監督 入畑伸照
コーチ 溝口貞幸
01 岩泉一 キャプテン
02 松川一静
03 花巻貴大
04 渡親治 リベロ
05 矢巾秀
06 金田一勇太郎
07 国見英
13 及川徹
※本来であれば8~12番、14番、セカンドリベロもいると思いますが、出番が無いので省略します。
~スターティングオーダー
6 金田一勇太郎 7 国見英 3 花巻貴大
1 岩泉一 5 矢巾秀 2 松川一静(渡親治)
本入部2日目の日曜日、今日も練習だ。
8時から12時までの午前練習で30分前に部室に到着して鍵を開ける。……正直もっと汚いのかと思っていたけど結構綺麗だった。烏養コーチが「部屋の汚れは心の汚れだ。清水も入るんだからしっかりと掃除しろ!」って3月に掃除をさせたらしい。
パパッと着替えて今日使う予定の道具の確認と掃除を始めていると外からドタドタ足音が聞えてきて、息を切らした翔陽と影山が部室に現れる。
「おーっし! 俺の勝ち!」
「日向ボゲェ! 俺だろうが!」
「翔陽と影山、おはー。朝から元気だなー」
「繋護おは!!」「おう!」
2人も昨日と同じ位置に荷物を置いて着替え出す。
「練習試合だ! 楽しみだなー!!」
「早く練習してぇ!!」
相変わらずうる、……朝から元気だなー、この2人。
掃除を進めていると月島と山口も部室に現れた。山口は寝癖があるし月島は低血圧なのかもしれない。ぼけーっとしてる。
「おはー、月島と山口」
「はよ」「おはよー、猫又」
「おはよ! 月島! 山口!」
「おはよ」「おはよう、朝から元気だな、日向は」
「練習楽しみだからな!」
「おう」
「ハヨ」「おはー」
「「……?」」
んん? いつもだったら、「朝から騒々しいんだけどぉー? もうちょっと静かにしてくれるぅ?」とか「〝王様〟も元気だねぇ」みたいな嫌みが飛ぶはずなのに。昨日なんかあった?
多分翔陽も同じことを感じたっぽい。影山と月島と山口の3人の間で視線を彷徨わせてる。
「……なんか3人雰囲気変わった?」
「そんなことないよー。ほら、着替えろって」
「お、おう。……んー? なんか変わった気がするんだけどなぁ~?」
ま、繋心兄ちゃんが何か話したんだろう。本入部始まったから仮入部とはやっぱり変えていかないと。仮入部期間はお客さんだけど、本入部からは在籍するんだし。
とにかく、これなら上手くやっていけそうだ。幸先良ーし!
時間になったから、身長と体重を測るために全員で保健室に行く。既に武田先生と烏養コーチ、清水先輩が到着してた。やべ、時間間違えてないよな?
「「「おはようございます!」」」
「皆おはよう!」「おう、おはよう」「おはよう」
キャプテンの号令に続いて挨拶する。時間間違えてない……? 大丈夫か?
……大丈夫そうだな。全員の顔を確認すると烏養コーチが話し始めた。
「身体作りの効果が現れてることを実感するために、最低1週間に1度、時間が有る土日に身長と体重、垂直飛びを計測してデータを残していく。本当は毎日計測したいんだけどよ。
それに、朝と夜で差が見られるはずだから、家に体重計があれば測ってみて欲しい」
「「「はい!」」」
「1年の名前順な。終わった人から体育館の準備に移ってくれ。じゃあ影山から」
「はい!」
武田先生、烏養コーチ、清水先輩と影山が保健室に入っていく。
1年は影山、月島、翔陽、俺、山口の順か。保健室と第二体育館が近くて良かったー。
影山、月島、翔陽が終わって体育館に向かっていった。次は俺の番だ。
「お願いします!」
「おー、乗れ」
4月の身体測定でも使った身長と体重が同時に測れる台に乗ってされるがままになる。そのうち「ピピピ」って計測音がなった。
「良し、身長165.4cm、体重57.4kgだ。頼む清水」
「はい」
清水先輩がノートに俺の数値を書き込んでいった。
「昔からジジイと猫又先生に教わってきてると思うから猫又自身も分かってるだろ。強いて言うなら、これから練習も本格的に始まっていくからどうしてもエネルギーを消耗していく。60kg以上あっても良いと思う。身長を伸ばす為のエネルギーも必要不可欠だし」
「はい! ありがとうございます!」
「よし、じゃあ体育館の準備頼むぞ」
「はい! 失礼します!」
背を伸ばすためにももうちょっと体重付けないとなー。ハードな練習で痩せるなんて無いようにしないと。
早歩き、スキップ程度でコートを軽く5周
動的ストレッチ
5分間のランニング
自重トレーニング
縄跳び
2時間くらいボールを使わないトレーニングを続けてきて、特に月島と山口が死にかけてる。この2人体力ないもんな。
「はっはっはっ! きっちいだろ?」
「「「キツいっす……!」」」
「バレーが上手くなりたいなら身体のスペックを上げていく必要がある。というか、ぶっちゃけ素のスペックが高ければ、極端な話オープンバレーでも勝てるんだよ。例を出すなら白鳥沢の牛島若利だ。今年全国に行くには絶対に倒さないといけない相手だな」
……知ってるー。キヨ君とモト君が全国で対戦したとか。マジやべえって言ってた。
「「「ウシワカ……!」」」
「白鳥沢以外にも強い高校はあるから目の前の敵に集中しないといけねえけどな。
話を戻すと、レベル5のピカチュウの【かみなり】とレベル100のピカチュウの【電気ショック】、どちらが強いか? ってことだ。……なんだよ、その目」
ん? ああ、あんまりゲームしなさそうだもんね、烏養コーチ。
「コーチもポケモン知ってるんですね」
「甥っ子が好きだからな。それに、一応赤緑世代だぞ、俺。ゲーム触ったことねえけど。
……ってそれは良いんだよ。とにかく、強くなるには身体作りをしていく必要がある。あとは徹底した基礎力。ま、騙されたと思ってやってみてくれ。2週間もやれば実感してくるだろうからさ」
「「「オォーッス!」」」
3年間の勉強でコーチらしくなったなぁ、繋心兄ちゃん。
ボールを使った基礎力向上のメニュー、あとはレシーブ、サーブ、アタック、ブロックと各種重点的に続けていって、最後に乱打……つまり実戦を想定した練習に入る。
「青城戦でのポジションはこんな感じだ」
指示通りコートに入っていく。
田中先輩 月島 キャプテン
影山 成田先輩(俺) 縁下先輩
「もちろん、菅原、木下、山口、日向もちゃんと準備しておけよ。ピンサーだとかワンポイントブロッカーなりで試すぞ。全員出すからな」
「「「はい!」」」
「あと、ぶっちゃけミドル……、センターが多すぎる。成田、月島、日向、山口ってよ。
ライトを出来るのが澤村しかいねえから、木下と山口はサイドへのコンバートも考えてる。他にも菅原と影山のツーセッターとかな。
何か1つでも良い。『自分にはこれが出来ます!』って言うのを見せろ! そうすりゃあ勝てるように活かしてやる! 励めよ!!」
「「「はい!」」」
正リベロは渡さんぞ~。うおおおお!
練習が終わって、これから何かとお世話になる所への挨拶回りをするらしい。特に1年の顔合わせが目的だ。俺はほとんど顔見知りの人ばっかりだな。
例えば、ドリンクの粉とかテーピングを買うスポーツ店とか、ユニフォームのクリーニングをお願いする内沢クリーニング店とか。どれも学校近くの烏野商店街にあるからめっちゃ楽だ。
烏養コーチと清水先輩、あとは選手11人で移動する。まずは烏野スポーツ店。
「ドリンクの粉とかテーピング、湿布みたいな消耗品は注文して1週間に1回纏めて買うように頼んである。金が絡むことだからローテーションを組んで3人以上で買いに行かせるつもりだ。
シューズとかも学割利かせてくれるから色々相談してみろ」
「「「はい!」」」
じゃあ、ちょっと呼んでくるから。そう言って烏養コーチは店の中に入っていって、新一兄ちゃんと戻ってきた。
「「「こんにちは!」」」
「おー、こんにちは。2、3年生は何かとお世話になってきたよね。店長の新島新一です。宜しくね。
君達が活躍してくれると、セーチジュンレーで商店街にも人が来るから賑わってこっちもウハウハになります。是非頑張って下さい!」
「「「はい!」」」
「あと、シューズとか欲しいってなったら相談してくれれば取り置くからウチ使って下さい。ヤスいよヤスいよ~ってね。怪我の無いように気を付けましょう」
「「「はい!」」」
「じゃあ1年はインソール作って貰うぞ。影山、行って来い」
「えっ? あっ、はい!」
インソール。つまり中敷きの事だ。
市販のものでも良いんだけど、足の形は人それぞれで合わないこともあるってことで怪我の予防にはインソールを作った方が良いと思ってるし俺も作ってる。やっぱりオーダーメイドだと全然違う。
影山、月島、翔陽、山口の順で店に入ってきて戻ってきた。出来るまでちょっとかかる。
「んじゃ、できた物受け取りに帰り寄るから。時間貰って悪いな」
「いいよ別に。いってら~」
最後に「繋護もでっかくなったなー」って髪の毛をワシワシされた。
続いて内沢クリーニング店。高校生だとそこまで利用頻度は多くないかな? スーツ持ってるわけじゃないし。
さっきと同じで店内に入った烏養コーチはすぐに戻ってきた。ヒデ兄と一緒に。
「「「こんにちは!」」」
「はいこんにちは。クリーニング店を営んでる内沢英紀です。ユニフォームとかクリーニングするよ。丁度今横断幕預かってる所でもうすぐ返却できるかな。
学ランの修繕とかも承ってるから、部活以外の方がもしかしたら関わる機会が多くなるかもしれないね。
俺も繋心と一緒で町内会チームに入ってるから、もしかしたら君達と練習試合とかするかもしれない。そのときは宜しく」
「「「宜しくお願いします!」」」
「来週辺りで練習試合やるつもりだからまた声かけます」
「オッケー」
そして、新一兄ちゃんと同じように「頑張れよ~」って髪の毛をワシワシされた。
続いて嶋田マート。……人がいっぱいだ。日曜だから仕方ないね。
「澤村達は学祭とかでも使ったことあんだろ。何かと使うことはあるだろうから覚えておいて損は無いぞ。普段使いもするだろうしな」
挨拶はまた今度。そして、滝ノ上電気店へ。
丁度祐輔兄ちゃんが店内から出てきた。
「たっつぁん!」
「んー? おお! 繋心か! あとバレー部だな。ここで働いてる滝ノ上祐輔だ。宜しく頼むぞー、若者よ」
おっさんくさ。
「おっさんくせえぞー、たっつぁん」
「おめえも俺と同じ歳だろうが!」
「まあいいや。
ここでは試合の録画とかで使うビデオカメラとかDVDを買う予定だ。……まあ高校の部活じゃなかなか来るところじゃねえな。でもたっつぁんも町内会チームの一員だから練習試合とかで顔見る機会はそれなりにあるだろ。ってことで挨拶しろ」
「「「お願いします!」」」
「はい、宜しく!
クーラーの掃除とか扇風機の修理だとかも出来るから何かあったらウチ使ってくれ!」
「「「はい!」」」
「じゃあまた」
「おー、またな」
3度目の正直。祐輔兄ちゃんにも「繋護もでっかくなったなー!」って髪の毛をワシワシされた。
そして最後に烏野整骨院。
「俺も勉強はしてるんだけどやっぱり本職の方が安心すると思う。ってことで週に1回ここで見て貰うつもりだ。身体に違和感が無くても身体のメンテナンスってことで診て貰おう」
そんな風に話していると、光輝姉ちゃん――おばさんって呼ぶと酷い目に遭う――が店の中から出てきた。
「おー、繋心待ってたぞー」
「里山さん遅くなってすみません。彼らが烏野高校男子バレー部の部員です」
「おー、少ないなー。私達の時の1/3位かー。
ま、いいや。20年くらい前に烏野高校男子バレー部のマネージャーをしていました。今はここで整骨院を営んでいます、里山光輝です。
バレーって怪我が多いからね。ちょっとでも違和感があったら遠慮無く繋心に言うこと。今の無茶が将来に響く可能性は十分あるから。
3年生からで良い?」
「はい、お願いします。澤村」
「よろしくお願いします!」
キャプテンから店内に入っていった。
全員分終わってインソールを受け取る17時前後になっていた。結構かかったな。それに整体受けて大分身体が軽くなった気もする。
「ま、こんな感じだな。今日はこれで解散だ。何かあるか?」
「いえ、特に」
「じゃあ帰って休むように。
本来月曜日を休養日にする予定なんだけど、明後日練習試合だから水曜日をオフにする。オーバーワーク厳禁だからな! 仮入部期間から続いたから絶対に休むこと! 怪我すんじゃねえぞ!」
「「「はい!」」」
そんなわけで今日の練習は終わった。
その日の夜、1週間に1回彩音ちゃんと電話する時間が来た。適当に写真とか送ったりしてるけど、生活にメリハリを付けるためにもお互いに依存はしないよう心がけてる。朝の〝おはよう〟と寝る前の〝お休み〟は欠かさないけどな。
スマホの通話アプリからお気に入り登録してる彩音ちゃんを探し出す。……とその前に彩音ちゃんから電話が来た。
『もしもーし、繋護聞えてる?』
「聞えてるよー、彩音ちゃーん」
『うん、なら良かった』
示し合わせたように2人で笑い合う。彩音ちゃんの声を聞くだけで落ち着くし、明日からも頑張ろうって気分になる。3月まではお互いの家でご飯とか食べてたから、知らず知らずのうちにストレスになってたのかもしれない。新しい生活も始まったからね。
『まずは1週間お疲れ様。楽しそうで何より~』
「始まったばっかりだけどねー。授業もまだ始まってない。彩音ちゃんは?」
『私もそうだよ、ガイダンスが中心。
同じ学校の友達とか先輩以外にも順調に交友関係広げてる感じかな。サークルも適当に見て回ってる。
繋護は? 同期と仲良くできそう?』
「多分ね」
月島ともなんだかんだで上手くできるでしょ。近寄るな雰囲気出してるように見えるけど実際は構われるの好きそうだし。多分末っ子。
……とついつい欠伸が。風呂にも入ってだんだん睡魔が襲ってきた。
『明日も朝練あるんでしょー? もう寝ないとね』
「んー」
『ほらほら、早く布団に入って』
「んー」
眠くて身体に力が入らない中、布団に入って掛け布団を掛ける。……あ、駄目だ。
『お休み、繋護』
最後に彩音ちゃんの優しい声とリップ音が聞えてきて意識が無くなっていった。おや……………………。
来たら憂鬱な月曜日が来た。さあ、朝練だ。
準備をして体育館に着いたら早速烏養コーチの説明から始まる。
「朝練って7時から8時までだと思うんだけど、15分はストレッチ、15分はクールダウンに使いたい。つまり残りの30分で何をするか? って話になる。
それは当然ボールのハンドリング技術を磨くことだ。
全体的にボールを扱う技術が拙いし、1年はまだまだ5号球に慣れてない。つまり全員下手くそ。
上手くなるために、足でのリフティングだったり、アンダーオーバー共にワンハンドでの返球なんかの練習も取り入れてボールに慣れていく。最終的に〝身体のどこかに当たればボールが上に上がる〟って具合にな。
地味で辛い練習だが、基礎無くして応用は出来ない。【急がば回れ】って言葉があるように上手くなるためには地道な修練が必要なんだ。ちゃーんと頭に入れておくこと」
「「「はい!」」」
「じゃあコート5周から。15分でアップ完了って練習も兼ねてるからしっかりとやれよ。あと競うんじゃねえぞ? 影山、日向」
「は、はい!」「オス!!」
影山と翔陽すぐに張り合うからなー。
火曜日の放課後になって、青葉城西高校との練習試合になった。気合い十分! …………翔陽を除いて。
「う゛ぅ゛ー…………」
「ゾンビみてえだな」
「ウケる。……いやウケねえけど」
「試合の日にカツ丼って」
練習試合を楽しみにしすぎた。上手くいかなかったらどうしようって緊張。挙げ句には消化吸収をしにくいカツ丼を食べたとかで翔陽がグロッキー状態だ。試合前にKO。カンカンカーン。
「あー、うん。
言わなかった俺も悪いんだけど、試合前にカツ丼はやっちゃいけない部類だ。油って消化悪いし。運動前にはゼリー飲料とかサンドウィッチ、おにぎりなんかが適してる。今後は気を付けよう」
「ずみ゛ま゛ぜん゛…………」
「このままだと辛いし、バスでも多分アウトだからトイレで吐かせてくるわ。準備してろ。猫又、宜しく」
「あっ、はい!」「分かりました!」
烏養コーチと翔陽はそのままトイレへと向かっていった。
ボール、ボール籠、救急バッグ、ビブス、ビデオカメラ類等々の確認と、ゼリー飲料と酔い止め薬、エチケット袋の準備をしておく。
「吐かせるってそんな簡単にいくか?」
「分かんね。ねこは知ってる?」
「はい。急性――」
でも、最後まで言い終わる前に烏養コーチと幾分マシになった表情の翔陽が戻ってきた。そして、烏養コーチが俺の言葉に続く。
「――急性アルコール中毒にならないように、飲み会なんかだと最後に吐かせる場合があるんだよ。
ま、20歳になって酒飲むようになったら覚えておけ。男子だけだと『誰が1番お酒飲めるのか?』みたいな馬鹿なことやると思うし。俺はよくやった」
「「「お、おす…………」」」
分かるー、そんな醜態晒したくないよねー。でも人付き合いで飲まないといけない時もあるらしいからかなり憂鬱。お酒に強いのか全く分からないんだよね、俺。父さんも母さんもお酒強いから俺も強い方だと思うんだけど。
それはともかく、ゼリー飲料とかをそのまま烏養コーチに渡して、更に烏養コーチは翔陽に渡す。
「これ飲めそうか?」
「はい……。繋護もありがと」
「公式戦の前で良かったな」
「だな」
そこにバスの準備を終えた武田先生もこっちに来た。
「烏養君、日向君の様子どうでしょうか?」
「さっきよりはマシだ。ただ、んー、こいつチャリだろ? このまま帰すわけにはいかねえし、保健室で休ませるのがベストかなって思ってる」
「そうで――」
「――俺大丈夫です!!」
武田先生の言葉を遮ってゼリー飲料を飲んで若干復活した翔陽が大きな声を出す。
「そうはいってもなぁ」
「俺なら大丈夫です! ほら! 見て下さい!!」
実際さっきよりは顔色が良い。大丈夫そうではありそうだ。
……このまま烏野に置いといても、バスとか自転車で青葉城西高校まで来そう。絶対にしないとは否定できない。だって翔陽だし。
「このまま置き去りにしてもチャリで追いかけてきそうじゃ無いか? 日向ならやりかねないって言うかさ」
「……それは」
「それだったら目の届くところで見ておきたい」
「……そうですね。澤村君と菅原君も日向君の様子を見て貰っても良いですか?」
「「はい」」
「酔い止め飲んどけ、酔い止め。あと寝てろよ」
「おす!」
武田先生の「じゃあ、出発しましょう! バスに乗って下さい!」って言葉で続々とバスに乗り込んでいく。
移動するときは寝るって決めてるから、寝たら感覚では一瞬だった。見たところ他の皆もそんな感じだ。翔陽も寝てたみたいで、うる……、賑やかになってる。
流石私立、綺麗だ。こういう時は私立が良いよなーって思う。設備は充実してる事に越したことは無いし。
「青葉城西高校1年の金山です! 本日は宜しくお願いします! 皆さんをご案内します!」
「「「お願いします!」」」
体育館はどこなのか分からないから案内の人に着いていくと体育館に到着した。外見綺麗だな。烏野とは全然違う。……影山が誰かと話してる? 中学の同級生かな?
シューズに履き替えたら体育館の入り口に立って挨拶だ。中では青葉城西高校の皆さんが練習してる。
「気をつけー! 今日一日よろしくお願いします!」
「「「お願いします!!」」」
キャプテンが号令を掛けて続く。すると、あちらの皆さんが集合をかけてこっちの方に集まってきた。短髪の人が号令を掛ける。
「気を付け! こちらこそよろしくお願いします!」
「「「お願いします!!」」」
お互いに挨拶を交わしたら、さっきの案内係の人に更衣室と荷物置きの場所を聞いて準備していく。
準備が終わって、早速全体での挨拶に入る。左側に烏野、右側に青葉城西高校と2列で並ぶ。「人少ねー」って目が語ってるんだけど。まあ、あっちの半分以下の人数しかいないし。
「気を付け! お願いします!」
「「「お願いします!」」」
さっきのキャプテンっぽいひとが号令を掛けて挨拶。すると、お腹が出てるあっちの監督っぽいおじさんが話し始めた。
「青葉城西高校監督の入畑です。
烏野高校さん、今日は忙しい中お越し頂いて誠にありがとう御座います。是非とも有意義な練習試合にしましょう。
……40分くらいかな、アップに使って下さい。それから練習試合を始めていきましょう。よろしくお願いします」
「「お願いします」」
武田先生と烏養コーチがお辞儀をして挨拶が終わった。
さぁて、まずはアップからだ。やっていきましょー。
アップが終わってこれから練習試合が始まる。イヤー、楽しみだ。
背番号だけど、3年生から順に1番がキャプテン、2番がスガ先輩。
2年生は3番が田中先輩、4番が縁下先輩、5番が木下先輩、6番が成田先輩。
そして、1年は7番が影山、8番が月島、9番が翔陽、10番が山口、最後に〝L〟と書かれたリベロ専用のビブスが俺。
邪魔にならないように下のウェアに入れて完成。……さあ、今日も拾って拾って拾いまくるぞー。
「良し、このチーム初めての他校との試合だ。会ったばっかで信頼関係もねえ。……でもそんなの関係ねえ。【墜ちた強豪 飛べない烏】とかって舐められないように勝ってこい!」
「「「はい!」」」
「サーブとかアタックとか、〝何本打って何本決まった〟って言うのをちゃんと記録に残していく。チームメイトは仲間であると共にライバルだからな。些細なことから勝負心を忘れるなよ!」
「「「はい!」」」
「良し、いけ!」
武田先生、烏養コーチ、清水先輩、選手11人で円陣を組んだ。
「烏野ー! ファイ!!」
「「「オォーッス!」」」
そうしたらまずはエンドラインへ行く。あっちも円陣を組んで「青城ー! ファイ!!」、「「「オォーッ!」」」っていうのをやってた。
エンドラインに一番右がキャプテンで一番左が俺になるように背番号順で並んで主審の笛を待つ。
「これより青葉城西高校と烏野高校の練習試合を行います!!」
「「「お願いします!」」」「「「お願いします!」」」
主審の笛が鳴ってエンドラインからネット際まで向かっていってネット越しに挨拶する。そしてポジションの確認に入った。
烏野
3 田中先輩 8 月島 1 キャプテン
7 影山 6 成田先輩(俺) 4 縁下先輩
青葉城西高校
6 7 3
1 5 2(リベロ)
副審からもOKを貰ってサイドラインで成田先輩と入れ替わる。
「頼むぞ!」
「はい!」
コートに一礼したら中に入ってバックレフトで構える。理由は影山が後衛スタートでセットアップに走るから。
サーブは青葉城西高校からで2番の人がエンドラインに歩いてく。
「「「松川1本ナイッサー!」」」
「1本切るぞ!」
「「「オォーッス!」」」
影山が田中先輩の左側からセットアップ、月島はサーブカット免除だからネット際で待機。
そんな具合だから穴が目立つローテーションだ。……だからどうしたって話なんだけどさ。あと、あっちのセッターパッとしないんだよな。もしかして正セッターじゃない?
「ねこ、フォロー頼む」
「縁下先輩も25点決めて下さいね」
「……っふは。試合終わるじゃん、それ」
若干緊張してるっぽい縁下先輩と軽口を叩いて集中する。そのうち主審の笛が鳴って、2番がジャンフロを打ってきた。狙いは月島の後ろ。俺のボールだ。
「取ります!」
「頼む!」
オーバーで処理するとボールが影山に返っていく。次はブロックフォローだな。
「澤村さん!」
「「「ライト来るぞ!」」」
影山はライトのキャプテンにトスを上げて、全員でブロックフォローに入る。相手はレフトの3番とセンターの6番がブロックに付いた。
「「せーのっ!」」
「「「ブロック2枚!」」」
「ふっ……!」
「ノー!」「ワンチ!」
キャプテンのスパイクは3番の左手に当たって、ボールはそのまま相手コートのレフト側のサイドラインを大きく越えて床に落ちた。ワンタッチでこっちの得点だ。【1-0】。
「良し!」
「「「大地さんナイスキー!」」」「「「ナイスキーです!」」」
「おう! 影山もナイストス! 猫又もナイスカット!」
「「はい!」」
コート中央に集まってペチペチハイタッチをしていく。喜び方も色々あるから変えていくのかもしれない。中学の時はコートの中を走り回ってたし。
そしてローテーションが1つ回ってキャプテンのサーブだ。影山が前衛に上がる。
「「「大地さん1本ナイッサー!」」」「1本お願いします!」
「1本切るぞ!」
「「「オォーッ!」」」
主審の笛が鳴ってキャプテンがフローターサーブを打つ。全国に行きたいなら最低限ジャンプサーブかジャンフロをできるようにしておかないとまずいかも。烏養コーチならちゃんと伝えると思うけど。
「「「岩泉!」」」「「「岩泉さん!」」」
「オッケー!」
あっちの1番がキャプテンのサーブを拾って5番がセットアップに走る。……誰で来る?
「花巻さん!」
「「「ライト来るぞ!」」」
5番はライトの3番にトスを上げた。1番がキャプテンかつエースで、3番はいわゆる裏エース。
レフトの田中先輩とセンターの蛍、ライトの影山がレフト側に移動して3人でブロックについた。後衛もバックレフトは縁下先輩、バックセンターに俺、バックライトはキャプテンと相手のスパイクに備える。
「せーのっ!」
「「「ブロック3枚!」」」
「ラッ!」
「ノー!」「ワンチ!」「ワンチ!」
田中先輩の指示に合わせて3人がブロックに跳んだ。3番のスパイクは月島の右手と影山の左手に当たってドシャット。こっちの点数になる。【2-0】。
「シ」「おし!」
「「…………!?」」
「今僕が止めたんだケド?」
「俺だろ。俺の左手だ」
「聞き捨てならないなぁ?」
早速競い合ってるよ。これ大丈夫か?
キャプテンと田中先輩が止めにかかって、影山がコーチを呼んだ。
「今のは2人の間だな! だから2人とも成功だ!」
「次は僕1人で決めるから」
「何言ってんだ。俺が決めてやる」
「「あぁん?」」
そうだよ、ブロック成功率とかで競えば良いんだよ。……本音を言えば、月島の方が比重大きかったように見える。喧嘩になりそうだから言わないけど。
「大地さんもう1本頼みます!」
「「「っ! もう1本ナイッサー!」」」
「おう!」
相手もちょっと顔つき変わってきたかな。「烏野ぉ? 影山だけっすよ」みたいなことさっき言ってたし、まあ、【墜ちた強豪 飛べない烏】って印象のままだよね。
その価値観早めにアップデートできないとズルズル負けるぞー。負かすけど。
「1本集中!」
「「「はい!」」」
主審の笛が鳴って、キャプテンがサーブを打った。狙いはセットアップに出てくる5番の進路上。でも、代わりに7番が拾った。
「ライト!」「セミ!」「A!」
「金田一!」
ライトの3番がオープン、センターの7番がセミ、レフトの6番がAクイックを呼んでコンビを使ってくる。そしてセッターの5番は6番にAクイックを上げた。
レフトの田中先輩とライトの影山はボールを見てからセンターに向かおうとするけど間に合わない。でも月島は間に合う。手の角度的にワンタッチだな。だから1歩後ろに下がった。
「ォラ!」
「ワンチ!」
「「「後ろ!」」」
読み通り。
月島の右手に当たったボールは大きく弾いてコートのエンドラインよりも大きく吹飛んでいく。でも残念、走らなくても追いつくよ。
「フォローお願いします!」
「「「影山!」」」
コートのエンドラインより3m位離れたボールをコートに戻してすぐに走る。アタックライン付近に落ちる軌道を取ったボールの落下地点に影山が待っていた。
「レフト!」「センター!」
「……月島!!」
「「「っ!? クイック来るぞ!」」」
……おお、ここでまさかの月島か。そのままコートの中に入ってブロックフォローに備える。
影山は縦のBクイックを月島に上げて、あっちは完全に虚を突かれた感じだ。月島に遅れてセンターの6番がブロックに跳ぶけどどうだ?
「ふっ!」
「ワンチ!」
あっちの6番身長あるからな。指の先掠めた感じっぽい。でもそのまま決まった。【3-0】。
「良し」
「「「ナイス月島!」」」
「あっ、はい」
「猫又もナイスフォロー!」
「『自分は使える』ってアピールしていかないといけないですから」
「後輩に負けてらんねえー」
「影山、俺と縁下にもトスくれよ」
「はい」
コート中央に集まってペチペチハイタッチをして確認し合う。当然だけど、まだまだお互いに探り合ってる感じがするからね。積極的にコミュニケーションは取っていかないとまずい。おーし。舐めてかかってきた青葉城西高校をけちょんけちょんにするぞー。
◇
試合が進んでいく中で、ベンチで応援してる武田一鉄はバレーボールの勉強も兼ねて烏養繋心から「これ参考になるぞ、先生」と渡されたバレーボールのルールガイドとメモ帳を開いてはメモを取っていた。
「県ベスト4である青葉城西高校に優位に立っている、という認識で良いんですよね?」
「そうだな。……まあ、あっちのセッターが2番手か3番手なのも関係あると思うけどな」
「セッター。……ええっと、影山君と菅原君と同じポジションですよね」
「おう。〝及川徹〟って正セッターが出てきてねえ。ルックスが良いから青城バレーの広告塔になってる選手だ。あと影山の中学の先輩。さっきも及川のこと探してたしな、影山」
「影山君の!? それは上手なんでしょうね。でもセッターが替わるだけでチームの強さも変わるんでしょうか?」と武田一鉄は続ける。
「めっっっっちゃ変わる。セッターがゲームメイクをするんだけど、そん時にどれだけ味方と敵の情報を処理できるかで流れがちげえ。
『相手のポジションはこうでー、こうしないといけない、ああしないといけない』って常に考えるから滅茶苦茶負担かかるんだ」
「それは凄いですね……」
「セッターはオーケストラの指揮者に例えられる事が多いな。セッターが変わればチームの雰囲気も変わる。そういう点ではあっちの5番はまだ噛み合ってない部分が多い。今日は代理って感じなんだろ。
ま、そんなの関係ねえけど。勝ちはかっ攫う。……山口!」
「はい!」
試合が進んで【22-19】、影山飛雄のサーブの番が来て前衛に上がってきた澤村大地と交替させるために、烏養繋心は山口忠の背中を押す。
「澤村の代わりにライトを任せる。同点になるまでは投入するからブロック1本でも決めてこい!」
「はい!」
そして、山口忠がコートの中に入っていった。
◇
副審が〝メンバーチェンジ〟のシグナルを出した。どうやら山口とキャプテンが替わるみたいだ。ワンポイントブロッカーか? なるほど。
「縁下! 田中! 成田! 後輩の面倒見ろよ!」
「はい!」「任せて下さい!」「はい!」
今完全に1、2年チームなんだよな。キャプテンがめっちゃ心配そうな表情で山口と替わる。まあ、それはそれ、これはこれ。
「山口! 気張れよ!」
「はい! 影山も1本ナイッサー!!」
「おう」
ボールを受け取った影山がそのままエンドラインに行って、ルーティンを始める。
山口もそこまで緊張してないかな。どっちかというと、外で見てる翔陽の方が「うがぁっ」って感じで見てる。目を合わせないようにしとこー。
「影山のサーブ来んぞ! 1本集中!!」
「「「オォーッ!」」」
相手のローテはセッターの5番が前衛だからライトのバックアタックはほとんど考えなくて大丈夫。あとセッターからのツーも案外モーションが分かりやすい。……端的に言えば今がチャンスだ。
主審の笛が鳴って、影山がジャンプサーブを打った。狙いはバックセンター。良いサーブだ。
「「「渡!」」」
「はい! ……花巻さんカバーお願いします!」
「オッケ!」
相手のリベロが触ったけど乱れる。5番の代わりにバックレフトにいた3番が二段トスのモーションを始めた。
「岩泉!」
「「「1番!」」」
3番がライトの1番に二段トスを上げて、バックセンターで1番のスパイクに備える。
あとレフトの田中先輩、センターの成田先輩、それにライトの山口がレフト側に移動してブロックに付いた。
「「「せーのっ!!」」」
「「「ブロック3枚!」」」
「ふっ……!」
「ノー!」「ノー!」「ワンチ!」
1番のスパイクは山口の右手の指先に当たってチャンスとなった。でも影山が拾わないといけないボールだ。……普通ならここは二段トス。でも?
「猫又!」
「オッケ!」
ま、こういう時のリベロでしょ。
リベロは第二のセッターって呼ばれていて、1本目をセッターが拾った時のトスを任される。つまり、こういう時にトスが出来ないんだったらリベロとしては半人前。
「レフトォ!」「センター!」「ライト!」
レフトの田中先輩、センターの成田先輩、ライトの山口がトスを呼んだ。
……トス呼んだな? じゃあ!!
「いけっ!」
「「「10番!」」」
アタックラインを踏み切ってのジャンプトス。それをライトの山口に上げた。
若干オープンよりのセミで、あっちはレフトの1番と遅れて2番が移動してブロックに付く。
「「せーの!!」」
「「「ブロック2枚!」」」
「~~っ!!」
「ノー!」「ワンチ!」
山口のスパイクは1番の左手に当たってそのままコートから離れるように吹飛んでいった。つまりワンタッチでこっちの得点だ。【23-19】。
「~~~~っ!! シャア!!」
「「「良いぞ山口! ナイスキー!!」」」
「は、はい!!」
「影山も猫又もナイス!」
「おう。ナイスキー」「ナイスキー」
「……高校初の練習試合、その1点どうよ、山口君」
「サイコーっす! 田中さん!!」
もう少しトス速めにしても大丈夫そうだな。ブロック1枚だけに出来ると良いし。修正修正。
「良いぞ山口! 積極的にトス呼べ! 今の1点はお前が決めた1点だ!」
「はい!!」
良いじゃん山口。高さもあるからサイドアタッカーも上手く出来そう。さ、あと2点かっさらいましょー。
「影山、もう1本ナイッサー」
「おう」
「気ィ抜くなよ!」
「はい!」
影山も絶好調。確執がある同じ中学校の人がいるって聞いてたけどあんまり気にして無さそう。中学の時何があったんだろ、結局聞いてないんだよね。
「1本集中!」
「「「オォーッ!」」」
さ、集中集中。【勝って兜の緒を締めよ】って言うからね。油断厳禁。
主審の笛が鳴って、影山がジャンプサーブを打った。狙いはバックレフトの3番。
「「「花巻!」」」
「ォラ!! ……長い!」
「くっ……!」
3番が影山のサーブを拾う。……長いな。
セッターの5番に返っていくけどネット上で押し込んでこようとする。
「成田!」
「ワンチ!」
相手の5番に合わせて成田先輩がブロックに跳んで、成田先輩が触ってチャンスボールになった。
「「「猫又!」」」
「オーライ!」
そのチャンスボールを俺が処理してバックライトからセットアップに走った影山に返球する。
「レフトォ!」「A!!」「ライト!」
「……成田さん!」
レフトの田中先輩、センターの成田先輩、ライトの山口の3人がトスを呼んで、影山はAクイックを呼んだ成田先輩にトスを上げた。
2番がブロックに跳ぶけど、成田先輩が打ったスパイクはその横を通過してコートに叩きつけられる。【24-19】。
「ッシャ! 影山ナイストス!」
「はい!」
「「「成田ナイスキー!」」」「「「ナイスキーです!!」」」
コート中央に集まってお互いにペチペチハイタッチ。
「ラスト1本確実に取ってくぞ。影山、サーブ頼むからな。中学とは違えって見せてこい」
「はい!」
やっぱりサーブの強化だな。ジャンプサーブってそれだけでプレッシャーになるし。あとフローターよりもジャンフロに変えて欲しいところだ。
……さっきも思ったけど県ベスト4って言う割にはあんまりパッとしない。特にあのセッターと7番。やる気無い奴入れるほど選手層良いわけじゃ無さそうだけどな、この高校。
「「「影山、1本ナイッサー!!」」」
「強打来るぞ! 1本集中!!」
「「「オォーッ!」」」
主審の笛が鳴って、影山がジャンプサーブを打った。狙いはライトの中学の先輩らしい1番。
「「「岩泉!」」」
「舐めんなオラ!」
きっちり返球された。ナイスレシーブ。
「矢巾! 俺にもってこい!」
「はい! 岩泉さん!!」
キャプテンの意地というか、後輩に舐められたお返しというか、エースの意地というか、苦しい時のポイントゲッターと言うか。
そういった色々なものが含まれて、オープントスがライトの1番に上がる。こっちもレフトの田中先輩、センターの成田先輩、ライトの山口の3人がブロックに付いた。
「「「せーのっ!!」」」
「「「ブロック3枚!」」」
「オラ!!」
「ノー!」「ワンチ!」「ノー!」
くっそ……!
1番が打ったスパイクは成田先輩のブロックを吹飛ばしてコート中央、どうしても穴になってる所に落ちた。む~り~!! 【24-20】。
「シャ!!」
「「「ナイス岩泉!」」」「「「ナイスキー!!」」」
あっちはあっちでオラオラやってる。こっちはこっちで確認。
「悪い!」
「「「ドンマイ成田!」」」「「「ドンマイっす!!」」」
「岩泉さん、……あの1番です。やっぱ強いっす」
「北川第一だもんなー。だけど、ウチだって負けたわけじゃ無い。切り替えよう」
「「おう!」」「「「はい!」」」
……縁下先輩、キャプテンみたいだなー。主将候補とか?
相手のサーバーは1番。強烈なジャンプサーブを打ってくる人だ。さ、気を引き締めていこう。バックレフトで構える。
「猫又フォロー頼む」
「任せろ」
「田中も頼むぞ」
「任せろ!」
ミドルブロッカーってことで基本サーブレシーブには参加しない成田先輩がライト。そして、まだまだサーブレシーブがあまい山口がレフト。加えてセッターである影山がバックライトで3人はサーブレシーブに参加しないからちょっと穴が多いローテーションだ。縁下先輩と田中先輩の3人でやっていくしか無い。
「「「岩泉! 1本ナイッサー!!」」」
「「「サッ、来ーーーーい!」」」
主審の笛が鳴って、1番がジャンプサーブを打ってきた。狙いはバックライト。
「「「田中!」」」「「田中さん!」」「田中先輩!」
「ォラ! ……カバー頼む!」
田中先輩がなんとか触って、ボールはその場で上に上がる。アタックライン付近まで走っていた影山がボールの落下地点まで走って行った。
「レフト!」「センター!」「ライト!」
「……成田さん!」
「「「っ!? ライトだ!」」」
マジか。縦のBクイックってもんじゃ無いぞ。後ろから来るボールって物凄い打ちづらいから、成田先輩はフェイントみたいな形で相手コートに返した。ウチも相手も虚を突かれた形でボールが相手コートのレフトのフロントゾーンに落ちる。【25-20】。
…………何はともあれ烏野の勝ちだ。
エンドラインに整列して挨拶。そしてベンチでミーティングだ。
「良ーし。良い展開だったな。
澤村は守備寄りの選手で、山口は攻撃寄りの選手だから今回試してみた。何回も言うけど、バレーボールはお互いにフォローしてフォローされる球技だ。『誰かの弱点を自分が。自分の弱点を誰かに』ってチームワーク大事にしていこうな」
「「「はい!」」」
素人だからなんとも言えないけど、バスケとかサッカーとかってめっちゃ凄い選手が1人いれば勝てるらしい球技なんだよな。その点バレーは1人じゃ成り立たない球技で、どうしても性質上協力していかないと成り立たない。影山と月島、山口も本入部が始まってだんだん仲良くなってきてるし。
「じゃあ、外から見て一言ずつ。菅原から」
「はい。全体にレシーブが乱れやすいのと、ブロックの時にタイミングがずれてるのが気になりました」
「そうだな。澤村と猫又への負担が大きいと思う。セッターのスタミナって面も考えるともっと1人1人レシーブは鍛えていかないと駄目だ。
ブロックもそう。勝ち上がれるチームはブロックがしっかりと揃ってる。改善していかないと駄目だ。次木下」
今度は木下先輩が話し始める。
「えっと……。サーブ、ですかね。ジャンプサーブを打てるのが影山しかいないから連続得点が少ないように感じました」
「だな。もちろんフローターサーブで狙えるなら良い。でも、現状相手へのチャンスボールが多くて結果的に追い込まれてる。勝っていくにはサーブの強化が必要だ。サービスエースが有ればチームの雰囲気がより『イケイケ、ドンドン』になる。最後、日向」
すっかり回復したっぽい翔陽が「オス!」とか言いながら続いた。
「皆上手で負けられないと思いました!」
おい、何だそれ。
「日な――!」
「はいはい。最初だから良いよ。最初っからできる奴なんかいねえんだ。
日向、『こういう時にどうしたら良いのか?』を言えるにはバレーへの知識と経験が無いといけねえ。自分でも分かってると思うけど、ちゃんとバレーへの勉強と地道な練習をしていくように。
あと、外から見るのも勉強だから、試合中の選手の動きとかきちんと見ること。いいな?」
「はい!」
「全員そうだぞ。個人の能力とチーム力は全然足りてねえ。全国制覇して優勝旗を持ち帰るのが目的だろ? だったらどんどん学習していけ。
それに、コートの中では気づきにくくても、外からの気づきが結果的にチームの勝ちに繋がる。気づいたことはどんどん言っていくように。
武田先生、俺、清水、選手11人が今の烏野高校排球部だ。全員で全国制覇するぞ!」
「「「はい!」」」
「そういう訳で、武田先生と清水から何かあるか?」って烏養コーチが促して、あたふたしながらも武田先生が続いた。
「……そうですね。では、僕から1つ。
〝烏〟という動物は仲間意識がとても強く、経験したことから学び、優れた解決能力を持つ動物だと言われています。君達も烏らしく、色々なことを見て学んで吸収してどんどん強くなっていきましょう。
僕も君達に負けないようにバレーボールの勉強を頑張っていくからね!」
「「「はい!」」」
ホーント、未経験だと適当になる先生が多い中で武田先生はしっかり勉強してくれる。教師って滅茶苦茶大変な仕事なのに。すげーありがたい。ありがとうございます、武田先生。
そして清水先輩が続いた。
「……私は直接コートに立たないし、裏方がメインだけど、でもやっぱり皆に勝って欲しい。
1年が加わってウチは強くなろうとしてる。私も出来ることを増やしていきます」
「「「…………」」」「「「はい!」」」
……あれ? 先輩達の様子が?
「「清水ぅ!!」」「「「清水先輩!」」」「き・よ・こさぁ~ん!!」
「うわっ! あんたたち先輩でしょ!?」
……ウケる。
◆
一方、青葉城西高校もミーティングを行っていた。監督の入畑伸照とコーチの溝口貞幸が色々と指示を出していく。
「及川が不在だからといって、〝影山君をフルで出すように〟などと条件を出したウチが不甲斐ない試合をして良いわけが無いだろう。今のメンバーで2セット目を取り返せ!」
「「「はい!」」」
指導者の良いなりにならず、選手が考えるバレーボールを心がけている青葉城西高校は岩泉一を中心にミーティングを始めた。
子供達の様子を見つつ、溝口貞幸が入畑伸照に小声で話し掛ける。
「やっぱり影山をウチで取れなかったのは痛かったですね」
「……本当にそう思ってるかい?」
「いえ、冗談です」
入畑伸照と溝口貞幸は今後の宮城県の勢力図を考えては一つ嘆息した。
「縄跳び、ウチでも導入していこうか」
「ジャンプ力、スタミナ、そして全身運動ですからね。安く買えるところ探しておきます。とりあえず40本位ですか。4万くらいですよね」
「フィジカルを鍛えるのに4万なら安いくらいだ。1人1000円もかからないんだぞ」
「そうですね」
「マットを敷くので縄跳びを使って良いですか?」と烏野高校の武田一鉄から聞かれた時は疑問を浮かべていたが、考えてみると縄跳びはバレーボール選手に必要な筋肉を鍛えることができる。
去年度の新人戦や3月に行われた県民大会に出場していたメンバーを見て、2人は身体が発展してきていることに気が付いた。
「顧問の武田先生は未経験らしいが、あのコーチは凄いな。やってることが大学の1部リーグ経験者みたいだ。溝口君も見習うように」
「はい。
……烏野、今年は化けそうですね。影山、眼鏡をかけたミドル、そしてリベロと」
「だねぇ。
……あのリベロ、何者だろうか。去年の中総体の東北大会にもいなかったよな?」
「だと思います。訛りもありませんし、関東出身でしょうか?」
「分からん、が厄介な存在だ」
影山飛雄だけ注視すれば良いと思ったのは事実だ。それでも、烏野高校に新しく新入部員が入部して頭角を現しているのも確認できた。碌な情報も無く公式戦で当たっていたら飲まれていた可能性もある。
そう考えると、今回の練習試合はとても有益なものだと入畑伸照と溝口貞幸は結論づけた。
そして、第2セットが始まる。
◆
1セット目の振り返りと終えて、2セット目の話に移る。
「日向も問題無さそうだから、次は本題の影山と日向の変人速攻を試したい。影山、日向、いけるな?」
「「はい!」」
「加えて、影山の攻撃力も見てみたいから、影山の前衛時かつ月島のサーブの時に菅原を投入してツーセッターもやってみたい。菅原、いけるな?」
「はい!」
「ウチは11人しかいなくて試合形式の練習が出来ない。〝練習試合〟の意味を理解しながら取り組むこと。
そしてなかなか練習試合を取り付けないだろうに頑張ってくれてる武田センセにもきちんと感謝しろ! 武田センセに『顧問を引き受けて良かった』って思えるように勝ってこい!! 勝つことが武田センセへの恩返しだ!!」
「「「はい!」」」
全員で円陣を組む。
「烏野ー! ファイ!!」
「「「オォーッス!」」」
円陣を組んだら、コートに入って背番号とポジションの確認に入る。俺はコート外のサイドライン付近で副審にお腹側を見せる。本来なら番号の確認だけど、リベロ用のビブスを着てるから問題なし。
烏野
1 キャプテン 8 月島 4 縁下先輩
3 田中先輩 9 翔陽(俺) 7 影山
青葉城西高校
6 7 3
1 5 2(リベロ)
あっちは1セット目と同じか。
がらっと変わったローテーション、特に翔陽がミドルブロッカーとしての起用に「うおっ!? あの9番ミドルかよっ!?」って感じで見てくる。
その理由は分かるけど、どっちかというと翔陽の基礎力が問題だからこうせざるを得ないって理由の方が大きい。だってスパイクしか碌に出来ないし。……スパイクも出来てないけど。
あと、影山がセッターだから攻撃には参加しない事が多い。でも、翔陽は男子では珍しくブロードを使うから、センターからライトまでの6mを自在に使える。つまりA、B、C、Dそれぞれのクイックとライトへの平行が翔陽1人で出来るから攻撃力はそこまで落ちない。後は全体的にバックアタックとか出来るようになれば攻撃の手段が増える。
ま、まずは基礎を身につけないとな。これからに期待。
【25-18】で2セット目もウチが取った。
翔陽の攻撃にあっちがビビり倒して、目を見開いたときは爽快だったね。
あと、スガ先輩と影山のツーセッターも効果的だった。2、3年生が「どうだオラ!? ウチにはスガさんもいるんだぞ!? オラァ!」って表情してたのが面白かった。木下先輩もリリーフサーバーで出て1点取ったし。全員出て結果を出せた。
……試合形式の練習が出来ると楽しいね。俺ももう1回勧誘頑張ってみようかな。それにしても報復は成功した。はっはっは。2度と【墜ちた強豪 飛べない烏】だなんて言うんじゃねえぞ? オォン?
「今日1日、ありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!!」」」
1試合って約束だから2セット取ったウチの勝ちって事で今回の練習試合は終わった。クールダウンを終わらせて帰る準備をしていく。
「「「きゃあ~! オイカワさぁ~ん!!」」」「「「オイカワテメェ!!」」」
なんだなんだ? 女子の歓声とさっき対戦したあっちのレギュラー陣の怒声が体育館に響く。
ボールとかボール籠、ビデオカメラとか救急バッグも確認して帰るところなんだけど、出入口付近でギャアギャアやってる。
「嘘!? 試合終わったの!?」
「このボゲェ! 遅れてきてんじゃねえぞオイカワボゲェ!」
「病院だったんだからしょうが無いじゃん! 岩ちゃん!!」
1番、2番、3番に〝オイカワ〟って人がボコボコにされてる。ウケる。……漢字だと〝及川〟かな?
そして、移動の時にはあんまり話さない影山が珍しく話し始めた。
「……オイカワさん。俺の中学の先輩で、サーブとブロックはあの人から見て覚えました。中3の時にはベストセッター賞貰ってます」
「影山の先輩! つまり〝大王様〟ってこと!?」
「俺は〝王様〟じゃねえ! 日向ボゲェ!」
……なるほど。影山はあの〝オイカワ〟って人と言語に関しては1番の影響を受けたって事か。それにしても出口で固まらないで欲しいんだけど。出られないじゃん。
「オイカワかぁ。俺達の代だと有名だよなー」
「だな。……今度はオイカワを加えた青城と戦っていかないといけないんだよな」
キャプテンとスガ先輩が話してるときに、あっちの先生と話していた武田先生と烏養コーチも俺達に合流した。
「ま、これから6月のインターハイ予選に向けてどの高校も仕上げてくる。練習試合でいくら勝っても公式戦で勝たないと意味がねえ。
約1ヶ月半、青城も仕上げてくるだろうから、『今日勝ったから次も勝てる』だなんて甘えるなよ。高校の1ヶ月なんて全く違うチームに生まれ変わるんだからな」
「あっ、はい!」
「今日出来たこと、出来なかったこと、個人の技術、チームとしての仕上がり。ウチだって足りないものの方が多いんだからな。これからしっかり仕上げていくぞ」
「「「はい!」」」
今だと県ベスト8に残れれば良いって感じだからまず目指していこう。
おっと、その〝オイカワ〟さんがやってきた。
「飛雄ちゃん。今度は俺がひねり潰してやるからね」
「っ! 負けません!」
「みっともなく中学の後輩に絡んでんじゃねえ! 早く怪我治せボゲェ!!」
「いたっ!? 分かってるよ! 岩ちゃん!」
「次は勝つからな、影山」
「っ! はい、負けません!!」
それにしてもあの〝オイカワ〟って人、ルックスとか雰囲気とか女子にモテそうだけど、本命の女子には相手にされないんだろうな。カワイソ。
彼女とっかえひっかえして変な恨み買ってそう。精々ファンに刺されないことをお祈りしておきます。合掌。
バスの中でぐっすりと寝て、気が付いたら烏野に戻っていた。
ボールとかボール籠とかを戻してミーティングに入る。
「仮入部期間から今日まで連続で練習してたから明日は疲れを取るために朝も放課後もオフだ。とは言え、今日の試合の振り返りをするから放課後は視聴覚室に集合な。いわゆるPDCAサイクルの〝Check〟にあたる」
「「「PDCAサイクル……?」」」
影山と翔陽、田中先輩を筆頭に聞き慣れない単語に首を捻ってる人が多い。それを見て、烏養コーチは苦笑した。
「PDCAサイクルって言うのは、〝Plan〟……計画する、〝Do〟……実際にやってみる、〝Check〟……その振り返りをする、〝Action〟……改善案を出してまた実行するっていうのの頭文字をとったものだ。
今回の場合は、『青城戦で新入生を交えた新チームで色々試す』が〝Plan〟で、『実際に戦う』が〝Do〟だ。明日の振り返りと『これが足りない、あれが足りない。じゃあこうしよう、ああしよう』って言うのが〝Check〟と〝Action〟になる。
ま、面白いものも準備してあるから楽しみにしておけよ」
「「「面白いもの!? 何ですか!?」」」
「それは明日のお楽しみだ。武田センセから何かあるか?」
そうですねぇ、って言いながら、武田先生は言いたいことを纏めてる様子だ。
それにしても烏養コーチの言う〝面白いもの〟って何だ? 者? 物? ……なんだろ。
「えっと、そうですね。さっきも言ったので簡単に。
練習試合とはいえ、県ベスト4の青葉城西高校に勝利したのは十分君達の自信に繋がると思うんです。烏養君が言うように『公式戦で勝たないと意味が無い』というのはもちろんなんですけどね。
君達はとても素晴らしいポテンシャルを持っている。これから練習を積み重ねてそのポテンシャルを引き出し、そしてどんどん強くなっていきましょう!」
「「「はい!」」」
「ありがとな、センセ。
良し、じゃあ今日の練習は終わり。澤村」
「はい! 気を付けー! 礼!!」
「「「ありがとうございました!!」」」
お腹空いたー。帰って風呂だ!
鎮西高校と福岡大付属大濠高校出身のYoutuber男性2人が色々なバレー強豪校に潜入し、練習風景を動画に出しています。
(男子は鎮西、駿台、東福岡、東山、星城、松本国際、東亜学園など。女子は金蘭会、豊川など)
「強豪校ってこういう練習をするんだ」であったり、「こういう厳しいトレーニングをするから強くなるんだ」と言うのが分かる動画になっています。
どの高校も基礎練習をしっかりとやっています。
もし興味があればYoutubeで「バレーボール 強豪校 潜入」と検索してみて下さい。
「ビ」または「B」から始まるYoutuberです。(バレーボールYoutuber自体が少ないのですぐに分かると思います)
本日付(2026年9月14日)では清風高校男子バレー部への潜入動画が1番新しいはずです。
やっぱり男女ではメニューが全然違いますよね。
中でも坂出工業高校のバレーは烏野のバレーに似ているような節を感じました。お時間があれば見てみて下さい。
【登場人物まとめ】
新島新一 烏野スポーツ店で働く
里山光輝 烏野整骨院で働く