コートチェンジで烏野の応援席側のコートに戻ってきた。そのままベンチサイドに行ってミーティングを始める。
「取られちまったもんはしょうがねえ。第3セットは第3セットって割り切ってけよ。別に負けた訳じゃねえからな。第3、第4と続けてセットを取ればいい話だ!」
「「「はい!」」」
序盤中盤と押してた分ちょっと「あぁー……」って無くも無い。やっぱり終盤で翔陽のスパイクをドシャットされて流れが変わった。これからシンクロ攻撃にも対応されそう。
「点を取られたら点を取り返せば良い。このまま2セット連続で取るぞ!」
「「「はい!」」」
鷲匠先生の性格的にもローテを弄ってくることも無さそうだし一気に2セット取ろう。
◆
一方、白鳥沢学園男子バレー部一同も移動間で3セット目について話を聞いていた斉藤明を中心にミーティングを行っていた。2セット目を取り返せたこともあって雰囲気にも柔らかさが見られる。
「第2セット良くやった。このまま第3、第4と取っていけよ」
「「「はい!」」」
「それで、3セット目はローテを3つ回して若利をバックセンターから始めるローテにしてみようと思う。烏野がサーブだから、覚がサーブからになるローテだな。あの11番と若利のマッチアップを少なくする作戦だ。
となると、若利が前衛に上がれば5番、10番とのマッチアップが増える。あの2人はブロックがそこまで脅威じゃ無い。ってことで、若利、お前の強さを見せつけてこい」
「はい!」
「当然だが11番のマークは工や英太に変わる。が、おまえ達なら打ち抜けるぞ。やってこい」
「「「はい!」」」
斉藤明の進言でスターティングーオーダーを変えることになった。この結果どんな試合展開になるかはこれから分かる。
◆
セット間のタイムが終わって背番号とポジション確認が始まった。俺とノヤ先輩はサイドラインの横で副審にお腹側の背番号を見せる。
でも、そこで俺もそうだし全員あっちのスターティングオーダーが変わったことに気づいた。まじかよ!! やられた!! 牛島選手後衛スタートじゃん!!
白鳥沢
8 3 5
12(リベロ) 1 牛島選手 4
烏野
9 飛雄 11 蛍 3 旭さん
5 龍先輩 10 翔陽(俺) 1 大地さん
「お。おお、おお、落ち着け! やることは変わんねえぞ!」
「う、烏養君! 君も動揺しないで!!」
えー、嘘だろ。鷲匠先生がポジション弄ってくるとか!! 俺が知る限り初めてなんですけど!!
蛍達をブロックにぶつけるってこっちの作戦が空振りに終わっちゃうじゃん。やっべ。超やっべ。あとセッター10番じゃ無いんだな。やりづらいのは3番の方だから10番に替って欲しいんだけど。
くそー、まあやるしか無い。牛島選手のバックアタックが増えるって事を考えれば蛍がブロックできる機会が前衛よりも増えるかもしれないし。フットフォールトとか考えるといいかもしれない。
「先輩達とブロックのタイミング確認しとけよ。打たれ放題になるなよ!」
「分かった!」
背番号とポジションの確認が終わったら、サイドラインで翔陽と入れ替わってコートに一礼、そして龍先輩との位置関係に気を付けてバックセンターに向かう。サーブはこっちから。つまり大地さんからだ。
「「「1本ナイッサー!!」」」
「1本集中!」
「「「オォーッ!」」」
吸ってぇー、吐いてぇー。……良し、動揺終わり。もうね、やるしかないんだよ。いちいち動じてられない。
主審の笛がなって大地さんがジャンフロを打った。狙いは3番がネット際、牛島選手がサーブレシーブに参加しないから手薄になってるコート中央。
「ッケイ!」
14番のリベロがキッチリ返球してボールは3番に返っていく。
「バック!」「A!」「レフト!」
バックライトに移動した牛島選手、ライトから切り込んでくる5番、レフトの8番、あと3番のツーもあるか。誰で来る?
「工!」
「「「8番!」」」
3番からレフトの8番へとトスが伸びていく。ライトの飛雄にセンターの蛍とレフトの旭さんが合流して3枚ブロックの態勢を作って、俺は旭さんの左手側を抜けてくるボールの警戒の為にレフト側のサイドラインとアタックラインが交差する所で8番のスパイクに備える。
「「「せーのっ!!」」」
「「「ブロック3枚!」」」
集中力をぐっと引き上げて気持ちゆっくりになった視界の中で8番のモーションをよく見る。
助走――クロス。
身体の向き――クロス。
視線――ストレート側を見た。
スイング――ストレート。
⇒ストレート!
「ふっ!」
「ノー!」「ノー!」「ワンチ!」
「「大地さん!」」
8番のスパイクは飛雄の右手の手首らへんに当たって鋭い角度でコート外に落ちた。ワンタッチで先制点はあっちだ。【1-0】。
「良し!」
「「「ナイスキー!!」」」
8番を中心に集まってる様子を見ながら、こっちはこっちで集まる。
「すいません!」「すまん!」
「オッケーオッケー、切り替えていこう」
「もっとストレート締めても良いかも」
「おう。次から気を付ける。あと次のサーブカット長めにお願いします」
「良し、分かった。切り替えていこう!」
「「「オォーッス!」」」
1つローテーションが回って白鳥沢のサーバーは5番。強いは強いけどしっかり対応できるからちゃんと対応していこう。前衛の飛雄と蛍の分レフト側に寄ってサーブレシーブに備える。
「「「天童1本ナイッサー!」」」
「1本集中!」
「「「オォーッス!」」」
主審の笛が鳴って5番がジャンフロを打ってきた。狙いは俺と龍先輩の間。まあ、ここは俺でしょう。
長めにって言われたからツーが出来るようにアンダーで返すと、飛雄は分かりやすくスパイクモーションを始めた。
「「「ツー!」」」
「レフト!」「センター!」「バック!」「ライト!」
「「「っ! ステイ!」」」
3番と12番がガッツリブロックに付いてきてる。こっから飛雄はどうすんだ。
あと、同時にレフトの龍先輩、センターの蛍、バックライトの大地さん、ライトの旭さんもシンクロ攻撃に入ってる。飛雄のことだからこっからセットもできるだろ。
とりあえずブロックフォローで前に詰めとこう。
「いけっ!」
「「「っ! 11番!」」」
空中でのセットでDクイックのトスを蛍に上げてそのままズドン。俺以外の5人が囮になったこともあって蛍がフリーで打てた。【1-1】。
「良し!」
「「「ナイスキー!」」」
コート中央に集まってペシペシハイタッチ。
「全国行きたいんでやれることは何でもやります。ツーも積極的に狙っていこうと思います」
「だな! いちいちびびってらんねえっすよ! 大地さん、旭さん!」
「「……後輩が頼もしすぎて辛い」」
まーた処理落ちしてるよこの2人。それ何回目ですか?
ホント、やるしか無いから。勝てば全国、負ければこのチームは今日で終わりってのは変わりない。勝つためにここにいるんだろって話だ。やるしかない。
「旭さん1本お願いしますね」
「おう。やるしかないからな」
そうそう、〝やるしかない〟んです。
ローテーションがひとつ回って旭さんがサーブだ。バックレフトに移動してそのまま相手コートの様子を窺う。
「「「1本ナイッサー!」」」
「ここ集中!」
「「「オォーッ!」」」
前衛に3番がいるからツーの可能性もある。10番よりはやってきそう。ただ、下手打って交替させられることも防ぎたいだろうから可能性としては低いかもしれない。ボール見て反応していこう。
主審の笛が鳴って、旭さんがジャンプサーブを打った。狙いとして12番はネット際、サーブレシーブに参加しない牛島選手がいるバックレフト側。
「「「大平!」」」
「オシ!」
でも4番がカバーに入ってきて旭さんのサーブをAパスでネット際の3番に返す。この間に牛島選手はバックライトへと移動した。
「バック!」「A!」「セミ!」
バックライトの牛島選手、レフト側からAに切り込んでくる12番、12番とは逆にレフトへと時間差をしてくる8番がトスを呼ぶ。ネットからちょっと離れてるから3番のツーはないだろう。誰で来る?
「太一!」
「「「12番!」」」
12番がAでは無くBに跳んだ。そんな12番に3番からのトスが伸びていく。飛雄と蛍はブロックに間に合って、龍先輩は間に合わない。角度的にも狙いはライト側だな。
「ふっ!」
「ワンチ!」「ノー!」
蛍の右手の指先にボールが当たって、軌道が変わった。大地さんの首元めがけて飛んでいく。
「ぐげっ……! カバー!!」
大地さんが身体を捻って無理矢理右腕の上腕部で受けるとネットの下の白帯の半分ほどの高さまでボールが上がった。飛雄と旭さんは間に合わない。俺が一番近い!
「ダダン」のリズムで2、3歩走ってフライング。なんとか右手のパンケーキを床とボールの間に滑り込ませた。……上がった!
「ラスト!」「大地!」
「ォーラィ!!」
俺が上げた2本目を膝をついて体勢を崩してる大地さんがアンダーで思いっ切り打ち上げた。ボールはなんとか返っていく。
「「「ナイス!」」」「「「チャーンス!!」」」
立上がってバックレフトへと戻って相手の攻撃に備える。14番のリベロがチャンスボールを処理してネット際の3番へ。
「バック!」「A!」「レフト!」
「……若利!!」
「「「1番!」」」
3番が選択したのはバックライトの牛島選手。オープントスが上がる。
アンテナと龍先輩の左手の間を抜けてきたボールを拾うためにサイドライン際まで移動して、龍先輩、蛍、飛雄の3人がブロックの態勢を作った。
「「「せーのっ!!」」」
「「「ブロック3枚!」」」
集中力をぐっと引き上げて気持ちゆっくりになった視界の中で牛島選手のモーションをよく見る。
助走――クロス。
身体の向き――ストレート。
視線――ライト側を見た。
スイング――ストレート。
⇒ストレート!
「ふんっ!」
「ワンチ!」「ノー!」「ノー!」
牛島選手のバックアタックは龍先輩の左手に当たって、放送席のカメラの方に吹っ飛んでいった。当然ワンタッチで相手の点だ。【2-1】。
「良し!」
「「「ナイスキー!」」」
牛島選手を中心に喜んでる様子を見ながら、こっちはこっちで集まる。
「すんません!」
「「「ドンマイドンマイ!」」」
「点を取るのに楽すんじゃねえぞ!!」
「「「はい!」」」
取られたら取り返す。流れは白鳥沢だろうけど、まだ負けたわけじゃ無い。
……ただ、相手のサーバーは3番で、牛島選手が前衛に上がってくる。ひぃー。
「「「瀬見1本ナイッサー!!」」」
「1本集中!」
「「「オォーッス!」」」
飛雄がセンター、蛍がライトってことでバックセンター寄りで3番のサーブに備える。どこ打ってくるかな。俺の方打って欲しいけど。
主審の笛が鳴って3番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはレフト側のサイドライン。めっちゃ良いとこ。龍先輩はバックセンターに寄ってる分出遅れた。
「イン!」
「ォラ! ……っ!!」
龍先輩がアンダーで処理するけど弾いてしまった。ボールの軌道上に手を伸ばして俺も触ったけど触るだけとなった。相手のサービスエースだ。【3-1】。
「よっしゃー!!」
「「「ナイッサー!!」」」
3番サーブ強いんだよなー!! もぉー!!
「クソ! サーセン!!」
「猫又バックセンター寄りだから田中が触ろう。触るだけでも良いから! 猫又もジャッジしっかりな!」
「うす!」「はい!」
一段落して元の場所に戻る。
「インだったよな?」
「はい、入ってました。今のとこ狙われると届かないので龍先輩お願いします」
「オッケーイ!! やったるぜ!」
あそこはお願いしたいところ。頼みますよー。
「「「瀬見もう1本!!」」」
「1本カット!」
「「「オォーッス!」」」
構えていると主審の笛が鳴って、3番がジャンプサーブを打ってきた。今度もさっきと同じレフトのサイドライン側にサーブが伸びてくる。
「ォラ! ……クソ! 繋護!」
「はい! 旭さん!」
「「「3番!」」」
またまた龍先輩がサーブに負けて、ボールはその場で打ち上がるような形になった。飛雄もいけるだろうけど、どうせ二段になるなら俺の方が近い。ってことでバックライトの旭さんが打ちやすいトスをアンダーで上げる。
レフトの8番にセンターの12番、ライトの牛島選手の3人がガッツリブロックの態勢を作ってる。俺達はブロックフォローだ。
「「「せーのっ!!」」」
「「「ブロック3枚!」」」
「ッシ!」
「ノー!」「ノー!」「ワンチ!」
今度は旭さんがやってくれた。バックアタックが8番の左手に当たってボールは大きく吹飛んでいく。【3-2】。
「オシ!」
「「「ナイスキー!!」」」
ひぃー、パワーすげー。
「ウシワカに負けるなよ、旭」
「分かってるよ」
ローテーションがひとつ回って、次は蛍のサーブだから翔陽が前衛に上がってくる。ってことで俺と交替だ。サイドラインで翔陽とハイタッチ。
「23点取ってこい」
「任せろ!」
コートの外に出たら振り返ってコートに一礼。そして烏養コーチの所に行く。
「どうしますか?」
「……このまま様子を見よう。このセットブロックの上から打たれることが多くなるだろうからなんとか触っていこう。1、2セットは拾えてたわけだし」
「はい」
「ムードメーカー投入ってことで西谷を投入するかもしれない」
「……はい」
えぇー、まじかよー。ぶーぶー。
心の中で抗議してたらいきなり左手を取られてアームスリーブをちょっと脱がされた。げっ、バレてたのか。内出血が酷くなって紫色に変わってる箇所もある。
「あんなパワーのサーブとスパイクを拾ってたらこうなるわな。
西谷も優秀なリベロだ。猫又が粘れば粘るだけあっちは消耗する。となりゃあリリーフリベロ・西谷の出番だろ」
「初めて聞きますね、そのリリーフリベロって」
「うるせえよ。ほらいってこい」
「はい!」
蛍のサーブ権は牛島選手のスパイクで強引に途切れた。【4-2】。
よーし、いってくっかー。
「日向のブロックざるだから頑張って取れよ」
「なんとかするよ」
サイドラインで蛍とハイタッチして、コートに一礼したらバックライトへと向かっていく。相手のサーバーは8番。3ローテ回ってちょうど1、2セット目のスタートと同じ形だ。
「「「五色1本ナイッサー!!」」」
「1本集中!!」
「「「オォーッス!」」」
主審の笛が鳴って8番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはバックレフトとバックセンターの間らへん。大地さんと旭さんの間だ。俺の方に打ってくること少なくなってんな。
「俺が!」「頼む!」
大地さんが取って8番のサーブを完璧にネット際の飛雄に返していく。
「影山!」「バック!」「センタァー!」「バック!」
ここでも飛雄はジャンプしてスパイクのモーションをしながらツーで打つ準備もする。だから俺以外の5人がシンクロ攻撃に入ってるって訳だ。ブロックフォローしないと。
「しっ!」
「「「10番! っ! ……3番!」」」
翔陽がAクイックに跳んで、飛雄は旭さんにトスを上げた。パイプ攻撃って言っても良いと思う。
まず12番が飛雄のツーを止めようとしてブロック、更に4番と牛島選手が翔陽を。着地した12番がもう1回ブロックに跳んだけど旭さんのバックアタックが相手コートに突き刺さる方が早かった。【4-3】。
「良し!」
「「「ナイスキー!!」」」
コート中央に集まってペシペシハイタッチする。
「影山も何本か決めて良いんだぜ?」
「はい。ツーもあるって思わせないといけないので適当にやります」
「次サーブだけどな」
「緩いとウシワカのスパイクで点取られるぞ」
「はい」
強いサーブで崩しても二段トスで強引に打ってくるからな。早くサービスエース取って欲しい。
それで、こっからのローテがブロックきつくなる。気を引き締めないと。
「「「影山1本ナイッサー!!」」」
「1本集中!」
「「「オォーッス!」」」
旭さんとの位置関係に気を付けながらバックセンターであっちコートの様子を窺う。牛島選手と3番、12番がネット際で他3人でサーブレシーブをするって感じだ。
そのうち主審の笛が鳴って、飛雄がジャンプサーブを打った。狙いはバックライト側。
「「「五色!」」」
「はい! ……カバーお願いします!」
「任せろ!」
8番が拾ったけど、ボールはその場に打ち上がるように放物線を描いていて、3番が二段トスを上げに走った。
「瀬見!」
「若利!」
そっから二段かよ! 後ろから来るボールって滅茶苦茶難しいんだけどなぁ!!
ってことでバックライトからライトに二段トスが上がる。俺はレフト側のサイドラインまで。龍先輩と助走する翔陽がブロックの態勢を整え始める。
「日向! 来い!」
「はい!」
「「ブロック2枚!」」
集中力をぐっと引き上げて気持ちゆっくりになった視界の中で牛島選手のモーションをよく見る。
助走――ストレート。
身体の向き――ストレート。
視線――翔陽の右手側、つまりインナー側を見た。
スイング――クロス。
⇒翔陽のブロックの上からクロス!
「ふんっ!!」
「ノー!」「ノー!」
ッストレートには打ってこないなって判断して右にサイドステップ、そして牛島選手のスパイクが翔陽のブロックの上から通過してくるから右に飛び込むけど、4mほど先でボールが落ちてバウンドしていった。【5-3】。
「良し!」
「「「ナイスキー!!」」」
牛島選手を中心に集まってウェイウェイしてる。こっちはこっちで集まった。
「分かってたことだ。後はレシーブで対応していこう」
「エンドライン側狙ってくるわけじゃ無さそうだから、後衛に下がったら田中もちょっと前で取ろう」
「オス!」
そうすればさっきの位置のボールも触れる可能性が高くなるか。コート中央に叩き付けて乗せたくないよな。
次のサーバーは12番。早くサイドアウト取って牛島選手を後衛に下げよう。飛雄の分ライト側に詰めてバックライトでサーブレシーブに備える。
「「「川西1本ナイッサー!!」」」
「1本集中!」
「「「オォーッス!」」」
主審の笛が鳴って12番がジャンフロを打ってきた。狙いはセンター。
「「旭!」」「「「旭さん!」」」
「……くそ!」
「「「チャンス!!」」」
ネットに掠って旭さんの予想してた場所の前に落ちるように軌道が変わって旭さんがフライングするような形でサーブカットに成功する。でもボールはチャンスとして相手コートに返ってしまった。
急いでバックレフトに移動して、14番がチャンスボールを処理する様子を見ながら相手の3本目に備える。3番は後衛だからツーは無い。
「瀬見!」「A!」「レフト!」
「若利!」
「「「1番!」」」
ライトの牛島選手、センターの5番、レフトの4番がトスを呼んで、3番はライトにオープントスを上げた。
俺はレフト側のサイドラインまで。龍先輩と翔陽がブロックの態勢を作る。
「田中さん!」
「おうよ!!」
「「「ブロック2枚!」」」
集中力をぐっと引き上げて気持ちゆっくりになった視界の中で牛島選手のモーションをよく見る。
助走――クロス。
身体の向き――クロス。
視線――こっちを見て眼が合った。
スイング――ストレート。
⇒ストレート!
「ふんっ!!」
「ワンチ!」「ノー!」
牛島選手のスパイクは龍先輩の左腕に当たって、ボールがサイドラインを大きく越えるように吹っ飛んでいった。この位置からだと見送るしかない。ワンタッチであっちの点だ。【6-3】。
「「「ナーイスキー!! う・し・じ・ま!! もういっぽーん!!」」」
白鳥沢の応援席が活気づいてきた。烏野側からはどっちかというと悲鳴に近い。
「すんません!」
「俺もへなちょこサーブカットだった! 悪い!」
「次切り替えるぞ!」
「「「オォーッス!」」」
次のラリーに備えるために移動していく。あと、やってみたいことがあったから龍先輩に話し掛けた。
「ブロックアウト狙われたときに合図出すので手を引っ込めて貰っても良いですか?」
「おう、やってみるか」
「取れよ」
「おう。飛雄はドシャット目指せよ。……あと翔陽とスイッチしてもいいんじゃね?」
「タイムの時コーチに言ってみるか」
飛雄、翔陽、龍先輩の3人が前衛の時に飛雄と龍先輩の2人でブロックしてもいいなーって。こういっちゃ何だけど、翔陽よりは期待できそうだし。……というか、早くサイドアタッカーにコンバートした方が良いんじゃ無いかなって。
まあね、取り敢えず12番のサーブ切らないとな。
「「「川西もう1本ナイッサー!!」」」
「1本集中!」
「「「オォーッス!」」」
こっち打ってこないかなー。
主審の笛が鳴って、12番がジャンフロを打ってきた。狙いは旭さん。
「「旭!」」「「「旭さん!」」」
「くっ……!」
旭さんはオーバーで処理したけどちょっと乱された。ボールはアタックライン付近に落ちるように放物線を描く。
飛雄がセットアップに走って行って、マイナステンポで助走した翔陽に縦のBクイックを打たせる。……げっ!
「ワンチ!」
5番が読んでたっぽい。完全にドシャットされてチャンスボールが俺の方に返ってくる。ちょっと高めに!
「オーライ!」
「レフト!」「バック!」「センター!」「ライト!」
レフトの大地さん、バックセンターに移動した旭さん、センターの翔陽、ライトの龍先輩の4人がトスを呼んで、同時に助走を始めてシンクロ攻撃に入る。
ポジション移動までは出来なかったか。とりあえずブロックフォローに入ろう。
「お願いします!」
「「「1番!」」」
飛雄からレフトの大地さんに向かって速い平行トスが伸びていく。ブロッカーは牛島選手と遅れて5番。
「「「ブロック1.5枚!」」」
「ふっ!」
「ワンチ!」
大地さんのスパイクは牛島選手の右手に当たって吹っ飛んでいった。【6-4】。
「良し!」
「「「ナイスキー!!」」」
コート中央に集まってペシペシハイタッチ。
「あっちの5番完全に日向ロックオンしてるから幅使っていこう。7m位は自由に使って良い」
「はい!」
5番を引き剥がしてくれればって感じ。
「田中1本サーブな」
「シャオラァ!!」
龍先輩がサーブで旭さんが前衛に上がる。ここで旭さん1人でも牛島選手をブロックしてくれればいいなあ。あ、嘘。
「龍先輩にも言ったんですけど、ブロックアウト狙ってきそうだなって時に合図出すので手を引っ込めて貰っても良いですか?」
「そんな分かる? ……いーや、やってみるか。吹っ飛ばされるよりもマシだもんな。おし」
旭さんにそれだけ言ってバックレフトに向かう。
「「「田中1本ナイッサー!!」」」
「1本集中!」
「「「オォーッ!」」」
主審の笛が鳴って、龍先輩がジャンプサーブを打った。狙いは5番と3番がいて手薄なレフト側。……うーん、ちょっと長いか?
「「「アウト!」」」
ギリッギリエンドラインの外だったっぽい。いやでも良いサーブだった。入ってたら取れなかったと思う。【7-4】。
「だあっ!? すんません!!」
「ドンマイ! 良いサーブだったぞ!」「そうだ! 切り替えろ!」
「オス!」
「次1本で切れよ!!」
「「「オォーッス!」」」
そして牛島選手のサーブだ。牛島選手のサーブの回数が減るオーダーだけど、やりにくさが残ってる。今のブロック体制だと牛島選手のスパイクが完全に決まるからマジやばい。
バックレフトでサーブレシーブに備える。
「「「若利1本ナイッサー!!」」」
「1本で切るぞ!」
「「「オォーッス!」」」
こっち打ってこい。こいやー!! 主審の笛が鳴って、牛島選手がジャンプサーブを打ってきた。狙いはライト側。……んっ!!
「田中さん!」
「くそ……!」
……ひぃー、めっちゃ良いサーブだった。サウスポー特有の回転と牛島選手の球威に押されて龍先輩のレシーブは失敗して、ボールは後ろに吹っ飛んでいった。【8-4】。
白鳥沢が先に8点取ったから1回目のテクニカルタイムアウトだ。
「だあっ!? さーせん!!」
「切り替えろよ田中!」
「おす!」
そんなことを言いながらベンチサイドまで戻って、更に烏養コーチの指示でベンチに座らされる。
「びびってねえな?」
「「「はい!」」」
「なら良い。『鷲匠先生が目玉弄ってくるとかマジかよ!?』とか俺の方がびびってた。でも、逆に言えばそれだけこっちのディフェンスがプレッシャーになってるって訳だ。
やることは変わんねえぞ。相手以上の攻撃力で点を取る。ただそれだけだ!」
「「「はい!」」」
そして、烏養コーチと眼が合った。
「田中と東峰となんか話してたよな?」
「『ブロックアウト狙われたら合図出すから手を引っ込めてくれ』って頼みました」
「分かった。やってみよう。
正直このセットはブロックの上から打たれる事が多くなる。その時はもうレシーブで対応しねえと一方的に点取られるからワンタッチだけでも取れるようにしよう」
「「「はい!」」」
失敗したらアタックライン付近に打たれるけどな。位置によってはもう無理よ。まあでもリスク背負わないと負けるし。
◎
烏野高校側の観客席で谷地仁花と月島明光、宇内天満、森行成、田中冴子など烏野高校OBメンバーが選手同様必死に応援していた。
「なんか押されてる? あたしの気のせい?」
「いーや。あっちの1番が後衛スタートで月島先輩の弟さんのワンタッチが期待できないんだよ。1番がスパイクを打ったらそのまま点になるからな」
「なんとかなんないの!? にゃんこに取らせるとかさ」
「しようとしてるけどブロックアウトで吹っ飛ばしてくるんだよ」
「……でもねこ君田中さんと東峰さんに声かけてたので対策はしてるはずです」
1セット目を烏野高校が先取したことで会場は大いに沸いた。しかし、3セット目でスターティングオーダーが変わって、目に見えて白鳥沢学園が優勢になる様子を見て観客も落ち着いてくるようになる。
それでも、烏野高校側の応援席は目の前のコートにいる部員の勝利を信じていた。
◎