

「うん!」

 

 バレーの神様か。……そういや、変な夢見たような見てないような。何だっけ? んー、思い出せないからいいや。

 

「約束してるときにごめんねー。今日お父さんとお母さん定期検診の日」

「あー、悪い」

「大丈夫。身体診て貰って」

「ちょっと大げさじゃねえかー?」

「何かあるよりはいいでしょ?」

 

 そうだそうだー。ぶっ倒れるとかやめてくれー。

 

 

 放課後、今日はオフで消耗品の買い出しの当番でも無かったし、坂ノ下商店の店番もしなくて良かったから烏野整骨院に行ってきた。「何で来たの?」って言われるくらいには健康児で、マッサージだけして貰った。疲れが取れた気がする。

 早く部活やりたーい。

 

 

 

 あっされーん!

 ってことで部室で着替えてると、飛雄とノヤ先輩にすんげえジロジロ見られてる。

 

「……なんですか?」

「いや、すっげえ上手くなってる?」

「やっぱ影山もそう思うか? なんか繋護フインキやべーよな」

「ですよね」「雰囲気な、西谷」

 

 2人の訳分からん会話を聞いて、スガさんとか旭さんが「なんだこいつら……」って表情してる。

 

「ねこがどうしたって?」

「いや、上手くなってんすよ」

「猫又昨日何かしたのか?」

「いえ、整骨院行ってマッサージされてきました」

 

 すると、一仁先輩が「俺も行ったんだけどすれ違いになったみたいだな」って割り込んできた。割り込むって言うと悪い表現だな。気を付けよ。

 

「オフだから軽めに動いたくらいですよ?」

「「そうか~?」」

 

 身体の調子が良いのは昨日からずっとそうなんだけどさ。

 そして、実際に朝練をすると俺のやばさが皆に伝わったみたいだ。

 

「お、おま……! 何やった!?」

「なんかすっげえ上手くなってんだけど!! 繋護何やった!!」

「「「俺にも教えろ~!!」」」

「いや本当に何にも!」

「「「そんなはずねえ!!」」」

 

 信じて貰えないんですけどー。一晩でレシーブとトスの技術と最高到達点が5cm位上がったら皆そうなるか。レシーブの時なんて時間が止まったんじゃ無いかって思えるくらいモーションが連写モードみたいに見えるようになった。

 トスもそう。前より精度が上がった気がする。うーん、何言ってんだ、俺。

 

「ド、ドーピングなんかしてねえだろうな!?」

「してないです!! 絶対!!」

「だよな……。まあ、上手くなる分には構わねえからその調子でな。俺の方でもちょっと調べとく」

「はい」

 

 夢を見たような気がすんだけど、内容はさっぱりだ。あれは一体何だったんだろう。上手くなれるなら何でも良いよね。でも絶対にドーピングなんかじゃない。断じて!!

 

 

 

 平日は朝の身支度、朝練、授業、お昼、授業、部活。土日は練習かOBとか他県の他校との練習試合。

 そんな日々と中間テストも終わった。目標の全教科90点達成。赤点を取るメンバーもいなかった。一安心っと。

 そして遂に明日から代表決定戦が始まる。初戦は新井川高校だ。

 若林先生も来て一緒にミーティングを聞いてる。家庭科部の皆にも大分お世話になった。その為の恩返しが明日からの大会だ。勝った姿を見せて、「バレー部を支えて良かった」って思って貰う。

 

「明日から代表決定戦が始まります。皆も知ってるとおり、この大会で勝ち抜かなければ今年は全国には行けません。

 でも、4月から通して君達は格段と強くなりました。梟谷グループの4校や烏養先生の伝手を使った学校、OBの皆さん、といった猛者達と戦ってその翼を育ててきた。

 明日からの3日間でその翼を大きく広げて羽ばたかせて下さい。我々こそが全国大会に挑むのだと皆に証明していきましょう!」

「「「はい!」」」

 

 続いて烏養コーチ。

 

「今なら自信を持って言える。ウチは強い。

 4月の時点では県ベスト8に残れれば御の字だって言った。でも今はどうだ? インハイベスト8である梟谷とも戦えるようになってる。それだけ俺達が強くなったってことだ。

 まずは明日の新井川戦で俺達の実力を見せつけていこう。勝つぞ」

「「「はい!」」」

 

 油断は禁物だ。でも勝つだけの実力は身につけてきた。あとはただやるだけ。

 

「若林先生からも一言頂いて宜しいですか?」

「分かりました!

 ……そうだね、私自身は学校での練習くらいしか見てないんだけど、でも4月と全然違う。体格もそう。雰囲気もそう。

 今の男子バレー部ならまた全国に行けるんじゃないか、勝ち上がれるんじゃないかって私含めて期待されてる先生は多いから、まずは明日の試合で今の君達の実力を見せて下さい。応援してます。頑張れ!!」

「「「はい!」」」

 

 おーし、やるしかねえぞー。

 

「平日だから応援の人数は少ないかもしんねえ。でもよ、ここにいるメンバーだけじゃねえ。父兄だったりOB会の皆だったり、色んな先生方が俺達を応援してくれてる。

 明日から今までサポートして貰った分恩返しをしていこう。勝って勝って勝ちまくるのが支えて貰った人達への最大の恩返しだ。

 つーわけで、まずは明日の1戦集中していこう」

「「「オォーッス!」」」

 

 俺達が練習しているように他の学校も練習してるに違いない。それでもこのチームだったら勝ち抜けるはずだ。

 

「よーし、じゃあ明日は学校に集合してから仙台市体育館に行くからな。時間間違えるなよー」

「「「オォーッス!」」」

 

 ボールとかの準備も終わってる。あとは明日を迎えるだけだ。

 

 

 家に帰ってくると、美緒が出迎えてくれた。姉ちゃんと彩音ちゃん、父さんの靴もあって話し声も聞えてくる。

 

「お兄ちゃんお帰りー」

「おー、ただいま」

「お風呂入れるよ」

「オッケー」

「こっちの方は大分涼しくなってきたね」

「そうだな。美緒も身体冷やさないようにしろよ」

「うん、分かってる」

 

 玄関でスニーカーから履き替えてスリッパをペタペタ鳴らしながら廊下を進んでいく。まずはお風呂入っちゃおー。着替え取ってこないと。

 

 

 

 遂に代表決定戦当日を迎えた。

 朝起きて、身支度とかストレッチなんかのノルマを熟したら朝御飯を食べて持ち物も確認する。ユニフォーム2色、インナー、スリーブ系、サポーター、ワイピング用のタオル、靴下、シューズ、酔い止め、補食とか。……うん、大丈夫だ。

 時間も近づいてきたから荷物を持って玄関へと向かう。

 

「んじゃ、行ってきます」

「俺達も後から行くからよ。情けない姿見せんじゃねえぞ」

「分かってるよ」

 

 祖父ちゃん祖母ちゃん、父さん母さん、姉ちゃん、美緒、彩音ちゃんの順でハイタッチをしてしゅっぱーっつ。

 

 

 学校に集合してボールとかボール籠、救急箱をバスに乗せたら出発。寝てたらあっという間に到着した。

 そして、縄跳びとか外でアップしていると丁度いい時間になって俺とノヤ先輩はオレンジ色のユニフォームを着て入り口で待つ。Bコートの試合が終わった。俺達の番だ。

 ちなみに、Aコートの第一試合は白鳥沢と青葉城西の対戦で、白鳥沢がフルセットで勝ったらしい。……いーや、今は試合に集中しないとね。

 

「良し! 行くぞ!!」

「「「ッシャーっ!!」」」

 

 試合間の練習は15分。その間にスパイクとかサーブをやらないと。いざ出陣。

 

「いっけーいけー!」

「「「いっけーいけー!」」」

「押っせー押せー!」

「「「押っせー押せー!」」」

「「「1番大地ー、2ー番孝支ー! ガッツで行こうぜ!」」」

「「「オォー!!」」」

 

 平日ってことで観客席もまばらの中、Bコートの観客席から姉ちゃん達の応援が聞えてきた。取り敢えず手を振っとこ。

 

 

 新井川との試合が終わった。

 1セット目は【14-25】で2セット目は【25-16】でストレート勝ち。無事に明日への切符を掴んだ。

 

「整列! 気を付けー! 応援ありがとうございました!!」

「「「ありがとう御座いました!!」」」

「明日も宜しくお願いします!」

「「「お願いします!!」」」

 

 大地さんは記録の方に行ってるから、代わりにスガさんが号令をかけて観客席の人達へと挨拶する。すると、「ナイスゲーム!」とか「明日も頑張れよー!!」とかって言葉を貰った。

 

「良し! じゃあ身体冷やす前に着替えてダウン取れ! 次の学校の邪魔にならないようにな!

 帰ったら今日の反省と明日の対策するぞ!」

「「「はい!」」」

 

 荷物を持って、てっしゅー!

 

 

 学校に戻る準備が終わって、バスに乗る前にトイレに行ってから皆の所に合流しようと通路を歩いていると、祖父ちゃんと鷲匠先生が話している所に通りすがった。祖父ちゃんと眼が合って手招きされる。

 

「お、繋護。ちょっと来い」

「あーい。鷲匠先生、お久しぶりです。猫又繋護です」

 

 祖父ちゃんの左隣に並んで、鷲匠先生に一礼する。いつの間にか背を抜かしちゃったのか。5年前は150cm位だったもんな。そこから20cm位伸びてる。にょきにょきってね。

 

「……おお。でかくなったな。何時ぶりだ?」

「2007年の10月以来なので5年ぶりです。それからはバレー教室とか中学の部活が忙しくなったので、お盆とか年末年始くらいにしか宮城に来られてませんでした」

「……なるほどな。それで今年烏野に入学したのか」

「はい」

 

 ジロジロ見られてるぅ。ひえっ、この眼力恐いんだよなー。

 

「そういう訳で、繋心と繋護の2人がいる烏野が私の代わりに鷲匠先生率いる白鳥沢に挑みます」

「……誰が相手だろうが手を抜くつもりはねえ。烏養の孫ならなおさらな。まずは決勝まで勝ち上がってこい。話はそれからだ」

「はい!」

 

 そこで、「鷲匠先生!」って声をかけながらこっちまで来る白鳥沢の眼鏡を掛けた男の人がやって来た。

 

「あっ、烏養先生もお久しぶりです」

「おう、斉藤も元気そうだな」

「……あれ、監督に復帰されたんですか?」

「いや、孫の活躍を見に来た。コーチとこいつだ。ほら、挨拶」

 

 雑に扱いやがってよー。いいけどさー。

 

「烏野高校1年の猫又繋護と申します。烏野の監督をしていた時に祖父がお世話になってました」

「白鳥沢学園男子バレー部コーチの斉藤明だ。

 ……〝猫又〟? 〝猫又〟ってどこかで聞いたような……?」

「東京にある音駒高校の監督だ。7年前くらいにウチも対戦したことあるぞ」

「ああ、そういえば。……烏野要注意ですね」

「どこが相手だろうが関係ねえよ。ウチが勝つ」

「そうですね。……そうだ、準備が完了したのでそろそろ行きましょう」

「おう。じゃあな烏養と繋護。ウチと戦いてえなら明日も勝ち抜いてこい。全力で相手してやる」

「おう、また宜しくお願いします」「はい!」

 

 そして、鷲匠先生と斉藤先生は歩いていった。

 

「目ぇ付けられたな」

「ちょっと? 祖父ちゃんのせいでしょ」

「でも挨拶は大事だろうが。ほら、お前も合流しろ」

 

 そうだった。バス行っちゃう。

 

 

 学校に戻ってきて体育館でミーティング。まずは武田先生から。

 

「まずは初戦突破おめでとう、皆。

 明日の対戦校は白水館高校です。そして、勝ち抜けば条善寺高校と和久谷南高校の勝った方との2戦目があるので疲れを残さないようにしていきましょう」

「「「はい!」」」

 

 続いて烏養コーチ。

 

「条善寺や和久南にも興味を引かれるのは分かる。が、まずは白水館を倒す。目の前の一戦に集中しよう。それが礼儀だ」

「「「はい!」」」

「良し、じゃあ軽く合わせるぞ。アップ念入りにな」

「「「シャーッス!!」」」

 

 軽くと言いつつ3時間くらいやりそう。

 

◎

 

 青葉城西高校男子バレー部は代表決定戦の一回戦で白鳥沢学園と対戦した。

 第1セットは【27-25】で白鳥沢学園が獲得、第2セットは【28-26】で青葉城西高校が獲得、第3セットは【25-23】で白鳥沢学園が獲得。

 フルセットの末、青葉城西高校は白鳥沢学園に敗北した。

 仙台市体育館から学校に戻るバスの中は部員達の嗚咽で溢れていた。そして、3年生にとって最後のミーティングが始まる。

 

「まずは謝罪を。俺の指導不足でおまえ達を全国に行かせてやることができなかった。大変申し訳ない」

 

 そう言って、監督の入畑伸照が10秒ほど頭を下げる。その言葉を聞いて、1度は落ち着いた部員一同が涙を流し始めた。

 

「今のチームは全国でも戦えるチームだと自負している。しかし、全国に行く前にもっと県内に目を向けていなければならなかった。今思えば『ここまでやったんだから大丈夫だろう』と高をくくっていたのかもしれない。俺達はもっと白鳥沢への対策をしなければならなかった。

 しかし、その後悔ももう遅い。俺達は負けて、今度こそ3年は引退だ。明日から2年1年を中心に新しいチームを作っていくことになる」

 

 一呼吸置いて、入畑伸照が言葉を紡いでいく。

 

「3年生、3年間お疲れ様。今の気持ちを忘れないようにして、また次のステージへと進んで頑張っていって欲しい。これからもおまえ達の挑戦は続くぞ。頑張れ。

 2年生、今度はおまえ達の代だ。このチームで成し遂げられなかった全国大会進出を目指してまた頑張っていこう。

 1年生、今以上にチームの中核を担うことになる。今の3年の姿を胸に刻んで、新しくチームを作っていこう。

 今胸に抱いている悔しさを忘れないようにして明日から頑張っていくぞ!」

「「「はい!」」」

「引き継ぎや手続きはまた後日行うとしよう。及川と岩泉はこのあと時間くれ」

「「はい」」

 

 入畑伸照がミーティングを終わらせようとすると、及川徹が挙手をして入畑伸照と眼が合う。

 

「どうした?」

「引き継ぎの前に一言良いですか?」

「……ああ、構わない」

「じゃあ」

 

 及川徹は部員全員からの視線を集めるように前に出て、入畑伸照の隣に立った。

 

「俺はこのチームなら全国に行けると思ってたし、行くつもりだった。でも白鳥沢には届かなかった。『あの時ああしてたら』とかそういう後悔で正直いっぱいだ。キャプテンとしてもっとやるべき事があったと思う。

 でも、監督が言うように3年はこれで引退で、白鳥沢への挑戦権はもう無い。だからこそ、今の1年と2年で新しいチームを作り上げて、このチームではできなかった全国進出に向けて頑張って欲しい。

 ウシワカが卒業するから白鳥沢一強時代は終わるよ。『青葉城西の時代が来たな』って言われるように頑張れ。来年のインターハイと春高にはおまえ達が出ろよ。いいな?」

「「「……はい!」」」

 

 現キャプテンの及川徹が後輩達に託し、このチームは終わりを迎える。

 及川徹や及川徹や岩泉一が引退する青葉城西高校男子バレー部は新しい時代を迎えることになる。

 

◎

 

 部活から帰ってきて、お風呂と夜ご飯を済ませてお勉強。テストは終わったけど、勉強に終わりは無い。推薦も考えるとなるべく高得点は取っておきたい。ルーティンだね。

 子供全員で1つの机に集まって勉強時間。祖父ちゃん達の話し声の方が大きいくらいだ。

 

「……あ、ほら繋護時間。早く寝な」

「んー? 本当だ」

 

 集中してたらあっという間に時間が経っていた。そろそろ寝る時間だ。

 

「ニョキニョキ伸びて180cmとかいきそうだよね。今何cmだっけ?」

「172cm。入学してから7cm伸びた」

「お兄ちゃんだけずるーい」

「美緒も牛乳飲んで寝るんだなー」

「寝てるんだけどなー……」

 

 中1だからもうちょっと伸びるでしょ。成長期遅い方だし。

俺ももっと身長伸びて欲しいなー。ということで寝る。

 

「お休み。明日も応援宜しく」

「「「うん、お休み」」」

 

 おーし、さっさと寝るぞー。

 

 

 

 代表決定戦2日目。

 いつものルーティンをこなして玄関で皆に背を押される。

 

「んじゃ、今日も頑張れよ。応援行くからよ」

「うん、まずは白水館戦に集中するよ」

「おう。試合に絶対はねえからな。アクシデントがあっても冷静に」

「うん」

 

 祖父ちゃん祖母ちゃん、父さん母さん、姉ちゃん美緒、彩音ちゃんの順にハイタッチをして出発。

 

 

 学校のバスに乗って仙台市体育館に到着。

 俺達はBコートの第一試合だから、第二試合の条善寺高校と和久谷南高校の2校がアップをとってから俺達がコートで練習する。それまでは外でアップだった。縄跳び縄跳びー。

 

「いっけーいけー!」

「「「いっけーいけー!」」」

「押っせー押せー!」

「「「押っせー押せー!」」」

「「「3番旭ー、4ー番夕ー! ガッツで行こうぜ!」」」

「「「オォー!!」」」

 

 姉ちゃん達の応援も聞えてくる。と、そこに龍先輩が俺に近付いてきた。

 

「昨日もだけど、平日なのに家族応援に来てくれてんだな。特に姉ちゃんと妹」

「あー、姉の方は生徒会に入ってたくらい学業優秀なので1日2日休んだところでどうとでもなるって言ってます。妹もそうですね」

「……姉妹揃ってベンキョーできんのかよ」

 

 すると、俺達の会話を聞いていた力先輩も話に加わった。

 

「そりゃねこも都内の国立狙うくらいなんだからやべーだろ。……というか、よく烏野に来たな」

「父さん母さん、祖父ちゃんにも成績上位キープしとけーとは言われてますよ。バレーに集中したいなら、嫌なこともやれって」

「それでできるのがすげーよ……」

「ほらほら、ミーティングするぞ!」

「あっ、はい!」

 

 白水館との試合が始まる。

 

 

 白水館との試合が終わった。

 1セット目は【25-16】、2セット目は【15-25】でストレート勝ち。「烏野つっよ……!」って声が聞えてきてる。ふははー、もう【墜ちた強豪 飛べない烏】だなんて呼ばせないぞー?

 

「気を付けー! 応援ありがとう御座いました!!」

「「「ありがとう御座いました!!」」」

「また宜しくお願いします!」

「「「お願いします!!」」」

 

 スガさんの号令で観客席にお礼を伝えると、「ナイスゲーム!!」とか「次の試合も頑張れよー!」って声と拍手が帰ってきた。

 次は条善寺高校か和久谷南高校の勝ち上がった方だ。

 

「おし、じゃあ着替えて簡単にダウンを取ったら補食を取りながら条善寺と和久南の試合を見る。準決勝は午後からだから時間あるからな。ちゃんと休憩しとけよ」

「「「はい!」」」

 

 第一試合は9時30分からスタートで今は10時30分過ぎって所。次は13時スタートのはずだからそれなりに間隔があく。

 

「まずは着替えるぞ。急げー!!」

「「「シャア!!」」」

 

 荷物を持って撤収。次はユニフォームが入れ替わって俺とノヤ先輩は黒の方だ。

 

 

 おにぎりとバナナを食べながら、条善寺高校と和久谷南高校の対戦を見ていた。フルセットを勝ち抜いたのは和久谷南高校。つまり準決勝の相手は和久谷南高校ってことだ。リベンジだ……!

 

「前回は色々アクシデントが積み重なって負けた。でも、あれから練習してここにいる全員が強くなった。リベンジするぞ」

「「「はい!」」」

「次の試合までまだあるからちゃんと休んどけよー」

「「「オーッス」」」

 

 軽く寝とこう。ベンチコートとかネックウォーマー、マスクで防寒対策を完璧にして目を瞑る。

 

「コーチ! ジョーゼンジって面白いですね!」

「ん? ああ、多分2対2とか3対3の練習が多いんだろうな。あとはビーチとかにも挑戦してるはずだぞ。学校が海に近いって聞いてる」

「「「ビーチ!? ビーチバレーですか!?」」」

「おう。いつもは6人でカバーしてるコートを少ない人数で守る練習をしてるからああやって全員が動けるようになってるって訳だな」

「「「俺達も砂浜でやりたいです!」」」

「じゃあ移動代出してくれ」

「「「…………オス」」」

 

 烏野から海岸の方はちょっと遠いんだよねー。千葉だったら近かったんだけど。

 ……ていうか、早く寝よ。お休…………。

 

 

 仮眠から起きて、外とサブアリーナでアップを取ったら和久谷南高校との対戦だ。

 

「フレー! フレー! 和久南!!」

「「「フレっ! フレっ! 和久南! フレっ! フレっ! 和久南!」」」

「「「オォー!!」」」

 

 インハイ予選でもいた和久谷南高校の1番の家族の応援も聞えてくる。俺が言うのもなんだけど、よく平日に家族全員集まれるな。

 

「粘ってくるけど焦らなくて良いからな。1点1点確実に取っていこう」

「「「はい!」」」

 

 挨拶をするためにエンドラインに並びに行く。前回のリベンジさせてもらいますよー。

 

 

 和久谷南高校との試合が終わった。

 1セット目は【19-25】、2セット目は【25-21】でストレート勝ち。明日の決勝戦進出が決まった。相手は伊達工業高校を倒した白鳥沢。

 観客席の方へと移動して、お礼を伝える。

 

「気を付けー! 応援ありがとう御座いました!!」

「「「ありがとう御座いました!!」」」

「明日も宜しくお願いします!」

「「「お願いします!!」」」

 

 スガさんの号令で観客席の応援団の人に一礼すると、「ナイスゲーム!」とか「白鳥沢にも勝てよ!!」とかって声援を貰う。

白鳥沢は今までの相手と違って烏野が春高進出を決めるには大きすぎる障害だ。でも、白鳥沢を倒さないと全国には行けない。

 

「おーし、じゃあ着替えてダウンな。身体冷やさないようにしろよ。そしたら学校に戻って調整とミーティングだ。キビキビ動けよ」

「「「はい!」」」

 

 ここで風邪引いたらマジでシャレにならねえ。

 

 

 バスに乗って学校に戻ってきた。そのまま視聴覚室に行って、白鳥沢と青葉城西高校の試合の録画と白鳥沢と伊達工業高校の試合の録画を視聴する。どっちも父兄の皆さんがやってくれた。

 

「まー、今見て貰った通りだ。どのセットも牛島が半数以上点を獲ってる。理由は簡単。それで勝てるからだ。

 ブロッカーだろうがレシーバーだろうが、牛島の高さとパワーには敵わない。そういうチーム作りをしているのが白鳥沢だ」

「「「…………っ」」」

 

 ……遂に牛島選手と戦うんだよな。キヨ君とモト君もやべーって言ってた。……でも、前よりはなんか恐くないんだよな。「ビビビビビッ!」って感覚が「ビビっ!」って感じ。ちゃんと説明はできないけど。

 

「逆に、牛島をなんとかすれば点数を抑えられるって訳だ。その為にも音駒の黒尾と夜久がやってるトータルディフェンスを練習させてきた。

 前衛のブロッカーが壁を作って牛島のスパイクを絞らせてリベロで出てる西谷か猫又に誘導する。あとはリベロの2人が上げるしかねえ。分かってるな?」

「「「はい!」」」

「こっちの攻撃力は負けてねえ。あとは戦えるように土台を作ってガンガン攻めていく。

 牛島も人間だからな。プレッシャーをかけ続ければ必ず消耗するぞ。5セットを上手く使っていこう」

「「「はい!」」」

 

 決勝戦は5セットマッチ。インハイの決勝と春高の準決勝、決勝と同じだ。

 1セット目から余計にジャンプさせて疲弊させていく。っていうのが烏養コーチの戦術だ。……まー、それで勝てたら苦労しないけど。スタミナだってちゃんと付けてると思うし。

 俺かノヤ先輩がスパイクレシーブでもストレスを与えていかないと。

 

「明日は総力戦だからな。相手を疲弊させるってことは試合が長くなってこっちも疲弊する。だから交替を上手く使っていくって訳だな。ここにいる全員で白鳥沢に勝つぞ。明日も全員バレーだ!」

「「「オォーッス!」」」

 

 続いて武田先生。

 

「明日、遂に県内随一の実力を持つ白鳥沢学園との対戦です。

 しかし君達も強くなった。決して実力が劣っている訳ではありません。むしろ上回っているように僕は見えます。

 4月からここまでの期間で大きく育ててきたその翼でさらに大きな〝全国〟という舞台へと羽ばたきましょう!! 君達ならば出来る!! 絶対に!!」

「「「はい!」」」

 

 あー、明日が楽しみだ。

 

◆

 

 一方、白鳥沢学園男子バレー部一同も明日の決勝戦の相手である烏野高校の対策を行っていた。

 この2日間で部員が録画した烏野高校の試合をミーティングルームで見ながら、コーチの斉藤明が所感を伝えていく。

 

「今見て貰ったとおりだ。

 確かにシンクロ攻撃はブロックの分散に役立っている。しかし、逆に言うと1人1人の攻撃力では優れたブロッカーに勝てないと言うことだ。そして、攻撃力自体も若利に勝る者はいない。

 また、高さと守備力があるチームでもない。185cm以上あるのは3番と11番のみ、守備力も1番とリベロ2人以外は平均的だ。1人1人では決してウチには敵わないだろう。

 それ故に、いつも通りウチのバレーをやれば勝てる。何も臆することは無いぞ。わかってるな?」

「「「はい!」」」

 

 個人で強い6人が揃ったアンバランスなチーム力の白鳥沢学園と1人1人の充足している部分と不足している部分を上手く組み合わせた6人でのチーム力で戦う烏野高校との対戦が明日行われる。

 

◆

 

 家に帰ってきてゴーロゴロ。明日の準備はもう終わった。

 あーやべー、早く明日になんないかなー。あー、うー。

 

「ソワソワしてるじゃん。大丈夫?」

「なんかすっげえ楽しみなんだよね」

「それで寝られなくなっても困るじゃんよー」

「そしたら彩音ちゃんを抱き枕にする。ていうか湯冷めしちゃうよ」

「そしたら繋護のこと抱き枕にするー」

 

 3回目の持ち物確認を終わったタイミングでお風呂から上がった彩音ちゃんが和室に来た。……同じシャンプー使ってるはずなのになんか良い匂いなんだよなー。

 彩音ちゃんは俺の背中に寄りかかるように座って、俺もお互いが倒れないように体重をかける。おりゃおりゃ。

 

「明日テレビで中継されるんだよね、録画お願いしちゃった」

「今日も取材来てたっぽいけどね。大地さんが取材受けてた」

「繋護の格好いいところ皆に見られちゃうじゃん。『私の繋護に色目使うなー』って怒って良い?」

「彩音ちゃんと身内が見てくれるなら他の有象無象とかどうでも良いよ」

「……明日も頑張ってよ」

「頑張る頑張る。だから応援してて」

「ん」

 

 あ、だんだん眠くなってきた。おーし、明日は頑張るぞー。




Youtubeで「ラストメッセージ バレー」や「ラストミーディング バスケ or 野球」と検索して頂くと、春高だったりウィンターカップ、県予選や甲子園で負けてしまった学校の様子を撮った動画を見ることが出来ます。

もし良かったら見てみてください。
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