烏野高校の猫又君   作:青黄紅白

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2012年10月⑦ VS白鳥沢学園⑥

 テクニカルタイムアウトが終わってコートに戻る。龍先輩が狙われてるから大地さんがちょっとライト寄りで俺のレシーブ範囲も広くなった。

 

「「「若利もう1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 主審の笛が鳴って牛島選手がジャンプサーブを打ってきた。飛雄がセットアップに走る進路上に曲がりそうだ。駄目だ、これ落とす。

 

「くっ!」

「カバー!!」

 

 飛雄の左腕に当たって軌道が変わったボールに俺も左腕で触る。何とか上がった。

 

「「「影山!」」」

「はい!」

「「「チャンス!!」」」

 

 3本目を飛雄がチャンスボールとして返して相手のターンになる。3番を狙ったボールだけど14番のリベロがきっちりAパスで返した。そのままバックレフトで皆のポジション移動を確認しつつあっちの動向を探る。

 

「バック!」「A!」「レフト!」

 

 3番も前衛でツーがある。バックライトの牛島選手、5番、4番。誰で来る?

 

「覚頼む!」

「「「5番!」」」

「ッシ!」

「ノー!」

 

 センター寄りに詰めて速攻に備えたけど、翔陽のブロックの上から打たれてボールはフロントゾーンに落ちた。【9-4】。

 

「ヨーッシ!!」

「「「ナイス天童!」」」

 

 5番を中心にウェイウェイしている様子を見ながらこっちはこっちで集まる。

 

「次切るぞ!」

「「「オォーッス!」」」

 

 翔陽のブロックが完成するまでが長いのは重々承知。無理してでもやっていくしか無い。もうちょっと中に詰めて良かったな。

 バックレフトに移動して牛島選手のサーブに備える。

 

「「「若利もう1本ナイッサー!!」」」

 

 俺に打ってこいやー!!

 主審の笛が鳴って牛島選手がジャンプサーブを打ってきた。狙いは龍先輩と大地さんの間。

 

「俺が!」「頼んます!」

 

 後ろにひっくり返りながらも大地さんがなんとか上げた。その瞬間飛雄はセットアップに、翔陽はレフトに向かって走り始めた。あっちの5番も翔陽を追いかけ始める。コミットに近いブロックのしかただ。

 

「いけっ!」

「オシ!」

 

 その翔陽も急に方向転換してライト側に向かって走り始めた。飛雄からトスが上がってマイナステンポの助走をして5番と4番のブロックの上からスパイクを決めた。強引過ぎだろ。【9-5】。

 

「シャアっ!」

「「「……ナイス!!」」」

 

 取り敢えず点取ったのはこっちだから集まってウェイウェイする。

 

「なんかすげえ動きだったな」

「幅上手く使ってこうってこういうことかなって」

「なるほどな」

 

 翔陽がサーブだから蛍が前衛に上がる。と言うわけでハイタッチしたらサイドラインへと向かった。

 

「頼むぞー」

「うん」

 

 蛍とハイタッチしたら振り向いてコートに一礼。そして烏養コーチの所に。

 同時に、これ以上点差を離されたくないって考えで久志先輩を投入するみたいだ。

 

「澤村と猫又の2人で牛島のサーブに対応させるかもしれねえ。ちょっと考える」

「はい」

 

 それだけ聞いて、武田先生と清水先輩ともハイタッチして交替した翔陽と一緒にウォーミングアップゾーンへ行く。

 

「「「ウェーイ!」」」

「「ウェーイ!」」

 

 俺はノヤ先輩から、翔陽は一仁先輩からタオルを受け取って汗を拭っていく。

 この間に、ネットインを利用したサービスエースで【9-6】。お見合いを利用したサービスエースで【9-7】。

 3本目でキッチリと牛島選手のバックアタックで点を取られた。【10-7】。

 

「「ナイサーです!」」

「もっと攻めないと駄目だったな! ねこも頼むぞ!」

「はい!」

 

 まず翔陽と久志先輩が交替。更に、翔陽と俺がサイドラインで入れ替わる。

 

「繋護頼むぞ! なんとかしろ!」

「そんな無茶ぶり」

 

 まあまあ。もうさ、やるしかないよね。コートに一礼してレフトの蛍とバックレフトの飛雄の分左に寄ってるからバックセンターに近いバックライトでサーブに備える。

 ローテーションも1巡して白鳥沢のサーバーは4番だ。

 

「「「獅音1本ナイッサー!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 主審の笛が鳴って、4番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはセンター。しかもボールの軌道も低い。

 

「「「前!」」」

「くっ!」

 

 案の定ネットインして、セットアップに走った飛雄が取った。ウチの約束でボールはアタックライン上に落ちるような軌道を取ってる。となれば俺の出番だ。

 

「やります!」

「レフト!」「バック!」「センター!」「ライト!」

 

 飛雄は助走出来るほど下がれてないからブロックフォローに入った。でもレフトの蛍、バックレフトの龍先輩、センターの旭さん、ライトの大地さんが同時に助走を始めてシンクロ攻撃に入る。どうすっかなー。誰に上げる? 5番がいるんだよな。

 バックアタックを打つような助走をしてジャンプをした。そしてレフトの蛍に平行トスを上げる。

 

「「「11番!」」」「間違えたぁぁぁぁ!」

「ふっ!」

「ワンチ!」

 

 やっぱり俺が大地さんに上げるって思ってたな、5番め。

 そして蛍は3番とのタイマン勝負で右手に引っかけるようにしてコートの外に押し出した。3番からワンタッチを取ってこっちの点数になる。【10-8】。

 

「ォシ!」

「「「ナイス!!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。

 

「読まれてたっぽいな」

「俺も大地さんに上げた方が良いかなって思ってた。レフト側ごちゃっとしてたし。だからね。あえての蛍。トスは?」

「ちょっと低くても良かったかな。5cm位」

「オッケー」

 

 今日は調子良いから合わせられそうだ。

 

「大地さんサーブ頼みます!」

「おう!」

 

 ローテーションが回って大地さんがサーブだ。こっちも1巡目が終了して2巡目に入った。

 ポジショナルフォールトを取られないように龍先輩との位置関係に気を付けながらバックセンターであっちコートの様子を窺う。

 

「「「1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッ!」」」

 

 主審の笛が鳴って、大地さんがジャンフロを打った。狙いはバックライト側。

 

「「「大平!」」」

「っ! すまんカバー頼む!」

「レフト!!」

「……五色!!」

 

 なるほどね。4番のミスを誘って牛島選手に二段トスをあげさせようって考えか。確かにそれなら対処しやすいかもしれない。

 牛島選手がレフトの8番に二段トスを上げて、ライトの飛雄にセンターの蛍、レフトの旭さんが合流してブロックの態勢を作った。 俺はインナーに来たスパイクを取るからレフト側にアタックラインとサイドラインが交差してる辺りに立つ。

 

「「「せーのっ!!」」」

「「「ブロック3枚!」」」

 

 集中力をぐっと引き上げて気持ちゆっくりになった視界の中で8番のモーションをよく見る。

 

 助走――クロス。

 身体の向き――クロス。

 視線――レフト側の奥を見た。

 スイング――クロス。

 ⇒ブロックアウト狙い!

 

 インナーじゃないことを確認してバックゾーンに移動。すると、8番がスパイクを打ってきた。

 

「ノー!」「ワンチ!」「ノー!」

 

 読み通り。

 蛍の左手に当たったボールはバックレフトのサイドラインを越えるような軌道を取って吹っ飛んできた。こういうのをこっちのチャンスにしたい。

 軌道を読み取ってオーバーで処理。成功!

 ボールはふんわりとした放物線を描いて飛雄へと返っていく。旭さんと蛍も下がって助走できそうだ。

 

「レフト!」「バック!」「センター!」「バック!」

 

 レフトの旭さん、バックレフトに移動した龍先輩、センターの蛍、バックライトの大地さんがトスを呼んで同時に助走を始めてシンクロ攻撃に入った。龍先輩の邪魔にならないようにブロックフォローしないと。

 

「お願いします!」

「「「3番!」」」

 

 飛雄はレフトに平行トスを上げて、あっちは3番と遅れて5番がブロックに跳びそうだ。

 

「「「ブロック2枚!」」」

「ふっ!」

「ワンチ!」「ノー!」

 

 旭さんのスパイクは3番の右手の指先に当たってめちゃくちゃ吹っ飛んでいった。【10-9】。

 

「良し!」

「「「ナイスキー!!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチする。

 

「ウシワカにトス上げさせよう。そうすればある程度はやりやすくなる」

「だな」「オッケーっす!」「「分かりました」」

「大地さんもう1本ナイッサー!」

「おう!」

 

 牛島選手のスパイクを封じるなら、今までやってきたようにトータルディフェンスをするか、二段トスをあげさせれば良い。二段トスならもっと負担が軽くなる。

 考えろ。どうすれば勝てる?

 

「「「もう1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッ!」」」

 

 龍先輩との位置関係に気を付けながらバックセンターで相手コートの様子を窺う。そのうち主審の笛が鳴って、大地さんがジャンフロを打った。狙いはさっきと同じバックライト側。

 

「「「大平!」」」

「オッケー!」

 

 くそ。Aパスかよ。

 4番が完璧に処理してボールがネット際の3番へと返っていく。

 

「バック!」「A!」「レフト!」

 

 バックライトの牛島選手、Aクイックに切り込んできた5番、そして8番がトスを呼んだ。3番は前衛だからツーもある。……あの体勢はツーでは無さそう。右利きのはずだし。

 

「若利!」

「「「1番!」」」

 

 3番からバックライトに向けてオープントスが上がる。

 旭さんの左手側を抜けてきたボールを拾うためにサイドライン寄りに移動して、ブロッカー3人もレフト側に集まってブロックの態勢を作った。

 

「「「せーのっ!!」」」

「「「ブロック3枚!」」」

 

 集中力をぐっと引き上げて気持ちゆっくりになった視界の中で牛島選手のモーションをよく見る。

 

 助走――ストレート。

 身体の向き――ストレート。

 視線――旭さんの左手を確認した。

 スイング――ストレート。

 ⇒ブロックアウト狙い!

 

「旭さん!」

「ふんっ!! ……っ!?」

「ノー!」「ノー!」「ノー!」

 

 読み通り!

 旭さんが手を引っ込めて、ボールが旭さんの左手があるはずだった所を通って俺の方に飛んでくる。アンダーの面を向けて、ここ……!!

 すんげえ衝撃が両腕に伝わってきた。でもボールは上がったぞ。……あれ? やべっ、長い。

 

「「「天童!」」」「「「月島!」」」

 

 俺のレシーブはちょうどネットの上に落ちるような放物線を描いてあっちの5番と蛍の押し合いになりそうだ。前詰めよう。

 アタックライン付近まで移動して2人の勝敗を見届ける。

 

「ふひっ!」「っ……!」

「「「チャンス!」」」「下がれ!」

 

 5番が蛍の右手を使ってリバウンドを取って、ボールは相手コートに返っていった。急いでバックレフトへと下がる。

 そして、14番のリベロがそのチャンスボールを処理してネット際の3番へと返っていく。……うーん? これってツーっぽくね?

 

「ツー!」

「っ! オラ!」

「ワンチ!」

「……!?」

 

 3番のツーを予測して前に詰めたは良いけど、蛍が引っかけて軌道が変わった。ボールはジャンプした俺の上を通ってバックレフトへと伸びていってコート内に落ちる。【11-9】。

 

「良し!」

「「「ナイス!」」」

 

 3番を中心に集まっている様子を見ながら、俺達は俺達で集まる。

 

「ごめん。触らない方が良かった」

「まあまあ、しゃーない。触ってくれた方が嬉しかったし。もうちょっとジャンプ早かったら触れてた」

「おう。今のは俺が取らないと駄目だった。悪い、月島、繋護」

 

 まあでも龍先輩下がり切れて無かったからぶっちゃけしょうがない。

 

「あとブロックアウト狙いのボールなんとかなりそうか?」

「そうですね。変に吹っ飛ばされるよりはなんとかなりそうです」

「不格好でも良いから食らいついていこう!」

「「「オォーッス!」」」

 

 今のバックアタックのレシーブは面の角度が駄目だったな。もっと上に向かせないと。よしよし。

 相手のサーバーは5番。前衛の蛍の分、前も警戒してサーブに備える。

 

「「「天童1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 どこ打ってくる。やっぱり龍先輩狙いか?

 主審の笛が鳴って、5番がジャンフロを打ってきた。狙いは龍先輩と俺の間。

 

「いきます!」「頼む!」

 

 スパイクは打てないし、ってことで俺のボールだ。無回転特有の揺れを見ながらオーバーで処理する。良し。ボールはネット際の飛雄へと返っていく。

 

「バック!」「センター!」「バック!」「ライト!」

 

 バックレフトの龍先輩、センターの蛍、バックライトの大地さん、ライトの旭さんに加えて、飛雄もツーで打てるようにジャンプした。

 

「お願いします!」

「「「3番!」」」

 

 ジャンプトスでライトの旭さんに速い平行トスを上げて、白鳥沢のレフトの8番とワンマン対決だ。

 

「ふっ!」

「ワンチ!」

 

 旭さんのスパイクは8番の左手を掠めてサイドライン上に落ちた。こっちの点数だ。【11-10】。

 

「良し!」

「「「ナイスキー!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチする。

 

「最初はオーダー変わってびびったけど、慣れればなんてことない。このセット取るぞ!」

「「「オォーッス!」」」

 

 牛島選手が前衛に上がるからここで点数離したいところだ。

 ローテーションがひとつ回って旭さんがサーブだ。

 

「「「旭さん1本ナイッサー!」」」

「強打来るぞ! 1本集中!」

「「「オォーッ!」」」

 

 バックレフトに移動して相手コートの様子を窺う。そのうち主審の笛が鳴って、旭さんがジャンプサーブを打った。狙いは12番が前衛、牛島選手がバックレフトで手薄なレフト側。

 

「「「大平!」」」

「くっ! カバー!」

「川西!」

「はい!」

 

 牛島選手がバックライトに移動しない? バックレフトからバックアタック打つつもりか?

 

「牛島さん!」

「「「っ! 1番レフト!!」」」

 

 予想通り、12番からレフト側に二段トスが上がって、牛島選手はバックレフトのまま助走に入った。

 アンテナの横まで移動したライトの飛雄にセンターの蛍とレフトの旭さんが合流してブロックの態勢を作る。俺はバックゾーンで旭さんの左手側を抜けてきたボールの処理だ。

 

「「「せーのっ!!」」」

「「「ブロック3枚!」」」

 

 集中力をぐっと引き上げて気持ちゆっくりになった視界の中で牛島選手のモーションをよく見る。

 

 助走――ストレート。

 身体の向き――ストレート。

 視線――飛雄の右手側。

 スイング――ストレート。

 ⇒ブロックアウト狙い!

 

「飛雄!」

「ふんっ!!」

「ノー!」「ノー!」「ノー!」

「「「アウト!」」」

 

 俺の声で飛雄は手を引っ込めて、ボールはそのまま通過していった。長かった事もあって俺と龍先輩、大地さんは〝アウト〟って判断してボールを見送る。……どうだ? 嘘、ライン上だったわ。

 案の定ラインズマンは〝イン〟のシグナルを出した。だよね~~~~っ!! 入ってたよね。あばばばば。【12-10】。

 

「良し!」

「「「ナイスキー!」」」「「「ナイスコース!」」」

 

 牛島選手を中心にウェイウェイしている様子を見ながら、こっちはこっちで集まる。

 

「今のはもうしょうがねえ! 切り替えろ!」

「「「はい!」」」

 

 烏養コーチ、声カッスカスじゃん。水飲んだほうが良いんじゃないですか?

 

「バックライトに移動しなかったなー」

「たまたまか。目的があってか」

「もう何本か打たせないと分からないけど、猫又に打たせるって言うのは変わりないはずだ。ウシワカがレフトから打ってきてもライト側は締めよう」

「「「オス!」」」

 

 簡単に打ち合わせをして、バックレフトでサーブレシーブに備える。相手のサーバーは3番で、牛島選手が前衛に上がってきた。サイドアウトを繰り返して牛島選手を後衛に下げよう。

 

「「「瀬見1本ナイッサー!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 主審の笛が鳴って、3番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはライトの旭さん。

 

「くそ! 大地! 頼む!」

「オーライ! 田中!」

「「「5番!」」」

 

 旭さんが取ったけど乱されて、大地さんがレフトの龍先輩に二段トスを上げる。がっつりライトの牛島選手、センターの12番、レフトの8番の4人がブロックしに付いた。打つとこねぇー!!

 ブロックフォローをしにフロントゾーンまで前に詰める。

 

「「「せーのっ!!」」」

「「「ブロック3枚!」」」

「ォラ!」

「ノー!」「ワンチ!」「ノー!」

 

 12番の指先を狙ったらしい龍先輩のボールは12番の左手に当たってチャンスボールになった。急いでバックレフトまで下がる。

 

「オーライ!」

 

 14番のリベロが後衛からセットアップに走った3番にしっかりとAパスで返球する。

 

「瀬見!」「A!」「レフト!」

 

 後衛だから3番のツーはない。誰で来る?

 

「若利!」

「「「1番!」」」

 

 蛍と飛雄がまだ前衛だから確実に点取りたいよな。分かる。

 俺はサイドラインに足がかかるくらい。レフトの龍先輩にセンターの蛍とライトの飛雄が合流してブロックの態勢を作った。

 

「「「せーのっ!!」」」

「「「ブロック3枚!」」」

 

 集中力をぐっと引き上げて気持ちゆっくりになった視界の中で牛島選手のモーションをよく見る。

 

 助走――クロス。

 身体の向き――クロス。

 視線――こっちを見た。

 スイング――ストレート。

 ⇒ストレート!

 

「ふんっ!」

「ワンチ!」「ノー!」「ノー!」

 

 嘘だろ!? 龍先輩の左手に当てるように打ってきやがった!!

 龍先輩の左肘らへんに当たったボールは軌道を変えてそのままサイドラインから3m位離れた所に落ちた。フライングするけど間に合わない。【13-10】。

 

「良し!」

「「「ナイスキー!」」」

 

 牛島選手を中心にウェイウェイしているところを見ながら、こっちはこっちで集まる。

 

「すんません!」「すいません!」

「良い良い! 次切り替えるぞ!」

「「はい!」」

 

 ここで弱気になったら押し負ける。よーし、切り替えっと。

……そういえば牛島選手打点下がってきてるか? 当たったの龍先輩の肘だもんな。スタミナ切れ狙えるかもしんねえぞ。

 

「「「瀬見もう1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 バックレフトに移動して3番のサーブに備える。これ以上点差付けられたくない。1本で切りたい所だ。

 主審の笛が鳴って、3番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはレフト側のサイドライン側。相変らずコントロールいいなぁ!! ネット引っかけてくれても良いんだぜ!!

 

「アウト!」

 

 んー? 入ってるような入ってないような? 最後ちょっと曲がったし。

 ってことで、サイドステップだけじゃ間に合わないから左腕を伸ばしながら飛び込んだ。やっぱりギリギリ入ってる。ライン上か。

 

「カバー!」

「「「影山!」」」

「はい!」

 

 アタックラインに落ちるような放物線を描いてボールが落ちる。そこまで上げたら飛雄がなんとかしてくれるはずだ。

 

「レフトォ!」「バック!」「バック!」「ライト!」

 

 レフトの龍先輩、バックレフトに移動した大地さん、バックライトの旭さん、ライトの蛍の4人がトスを呼んで同時に助走を始めた。ネットから離れてるから飛雄のツーは使えない。急いで立て! ブロックフォローだ!!

 

「お願いします!」

「「「3番!」」」

 

 飛雄はバックライトにトスを上げて、レフトの8番と遅れて12番がブロックに跳んだ。

 

「ふっ!」

「ワンチ!」「ノー!」

 

 っ!!

 遅れて手を出した12番の腕に当たって打ち上がるような形でボールがこっちコートに返ってくる。このままだとエンドライン付近で落ちそうだ。俺しかいねえ。やべ、走れ!

 ……ん? でも!!

 

「アウト!!」

 

 ちょーギリギリ。本当にギリギリアウトだった。あと1mm中側だったらライン上。あぶねー、超あぶねー。

ラインズマンを見ると〝アウト〟のシグナルを出してる。あっぶねー!! 良かったぁ。【13-11】。

 

「「「ナイジャッジ!」」」

「危なかったです!!」

 

 バックゾーンまで来た5人とペシペシハイタッチして喜びを分かち合う。

 

「……バックアタックはやっぱり2人来るっすね」

「それでもウチのコンセプト上やるしかないだろ。攻撃意識で負けちゃ駄目だ」

「今の俺の踏み込みが甘かったんだ。トスは最高だった。次も頼む」

「ウッス!」

 

 蛍がサーバーだから、翔陽が前衛に上がってくる。ってことでサイドラインまで行って交替だ。

 

「ブロックアウト狙ってくるからしっかりと力入れろよ!」

「分かった!」

 

 ハイタッチして翔陽と入れ替わったら、振り向いてコートに一礼。そして烏養コーチの所に。

 

「牛島にブロックアウト狙われたらさっきみたいに対処しよう。吹っ飛ばされるよりマシだ」

「はい。あと牛島選手の打点下がってるような気がします」

「だよな。このまま粘って消耗させよう。そんでスタミナはどんくらい残ってる自覚ある?」

「7割くらいです」

「そうか」

 

 ノヤ先輩に替えられる!? させーん!!

 

「3セット目は猫又に任せようとは思ってる。が、雰囲気が悪くなったら西谷と交替だ。ぶっ倒れても良いからしっかりやれよ!」

「はい!」

 

 この間に、蛍のサーブ権は牛島選手のブロックアウトで強引に切られてた。【14-11】。

 烏養コーチに小突かれてサイドラインで蛍と入れ替わる。

 

「ここ正念場だよ」

「分かってる。5点以上離されたくない」

 

 こっからのローテで点差離されると本当にまずい。……あ。

 蛍とハイタッチして、更にコートに一礼したらまず翔陽と飛雄を捕まえる。

 

「1回飛雄がセンター、翔陽がライトってやってみてくんない? 牛島選手のスパイクの時だけでも良いから」

「ブロックだよな?」

「そう。翔陽はオポジットみたいな感じ」

「分かった」「オッケ!」

 

 これで牛島選手のスパイクがコート中央に叩き付けられることは少なくなるはずだ。

 

「「「五色1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 飛雄の分前も警戒しつつバックライトで8番のサーブに備える。そのうち主審の笛が鳴って、8番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはライト側。しかもボールの軌道が低い。

 

「「「前!」」」

「……っ!! カバー!」

「「「影山!」」」

 

 案の定ネットインして真下に落ちてきた。予想着いてたからパパッと動いて、高く、ちょっと戻すような1本目を上げた。ブロックフォローに入らないと。でもセンター側には入れない。

 

「影山!」「バック!」「センター!」「バック!」

 

 飛雄のツーは使えない。でも、翔陽はAクイック、龍先輩は時間差、大地さんと旭さんはバックアタックの助走を始めてシンクロじゃないコンビを使う。

 

「繋護!」

「「「っ!?」」」「んえっ!?」

 

 飛雄が選択したのはまさかの俺。あ、でも4番がセンター寄りに移動してるからあっちのコートのレフト側のフロントゾーンのサイドラインに落ちるようにオーバーでちょん。4番と8番がフライングするけど間に合わなかった。

 ……決まったぜ。なんか複雑。【14-12】。

 

「お、おーっし!」

「「「……ナイス?」」」

「いやなんでだよ!?」

「完全フリーだったんで。やってみようかなと」

「影山おもれー」

 

 ペシペシハイタッチして取り敢えずウェイウェイする。1点ゲットだぜ。いやまさかだよな。あっちの牛島選手以外の5人「ぐぬぬ」って表情してる。どうも、リベロの猫又繋護でーす。1点取りましたぁー。

 

「常識にとらわれちゃ駄目だな。影山サーブな」

「はい!」

 

 ここで点数稼いでおきたい。旭さんとの位置関係に気を付けながらバックセンターで相手コートの様子を窺う。

 

「「「影山1本ナイッサー!!」」」

「強打来るぞ! 1本集中!!」

「「「オォーッ!」」」

 

 主審の笛が鳴って、飛雄がジャンプサーブを打った。狙いはバックライト側。

 

「「「五色!」」」

「はい!」

 

 ん~~っ! やっぱり白鳥沢で1年レギュラーだけあるな、あの8番。

 ボールはしっかりとネット際の3番に返っていった。

 

「瀬見!」「A!」「レフト!」

「若利!!」

「「「1番!」」」

 

 3番はライトにオープントスを上げて、俺はサイドラインに足がかかるまで。龍先輩と……あ。翔陽がライトで大地さんとアワアワしてる。飛雄が前衛の時だけだって伝えそびれてた。やべえ。

 

「「「ブロック1枚!」」」

「ふんっ!!」

 

 ドォォォォーン!!

 龍先輩の右手の横をボールが通過してフロントゾーンに落ち、観客席までバウンドしていった。【15-12】。

 若干戸惑ってるあっちのメンバーを見つつこっちはこっちで集まる。

 

「日向ボゲェ! 俺は後衛だ!」

「すいません!!」

「俺も『大地さんが前衛の時は普通にな』って言い忘れてました。すみません」

「はいはい! 試した結果なんだから引きずらない。日向も次は気を付けろよ」

「オス!」

 

 飛雄のサーブ権を無駄にしたのはちとでかいぞ。「ちゃんとローテ頭の中で確認しとけ」って烏養コーチに叱られそうだな。まあ仕方ない仕方ない。

 ……おっと? ここでサーバーの12番と7番が交替するっぽい。ピンサーか。7番も強いんだよなー。

 

「「「おっ。おっ。おっ。おっ。おっ、おっ、おっ、おっ、おっおっおっおっ。……いよーっし!!」」」

 

 コートに入ってきた7番を他の5人が出迎えて、7番はエンドラインまで向かっていった。

 

「「「湯野浜1本ナイッサー!!」」」

「ここ1本で切るぞ!」

「「「オォーッス!」」」

 

 ここで勝負かけてくるよな。俺でもそうするし。とりあえず5点差以上には離されたくない。

 ライトの龍先輩とバックライトの飛雄の分右に寄って7番からのサーブに備える。そのうち主審の笛が鳴って7番がジャンフロを打ってきた。狙いは大地さんと旭さんの間。

 

「大地!」

「俺が! ……くそ!」

 

 7番のサーブが取る直前で目茶苦茶変化して、大地さんがオーバーで処理しようとしたけど弾いてしまった。エンドラインを越えて追いかけるけど、あと1mって所でボールが落ちる。相手のサービスエースだ。【16-12】。

 

「「「ナーイサー!! か・い・せ・い!! もう1ぽーん!! もう1ぽーん!!」」」

「すまん!」「ナイファイ!!」

 

 先に16点取られたから2回目のテクニカルタイムアウトだ。ブザーが鳴り響いて、皆でベンチサイドまで戻っていく。烏養コーチに座るよう促されて、今試合に出てるメンバー6人はベンチに座らされる。

 

「びびってるか?」

「「「いえ!」」」

「なら良い。こっちの攻撃が通じてない訳じゃねえぞ。

そんで日向。さっきなんでブロックに跳ばなかった? ライトにいたのはなんでだ?」

「すいません! 影山が前衛の時にウシワカのスパイクが来たら影山がセンターでブロックに跳んでみようって繋護と話してました!」

 

 烏養コーチの視線が俺に来て、何度か頷いた。

 

「そういうことなら良い。ただローテは頭の中に入れとけよ。さっきのは日向のミスだ。次やったら成田と交替させるからな」

「オス!」

「良し。たった4点差だ。取り返せるぞ。

そんで烏らしく臨機応変に対応していこう。バレーIQも身につけてきただろ?」

「「「オォーッス!」」」

 

 伊達に座学やってきたわけじゃねえぞー! 龍先輩、ノヤ先輩、翔陽だって記録できるようになったんだからな!! ……バレー部ならできて当然? それはそう。

 

◆

 

 一方、白鳥沢学園男子バレー部一同もテクニカルタイムアウトを利用してミーティングを進めていた。

 

「5番と10番が前衛の時に点数を稼いでいくぞ。若利、いけるな?」

「はい!」

「あと烏野は軸に囚われない事をしてくる。いちいちあっちのやることに戸惑うなよ。ブロックアウトを出来ないんだったらレシーバーごと吹っ飛ばせ。それだけの練習はやってきただろ?」

「「「はい!」」」

 

 斉藤明がミーテイングを終わらせると、同時にテクニカルタイムアウト終了のブザーが鳴り響いた。

 

「良し、行って来い!」

「「「はい!」」」

 

◆

 

 テクニカルタイムアウトが終わって、バックライトで7番のサーブに備える。

 

「「「湯野浜1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 こっち打ってきて欲しいなー。こいやー!

 主審の笛が鳴って、7番がジャンフロを打ってきた。狙いはセンターとライトの間。しかも軌道が低い。

 

「はい!」「俺が!」

「「っ!?」」

 

 ネットインしてフロントゾーンにボールが落ちていく。でも翔陽と龍先輩がお見合いして硬直した。

 

「……飛雄!」

「オーライ!」

 

 飛雄がそのボールをワンハンドで俺の方に返した。上がったボールの高さが足りなくてジャンプトスは無理。翔陽と龍先輩は下がり切れてないし、大地さんも助走の準備ができてない。

 

「猫又!」

「旭さん!!」

「「「3番!」」」

 

 ここで打てるのはバックレフトの旭さんしかいない。ってことで、アンダーでバックアタックのトスを上げる。そしたらブロックフォローだ。

 ライトの牛島選手、センターの5番、レフトの4番の3人がガッツリブロックに付いてきて旭さんが打ち切ってくれるのを待つしかない。

 

「「「せーのっ!!」」」

「「「ブロック3枚!」」」

「っし!」

「ワンチ!」「ワンチ!」「ノー!」

 

 旭さんのスパイクは牛島選手の左手の薬指と小指、5番の右手の薬指と小指に当たって完全にチャンスボールとなった。

 

「「「チャンス!」」」「「「来るぞ!」」」

 

 今のうちにバックレフトに移動して、14番のリベロがいないから7番がチャンスボールの処理をする様子を見て次の攻撃に備える。ボールは後衛からセットアップに走った3番へと返っていった。

 

「瀬見!」「A!」「レフト!」

 

 ライトの牛島選手、センターの5番、レフトの4番がトスを呼ぶ。3番は後衛だからツーは考えなくて良い。

 

「若利!!」

「「「1番!」」」

 

 ここが点差離すのに良いローテだもんな!

 3番がライトにオープントスを上げて、俺はレフト側のサイドラインに足がかかるまで。龍先輩と助走をする翔陽の2人がブロックの態勢を作る。

 

「日向! 来い!」

「はい!」

「「ブロック2枚!」」

 

 集中力をぐっと引き上げて気持ちゆっくりになった視界の中で牛島選手のモーションをよく見る。

 

 助走――クロス。

 身体の向き――クロス。

 視線――ライト側を見た。

 スイング――クロス。

 ⇒インナー!

 

「ふんっ!!」

「ノー!」「ワンチ!」

「大地!」「大地さん!」

 

 牛島選手のスパイクは翔陽の右手の中指と薬指を掠めて軌道を変えてこっちコートのライト側のサイドラインを越えるように吹飛んでいく。大地さんなら取れるかって感じだ。

 

「っ! 影山!」

「はい!」

「影山! バック!!」

「東峰さん!」

「「「3番!」」」

 

 その場でジャンプした大地さんがワンタッチしたボールを触って、ボールが打ち上がる。龍先輩、翔陽、大地さんはスパイクの準備ができてない。となれば旭さんしかいない。

 飛雄からトスが上がって、バックセンターから旭さんがアタックの助走に入った。同時にセンターの5番にライトの牛島選手とレフトの4番が合流して3枚ブロックの態勢を整える。

ブロックフォローで前に詰めた。

 

「「「せーのっ!!」」」

「「「ブロック3枚!」」」

「っし!」

「ノー!」「ワンチ!」「ノー!」

「ぐえっ」

 

 旭さんのバックアタックは5番のドシャットされてこっちコートに返ってきて、ブロックフォローに付いてた翔陽の頭? 顔? に当たって誰もフォローできないネット下の方に落ちた。【17-12】。

 

「ビクトリィィィィ!!」

「「「ナイスブロック!!」」」

 

 くう~~っ、完全ドシャットくらっちったか。いやーな流れになってきたな。

 

「悪い!」「ごめんなさい!」

「しょうがないしょうがない! 次切り替えよう!」

「日向顔大丈夫か?」

「オス! なんとか避けました!!」

 

 旭さんと翔陽をペシペシはたいていると、タイムアウトのブザーが鳴った。武田先生がタイムを取ったらしい。

 ここはタイム取るべきだよね。俺でもそうする。

 皆でベンチサイドに向かっていって、ベンチに座らされた。ドリンク美味ぇー。

 

「ちょっとバタバタしてきてるぞ。慌てるなよ。落ち着いて1本取っていこう」

「「「はい!」」」

「成田と交替させてえけど、さっき木下と替わっちまったからな。ここ切るしかねえぞ」

「「「はい!」」」

 

 やっぱりこのローテが穴だ。早くサイドアウトしないとズルズルいく。

 

◎

 

 東京都にある井闥山学院男子バレー部もまた11月中旬に控えている代表決定戦に向けて練習をしている。

 そんな中、休憩を生かして猫又繋護と同じ庵里中学校を卒業したメンバーがマネージャーの元に駆け寄って烏野高校と白鳥沢学園の試合内容を尋ねた。

 

「試合どう?」

「白鳥沢が17点で烏野が12点。大分苦しくなってきたかな」

「オーダー違ってたしな。流石にって感じか」

 

 庵里中学校を卒業した3年の山城光弥や蔦原雄太、2年の向原建次と水科大喜、1年の角口淳人が矢沢聖奈の所に集まってタブレットを覗き込む。練習の邪魔になるためもちろん音量は出していない。

 

「10番のブロックが機能すればもうちょっとって感じだよな」

「というか、10番ミドル向いて無いっすよね」

「梟谷に行った猿杙とか木葉に聞くと10番初心者同然らしい。前衛は任せて、後衛に下がったら繋護を使うって感じだろ」

 

 同じ庵里中学校出身と言うことに加えて、私学大会などで梟谷学園の猿杙大和や木葉秋紀、片桐蒼太、穴掘秀一、尾長渉、夏目信典達と軽く話して烏野高校がどんな学校なのかをある程度共有していた。

 その為、庵里中学校を卒業したメンバーは烏野高校の部員全員の名前を言えるくらいには熟知している。

 

「…………」

「盗み聞きは良くないぞー、お前も話聞いてこいよ、聖臣」

「…………」

「めんどくせー。ほら行くぞ」

「……おい」

 

 白鳥沢学園には牛島若利が。烏野高校には猫又繋護が。

 両校に既知のメンバーを知っている佐久早聖臣は元庵里中学校のメンバーの会話を盗み聞いており、古森元也の手によって引きずられていく。

 

「おー、古森と佐久早か。繋護やべーぞ、牛島のスパイク普通に上げてる」

「小学校から頭抜けてましたからね。もしウチに来てたら俺も正リベロ取られてたかもです。身長も伸びてるっぽいし。

いやー、白鳥沢とも烏野とも戦ってみたいですね。来年の合宿ウチらも梟谷と長期合宿やりましょうよ」

「都内でお互いに情報晒してどうすんだっての」

「ですよね~」

 

 同じ東京都ということで、井闥山学院と梟谷学園はインターハイ予選や春高予選でほぼ毎回対戦している学校だ。それ故に練習試合をしてお互いのチーム状況を見られるということを避けていて、ここ数年2校での練習試合はほとんどない。

 

「…………」

「繋護、高校卒業したら実家戻るって言ってるので、大学は同じ所行けるんじゃ無いですか? ウシワカのスパイク拾えるって分かったからスカウトも来るでしょうし」

「……白鳥沢が勝っても烏野が勝っても、どっちかとは対戦出来ねえんだよな」

「……佐久早さんもそういうこと考えるんですね」

「どういう意味だ、てめえ」

「何でも無いでーす」

 

 普段なかなか自分の事を話さない佐久早聖臣がセンチメンタルなことを言いだして驚き、ついつい角口淳人は軽口を叩いて睨まれた。

 そして、丁度このタイミングで休憩終わりのブザーが響く。

 

「おーし! スリーメン!!」

「「「いよーっし!!」」」

 

 キャプテンの飯綱掌が号令をかけて、井闥山学院男子バレー部は自分達の練習を再び始める。この瞬間彼らの頭には自分達の練習しか頭になかった。

 

◎

 

 タイムアウトが終わって、バックライトで7番のサーブに備える。

 

「「「湯野浜もう1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!!」

「「「オォーッス!」」」

 

 こっち打ってこいやー!!

 主審の笛が鳴って7番がジャンフロを打ってきた。狙いは翔陽狙いの軟打。残念だったな!

 

「繋護!」

「オッケ!」

 

 翔陽が避けて、俺がオーバーで処理する。完璧。

 

「レフト!」「バック!」「影山!」「ライト!」

 

 レフトの大地さん、バックセンターに移動した旭さん、センターの翔陽、ライトの龍先輩の4人がトスを呼んで同時に助走を始めてシンクロ攻撃に移る。ここは確実に。

 

「おねがいします!」

「「「5番!」」」

 

 飛雄が選択したのはライトの龍先輩。ライトのアンテナに向かって速い平行トスが伸びていく。

 

「ワンチ!」

「五色!」

「……くそ!」

 

 ……良し! 龍先輩のスパイクは4番の左手の指先に当たってコート外に落ちていった。ワンタッチでこっちの点だ。【17-13】。

 

「シャアっ!!」

「「「ナイスキー!!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。なんとか切れた。よしよし。

 そして、ピンチサーバーで出た7番と12番が交替し、12番と14番のリベロが入れ替わった。

 

「「「田中1本ナイッサー!!」」」

「おーし! 任せろ!!」

 

 ここで点差縮めたい所だぞ。お願いしますー、龍先輩。

 バックレフトで相手コートの様子を窺う。そのうち主審の笛が鳴って、龍先輩がジャンプサーブを打った。狙いは前衛の5番とセッターの3番がいて手薄になってるレフト側。

 

「「「五色!」」」

「はい! ……カバーお願いします!」

 

 乱した! でも乱しただけで終わりそうだ。軽々と3番が追いついてトスを上げようとする。

 

「若利!」

「「「1番!」」」

 

 だよな。ライトの牛島選手に二段トスが上がって、俺はレフト側のサイドラインに足がかかるまで。旭さんと助走をした翔陽の2人がブロックに跳ぶ。

 

「「ブロック2枚!」」

 

 集中力をぐっと引き上げて気持ちゆっくりになった視界の中で牛島選手のモーションをよく見る。

 

 助走――クロス。

 身体の向き――クロス。

 視線――翔陽の右手側。

 スイング――クロス。

 ⇒クロス!

 

「ふんっ!」

「ノー!」「ワンチ!」

 

 んんっ!?

 翔陽の左手に当たったボールは旭さんの右腕と翔陽の左腕の間を通ってこっちの方に吹っ飛んできた。カバーできるボールだ。

 左腕を伸ばしたまま前に飛び込んでボールを打ち上げた。汗のせいかペンギンみたいにヌルッと滑るし。……いてっ。支柱に顔の左側掠めた。しかもマジックテープでガリってやった気がする。

 

「カバーカバー!」「影山!」

「はい!」

 

 立上がってブロックフォローに入らないと。……おお? なんか左顔に違和感?

 

「レフト!」「センター!」「バック!」「ライト!」

 

 レフトの旭さん、センターの翔陽、バックセンターの龍先輩、ライトの龍先輩の4人がトスを呼んで同時に助走を始めた。

 

「いけっ!」

「……ちっ!」

 

 Aクイックの助走をしていた翔陽がいきなりCクイックに跳んでそのままズドン。やったぜ。【17-14】。

 

「よっしゃー!! ……繋護っ!!」

「んお?」

「血! 血出てる!!」

「えっマジ?」

 

 翔陽の悲鳴が重いの他響いて、皆がジロジロと見てきた。

 顔の左側かなって思って触ろうとしたけど旭さんに止められた。

 

「多分擦った感じだな。ふらつきとかは?」

「大丈夫です」

「一旦コーチの所行って来い」

「…………」

 

 いやだーって顔したんだろうな。旭さんと龍先輩に背中押された。しかも蛍とノヤ先輩も準備してるし。

 

「プラン変更だ。西谷! 雰囲気変えてこい!!」

「オッシャ! 任せて下さい!! てめーら!! 背中は俺に任せろ!!」

「「西谷!」」「ノヤっさん!」「「西谷さん!!」」

 

 くそー、まあ仕方ないか。ボールに血が付いてないと良いけど。血が垂れてるって感じでも無いだろうし。

 

「あ、結構滲んでる」

「そんな? 仕方ねえかー、くそー」

 

 まず蛍とサイドラインで替わって、コートに入った蛍がノヤ先輩と替わった。振り向いてコートに一礼したらまず烏養コーチに顔を見せる。

 

「ジワッと来てる感じだな。目眩とかは?」

「いえ、大丈夫です」

「まあ、血が止まるまではしゃーないな。武田センセと清水に見て貰え。どっちかというと腕冷やした方が良いかもしんねえ」

「はい」

 

ベンチサイドで救急箱の中身を取り出してる武田先生と清水先輩の方に行く。

 

「顔見せて」

「すいません、お願いします」

「とりあえず血を拭いましょう。顔を打ち付けたって感じには見えなかったんですけど、自分ではどうですか?」

「マジックテープでひっかいたような気がします」

「なるほどなるほど」

 

 立ちくらみがあるとかそういう感じはない。ただヒリヒリしてもやっとする感じ。清水先輩にガーゼを押しつけて貰う。……龍先輩、ノヤ先輩、試合に集中して下さいね?

 

「悪いセンセと清水。腕の方があれだ。冷やした方が良いかもしんねえ」

「え? 猫又君」

「……はい」

 

 アームスリーブを下げると、紫色に変色している両腕を2人に見られた。

 

「っ。……痛くないですか?」

「バレーやってればよくあることですね」

「牛島君達のスパイクを受けていたらこうなるのも無理はないか。分かりました。それでは氷嚢もやっておきましょう」

「色々すみません」

「こういう時のためにRICE処置とか勉強しましたから」

「「ありがとう御座います」」

 

 いやホントありがとう御座いますとしか言いようがない。ジャージを着させられて2人に色々やって貰う。氷嚢冷てー。でも気持ちええなー。

 

「「「ナイス田中!!」」」

 

 この間に龍先輩がサービスエースを取って【17-15】、でもサーブをミスって【18-15】。

 

「縁下! 頼むぞ!」

「はい!」

 

 守備強化、かつ龍先輩のスタミナ回復の為に力先輩がコートに入っていった。

 

「潔子さん! 俺にもカイホーお願いシャス!」

「……先生、学力が上がるような薬って売ってますかね」

「潔子さん!?」

 

 やべ、ウケる。笑うな。笑うなよー。

 ガーゼを離してみたら血は止まってるっぽかった。消毒と絆創膏を貼って貰って、お礼を言ったらウォーミングアップゾーンへ戻る。

 

「大丈夫か?」

「掠り傷だったので。スタミナ回復したらまたコート出ますよ」

「オッケーオッケー、ねこも休憩しとけ」

「はい」

 

 スガさんとそんな話をして応援する。

 

「すまん!」

「「「ラッキーラッキー!!」」」

 

 良かった。牛島選手がサーブをアウトにして【18-16】。なんとか点差を縮められている。

 そして、翔陽のサーブ権がきて蛍を皆で送り出した。蛍と交替したノヤ先輩がこっちまで戻ってくる。

 

「西谷絶好調だな!」

「ウシワカスタミナ切れてきてるっぽいんで。俺も活躍しないとな!」

「「「ドンマイドンマイ!」」」

「西谷行って来い!」

「おうよっ!!」

 

 牛島選手のバックアタックが決まって【19-16】。サーブを終えた翔陽がノヤ先輩と交替して、烏養コーチと一言二言話したら戻ってきた。

 

「「「ウェーイ!!」」」

「ウェーイ!!」

 

 翔陽は一仁先輩からタオルを受け取って顔やら腕の汗を拭い始めた。相手のサーバーは4番。

 

「「「大平1本ナイッサー!」」」

「1本集中!」「「「ここ切れー!!」」」

 

 ウォーミングアップゾーンから応援していく。血が止まったからいつでも出られるぜよ。ぜよぜよ。

 

◇

 

 アクシデントで烏野高校のリベロが猫又繋護から西谷夕に替わったときは戸惑いの雰囲気となっていたが、それでも烏野高校の応援団は声援を送っていた。

 その中でも猫又真緒や猫又美緒、込田彩音、込田彩歌、影山美羽、日向夏達は特に張り切っている。

 

「「「烏野ー!! 頑張れー!!」」」

 

 烏野高校が点を取れば大いに喜び、点を取られてもため息をつかないように必死に口を押さえる。

 家族に部員がいる者、烏野高校男子バレー部のOB、烏野町内会のメンバー、烏野高校の教職員や生徒達が白鳥沢学園の声援に負けないように必死で声を上げ続ける。

 彼らの胸中は「勝って全国に行って欲しい」というもので溢れていた。

 

◇

 

 3セット目が終わった。【25-22】で白鳥沢の勝ち。これで2セット取られたことになる。もう後が無い。

コートにいる大地さん、旭さん、スガさん、龍先輩、飛雄、翔陽の6人はコートの右側から。ウォーミングアップゾーンの俺達はボール籠とか救急箱を持って白鳥沢の応援席側のコートへと向かっていく。

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