烏野高校の猫又君   作:青黄紅白

38 / 38
~稲荷崎高校 ベンチメンバー~

監督 黒須法宗
コーチ 大見太郎

01 北信介
02 大耳練
03 福留茂也 
04 尾白アラン
05 銀島結
07 宮侑
08 天笠充良 
09 戸波忠生 
10 角名倫太郎
11 宮治
13 小作裕渡
14 理石平介
15 赤木路成 リベロ
16 白山公次 リベロ

※3、8、9、16番がオリキャラ

~スターティングオーダー

稲荷崎高校からサーブ
11 宮治 10 角名倫太郎 5 銀島結
4 尾白アラン 2 大耳練 7 宮侑

烏野高校からサーブ
10 角名倫太郎 5 銀島結 7 宮侑
11 宮治 4 尾白アラン 2 大耳練


2013年1月③

 2試合目で、朝8時からのコート練習に間に合うように今日は朝練が有る時間と同じくらいに起きて準備しないといけない。つまり7時頃にはもう動けないと駄目。

 朝起きられない組が寝ぼけてる。

 

「誰か田中起こせー」

「起きてますよ、スガさん」

「「「はあっ!?」」」

 

 なんか昨日から龍先輩から回ってね? 大丈夫?

 

「田中さんどうしたんだろ」

「新山女子のアマナイと幼馴染みなんだろ? あれは絶対脈ありだよなー」

「やめろ木下! これから試合だって!」

 

 「いやでも昨日の兄ちゃんマジかっこよかったしな。脈なんかねえだろ。……脈とは? 俺は生きている?」とかぶつぶつ龍先輩が言いだしてる。ほっときゃ直るでしょ。テレビと一緒。

 

「7時にはここ出るぞ。朝飯とストレッチしっかりな!」

「「「はい!」」」

 

 でも朝練よりは遅いんだよな。バタバタしなくても大丈夫っと。

 

 

 「「けーいしん、きーたーぜ」」の一言と一緒に良樹君と良規君が登場して烏養コーチをびびらせた。簡単に言えば荷物持ちのお手伝いで、おばさん2人にお願いして快く引き受けてくれたらしい。

 昨日みたいに関係者の通路に入るところで別れる。

 

「稲荷崎も決して完璧なチームじゃないからね。ミスはするし、2年生が中心だからどうしてもメンタル面が不安定。

 攻撃する力は烏野だって負けてない。自分達のバレーやってきな」

「「「はい!」」」

 

 通行人は稲荷崎の勝ちを疑っていない人が多くて、「烏野カワイソー」って声でいっぱいだ。20点取れたら良いよねー、みたいな。……っは、好き勝って言ってろ。

 助っ人4人の協力でコート練習も上手くいったし、サブアリーナでも十分身体を動かせた。

 

「2セット目中盤です!」

「おし! そろそろ着替えて向かうぞ!」

「「「はい!」」」

 

 やっちゃんが点数を教えてくれて、メインアリーナに行く時間が来た。稲荷崎が黒白のユニフォームだから、リベロの俺とノヤ先輩だけが黒い方のユニフォームに着替える。いよいよか。

 

◇

 

 烏野高校と稲荷崎高校の両校が公式ウォームアップをする前から烏野高校応援団の面々も続々と席に着き、試合に向けて応援の準備をしていく。その中でもやはり稲荷崎高校の吹奏楽部も組み合わさった応援団が目を引いた。

 昨日は烏養一繋と烏養典子と一緒に猫又家に泊まった日向夏がその迫力に目を瞬かせる。

 

「うわぁー! すっごーい!」

「すごいよねー。夏ちゃんは吹奏楽とか聴いたことある?」

「んー……? 運動会の行進とか『チャー、チャララー、チャーラー』って聴いたことあるよ。ゆっくりした曲」

「ああ、【威風堂々】だね」

「イフードードー?」

「可愛らしい曲になっちゃった」

「えっへへー」

「夏ちゃんのほっぺたもちもちー」

「くすぐったーい! やーめーてー!!」

 

 千葉県と宮城県、普段は距離が離れていてもすっかり仲良くなった猫又家姉妹と込田彩音、日向夏がじゃれ合っては烏野高校応援団一同もだんだんとリラックスし始める。

 そんな中に昨日と同じく締太鼓や篠笛などの楽器を持って【烏野太鼓】と法被を着た田中冴子達応援団も続々とやって来た。大体30人といったところか。

 

「相手の応援凄いねー!!」

「「「お? ……おお!」」」

「相変らず冴子さん達格好いいですー!」

「でしょー? 今日も応援すっからねー。嶋田の兄ちゃん、どこら辺使って良い?」

「こっちだこっち!」

「はーい。じゃあ準備しようか」

「「「はーい」」」

 

 田中冴子ら和太鼓チームが嶋田誠の案内に従って空いていたスペースに移動しては楽器の準備を始めていった。

 見慣れない和楽器ということもあって、烏野高校応援団もまた周りの観客の注目を集めるようになる。

 そんな集団とは少し離れて烏養一繋と昨日に引き続き応援に来た羽染葵育と下園育音が口々に話し合う。

 

「さっすが稲荷崎。仕上がってるねー」

「その反面、やっぱあいつら硬いな」

「そうですね。……ポテンシャルとしては負けてないから普段通りのバレーをしてくれたらなーって思います。そうじゃないと厳しいと思いますけど」

「一繋さんの見立てだと?」

「……7対3、いや8対2で稲荷崎が勝つな」

「「そうですよねー」」

 

 烏野高校排球部一同は初めての全国大会。その一方で稲荷崎高校は3年生2年生はもちろんのこと、今年度のインターハイで準優勝と結果を残しているため〝場慣れ〟と言う意味では格段に劣っている。

 相当厳しい戦いになるだろうな、というのが3人の見解であった。

 

「「「お願いします!!」」」「「「お願いします!!」」」

 

 エンドラインに両校のメンバーが並んで、主審の笛に合わせてネット際まで走る2校の登録メンバーが走る。いよいよ宮城県代表の烏野高校と兵庫県代表の稲荷崎高校の試合が始まる。

 

◇

 

 エンドラインに並んで挨拶したらベンチサイドでミーティングだ。

 

「相手のデータは入ってるな?」

「「「はい!」」」

「分かってると思うが稲荷崎は強敵だ。……が、付け入る隙はある。焦る必要はねえぞ。

 1球1球丁寧にやること。いいな?」

「「「はい!」」」

 

 続いて武田先生が話し始める。

 

「白鳥沢の時も我々が勝つだなんて誰も思わなかった。けれど皆10月よりも上達している。そして今回は心強い和楽器による応援もある。

 さあ。今まで育ててきたその翼で舞って下さい! 君達ならば出来ますよ!!」

「「「はい!」」」

 

 やっちゃんを除いた全員で円陣を組む。

 

「烏野ー! ファイ!」

「「「オォーッス!」」」

 

そして背番号とポジションの確認の時間だ。俺とノヤ先輩はサイドラインでお腹側の番号を見せる。

 

稲荷崎

11 10 5

4 2(リベロ) 7

 

烏野

9 飛雄 11 蛍 3 旭さん

5 龍先輩 10 翔陽(俺) 1 大地さん

 

 相手のオーダーは事前情報と変わらない。サーブからでもレシーブからでも7番宮侑から絶対にサーブを打ってくるのが稲荷崎の戦い方だ。サーブ強いもんね。そしてあっちからだから、サーバーは7番。さーて、こっちも新ポジションのお披露目だー。

 

「繋護、頼むぞ!!」

「おー」

 

 オーダーの確認が終わったら、サイドラインで翔陽と入れ替わる。ハイタッチして、コートに一礼。そしてバックセンターに。

 そう、今回は稲荷崎のサーブには俺。こっちからのサーブの時はノヤ先輩がコートに入る分業制を取る。別に俺1人でも楽勝なんだけどなー。

 

「「「きゃあー!! 侑頑張ってぇー!!」」」

「「「侑1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 7番はエンドラインから6歩離れた。つまりジャンプサーブ。6歩の時はジャンプサーブ、4歩の時はジャンフロって使い分けてるけど、わざわざ敵に対策させてどうするんだって話。あと種類の多さでいったら久志先輩の方が凄くない?

 あ。今龍先輩の方見たな。やっぱり狙ってくるか。

 主審の笛が鳴って7番がジャンプサーブを打ってきた。狙いは当然龍先輩。だ・け・ど?

 

「頼む!」「猫又!」

 

 ほいっとな。パパッと左に動いてアンダーで処理。うん。及川先輩とどっこいどっこいかな。

 

「「「ナイスレシーブ!」」」「「「カウンター!!」」」

「バック!」「センター!」「バック!」「ライト!」

 

 俺が上げた1本目を見ながらバックレフトの龍先輩、センターの蛍、バックライトの大地さん、ライトの旭さんがトスを呼んで、同時に助走に入った。当然飛雄もツーを打てる高さに上げてるから実質5枚。

 

「いけっ!」

「「「11番!」」」

 

 飛雄が選択したのはセンターの蛍。Bクイックに跳んだ蛍に合わせてトスが伸びていって、10番のブロックの完成前に蛍がスパイクを打って決めた。先制点はこっち。【0-1】。

 

「良し!」

「「「ナイスキー!!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。そして、サイドラインまで向かっていってまず翔陽と入れ替わる。そして入れ替わった翔陽がノヤ先輩と入れ替わる。通称リベロ2枚戦法。

 

「ノヤっさん頼みます!」「いつでも出られますからね!」

「おうよ!」

 

 翔陽と2人でベンチの方に向かっていって、俺は烏養コーチの話を聞く。

 

「良くやった。宮侑のサーブを1本で切れたことで相手の出鼻を挫けるんじゃねえかな」

「あと龍先輩狙いでしたね」

「サーブのコースが分かるんなら対処しやすい。『もっとだ、もっと! もっと来い!!』をやるぞ」

「はい」

 

 龍先輩を狙わせるようにしてサーブレシーブするのが【もっとだ、もっと! もっと来い!!】って意味らしい。烏養コーチがどっからこの作戦命を取り入れたのかは知らん。

 ……ふははー。だからって全部出たいのには変わりねえからなー。ノヤ先輩の座を俺が貰う。

 そんなことを考えてるうちに、11番宮治がスパイクを決めたことで旭さんのサーブ権は切れた。【1-1】。

 サーブレシーブだから俺の番。パパッと入れ替わってバックレフトに向かう。

 

「「「ギン! 1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 龍先輩にはちょっと後ろに下がって貰ってサーブレシーブを4人でやるようなシフトでいて貰う。消耗させるためって意味だと旭さんも狙ってくんじゃ無いかな。

 そのうち主審の笛が鳴って、5番がジャンプサーブを打ってきた。狙いは龍先輩。

 

「頼む!」「「猫又!」」

 

 ほい完了っと。きわどいところに来た5番のサーブをアンダーで拾って飛雄に返球する。

 

「レフトぉ!」「バック!」「バック!」「ライト!」

 

 レフトの龍先輩、バックセンターの大地さん、バックライトの旭さん、ライトの蛍がトスを呼んで、同時に助走を始めた。もちろん飛雄もツーを打てる。ブロックフォローに入らないと。

 

「お願いします!」

「「「5番!」」」

 

 飛雄が選択したのは龍先輩。速い平行トスがレフトに伸びていく。

……はや。10番がライト側に移動してきてる。でも龍先輩は11番のブロックが完成する前にスパイクを叩き込んだ。【1-2】。

 

「ヨッシャー!!」

「「「ナイスキー!!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。そしたら蛍がサーブだから翔陽と入れ替わる。

 

「23点取れよ」

「おう!!」

 

 ハイタッチしてコートを出たら、振り向いてコートに一礼。烏養コーチの所へ。

 

「サーブレシーブでの失点は避けるぞ。なんとしても触れ。ノータッチエースだけは絶対に辞めろ」

「はい!」

「猫又君ナイファイですよ!」「次もお願いね」

「はい!」

 

 武田先生と清水先輩とハイタッチしたら、既にベンチに座ってるノヤ先輩の隣に座る。

 

「やっぱサーブの球威やばいですね」

「全体的に力やべーな、稲荷崎」

 

 この間に蛍のサーブ権は4番尾白アランの強烈なスパイクで強引に切られた。【2-2】。

 

「いつでも交替できるからな」

「いえいえ。ノヤ先輩こそお疲れでしょうし休んでても良いんですよ?」

「はぁ~ん!?」

 

 ノヤ先輩とハイタッチして、サイドラインまで向かっていく。

 

「速攻の準備しとけよ。上げるぞ」

「分かってるよ」

 

 蛍とハイタッチしてコートに一礼。そしたらコートに入ってバックライトであっちからのサーブに備える。ここは打って来なさそうだな。

 

「「「角名1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 主審の笛が鳴ったら。というか笛と同時に10番がジャンフロを打ってきた。狙いはバックレフトの角っこ。

 

「「大地!」」「「大地さん!」」

「くっ! 影山!」

「はい!」

 

 すんげえ取りづらい所にサーブを打たれて乱された。飛雄がセットアップに走って行って、「影山!」って飛雄を呼ぶ声が響く。翔陽もうマイナステンポで助走してるし。

 

「いけっ!」

「「「10番……!!」」」

 

 遅れてライトの11番とセンターの2番がブロックに跳ぶけど、2人のブロックの完成前に翔陽がスパイクを叩き込んだ。【2-3】。

 

「ヨッシャア!!」

「「「ナイスキー!」」」

「影山も助かった!」

「はい!」

 

 旭さんのサーブだからパパッとノヤ先輩と入れ替わる。コートに一礼して烏養コーチのところに。

 

「なるべく東峰と田中のことカバーしてやってくれな。猫又が広い範囲をカバーすれば澤村も楽になるから」

「はい!」

 

 話し終わったら蛍の隣に座って応援だ。

 飛雄のサーブは相手コートのバックレフトのサイドライン上に落ちてノータッチエース。【2-4】。あれは取れねえわ。一瞬アウトだと思ったし。

 

「「「影山もう1本!!」」」

「1本で切るで!!」

 

 2本目の飛雄のサーブは1本目とは逆のライト側に伸びていって、リベロの15番の腕を弾いて後ろに吹っ飛んでいった。マジかよ……、飛雄調子良さそうだな。【2-5】。

 

「良いぞー飛雄! もう1本!!」

「……なんかさ、全国来てから影山調子良くなってるよね。10月の君みたいだ」

「祖父ちゃん風に言うなら『バレーの神様が降りてきた』んだろうね。蛍も頑張りなよ」

「僕はそんな非科学的なことは信じない」

 

 はーん? いや蛍なら言いそう。

その次の飛雄のサーブはしっかりと返されて4番のスパイクで決められた。【3-5】。よーし、行ってきますかね。

 ノヤ先輩とパパッと交替してバックセンター寄りのバックライトで相手からのサーブに備える。相手のサーバーは11番。

 

「「「治1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 主審の笛が鳴って、……今度は8秒使ってくるのか。だからどうした? って話なんですけどね。

 11番がジャンプサーブを打ってきた。……軌道が低い。

 

「「「前!」」」

「影山!」「飛雄!」

「繋護!」

 

 飛雄がネットインしたボールを俺がトスできるようにアタックライン付近に落ちる1本目を上げて、飛雄はバックライトへと走って行く。

 

「やります!」

「レフト!」「バック!」「センター!」「バック!」「ライト!」

 

 レフトの大地さん、バックレフトの旭さん、センターの翔陽、バックライトの飛雄、ライトの龍先輩の5人がトスを呼んで、同時に助走に入った。さーて、どうすっかねー。

 アタックラインを踏まないようにジャンプして。……ここは。

 

「田中先輩!」

「「「5ばっ!? 1番!!」」」

 

 ここは大地さんでしょー。ってことでレフトに向かって速い平行トスを上げる。俺の掛け声に釣られた相手のブロッカー3人はブロックに跳べずに、大地さんのスパイクをただ見てるだけになった。フリーの状態で大地さんがスパイクを叩き込む。ドバーン。【3-6】。

 

「シャアっ!!」

「「「ナイスキー!!」」」

「影山も猫又もナイス!」

「「はい!」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。終わったらサイドラインに向かっていって――? お、稲荷崎がタイムアウト要求した。

 

「「「オーッシ!!」」」

 

 流れはこっちに来てるんじゃねー? にっししー。

 ベンチサイドに集まって早速ミーティング。ノヤ先輩からタオルとドリンクを受け取ってと。

 

「おーし。出だし良いぞ。でも油断するな。まだまだエンジン暖め中だろうからな」

「「「はい!」」」

「生き馬の目を抜く、という慣用句があります。絶対に油断してはいけませんよ!」

「「「っ!?」」」「「「はい!」」」

 

 想像したらびびったのか、翔陽と飛雄、龍先輩がへにょってなった。あんま聞き慣れない慣用句ではあるよな。流石国語の先生だ。

 さーて2セットで終わらせようぜ。

 

◆

 

 一方、稲荷崎高校男子バレー部一同もミーティングを行っていた。監督の黒須法宗とコーチの大見太郎が口々に烏野高校への対策を伝えていく。

 

「白鳥沢の時もそうやったけど、13番普段名前呼びやろ? トス上げるときには名字で呼ぶことあるから注意していかんかい!」

「「「はい!」」」

「サーブも、5番の坊主に狙わしてるような気ぃするからもっと精度しっかりな。甘いと13番がでばってくるから! もっともっと正確にや!」

「「「はい!」」」

「コートの幅つこてくるからコース絞っていかんかい!」

「「「はい!」」」

 

 実際に対峙すると、ファーストテンポのシンクロ攻撃が想定以上に脅威的だった。加えてブロックを2枚以上つかせないようにコートの幅を使ってくることから稲荷崎高校男子バレー部はなかなか対応できずにいる。

 ミーティングが一段落ついて宮侑が宮治に近付いていく。

 

「なあなあサム? やってみぃひん? やっぱあの速攻おもろいやん」

「……しゃーない。負けたないしな」

「侑、治ー、何の話や?」

「「何でもないでアラン君」」

「ん~~?」

 

 「劣勢の中でもこの双子がイキイキしてんのはなんでや?」と思う尾白アランだが、下手に追及して北信介に目を付けられるのも面倒だった。従って尾白アランは静観する。

 タイムアウトが終了して、6人がコートに戻っていく。

 

◆

 

 タイムアウトが終わって、円陣を組んだらコートに戻る。でも、龍先輩がサーブだからパパッとノヤ先輩と入れ替わってベンチに座った。

 

「龍! 1本頼むぞ!」

「おうよノヤ!!」

「「「田中1本ナイッサー!!」」」

「ここ切んで!」

 

 7番が前衛だからツーがある。でも宮兄弟の場合は7番が前衛の場合には11番がセッターをやって7番を攻撃に参加させることが多い。ただ、俺みたいにリベロの15番がオーバーでトスするって事は滅多に無いから対処しやすい。スクリーンでトスの上げ先を見えなくさせては来るけどな。さらっとやってくるからマジやべえ。

 龍先輩のジャンプサーブがあっちのコートに入って、ライトの4番が触ったけど弾いた。ボールは後ろの方にすっ飛んでいく。サービスエース! 【3-7】。

 

「シャオラ!!」

「「「ナイスサーブ!!」」」

 

 良いね。こっちの作戦は4番を崩して少しでも消耗させる。あの4番レシーブ面は苦手そうだし。どんどん攻めてくぞー。

 主審の笛が鳴って、龍先輩がジャンプサーブを打った。狙いはもう1回4番。

 でも今度は体勢を崩しながらもしっかりと上げてボールが7番に返っていく。

 

「バック!」「D!」「ツム!」

 

 バックライトから11番、Cクイックに跳ぶ2番、そしてレフトの5番の3人がトスを呼んで。……呼んで。っ!? マイナステンポ……!?

 

「旭さん! 11番ブロック!!」

「……くそ!」「いったれ!」

 

 11番がマイナステンポで踏み切って、7番が〝ドンピシャ〟の〝ピシャ〟位の精度で11番にトスを上げる。そのトスを11番が打って、ボールは遅れてジャンプした旭さんの左手に当たって相手コートの外に落ちた。……あれは初期の変人速攻だな。【4-7】。

 

「「ウェーイ!」」

 

 7番と11番がウェイウェイしてるのが見えてくる。一方で烏野の皆は若干動揺してる。

 

「繋護! おまえなんとかなるか!」

「なんとなく!」

「オッケ! 伝えてこい!」

「おす!」

 

 烏養コーチも動揺してんじゃん。パパッとノヤ先輩と入れ替わって5人に加わる。

 

「7番と11番はライトなので、旭さんと龍先輩がコミットで対応って形が今はベストだと思います。翔陽みたいに動き回ったら他のスパイカーに邪魔になりますし、今のは4番が助走できなかったからバックライトから打ってきましたね」

「冷静かよ」

「実際後ろから見てる分にはそこまで恐くないです。ストレートには打たせないようにってのがベストでしょう。ストレートを締めてバックライトに打たせるようにお願いします。これは変わりません、ノヤ先輩と自分で対応します」

「オッケ」

「ま、やるしかないよ。点取り合戦では負けなければ良いんだ」

「「「オス!」」」

 

 相手のサーバーは4番。入れば強いサーバーだ。バックレフトでサーブレシーブに備える。

 

「「「アラン1本ナイッサー!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 龍先輩狙いか旭さん狙いか。なんとなく旭さんを狙ってきそう。

 そのうち主審の笛が鳴って、4番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはレフト側。旭さん狙いだ。……でも。

 

「頼む!」

「アウト!」

 

 良し。サイドラインから30cmくらい外に落ちた。アウトだ。【4-8】。

 

「「「ナイジャッジ!」」」

「はい!」

 

 1人1人にハイタッチをしたら、前衛に上がる蛍と入れ替わる。翔陽がサーブだしね。

 

「あれ、初期の変人速攻だからコミットで止められると思う。あとライトからだけだと思うし」

「……そうか。分かった」

「頼むぞ」

「ん」

 

 サイドラインで蛍と入れ替わってそのまま烏養コーチとノヤ先輩の所に。

 

「7番と11番ってライトだから翔陽みたいに動き回らないと思うんですよね。だったら旭さんと龍先輩がコミットで追いかけて、俺かノヤ先輩がいるバックライトに打たせようって話を共有しました」

「……そうか、そうだな」

「ただ、翔陽には無いパワーがあるので吹っ飛ばされる可能性は十分あります」

「それは仕方ねえな。西谷いけるな?」

「いけます!」

「よしよし。相手に対応される前に点差付けていくぞ。猫又行って来い!」

「はい!」

 

 翔陽のサーブはあっけなく拾われて、2番のAクイックを蛍が吸い込むような形で点を取られた。【5-8】。

 サイドラインで翔陽と入れ替わる。

 

「あれ俺と影山の!!」

「コピーされちゃったな」

「カカシ先生みたいだ!!」

 

 何言ってんだ? 〝カカシ先生〟って誰だよ。武田先生でしょうが。まあいいや。奇行はいつもの事だし。

 ハイタッチしてコートに一礼したら、コートに入ってレフトの蛍とバックレフトの飛雄の分レフト側に寄る。ここのローテは龍先輩と旭さんがレフト側にいるから早めに切りたいところ。

 

「「「練1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 主審が鳴って2番がジャンフロを打ってきた。狙いはレフト側。弾いても良いようにもっとレフト側に詰める。

 

「「「田中!」」」

「ぐおっ! くそっ!!」

 

 アンダーで触ったけど、手元で変な軌道を取って龍先輩のレシーブは乱された。ボールはコートの外に吹っ飛んでいく。……高さはある。大丈夫だ。

 走って走って、……追いついた! アンダーで思いっきりコートに戻す。そしたら今度はコートに向かって全力疾走。

 

「田中! ラスト!」

「オス!」

「「「チャンス!」」」

 

 無事に届いてみたいで龍先輩がアンダーで思いっきり打ち上げて態勢を整える時間をくれた。戻ったバックライトで一呼吸つく。

 

「「「赤木!」」」

「オーライ!」

 

 リベロの15番がアンダーで処理してあっちのターン。誰で来る?

 

「バック!」「A!」「レフト!」

 

 バックライトの11番、Aクイックの10番、レフトの5番。全員2年か。あと7番からのツーもある。さあ、誰で来る?

 

「角名!」

「「「10番!」」」

 

 集中力をぐっと引き上げて気持ちゆっくりになった視界の中で10番のモーションをよく見る。

 

 助走――ストレート。

 身体の向き――ストレート。

 視線――レフト側を見た。

 スイング――ストレート。……体幹使って蛍のブロックを避けてこっちに向かって打ってきた

 ⇒バックライト側!

 

「ふっ!」

「繋護!」

 

 10番の体幹打ちで蛍の右手側から打たれたAクイックがこっちコートのライト側のサイドラインの方に伸びてくる。でも残念でしたー。タネさえ分かっちゃったらこっちのもんですー。

 両腕では間に合わないから右手だけで。おし。……いってぇー。

 

「「「ナイスレシーブ!」」」

「カウンター!」

 

 俺が上げた1本目にバックレフトから飛雄がセットアップに走って行ってトスの準備をした。……もう少し上だったか。旭さんと大地さんの助走距離が若干足りてない。とりあえずブロックフォローで前に詰める。

 

「いけっ!」

「「「11番!」」」

 

 飛雄はセンターの蛍にBクイックを上げて、蛍があっちの10番の左手に引っかけるようにボールを押し出した。

 

「ワンチ!」

 

 ボールは10番の左手に当たって落ちていく。良し。【5-9】。

 

「良し!」

「「「ナイスキー!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。

 

「あと猫又もファインプレー連発ナイス!」

「カバー助かったぜ!」

「はい!」

 

 5人にハイタッチしたらサイドラインの方へ移動。翔陽経由でノヤ先輩とパパッと入れ替わる。

 

「10番の速攻なんですけど、サイドライン側からコートの中央に向かって拾う、でいけます」

「オッケ! 俺も繋護に負けてらんねえ!! うぉりゃぁぁぁ!!」

「俺も繋護に負けてらんねえ!!」

「点取り合戦で負けんじゃねえぞー!」

「おう!」

 

 コートに一礼したら烏養コートの方へ向かっていく。

 

「ナイスファインプレー!」

「はい!」

「で、角名の速攻取れそうか」

「そうですね。なんとかなると思います。ただ、パワーはありました」

「フィジカルトレーニングにも力入れてるらしいからな。なんとか触っていこう」

「はい!」

 

 武田先生と清水先輩とハイタッチしてベンチに座る。タオルで汗拭っとこ。

 こっちのサーバーは大地さんで、ローテーションが1巡したことになる。そして大地さんのサーブは4番を乱して、11番がライトの7番に二段トス、7番がプッシュで押してきてこっちのターンだ。

 ノヤ先輩が1本目を上げて、……お。飛雄がツーでフェイントをした。良いところにボールが落ちる。【5-10】。

 

「「「良いぞー影山!!」」」

 

 タイムアウトは使わないか。流れ切りたいけどここでは使いにくいよなー。さーて、ドンドン流れにのっていきましょー。

 2本目の大地さんのサーブはきっちり返球されて、逆に7番がツーを打ってきた。蛍の左手に当たるけど、ボールは勢いよくコートの外に吹っ飛んでいく。【6-10】。

 パパッとノヤ先輩と交替したらバックセンターで構える。相手のサーバーは7番。

 

「「「侑1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 逆転される可能性もある。早めに切りたいところだね。

 

「田中、レフト側のサイドラインは頼むぞ」

「オス! フォロー頼んます!」

 

 龍先輩の分レフト側に寄ってと。そのうち主審の笛が鳴って、エンドラインから6歩離れた7番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはレフト側のサイドライン。

 

「「「イン!」」」

「くっそ……!」

 

 龍先輩がアンダーで処理しようとするけど弾かれて相手コートのライト側の外まで吹っ飛んでいった。【7-10】。

 その瞬間あっちの応援席がすげーことになる。アイドルみたいだなー。

 

「すんません……!」

「そこはおまえしか取れないからな、田中!」

「ウス!」

 

 これ以上左に行くと右側が手薄になる。よってそこまではいけない。さーて、これ以上相手のペースにはしないぞー。

 

「「「侑もう1本ナイッサー!!」」」

「ここ1本で切るぞ!」

「「「オォーッス!」」」

 

 主審の笛が鳴って、6歩分離れた位置から7番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはレフト側。でもこのコースは。

 

「アウト!」

 

 良し。エンドラインを1mくらい離れた所にボールが落ちた。こっちの点数だ。【7-11】。

 

「「「ナイジャッジ!」」」

「ウェーイ!」

 

 他の5人とハイタッチして、サイドラインでパパッとノヤ先輩と交替。

 

「旭さん! 1本サーブ頼むっすよ!」

「おう!」

 

 ノヤ先輩が旭さんに声をかけてるところを見ながらコートに一礼して烏養コーチの所にいった。

 

「あればっかりは田中に取らせないとな。それ以外はなるべくフォローしてやってくれ」

「はい!」

 

 ベンチに座って応援する。

 主審の笛が鳴って、旭さんがジャンプサーブを打った。狙いは7番がセットアップに走るから比較的手薄なライト側。

 

「「「ギン!」」」

「オーライ!」

 

 体勢を崩した5番がなんとか上げて、7番がボールの落下地点を見極めて素早くもぐり込む。誰で来る?

 

「アラン君、頼むわ!」

「「「4番!」」」

 

 7番はバックレフトの4番に二段トスを上げて、ライトの飛雄に蛍が合流してブロックに付く。

 

「「せーのっ!」」

「「「ブロック2枚!」」」

「ふっ!」

「ノー!」「ワンチ!」

 

 4番のバックアタックは飛雄の右手に当たって、更にライト側のアンテナにぶつかった。相手の点だ。【8-11】。ジリジリ追いつかれるな。

 

「ヨッシャ!」

「「「ナイスキー!」」」

 

 4番を中心にウェイウェイし始めたのを見て、俺もノヤ先輩とパパッと入れ替わり、コートに一礼してバックレフトに向かっていく。相手のサーバーは5番。

 

「「「ギン1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 龍先輩か旭さんか。さーて、どっちを狙ってくる?

 主審の笛が鳴って、5番がジャンプサーブを打ってきた。狙いは龍先輩。しかもサーブの軌道も低い。このコースは入らないな。

 

「「「良し!」」」

 

 ネットの白帯に当たったボールは相手コートで落ちた。【8-12】。

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。終わったら、蛍がサーバーで翔陽が前衛に上がってくるからサイドラインに向かう。

 

「あと13点取れよ!」

「任せろ!」

 

 翔陽とハイタッチしてコートを出たら振り向いてコートに一礼。そして烏養コーチの所に行く。

 

「あれはー、無理だよな?」

「予想してたらなんとか?」

「取れそうなら取れ」

「はい」

 

 相変わらず無茶ぶりすげー。

 そして、蛍のサーブ権は11番の変人速攻擬きで強引に切られた。【9-12】。よーし、俺の出番だ。

 

「蛍もジャンフロ出来るようになんないとな」

「うん」

 

 ハイタッチとコートに一礼したらバックライトに向かっていく。相手のサーバーは10番。初めて見たときには〝かどなさん〟って呼んだ人だ。初見で読めるかっての。いつか話す機会があればスナリンさんって呼ぼう。

 

「「「角名1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 こっち打ってこないかなー。こないよなー。

 まーた主審の笛と同時にジャンフロを打ってきて、ボールはレフト側の角っこに向かっていく。

 

「「大地!」」

「オーライ!」

 

 大地さんがオーバーで処理してボールはネット際の飛雄へと返っていく。そしてレフトからライトの翔陽が走って行って、逆に龍先輩がレフトに走って行った。

 

「何のためのお前だ!」

「点取るため!!」

 

 飛雄がライトに向かって速い平行トスを上げて、4番がコミットで対応しようとするけどドンジャンプを解禁した翔陽の高さには届かなかった。そのまま翔陽のブロードがコートに突き刺さる。【9-13】。

 

「よっしゃ!」

「「「ナイスキー!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。飛雄からのサーブだからパパッとノヤ先輩と入れ替わる。そしたら蛍と一緒にベンチまで行って烏養コーチから話を聞く。

 

「稲荷崎だんだん猫又のこと狙わなくなってきてるけど、サーブ来たときにはちゃんと取れよ」

「はい」

 

 露骨に避けてるんだよなー。こっち打ってきてよー。

 そして飛雄のサーブは、1本目は4番を乱してサービスエース。【9-14】。2本目はライトにネットインして11番が間に合わずにノータッチエース。【9-15】。

 ここで稲荷崎が2回目のタイムアウトを要求した。ドリンクとタオルの準備急げ!!

 

◎

 

 第一シード校である井闥山学院男子バレー部一同は危なげなく勝利し、3日目への切符を手に入れていた。

 これから学校に戻って練習といくが、フリー時間と言うことで猫又繋護と同じ庵里中学校出身の先輩である蔦原雄太や山城光弥ら数人が飯綱掌を呼び止める。

 

「掌ー、ちょっと烏野と稲荷崎の試合見に行ってきて平気?」

「んあ? ……あー、中学の後輩だったっけ、〝庵里の化け猫〟」

「そう。建前としては稲荷崎の分析ってことで」

「おい、先輩なら勝てるように応援しておけよ」

「いやだって、稲荷崎強いじゃん」

「まあなー。……うん、時間気にしといて」

「分かった」

 

 「おーし、元庵里中の野郎共ー、烏野の応援に行くぞー」と声をかけたら3学年全体で10人以上のメンバーが荷物を持って烏野高校の応援席へと歩きだした。

 また、佐久早聖臣と古森元也も飯綱掌の元に近付く。

 

「飯綱さん、俺と佐久早も烏野の所行ってきます」

「んお? ……時間気にしとけよー」

「ありがとうございます!」「はい」

 

 飯綱掌に一礼してから佐久早聖臣と古森元也も早足でその場を離れていった。残された飯綱掌が休憩しようとしたところで、「佐久早さんが行くなら俺も見に行きたいです、キャプテン」や「稲荷崎の偵察行ってきます!」などと次々とその場を離れるメンバーが増えていく。

 

「飯綱、せっかくだから見に行くぞ。なんか面白い試合になってるっぽい」

「分かりました! 井闥山ー! 烏野の所に行くぞー! 荷物持てー!」

「「「はい!」」」

 

コーチの大矢稀代が提案したことによって全員で行くことになった。

 

 

 佐久早聖臣と古森元也が烏野高校応援席に到着して、先に来ていた同級生の向原建次や水科大喜に試合の様子を聞いた。

 

「試合どう?」

「今【9-15】で烏野リード中。稲荷崎が2回目のタイムっぽい」

「マジか。烏野やべーな」

「繋護の家族発見したんだけど挨拶した方が良いよな」

「後で行こうぜ。今行っても邪魔になるだろ。いやまさかな」

「なー」

 

 まさかまさかの烏野高校がリード中と言うことで、佐久早聖臣や古森元也達の関心はグッと高まっていく。

そして、そのタイミングで猫又美繋が彼らの元にやって来た。

 

「皆お疲れ様!」

「「「繋護のお母さこんにちは!」」」「「「お久しぶりです!」」」

「無事に勝ったみたいで何よりです。おめでとう!

 あと応援か偵察かな? 来てくれてありがとね」

 

 代表で山城光弥が猫又美繋と話し始める。

 

「稲荷崎の仕上がり確認しに来たって言うのもありますけど、やっぱり繋護の応援もそうです。インターハイと春高でしか当たらないですしね」

「うん、そうだね。

 皆のご家族に挨拶できるか分からないから『猫又が宜しく伝えといてって言ってた~』ってご家族に伝えて貰えると助かるかな。宜しくね」

「はい、分かりました!」

 

 そして、このタイミングで山城光弥達の母親達も烏野高校応援席へと登場する。

 

「猫又さん、お疲れ様~!」

「っ! 皆さんこんにちは~! 井闥山の方は大丈夫そう?」

「今日はもう保護者の仕事無いからね。応援しに来たよ」

「ありがと~! 助かる~!!」

「いやー、稲荷崎厄介だからここで倒してくれると嬉しいかなって」

「そっちかーい!」

 

 こうして、庵里中学校出身の井闥山学院現役生約12人と彼らの保護者約20人強が烏野高校応援団に加わった。

 

◎

 

 タイムアウトが終わって、コートの中に大地さん達が戻っていく。

 

「飛雄あと10点決めて良いんだぜ?」

「あたりめえだろ」

 

 稲荷崎が烏野に慣れる前に逃げ切りたい。蛍と一緒にベンチに座って応援といこうか。

 

「ねえ」

「ん?」

「中学の知り合いに声かけた?」

「いや? 決勝で会おうって開会式の時に言ったばっかだ」

「じゃあ何だよあれ」

「ん?」

 

 蛍が烏野の応援席に視線を飛ばしたから、俺もそっちの方を見る。……おお。光弥先輩達じゃん。そっか、あっちは試合終わったんだな。早い。

 

「応援。……いや、稲荷崎の偵察メインじゃない?」

「日向が知ったら『井闥山の偵察!?』とかはしゃぎそうだ。ほら、行ってきなよ」

「ほーい」

 

 飛雄のサーブは5番がなんとか触って、ライトの11番がマイナステンポでドン。ブロックアウトを狙われた。【10-15】。

 11番からのサーブだから、パパッとノヤ先輩と入れ替わる。

 

「行って来いよ繋護!」

「はい!」

 

 コートに入ってバックライト寄りのバックセンターで相手コートの様子を見据える。

 

「「「治1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 主審の笛が鳴ってたっぷり8秒待ってから11番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはバックレフト。

 

「旭!」

「ぐおっ……!」

 

 アンダーでしっかり構えたけど、旭さんのレシーブは乱されて直接ボールは相手コートに返っていく。しかも2番の絶好のトスとなって。

 

「「「練!」」」「「「ダイレクト!」」」

 

 コート中央に移動して2番のダイレクトに備える。翔陽は間に合わない。

 集中力をぐっと引き上げて気持ちゆっくりになった視界の中で2番のモーションをよく見る。

 

 助走――スタンディングの為無し。

 身体の向き――ストレート。

 視線――ライト側を見た。

 スイング――レフト側に向けて。

 ⇒ストレート!

 

「ラァッ!」

「ノー!」

 

 320cmくらいからたたき落とされるボールの軌道に合わせて飛び込む。ヨッシャオラ! ……あ。

 レシーブしたのはいい。でもなんとなく長い気がする。エンドラインを越えていくようないかないような。

 素早く立上がってバックライトで構えるけどー。

 

「「「アウト!」」」

 

 だよなー、知ってた。んんー、くそ。【11-15】。

 2番を中心にウェイウェイし始めたのを見て、こっちはこっちで集まる。

 

「すみません!」

「良く反応した!」「悪い!」

 

 大地さんと旭さんからハイタッチされて皆とペシペシ。

 

「あれは旭が取るしかねえぞ」

「分かってる。サーブ強いな」

 

 さーて、やるしかねえぞー。バックライト寄りのバックセンターに移動して11番のサーブに備える。

 

「「「治もう1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 主審の笛が鳴って、今度はパパッと11番はジャンプサーブを打ってくる。……軌道が低い。

 素早く前に詰めてボールの行方を確認し続ける。ネットインしたか。

 

「繋護!」

「んお!? ……飛雄!!」

 

 飛雄のボールじゃねえの!? いや拾うけどさぁ!!

 ネットの真下に落ちてくるボールをアタックラインに落ちるよう計算しながら打ち上げるようにアンダーで飛雄に返球する。

 そしたらボールの滞空時間を利用してバックライトに戻ってブロックフォローだ。

 

「レフト!」「バック!」「センター!」「ライト!」

 

 レフトの大地さん、バックセンターの旭さん、センターの翔陽、ライトの龍先輩がトスを呼んで同時に助走に入る。

 

「お願いします!」

「「「1番!」」」

 

 飛雄はレフトの大地さんに速い平行トスを上げて、大地さんは7番の右手を狙ったブロックアウトで点を取った。【11-16】。

 

「おし!」

「「「ナイスキー!!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。

 

「さっきのは日向だろ!」

「繋護来てくれてたから良いかなって」

「猫又いけるな?」

「いきます」

「良し。じゃあ頑張れ」

「はい」

 

 連絡事項を確認したからサイドラインまで向かって、パパッとノヤ先輩と入れ替わる。コートに一礼したら烏養コーチの所へ。ベンチには力先輩が5番のナンバーパドルを持って座ってた。

 

「結果的にアウトだったけど、ああやってプレッシャーかけてけよ」

「はい!」

「あとさっきのネットイン、あれは日向だろ」

「俺が行った方が確実かなって」

「これは追々だな。あっちに気持ちよく打たせるなよ」

「はい!」

 

 力先輩とハイタッチしてベンチに座る。頑張れー。

 龍先輩のサーブは完璧に返されて、4番のスパイクでサイドアウトされた。【12-16】。

 俺はノヤ先輩とパパッと入れ替わってコートに入る。同時に、力先輩が龍先輩と交替だ。副審の合図に合わせて2人が入れ替わる。

 

「縁下、頼むぞ」

「おう。このまま任せてくれても良いぜ」

「ふざけんな!!」

 

 力先輩やべー。こえー。

 

「良し。縁下頼むぞ」

「はい!」

 

 相手のサーバーは4番。まだ調子上がりきってないからミスする可能性は十分ある。

 バックレフトに移動して深呼吸。すーはー。おし。

 

「「「アラン1本ナイッサー!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 主審の笛が鳴って、4番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはバックライト寄りのバックセンター。

 

「俺が!」

「頼む!」

 

 力先輩が拾いに行ってアンダーで上げて、ボールがネット際の飛雄に返っていく。

 

「レフト!」「センター!」「バック!」「ライト!」

 

 レフトの旭さん、センターの大地さん、バックライトの力先輩、ライトの翔陽がトスを呼んで、同時に助走に入る。

 

「お願いします!」

「「「3番!」」」

 

 飛雄はレフトの旭さんに速い平行トスを上げて、旭さんが7番の右手に引っかけるようにスパイクを打った。

 

「ワンチ!」

 

 ボールはエンドラインの奥へと吹っ飛んでいって、得点板にぶつかる。パワーやべー。指折れない? 折れないと良いな。【12-17】。

 

「おし!」

「「「ナイスキー!!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。終わったら、翔陽がサーブで蛍が前衛に上がってくるからサイドラインで蛍と入れ替わる。

 

「変人速攻ならぬ双子速攻止めてこーい」

「ついでに日向もびびらせようかな」

 

 自信ありそうじゃんよしよし。まあでも蛍が一番ブロック出来る可能性あると思う。

そんなことを思いながら、コートに一礼して烏養コーチのところに向かっていく。

 

「相手のサーブだんだんマッチしてくるようになってるから東峰と田中のカバー頼むぞ」

「はい」

 

 武田先生と清水先輩とハイタッチしたらベンチに座る。応援応援っと。

 ……お。翔陽が2番のAクイック拾った。レシーブ良い感じになってきたじゃん。バックアタックの時にアタックライン踏んでフットフォールト取られた。おい。【13-17】。

 サイドラインで翔陽と入れ替わる。

 

「良かったじゃん(自爆したけど)」

「絶対まだなんか言ってるだろ!! くそー」

 

 一礼したらコートに入ってバックライトに向かう。と、同時に次のサーバーである2番と13番が交替してた。ピンチサーバーか。

 

「「「小作1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 確かジャンプサーブだった気がする。あと守備強化も?

 レフトの蛍とバックレフトの飛雄の分全体的に左にずれてバックセンター寄りで13番のサーブに備える。どこに打ってくるかな。狙い目としては力先輩だと思うけど。

 主審の笛が鳴って、13番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはやっぱりレフト側。

 

「「「縁下!」」」「「「縁下さん!」」」「イン!」

「ぐっ! 良し!」

 

 サイドラインとエンドラインが交差するコートの角にボールが伸びていったけど、力先輩はフライングして13番のサーブに触った。

 ボールはレフト側のアタックライン付近に落ちるような放物線を描く。シンクロ攻撃は厳しそうだ。

 そのボールの落下地点に飛雄が走って行って二段トスの準備をした。大地さんにしろ旭さんにしろ後ろからのトスになるからちょっと厳しい。

 

「いけっ!」

「「「っ!? 11番!」」」

 

 そっから縦のBクイックかよ! ってことで、蛍が遅れてブロックに跳んだライトの7番とセンターの10番の間を狙ってスパイクを叩き込んだ。【13-18】。

 

「良し!」

「「「ナイスキー!!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。終わったらパパッとノヤ先輩と入れ替わる。

 同時に、ピンチサーバーの13番と2番が交替して、更に2番がリベロの15番と入れ替わった。

 烏養コーチからは特に何も言われずにベンチで応援する。

 

「大地さん1本ナイッサー!!」

 

 サーブはこれで2巡目だ。あっちも勝負に出てきそうだからこのままのペースで逃げ切りたい。タイム取れないのしんどいでしょう。くふふ。序盤で点差付けて逃げ切るのがウチの戦い方ですから。

 あ。大地さんのサーブは4番のバックアタックでブロックアウトを狙われた。【14-18】。よーし。

 

「ブロックアウトなんとかしたいですね」

「だな!」

 

 入れ替わるときにそれだけ言ってノヤ先輩と入れ替わり、移動したバックセンターで7番のサーブに備える。7番だけじゃないけど、サーブでの連続失点を無くせば勝機はあって、俺は稲荷崎のサーブの対応に全力を注いでノヤ先輩にラリー中を任せる作戦だ。今のところは順調。

 

「「「侑1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 ここで切るぞっと。……ん、4歩か。ジャンフロだな。それももったいないよなー。わざわざ球種教えちゃってさ。同じ歩数で打ち分けられればいいんじゃないの? まあ今回に限ってはラッキーだけど。

 主審の笛が鳴って、7番がジャンフロを打ってきた。狙いはレフト側。

 

「「「縁下!」」」

「ぐっ……! カバー!!」

 

 最後手元で不規則に揺れたな。ってことで若干乱れて後ろにボールが飛んでいく。高さはあるから間に合う。間に合わせる!

 走って走って、最後にフライングしてなんとか上げた。

 

「ラスト!」

「「大地!」」

「オラ!」

 

 ラストボールを大地さんが打ち上げて相手コートに戻す。戻れ戻れ、ラリーはまだ終わってねえぞ。

 

「「「チャンス!」」」「「「赤木!」」」

「オーライ! ……っ!」「サム!」

「11番!」

 

 くっそ……!

 11番が双子速攻やろうとバックライトから走ってきて、7番がファーストタッチを触ろうとリベロを押し退ける。やっとコートのエンドラインを越えた所だ。

 そしてセッターのファーストタッチからライトの11番にDクイックでいいのか。まあ速いトスが上がって双子速攻をしてきた。……ナーイス。

 

「ワンチ!」

「「「っ!!」」」

 

 ここで変人速攻キラーの蛍がドシャット。やってくれたー。勢い余ってその場でつんのめった。危ね。いや、マジか。【14-19】。

 

「「「っ!! ナイス月島!」」」

「繋護も立て!」

 

 飛雄に起こされて、旭さんにハグされそうな蛍の所に向かう。

 

「正直後衛3人が準備整ってなかったので賭けてみました。取られても良いかなって」

「月島ナイス!」

「大地も猫又もナイスカバー!」

「すみません、大地さんもねこも助かりました」

「インハイ準優勝がなんだ。俺達は優勝しにここに来たんだ! 勝つぞ!!」

「「「オォーッス!」」」

 

 ハイタッチが終わったからサイドラインでパパッとノヤ先輩と入れ替わる。そして、旭さんがサーブだから力先輩は龍先輩と交替だ。

 

「縁下良くやった! あとは俺に任せろ!」

「頼むぞ田中!」

 

 ナンバーパドルごと受け取って、力先輩がコートにでて烏養コーチの所に行く。

 

「良いぞ縁下! 良くやった! 最高の働きだったぞ!」

「はい! 最後もしっかりと上げられるようにします!」

「おう!」

 

 「マジ助かった」って力先輩とハイタッチして、力先輩は武田先生と清水先輩ともハイタッチしてウォーミングアップゾーンに向かっていった。

 流れは完全にこっちだ。このまま行きたい。

 

「「「1本ナイッサー!!」」」

「強打来るで! 1本集中!!」

「「「シャオラ!!」」」

 

 主審の笛が鳴って、旭さんがジャンプサーブを打った。狙いは4番がいるレフト側。

 

「「「アラン!」」」

「しっ!」

 

 Aパスでは無いけど十分カバーできる1本目だ。7番が素早くボールの落下地点にもぐり込んでレフトの11番に平行トス。11番のスパイクは飛雄の右手を弾き飛ばして相手コートの外に落ちた。【15-19】。やっぱりパワーあるな。

 サイドラインでノヤ先輩とパパッと入れ替わって、バックレフトで5番のサーブに備える。

 

「「「ギン1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 龍先輩か旭さんかどっち狙ってくる?

 主審の笛が鳴って、5番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはバックライトの旭さん。

 

「「旭!」」

「ぐっ……! 大地!」

「オッケー!」

 

 5番のサーブで乱されて、大地さんが二段トスをあげに行く。

 

「大地さん! レフト!」

「「「5番!」」」

「田中!」

 

 レフトの龍先輩に二段トスが上がって、龍先輩がスパイクの助走に入る。ちょっと近いか。

とりあえず俺達はブロックフォロー。

 

「「「せーのっ!」」」

「「「ブロック3枚!」」」

 

 あっちコートではライトの5番にセンターの10番とレフトの4番が合流して3枚ブロックの態勢を整えていて、龍先輩はどうするか。

 

「オラ!」

「ノー!」「ノー!」「ワンチ!」

 

 インナーを狙った龍先輩のスパイクは4番にドシャットされて、飛雄がなんとか上げた。アタックライン付近に落ちるボールになる。良し。

 

「オーライ! 旭さん!」

「「「3番!」」」

 

 うっそぴょーん。旭さんへのトスじゃありませーん。

 ブロード気味でライトのアンテナ付近に向かっていく蛍に速い平行トスを上げて、蛍がフリーのままズドン。こっちの点数になった。【14-20】。よーし、先に20点代だ。

 

「良し!」

「「「ナイスキー!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。

 

「大地助かった!」

「おう! 田中もさっきのトス近かった、悪い!」

「影山だってナイスだ」

「繋護もナイストス」

「蛍もナイスキー!」

 

 チーム力なら負けねえぞー、おおん?

 次のサーバーは蛍だからサイドラインで翔陽と入れ替わる。

 

「変人速攻が見たいなー」

「宮ツインズには負けん!!」

 

 翔陽とハイタッチしてコートから出たら振り向いてコートに一礼。すると、スガさんが蛍と交替するところが目に入ってくる。

 

「「「スガ1本ナイッサー!!」」」

 

 応援しながら烏養コートの所に行く。

 

「良いぞ、コートの幅上手く使っていこう」

「はい!」

 

 蛍の隣に座って応援していく。

 1本目のスガさんのサーブはレフトの4番からサービスエースを取った。【14-21】。そして、2本目も4番を乱して、リベロの15番がセンターの11番に二段トスを上げたら飛雄がワンタッチを取ってチャンスボールになる。

 スガさんがセットアップに走ってライトの飛雄にトスを上げたら、飛雄が4番からワンタッチを取ってこっちの点数だ。【14-22】。

 でも3本目はしっかりと4番に決められた。【15-22】。

 出番が終わったスガさんが蛍と交替する。

 

「月島頼むぞ!」

「すぐ交替ですけどね」

 

 コートに入った蛍とサイドラインで入れ替わる。そして、相手の10番も14番に交替するみたいだ。ピンチサーバーだな。

 

「「「理石1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 バックセンターの旭さんとライトの飛雄をフォローできるようにしてっと。こっち打ってきてくれないかなー。

 主審の笛が鳴って、14番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはセンター、旭さんだ。

 

「「旭!」」

「ぐっ! カバー頼む!」

 

 旭さんのファーストタッチは乱れて、ライト側、つまり俺の方にボールが飛んでくる。パパッと動いて右手首でなんとか触る。

 

「「「影山!」」」

「はい!」

 

 飛雄がなんとか上げたボールに追いついてあっちコートに返す。良し、なんとか繋がった。

 

「「「チャンス!」」」「「「理石!」」」

 

 ボールはバックレフトに返っていって、リベロがいないから14番がオーバーで処理する。7番がボールの落下地点に走って行って、レフトの4番、センターの2番、ライトの11番がトスを呼ぶ。誰で来る? 7番は後衛だからツーは無い。

 

「練さん!」

「「「2番!」」」

「ワンチ!」

 

 2番のAクイックに蛍が触るけど、そのまま相手コートのレフト側に吹っ飛んでいってアウトになった。【16-22】。

 

「おし!」

「「「ナイスキー!」」」

 

 2番を中心にウェイウェイし始めたのを見て俺達も俺達で集まる。

 

「ガッといけよガッと!」

「ワンチ取るだけでも儲けもんだろ……」

「すみません、次は止めます」

「おう。次取るぞ!」

「「「オォー!」」」

 

 サーバーは変わらず14番。乗ってくる前に切りたい。

 

「理石もう1本ナイッサー!!」

「1本集中!!」

「「「オォーッス!」」」

 

 主審の笛が鳴って、14番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはレフト側。しかも軌道が低い。

 

「「大地!」」「「「大地さん!」」」

 

 ネットを掠ってボールの軌道が更に変わり、大地さんがフライングをして触った。……触ったのは良いけどそのまま相手コートに返っていく。11番がダイレクトを打ちそうだ。

 

「「「日向!」」」「「「ダイレクト!」」」

 

 あーうん。11番がダンクシュートをやるみたいにボールを誰もいないレフトのフロントゾーンにペシってはたき落とした。大地さんも体勢を崩してるから誰もカバーできない。【17-22】。

 

「理石ナイッサーや!」

 

 14番と11番を中心にウェイウェイし始めたのを見て、こっちはこっちで集まる。

 

「すまん!」

「「「ドンマイっす!」」」

「良し、次取ってこう!」

「「「オォーッス!」」」

 

 こっち打ってこいやー、おおん?

 バックライトで構えて14番のサーブに備える。

 

「「「理石もう1本ナイッサー!!」」」

「1本集中!」

「「「オォーッス!」」」

 

 主審の笛が鳴って、14番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはレフト側。つまり大地さん。

 

「「大地!」」「「「大地さん!」」」

「しっ!」

 

 大地さんがアンダーでしっかりと14番のサーブを上げて、ボールが飛雄に返っていく。

 

「レフト!」「バック!」「センター」「バック!」

 

 レフトの翔陽、バックレフトの大地さん、センターの龍先輩、バックライトに移動した旭さんの4人がトスを呼んで同時に助走を始めた。

 

「いけっ!」

「「「10番!」」」

 

 飛雄はレフトの翔陽に速い平行トスを上げて、ライトの11番と読んでたらしい2番がブロックの態勢を整えていく。

 まあでも11番の右手に引っかけるようにしてブロックアウトを狙ったな。ボールがあっちコートのライト側のサイドラインから離れるようにして吹っ飛んでいく。【17-23】。

 

「よっしゃ!」

「「「ナーイス!」」」

 

 コート中央に集まってペシペシハイタッチ。やっぱり相手のサーバー全員強いわ。

 サイドラインに向かっていってパパッとノヤ先輩と入れ替わる。そしたら、忠が1番のナンバーパドルを持って副審に話し掛けに行ったのが目に入った。先に稲荷崎の14番と10番の交替が先だけど。

 

「山口止めてこい!」

「はい!」

 

 こっちの番になって、交替した忠がコートに入っていった。サーバーは飛雄だ、一気に2点取っちゃえ。

 

「少しでも休んどけよ、澤村!」

「はい!」

 

 大地さんと一緒に武田先生と清水先輩とハイタッチして蛍の隣に座って応援する。特に大地さんはすぐ交替できるように12番のナンバーパドルを清水先輩から受け取ってる。

 

「「「影山1本ナイッサー!!」」」

「1本で切んで!」

「「「オォー!!」」」

 

 主審の笛が鳴って、飛雄がジャンプサーブを打った。狙いはバックライトのサイドライン。

 

「「「ギン!」」」

「カバー!! っ!?」「「「ダイレクト!!」」」

 

 あの位置取るのかよ。でもボールがこっちコートのライト側に返ってきてライトに移動した忠がダイレクトで。……指先にしか当たらなくてへにょへにょのフェイントになったけど、ボールはあっちのレフトのフロントゾーンに落ちた。【17-24】。

 何はともあれ忠は稲荷崎から1点を奪った。しかもセットポイントだ。

 

「「「良いぞー山口!!」」」

「「「影山もう1本ナイッサー!!」」」

 

 主審の笛が鳴って、飛雄がジャンプサーブを打った。狙いはさっきと同じバックレフトのサイドライン側。

 

「「「ギン!」」」

 

 5番がしっかりとネット際の7番へと返球して、レフト側に切り込んでいった4番が時間差で打ってくる。

 

「ワンチ!」

「「「チャンス!」」」「西谷!」

「はい!」

 

 4番のスパイクを忠がワンタッチして、ノヤ先輩がそのチャンスボールをしっかりと処理した。こっちのターンだ。

 

「レフト!」「センター!」「バック!」「ライト!」

 

 レフトの龍先輩、センターの翔陽、バックライトの旭さん、ライトの忠の4人がトスを呼んで同時に助走に入った。

 

「お願いします!」

「「「5番!」」」

 

 飛雄はレフトの龍先輩に速い平行トスを上げて、龍先輩がストレートにスパイクを叩き付けた。……こっからだとライン上ぽかったけど、どうだ? ……良し!

 ラインズマンは〝イン〟のシグナルを出した。こっちの点だ。

1セット目は【17-25】でウチの勝ち。良し良し良ーし。

 

「コートチェンジするぞ。荷物持て!」

「「「はい!」」」

 

 作戦完璧にはまったな。よーし。……それにしても応援席がやばいことになっててウケるんだけど。

 

◇

 

 烏野高校が第1セットを先取したことで、嶋田誠や滝ノ上祐輔、月島明光、宇内天満、田代秀水、黒川広樹達烏野高校排球部OB一同、日向夏や影山美羽、猫又真緒といった選手の家族、田中冴子ら和太鼓チーム、教頭や校長、若林智子などの現烏野高校職員と道宮結や佐々木千鶴、相原真緒など有志による現役生達、庵里中学校を卒業した井闥山学院男子バレー部一同。総勢150人ほどの烏野高校応援団一同は大いに盛り上がっていた。

 

「うぉぉぉぉ!! あいつらやりやがった!!」

「下馬評ひっくり返してんじゃん!!」

「「うぉぉぉぉ!!」」

 

 稲荷崎高校の応援に負けないように喉を枯らす勢いで声援を送っていた嶋田誠や滝ノ上祐輔達OBはのど飴を舐めながら体力回復に努める。それでも内に秘める衝動を堪えきれずにはいられなかった。

 

「マジかよ!? あの稲荷崎相手に!?」

「俺らの後輩やべーな!!」

「『今更先輩面すんなよ』って思ってそうだけど!!」

「「「確かに!!」」」

 

 飲酒したときのようにテンションが上がっていることに気づきながらも第1セットの感想と「ひょっとしたらこのまま……?」等と口々に言っている。

 浮かれている応援団とは対照に、烏養一繋と羽染葵育、下園育音の3人は冷静でいた。

 

「油断すんじゃねえぞ、繋心」

「烏野は手の内明かしちゃってるように思いますからね~、どうなることやら」

「5番の田中君を崩せなかったことが敗因だと分かってるだろうから今度は3番の東峰君を狙ってきそうだよね」

「今まで見ない攻撃の連続パターンに対応しきれなかったから取れたようなもんだからな。〝次〟はしっかりと修正してくるぞ」

 

 3人とも第1セットと同じ展開にはいかないだろうと確信している。

 

◇

 

 稲荷崎高校側のコートに来て、荷物を置いたらミーティングに入る。

 

「1セット目よくやった!

だが、こっからが本番だぞ、油断してると一気にまくられるからな。1球1球丁寧にやる。

練習でやってる通りだ。常に相手のマッチポイントってプレッシャーで試合に挑めよ。少しの油断が負けに繋がるからな!」

「「「はい!」」」

 

 続いて武田先生。

 

「『勝って兜の緒を締めよ』、です。まだ1セット目を先取しただけで、勝敗はまだ決まっていません。ですが、この勢いに乗っていきましょう!」

「「「はい!」」」

 

 やっちゃんを除いた全員で円陣を組んだ。

 

「このままストレートで勝つ! 烏野ー! ファイ!!」

「「「オォーッス!」」」

 

 オーダーの確認からだ。このままストレートで勝ってくぞー。

 

◆

 

 一方、稲荷崎高校男子バレー部一同もコートチェンジしてからミーティングに入った。監督の黒須法宗が数回手を鳴らし自身に注目させる。

 

「ええか? 烏野は強い。そら分かったな?」

「「「はい!」」」

「せやったら油断せずにいくねん。1本1本集中すること、ええな?」

「「「はい!」」」

 

 そして、黒須法宗の視線が宮侑に止まった。宮侑と何故か宮治も挙動不審な態度を取る。

 

「あーつーむー? 分かっとると思うけど、3年はこの春高で引退や。そんで2カ月後には卒業する。バレーは高校までって3年だっておる。

 侑はこの春高勝ち抜いて優勝旗学校に持ち帰って、3年に笑って卒業して欲しいって思わんか?」

「……はい」

「もちろん楽しむことも大事や。全国の場を楽しんでなんぼや。

 せやけど、3年間頑張ってきた3年はこの春高が学校生活の集大成や。それ、忘れんようにな?」

「……はい!」

 

 すると、小学校から今までつきあいのある尾白アランが宮侑と宮治の背中を叩いて気合を入れた。

 

「侑からのトス、どんなボールだって決めたる。俺に持ってこい」

「アラン君。……せやな、すんまへんでした」

 

 宮侑はそう言っては頭を下げた。影山飛雄と日向翔陽のマイナステンポを使った速攻を見て熱くなっていた頭が少し冷えて冷静になる。

 宮侑の様子を見て、内心で黒須法宗は胸をなで下ろした。

 

「さ、気合い入れてくで。1セット目は烏野の良いようにされた。せやから今度はこっちの番や。ダブルスコアで勝てるように気張りぃ。

そんで5番の坊主やなくて3番の強面のアンちゃんから崩す。見かけによらず気ぃ弱そうやからな。さ、このセット取り返すで」

「「「はい!」」」

「良し! 北!」

 

 一同が円陣を組んで気合いを入れていく。

 

「稲高ー! ファイ!!」

「「「オ゛ォ゛ーッ!」」」

 

 そして、第2セットが始まる。

 

◆

 

 セット間の休憩が終わって、両校のメンバーがコートに入る。俺とノヤ先輩はお腹側の背番号を副審に見せるようにしてサイドラインの近くで仁王立ち。

 

烏野

9 飛雄 11 蛍 5 龍先輩

3 旭さん 10 翔陽(俺) 1 大地さん

 

稲荷崎

10 5 7

11 4 2(リベロ)

 

 オーダーの確認が終わった。うん、事前情報通りだ。7番からサーブを打つように調整してる。

 そんで、サーブはこっちからで大地さんから。つまり先にノヤ先輩がコートに入る。

 

「ノヤっさんお願いします!」

「おうよ!」

 

 ノヤ先輩とハイタッチして翔陽が俺の隣のベンチに座った。

 

「応援するぞ。キャプテンナイッサー!!」

「大地さん1本ナイッサー!!」

 

 第2セットが始まる。

 

 

 【27-26】で迎えたこっちのマッチポイント。ラストボールを旭さんが打ち切って【28-26】。

 ……勝った。勝ったぞ!!

 ウォーミングアップゾーンからスガさんと力先輩達が飛び出したのを見て俺と蛍も続く。ただしスキップ程度で。

 

「「「旭さんナイス!」」」

「え? うおっ!?」

 

 やべー、端から見てると襲われてるようにしか見えねえ。ウケる。

 

「まだ挨拶終わってないぞ! 整列!」

「「「オォーッス!」」」

 

 立上がった全員とハイタッチしながらエンドラインに向かっていって、右から大地さんで、背番号順に並ぶ。

 

「「「ありがとうございました!」」」「「「ありがとぉございました!」」」

 

 ネット際まで走って行って、2番と3番の人と握手する。終わったらベンチまで移動。

 

「まずは観客席にお礼言うぞ!」

「「「はい!」」」

 

 烏野の応援席までいって、まずやっちゃんと合流。

 

「仁花ちゃん!」

「清水先輩……!」

 

 やっちゃん半泣きじゃん。まずはお礼言わないとな。

 1番右が大地さんで、順に背番号順で並んでいく。俺の左隣には清水先輩で、清水先輩の隣がやっちゃん。やっちゃんの左隣が武田先生、烏養コーチ。

 

「気を付けー! 応援ありがとうございました!!」

「「「ありがとう御座いました!!」」」

「明日も宜しくお願いします!」

「「「お願いします!!」」」

 

 観客席から指笛やら拍手とか「ナイスゲーム!」とか「明日も頑張れよー!」とか色々暖かい声を貰って、俺達も応援席に手を振ったりする。

 さーて、音駒はどうなったんでしょうか。……お。隣の試合も終わったな。

 

「……音駒が勝った」

 

 やっちゃんの呟きが聞えてきて、得点板の点数を見る。第1セットが【25-23】で第2セットが【30-32】。おー。……おー。

 

「ゴミ捨て場の決戦だ! 勝ってこい!」

「「「……シャーッス!!」」」

 

 マジか。祖父ちゃん2人の約束が50年越しに叶うのか。

 

「おし! まずは着替えてクールダウンだ! 移動するぞ!」

「「「はい!」」」

 

 ボールとかボール籠を取りに稲荷崎側のコートに戻っていく。と思ったら烏養コーチに声をかけられた。

 

「……繋護」

「今部活中でーす」

「今だけなら良いんだよ。……50年越しだな。産まれてねえけど」

「……だねえ。産まれてないけど」

 

 正直もう一生叶わないんじゃ無いかって思ってた。

 でも、色々な巡り合わせで明日遂にゴミ捨て場の決戦が実現する。せーのっ!

 

「ジジイ! 見てろよ!」「祖父ちゃん! 見ててよ!」

 

 応援団の中で「マジかよ」って顔してる烏の方の祖父ちゃんに宣言する。

 

◇

 

 優勝候補である稲荷崎高校が敗北して会場中が響めいてる中、選手同様必死に応援していた烏野高校応援団は奮闘していた選手達に拍手や激励の言葉を贈る。そして、「おめでとー!!」やら「良い試合だったぞ!」、保護者による自分の子供の名前等の言葉が飛び交っている。

 

「一繋さん一繋さん。明日は遂に音駒とですよ」

「ゴミ捨て場の決戦。いやー、これ夢?」

「……夢じゃねえな。全員で幻覚見てることになる」

「「確かに」」

 

 中学2年で猫又育史と出会い、この50年間全国大会で対戦することは無かった。しかし、それがやっと明日叶うと思うと烏養一繋は叫び出したくなる思いでいてもたってもいられない。

 同様に性別の違いからゴミ捨て場の決戦を実現できずにいた羽染葵育と下園育音もまた歓喜に打ち震えている。

 

「次の試合の応援団も来るだろうから撤収しましょうか! 各自準備!!」

 

 烏野高校応援団一同は帰る準備を始めて行く。それでも、明日のゴミ捨て場の決戦を前にして嶋田誠や滝ノ上祐輔、月島明光、宇内天満達OBの興奮は収まらなかった。

 

◇

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