身体測定やら教科書販売が終わると、血相変えた若林先生に捕まった。あー、これ。
「ね、ね、猫又君!」
「はい、どうされました?」
「昨日の緊急連絡先見て分かったんだけど、猫又君のお爺さんって烏養一繋先生なの!?」
「はい、そうですよ。祖父ちゃんも若林先生の事知ってました」
祖父ちゃんに聞けば、若林先生が高校生の時のクラス担任で、在籍してた家庭科部が男子バレー部のサポートをしてたとか。当然祖父ちゃんと若林先生が同時期に烏野で働いていた時もある。
祖父ちゃんと顧問の武田先生、繋心兄ちゃんの3人が家庭科部に協力してくれるよう頼んでるらしい。
「いやー、烏養先生には何かとお世話になってたしねー。……あとさ、〝猫又〟って音駒の監督のお名前だったよね。もしかして……?」
「はい、若林先生の想像通りです。猫又育史は父方の祖父で、烏養一繋が母方の祖父になります」
「やっぱり! 20年以上前に、烏養先生が『俺の娘が猫又の息子と結婚するだとぉ~!?』とかって荒れてた時期が合ったんだよね。いやー、懐かしいな」
……何やってんだ、祖父ちゃん。いや、父さんと母さんが結婚するって聞いて祖父ちゃん2人と音駒高校と烏野高校の男子バレー部でちょっとざわついてたらしいけどさ。父さんと母さんだけが蚊帳の外だったとか。
「ゴミ捨て場の決戦実現に向けて頑張ってね! 家庭科部を動かせるかはまだなんとも言えないけど、私個人としては協力をを惜しまないつもりだからさ。ゴミ捨て場の決戦見たいし。応援してる!」
「ありがとうございます! お願いします!」
「うんうん。
教師としては問題事を起こさない。ちゃんと進級する。……他にも色々有るけど、最低限この2つを守ってくれれば大丈夫だから。私の方こそ宜しくね。そんな訳で部活頑張っておいで」
「はい!」
そんなわけで、部活に現を抜かして留年! なんてことにならないように頑張ろう。あとトラブルを起こさない。推薦取れるように勉強も頑張る。良ーし。
それに、「烏養一繋の孫が烏野に入学した」って先生の間で広まってて、祖父ちゃんと一緒に働いた事がある先生方が若干ざわざわしてるらしい。
「おー、君が烏養の孫かー。繋心には似てないなー」なんて何度言われたことやら。取り敢えず烏の方の祖父ちゃんの顔に泥を塗らないように学校生活頑張らないとな。
……あと、なんだかんだで男子バレー部の復活を期待してるっぽい。そりゃあ学校のメンツとしても「○○高校ならあれ!」って誇れる何かがあるといいよね。
俺が体育館に着いたときには既に翔陽と影山君が準備していた。……早くね? しかも説教されてるし。
「昨日も言ったけど、バレーボールはお互いに協力しないと勝てない球技だ。自分勝手な行動は慎むこと。分かってるな?」
「「はい!」」
キャプテンと烏養コーチ、スガ先輩の3人が目を光らせて翔陽と影山君は若干やりづらそうにしてる、気がしなくも無い。
あと、翔陽と影山君の2人の他に見慣れない顔が2つあった。
「1年4組の月島蛍です。バレー部入部希望です、よろしくお願いします」
「同じく1年4組の山口忠です。自分もバレー部に入部しようと考えています。宜しくお願いします!」
「「「宜しく!」」」
4組。つまり5組と同じ進学クラスの月島君と山口君も仮入部に参加していた。
月島君は180cm後半で山口君は180cm前半位か。月島君は梟谷に進学した渉とか1つ下のケビンと同じくらいだ。そういや、「烏野行きます!」ってケビン言ってくれてんだけどどうすんだろ。……この1年で決めるか。なんかあったら連絡しよう。
あと「何で〝コート上の王様〟がいるのさぁ~?」って影山君に絡んでたけど、〝コート上の王様〟って何だ? 取りあえず言えるのは、チームメイトを大事に出来ないなら集団スポーツに向いてないと思う。
「日向ー、ちょっと来い」
「あっ、はい!」
不穏な空気の中で若干ぴりついてる中烏養コーチと翔陽が2人で端っこに移動してた。
「自分が怪我をしない。誰かに怪我をさせないって意味できちんとバレーのルールの把握と基礎を身につけねえといけねえ。まずはオーバーとアンダーをしっかり出来ること。フォームから確認していくぞ」
「はい!」
翔陽の話だと、中学ではバレーをやる環境に恵まれて無かったらしく、ほぼ初心者と言っても良いくらいだ。その為に経験者とは別のメニューでボールに触ってる。こればっかりはしょうがない。翔陽下手っぴだし。
一般的に、強豪校で4月5月は基礎を中心としたメニューなのは受験とかでブランクがある中、いきなりハードな事をさせてもついて行けなくて怪我をする可能性を十分知っているから。中高一貫校とか私立だとスポーツ推薦で入学が決まった中学生は12月とかから参加してるけど。例えば井闥山とか梟谷、白鳥沢とかね。
烏野はただでさえ3月のうちから入学が決まった中学3年生が部活に参加してないんだから、他の高校よりも出遅れてる。
でも、焦って怪我をするのは絶対に駄目。
「今の良いぞ。しっかりとフォームを身体で覚えていこう」
「はい!」
翔陽はオーバーもアンダーも拙いし、サーブとブロックも微妙。ただ、身長にしてはジャンプ力があって305cmの高さであるバスケットボールのゴールを楽々掴んでた。最高到達点としては320cmとかそこら辺か。すげー、あれで身長が伸びて経験積めば3年次にはエースだって可能じゃないか?
ま、それはそれ。基礎ができてなかったら、人数少ないからってユニフォームを配られることは無いんだから。しっかりと基礎を身につけろー。
……人のこと言えないな。俺も頑張っていこう。
今日の仮入部が終わって1年5人だけで着替えているけど、すんげえギクシャクしてる。主に月島君と影山君が。
その2人を放置して翔陽と山口君の3人で会話が進んでいた。
「繋護って千葉県出身なんだろ?」
「そうだよ」
「ディズニー行ったことある?」
「あるよ。なんと家から20分かからないくらいです」
「「マジ!? 良いなぁ……!」」
千葉県にあるのに東京ディズニーランドと東京ディズニーシー。なんでやねん、そこは千葉ディズニーランドと千葉ディズニーシーにせえや!
なーんて、心の中で突っ込みながら2人との会話は弾んでいく。
「宮城にいるとさ、やっぱり東京って遠いんだよなー」
「新幹線で仙台から東京まで2時間くらいだから実際にはそこまで遠いとは感じないよ、慣れちゃえばね。
……まあ、お金もかかるから気軽にいける距離じゃ無いのはそう」
「今度泊まらせて!」
「千葉に来るときは是非。……姉と妹の許可も必要だけどね」
「へー! 俺も妹いる!」
「俺は一人っ子だー」
あー、言われてみれば翔陽は兄っぽい。何というか今の所子供っぽさが目立ってるけど無意識に適切な距離を感じ取ってるというか。
山口君は兄がいそうって思ったけど一人っ子だったんだ。読み間違えたぜ。
「影山と月島は?」
「……俺は姉がいる」「君に教える理由は無いと思うけど?」
「はぁん!? 良いだろ!!」
「嫌でーす」
翔陽が月島君にプリプリしてるのを見ながら、影山君に姉がいるってのは言われてなんとなく分かった。だって、姉に飼い慣らされた弟っぽさを感じたから!!
姉って2人目の母親なんだよな。俺の場合、妹もいるからしっちゃかめっちゃか。
……にしても、月島君は誰かに弱みを見せたくないのか、プライドが高いのか。ぶっちゃけ捻くれてる。こりゃ面倒くさい。
「行くよ山口。じゃあね、王様」
「あ、うん。んじゃ、また明日」
「おー」「またな!」「……っ!!」
先に着替え終わった山口君と月島君が更衣室から出て行って、俺達は見送る。
「〝王様〟って何だ?」
「うるせえ! 日向ボゲェ!!」
「なっ! なんだよぉ……!」
うーん、この5人で大丈夫か?
11日は制服着こなしセミナーとSNSの利用法、12日には中学校の復習と今後のレベル別の授業に振り分けられる実力テスト、13日には図書館の利用を確認して1週間が終わった。
入学してからの1週間はどこの学校だってオリエンテーションの連続になるだろう。中学の同級生も似た感じだって連絡来たし。
そして、この1週間仮入部の1年生もちらほらと来てたけど、結局翔陽と影山、山口、月島と俺の5人だけが本入部する。うーん、少ない。
祖父ちゃんが監督をしてた時の「今年の新入部員は13人だったぞ」だとか「マネージャー希望2人入れて14人入った」とかって教えて貰った時とは雲泥の差だ。
庵里でも一学年12人前後の全学年30人を越えていたから尚更少なく感じる。まあ、それでもやっていくしか無い。
ベンチに入れるのは14人だから、今は全員ユニフォームを着てベンチに入れることも決まってる。……烏養コーチがそれを許すなら。
「おし、じゃあ3対3やるぞー」
「「「はい!」」」
一通り練習を熟して、最後の1時間位を使って本入部が決まった1年生の実力を見るための3対3をやる。……まあ、この1週間で何となく分かってるけど。
俺は山口と月島と同じチーム、翔陽と影山の方には田中先輩が入る。この3対3からユニフォームを着られるか、試合に出られるかってアピールは始まってる。「毎日がトライアウトだって思え」って言うのが中学での教えだった。
コートに別れて烏養コーチの話を聞く。
「良し、じゃあこれから3対3な 。
1セット15点で3セットマッチ。ただ、デュースは無し。あとフロントゾーンへのフェイントも無し。ネットインして落ちたボールはインとしよう」
「「「はい!」」」
んー、フェイントでフロントゾーンを狙うのは駄目なのか。まあやりようはある。
「とりあえず1セット目はこれでいく。様子を見て2セット目以降は変えていくかもな。ま、やってみよう」
「「「はい!」」」
こっちコートには俺と山口と月島。ネットを挟んだあっち側のコートに翔陽と影山、田中先輩が入った。
主審の成田先輩が試合前の挨拶を知らせる笛を鳴らして、ネット際で相手コートの3人と挨拶する。
「「「お願いします!」」」「「「お願いします!」」」
「化け猫覚悟!」
「よろしくお願いします」
田中先輩と握手をして――。痛い痛い、止めてー。……はー、握りつぶされるかと思った。
まず月島と影山がジャンケンしてサーブ権を決める。
「「ジャンケン、ポン」」
月島はパー、影山はグー。つまりこっちからサーブだ。
「僕の勝ちー。ジャンケンは弱いのかな? お・う・さ・ま?」
「……それ止めろって言ってんだろうが」
「んー? 聞えなーい、何か言ったぁー?」
「テメェ……!」
「ほーら、せっかく試合するんだからそういうの無し無し。バレーで白黒付けなさいよ」
「流石です、大地さん!」
「田中も先輩なんだからな?」
結局、なんで影山が〝コート上の王様〟とか〝王様〟って呼ばれると苛つくのかは分からなかった。ただ烏養コーチは知ってるっぽい。
でもな、月島。チーム競技なんだからチームメイトを大事にできないならバレー向いてないぞ? 翔陽と影山もちょっと自己中な言動が目立つけど、月島の積極的に人を傷つける言動の方がもっとやばいと思う。今まで誰かに指摘されなかったのか? ほーら、烏養コーチも「むむっ」って感じで睨んでるし。
これは後で怒られるな。ドンマイ。
「猫又からサーブ」
「オッケー」
「猫又、ナイッサー!」
「ナイサー」
ま、【勝てば官軍、負ければ賊軍】ってあるように言いたいことがあれば勝てば良いんだよな。よーし。
山口がレフト、月島がセンター、俺がライトってざっと振り分けて、俺からサーブだ。
あっちはライトから翔陽、センターが影山、レフトが田中先輩って所だ。……それにしても編成歪だな。ミドルブロッカー2人とリベロ。片やセッター、アタッカー1人ずつに初心者1人。山口あたりはコンバート勧められそう。
「んじゃあ? 大きい方と小さい方、どっちから潰、……止めようかー?」
「「「あぁん!?」」」
「き、聞えちゃうよ!」
「聞かせてんだよ」
…………おお、一瞬にして空気が悪くなった。やべー、月島性格悪すぎ。思うところはあるけど、今はこの試合に集中しよう。俺は俺の仕事をやるだけ。早くユニフォーム着て公式戦でたいし。おーし。
「猫又ボール」
「ありがとうございます」
副審の清水先輩からボールを受け取ってライト側のエンドラインに立つ。公式戦で出して貰えるようにどんどんアピールしていこう。
「「「サッ、来ーーーーい!」」」
狙いは田中先輩。田中先輩を崩して翔陽に打たせる。そして月島がドシャット。なーんて簡単な勝ち方なんでしょうか。
主審の成田先輩の笛が鳴った。両手でボールを放って利き腕の左手の母指球と子指球の辺りでボールを押し出す。いわゆるジャンプフローターサーブ。その中のランニングサーブって呼ばれてるサーブだ。女子がよくやる。
……んー、ちょっと微妙か?
「「田中さん!」」
「俺かよ! ……クッソ!」
田中先輩がオーバーで処理するけど、ネット際の影山には返らずにその場に高く上がる。
良し、乱した。影山は誰で来る?
「ライト!」「影山! レフトもってこい!」
「分かりました! 田中さん!!」
ネット際にいた影山がボールの落下地点まで走って行って、そこからレフトにオープントスを上げる。相変らずめっちゃ綺麗だ。庵里に影山がいれば全国制覇できたんじゃないかって位。本当にやべーな、影山。
「ツッキー!」
「分かってる!」
同じくネット際にいた月島がライト側に移動してストレートコースを防ぐ。山口はインナー寄りのレフト、俺はバックセンターで田中先輩のモーションをよく見る。
助走――ストレート。
身体の向き――ストレート。
視線――月島の右手を確認した。
スイング――ストレート。
⇒ブロックアウトを狙ったスパイク!
「オラ!」
「ワンチ……!」
読みが当たって、田中先輩のスパイクは月島の右手に当たってライト側のサイドラインを大きく越えて2階の壁に当たった。ワンタッチで相手の得点になる。【0-1】。
「「田中さんナイスキー!!」」
「シャァ!! どうだ月島! 止めるんじゃなかったよ!! 止めて見やがれ~!!」
「どうだどうだ! やってみろや!」
田中先輩と翔陽めっちゃ煽ってくるなー。
「~~っ! ちっ」
「ツッキー、ドンマイ!」「ドンマイドンマイ」
んー、点数稼いでおきたかったけど仕方ない。俺のサーブも悪かったし。
そして相手のサーバーは翔陽だ。
「日向1本!」「ちゃんと入れろよ!!」
「わ、分かってるよ!」
今までの練習を見た感じ、まだまだサーブも初心者の域を出てない。ネットインも警戒しないと。
成田先輩の笛が鳴って、翔陽がサーブを打つ。……でもネットに引っかかった。【1-1】。
「日向ボゲェ!! 入れろって言ったろうが!」
「すいません!!」
強いチームはサーブに力を入れてる。全体的にサーブの強化は必要そうだ。……というか、先輩含めてジャンフロかジャンプサーブのどっちかすら打ってない現状は大分まずい。サーブの強化は必須だ、とか烏養コーチは考えてるだろうな。俺でもそうするし。
ま、それはいいや。
「ツッキー、ナイッサー!」「ナイサー頼むぞー!」
「フォロー頼むよ」
「うん!」「あいよ」
こっちチームがサーブだから、2番目の月島がエンドラインまで下がる。1本で返されることも考えて前の警戒もしつつ様子を窺う。
成田先輩が笛を吹いて月島がフローターサーブを打った。狙いは翔陽。
「「日向!」」
「ほぎゃ!?」
拾った。……ぶつかった?
なんとか触ってボールがその場に上がる。そして影山がセットアップに走った。
「レフト!!」
「……田中さん!!」
「レフトレフト!」
またレフトにオープントスが上がる。月島がストレートコースを塞いだから俺はバックセンターで構えた。
集中力を引き上げて田中先輩のモーションをよく見る。
助走――クロス。
身体の向き――クロス。
視線――眼が合った。
スイング――クロス。
⇒バックセンター。俺の方!
「オラ!」
「ノー!」
ドライブがかかった田中先輩のスパイクが月島の左手の横を通って伸びてくる。パパッと動いてボールの進路に両腕を伸ばした。衝撃が両腕から伝わってくる。
「「ナイスレシーブ!」」
「……クソ!! まじで化け猫!」
全身でボールの勢いを殺してレシーブに成功した。ボールがふんわりと上がる。俺だって後衛選手だからバックアタック打たないと。まだラリーは終わってない。
「ツッキー! B!」「バック!」
「山口!」
「日向ブロックしろ!」
「っ!」
月島がBクイックに入った山口にトスを上げて、山口が翔陽と遅れてブロックに跳んだ影山の上からボールを叩き込んだ。あっちコートのライト側は完全にフリーだから決まる。【2-1】。
「よし!」
「ナイスキー!」「ナイスー」
ウェイウェイ言いながらハイタッチしていく。……なーんで月島は影山と翔陽にあたり強いんだろうな。
「猫又もナイスレシーブ」
「流石音駒の関係者」
「上には上がいるからこのままで良いだなんて思わないけどね」
「向上心たけー。……あ、ツッキーもう1本ね」
「ん」
さーて、このまま突き放しちゃいましょ。
「ツッキーもう1本ナイッサー!」「もう1本!」
「次取るぞ!」
「「はい!」」
成田先輩が笛を吹いて、月島がもう1回フローターサーブを打った。でも田中先輩がしっかりと処理してボールがネット際の影山に返っていく。
「ライト!」「レフトォ!」
ライトの翔陽とレフトの田中先輩、さあどっちで来る? それともツーか。
「日向!」
「やったれ日向!」
ライトにオープントスが上がって、山口と月島の2人がブロックについた。取りあえずブロックアウトを警戒してバックセンターで構える。
「「せーのっ!」」
「「ブロック2枚!」」
「オシッ!」
「ノー!」「ワンチ!」
翔陽のスパイクは月島の左手に当たってドシャット。影山はカバーしようとするけどその前にボールが落ちた。どっちもネットタッチはない。【3-1】。
「ナイスツッキー!」「ナイスブロック!」
「ん」
こっちはこっちでハイタッチをしていく。
「すいません!」
「次決めろよ日向!」
「オス!」
コースの打分けもブロックアウトを狙う技術もまだ身に付いてないからブロックして貰えば翔陽は大丈夫。問題は田中先輩だ。ワンタッチをとるかなるべくコースを絞らせないと対処できない。
っておい。月島はよぉー。
「君ホントよく跳ぶねぇ~? これで身長があと30cm有ればエースになれるよぉ? 人には向き不向きがあるんだからレシーブ頑張ったらぁ? ……ま、猫又がいるからリベロも厳しいかもねぇ?」
「~~っ! 影山、もう1本!!」
「当たり前だ! この程度でびびってんじゃねえ!!」
2人をおちょくって楽しいのか月島は機嫌が良い。自分のサンドバックにするのがそんなに楽しいのか、そうですか。
んー、結局なんで月島って翔陽と影山に突っかかるんだ? よく分からんねぇ。こういった態度も評価されてるぞ~?
「サーブもう1本!」
サーブ権は切れてないから月島のサーブだ。性格はともかくゲームメイク自体は割と得意そう。
「「「サッ、来ーーーーい!」」」
成田先輩が笛を吹いて月島がフローターサーブを打つ。そのボールはネットに当たってフロントゾーンに落ちていったけど、影山が1本目を触った。
「田中さん! お願いします!」
「オッケ! 日向、リベンジだ!」
「はい!」
影山は田中先輩の方に1本目を上げて、そのボールを田中さんが二段トスでライトの翔陽に上げる。さっきみたいにレフトの山口とサーブから戻ってきた月島がブロックについた。
俺は取り敢えずブロックアウトにも警戒しつつバックセンターよりで構える。
「「せーのっ!」」
「「ブロック2枚!」」
「っ!!」
「ワンチ!」「ノー!」
今度は山口の右手に当たってドシャット。影山が触るけどボールがネット下からこっちのコートにきて月島の足に当たった。月島が「あぁん?」って感じで影山を睨む。
ま、何はともあれこっちの点数だ。【4-1】。
「おし!」
「ナイス山口」「ナイスブロック!」
良いね、ナイスブロックだ。ハイタッチしてペシペシやる。
そんな時に「ああ、もうっ!!」ってフラストレーションを溜めてる翔陽を宥めつつ影山が「すいません、タイム取っても良いですか?」って烏養コーチに聞いた。
「ん? ああ、1セット2回までなら良いぞ。色々作戦話し合ってけ」
「ありがとう御座います!! 清水先輩タイムお願いします」
「ん」
そんなわけでタイムになった。こっちはこっちで集まる。
「今のままで良いと思う。
ぶっちゃけ田中先輩に打たせてブロックアウトとか狙われるくらいなら、3本目を翔陽に打たせてブロックで仕留める方がこの3人なら有効かな」
「あと〝王様〟が打ってこないって決まったわけじゃ無いよね」
「ツーもあると思っていこう」
「オッケーオッケー」
基本的にはそれでいく。後は色々と修正していこう。
◆
一方、影山飛雄、日向翔陽、田中龍之介の3人もタイムアウトで話し合いを始めていた。
「すいません、俺ブロックに捕まりっぱなしで……!」
「気にすんな気にすんな。もっと上手くならねえとな。つってもこのままだと負けちまうぞ。影山、どうする?」
若干意気消沈しかけている日向翔陽を田中龍之介が励まして、これからの打開策を影山飛雄に尋ねた。
「それなんですけど……。
日向、お前速攻は分かるな? 中学の時ブロードやってたし」
「んん? Aクイックとかってこと? ブロードって何だっけ?」
「ああ!? 知らないでやってたのかよ!! ……まあいい。
打ち分けだとかブロックアウトだとかお前はまだまだだ。でも、お前のその優れた反射神経とスピードでブロックを躱して全力で跳んでスイングだ。ボールは俺が持っていく。お前はブロックがいない方に走れ」
「何言ってんだ、お前」
つまり、サインも無しに日向翔陽の最高到達点に影山飛雄がピンポイントでトスを上げるなどと訳の分からないことを言い宣った後輩を見て、田中龍之介は思わず爆笑する。
「…………んはははは! 面白えこと考えるな! 影山!! 良いぞ、色々やってみろ! 俺にボールくれればいくらだって点決めてやるよ!」
「でも繋護に拾われちゃってますよね」
「おい日向てめえ!!」
「ギャー、すみません!!」
図星を突かれた田中龍之介が日向翔陽を絞めて、その間にも影山飛雄が続けた。
「あと田中さんってバックアタック出来ますか?」
「んお? まあできなくもねえぞ」
「分かりました。
おい日向、レフト、センター、ライト全部使え。3対3だからできる代物だけど、9mの幅全部がお前の領域だ。ブロックを躱して全力ジャンプでスイング。分かったな?
そうすればあの陰険メガネの頭の上を打ち抜ける」
「お? おお! やってみる!」
「月島~! 覚悟しとけよ!」と日向翔陽が意気込んで、タイムアウトは終了した。
◆
田中先輩が爆笑してたけどなんだ? なんかやってくるな。月島と山口もいやーな顔であっちコートを見てる。
「警戒しとこう。あともう1本ナイッサー」
「ん」
「ツッキー、もう1本!!」
「「「サッ、来ーーーーい!」」」
月島がボールを持ってエンドラインに向かっていった。
そして、成田先輩が笛を吹いて月島がフローターサーブを打った。
「田中さん!」
「オラよ!」
月島のサーブを田中先輩が拾ってボールがネット際の影山に返っていった。ボールと同時に同時に翔陽も動き出した。つまり速攻。ライト側だからC、Dクイック、あと平行か。
「山口!!」
「オッケ!」
エンドラインからネット際に戻っていく月島と山口が翔陽を止めようとレフト側に移動してブロックの態勢を整えていく。
「今だ!」
「「「っ!?」」」
翔陽はDクイックに跳ぶと見せかけたけど、フェイントをかけて今度はレフト側に走って行った。何じゃこれ!?
「持ってこーい!!」
「いけっ!!」
Aでもない。Bか平行トスって感じに翔陽がジャンプして、翔陽に合わせて影山もジャンプトスをした。月島と山口はライト側に移動してるけど間に合わない。ま、俺はいるけどな。
今までの練習から翔陽は身体の向きそのままスイングすることは分かってるから、翔陽に合わせてサイドステップして翔陽のモーションをよく見る。
助走――レフト側へのブロード。
身体の向き――上半身だけこっちコートを向いてる。
視線――目を瞑ってる。……んんっ!? 目を瞑ってるぅ!?
⇒エラー。測定不能。
「っ!?」
突拍子も無いことに動揺してちょっと動きが遅れた。その間に最高打点にトスが来て翔陽が全力スイング。手のひらにピンポイントに当たってすっげえ良いスパイクがこっちコートのバックライト側に突き刺さった。飛び込んで触ったけどボールはあらぬ方向に吹っ飛んでいく。【4-2】。
……やべー、変なもの見ちまったぜ。つーか、今取れるボールだっただろうがよ。何してんだ俺。
「悪い」
「大丈――」「――手に当たったぁ!!」
山口に励まして貰ってる途中に翔陽が叫んでついついあっちコートを見る。
「『手に当たる』って何だ日向ボゲェ!!」
「…………事実だぞ、影山。今日向ジャンプしてからスイングするまで目を瞑ってた。猫又も見ただろ?」
「「「はぁっ!?」」」「え、ええ……」
キャプテンも見てたのか。いや本当に何じゃあれ、訳分からん。
「目ェ瞑ってたって何だボゲェ!!」
「『ボール持っていく』って言っただろ! だからボールが来るって信じただけだ! 次もくれ!!」
「お、おお……! 何回でも跳べ! 日向ボゲェ!!」
「お前らスゲェぞ! もっとやれ!!」
……なるほどね、そういや練習中にも田中先輩はバックアタックを打ってた。つまり前衛は翔陽が攪乱、釣られたブロッカーの逆サイドから田中先輩がバックアタックしてくるって感じか。
はぁーん、面白えじゃん?
「目を瞑ってたってマジぃ?」
「うん、マジ。 悪い、さっきの取んないとな」
「僕達もブロック駄目だったからノーカンってことで。……それより面倒くさいな」
「んー、でも翔陽って打ち分けは出来ないから身体の向きそのまま打ってくるよ。今できることと言えば、田中先輩のマークかな」
「田中さんの?」
「そう。
翔陽は体格もあってそこまでボール重くないけど、田中先輩は打ち分けも出来るからさ。フリーでは打たせられないって感じ」
ブロック躱してきたから、まともに相対しないんじゃないのかな。どうなんだろ。
「おいおーい、ビビってんのかなぁ?」
「ビビってまーす!」
「次もやるからなー!!」
……しかも、次影山のサーブじゃん。ひょえー。……ま、やるしかない。
「影山、1本ナイッサー!!」「いけー、殺人サーブ!!」
「来い」
俺はリベロだから何だって拾うよ。そうじゃなきゃいる意味が無い。山口がレフト、俺がセンター、月島がライトでサーブレシーブに備える。月島は前衛より。バックライトは俺が拾う。
成田先輩が笛を吹いて、影山がジャンプサーブを打ってきた。狙いはセンターとライトの間。俺のボールだ。
「猫又」
「オッケ」
パパッと動いてアンダーで構えて返球。はい、成功。
「「ナイスレシーブ!」」「おい馬鹿、取られてんじゃねえか!」
上がった1本目を月島がレフトの山口にトスをしてそのまま翔陽のブロックの上から叩き込む。こっちの点数だ。【5-2】。
「~~っ!! クソ! 猫又ナイスレシーブ!!」
「お? おお、影山もナイスサーブ。取りやすかったよ」
「はぁん!?」
これくらいなら良いよね。
プリプリしてる影山を放っておいて次に備える。次は山口のサーブだ。
「山口ナイサー」「1本頼むぞ!!」
「オッケー!!」
成田先輩が笛を吹いて山口がフローターサーブを打った。ボールはセンターへと伸びていって、田中先輩が処理。ボールがネット際の影山に返っていく。
「持ってこい!」「レフトォ!!」
ボールと同時に翔陽がCクイックをやるために走って行った。……あー、本当厄介だな、あれ。嫌でも目に入ってくる。
月島もブロックに付いたけど、翔陽は踏みとどまってDクイックに跳んだ。月島が出遅れて一瞬だけ翔陽がフリーの状態になる。
「田中さん!」
だよな~!!
翔陽に釣られて月島は間に合わない。影山から速めの平行トスが相手コートのレフト側のアンテナまで伸びていって田中先輩がニヤニヤしながら助走に入ってくる。
クリアな状態で田中先輩のモーションを確認する。
助走――クロス。
身体の向き――クロス。
視線――こっちコートのライト側を見た。
スイング――ストレート。
⇒ストレート!
「オラ!!」
田中先輩のスパイクがこっちコートのライト側に伸びていく。……間に合わせる!
フライングして右手をのばした。ビンゴ!
「はわっ!?」「カバー!」
でも当たり所が悪くてネットに突き刺さる勢いでボールが返っていって、上の白帯に当たっては落ちていく。月島が追いかけるけど間に合わなかった。【5-3】。
「……よ、よーし!」
「拾われてるぞー田中!!」
「うっせえ!!」
木下先輩のヤジに言い返しては翔陽と影山とハイタッチしていくのが見えた。
「んー、悪い!!」
「僕もごめん」
「2人ともナイファイ!! ……にしても日向マジ厄介」
「ホント」
翔陽にはレシーブで対応したほうが良さそうだな。田中先輩はフリーで打たせたら全部決まるからワンタッチして欲しいくらいか。まあでも、「ブロック悪いからレシーブできないよ!」なんて言えない。現に今レシーブミスったし。
まあ、やっていくしかない。
◎
影山飛雄、日向翔陽、田中龍之介の3人チームと月島蛍、山口忠、猫又繋護の3人チームの3対3を見ながら、烏養繋心は色々とメモを付けていた。
【~影山飛雄
現時点の烏野で一番オールラウンダーだ。サーブ、レシーブ、トス、ブロック、アタックと何でも出来る。
本人はセッター希望だが、ツーセッターなんかを導入しても良いかもしれねえ。あの攻撃力は捨てておけねえな。
~日向翔陽
ぶっちゃけジャンプ力はあっても、知識も基礎も身についてねえから育成優先度としてはそこまで高くなかった。ゆくゆくはリベロか、位だ。3年間で1回でもユニフォーム着られたら良いなってな。でも、あの訳分からん速攻は通用するだろう。
レシーブが苦手なのは重々承知の上、点を稼ぐ為にミドルで起用するのはありだ。後衛はリベロと交替で。
……まあ、もうちょっと基礎を身につけないと入れらんねえけど。あと目瞑るのはちょっとな。自分だけじゃ無くて他の選手も危険に晒してる。ぶつかったら怪我するし。
あのトスを自分で打ち分けできるようになってくれりゃあ良いけど、取りあえず今は基礎だな。あとある程度の上下関係も。
それに、ストレッチとかもまだまだ適当にやってる節がある。選手生命って意味だと日向が一番短いから早急な対応が必要だ。
~月島蛍
今の烏野の中じゃあ一番背が高いし、中学の時からセンターでやってきたみたいだからミドルブロッカーとしての起用が妥当か。
ただ、積極的に影山と日向に絡むのは頂けねえ。あれはちょっとやりすぎだ。修正させよう。
~山口忠
ミドルとしての適性は高い。が、成田と月島、日向、山口とミドルブロッカーが多すぎる。
背もあるし、経験者っつうことも考えるとサイドにコンバートだな。うん、ライトだな。まずはワンポイントブロッカーで試合慣れさせる。
あと月島と同じで影山と日向への言動が目に余る。修正が必要だ。
~猫又繋護
自他共にこのままリベロとしての起用が妥当だ。
それに守備要員としてオポジットを任せるか? ……いや、澤村と一緒に出して守備を固めたい。そうなるとやっぱりリベロだな。
~総評
なかなか面白えメンツが集まった。欲を言えばもう2、3人新入部員が入ってくれたら嬉しかったけどない物ねだりは良くねえ。
2、3年もそうだけど、全体的に身体が出来てねえから食育もしていかねえといけねえし、あとは基礎だな。今じゃあベスト8に残れれば良いくらいだ。
やることは山ほど有るが焦っても仕方ねえ。じっくりと、でも迅速に鍛えていこう】
いやー、面白いチームになりそうだな。
内心でそんな風に言ちては、烏養繋心は一人忍び笑いをする。
◎
試合が終わった。
1セット目は【15-13】で取って、2セット目は【13-15】、3セット目は【12-15】で取られた。つまりあっちの勝ち。
…………ちっ。勝たないと駄目だろうがよー。ちっ、ちっ。
「田中、影山、日向チームの勝ち!」
「「「ありがとうございました!」」」「「「ありがとうございました!」」」
試合が終わってお互いに挨拶。田中先輩と握手をした。
「マジ厄介すぎるぜ、お前。音駒って全員守備良いんだろ?」
「不公平だと思って現時点のチーム事情は知らないんですけどね。昔からそうですよ」
「はぁー、もっと上手くならねえとな」
「そうですね」
俺と田中先輩はまあまあ友好的に。でも特に月島と影山はバチバチ火花を散らせていた。山口と翔陽はまあ普通。
「おい、お前ら、挨拶は基本だろ? しっかりやれって。はい握手」
「ちっ」「……っ!!」
結局田中先輩が仲介した。4人めっちゃ嫌そー、ウケる。そして、烏養コーチが集合をかけた。
「集合!」
「「「集合です!」」」
キャプテンの号令で、烏養コーチを取り囲むように並ぶ。
「おーし、お前らご苦労さん。良い試合だったぞ。1年全員の実力を見られてこっちも満足だ。
そんで、これから新チームを作っていくわけだけど、〝勝てる〟チームを作っていくのには変わりねえ。目標は全国大会出場、……いや、全国制覇だ。
3年だろうが1年だろうが従弟だろうが、勝つためにはそんな事情は考慮しねえ。
試合に出たかったら実力をつけてアピールしろ。全員ユニフォーム着られるからって甘えた考えしてたら、ユニフォーム渡さねえで観客席で応援させるからな!」
「「「はい!」」」
「良し、じゃあ、1年5人と田中はちょっとストレッチしてろ。その間に準備しておくから。澤村、清水」
「「はい」」
準備? 何だろうね? まあいいや。
スガ先輩と縁下先輩、成田先輩、木下先輩がコートの中でボールに触っているのを見ながら、邪魔にならないところでストレッチを始める。前屈から。はい、べたー。
「やべー! まだ試合したい! ボール触りたい!!」
「休むのもバレーだぞ。焦っても仕方ねえから休むことも勉強していけ」
「おっす! 田中さん!!」
本当に分かってるぅ? あれだけジャンプしてたら膝への負担も凄いと思うけど。
ストレッチを終わらせると100サイズの段ボールを持ったキャプテンとバインダーを持った清水先輩、80サイズの段ボールを持った烏養コーチの3人が体育館に戻ってくる。また集合がかかった。
「何ですか、キャプテン!」
「焦るな焦るな。コーチ、良いですか?」
「おう」
キャプテンと清水先輩がダンボールを開封していって、キャプテンの方の段ボールには烏野の黒い上下のジャージ、烏養コーチの方の段ボールにはカーフスリーブと足首のサポーターが入ってるのを確認した。
「ジャージ、ですか!?」
「それにサポーターもですね」
「今日から本入部だからな、まずジャージから渡していくぞ」
「「「はい!」」」
そっか、ジャージか。……ぶっちゃけ祖父ちゃん家に先輩から貰ったジャージいっぱい有るんだけどな。まあ、有り難く受け取らせて頂こう。もちろん音駒のもある。今度着てこようかな、やっぱり駄目か?
LLサイズか3Lか。大きい月島からパッパと渡されて、上下Lサイズのジャージをキャプテンから手渡される。
「これから宜しくな」
「はい、お願いします」
あー、なんか烏野に入学したって実感湧いてきたな。ふひひ、後で猫の方の祖父ちゃんにジャージ姿見せてやろ。
ホクホクしてると、烏養コーチが段ボールの中に手を突っ込んでカーフスリーブと足首のサポーターを手に取っては説明を始める。
「良し。じゃあ次はカーフスリーブと足首のサポーターな。
バレーボールってバスケとかサッカーみたいに接触こそ少ねえけど、走ったりジャンプする全身競技だ。当然怪我も多い。
特に、足首、ふくらはぎ、膝、太ももには目茶苦茶負担がかかる。そうなると疲労骨折とかジャンパー膝、肉離れが起こりやすい。そこでサポーターの出番だ。
これから夏に向けて暑苦しいって思うかもしれない。でも、怪我をしないためにも、そして万が一怪我をしても最小のダメージで済ませられるようになるべくサポーターを付けて貰いたい」
リベロも無いわけじゃないけど、やっぱりネット際でジャンプする選手は相手の足に乗っかったりすることもある。まあ怪我は起きやすい。だからこそ俺もサポーターまみれなんだけど。
おかげさまで数ヶ月離脱するような怪我をしたこと無い。
「自分の身体のコンディションを理解出来るのも、守れるのも自分自身だけだ。
選手生命を終わらせないため、そして日常生活にも影響が出るような深刻な怪我をしないためにも気を付けていって欲しい。俺の方でもちゃんと見ていくけどな。
5年後、10年後と元気な身体でバレーを出来るように身体作りもしっかりやっていくぞ。分かったな?」
「「「はい!」」」
「良し、じゃあ澤村、頼むぞ」
「はい! さっきの同じ順番な」
月島、影山、山口、翔陽、俺の順でキャプテンから一式渡される。……正直、予備として3セット位有るけど、有り難く頂いておこう。あって損は無いものだし。
「サポーター付けてると違うよな。疲労感が少なくなった気がする」
「そうですよね。これ無しだともう出来ないって言うか」
「何はともあれよろしくな」
「こちらこそ宜しくお願いします」
そんな会話をしながら、キャプテンから手渡されてホクホク。
「見て下さい! 菅原さん! これ! これ!!」
「お~、日向似合ってるじゃん。格好良いぞ~」
「うひひひひ!!」
ジャージ着て浮かれてるお馬鹿さんがいまーす。子供かよ。
「いいから全員着てみ」
「……分かりました」
月島だけ渋々と、俺含めて4人はジャージが入ったビニール袋を破いて新品の独特な匂いを発してるジャージを羽織る。うんうん、良いね。
2、3年生が俺達の前に並んで、「せーのっ!!」って掛け声をあげた。
「そんじゃあ、ようこそ! 烏野高校排球部へ!! 影山、日向、月島、山口、猫又!」
「「「宜しく!!」」」
「「~~~~っ! はい!!」」
2年生、3年生に盛大に祝われてじんわりきた。ゴミ捨て場の決戦に向けて頑張るぞー!!
そんな余韻に包まれていると、正面扉が開いて武田先生と若林先生が体育館にやってきた。
武田先生は分かる。でも、なんで……? っ! そうか!! 家庭科部のサポート!!
「「「こんにちは!」」」
「皆お疲れ様! 若林先生もどうぞ」
「ありがとうございます~、武田先生。烏養君も」
「さっきぶりです、若林先生」
ああ、烏養コーチ学生時代には家庭科教えて貰ってるもんな。
「若林先生じゃん。なんで?」
「えっ? 誰ですか?」
「家庭科の先生。時々差し入れしてくれてたんだぞ? しかもチョー美味い!」
「マジすか!? ……でも、なんで、っすかね?」
武田先生と若林先生がスリッパを履き終わってこっちに近付いてくる。
「はいはーい、色々疑問があると思うからまずは説明に入りたいと思います。烏養君、このままミーティング始めても大丈夫かな?」
「大丈夫だ。宜しく頼む、センセ」
「分かりました、ありがとう。
はい、えーっと、ではまず僕から。今年の3月から男子バレー部の顧問になった武田一鉄です。僕自身バレーボールは未経験で、実質的な指導は烏養君にお願いしています。お金の管理とかバスの手配だとかを担当していくからどうか宜しくお願いね!」
「「「お願いします!」」」
次は若林先生の番だ。
「はい、男子バレー部の皆、こんにちは。1年生は猫又君以外はじめましてだね。
1年5組の担任で、家庭科の授業を担当しています。2、3年生は去年も教えてたよね、1年生もそのうち家庭科の授業で関わることになるよ、どうか宜しくね~」
「「「宜しくお願いします!」」」
挨拶したものの、烏養コーチとか俺を除いて「……なんで家庭科の先生が?」って疑問が顔に出てる。
「若林先生には食育と日頃の差し入れをお願いして頂く予定です!」
「「「ショクイク……?」」」「「「差し入れですか!?」」」
学校で身体作りに必要なスポーツ栄養学を知っているのは家庭科の先生だと思うんだよね。だって、食育自体は家庭科の先生が絶対に知っておかないといけない知識だし。スポーツ栄養学とまではいかなくても、きっと家庭科の先生ならある程度は知っててもおかしくない。
それに、祖父ちゃんが現役で監督をしていたときからの知り合いだし。うん、これ以上って適任者はいない。
「はい、じゃあいくつか質問しまーす。まず、もっと背を伸ばしたい人ー、きょーっしゅ!」
「「「……? はーい」」」
若林先生の意図を把握し切れてない翔陽とか田中先輩がいつつも、皆手を挙げていく。
「強いアタック、サーブを打ちたい人ー!」
「「「はーい!」」」
「もっとバレーボールが上手になりたい人ー!」
「「「はーい!!」」」
察しが良いキャプテンとかスガ先輩は元気よくって感じで手を挙げていった。
「はい、ありがとう。じゃあ、その為にどんなものを食べれば良いか分かる人? ……菅原君、どう?」
「えーっと……、背を伸ばしたいなら牛乳とかチーズ、筋肉を付けたいなら肉とか魚とか? 確かタンパク質が入ってるものだったと思います」
「良いね、合ってるよ。……じゃあ、どんなものをどんな風に調理して食べれば良いとか、1日でこの栄養素はどのくらい摂れば良いって言うのは?」
「えぇっ? ……すみません、ぱっと出てこないです」
若林先生がなんでこの場にいるか合点がいったようで、皆納得のいった表情をする。
「分かってくれたと思うけど、怪我や風邪に負けない身体作り、なおかつ君達がバレーボールをしていく中で食べなければいけないものを知るのがスポーツ栄養学で、食育は包括的なものね。
これから皆は全国大会を目指してバレーボールを頑張っていく訳だけど、バレーボールの上達には身体作りも同時に進めていかなければいけません。
烏養先生が指導していたときのバレー部の人達と君達とじゃ、やっぱりまだまだ身体が出来てない。そんなんじゃあ勝てない。
そんな訳で私が栄養面でサポートさせて頂きます、OK?」
「「「はい! ありがとうございます!」」」
士気が高まってる中翔陽が思いっきり挙手をして、若林先生が翔陽を指した。
「1年1組の日向翔陽です!
あ、あの! 俺もっと背が欲しいんです! 伸びますか!?」
「男性は20歳を越えても身長が伸びるケースが確認されてるから、今からしっかりとした食事と睡眠を取れば、卒業するくらいには10cm位伸びてる見込みはあると思うよ。もちろん絶対ではないけど。
大丈夫、180cm目指していこう」
「本当ですか!? ~~~~っ! ッシ!!」
猫又家と烏養家の男子は高1位から伸びる遅咲きタイプらしいからもっと頑張っていこう。烏の方の祖父ちゃんは180cmあるし。伸びろ~、俺の身長!!
続いて影山も。
「1年3組の影山飛雄です!
自分も身長欲しいっす! 伸びますか!?」
「足のサイズは?」
「32.5cmです」
……でけえ。身長が高い人って足も大きくなりやすいよな。
「今からきちんとした物を食べていけば十分可能性はあると思う。190cmは越えてもおかしくないかな。
昔から言われてると思うけど、『よく食べて、よく寝て、よく運動する』だよ。しっかりと寝て、しっかりと栄養のついた物を食べる。そうすれば日向君と影山君以外の皆もきっと効果がある。
だからこれからしっかりとスポーツ栄養学について勉強していきましょう」
「「「はい!」」」
180cm越えて欲しいからなー。俺も頑張らないと。
「そういう訳だ。
俺の方でも勉強してるけど、やっぱり本職のバックアップがあると安心感が違う。さっきも言ったけど、全国制覇を目指してる以上しっかりとした身体が必要になる。その為にはスポーツ栄養学は必須だ。そして勉強するには若林先生の協力が不可欠でもある。聞き逃すんじゃねえぞ?」
「「「はい!」」」
「烏養先生が烏野を離れられてまだ4年なんだよね。異動はあれど、烏養先生と一緒に働いたことのある先生もまだまだいるし、やっぱり男子バレー部の活躍を祈ってる先生もいる、私も含めてね。
またオレンジコート、そして烏養先生念願のゴミ捨て場の決戦を叶えてくれると非常に嬉しいです。頑張ろう!」
「「「はい!!」」」
皆メラメラァ!! ってしてる。やっぱり若林先生も教師なんだよなー、生徒への興味を引き出すのが上手だ。……って何様だよ、俺。
「若林先生ありがとうございます! 家庭で作りやすいレシピのデータも預かってるので後で皆に渡すよ!
そして、皆に朗報があります。……なんと! 県ベスト4である青葉城西高校との練習試合が決まりました!」
「「「っ!? 本当ですか!?」」」「「「ありがとうございます!!」」」
おお、祖父ちゃんと烏養コーチから聞いたことがある名前だ。伝手も無いだろうし、ありがとう、武田先生。
……烏養コーチは知ってたのか、まあ当然だよな。……んー? なんか苦虫を噛み潰したような表情してる?
「来週の火曜日、つまり17日ね。学校のバスを借りて放課後にあちらに出向きます」
「「「おおっ!!」」」
「ただ、条件があって、〝影山君をセッターとしてフルで出すこと〟」
…………あ゛あ゛? 何だそれ?
……そうか、烏養コーチはこれを知ってたのか。はぁーん? 舐めやがってよー。
キャプテンとスガ先輩、そして2年生の4人も「あぁん!?」って顔してる。
「え、なんすかそれ。烏野には興味ないけど、影山には注意しておこうって感じですかね? ね? ペロペロキャンディみたいに舐めてるんですかね?」
「落ち着け、田中」
「……うす」
キャプテンに注意されて田中先輩が取り敢えず引き下がる。そんな中、烏養コーチが話し始めた。
「【墜ちた強豪 飛べない烏】。
知ってる奴もいると思うが、『昔は強かったけど、今はそうでも無いよね』って揶揄するためにこんな呼び方をされてる。
実際事実だ。ジジイが監督から離れて公式戦でも2回勝てれば良い、位に落ちぶれた。部員数とかも俺が現役の時とは雲泥の差だ。
だから勝つしかねえ。勝って実力を見せる。そうすりゃ周りも黙る。やることはそれだけだ。分かったな?」
「「「……はい!」」」
「千葉にいたときに青葉城西高校とか聞いたことないんだけど。本当に強豪校なんですかねぇ? いつ全国に行きましたぁ?」って煽ってやろ。
まだ納得言ってない様子だけど、スガ先輩が話し始めて耳を傾ける。
「俺だって試合に出たい。でも、同時に影山と日向のあの速攻、1年が入った新生・烏野が県ベスト4相手にどこまで通用するかも見る絶好の機会だ。
こんなチャンス無いんだぞ。勝ってぎゃふんと言わせよう!」
「……そうだ! スガの為にも勝つしかない! やるぞ!」
「「「オォーッス!」」」
特定の相手を固定って初めて聞くんだけど。青葉城西高校って何様?
◇
本日の練習が終了して部員達は各々帰り始める。そんな時、烏養繋心が月島蛍と山口忠の2人を引留めて人気の無い所に移動した。
「んー、月島と山口って影山といつからの知り合いだ? 中学からか? 高校か?」
「? 高校からですけど」
「そうか。……単刀直入に言うんだけど、お前ら2人の影山への言動が〝イジメ〟にしか見えねえんだ」
「「えっ……?」」
わざわざ人気の無いところに移動したことであまり人に聞かれたくない事だろうとは思っていたものの、予想外の事で月島蛍と山口忠は思わず硬直した。
「実は去年の北川第一と光仙の決勝見てて、影山がベンチに下げられた事も、北川第一が負けた事も知ってる。そんで東北大会に影山はユニフォームすら着てなかったことも。
だから影山がどんなプレーをしてたとか、何で〝コート上の王様〟とかって呼ばれてるのも把握してるつもりだ。
俺現役の時はセッターだったんだけど、サインミスは度々起きてコンビミスはあった。それはセッターの責任だ。
でもあんな風にトス無視されたら二度とそいつらの顔見たくないレベルにまでなるし、最悪バレー辞めるかもしれねえ位には胸くそ悪いんだよ、アレ。実際あのあと北川第一にクレーム入りまくって、顧問変わってるしよ」
烏養繋心が何を言いたいのかを把握して、月島蛍と山口忠の視線はだんだん下がってくる。
「北川第一の顧問は当然夏以前からあんなチームになってることは知ってただろうし、ちゃんと改善すべきだったと思う。それに、公式戦であんな形でトス無視するのは明確なイジメだ。端から見てるとイジりたくのも分からなくねえ。
でも、何か言って良いのは北川第一の連中だけだと思うんだよ。部外者である俺達が突っついていい問題じゃ無い」
一呼吸置いて、再び烏養繋心が話し始める。
「バレーって相手の嫌がる所を狙うスポーツでは有るんだけど、同時に同じコートの6人が協力しないと絶対に勝てない球技だ。
月島の身長と最高打点は現時点のウチのトップだし、山口も1年の4月って時に身長は180cm近くあってジャンプ力もある。2人とも十分戦力として見てるし期待もしてる。
でも、積極的にチームの輪を乱すような選手は入れられない。試合途中に殴り合いなんか起こされたらマジ洒落になんねえし。
お前らもう高校生だろ? やって良いこととやっちゃいけないことの分別がついて良い頃で、影山への態度は明らかにやっちゃいけないことだ。イジメられる経験なんて無いに越したことは無いけど、でもやっぱり人の痛みには敏感にならねえと駄目だ。
仮入部期間ならともかく、本入部が決まったからちょっと指摘させて貰う。あれはやりすぎ」
「「はい…………」」
2人の視線は烏養繋心の足元まで下がってしまった。
「別にな。休日も一緒に遊んだりお互いの家でお泊まり会でも開けって言ってるわけじゃない。俺も『烏養監督の孫なのに下手くそ~』とかって言われてきてムカついたこともあった。繋護とも『烏養コーチの従兄弟だから』とかって良い面も悪い面も含めて贔屓しないようにしようって話つけてるし。
でもそれはそれ、これはこれなんだ。
いくら気にくわない奴でも、一緒にコートに入ったらボールを落とさないようにして勝つように頑張ってきた。勝てたら嬉しいし、負けたら悔しかった。
せっかく烏野高校男子バレー部に入ったんだ。生涯に3年しか無い高校部活を楽しんで欲しいとも思う。おっさんになるとなかなか一つのことに集中できねえからよ~」
意気消沈してる月島蛍と山口忠を励ますように声をかけて、烏養繋心はまだまだ続ける。
「あと、こういう考えもできる。
月島と山口は進学クラスって聞いてるから、大学進学、特に推薦入試を視野に入れてるかもしれない。センター試験かもしれねえけど。
で、せっかく推薦で大学が決まっても、影山をイジメてたって大学側に伝わったら推薦の話が無くなる可能性もある。
自分の将来を守るために人にやったらまずいなってことはすんな。【人を呪わば穴二つ】ってある位だから、影山への態度がいつか自分に返ってくるかもしれねえぞ?」
「「はい…………」」
「最後になるけど、青城戦、月島をミドルとして起用するつもりだし、山口もワンポイントブロッカーかなんかで試してみたいと思ってる。期待してるからな」
「「はい」」
「良し、じゃあ戻るぞ。
高校デビューで浮かれてた新入部員に注意って筋書きだ。高校デビューも程々にな。
あとは家に帰ったらちゃんと休むように。2人も身体作りしていかないとこれからついてけなくなるからなー」
そして、3人で来た道を引き返していく。
月島蛍と山口忠が帰路についてある程度の場所まで来た。ここまで2人の間には重々しい空気が流れている。
しかし、意を決して山口忠が話し始めた。
「……ツッキーはさ、影山のことイジメてた自覚あった?」
「……無かった」
「俺も。嫌がる影山の反応見た上で楽しんでたかも、何もやり返してこないし。
……これって俺達が小学生のあいつらじゃん。俺に嫌がらせしてきた奴ら。
……あー…………、俺情けねえ。そっか、これが『俺はイジメてたつもりじゃない』って気持ちなのか。……あー…………」
「…………」
山口忠が項垂れてる姿を見ながら、月島蛍もまたここ1週間で行った自分の行動を振り返っていた。
同じ部活で暴力沙汰を起こさないだろうと高をくくり、影山飛雄の苦手な頭脳戦で言いくるめていなかったか。そんなことを考えつつ、「自分がされてイヤなことを他人にするな」という父親や兄である月島明光の言葉も同時に思い出していた。
戦力として見られていると言われて嬉しい反面、同時に子供である部分を指摘されて苛立つ。そう結論付けた月島蛍は自身に対して舌打ちを繰り返した。
「……ツッキー?」
「……山口って影山の連絡先知ってる? 僕まだ知らなくて」
「え? うん。……そうだね、謝らないと」
「うん」
ちょっと待ってて、と言いながら山口忠は自分のガラケーをバックから取り出して、影山飛雄の連絡先を見つけて電話をかける。
20秒ほど経って影山飛雄は電話に出た。横断歩道の通行許可の音や複数人の足音などが聞こえてきて、山口忠は音量を最大にして月島蛍にも聞えるようにする。
『……なんだよ?』
「あー、影山? 今時間大丈夫?」
『ああ。今月バリ買って家に帰ってる途中だ』
「月バリ? 15日発売日でしょ? 明日じゃないの?」
『いや、ガキの頃からのいきつけの本屋で毎月買ってるから取り置いてくれてんだ。だから今鞄の中にある』
「へー、そうなんだ」
バレーボールに対して一切妥協しない影山飛雄への理解が深まった山口忠と月島蛍である。
『……そんで何か用か? 電話とか珍しいな、何か俺忘れ物したっけか?』
「いや、そう言うのじゃないよ」
謝罪するために、山口忠は数回深呼吸をして、影山飛雄も山口忠のなにやら真面目な雰囲気を感じ取ってか次の言葉を待つ。
「……〝王様〟とか言って嫌がらせしてごめん。謝って許されることじゃないけど謝らせて下さい。本当にごめんなさい」
『……………………ん』
いきなりのことで長く硬直したのち、影山飛雄は山口忠の謝罪に応えた。続いて月島蛍が話し始める。
「影山」
『……月島もいたのか』
「まあ、うん。
……僕もごめん。影山が嫌がってるって分かりながらも嫌がらせしてた。本当にごめん」
『……………………ん。
……烏野に来て、澤村さんとか菅原さん、田中さん、猫又を見て、チームメイトへのコミュニケーションってああやるんだって何となく分かった』
「うん」
『やっぱりうぜえって思ったし、でもチームメイトだからこれから一緒に青城とか白鳥沢とかに挑戦していかないといけねえ。そうすると我慢した方が良いんじゃねえかとも思った。俺が違うんだろうなって思ったし、どうすりゃいいか分かんねえし』
「「……うん」」
『でももっと強くなって強いチームと戦いたいんだ。
千葉から来た猫又は目茶苦茶上手くてサーブもあっさり拾われて悔しかった。今までは月バリとか春高の中継でしか知らなかったんだけど、全国にはもっともっと強いチームがいる。
聞けば猫又は井闥山と梟谷から推薦貰ってたって言うし。
……だから、その…………』
饒舌に語っていて、最後に尻すぼみになっていく影山飛雄の言葉を聞いて、山口忠は一つ笑う。
「俺が言うのも何だけど、〝協力しよう〟で良い?」
『お、おう……』
「そこは恥ずかしがるなよー。
……まあ、でも烏養コーチの指導凄いよな。たった1週間だけなのに成長してる実感があるって言うかさ」
山口忠の言葉を聞いて、影山飛雄は食い入るようにその話題に乗った。
『そうなんだよ!
食生活とかストレッチとか家で出来ることもやってきてんだけど、今練習終わりにおにぎりとオレンジジュースかりんごジュース渡されてるだろ? あれで疲れが少なくなった気がしてる。翌日の疲れが全然違え』
「……僕もそう。練習終わって怠いことは怠いんだけど次の日さっぱりしてる」
「若林先生から貰ったレシピも凄そうだよね。あとサポーター。怪我の予防とか全く考えてなかった。ただ皆付けてるからサポーターつけよー、みたいにさ」
『だよな。
……人数は少ねえし、全員もっと上手くならねえといけねえけど。日向とか、日向とか。
でも全国の可能性が無いわけじゃないと思うんだ』
「だね」「ん」
月島明光との一件があってなかなか前向きになれないことは差し置いて、話の腰を折らないためにも月島蛍は相槌を打つ。
多少のぎこちなさを表わしつつも、お互いに理解を深めていく3人であった。
◇◇
帰宅して手洗いうがいを終えた日向翔陽はいの一番に母親の日向七海の所に真っ直ぐ走っていた。
「ただいま!」
「お兄ちゃんお帰り~」「もうちょっと静かにしなさいよー」
「母さんも夏も見てこれ!」
日向翔陽は【烏野高校排球部】の文字が入ってる黒のジャージを日向七海と日向夏に見せつける。
「このジャージ格好良くない!? 俺本入部決まったんだ!!」
「良いじゃん良いじゃん、汚れ目立つけど」「真っ黒だ! トトロ出てくるかな?」
「そうじゃないんだよ! もぉー!!」
「「あはは!」」
小学5年の3月、帰ってきて早々「俺、烏野高校行く! そんでバレーやりたい!」といきなり言いだして何事かと思った日向七海は日向翔陽の中学生活も同時に頭に浮かんできた。
「バレーやるんだ!」と意気込んだものの、雪が丘中学校の男子バレー部は既に無くなっていて中学校ではなかなか出来ず、更にはバレークラブも近場には無くてフラストレーションを溜めさせていた。
そんな息子がどうだ?
昔から勉強が苦手でも必死に勉強して烏野高校に入学した。そして今では念願の烏野高校男子バレー部で楽しそうにしてる。日向七海はそんな息子を見て内心涙ぐむ。
「あとこれ!」
「んー?」
日向翔陽は若林智子がまとめたレシピを差し出して、日向七海は受け取ってはマジマジと見る。
「家庭科の先生、あっ、若林先生って言うんだけど、スポーツエイヨーガクに沿った料理なんだって! 今日から作って欲しい! お願いします!!」
「あー、なるほどー?」
7mm程の厚みがあるレシピのまとめをペラペラと捲っては内容を確認していく。どの料理も安価な材料で、かつ自炊したことが無い男子高校生にも簡単に作れそうなものばかりだ。
「オッケーオッケー。でも今日の分無いからこれからスーパー行かないとね。と言うわけで、翔陽はジャージとか着たもの洗濯してきな。夏もスーパー行く?」
「分かった!」「お菓子買いたい!」
「お菓子は300円まで。準備しろー、子供達よー」
「「はーい!」」
日向家の3人は慌ただしく準備を始めた。
また、息子が学校生活を楽しんでいるようで何より、と思っている一方で、日向七海には「翔陽、家で勉強している様子全くないんだけど、大丈夫なんだよね……?」という懸念があった。
それは当然…………?
◇
バレーボールに限らずスポーツ全般に言えることですが、いくら気を付けていても怪我をします。バレーボールは足首、ふくらはぎ、膝、太もも、腰、肩、指の怪我が多いですね。
もしよければ、「ザムスト バレーボール インタビュー」などで調べて下さい。強豪校やバレー選手が実践している怪我の予防についての考えや対策など色々分かると思います。ちょっと古い記事ですが。
(N田選手、日体大男子バレー部、駿台、川内商工などなど。インソールの話も次話に出てきます)
2012年頃にあったかは覚えていないのですが、作中ではザムストの商品を想定しています。
月島蛍はA2-DX
山口忠はA1
影山飛雄、日向翔陽はA1ショート
猫又繋護はFA-1(日常生活)とA1ショート(運動時)の使い分け
【登場人物まとめ】
日向七海
・日向翔陽と日向夏の母親
Q なんで15点マッチなの?
A バレーボールに限らず、スポーツでは「スタミナを付けるように」と言われます。小学生だろうが、大学生だろうが、実業団だろうが、です。
受験が終わって2週間ほどの高1は高校での練習に耐えられません。追い込む時期でもありません。
また、中学男子のネットの高さは230cmですが、高校男子は243cmとなります。加えて、ボールも4号球から5号球に変わって大分感覚が変わってきます。(女子の場合は215cmから224cmですね)
という訳で、スタミナが無いことは分かりきっているので、怪我のリスクが低い中でどれだけ動けるのかを見よう。というのが烏養繋心の目的でした。