6日(土) 音駒で合宿(8日まで)
9日(火) 猫又繋護覚醒
15日(月) 2学期中間テスト(19日まで)
25日(木) 代表決定戦1日目 新井川高校戦
26日(金) 代表決定戦2日目 白水館高校戦、和久谷南高校
27日(土) 代表決定戦3日目 白鳥沢戦
28日(日) 仙台の青葉山公園に遊びに行く 影山飛雄、及川徹からメール
29日(月) 朝練のみ 及川徹と連絡を取り合うようになる 武田一鉄と烏養繋心、谷地クリエイトにてポスター作成の依頼
~青葉城西高校3年生チーム ベンチメンバー~
01 及川徹
02 松川一静
03 花巻貴大
04 岩泉一
05 沢村求
06 志戸平介
07 村田和則 リベロ
11月に入って、文化祭前の部活でミーティングの時間になった。心なしか武田先生と清水先輩がウキウキしてる。なんかあったっけ?
「はい、では皆にお伝えしたいことがあります! 清水さん、谷地さん、どうぞ!」
「「はい」」
……ポスター? あ、完成したのか。
予想通りポスターだった。翔陽のアタックを後ろから撮った構図で【烏、再び東京に舞う】って一言付き。おー、かっけえな。
「「「っ!! やべー!!」」」
「でも日向ばっかりずりーっす!!」
「身長では不利な選手が活躍するってのは見てて楽しいしな。ジャイアントキリングって意味で。ま、しゃーないわ」
「日向が目立てば目立つ分、囮として生きてくるからなー」
皆の感想があらかた出終わると、また武田先生が話し始める。
「今回も谷地さんと谷地さんのお母様の会社にお願いしてポスターを作って頂きました。皆、大きな拍手をお願いします!」
ワー!!
めっちゃ拍手して、やっちゃんが照れくさそうにしてる。一頻り拍手をすると示し合わせたように拍手が鳴り止んだ。
「春高本番まで約2ヶ月。優勝できるように練習していきましょう!」
「「「はい!」」」
「こちらのポスターですが、数がありますのでご家族の職場などで掲示できそうでしたら持ち帰ってお願いして下さい。それでは烏養君、皆のことお願いしますね」
「おう。任せてくれ。
いやホント谷地ありがとな」
「オス!」
やっちゃんマジやべー。
文化祭の日になった。
3日は学校関係者のみ、4日は一般開放って流れだ。ただ、俺達は練習を優先していいって便宜をはかってもらって3日の午前中は練習、午後はフリー。4日は部活見学の対応なんかで文化祭が終わる予定。ま、いつも通り練習しよう。
「月島よ。女子からのラブレターは何通目だ?」
「そんなもの貰ってないですよー」
「昨日2年生かな? 『文化祭一緒に廻ろう』って誘われてました!!」
「ちょっ! 日向!」「「なぁ~にぃ~!?」」
時期が時期だよな。代表決定戦の1週間後が文化祭だとこうなるのが目に見えてた。「彼氏がバレー部でぇー、全国にいくのぉー」ってマウント取れるし。「あの12番なら捕まえられそうじゃない?」とかって聞いちゃったし。はぁー、めんどくせー。
でも、意外なことに誰も女子からのお誘いに応じてなかった。大地さんは道宮先輩と廻るらしいけど、他のメンバーは「バレーに集中したいから」ってきっぱり断ったらしい。
おかげさまでバレー部へのサポーター活動はちょっと落ち着いていて、どちらかと言うと男子からの応援が目立つようになってきている。
「良し! ギャラリーに負けないように声出していくぞ!」
「「「オォーッス!」」」
午前中だけの練習だから集中していこう。
午前中の練習が終わってフリー時間になった。補食だけは食べたけどお腹空いたな。適当にお腹に溜まるもの買っていこう。
「5組は何やるんだっけ?」
「ウチはお菓子詰め合わせの販売。ミニドーナッツとかバウムクーヘン、マドレーブの個包装をラッピングして販売」
「っ! 美味そう!!」
「お店様々だよな~。1組はー、焼きそばか」
「そう!」
「後で冷やかしに行ってやるよ」
「買えよ!!」
飛雄の所はホットドッグ、蛍と忠の所はジュースだっけ? いやー、最初はオムライスとか出そうって話してたんだけど、3年2組にジャンケンで負けたんだよなー。ま、しょうがない。
正直個包装の方が安心できるし。キヨ君なら「誰が作ったか分からねえのは食べない」とか言いそう。衛生的にも心配だよね。うん、分かる。俺もそうだし。
やっちゃんと一緒に5組に到着した。そこそこ人気っぽい。お菓子様々だよな。
「おお! 猫又隊員に谷地隊員!」
「「これから参戦します!」」
「待ってたよ~。クラスTシャツに着替えて着替えて」
「「はーい」」
バレー優先して良いよって言ってくれてるからできる範囲で楽しんでいこう。
17時になった。文化祭1日目終了。あ~っ、お金見過ぎてバカになりそう。
「ねこ君って坂ノ下商店で家の手伝いしてたよね? レジ出来たよね?」ってことで会計に回され1時間半ほど。電卓無かったら大変だったろうな。
「はーい、明日のためにもうちょっと数増やしていこうと思いまーす。もうちょっと頑張るぞー」
「「「おー!」」」
ラッピング位はやらせて貰うよ。
11月4日。文化祭2日目。
今日は部活見学会で1日が過ぎるだろうって考えてる。こっちとしては練習できるから良いかなって感じ。
一般開放の時間は9時から16時で、俺達は8時から11時まで、13時から17時まで練習。この間に部活見学会と見学者への対応って流れだ。
さーて、今日は何人見学者来るんだろうな。
「挨拶とか返事しっかりな。『烏野入りたい!』って思って貰えるように先輩としての背中見せていこう」
「「「はい!」」」
「今日も〝見られる〟って練習だ。パンダみたいに扱われるのストレスだろうけど、公式戦に出る以上そういう目があるのは仕方ない。今から慣れていこう」
「「「はい!」」」
「良し、じゃあコート10周と動的ストレッチから。少しずつ体を暖めていけ」
「「「オォーッス!」」」
ま、いちいち気にしてられないよねー。
16時になった。『本日はご来場頂き誠にありがとう御座いました。お忘れ物が御座いませんようにお帰り下さいませ』ってアナウンスが聞えてくる。
……お、終わった。
「こ、コーチ、中坊何人来ましたか?」
「40人越えてから数えてねえな、いや、文化祭でオープンスクールも兼ねてるから実際バレーやったこと無い中学生もいたと思う」
「30人とか入ってきますかね!」
「いや、そんなに入れねえよ。最大で20人って考えてる」
「え、人多くいたほうが良くないですか?」
「人が多いって事は1人がボールを触れる時間も少なくなるって事だぞ? 今は13人だから全員が試合形式に参加できてる。でも15人以上になるとボールを触れない奴が出てくるんだよ。
14人までしか登録メンバーに入れないんだから多すぎても良くない。第二体育館しか使えないんだし。俺は応援要員で部活に入部させたいわけじゃねえしさ」
「……なるほど」
烏養コーチの講評って時間も取りにくく無くなっちゃうからねえ。あとバスとかも乗れない部員が何人か出てくる。そうなったらウチの強みが無くなる。
「とは言ってもセクションとかを出来るわけじゃねえからな。15人は超えてもおかしくないと思う。今年は6人、去年は5人って特に結果残して無くても入部してきてるしな。来年は15人位入部してもおかしくない」
「……レギュラー争いが始まる」
「だな。ユニフォームを着られて試合に出られる奴、ユニフォームを着られてもなかなか試合に出られない奴、ユニフォームを着られない奴の3パターンが出ちまうな。
〝試合に勝てるメンバーを出す〟ってのには変わりねえぞ。1年の方が戦力になると考えたらそっちを優先するからな。1年にユニフォーム取られるなよ」
「「「……はい!」」」
ノヤ先輩からリベロのスタメン奪おう。渡さないぞー。
「まあそれは来年の4月以降の話だから。まずは2ヶ月で今のチームでもっと上手くなっていこう。目標は全国制覇だぞ」
「「「はい!」」」
「ってことで今日は終わり。帰るぞ~」
帰ってお風呂入ろう。そうしよう。
お風呂から出ると、彩音ちゃんからメッセージが届いてた。【繋護のパソコンに纏めたデータ送ったから確認して~】って。
早速確認しよう。
ノートパソコンを開いてメールボックスを確認。一週間も経ってないのにすげー。お礼のメッセージを送信したらスタンプが返ってきた。これで食生活の方は大丈夫っと。
……お。姉ちゃんからもメッセージ来た。【私達の同級生の友達でアルゼンチンから来た子がいるんだけど、日本の文化とか日本語の勉強したいから構わないってさ!】だって。良し良し。
今度顔合わせしよう。そんで及川先輩に連絡だ。
アルゼンチンから来たリベルタ・メネムさんとビデオカメラで顔合わせもできた。「私の母国に興味があるなら是非~!」ということで大丈夫そう。こっちの条件としては東北地方のことを教えるって文化交流。
早速及川先輩にメッセージを送る。
【こんばんは、お節介かもしれないんですけど、是非受け取って下さい。あと、スペイン語の勉強で朗報があります】ってメッセージとアルゼンチンでのアスリートが好む食事のレシピの一例をメッセンジャーアプリで送信する。
全部送るには重すぎるからね。あと「いらねえ」って言われたときにショックを受けないように。ここまでやる必要があったかと言えば無い。でもさー、【日本からの留学生、事故死!?】とかなったら目覚めが悪い。
既読マークが付いたらすぐに電話がかかってきた。めっちゃ興奮してる。
『にゃ、にゃ、にゃんこ君! これ!?』
「あ、こんばんは」
『あ、うん。……そうじゃなくて! これ、何!!』
本題に入るとしますかね。
「知り合いに管理栄養士の資格を持ってる人とかスポーツ栄養学を学んでる人に頼んで纏めて貰いました。ただ、全部送るにはスマホじゃ厳しいのでパソコンに送りたいです。
あと、姉の友達にアルゼンチンから来た留学生がいて、『日本の文化とかを教えて貰う代わりにスペイン語と英語、アルゼンチンでの過ごし方みたいなのを教えまーす』って言ってくれてるんですけどどうでしょう?」
『…………』
返事が無い。生きてるよね?
「もしもし?」
『……マジで言ってる?』
「本気と書いてマジと言います」
『マジかよ……。ぶっちゃけにゃんこ君がそこまでする必要なくない? 他校の先輩でほとんど関わりないのに』
「それはそうなんですけどー。気まぐれです、特に理由はありません」
『猫だけに?』
「そんな感じです」
『……ありがたく受け取らせて頂きます。その留学生は?』
「今呼びますね」
『今!?』
心の準備をしてなくてごめんなさいなんだけど、あちらにも都合があるからなるべく早く繋いでおきたい。
メッセンジャーアプリでリベルタさんを招待したら、すぐに俺達の電話に混じってきた。
『Hola !! Mi nombre es Liberta de Argentina !! ケーゴはさっきぶりね!!』
「リベルタさんこんばんは。Gracias por sacar tiempo de su apretada agenda. 及川先輩?」
『Encantado de conocerte, mi nombre es Tooru Oikawa. ……ってにゃんこ君もスペイン語話せるのかよ!』
うるせっ!
「家族の趣味が字幕版での映画鑑賞なので、まあ自己紹介くらいなら。
手短に行きますね。こちらがアルゼンチンからの留学生、リベルタさんです」
『トールもこんばんは! リベルタ・メネムよ!』
「Gracias. それで、こちらが来年の4月以降アルゼンチンにバレーをしに行く及川先輩です」
『及川徹です。宜しく、リベルタ!』
『ええ!』
流石と言うべきか、もう現状について理解してる。説明する時間を省けそうだ。
「リベルタさんは日本の文化とか日本語の勉強をしたい、色々な人と話してみたい。
及川先輩はスペイン語とか実際にアルゼンチンでの生活をよりイメージしたい、という目標があるので、お互いにメリットがあるからこうさせて頂きました。リベルタさんはOK?」
『大丈夫よ! 今度ギュータン食べにいくから! 案内してね!』
「是非是非! 及川先輩はどうでしょう?」
『Me gustaría pedirte un favor, Liberta.』
『Muchas gracias.』
うんうん、大丈夫そうかな。一応一段落。
2人は時間とか「どんなことを聞きたい・知りたい」とか食材と料理とかそういうことを話し始めて邪魔になるのはいけないから静かに聞いてる。
5分くらい? ある程度経ったらあらかた調整は済んだみたいだ。
『にゃんこ君放置しててごめん、色々確認取れた』
「オッケーです。リベルタさんも何かあったら連絡して下さい」
『そうね! 今度マオとアヤネにもアヤノと一緒に遊ぼうって約束してるから、ケーゴも一緒に!』
「是非是非!」
『じゃあ私はこのへんで。Hasta luego, buenas noches.』
「はーい!」『Adiós.』
及川先輩と一緒にリベルタさんを送って、彼女は電話を切った。
『にゃんこ君』
「はい」
『いや、マジで助かった。「ここはこうした方がよりネイティブっぽさが出るかも」とか教えて貰ったわ。マジ感謝』
「そうですね、聞いてました。自分としても交友関係が増えるのは嬉しいので気にしないで下さい。
それで、食事の方はどうしましょう? 必要ですか?」
『有り難く頂戴します。パソコンのメアドはこれね』
口頭でアドレスを教えて貰って、目の前にあるノートパソコンでメールのアドレスを入力、ファイルを添付して送信っと。
「送りました」
『オッケー。……うん、大丈夫。内容はまたじっくり見させて貰うね』
「はい」
『……いやー、マジか。まだ信じらんねえ。これ夢?』
「足の小指をどこかにぶつけてみたらどうでしょう?」
『なかなかエグいな!?
……何かお礼したいんだけど。というか、ここまでされて「はい、さよなら」ってのはすっごく嫌なんだけど』
よし、ようやくここまで来た。打算的な考えもあったんだよね。
「あー、3年生って今どんな感じなんですか?」
『3年? ……なるほど? 分かった。監督に聞いておく。練習試合の申し込みだね』
「そうです。自分も顧問とコーチから『是非交渉してこい』って」
察しが良くて助かる。
『オッケー。大学でもバレー続ける同級生は多いから声かけておく。けちょんけちょんにしてやるよ、3年舐めんな』
「お力お借りします。それで、自分も明日顧問に伝えて、そしたら明日明後日か電話が行くはずです」
『オッケー。俺も伝えておく。他には?』
他。他? 特にないな。
「んー、今の所大丈夫です、多分。また何かあったらその時に改めてお願いします」
『ん、分かった。じゃあ今日はこのへんで。いや、本当にありがとう、助かった』
「いえいえ。是非アルゼンチン代表の座を勝ち取って下さい」
『ん。……あ、烏野連中には内緒にしておいて。特に飛雄』
「分かりました」
『じゃね』
「はい、失礼します」
及川先輩との電話が終わって、ノートパソコンの電源も落とした。さーて、勉強の時間だ。
◎
翌朝、部活の朝練習前に及川徹は職員室を訪れた。
「失礼しまーす。3年の及川です。男子バレー部顧問の入畑先生はいらっしゃいますか?」
「入畑先生? いらっしゃるよ」
「ありがとうございまーす」
一番近くの教職員に確認して貰って、及川徹は入畑伸照の方へと歩いて行く。当然、入畑伸照も気が付いた。
「おはようございます、監督」
「おう、おはよう。珍しいな」
「色々と報告したいことがありまして伺いました。2点あって、まずはこれです」
そう言って、及川徹は昨晩猫又繋護からデータで受け取ったアルゼンチンでのアスリート用のレシピの数種類を印刷したものを入畑伸照に渡す。
「……これどうしたんだ? 随分と手が凝ってあるな」
「烏野高校の13番君覚えてますか? リベロの」
「ああ、もちろん。4月から印象に残っていたし、決勝戦でも活躍してたからな。来年再来年どうしようかと頭を抱えているところだ。
話がそれたな、悪い。彼から?」
「はい、最近やりとりしてて、進路のことを話したら知り合いに管理栄養士の方がいるらしく色々と纏めて貰いました」
「おお! ちゃんとお礼言ったか?」
「そりゃあもちろん!」
一呼吸置いて、及川徹はまた話し出す。
「続いての報告です。
猫又君のお姉さんの友達にアルゼンチンからの留学生がいて、その人からスペイン語とかアルゼンチンの生活について教えて頂くことになりました。出国するまで指導して頂きます」
「……本当か?」
まさかの報告に入畑伸照は自分の耳を疑った。
「はい」
「そうか、それなら良かった。流石にスペイン語会話教室とか見つけられなかったからな。なかなか力に乗れず申し訳なかった。頑張れよ」
「はい! それで、『ウチの3年と試合したいなー』って願望を言われまして。また烏野の顧問から練習試合のお願いの電話が来るはずです」
「……そうか、及川はどう思う?」
「個人的なお礼としても受けたいですし、あとはインハイ予選のリベンジも兼ねて是非って感じです。こっちで勝手に話進めてすみません」
「いやー、それは構わんよ。こっちから『引退試合したいですー』とは言えないからな。
分かった。武田先生から連絡があったら日程を調整しておこう。練習試合であってもリベンジするぞ」
「はい!」
そして、お昼休みに武田一鉄から電話があり、入畑伸照は烏野高校との練習試合を快諾する。11月11日に練習試合をすることが決定した。
◎
放課後になった。さーて部活だー。
部活の準備をして、ミーティングに入った。珍しく武田先生から。
「朗報です!
11日の午後に青葉城西高校3年生チームと練習試合を行います!!」
「「「っ!?」」」
「え、青城ですか!?」「なんで!?」「また大王様とやれるのか……!!」「及川さんと!!」
おー、青葉城西高校との練習試合がとんとん拍子で進んでいくなー。【監督にも話したよ、そっちからの電話待ち】ってメッセージを貰ってたからまあ知ってた。練習試合組めて良かったぜ。
お? 忠が肩を突いてきた。何だよ。
「繋護何かやった?」
「待って? なんか言い方に含みを感じるんだけど」
「いや、影山は無関係っぽいから。そしたら繋護かなって」
「あ~~。ちょっとやりとりしてて、お願いしてみた」
進路の相談に乗ってた、なんて言ったら「はあ?」ってなるよな。おまえ1年じゃんってさ。
「代表決定戦の1回戦目で青城は白鳥沢と当たって負けてる。それでも1セット取ってるからな。やっぱりちゃんと実力はある。良い練習相手だ。
コンビバレーって事で白鳥沢とは違う強さだ。この機会を貪っていくぞ」
「「「はい!」」」
士気も上がったことだし頑張ってこー!
普通の学校生活を送って、11月11日になった。
午前中は烏野でストレッチとか軽く動いて、学校のバスで青葉城西高校に到着。相変わらず校舎綺麗だなー。
4時間くらいってことは時間的に6セットくらいやるんだろうな。俺も試合出るぞ。
ボール籠とかを出していると、及川先輩が出迎えに来た。
「おはようございます! 烏野高校の皆さん遠路はるばるありがとうございました。今日は宜しくお願いします!」
「「「お願いします!」」」
駐車場だから背番号順には並べなくて、適当に2列になって及川先輩と向かい合う。
「お出迎えありがとうございます、及川君。今日は宜しくお願いしますね」
「はい、お願いします!
今日は第二体育館で練習試合をするので案内役で来ました」
「なるほど。バスの中に忘れ物ないか確認しろー」
「「「はい」」」
ボール、ボール籠、救急箱、ビデオカメラ、ユニフォーム。……大丈夫そうだ。
及川先輩を先頭に3年、2年、1年って並んでゾロゾロと第二体育館に向かっていく。
「今日はねー、インハイ予選のリベンジも兼ねてるから皆やる気出てるよ~。覚悟しといてね」
「ウチだって負けに来たわけじゃ無いさ」
3年生同士固まって歩いてて、大地さんの言葉を聞いた及川先輩がジロジロと大地さん達の身体を舐めるように見る。キッショ。
「気持ち悪いぞ」
「いやホント体格良くなったよね。食育のおかげか」
「ん? ……ああ、猫又から聞いたのか。色んな人に助けて貰ってるよ。だからここまで頑張れてるって感じかな」
「はぁーん? 4月と全然違うなあ。ボッコボコのギッタンギッタンにしてやる」
「と言うか、ねこと何の話してたんだよ」
「ん? トレーニングとかマッサージだよ。ウシワカのスパイクとサーブあんだけ拾うとかはぁーん? って感じだしさ」
「それなら影山でもよくね?」
「飛雄って説明下手じゃん? 擬音語ばっか使って」
「「「確かに……」」」
言われてるぞー、飛雄。
「お、及川さん! 俺だって成長してます!」
「身長ばっか伸びやがって! 今何cmだよ!」
「183.6cmです!」
「それ以上伸びるな!!」
「嫌です!!」
一瞬にして及川ワールドになった。このヌルって懐に入ってくるのぬらりひょんみたいだな。及川先輩は奴良組の一員だった……?
ワーワーしながら歩いていると、初めて来る第二体育館に到着した。シューズに履き替えて色々と説明を受ける。
「今日は烏野さんしか使わないので男女ともに更衣室で着替えるようにお願いします。給湯室とかトイレはあそこですね。
あと、カメラって持ってきてますか?」
「ああ」
「2階のキャットウォークに行くにはあっちの方の階段からになるので、そちらをご利用下さい。何か分からないことがあれば適当に部員を捕まえて聞いて下さいね。
それでは今日は宜しくお願いします」
「「「お願いします!」」」
って、いつの間にか及川先輩が俺の前に来た。皆、聞き耳立てないで下さいねー。
「色々とありがとう、助かってる」
「いえいえ、順調そうなら良いです」
そこに翔陽が乱入。やっぱり皆聞き耳立ててるし。
「何が順調なんですか! 大王様!!」
「……本当に〝大王様〟って呼んでるよ。
へんっ、チビちゃんには教えないもんね! バーカバーカ!」
「及川、ウチの1年にちょっかい出さないで貰おうか」
「澤村君、嫌だなー、そんなこと無いよ」
早く着替えようぜー。
「あと、にゃんこ君、監督からもお礼を伝えたいってことだから後で少し時間ちょうだい」
「分かりました」
皆からの「何があった!?」って視線を無視して、及川先輩は去っていった。こういうのも作戦か? ……いや、ただ引っかき回したいだけだな。
「監督からお礼って何だよー」
「絶対トレーニングだけじゃないよな」
「すみませんね、及川先輩のプライバシーのことなので直接聞いて下さい。お口チャックを命じられてるので」
「……今日全勝したら教えて貰うか」
「「そうっすね!!」」
「覚悟しろよー、セイジョー!」
その言い方、スーパーの成城石井っぽいかも。
アップが終わってからユニフォームに着替えるとして、取り敢えず準備は終わった。
3年生だけだから15人前後か。体育館で準備してた。入り口に背番号順で並んで挨拶から始める。
「気を付けー! 今日半日宜しくお願いします!!」
「「「お願いします!!」」」
青葉城西高校の皆さんも俺達と同じように、一番左が及川先輩で、そっから背番号順に並ぶ。
「気を付け! こちらこそ宜しくお願いします!!」
「「「お願いします!!」」」
気迫すげー。油断してたら負けるかも。……負けないけど!!
烏野は入り口から入って左側のコートを使うことになってるっぽい。ボール籠の準備しないと。
「後で全体での挨拶はするけど、まずはそっち側のコートでアップして下さい」
「はい。良し、テキパキな!」
「「「はい!」」」
うぉー、かかれー! ……おっと? 烏養コーチに声かけられた。
「ほら、入畑先生が呼んでる。行くぞ」
「あ、はい」
武田先生と烏養コーチと一緒に青葉城西高校の監督のところに行く。及川先輩も後から来た。
「入畑先生、今お時間宜しいでしょうか」
「はい、武田先生」
武田先生、烏養コーチ、俺の順で並んで、あっちの監督と及川先輩と向かい合う。
「青葉城西高校男子バレー部監督の入畑です。及川に協力してくれて本当にありがとう。
我々も色々と模索していたのだが、なかなか良い案が見つからなくてね。少なくとも及川が路頭に迷うことはなさそうだ」
「本当にありがとうございました」
「烏野高校1年の猫又です。力になれたのなら良かったです。母や姉にも伝えておきます」
「そうしてくれると嬉しい。本当にありがとう」
そう言って、青城の監督と及川先輩が一礼する。俺達も併せて一礼した。
礼が終わると、武田先生が話し始める。
「頼れる人が少ない、言語の壁や食事なども日本とは全く違う環境で単身バレーボールに打ち込む選択をした及川君を応援します。他校の生徒といえど、何か我々に出来ることがあれば何なりとお申し付け下さい」
「はい、ありがとう御座います」
「そして、その恩義につけ込むような真似をしてしまい申し訳ありませんでした」
今度は俺達が謝罪の意味でのお辞儀をする。
「いえいえ、ウチの3年も引退してから目標を失ってちょっと呆けていたところもあるので、この練習試合は生徒達のモチベーションをあげるのにとても助かりました。
烏野さんさえよければあと2ヶ月ウチを使って下さい」
「本当ですか! それはとても有り難いお言葉です!」
「はい、是非。……それはともかく、今日はよろしくお願いいたします」
「胸を借りる所存でいます。宜しくお願いします!」
ペコペコお互いに頭を下げ合って解放される。
3人で自陣のコートへと歩き始めた。
「勝手なことしてすみませんでした」
「いえいえ。僕としても『引退した3年生なら練習試合をお願いできないか?』と考えていたので助かりました。青葉城西高校がどうなってるか分からなくてね。
それに事前に報告を頂いたので問題ありませんよ」
「ありがとうございます」
「さあ、今日も猫又君の活躍に期待してます。存分に暴れて下さい」
「はい!」
よーし頑張るぞー!!
って所で全体集合がかかった。おおん。逆戻りする。
青葉城西高校側のコートに集まって、背番号順に2列で並ぶ。右が青葉城西高校、左がウチ。
「気を付けー! 礼!!」
「「「お願いします!!」」」
青葉城西高校がホストだから及川先輩が号令を掛けると、あっちの監督が話し始めた。
「青葉城西高校男子バレー部監督の入畑です。
烏野さん、今日は遠いところからお越し下さってありがとう御座います。そして、春高進出おめでとう御座います。
4月の練習試合から光るものがあって、危機感を覚えていたら案の定でした。是非ね、宮城県を代表して1試合でも多く勝ち上がって欲しいです。頑張って下さい。
それはともかく、インハイ予選のリベンジを目指して集中してきました。お互いに怪我の無いように良い試合をしていきましょう。
半日ですが宜しくお願いします!」
「「「はい!」」」
武田先生達は話さないみたいで、早速これからの流れの説明に入る。
「それでは、13時45分くらいから練習試合をしていきます。寒くなってきたのでしっかりとアップをして身体を暖めて下さい。それでは始めていきましょう」
「「「はい!」」」
「気を付けー! 礼!!」
「「「ありがとうございました!!」」」
さーて、アップの時間だ。
時間までアップをして、早速試合に移った。
1セット目、【27-25】で勝ち。
2セット目、【24-26】で負け。
3セット目、【28-26】で勝ち。
4セット目、【25-23】で勝ち。
5セット目、【25-22】で勝ち。
4セット取って1セット取られたってところで時間になった。全体で集合する。
「普通に強いとしか言えません。限られた時間で個人の実力とチームの完成度をもっと高めていって下さい。そして、今度こそリベンジさせて頂けると嬉しいです」
「こちらこそ是非お願いします!」
やっぱさー、めっちゃやりにくいんだよなー。白鳥沢は牛島選手を止めればなんとかなるって感じだけど、青葉城西高校はヌルって対応してくんだよ。水を押した時の手応えのなさみたいな感じ? 手応えが無いって言うか。ひぃー、やりにく。
ネットとかモップ、片付けの準備をしていると、青城の4番に声をかけられた。確か〝いわちゃん〟とか呼ばれてたような。
「13番」
「? はい」
「ちょっと時間貰って良いか?」
「はい、自分でよければ」
4番と横並びになってコートにモップを掛けていく。
「及川に教えたトレーニングとか俺にも教えてくれねえか? あいつケチだから教えてくれなくて」
「良いで――」
そこに、及川先輩が走って乱入してきた。
「――駄目ー! 駄目でーす! にゃんこ君も岩ちゃんに教えなくて良いから!」
「てめえは黙ってろ! うんこ野郎!!」
「岩ちゃんったらお下品~!」
4番はおちょくってきた及川先輩を追いかけてギャアギャア始めた。手隙になったモップを飛雄が拾って作業を再開する。
「及川さんと岩泉さんいつもあんな感じだから放っておいて良いぞ」
「幼なじみって言ってたっけ」
「おう」
青城の中でも仲良く見える。変な遠慮が無い感じ。姉ちゃんと美緒、彩歌ちゃん彩音ちゃんとはちょっと違った雰囲気だ。
「及川さんって進路どうするんだろうな」
……俺は言わないぞー。そういう約束だからな。
「聞いてみれば?」
「聞いたら『飛雄には教えないもんね~!』って言われた」
「飛雄にはガキっぽいよね、及川先輩」
「ガキっぽい?」
「そう。簡単に言えば気になる女の子にちょっかい出しちゃう男子何だよ。飛雄好かれてるねぇ」
「…………」
「そんな顔すんだな」
やべえめっちゃ嫌そう。恋愛にあんまり興味無さそうな飛雄でも同性は嫌か。
「4番の先輩は?」
「岩泉さん? コーチになりたいからそういう勉強するって。烏養コーチみたいによ」
「へー。アシストコーチとかの資格取るのか」
「さあな。そこまでは聞いてない」
「春高までに青葉城西高校と練習試合何度かしたいねえ」
「ああ。及川さんを越える」
「飛雄には無理だよ! バーカバーカ!」
……そこモップで掃除したところなんですけどぉー。後でやって下さいね?
月曜日は青葉城西高校との練習試合の振り返りと無事に埼玉県代表になった森然高校の決勝を見て分析。
それからは普通に、朝練、授業、放課後練と繰り返す日々だった。そして、遂に明日は東京都の代表決定戦の日だ。やべー、こっちが緊張すんだけど。
「おまえが緊張してどうすんだ」
「いやだってさ? 祖父ちゃんは平気なの?」
「こればっかりはな。ほら、落ち着けって」
「う、うん」
いやー、無理だって。美緒の中学受験の合格発表日と同じくらい緊張してるかも。自分より他人の結果が気になるっておかしくないよね。
井闥山と戸美。梟谷と音駒。
まずはその組み合わせで試合をして、勝った2校は春高進出決定。負けた2校で戦って、勝った方が開催地枠で春高に進出する。
下馬評でも井闥山と梟谷はほぼ確定、残り1枠を音駒と戸美で奪い合うって感じだ。いやー、どうなるかな。
「なんか去年までと違う」
「そりゃ高校生なんだから当事者だ。仕方ねえだろ」
あー、やばい、どうしよう。
翌日、実際に試合が始まるまでは練習して、10分前になったら視聴覚室に移動した。それで、これから試合の中継を見る。皆ソワソワしてたから怪我のリスクがめっちゃ高かった。
まずは梟谷と音駒の試合を見る。視聴覚室の前のプロジェクターには見知った顔ぶれが練習してる様子が映し出されてた。
「梟谷のユニフォームかっけえな白黒で」
「……パンダみたいだな」
「どっちかというと灰色じゃね? いや思ったけどよ」
「合宿では着てなかったからなー。ちゃんとユニフォーム着て戦いてえ」
「全部倒さないと!!」
今日木兎先輩調子よさそうだな。試合が始まる。
試合が終わった。
1セット目は【25-21】で梟谷、2セット目は【28-26】で音駒、3セット目は【26-24】で梟谷。つまり梟谷が勝ち上がった。
ん~、まあどっちが勝ってもおかしくなかった。
「木兎さんキレッキレだったな!」
「旭さんも覚醒していいんすよ!!」
「そんなゲームコマンドみたいに行かないだろ……」
当然のように井闥山が勝ってたから、3位決定戦はやっぱり音駒と戸美だ。この4校の中だと二回り以上劣ってるから音駒の戦い方をすれば順調に勝てると思う。頑張れー。
井闥山と梟谷はどうかな。キヨ君ちょっと控えめって言うかどっか傷めてそうだったから堅実に行くかも。そうなると梟谷が勝ってもおかしくない。
3位決定戦、つまり音駒と戸美が終わった。
1セット目は【25-18】、2セット目は【25-17】でストレート勝ち。途中衛輔君が観客席の方に吹っ飛んでいったボールを追わなくて良かった。あそこは目の前の1点じゃなくてこの先の試合の方が大事だったし。
これで音駒も開催地枠で春高進出が決定した。はー、良かった。まあ、トーナメントで当たるかどうかが問題なんだけど。山が違ったら決勝戦でしか会えないとかね。
お互いに全国制覇をできるだけの力を身につけていればどっかで戦えるでしょう。
「つーわけで、森然に続いて梟谷と音駒も春高進出決定だ。12月に行われる抽選会次第で戦うかどうかが分かる。
正直、全国進出ができたとしても当たるかは分からねえ。でも全国制覇をできる実力があれば決勝戦で戦えるな。ってことでもっと強くなろう」
「「「はい!」」」
「生川どうですかね?」
「来週だから分からん。残っては欲しいけど、神奈川も強豪揃いだ。頑張って欲しいな」
「そうですね」
「今日はこれで終わり。整体行くぞ、準備しろー」
「「「オォーッス」」」
あと買い出しもするよな。準備しよう。
家に帰ってお風呂とか夕ご飯を終えて、烏の方の祖父ちゃんと一緒に猫の祖父ちゃんから送られてきた今日の試合の録画を見てたら、猫の方の祖父ちゃんから電話がかかってきた。
『よぉ、烏養と繋護。聞えてるか?』
「聞えてるぞー」「大丈夫ー」
『こっちも大丈夫だ』
何十何百と重ねてきたやりとりでお互いに電話の不調が無いかの確認も終わった。
「お互い残れて良かったな」「お疲れさま」
『そうだな。……まあ組み合わせ次第なんだが』
「こればっかりは仕方ねえよ。お互いに決勝まで残れればそんなに考える必要は無いんだがな」
『それに何が起こるか分からないからな。インフル、交通機関関係と対策しないといけねえ事は多すぎる』
「特に武田先生も繋心もバタバタするだろうからちっとな」
『ああ、それなんだが、葵育と育音に烏野の案内を任せるつもりだ。多少は安心するだろ』
「良いのかよ」
『本人達も快諾してくれた』
「そりゃあ助かるな」
葵育おばさんと育音おばさんがいてくれるなら大分安心する。蛍も東京の人混みは体感したこと無いって言ってたし、ちょっと不安材料が多すぎるから。
『烏養は来られるのか?』
「そのつもりだ。体調もすこぶる良好だしよ」
『寒くなってきてるだろうから気を付けろよ』
「おう、おめえも酒には気を付けろよ」
『祝勝会だから良いんだよ』
「まーた明育達にチクチク言われるぞー」
……これ、2人にした方が良いな。
「先寝るね、祖父ちゃん達寒くしないようにしてよ」
「ん? ああ、そうか、悪いな」
『気を遣わせて悪い。繋護も怪我防止と体調管理にはしっかりとな』
「うん」
「お休み」って言って、2人の電話を邪魔しないためにもその場を離れた。
春高のパンフレットに乗せる選手のデータを乗せるために、生年月日と学年、身長と体重、最高到達点、ブロックの最高到達点――助走ありと垂直跳びの2種類って言った方が良いかな――の計測をして翔陽と飛雄が賭けに勝った負けたって言い合いをしてる。
俺の場合は【1996年4月2日生まれ、1年、173.3cm、58.2kg、303cm、294cm】って所だ。4月から7cm近く伸びてるから、ここまで来たら175cmを目指したい。あと体重も減ってて、エネルギーが不足状態だからもうちょっと食べないと。体重が落ちたの俺だけだったし。60kgはキープしておきたい。
若林先生からの食育もきちんと身についていて、皆4月の時と比べて段違いだ。
「皆ー、お疲れ様!」
「っ! 集合!」
「「「オォーッス!」」」
コートの準備をしていると、どこか興奮している武田先生が体育館にやってきてミーティングに入る。何か良いことあったのか?
「早速ですが、ビッグニュースです。
影山君、猫又君、君達2人に全日本ユース強化合宿の招集がかかりました!」
……ゼンニホン? ユース? ……えっ、マジ? へー。
95年と96年生まれの歳だからU-18だっけ。U-19? どっちだ? まあいいか。
「「「っ!!?」」」「全日本!?」「……JAPAN!?」
「「「すげぇーっ!!」」」
「やるじゃねえか! 繋護! 影山!」
「痛い痛い。ノヤ先輩痛いです」
ノヤ先輩が背中に飛び乗ってきて、強制的におんぶをすることになる。手を塞がってる状態でスガさんに髪の毛をグシャグシャされて「あー」って感じ。セットしてるわけじゃ無いから別に良いけど。
……それよりも髪の毛大分伸びてきたか。良樹君の結婚式前までに切っておかないと。……あれ?
「武田先生、それっていつからですか?」
「12月5日から9日ですね!」
あー……、マジかぁ…………。
良樹君の結婚式は8日、京都で行われる。つまり被っちゃった。あはっ、残念だけどユースは辞退だな。
「春高直前と言うことなので強制では無いそうです。先方からも――」
「行きます」「行くべきでしょう」「すみません、辞退します」
「「「ん? ……ん?」」」
飛雄と大地さん、俺の発言が同時に被さって、特に俺の発言に耳を疑った皆がぎこちなく俺の方を見てくる。
「ねこ? 今なんて?」
「お声を掛けて頂いたのはとても有り難いんですけど、夏くらいからお伝えしてるように8日に従兄の結婚式があって7日から2日間、場合によっては9日もお休み頂く予定です」
「あ。……あ!? 申し訳ない、猫又君!! すっかり忘れてました!!」
「自分こそお手を煩わせてしまってすみません!!」
武田先生とペコペコお辞儀して、いつの間にかノヤ先輩は俺の背中から離れていった。
「結婚式ならしょうがないだろ」
「そっすね。……あー、でも」
「はいはい。田中も文句言わない。部活とお前のお姉さんの結婚式が被ったら、お前もそうするだろ?」
「そうっすね。流石に姉貴の結婚式行きます。……ま、当分先だと思うっすけど!」
そこで、何かに気づいた力先輩が挙手をしてコーチに問いかけた。
「コーチもその日は休みですか?」
「いや、猫又監督の方の親戚なんだよ。知り合いではあるけど、参列するって間柄じゃねえ。年に1回すら会わねえし。あとそいつも『コーチ優先しろー』って言ってくれてるしな。とりあえず祝電だけは送るつもりだ」
「なるほど」
残念だけどしょうがない。良樹君の結婚式は去年あたりから決まってたことだし。行くって行ってあるし。……あー、でも興味あるな。
いや、今度選ばれるように頑張ろう。おし。
「分かりました。ではそのように伝えておきます。
そしてもう1点。条善寺高校の穴原先生と白鳥沢学園の鷲匠先生からです。
宮城県内の高校1年生を対象にレベルアップを目的とした強化合宿を行うそうで、ウチからも月島君、君にお声がかかっています」
「…………」
「ツッキー!」「「「月島!!」」」
おー。……条善寺高校ってあのファンキーチームか。ウェイウェイしてる感じの。2対2とかビーチバレーやってそうな学校。
んー? 鷲匠先生が責任者ではないのか? 分からん。……あれ、翔陽の反応がない。なんか考え込んでるな。
「色んな1年に揉まれて来いよー、月島」
「はい」
「それでは、月島君も参加と言うことで連絡しておきますね。また後日詳細をお知らせします。では練習頑張ってください! 烏養君お願いします!」
「「「はい!」」」「おう」
離れてた飛雄が翔陽に近付いて、若干緊張感が走る。煽らないと良いけど。
「先に行くぜ」
「…………おう」
「……何か変なもの喰ったか?」
「ちげーよ!」
何考えてんだ、翔陽の奴。
部活が終わって、コートの片付けももうすぐ終わるって時に部活中ずっと静かにしてた翔陽が俺に話し掛けてきた。
「繋護」
「どした?」
「どうにかして1年だけの合宿に行けないかな」
やっぱりそれか。
「うーん……、翔陽は現時点で選ばれてないからなぁ。他の高校の1年だって行きたい人はいるだろうし。ただ」
「〝ただ〟?」
「お願いすれば、練習してるところの見学は出来るかも?」
「見学?」
「そう。……翔陽はなんで行きたいの? 烏野でしないといけないことは沢山有るよね。スガさんとの速攻の合わせとかレシーブ練習とか。烏野を蔑ろにして良いってわけじゃないと思うけど」
「強い人がどうやって強くなるのかもっと知りたいから。
東京合宿みたいに、梟谷のやり方、音駒のやり方、森然のやり方、生川のやり方って学校によってトクチョー? が違うからもっと色んなやり方を知りたい」
お、良いじゃん。烏野つまんねーって言ってたらボコすけど、そういうちゃんとした理由があるなら応援したい。特徴って漢字で書けるように頑張れよ。
「それを説明すれば責任者は許してくれるかも。少なくとも宮城県内のバレーボールプレーヤーのレベルアップを図ることが目的だから翔陽は該当するし。中学まで千葉県民だった俺よりかはずっと可能性はあるはず」
「そっか」
「そ。とりあえずまずは大地さんとスガさん、武田先生と烏養コーチの4人に相談してみよう。〝もしかしたら〟もあるかもしれない。相談するだけなら無料だし」
「うん」
言い出しっぺは俺だから付き添ってやろう。翔陽と一緒に大地さんとスガさんの所に向かう。
「キャプテン、副キャプテン!」
「おー? 珍しいな、日向が俺のこと〝副キャプテン〟って呼ぶの」
「すみません、時間貰っても良いですか?」
「おう、良いぞ」
そして、翔陽は自分の口でさっき俺に話したことを伝えていく。かくかくじかじか。
「なるほど。……そうだな、まずは相談してくれて助かった。日向と影山は突っ走ることが多いから、放っておいて勝手に乗り込んだ、とかならなくて良かった」
「うっ、すみません!」
「それ含めて、チャンスがあるなら俺は『行って来い!』って送り出したいかな。スガは?」
「俺も賛成。武田先生とコーチに相談してみよう」
「おす!」
そして、今度は4人で大人2人のところに。
ここでも翔陽は自分の口で説明した。かくかくじかじか。
「……見学ですか。練習に参加、ではなく」
「はい。繋護に教えて貰ったんですけど、合宿に行きたい他校の1年生もいるからサシオイテの参加は難しいだろうって。でも見学なら可能性としてはあり得るかもって」
「僕としては是非送り出したいところですけど……、烏養君は?」
さっきから黙ってる烏養コーチがなんか不気味。まあ、でもいきなり3人抜けるとメニューも考えないといけなくなるしなー、コーチとしては当然か。
「……日向」
「はい」
「春高まで1ヶ月もねえ。なのに練習すんじゃなくて見学か。どうしてだ?」
「もちろん烏野でしないといけないことはたくさんあります。でも強い人がどうやったら強くなるのかも知りたいです。今のままじゃ俺は強くなれないですから」
「ほーん」
烏養コーチは顎に手をやって、あごを摩り出す。
「烏養君?」
「本心としては見学するくらいならこっちの練習に参加して欲しいな。5日間って馬鹿にならないし」
「うっ」
まあそうだよな。
「でも、宮城県内の他校にいる同級生に揉まれる機会がそうそうあるわけじゃねえ。Vリーガーを多く排出している鷲匠先生の指導は日向の今後のバレー人生に絶対役立つはずだから。
俺もアリなんじゃねえかなと思ってる」
「本当ですか!?」
「まあな。ただ、こっちが良くてもあっちの都合もあるからなんとも言えねえ。穴原先生と鷲匠先生の許可がねえとな。
悪い先生、ちょっと聞いてみてくんねえか?」
「いえいえ、電話位なら何度だって!」
「良かったな、日向」
「はい、ありがとうございます!!」
鷲匠先生なら許可出してくれそうだけど。もう1人の先生は知らない。誰だっけ。
家に帰って、祖父ちゃんにユースの強化合宿に声をかけられたことを伝える。あと辞退したことも。
「ほっほ、マジかよ。実は猫又と『繋護が将来日本代表になるかもなー』なんて話してたんだよ」
「そうなの?」
「おう、聞いてみろ。リベロ〝も〟できる選手の中でリベロ〝しか〟出来ない繋護が選ばれるなんてすげーんだぞ。
今回はしょうがねえから、次は選ばれるように頑張れ」
「うん」
先に結婚式に出るって良樹君と約束したしね。そういう筋は通さないと。……あー、キヨ君とモト君は選ばれてそうだな。
武田先生が条善寺の先生に電話、更に条善寺の先生が鷲匠先生に電話して「直接翔陽の口から聞きたい」って事になったみたいだ。
そんなわけで、今日の放課後に武田先生と翔陽は白鳥沢に行って直接交渉といく。
「翔陽、頑張って来いよー!」「失礼の無いようになー」
「お、おおおお、おす!」
「緊張してんなー」
「いやだって、白鳥沢の監督めっちゃ恐いじゃん」
「まあなー」
「進路とかで面接の回数は増えるからそういう機会だと思って頑張って来いよ。圧迫面接だ」
「お、おす!」
皆に見送られて翔陽は武田先生と一緒に白鳥沢に向かっていった。頑張って来いよー。
◇
白鳥沢学園の応接間で白鳥沢学園男子バレー部の監督を務めている鷲匠鍛治と条善寺高校男子バレー部の監督を務めている穴原孝昭、その2人と向かい合って烏野高校男子バレー部の顧問を務めている武田一鉄と日向翔陽が席に着く。
まず武田一鉄が口火を切った。
「鷲匠先生、穴原先生、本日は本校生徒の為にお時間を取って頂き誠にありがとう御座います」
「こちらこそご足労頂き感謝します。話は伺いました。自分の口でご説明頂けると幸いです」
鷲匠鍛治に促され、武田一鉄は緊張している日向翔陽の方を向いて笑顔で頷いた。日向翔陽はここに到着する前に言われた武田一鉄の「僕もフォローするので頑張ってみましょう」という言葉を思い出して少しだけ緊張が和らぐ。
「日向君、どうぞ」
「あ、はい!
……あ、あの! 俺、……いえ! じ、自分にも12月に行われる疑似ユース合宿の練習の見学をさせて下さい!」
「……春高開催までは1ヶ月切ってるだろう。なんで見学をしたいんだ」
鷲匠鍛治の鋭い眼光が日向翔陽を突刺し、彼は若干萎縮する。しかし、牛島若利に向き合ったように勇気を振り絞った。
「い、今のままだと強くなれないからです」
「ほう?」
「影山や繋護、キャプテン達のおかげで俺は今試合に出られています。ですが、この先、高校卒業などで新しいチームでバレーをやることになった時に『烏野だから日向翔陽は通用していた』とか『影山ありきの日向翔陽だった』と言われないようにもっと強くなりたいんです。
強い人達が何故強いのか、どんなことをして強くなったのかを知るためにも見学したいんです。お願いします! 自分に見学する許可を下さい! お願いします!!」
日向翔陽は椅子から立上がって、90度近く頭を下げる。日向翔陽のその姿に穴原孝昭は驚き、武田一鉄は4月から成長している教え子にしたり顔を、そして鷲匠鍛治だけは表情を変えない。
5秒、10秒……と鷲匠鍛治は何の動きを見せずにそのまま沈黙が続く。その姿に「自分がフォローしなければ」と思い至った武田一鉄もまた席から立上がり口を開く。
「鷲匠先生、穴原先生、私からも何卒お願い致します」
そして、頭を下げた2人の様子を見て、遂に鷲匠鍛治が口を開いた。緊迫した雰囲気が更に強まる。
「……保護者、校長、武田先生のサインが入った合宿同意書、保険証のコピー、合宿参加費、金曜から泊まる分の2日間の着替え等必要なものを準備するように。必要書類は月島と一緒に送ってきて下さい」
「っ!?」「えっ、あ、はい! 必ず!」
「「ありがとう御座います!!」」
鷲匠鍛治の言葉に日向翔陽と武田一鉄は飛び起き、2人してお礼を伝える。
「ただ、呼ばれてねえことは事実だから呼ばれてる連中と同じような待遇をさせるわけにはいかねえ。ボール拾いだったり雑用がメインになるだろう。自主練は好きにしろ」
「「はい!! ありがとう御座います!!」」
「疑義があればまた連絡して下さい。穴原は何かあるか?」
「あ、いえ、特に」
「では書類お待ちしてます」
「はい! ……日向君!」
「はい!!」
こうして、日向翔陽の疑似ユース合宿の見学の許可が降りた。
武田一鉄と日向翔陽の退出後、それとなく穴原孝昭は鷲匠鍛治の本意を探る。
「それにしても、まさか鷲匠先生が日向君に許可を出すと思いませんでした。僕は推薦していたので願ったり叶ったりなんですけど」
「……なあ、穴原」
「はい」
「最近自主的に動ける子供が少なくなったと思わないか?」
その言葉を聞いて、穴原孝昭は自分の学生時代と今を比較する。思い当たる節があった。
「確かに。『昔の方が良かった』と言うつもりはありませんが、まあそんな雰囲気もありますよね」
「だろう? 『誰々が言ったから』だとか『こうやれって決まってるから』だとか自分で考えない指示待ち人間が増えてるように思える。が、やっぱり自主的に行動できる人間の方が大成しやすい。
日向翔陽は周りに助けて貰いながらも自分でその意見を表明した。だったら、大人である俺達が折れてやらんとな。ま、そういうこった」
「なるほど……」
「まあ、正直あいつがそこまで考えていたとは思わなかった。勉強も苦手そうだしよ」
「……それは、はい、そうですね」
穴原孝昭もまた、日向翔陽と月島蛍と比べるとやはり落ち着きが無い印象を持っていた。
「失礼ですが影山君もあまり勉強ができるイメージを持っていません。となると月島君と猫又君でしょうか?」
「……だろうな」
「猫又君、どこ出身なんでしょうね。
僕としても気になるというか、あのレシーブ力は脅威的なので対策を取りたかったというか。個人的にも盗んで持ち帰りたかったと言いますか。
庵里中って宮城にありましたっけ?」
「千葉だ。千葉の庵里中」
「千葉の庵里中。……え、今年全国ベスト4のですか?」
「おう。去年は関東大会4回戦敗退で全国には出られてねえから存在自体すっぽり忘れてた」
鷲匠鍛治が知っていたことに加え、全国クラスの実力を持った中学の名前が出て穴原孝昭は驚愕する。それと同時に納得もした。
「……よくご存じでしたね」
「烏養の孫だからな、昔から何かと話したりはしてた。俺にとっても孫みたいなもんだ。
……まあ若利があれだけ通用しないとなるとリベンジしたくもなる。親戚の結婚式だからしょうがねえけどな」
「そうですね。あー、でも彼のレシーブもっと近くで見たいなぁ」
穴原孝昭と鷲匠鍛治は口には出さないが、烏野高校の躍進は来年再来年と続くだろうと確信している。この1年で烏野高校は脅威的な存在となった。
◇
武田先生と翔陽が白鳥沢から帰ってきて結果を聞こうかと思ったけど、聞くまでもなかった。2人の顔を見れば一目瞭然だ。
「良かったなー、日向」
「はい!」
「……他校に迷惑かけるなよ。僕は面倒見ないからな」
「かけねーよ!」
鷲匠先生って筋は通す先生だから大丈夫でしょ、とは思ってたから良かった。ただ、これで無断で乗り込んでたら警察沙汰になってただろうな。4月から成長してくれて良かった。いや、本当に。
11月24日。再び青葉城西高校3年生チームとの練習試合の日だ。
学校のバスでえっちらおっちら。青葉城西高校に到着した。俺はただ寝てただけだけど。
「おはようございます!」
「「「おはようございます!!」」」
「今日は第三体育館での練習試合になります! 宜しくお願いします!!」
「「「お願いします!」」」
及川先輩のお出迎え。敬語似合わないな。チャラいし。将来はホストとか客引きやっててもおかしく無い。ケッ。
「大王様! 大王様って高校卒業してもバレーやるんですか!!」
「もちやるよ~」
「大学ですか!? 実業団ですか!?」
「へん! 飛雄には教えないもんね!! バーカバーカ!」
「俺には教えて下さい!」
「なんで!?」
あとでウィダー飲んでおこうかな。期末テスト近いから勉強しないとなー。
前みたいに、アップをしてから練習試合の時間となった。
1セット目、【25-22】で勝ち。
2セット目、【26-28】で負け。
3セット目、【26-24】で勝ち。
4セット目、【27-29】で負け。
5セット目、【25-21】で勝ち。
3セット取って2セット取られた。「12月も是非お願いします!」って武田先生が交渉してる。やりづらい学校だからめっちゃ良い練習相手だ。あと2回くらいお願いしたい。
「大王様! サーブ見せて下さい!」「俺にもお願いします! 及川さん!」
「何だよこの2人!?」
迷惑は掛けるなよー。
あ、クリスマスどうしよう。姉ちゃん達に何かプレゼント送りたい。探しておこう。……もう11月も終わりなのか、早いな。
生川高校と椿原学園の決勝戦を見終えた。神奈川第一代表は椿原学園、第二代表は生川高校に決定。これで梟谷グループは全校春高進出決定だ。
「梟谷グループ全部春高進出かー」
「……俺達って梟谷グループに加えられてんの?」
「「「えっ」」」
確かに。合宿今年だけかもしれないぞ。……来年は来年か。どうにかしよう。
「よーし、じゃあテスト勉強頑張るぞー」
「「「……ウィーッス」」」
明日から期末テストだ。ま、大丈夫でしょ。今年もあと1月。
【登場人物まとめ】
リベルタ・メネム 日本に興味があって現在ホームステイ中。20歳
・ユースについて
2012年10月に行われた第9回アジアユースと2013年6月下旬に行われた第13回世界ユースを参考にされたのでしょうけど、ここで初招集を行うとしたら、1996年1月1日以降に生まれたメンバーしか選考基準に含まれないのではー? と疑っています。半信半疑ならぬ一信九疑くらいですね。
実際にはこんな感じでした。
第9回アジアユースと第13回世界ユース……1995年1月1日以降に生まれたメンバー
第10回アジアユースと第14回世界ユース……1997年1月1日以降に生まれたメンバー
アジア選手権でキャプテンを努めていたI川選手も第9回アジアユースと第13回世界ユースのメンバーだったので、興味があったら調べてみてください。
いわゆる星城高校キセキの世代と呼ばれている世代ですね。せっかくなら連載中に星城高校へインタビューしに行けばよかったのにと思っています。