烏野高校の猫又君   作:青黄紅白

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2012年4月⑤

 放課後になった。今日は昨日の青葉城西高校との練習試合の振り返りをする。

 そんなわけで視聴覚室に集まってきたんだけど……。3月の県民大会に出てた先輩2人もいる。いや、復帰するのなら全然嬉しいんだ。

 烏養コーチなんかピリピリしてる? あ、いや、ただそう見せかけてるだけだ。内心「帰ってきたか~! やったぜ!!」って思ってるに違いない。あれは絶対そう。

 

「男子バレー部のコーチをしている烏養繋心だ。今からバレー部で視聴覚室を利用することは武田先生を通して申請してある。バレー部に何か用か? 忘れ物かなんかか?」

「……いえ! 3年の東峰旭です! バレー部に復帰させて下さい!」

「2年の西谷夕です! 自分も部に復帰させて下さい!」

「……東峰? 西谷? んー、確か、暴力沙汰起こして謹慎喰らってたんだっけ。他校との揉め事起こして大会に参加出来なくなるとか論外なんだが」

 

 白々しいな、戻ってきてくれて嬉しいって顔に出てるのに。まあ、でもこれも必要なことだよね。

 

「コーチ。あの、2人は……」

「んー? いや、でもウチってバレー部だろ? 喧嘩部じゃないんだよ。

 バレーボールってコートの中の6人がお互いに協力しないと勝てない球技だ。チームメイトに怪我をさせようとする奴にはバレーをする資格が無い。

 東峰と西谷はそこら辺どう思ってる?」

「……もうしません! お願いします! もう一度バレーをさせて下さい!」

「自分もです! お願いします!!」

 

 そう言って2人は頭を下げた。

 10秒、20秒とその状態でいて、遂に烏養コーチが動いて2人の頭に手を置いた。

 

「熱くなるのはしょうがねえが、手を出したらその時点で負けだ。今後は気を付けるように。

 ……良く戻ってきたな、東峰、西谷」

「「っ! ありがとうございます!!」」

 

 その瞬間、2、3年生が一斉に東峰先輩と西谷先輩を取り囲んでウェイウェイし始めた。1年の5人はポカンとしてる。だって会ったこと無いし。

 流石になあなあにして部に戻すわけにはいかないよね。ってことで、お疲れ様、繋心兄ちゃん。

 先輩達が一頻り騒いだら、烏養コーチが話し始めた。

 

「今回は校内でのトラブルだったから、謹慎っつう簡単なペナルティで済んだ。

 でもな、これから練習試合とか公式戦で他校と関わることは増えていく。そんな時にトラブったら大会に参加できなくなるぞ。今までの練習が全て水の泡で全国どころじゃねえ。

 つーわけで、今後は気を付けるように」

「「「はい!」」」

「あと、田中、お前昨日青城の5番と6番にからんでただろ」

「えっ? あっ、……さーせん」

 

 そうなの? だからなんかバチバチやってたのか。

 

「俺達はバレー部だ。何か言いたいことがあればバレーの実力で示せ。

 他校に絡むな。絡まれそうになったらすぐに逃げろ。そんで何があっても絶対に手を出すな。

 田中、東峰、西谷、次やったら除籍だ。他の10人も覚えておけよ。それだけ暴力沙汰ってのは重いぞ」

「「「はい……!」」」

「あと、清水もこれからは防犯ブザー持たせるから。何かあったら遠慮無く鳴らしていいからな」

「分かりました」

 

 防犯ブザーも馬鹿に出来ないんだよねぇ。特に男に絡まれてる女性が鳴らすとさ。十中八九警察沙汰になるから案外持ってて損は無い。

 それに、どうしても他人の足を引っ張る事が好きな輩はいるからねー。逃げるに越したことは無い。

 

「じゃあ、東峰と西谷は自己紹介しようか。1年とは会ったこと無いだろ?」

「あっ、はい」「うす!」

「3年の東峰旭です。ポジションはレフト。大地とスガ、清水からちょっと話を聞いてました。これから宜しくな」

「「「よろしくお願いします!」」」

「2年の西谷夕だ! ポジションはリベロ! ノヤと呼んでくれ! 宜しくな!」

「「「よろしくお願いします!」」」

 

 東峰先輩と西谷先輩の挨拶が終わる。……やっぱ西谷先輩リベロか。正リベロの座は渡さねえ……!

 

「じゃあ、これから昨日の青城戦を見て貰うんだけど、その前に。

 これから練習試合とか公式戦に出るが、同時に審判をする機会は絶対に来る。バレー部に入った以上全員に主審、副審、記録係、ラインズマンを出来るようにさせる。その為にも反則とかの知識が必要になる。

 ただ試合に出れば良いってもんじゃねえからな。選手だけやれば良いってもんじゃ無い。こういった座学も強くなるために必要不可欠だ。忘れるなよ」

「「「はい!」」」

 

 そして、影山と翔陽の会話も聞えてくる。

 

「去年、本当は日向の学校が審判やるんだったんだからな」

「うっ、はい。その節はありがとうございました」

 

 今の口ぶりだと審判手伝って貰ったのかな? ぶっちゃけ迷惑なんだよなー。サポートやれないんなら公式戦出るなよ。……競技人口増やすって意味だと余裕があるチームがやった方が良いのは分かるんだけどー。中には審判やってもらって当然、みたいな奴いるし。

 ま、審判はルールが大きく変わらない限りは大丈夫。全部できるぞー。

 

「じゃ、見ていくぞー。紙渡していくから気づいたことがあれば書いていけ。最後に発表させるからなー」

「「「はい!」」」

 

 サーブカット、スパイクレシーブ、ジャンプトス、二段トス、まだまだ詰めていかないと。

 

 

 1セット目が終わって発表。2セット目が終わって発表と繰り返して振り返りは終わった。

 もっと上手くなっていかないと。あと返球位置も微妙だったか。うぬん……。

 

「こうやって客観的に見たらまだまだだって思うだろ? つまりウチはまだ弱い。

 弱いって事は伸びしろが多いって事なんだからどんどん上手くなっていこう。そんで全国制覇しようぜ」

「「「はい!」」」

「じゃあ次だ」

 

 あっ。2007年度春高1回戦って書いてあるの見えちゃった。なるほどね。これが〝面白い物〟か。

 烏養コーチがリモコンを操作すると、目の前のモニターにどこか古くささもある映像が流れていく。さいたまスーパーアリーナじゃん、懐かしー。この試合も見に行ったっけ。

 

『2007年度春の高校バレー。

 第1回戦、岡山代表宗郷学園高等学校と対戦するのは宮城代表烏野高等学校。

 鷲匠鍛治監督率いる白鳥沢学園高等学校を打ち破って、烏養一繋監督が率いる烏野高校はこの春の高校バレーに挑みます』

「「「っ!?」」」

 

 その瞬間、視聴覚室がやばいことになった。翔陽はともかく、3年生も2年生も月島と山口も目を見開いてる。あはは。

 

「「「えっ!? 烏養コーチ、これって!?」」」

「何だよ? 何か問題あっか?」

「「「なっ!? えっ! 嘘だろ!?」」」

「嘘じゃねえよ。ちょっとジジイから借りてきた。

 日向、お前がよく言ってる〝小さな巨人〟の試合だ。10番の宇内天満な。よーく見ておけよ」

「あっ、はい!!」

 

 怖い怖い。瞳孔開いてるって。

 実況があるって事はこれは買ったものだな。それともテレビの録画か。いやでも録画か。

 烏養コーチが興奮してる皆を見渡した。

 

「ま、そういうことだ。

 直近で言うと、2007年度の春高が記憶に残ってる奴も多いだろ。日向みたいに〝小さな巨人〟見て烏野に入学したのもいそうだしな。

 つーわけで、『過去の先輩がどんなチームだったのか?』、『どんな試合をしていたのか?』を勉強して貰う。それでバレーIQを養わせる。

 会場こそ違うけど、全国ってこう言う場所なんだなって言うのをしっかり理解しろ。俺達が目指してる舞台はここだ」

「「「はい!」」」

 

 今までに無いほど良い返事だった。

 

 

『宇内天満がまた決めた! 宗郷学園、烏野のエース宇内を止められない!』

 

『宇内のフェイントが炸裂! 強打を警戒していた宗郷学園、動けない!!』

 

『宇内がマッチポイントをしっかりと決めました。彼こそがまさに〝小さな巨人〟という称号を持つに相応しい選手です。この試合で23点を取りました、とても素晴らしい。烏野高校、無事に1回戦突破です』

 

 俺ならどうするかなー、とかって考えながら見てると、ストレートで烏野が勝った。騒がしい翔陽と田中先輩がやけに静かだ。よく見るとキャプテン達も。

 

「日向、どうだった?」

「っ!! 俺、もっと強くなりたいです!! 全国に行きたい!! もっとバレー上手くなりたいです!!」

「良い返事だ。

 他はどうだ? 全国のバレーやってる高校生が夢見る舞台だ。各都道府県を勝ち抜いた高校だけが出られる夢の舞台。行きてえだろ?」

「「「……はい!」」」

「じゃあ、もっと上手くなるしかねえぞ。このメンバーで全国行く。いいな?」

「「「……はい!」」」

「こんな感じで座学もやっていくからなー。そんで今日は終わり。

 普段家の手伝いとか出来ねえだろうから、オフの日くらいやってやれ。どうしても保護者の協力は不可欠だからな。『いつもバレーやらせてくれてありがとう』って。悪く言やあゴマ擦っとけ。

 ……あと勉強はやっとけよ?」

「「「っ!?」」」

 

 翔陽と田中先輩は分かる。でも影山も意外――でも無かったわ。白目剥いて寝てたとか聞いた覚えがある。あと西谷先輩も固まった。

 

「スタメンだった奴がテストで赤点取って、補習受けてる間にスタメン取られた実体験がある。高校生である以上ある程度勉強しておけよー」

「「「はい!」」」「「「…………」」」

 

 今の返事で勉強できない組が分かった。今の所推薦狙ってるから90点目指そうっと。

 

「東峰と西谷」

「あっ、はい!」「オッス!」

「青城戦で分かったと思うけど、怪我の予防にサポーターとカーフスリーブの着用を義務づけてる。インソールを買いに行きたいんだけど今から時間あるか?」

「大丈夫です!」「俺も!」

「じゃあ、サポーターとカーフスリーブも渡しちまうな。それに、どんなメニューをしてるって言うのも説明していくか。

よーし、全体としてはここまで。ちゃんと休めよー」

「「「ありがとうございました!!」」」

 

 図書館でも覗いて帰るかな。

 荷物を持って立上がろうと思ったら、西谷先輩に話し掛けられた。

 

「猫又繋護って言ったな?」

「あ、はい。宜しくお願いします、西谷先輩」

 

 すると、西谷先輩がデーン!! って表情をした。何でだ? ……この人も先輩って呼ばれると嬉しいタイプか。

 

「良かったなノヤ! リベロの後輩だぞ! 猫又も上手えからノヤもウカウカしてらんねえな! 旭さんが復帰したから俺も縁下も負けてらんねえ!」

「だな、龍!! 俺も試合に出てえ! 負けねえぞ! 繋護!」

「自分も頑張ります、西谷先輩」

「西谷先輩だなんて水くせえ! 俺のことはノヤと呼べ!」

「じゃあノヤ先輩と」

「おう!」

 

 あっけからんとした人みたいだ。台風みたい。

 

 

 

 金曜日、誠兄ちゃん、祐輔兄ちゃん達が所属してる町内会チームとの練習試合が決まって、OBがゾロゾロと体育館に現れてはアップを始めてる。

 

「流石に平日だからちょっと人集まりにくいなー。つっても土日は夜じゃねえと集まれねえし。まあしゃあねえか。

 取りあえず、東峰と西谷の実力を見たいから町内会チームに加わってくれ。あとセッターか。ふむ……」

 

 スガ先輩か影山か。烏養コーチは顎に手をやって2人の間に視線をさまよわせる。おずおずとスガ先輩が手をあげた。

 

「町内会チームに入らせて頂けないでしょうか?」

「……理由は?」

「3月の伊達工戦で俺は旭に負担を掛けすぎました。もっとトスを分散させればブロックの枚数を減らせて旭が楽になった。スパイカーの皆を楽にさせるためにももっと強くなりたい。お願いします!」

「……良いな。

 理由が『なんとなく』とか『俺がセッターだから』とか抜かしてたら引っかかったけど、正当な理由があるなら構わねえ。OBに揉まれてこい!」

「はい! ありがとうございます!」

 

 スガ先輩、東峰先輩、ノヤ先輩の3人はOBの方へと走っていって、OBに交じった。

 

「じゃあ、こっちな。まず、猫又は出さない」

「「「えっ」」」

 

 ……そうきたかー。あー、試合…………。まあ仕方ない。

 若干動揺してる皆を納得させるためにも、烏養コーチが理由を話していく。

 

「高校生である以上、学校行事とか家の用事で部活を休むことがあるはずだ。考えたくねえけど怪我とかな。

 その時に、『誰々がいないから実力発揮できませんでした』なんてならないように今から色んな事態を想定して練習していく。今回であれば『リベロが不在の時どうすんの?』ってよ。

 今足りないものを確認する練習試合だと思ってくれ。負けたら終わりの公式戦じゃねえし。

 とりあえず10点差付けられたら猫又を投入するけど。……10点差だぞ? 分かってるよな?」

「「「はっ、はい!」」」

 

 そんなんで全国目指してんの? えっ、マジ?

 そんな風な副音声が聞えてきた。

 

「〝練習試合〟の意味を考えて町内会チームと対戦しろ。勝敗もだけど、より試合の内容にも気を付けろよ」

「「「はい!」」」

「そんなわけでやってくぞー」

 

 俺は審判かー、試合出たかったな。

 

 

 1セット目は【25-17】、2セット目は【25-19】で町内会チームが勝った。やっぱり後手に回ることが多かったと思う。

 

「1本目が拾えなくて影山を走らせる、あるいは二段トスが多かったな。逆に言えば、1本目が安定すれば影山のスタミナを消費させることも無いし、コンビを使える。

 サーブ、サーブレシーブ、トス、スパイク、スパイクレシーブ、ブロック、ブロックフォローともっと上手くなっていこう」

「「「はい!」」」

「ゴールデンウィークには合宿と音駒との練習試合を控えている。今やってもストレートで負ける可能性の方が高い。

 インハイ予選は〝あと〟1ヶ月半くらいだ。同時に〝もう〟1ヶ月半でもある。1分1秒でも無駄に出来ねえからしっかりと取り組んでいこう」

「「「はい!」」」

「良し、じゃあ澤村」

「はい! 気を付けー! 礼!」

「「「ありがとうございました!!」」」

 

 東峰先輩とノヤ先輩が加わって選手は13人。全国行くんだ。

 「夢の舞台へ駆け上がれ!」……これどこで聞いたんだっけな? アニメは見ないし。……ま、いっか。

 

 

 クールダウンをしていると、誠兄ちゃんとか祐輔兄ちゃんが俺の方に近付いてきた。

 

「なーんか、そうしてると音駒の生徒がダウン取ってるみたいだ」

「猫の方の祖父ちゃん、柔軟性も結構重要視してるからね」

「それにしても繋護がもう高校生かー、時間経つの早えって。まだ小学校低学年の感覚が残ってるんだけど。あんな小さかった繋護がなー」

 

 おっさんくさ。

 

「……ちょっと繋護君? 今なんか年齢について考えなかった?」

「別にー」

「俺達まだ20代半ばだから! ちょっと徹夜がきつくなっていたとか油っこいもの避けたいとか抜け毛多くなってきたかもとかそんなの全然思ってないから! 俺達まだ若い! オーケー!?」

「オーケーオーケー」

 

 って言いつつ身体の変化に気づいてんじゃーん。

 26歳、微妙なお年頃。体力の衰えを感じ始める歳らしい。俺もあと10年後かー。魔法かなんかで不老になりたいよね。ずっとバレーしてたい。

 

「今はバラバラだけど、上手くまとまってきたら良いところまでいけるかもな」

「〝いけるかも〟じゃなくて行くんですー」

「っふは! だな。烏養監督がOB会動かしてるから期待してろ」

「はーい」

 

 なにはともあれ、東峰先輩とノヤ先輩の復帰はチームの戦力となるのが分かった練習試合だった。

 

 

 

 23日、今日はオフの日だ。

 でもこれからの課題点を伝えるってことで坂ノ下商店の前に集まってる。店内から繋心兄ちゃんがひょっこり顔を覗かせた。

 

「おーっす、おまえら良く来たなー。講評伝えていくからちょっと時間くれ。店番任せるから猫又からで良いか?」

「大丈夫です!」

「おし、じゃあ猫又ー、入ってこい」

「はい」

 

 勝手知ったる坂ノ下商店の店内に入って、居住スペースに向かっていく。繋心兄ちゃん達がいつもご飯を食べてるリビングだ。そして机を挟んで向かい合ってる椅子に座った。

 

「おし、じゃあ猫又な、……まあ、分かってると思うけど。とりあえずインハイ予選はリベロでいくつもりだ」

「はい」

「だからレシーブと2本目のトスを重点にやってほしい。ただ、チーム内唯一のサウスポーって事もあってオポジットでの起用も考えてるからサーブとスパイク練習もな。ブロックは跳ばずにレシーブで対応させるから放っておいて良い。お前の良さはネット際じゃない。

 ま、全部練習しておくように」

「はい」

「猫又からは何かあるか?」

「いえ、大丈夫です」

「オッケー。じゃあ店番頼むな、繋護」

「はーい」

 

 祖父ちゃんからも言われてることだから分かってる。後は身長伸びるように頑張らないと。基礎スペックの向上が必要不可欠だ。

 繋心兄ちゃんと一緒に店内に戻ってレジ前に座る。さあて、接客接客!

 

 

 猫又繋護と話し終わった烏養繋心が澤村大地を呼び、講評を始めていく。

 

「お願いします!」

「おう。そんな気張らなくて良いからな」

「はい! ……あ」

 

 2人して苦笑して、烏養繋心は個々人のスキル等を書き込んであるノートを開きながら澤村大地に伝えていく。

 

「澤村にはジャンフロかジャンプサーブをいずれ習得して貰いたい。やっぱり全国を目指すなら強いサーブが必要だからな」

「はい」

「キャプテンとしてずっとコートに出ずっぱりの可能性が高いから体力も付けておくこと。

 澤村の他にセッター対角を任せられるのが現時点で猫又しかいねえ。でも、あいつの場合は身長がネックだ。となると澤村がコートから離れるとグズグズになって負ける」

「……はい」

 

 澤村大地は現在のチーム事情を考えて、〝オポジット〟と呼ばれるセッター対角のポジションを担える人材が不足していることを憂う。

 

「まあ、青城戦でも試したが、場合によっては前衛時に山口と入れ替える。澤村のスタミナ温存と高さの補強だ。

 ポジティブな面での交替だ。そこまで深刻に捉えなくていいぞ。勝ち上がっていく為の戦術だと思ってくれ」

「はい!」

「あとはチームの大黒柱として烏野を纏めてくれ、俺から見ても問題児しかいねえから。

 キャプテンとして気負うことはあるだろうけど、『あ、やべえ』って思ったら俺でも武田先生にでも愚痴って良いから。良いな?」

「はい」

 

 4月からの活動を通してこれからの澤村大地の強化案を伝え終わった烏養繋心はノートを閉じる。

 

「澤村から何かあるか?」

「……自分だけではなかなか指導まで至らなかったので、烏養コーチが来てくれて本当に助かってます。これからもご指導宜しくお願いします!」

「おう。ジジイにも頼んであるから来るときは来るぞ」

「マジすか」

「ああ、マジだ」

 

 澤村大地は去年烏養一繋が指導しに来た時のことを思い出して武者震いする。そして、3年故に今年しかチャンスは無いため、つかみかけているチャンスをものにしようと奮い立った。

 

「じゃあ、次は菅原だ。呼んできて貰って良いか?」

「はい! ありがとうございました!」

「今日はゆっくり休むこと。じゃあな」

「お疲れ様でした! 失礼します!!」

 

 澤村大地は一礼して部屋を出る。

 数分したら今度は菅原孝支が部屋に入ってきた。

 

「失礼します!」

「おう、座れ座れ」

 

 菅原孝支も椅子に座って烏養繋心と向かい合う。

 

「一昨日言ったばかりだけど、やっぱりサーブだな。ジャンフロの習得をお願いしたい」

「はい!」

「そんで、青城でも試したように、影山が前衛の時には菅原が後衛で、菅原が前衛の時には影山が後衛でセットアップする、いわゆるツーセッターだな。それが出来ると戦略の幅が広がるから、もう少し全体的に出来るようになってきたら是非試してみたいと思ってる」

「はい!」

「あとはしっかり飯食って身体作りをすること。3年の中で菅原はまだ線が細い。いいな?」

「はい!」

「めっちゃ上手い影山が入部して若干気後れしてるかもしれねえけど、お前はお前で優秀なセッターで大事な戦力だからな。卑下すんなよ」

「……え」

 

 思ってもみなかったことに、菅原孝支は固まる。

 

「驚くことじゃねえ。

 アタッカー1人1人の癖やらを把握して打ちやすいトスをあげたり雰囲気作りだったり。そういうのは今の影山よりもずっと上手い。

 影山からは『こう打って欲しい』ってのが透けてるんだけど、菅原は『お前の自由に打て!』って選択肢を与えてやれるトスだ。

 烏野が勝ち上がるには菅原の力は絶対に必要だ。音駒との練習試合でも菅原がセッターに入った時のゲームメイクを見るつもりだからそのつもりでな。〝練習試合〟を上手く使っていこう」

「……はい!」

 

 自分を戦力に見ていると言った烏養繋心に返事をしたら、声が裏返って2人して笑う。

 

「菅原から何かあるか?」

「……そうですね、影山が入部してきて確かに劣等感を感じていたかもしれません。でも、俺は俺で自分の強みを出していきたいと思います」

「おう、頼むぞ。じゃあ東峰呼んできてくれ」

「はい! ありがとうございました!」

「おー」

 

 菅原孝支は一礼して部屋を出る。

 数分したら今度は東峰旭が部屋に入ってきた。

 

「宜しくお願いシャフス!」

「……ぶはっ、何だそりゃ。良いから座れ」

「はい!」

 

 東峰旭も椅子に座って烏養繋心と向かい合う。

 

「実はな、3月の県民大会見てたんだわ」

「……えっ」

「その時には猫又が烏野に合格して、俺も烏野のコーチをやるように話が付いてた。そんで、今の烏野はどうかな、と。

 ……正直伊達工のブロックは相手したくねえ。でもさ、おまえ達は全国を目指してて、そうすりゃブロックが強い高校と当たる可能性は十分高い。苦しいときには東峰にトスが回ってくるだろう。

 3セット目の終盤。疲れも出てきてる中、頼りになるのは東峰しかいない。それでも逃げたいか?」

「……いいえ」

「東峰でも駄目ならしょうがねえ。エースってのはそういうものだ。ま、そういうことで心を強く持てよー」

「はい」

「煽るようで悪いけど、東峰の仕上がりが全国に行けるか、そして全国で勝ち進んでいけるかを左右する。

 東峰はもう3年で、春高まで約9ヶ月だ。高校を卒業すれば東峰は高校生として公式戦には出られない。9ヶ月なんてあっという間だぞ。悔いの無いようにな」

「……はい!」

 

 あっという間に過ぎた高校1年生と2年生。

烏養繋心の言うとおり、高校バレーをできるのは1年を切っている。東峰旭は静かに猛省した。

 

「あと、できることならジャンプサーブとバックアタックを習得して欲しい。これから練習していこう」

「はい!」

「じゃあ、これで終わり。次はー、うん、縁下だな」

「分かりました。失礼します!」

「おう」

 

 東峰旭は一礼して部屋を出る。

 数分したら今度は縁下力が部屋に入ってきた。

 

「失礼します!」

「おう、座れ」

「はい!」

 

 縁下力も椅子に座って烏養繋心と向かい合う。

 

「今のチームを見ていると、将来的には縁下にオポジットとして入って貰う可能性が高いと思ってる」

「オポジット。……ライトですか」

「もちろん山口も考えてるけど、レシーブ面では圧倒的に縁下の方が上手だ。そして澤村の後釜を引けるのもお前だと思ってる。右利きで苦手だろうけどな。

 それに、各ポジション最低2人以上と考えてるんだけど、山口は守備面で不安だ。となると縁下しか任せられる奴がいない。猫又は守備特化でネット際は微妙だし」

「……俺が大地さんの代わりに」

 

 縁下力の言葉に、烏養繋心は柔らかく修正を加えた。

 

「んー、〝代わり〟って訳じゃねえな。澤村と縁下だと今の烏野に貢献できるポイントが違うっつうか。

 澤村の代わりに縁下を出すわけじゃねえからな? 澤村には澤村の、そして縁下には縁下の強みがあるからそこは間違えないでくれ。自分の為にバレーやれ。な?」

「……はい!」

「と言うわけで、これからどんどんプレッシャーかけてくからなー。覚悟しとけよー」

「お、おす!」

「次は田中だ。呼んできてくれ」

「はい! ありがとうございました! 失礼します!」

「おう」

 

 縁下力は一礼して部屋を出る。

 数分したら今度は田中龍之介が部屋に入ってきた。

 

「お願いシヤース!」

「おー、座れー」

 

 田中龍之介も椅子に座って烏養繋心と向かい合う。

 

「田中にお願いしたいことはジャンプサーブの習得とスパイクのコースの打ち分けだ。ストレート、クロス、インナーってな」

「オス!」

「これからも東峰の裏エースでの起用が増えるだろうから〝次期エース〟として期待してるぞ」

「オス!!」

「あと他校に絡むなよ? 喧嘩売られても買うな、言いたいことがあればバレーでケリ付けろ」

「……オ、オッス」

「更に勉強も。赤点取って補習とかマジ簡便な。縁下がレギュラー取っちまうかもな」

「……オ、オッス。……いや、させねえっす!」

 

 タジタジになる田中龍之介を見て烏養繋心は笑う。

 

「バレーへの熱意だとか案外周りを見て気を使えるところなんかはお前の長所だ。どんどん活かしていこう」

「はざっす!」

「じゃあ、次は西谷だ」

「失礼シヤス!!」

 

 田中龍之介は一礼して部屋を出る。

 数分したら西谷夕が部屋に入ってきた。

 

「烏養コーチ! お願いしやす!!」

「おー」

 

 西谷夕も椅子に座って烏養繋心と向かい合う。

 

「西谷はリベロだから、一にレシーブ、二にレシーブ、三にレシーブだ。あとはブロックフォローだったり二段トスを出来るようにしてほしい」

「おーっす!」

「そんで、西谷ってオーバー苦手だろ」

「……そっすね。手も小さくてたまにボール掴めないときがあります」

「猫又がやってるみたいにアタックラインを踏み切ってのジャンプトスが出来るようになったり、サーブカットをオーバーで出来るようになれば、『あいつやべえ』って狙われなくなる。レシーブ専門のリベロがサーブで狙われたらムカつくだろ?」

「そっすね」

「苦手だからこそ出来るようになって欲しい。つっても、意識しすぎてグダグダになるくらいなら考えるけどな。分かったな?」

「ウィーッス!」

「あと勉強はしっかりやっとけよ。補習とか絶対辞めろ。暴力沙汰もな」

「オッス……」

「分からないことがあったら早めに縁下とか澤村、菅原に聞け。いくら西谷がリベロとして一級品だったとしても補習の常連になったらユニフォームは渡さない。いいな?」

「ウィーッス!」

「次は成田だ。呼んできてくれ」

「はい! あざっした!」

 

 西谷夕は一礼して部屋を出る。

 数分したら成田一仁が部屋に入ってきた。

 

「失礼します!」

「おう。座れー」

 

 成田一仁も椅子に座って烏養繋心と向かい合う。

 

「成田はこのままミドルでの起用を考えてる。だから、クイックとかブロックを中心に磨いて欲しい」

「はい!」

「だからといって『レシーブが出来ません』じゃあ駄目だからレシーブも出来るようにすること」

「はい!」

「あと前にも言ったがジャンフロの習得な。高いところからまっすぐ来るジャンフロって厄介だから、成田の最高到達点から来るジャンフロは脅威になる。是非とも出来るようにしてくれ」

「はい!」

「おし。成田の方から何かあるか?」

「いえ、大丈夫です」

「分かった。じゃあ次は木下だ、呼んできてくれ」

「はい! ありがとうございました! 失礼します!」

「おー」

 

 成田一仁は一礼して部屋を出る。

 数分したら今度は木下久志が部屋に入ってきた。2年生は木下久志で終了となる。

 

「失礼します!」

「おう」

 

 木下久志も椅子に座って烏養繋心と向かい合う。

 

「木下にはサーブのスペシャリストになって欲しい」

「サーブ、ですか」

「おう。天井サーブ、ジャンフロ、ジャンプサーブ、バナナサーブ、回転無回転サーブ。出来ることならコートを36分割してピンポイントで狙えたり、ネットインを自在にコントロールしたり、サイドラインエンドラインぴったしに落とす、とかな。木下はとにかくサーブだ」

「はい」

「身体が出来上がってないのは前提として、身長と最高到達点もそこそこ、パワーもそこそこ、レシーブ力もそこそこで、トスもそこそこ。

 現状木下を起用出来るポジションがねえ。言い方悪くてすっごく申し訳ねえんだけど、このままだと試合に出す機会が無い。引退まで補欠だ」

「…………いえ、自分でも分かってます」

 

 自分でも分かっていたことではあるが、改めて現実を突きつけられて木下久志の返事が濁る。

 

「ん。でも、だからこそサーブを磨いてサーブのスペシャリストになって欲しい。そうすればピンチサーバーかリリーフサーバーとしての起用ができる。『烏野の木下のサーブやばくね?』って言われるくらい頑張って欲しい。澤村、西谷、猫又の3人から1点を取れるサーブだ。出来るか?」

「……やります!」

 

 4月になって1年にあっさりとレギュラーを奪われた木下久志は「サーブだけは負けない」と誓った。

 

「木下から何かあるか?」

「コートを36分割ってどう見たら良いですか?」

「空間認識力を鍛えることだな。ボールを自由自在に操るのはもちろんとして、『これくらいの強さならここに飛ぶ』ってのを身体に染み込ませる。

 まっさらな地面に9m×9mのコートを白線で作れるくらい感覚を養って欲しい。練習前にライン上を歩き回るとか良いぞ。自分の歩幅で何歩、みたいな」

「なるほど。分かりました! ありがとうございました!」

「おう。じゃあ次は影山呼んできてくれ」

「はい! 失礼します!」

 

 木下久志は一礼して部屋を出る。

 数分したら今度は影山飛雄が部屋に入ってきた。

 

「失礼します!」

「おう。座れ」

「はい!」

 

 影山飛雄も椅子に座って烏養繋心と向かい合う。

 

「高校入学して2週間くらいか。どうだ? 高校生活には慣れそうか?」

「寝ぼけてると北一に向かってます」

「あー、まあ最初はそんなものだな。頑張って慣れろ」

「はい」

「影山なら他の強豪校からの推薦あったんじゃ無いか? なんで烏野に?」

「烏養監督が復帰したって聞いたんす。倒れちゃったんすよね?」

「なるほど。ああ、ジジイなら大丈夫だ。心配してくれてありがとな。

 あと、俺自身に予定が入ったときとか、人手が欲しいときにはジジイにも指導して貰うように頼んであるから機会はある。……死ぬほど辛いけど」

「マジすか!」

「厳しいぞ、いやマジで」

「楽しみッス!」

「おう、そうか」

 

 一呼吸置いて、烏養繋心は本題に入った。

 

「影山は北川第一っつう強豪校で揉まれてきたから実力も備わってる。申し分ねえ。……ただ」

「ただ?」

「コミュニケーション能力だな。苦手だろ」

「……………………はい」

 

 自他共に認めるコミュニケーション能力の欠如。弱点を突かれて影山飛雄は「うぬん」顔をした。

 

「バレーボールはコート内で6人のプレーヤーが協力しないと勝ち進めない競技だ。『俺が出来りゃあ良い』とか『俺が全部出来りゃあ良いのに』って言う考えだとディスコミュニケーションを起こして自滅する。身に覚えがあるな?」

「……………………はい」

 

 影山飛雄はほんの半年前のことを思い出しては項垂れる。公式戦でのトス拒絶は影山飛雄にとってトラウマになっていて、二度と経験したくないことだ。

 

「あの決勝戦、俺も見てたんだよ。実は」

「えっ」

「俺から言わせて貰うと、まず監督がしっかりしてなかったから悪い。思春期真っ盛りの中坊なんてちょっとしたことで喧嘩になるしな。その上で、きちんと北川第一中学のメンバーを指導できなかった監督に問題がある。あれは影山だけが悪いわけじゃねえ。

 ただ、影山にも問題がある。お前はこうしたいからこうしてる。例えば『相手のブロックが高いから速いトスで攪乱したい』とかそういうのだ。自分の考えをチームメイトに伝えてきたか? ちゃんと伝わってたか?」

「…………いえ、話してきませんでした」

「だよな。外から見ててそういったコミュニケーション全くとれてなくて、お互いに信頼してなかったのがあからさまだったし。

 何回も言うけど、バレーボールはチーム競技だ。同じコートのチームメイトは仲間で、助けて助けられる関係だ。

 最初は難しいだろうけど、積極的にお互いの考えを交換し合って強いチームが出来上がっていく。他人の考えてる事なんて分からねえのが当然だ。でも、だからこそきちんと自分の考えを伝える。

 バレーボールは1人じゃ出来ねえぞ。分かってるな?」

「はい」

 

 烏養繋心が念を押したら、影山飛雄は数回頷いた。

 

「……良し。

 影山の目標は自分の考えをしっかりと口に出すこと、そして議論することだ。猫又を練習相手に色々話してみろ」

「はい!」

「影山の方から何かあるか?」

「……ボール触りたいっす。バレーやりたいっす」

 

 想像通りの答えが返ってきて、烏養繋心は思わず吹き出す。

 

「気持ちは分からなくもねえが、休むのも大事だぞ。

 インハイ予選にしろ春高予選にしろ3日間で4、5試合しないといけねえ。全国に行ったら1日に2試合だって考えられる。そういった時にコンディションをベストにする方法も学んでおいて損は無い。

 影山は将来Vリーガーとか目指してるか?」

「成れるなら、っすけど」

「だったら、尚更今のうちからコンディションを整えられるように取り組んでいけ。部活は趣味の範囲で出来るが、実業団とかは仕事だ。バレーやって金稼いで生きていかねえといけねえ。その為にも食事とか睡眠とか身体のケアなんかは絶対に必要だ。この意味が分かるな?」

「はい」

「影山ならチームメイトとのつきあい方を学んでいけばすぐに頭角を現せる。身体作りもしっかりとやっていこう」

「はい!」

「じゃあ、次は日向だ。呼んできてくれ」

「はい! あざっした! 失礼します!」

「おう」

 

 影山飛雄は一礼して部屋を出る。

 数分したら今度は日向翔陽が部屋に入ってきた。

 

「失礼しまーす!」

「おう。座れ」

「はい!」

 

 日向翔陽も椅子に座って烏養繋心と向かい合う。

 

「高校入学して2週間。どうだ、高校生活?」

「めっちゃ楽しいっす! 中学ではチームメイトがいなくて俺1人で。でも、烏野に来たら同級生もいるし、先輩もいるし、清水先輩も武田先生もコーチだっていますし!!」

「おー、そうか。是非とも宇内みたいに〝小さな巨人〟を目指してくれ」

「はい!」

 

 烏養繋心は日向翔陽にこれからの強化案を伝えていく。

 

「分かってると思うが、日向は下手っぴだ。知識も無い。基礎力も無い。経験も無い。無い無い尽くしだ」

「……お、おす!」

「だからこそしっかりと基礎を身につけていこう。

 影山との変人速攻だけじゃ無くて、オープン、セミ、A、B、C、Dの各クイック、平行、バックアタックやストレート、クロスとインナーみたいにコースの打ち分けが出来るようになれば、日向はポイントゲッターとして活躍できる。

 正直、今はレシーブがダメダメだからミドルに置いてるけど、いずれはサイド……レフトかライトが合ってんじゃねえかなって思ってる」

「っ! 俺、〝エース〟になれますか!!」

「それはこれからの頑張り次第だな。ただ、影山の言うように〝最強の囮〟としての機能は捨てがたい。

 『あのチビうぜえ!』、『残念でしたー、こっちですー』をされると絶対に苛つく。少なくとも俺はそう。

 今はまだ足りないものが多いけど、日向はスタープレイヤーになり得る選手だ。じっくりと基礎を身につけていこう」

「っ!! はい!!」

 

 元気よく頷いた目の前の日向翔陽を見て、烏養繋心は満足げに微笑む。その一方で怪我のしやすさについても話し始めた。

 

「膝軟骨って消耗品で復元しないんだよな。日向は背の高い選手と張り合うために全力でジャンプしなきゃいけないんだけど、膝とか足首にはかなりの負担がかかってる。今のままだと20歳まででバレーをできなくなる可能性が高い」

「えっ!? 嫌です! 俺ずっとバレーしてたいんです!! どうしたらいいんですか!?」

「身体作りだ。しっかりと身体を作っていって怪我をしにくいようにする。あとサポーター。実際楽になってるだろ? 動きが良くなってきてる」

「はい! なんか余裕が出てきたって言うか! 『ピシィ!』って言うのが無くなりました!」

「だろ? 自分のバレー人生を守るために身体作りをしっかりとやっていこう。体重も60kgまで増やして良いからな。いっぱい食え」

「オス!!」

 

 烏養繋心が右手の親指を立てて、日向翔陽も続いた。

 

「今はまだ周りに助けられてばかりだけど、将来はその分点稼いでくれ。期待してるぞ」

「はい!!」

「じゃあ次は月島と山口だ。遅くなってるから2人同時に話す。呼んできてくれ」

「はい! 失礼します!」

 

 日向翔陽が部屋を飛び出して、数分経ったら月島蛍と山口忠が現れた。2人が椅子に座る。

 

「失礼します」「失礼します!」

「おー、悪いな、遅くなっちまって。パパッと伝えるな」

「お願いします」「はい!」

「2人に共通することはまず体重を増やすこと。月島は80kg、山口は70kgを目指していっぱい食べろ」

「「はい」」

「あとはブロックとスパイクだな。

 月島はミドル、山口も澤村のスタミナ回復とか考えて澤村の前衛時に投入したいから前衛のプレーの練習を重点的にやらせるつもりだ」

「「はい」」

「そしてサーブの強化。

 勝ち上がっていくためには強いサーブが必要だ。いずれはジャンフロの習得をお願いしたい。特に山口はサーブを打ってから澤村と交替させようかなと考えてるからプレッシャーを与えたい。もちろんレシーブも少しずつ鍛えていこう」

「「はい」」

「ま、こんな感じかな。2人から何かあるか?」

 

 「あ、じゃあ俺から」と言いながら、山口忠が挙手をする。烏養繋心から許可を貰って話し始めた。

 

「ニースリーブって興味あるんですけど、コーチ的にはどう思いますか?」

「良いと思うぞ。俺はそっちの方が好きだから自分がプレーヤーの時はそっち使ってる。ちょっと待ってろ」

 

 烏養繋心は椅子から立上がって通路へと消えていった。そしてニースリーブの箱を4箱ほど手に持ったまま戻ってくる。

 

「予備だ。新品だからちょっと使ってみ」

「あ、はい」

 

 山口忠が学ランのズボンを脱いでいる一方で、烏養繋心はニースリーブの箱を開封していく。そして、山口忠は右膝にニースリーブを着用した。

 

「どうだ?」

「俺、こっちの方が好きかもしれません」

「付けた感じはこっちの方がしっくりくると思う。自前のサポーター使ってたから優先度は低かったんだ。

 月島はどうだ?」

「……すみません、お借りします」

「おー」

 

 月島蛍も山口忠と同様にニースリーブを着用して感覚を確かめる。山口忠は再び学ランを着ていた。

 

「……僕もこっちの方がしっくりきます」

「そうか、じゃあ持っていって良いぞ」

「「えっ、でもお金」」

「気にすんな。ジジイとOBからコーチ就任祝いって感じで先行投資されてるから。

 ま、申し訳なく思うなら結果を出してくれ。そうすりゃチャラにしてやる。武田センセと俺を全国に連れてって、優勝旗を烏野に持ち帰る。いいな?」 

「ありがとうございます」「ありがとうございます!」

「今日はこれくらいだ。

 遅くなって悪いな。帰ったらゆっくり休めよ。あとなんか持っていって良いからな」

「重ね重ねすみません」「ありがとうございます!」

 

 月島蛍と山口忠の2人が帰る準備をしていく。

 

 

 最後の月島と山口が烏養コーチと店の中から出てきた。キャプテンから始まって1時間弱って所か。

 

「220円になります」

「はーい、これで」

「丁度お預かりしました。またのご来店をお待ちしてます」

「ありがとー! みっちゃん、ごめーん!」

「ほら行こー!」

 

 リボンの色的に2年生の烏野の女子生徒の会計を終わらせて2人を見送った。

 月島と山口が菓子パンと乳飲料を持ってレジの前へ。……レジを通り過ぎて外へ向かおうとする。

 

「へい、お客さーん? 会計まだなんですけどー?」

「俺の奢りー、遅くなっちまったからな」

「なんだ。じゃあまた明日の朝練でなー、月島、山口ー」

「ん」「また明日!」

 

 ……あの2人なんか良いことあった?

 

 

 

 朝起きてー、ストレッチしてー、縄跳びしてー、朝練してー、授業受けてー、放課後練習してー、風呂入ってー、ストレッチしながら勉強してー、寝る。

 そんな生活を繰り返すと、明日からいよいよゴールデンウィークが始まる。5月1日と2日は平日だけど、最大9連休になるから学校休んで海外旅行しに行くって教室で聞いた。

 バレー部としては1日は完全オフ、2日目の朝もオフってことで4月28日から5月6日までを乗り切る。6日は音駒との練習試合だ。おーし。

 

「もしもーし、彩音ちゃん?」

『聞えてるよー』

「あっという間に4月が終わった。一瞬だったわ」

『分かる~。バタバタしてるとすぐだよねー。

 あとそっちの桜が綺麗。千葉はもう葉桜だ』

「今度弘前の桜祭り行きたいな」

『いいね! 東北3大桜祭りの一種だもん。行きたい行きたい』

 

 青森県弘前市の弘前公園で行われてる桜祭りは凄いらしい。祖父ちゃんも「ありゃあいいもんだぞ。1回は見てこい」って言ってた。是非ね、見に行きたい。

 

『4日から6日まで明育さんと真緒と美緒と一緒にそっちに遊びに行くね』

「なんも無えどもね。是非遊びに来てけさいん」

『無理矢理訛らせてる感が強い。やり直し』

 

 駄目かー、仕方ないね。

 

「ちゃんとおもてなしできなくてごめんね」

『んー、気にしないで? 宮城に行きたいって言うのは本当だし。烏のお祖父様とお祖母様と一緒に色々巡ろうって話出てるんだ』

「何それ聞いてない」

 

 ……今の優先度は部活だ。しょうが無い。…………でもなー。

 

『じゃあバレー頑張ってね。Chu!!』

「ん~、彩音ちゃんも」

 

 ……いよーし、明日から頑張るぞー! おー!!

 

 

 東京にある音駒高校男子バレー部もゴールデンウィーク中の練習について話し合っていた。コーチの直井学が監督の猫又育史に代わって進行する。

 

「じゃあ確認だ。明日から3日間梟谷で合宿をする。1年は3年間付き合っていく他校との交流になるぞ。しっかりな」

「「「はい!」」」

「それで、一旦学校に集まってから梟谷に向かうぞ。各自忘れ物無いように」

「「「はい!」」」

「1日は完全オフ。この日に宮城に持っていくものの準備しとけよ。夜なんかは肌寒いからインナーか羽織るものを持ってくこと。こっちと比べるとまだまだ寒い日が続くからな」

「……そんなにですか?」

「ああ、そんなにだ。俺が現役の時も調子に乗って防寒対策をしなかった奴が体調崩した。暖かい格好忘れるなよ」

 

 宮城県に行ったことがないメンバーの方がほとんどのため、新幹線を使っての遠征に心躍る部員達だ。特にキャプテンの黒尾鉄朗はあの〝庵里の化け猫〟こと猫又繋護との出会いに心を弾ませていた。

 

「コーチ」

「なんだ?」

「転校届持っていきますか?」

「……ああ、持っていこう。俺達の忘れ物だ。繋護を連れ戻すぞ」

「「「はい!」」」

 

 音駒高校男子バレー部監督の猫又育史の孫の猫又繋護を音駒高校に転校させる計画が着々と進んでいる。それもあと数日で決行だ。

 

「2日は軽く練習をして、3日にいざ宮城に行く訳だが、宮城遠征の間監督の義娘さんにサポートをして頂く運びになってる。ちゃんとお礼を言うこと。いいな?」

「「「はい!」」」

 

 烏野高校と音駒高校の交流が5年ぶりに行われようとしていた。

 

 

 今日から1日練習が組み込まれていくから、改めて烏養コーチから説明が入った。

 

「4月いっぱいを通して練習時間を増やしてきたのは分かってると思う。

 1日練習なんだけど、〝1日練習〟ではなく8時から12時の午前の部、13時から17時までの午後の部と考えて欲しい。

 この中に、スペインとかの地域で昼飯を食べた後に長い休みを取る文化を知ってる奴きょーっしゅ」

 

 シエスタのことだ。平日はお昼ご飯食べた後に20分くらい俺も昼寝してるし。結構有名なことだから2/3位が手を挙げる。

 

「はい、じゃあ澤村」

「はい。〝シエスタ〟と言って、日中の暑い時間を避けて効率の良い業務をしようということから始まった長い昼休憩です」

「正解。察しの良い奴なら気づいたと思うけど、スタミナとか集中力の回復の為に最大20分くらいの昼寝を導入してみようと思う。

 5分でも10分でも寝て、少しでも継戦能力を高められるように練習していこう。寝る練習な」

「「「はい!」」」

 

 早速午前の部、始まり始まり~。

 

 

 そしてやってきたお昼休憩。

 若林先生が軽食を作ってくれて、それを食べた後に寝る時間になった。

 

「寝られるわけ無いじゃないですかー。……ぐがー」

「嘘じゃん、田中」「やべー」

 

 日の光が当たる昼寝には最適な場所で雑魚寝して、真っ先に田中先輩が寝落ちした。

 俺も寝ようっと。おやす……………………ぐぅ。




【小ネタ】
宇内天満ですが、第63回春の高校バレー(2010年度)の岩手代表不来方高校のとある選手をモデルにしていると思います。
「不来方高校 バレー 小さな巨人」と調べて頂くとガッツリ出てきますね。もし気になる方がいらしたら調べてみて下さい。

最近では鳥取中央育英のとある選手が小さな巨人でしたね。
今年度の春高では小さな巨人は出てきますかね。楽しみです。
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