監督 猫又育史
コーチ 直井学
01 黒尾鉄朗
02 海信行
03 夜久衛輔 リベロ
04 山本猛虎
05 孤爪研磨
06 福永招平
07 犬岡走
08 長福隆之
09 手白球彦
10 間塗護
11 灰羽リエーフ
12 芝山優生 リベロ
13 野良拾明
14 守口心太
※08、14はオリキャラ
長福隆之、手白球彦、灰羽リエーフ、守口心太は居残り組
~スターティングメンバー
2 海信行 4 山本猛虎 7犬岡走
1 黒尾鉄朗 6 福永招平 5 孤爪研磨
合宿最終日、かつ音駒との練習試合の日が来た。
昨日早く寝たし、合宿初日よりも体力が回復してる自信あって別に普通の日だ。でも猫の方の祖父ちゃんと対戦ってなるとなんか落ち着かない。中1で出た9月の公式戦よりももやっとしてる。
朝御飯は若林先生達が滅茶苦茶美味しい冷やしうどんと焼きおにぎり、オレンジジュースを出してくれた。今日の昼ご飯のお弁当で終わりなのがかなり寂しい。
田中先輩とノヤ先輩なんて号泣してたし。……清水先輩の手料理を食べられないことにショックを受けてるのかもしれないけど。
それはそうと、また翔陽がやらかした。
「明日からも毎日ご飯作って下さい!」
「ごめーん、私旦那と子供もいるから~。気持ちだけ受け取っておくね~」
「おお、プロポーズとは凄いな、翔陽! 龍みたいだ!」
「ち、ちがっ! 俺はただ若林先生のご飯を毎日食べたくて!」
「だからそれがプロポーズだって言ってんだろうが! このボゲェ!」
「だって目茶苦茶美味しかったんだぞ! いくらでも食べられるじゃん! 影山だって美味そうに食ってただろ!」
「…………平日の練習の軽食楽しみにしてます」
「ほらー、影山も人の事言えないだろ!」
「るっせぇ、日向ボゲェ!」
なーんて翔陽がバカをやらかしてた。……とはいえ、烏養コーチと清水先輩も胃袋を掴まれていたみたいで、ちょっと残念がってたのは事実だ。本当に美味しかった。……栄養士の資格取ろうかな。
合宿所を出発して音駒との練習試合で使う体育館に到着してしばらくすると、見慣れた赤いジャージを着た集団がこっちに近付いてきた。烏野のジャージと同様に千葉の実家にも何着かあるジャージだ、「音駒に入学しろよー」って音駒の先輩から貰った。……烏野に入学したけど平気かな。
「「「…………」」」
「猫又めっちゃ見られてるじゃん」
「知ってる」
音駒の皆さんも俺達に気が付くけどやっぱり「えっ? ……えっ!?」って表情で見られる。大丈夫、予想してた。昔からそうだったし。
「え? えっ!? 雰囲気とか監督そっくりじゃん!」
「監督が若返ったら、あるいは猫又君が年取ったらってことでしょ? 遺伝子つえー」
「……あ、でもやっぱり耳の形とかお母様に似てるかも」
「おーい、言いたいことはあるだろうが先に挨拶するぞー」
「あ、すみません!」
髪型が凄い背の高い人がちょっとざわついてる音駒の皆さんを宥める。ごめんなさい、祖父ちゃんに似てて。
まあこっちはこっちで、「そんなに似てるのかー、楽しみだな」なんて声が聞えてるのも事実だ。
「気を付けー! 今日1日よろしくお願いします!」
「「「お願いします!」」」
ウチから先に挨拶すると、音駒も続く。
「気を付けー! 今日1日よろしくお願いします!」
「「「お願いします!」」」
さらっと全体を見て対戦したこと、あるいは見かけたことがある人がいるか確かめる。……うん、いない。関東大会ですれ違ったことがありそうだったけど覚えてないだけか。ま、いいや。
烏野と音駒関係なくゾロゾロと体育館へと入っていく。……早速翔陽が音駒の1人に絡み始めた。
「ケンマ!? えっ!? ……なんで!? 音駒だったの!?」
「あ、……うん」
「言ってくれたら良かったじゃん!」
「聞かれなかったから……」
「聞かれなかったから!?」
そういや、東京から来た赤いジャージが目立つバレー部の人と遭遇したって言ってたっけ。「いや、それ音駒じゃん」って内心で突っ込んでた。言わなかったけど。
「繋護も! 何で言ってくれなかったんだよ! 気づいてただろ!」
「中間テストの勉強してたし。どうせ今日になれば分かるかなって」
「「「ごはぁっ……!?」」」
ゴールデンウィークが終わってテスト期間を挟んで中間テストがある。その〝中間テスト〟の名前を出すと、明らかに音駒の皆さんの多くも挙動不審になった。こっちは主に翔陽と影山と田中先輩とノヤ先輩。
「ヤクー、言われてるぞー」
「こ、こここ、これからやるし!」
「ヤクさん、一緒に補習受けましょう!」
「うるせえ、山本ぉ!! 馬鹿がバレるだろうが!」
「大丈夫っすよ! ヤクさんかっけえので!」
「そ、そうかよ……!」
もし背番号だったら、さっきの並び順が3番と4番の人がじゃれついてる。
「ユウキ! 勉強教えて!」
「中学の範囲が多いから大丈夫だよ! 多分!」
「〝多分〟!?」
宮城だろうが、東京だろうが、千葉だろうが、部活に明け暮れてる高校生のほとんどがテスト嫌いだもんね。
俺自体は「授業中先生が言ってたことしか出ないんだしそんなに慌てることあるぅ? 普通にやってれば大丈夫じゃーん」って感じだけど。前に繋心兄ちゃんが言ってたけど、音駒にしろ烏野にしろ、補習でレギュラー取られたって話は聞いてたし。あと推薦。
テスト期間は復習すれば良いんだから頑張っていこー。
宮城と東京って離れていても、同じ高校生同士親近感が湧いたのか徐々に2校交えて会話が始まっていた。
「烏野高校キャプテンの澤村大地です。お互いに苦労しますね」
「音駒高校キャプテンのクロオテツロウです。そうですね、うちもバレー馬鹿が多いのでテスト期間は阿鼻叫喚というか。やっぱり烏野も?」
「ええ、賑やか担当がギャアギャア騒いでますね」
「あー、分かります。ウチもあのモヒカンを筆頭に騒がしいですね」
モヒカンヘッドが「クロオさん!?」って騒ぎ始めて、さっきの〝ヤク〟って人と一緒に「勉強教えてくれー」って暫定2番の坊主の人に縋り付いてた。
「あ、そうでした。
監督のお孫さんが烏野に通っているのは皆さんご存知だと思うんですけど、今日音駒が全セット取ったら音駒に転校させるって監督が言ってました。今日は快勝させて貰いますね?」
あっはは。クロオ先輩って煽るの上手か。さっきまでは和やかにしてたキャプテン達の形相が一瞬にして変わる。
「……いやいやいや。烏野を舐められちゃあ困るなー。逆にウチが勝たせて貰うぞぉー?」
「そうだそうだ! ねこはウチの優秀なリベロなんだぞ!」
「ハハッ! バレーでケリ付けようぜ、さぁーむら!!」
「望むところだ! クロオ!!」
なんか仲良くなったな、キャプテン同士。
それはともかく、「私のために争わないでー!!」って言って良いかな。駄目だよね。
「〝庵里の化け猫〟の話は聞いてたんだ。こうして戦えて嬉しいよ」
「残念。今は〝烏野の化け猫〟を目指してます」
クロオさんと同じくらいの身長の人に話し掛けられてちょっと修正。中学は中学、高校は高校だし。
それにしても久しぶりに聞いたな、それ。いやまあ、高校で知ってる人がいたら逆に恐いんだけどさ。
「烏野、移動するぞ!」「音駒も! はぐれるなよー」
「「「はい!」」」「「「はい!」」」
さあ、ゴミ捨て場の決戦(練習試合)の始まりだ!
◎
烏野高校と音駒高校の部員一同がコートやモップなど練習試合の準備を進めている最中、烏野高校陣営の武田一鉄と烏養繋心、音駒高校陣営の猫又育史と直井学の4人が挨拶をしていた。
「いつもお世話になっております、烏野高校男子バレー部の顧問をしています武田一鉄と申します。この度は遥々宮城までお越し頂き誠にありがとうございます!」
「音駒高校男子バレー部監督の猫又育史です。こちらこそ有意義な3日間を過ごせました。あと孫の面倒を見てくれてありがとう。なかなか楽しくやってるようで安心しました」
「猫又君はバレーボールへの熱意も経験もありまして、えっと、学業も問題ないですし。その――」
二者面談のような形になりかけて、烏養繋心と直井学が強制的に中断させる。
「話がねじ曲がってるぞ、センセ」「監督もからかうのは止めて下さい」
「ほっほっ。不慣れな若者をからかうのも年寄りの愉しみだからなー。
それはさておき、こちらで勝手に進めていて申し訳ない。武田先生にもやり方はあったでしょうに」
「いえいえ、僕自身とても助かりました! どうにか彼らの力になりたいとは思っていたのですが、バレーボールの経験は授業くらいでして……。この1ヶ月烏養君と部員の皆に助けられてばかりです」
「熱意には熱意が帰ってくる。少なくとも繋護は武田先生に懐いていますよ」
「そうだぞ、センセ。
繋護って人の好き嫌い激しいから。最近だと仮入部期間の月島と山口だな。ありゃあ『チームメイトを大事に出来ないならバレー向いてないよ』位に思ってたはずだ。割と嫌いよりだったと思うぞ」
この1ヶ月、特に問題を起こしていなかった猫又繋護がそのような事を考えていたとは知らず、武田一鉄はあわてふためく。
「えっ、そんなことを!? すみません、全く気が付きませんでした!」
「気にしなくて良いですよ、武田先生。あいつ、昔からそういうの上手でしたから」
「ま、孫のことは今は置いといて。
烏養のジジイじゃねえからって容赦しねえぞ? 繋心、お前の3年間の勉強の成果見せて貰うからな。武田先生も」
「「っ! ……はい!」」
猫又繋護の祖父から、歴戦の音駒高校男子バレー部の名称へと切り替えた猫又育史が武田一鉄と烏養繋心に圧をかけた。2人は気圧されそうになる。
特に、4年前に体調不良で烏養一繋が烏野高校男子バレー部の監督を引退せざるを得なく、「お前に烏野を任せたい」と言われてからこの3年猫又育史の娘である旧姓猫又葵育と猫又育音のツテでコーチになる勉強をしてきた烏養繋心にプレッシャーがかかる。
「今からだと10時15分位開始ですかね?」
「だな。それでいいか?」
「「はい、お願いします!」」
大人4人の挨拶も終わって、それぞれの陣営へと戻っていく。
◎
大人4人が挨拶をして解散しているところを見ながら、これからの練習試合の準備をしていると烏養コーチに声をかけられた。
「猫又先生と直井に挨拶して来て良いぞ。気になってたろ」
「っ! 分かりました!」
「挨拶した方が良いよなー。でもいつ行こうかー?」とは思ってたからラッキー。2校での挨拶もまだだからパパッと行って来よう。……あ、その前に手招きされた。その手には転校届け書が。まだ言ってんのかよー。
「よっ、繋護。元気そうだな」「あんな小さかった繋護が……!」
「祖父ちゃんテレビ電話以来だね。学兄ちゃんも久しぶり。
まあ順調順調。……って言うか、転校なんてしないよ?」
「ほっほっほ。焚き付けるのも良いかなと思ってなー。初対面とは思えない雰囲気だろ?」
「それはそうだけどさー」
まあ、確かに?
自己紹介しながら準備してたから割と名前も把握出来た。打ち解けてるのは事実かもしれない。
「俺と烏養がこんな関係になるとは中学の時には思いもしなかった。ましてや孫と陣営違えるなんてな。
ま、それはそれ、これはこれだ。
全セットウチが取ったら転校させても良いかもなーってのは本気だからな。繋心に転校届け書かせてやる」
「だからか。なーんか繋心兄ちゃんピリピリしてたんだよなー」
「1ヶ月とはいえどんな風に成長したか見せて貰おう。宜しくな」
「うん、宜しく。
あと、先入観ってあんまり良くないけど、今の烏野面白いと思う」
「ほぉ? それは楽しみだ」
「では失礼します。猫又先生、直井先生」
「「おう」」
さあ、アップするぞーって戻ろうとしたときに猫又先生が「全体集合するぞー」って声をかけた。なんじゃい。
「集合!」「集合!」
「「「集合です!」」」「「「集合です!」」」
キャプテンと黒尾先輩が指示を出して2校のメンバーが集まる。こういう時は背番号順に2列で並ぶから俺は一番最後。
「気を付けー! 礼!」
「「「お願いします!」」」「「「お願いします!」」」
宮城でやってるから、まず武田先生が話し始める。
「烏野高校男子バレー部監督の武田一鉄です。
音駒高校の皆さん、この度は遠路はるばる宮城県に来て下さってありがとう御座いました! 我々と同じく合宿をしていたということで、お互いに合宿で得た成果を発揮できるように応援しています。
また、OBの方に頼んで練習試合の録画をお願いしていますので、データは後ほど猫又先生に送ります。
何はともあれ、本日は宜しくお願いします!」
「「「お願いします!」」」
続いて猫又先生が。
「音駒高校男子バレー部監督の猫又育史です。
そこにいる繋心の祖父が以前烏野の監督をしていて、昔からこうして練習試合を組んでいたことは伝わっていると思う。だからといって、今の君達にどうこうしろとは言わない。ただ目の前の敵に勝てるよう努力してほしい。
……ま、俺としては是非ともこの縁を大事にして欲しいかな。
それはともかく、今日はお互いに実りある練習試合にしよう。烏野高校さん、宜しくお願いします」
「「「お願いします!」」」
「練習試合は今から大体1時間後から始めようと思ってる。それまで各校アップをするように」
「「「はい!」」」
連絡事項を伝え終わって、またキャプテンが号令をかける。
「気を付けー! 礼!」
「「「ありがとうございました!」」」「「「ありがとうございました!」」」
一礼して割り当てられてるコートに戻る。
「じゃあ、念入りにアップな。焦らなくて良いからじっくりやれよ」
「「「はい!」」」
烏養コーチの指示で、いつも通り自分のペースでコート5周から始める。
◎
烏養繋心の「わりい、練習試合の録画頼んで良いか?」という頼みに応え、今日は休みとした滝ノ上祐輔と嶋田誠は観客席側の音駒高校側のエンドライン側、サイドライン側、烏野高校側のエンドライン側の3カ所で三脚とビデオカメラを準備した。
「どうだ?」
「良い感じ」
「オッケー」
「それにしても、またゴミ捨て場の決戦見られるとはな」
「なー」
学生時代からあっという間に月日は経ち、2人は大人になった。それでもこうしていると、チームメイトと一緒に1つのボールを追いかけて、勝っては笑って負けたら泣いた青春時代を思い出す。いつまでも色あせない思い出だ。
「お前ら、そんな歳取ってねえだろうがよ」
「「っ!? ……えっ!?」」
2人がノスタルジーに浸っていると何やら聞覚えのある声が。慌てて振り向くと、妻や娘、義理の息子や孫、将来の孫の嫁と一緒に猫又繋護の練習試合を見に来た烏養一繋と眼が合う。
滝ノ上祐輔と嶋田誠は恩師を前にして硬直した。
「「おっ、お久しぶりです! 烏養監督!」」
「おう、久しぶり。つっても町内で逢うけどな。2人も観戦か?」
「はい。繋心に録画を頼まれまして」
「人少ねえもんな。ま、適当に観てるから滝ノ上と嶋田も適当にな」
「「あっ、はい! 失礼します!!」」
恩師を前にして、学生時代に何度も言われた「腹から声を出せ!!」という指示を忠実に守った2人が他の観客から注目を浴びて、続々と集まってくる烏野高校男子バレー部のOBが烏養一繋に挨拶をする、という行動が続いた。
更に、現役生の保護者も続々と自分の子供の応援に来ていて、体育館内は練習試合とは思えないほどの活気に包まれていく。
「母さん母さん! 早く早く! 蛍と忠の試合始まるだろ!」
「急がなくても大丈夫でしょー? まだアップじゃない」
4月以降最近活発に連絡が飛び交っている烏野高校男子バレー部OB会の連絡網で本日の音駒高校との練習試合を知らされた月島蛍の兄の月島明光と2人の母である月島佳乃の2人も会場に現れていた。
更に、烏養一繋と眼が合う。
「あっ、烏養監督! お久しぶりです!」
「烏養先生、ご無沙汰しております、月島です」
「おおっ、お久しぶりです。……明光は分かるが? 月島さんも?」
「兄弟共々烏野に入学したんです。あの眼鏡をかけてる子と、あと友達の忠君も」
「背番号は11番と12番って言ってました」
「なるほど、そうでしたか」
3人が眼前のコートに目を落とすと、丁度月島蛍と山口忠がペコリと頭を下げていた。烏養一繋は納得したように何度も頷く。
同時に、身体が出来上がっていないことにも気が付いた。
「全体的にですが、あの2人は特に線が細い。いっぱい食べさせてやって下さい」
「分かりました。山口さんにも伝えておきます」
「明光も社会人1年目だったか? 色々大変だろうが頑張れよ」
「はい! もう少し慣れたら職場の人に誘われた社会人サークルに入ってバレーやります!」
「そうか。怪我の無いようにな」
「烏養監督もお体には気を付けて」
「分かってるよ。もう無茶は出来ねえ」
月島明光と月島佳乃の2人も適当な観覧席に座ってこれからの練習試合を待つ。
◎
アップが終わって、ユニフォームに着替え終わった。……練習試合にしては観客が多い。60人くらい? 多くね?
烏の方の祖父ちゃん、祖母ちゃん、母さんはもちろん、久々の父さん、姉ちゃん、美緒、彩音ちゃんに手を振ると手を繰り返された。13番のユニフォームを強調すると、「頑張れ」って口パクが返ってくる。さーて、やるしかないぞ。
それに、小学校中学年っぽい子が翔陽に手を振ってる。あと短髪と柔和そうな俺達と同年代の人も。
「お兄ちゃーん! 頑張れー!!」「しょうちゃん! 頑張れ!」「翔陽!」
「イズミン! コージー! 夏も! 俺頑張るからな!
……あ、あれ! 妹です! 妹の夏!! あと幼なじみのイズミンとコージー!」
「一目で日向の妹だって分かるな~。ていうか、大地とスガのお母さんもいんじゃん」
「来るとは思わなかった」「俺も」
「やっぱり烏養監督だ! 思い出される去年の鬼練」
「でも、もう逃げないって決めたから」
「「だな」」
やっぱり6年前のインターハイ予選で出てた11番の人は月島の兄ちゃんだったぽくて、「なんでいんだよ」、「まあまあツッキー」なんて山口と話してた。
兄弟が試合を見に来るって普通じゃ無いのか? んー、もしかしたら違うのかもしれない。あと若林先生とか教頭の姿も見えた。主に烏の方の祖父ちゃんと働いたことがある先生達だ。
ま、今は試合に集中っと。
エンドラインに1番右がキャプテンで俺が1番左になるように背番号順で並んで、主審の直井コーチが試合開始の笛を吹く。
「「「お願いします!」」」「「「お願いします!」」」
エンドラインからネットまで走って行って、海先輩と握手をする。
「君を音駒に連れて帰るように頑張るよ」
「させないですよ~」
挨拶をしてベンチに戻っていく。
「昔から猫又先生はちょっかい出すの好きだからあんま気にすんなよー。
さて、今からの練習試合でこの1ヶ月間の練習で学んだこと身についた事を発揮していこう。それは音駒だろうが他の高校だろうが変わりねえからな」
「「「はい!」」」
「じゃあまずは影山を中心した1つ目のオーダーを試す。リベロは西谷だ。
あと、菅原と木下、山口は出す可能性が高いから準備しておけ」
「「「はい!」」」
俺は2セット目かー。頑張ろうっと。あと審判も。
続いて武田先生。
「4月初めから約1ヶ月このチームでやってきましたが、たかが1月、されど1月で皆成長しています。
保護者の方やOB会の皆さんに今日の音駒との練習試合を伝えて、こんなにも多くの方々に来て頂きました。今の烏野を見て貰い、新生・烏野を応援して頂きましょう!」
「「「はい!」」」
「よーし、じゃあ澤村」
「はい!」
全員で円陣を組む。
「烏野ー! ファイ!!」
「「「オォーッス!」」」
そしてスタメン組がコートに入っていく。俺はラインズマンだ。
◆
一方、音駒高校男子バレー部一同もミーティングを行っていた。監督の猫又育史が中心となって進めていく。
「烏野だろうが他の高校だろうが、ウチのバレーは変わらない。
1つのAパスよりも10のBパス、10のBパスよりも100のCパス。バレーボールってのはボールを落とさなければ負けないスポーツだ。
今日も〝繋ぐ〟バレーをしてきなさい」
「「「はい!」」」
「この1ヶ月お互いに情報を伝えていなかったが、孫が今の烏野を〝強い〟では無く〝面白い〟と評した。何してくるか分かんねえぞ。
観察して相手の対応策を考えていけよ。ま、いつも通りだな」
「「「はい!」」」
呼びかけられて、黒尾鉄朗はいつもの前口上を紡いでいく。
「俺達は血液だ。滞りなく流れろ、酸素を回せ。〝脳〟が正常に働くために。音駒ー! ファイ!!」
「「「オォーッス!」」」
スタメンの6人がコートの中に入っていく。リベロの夜久衛輔と芝山優生はサイドラインで待機。
「それにしても人多いっすね」
「練習試合でこんな集まるの初めてだわ」
「ここは言わば烏野のホームだからな」
「じゃあウチでやれば応援呼べる?」
「多分」
山本猛虎と3年生3人がワイワイ言いながらコートに入っていった。
彼らの指摘通り、烏野高校排球部のOBや現役生の保護者、烏野高校関係者などで観客数は優に60人を超えている。
◆
音駒の間塗先輩と俺でラインズマンをやっていく。1人ずつサイドラインとエンドラインを見れば対応可能だ。公平性のために音駒側のバックライトから見る。それで間塗先輩が烏野側を担当する。
そんな訳でポジション確認。
音駒
2 海先輩 4 山本先輩 7 犬岡
1 黒尾先輩(夜久先輩) 6 福永先輩 5 孤爪先輩
烏野
1 キャプテン 10 翔陽 5 田中先輩
3 東峰先輩 11 月島(ノヤ先輩) 9 影山
サーブは音駒から。つまり孤爪先輩からだ。
「「「研磨ー、1本ナイッサー!」」」
さてさて、今の音駒を見せて貰おうかね。
直井先生が笛を鳴らして、孤爪先輩がサーブを打った。狙いはバックレフトのサイドライン側。
「「旭!」」「「「旭さん!」」」「「「東峰先輩!」」」
「オッケー! ……悪い、短い!」
東峰先輩が拾って、ボールはアタックライン付近に落ちる軌道を取って放物線を描いていく。
「レフト!」「影山!」「ライト!」
レフトのキャプテンとセンターの翔陽、ライトの田中先輩がトスを呼んで、影山もセットアップに走る。そして?
「え、そっからD!?」って感じのトスを上げて、フリーで翔陽が変人速攻を決めた。【0-1】。
「なんじゃありゃあ!?」「「「っ!?」」」「「「っ!?」」」
あっはは。今の変人速攻で音駒側と観客席の皆が響めいた。分かるー。まあでも翔陽の体格を考えるとボールは軽いから押し込まれることはそうそう無い。
スイングは真っ直ぐ。つまり翔陽の身体の前にしかスパイクは来ないから身体の向きとか見てみれば割と簡単に拾える。
さーて、どうやって対応してくる? 俺としては10点くらいでタイムアウト使ってくると思うな。
「ッシャ!」
「「「ナイス日向!」」」
コートの中で翔陽がもみくちゃにされてる。俺? 審判だから肩入れしない。あくまで公平にジャッジしないと。
「1本切り替えるぞ!」
「「「はい!」」」
動揺してるけど、黒尾先輩が声をかけて一先ず落ち着いた。そして今度は田中先輩のサーブだ。
ジャンプサーブを練習してるけどまだまだ駄目。田中先輩以外にも該当するけど。
「「「田中1本ナイッサー!!」」」
「1本集中!」
「「「オォーッス!」」」
直井先生が笛を鳴らして田中先輩がサーブを打った。狙いはセットアップに走るから穴となるバックライト。でも福永先輩がパパっと動いて拾った。はい、Aパス。
「レフト!」「研磨!」「ライト!」
「……トラ!」
センターの山本先輩にセミクイックが上げられて、キャプテンと翔陽の2人がブロックに跳ぶ。
「せーのっ!」
「「「ブロック2枚!」」」
「ラァ!」
「「ノー!」」
翔陽のブロックが完成する前にスパイクを打たれて、バックセンターへとボールが伸びていく。でもノヤ先輩が拾った。
「「「ナイスレシーブ!」」」
「レフト!」「影山!」「ライト!」
翔陽はCクイックの助走に入って、犬岡と山本先輩の注目を引きつける。でも、こういう時は?
「東峰さん!」
「「あっ!?」」
「海!」
「くそ!」
「「「ブロック1枚!」」」
「ふっ……!」
東峰さんがスパイクを打つと、ボールはバックライトとバックセンターの間くらいに落ちた。孤爪先輩がフライングをするけど間に合わない。【0-2】。
「おし!」
「「ナイス旭!」」「「「ナイスキーです!」」」
コート中央に集まってウェイウェイしてるけど、遠くて話してる内容までは聞き取れない。
今ので、翔陽の役割が音駒に伝わったのは確実だ。翔陽を止めないといけない。でも翔陽だけに注目するとサイドが生きてくる。
真ん中でウロチョロされるの目茶苦茶気になるよね。「10番の球、そこまで重くなくね? じゃあレシーブで対応しよう」ってなると苦しくなると思う。
にっしっしー。祖父ちゃん、今の烏野面白いでしょ?
「「「田中、もう1本ナイッサー!」」」
「1本切るぞ!」
「「「オォーッス!」」」
直井先生が笛を吹いて、田中先輩がサーブを打った。今度は犬岡を狙って前目のサーブだ。
「「「犬岡!」」」
「オーライ!」
犬岡がしっかりと処理してセットアップに走った孤爪先輩の所にボールが返っていく。
「レフト!」「セミ!」「ライト!」
レフトの海先輩、センターの山本先輩、ライトの犬岡がトスを呼んで孤爪先輩はもう一度セミを上げて山本先輩が助走に入る。烏の方の祖父ちゃんの言い方だとセカンドテンポだ。
ライトのキャプテンとセンターの翔陽がブロックに跳ぶけど、ブロックの完成前に翔陽のブロックの上から打たれた。コート中央にボールが叩き付けられた。
「シャア!」
「「「ナイス山本! ん……?」」」
どうやら山本先輩がネットタッチをしたらしい。直井先生がシグナルを出して烏野側に点が入った。【0-3】。
「だぁっ!? すいません!!」
「ネッチ気を付けろよ~!!」
「ウス!」
ブロックの完成前に打たれるのは翔陽の弱点だ。とは言え他のポジションだとまだまだ対応できない。頑張ってくれ。
逆にそこを狙わせるのも良いと思うけどね。レシーブで対応するって感じ。
「10番目茶苦茶跳ぶけど、その前に決めよう。あと初心者っぽい。1本目とか触らせよう」
「「「オッケーっす!」」」
海先輩が指示を出したのを確認する。そうそう、音駒は相手への対応を考えるゲームメイクをしていくから後手に回りやすいけど、いつの間にか穴が無くなってるんだよ。
一方で、今の烏野は翔陽に慣れられると苦しくなるからストレート勝ち出来ないとどんどん苦しくなる。地力では足りてない部分の方が多いしなー。
音駒も音駒で身長が高い人が少ないって弱点があるから決定力が欠けてる感じか。お互いにまだまだ伸びしろはあってインターハイ予選までにどこまで詰められるかだな。あと1ヶ月。
「田中、もう1本ナイッサー!」
「田中! 挑戦していけよ!」
「ウス!」
と言うことはジャンプサーブかな? 取り敢えず新しいことには1人2回まで挑戦して良いって言われてる。6人が2回ミスすればそれだけで12点失うから後が苦しくなるけど、せっかくの練習試合だし。
直井先生が笛を鳴らして、田中先輩がジャンプサーブのモーションに入る。
「っ! 強打来るぞ!」
黒尾先輩の指示が飛び交う中、田中先輩がジャンプサーブを打った。狙いはバックセンター。
伸びて伸びて伸びて。
「「「アウト!」」」
ボールはエンドラインの数cm外に落ちた。すげえー惜しい。同時にフラッグで〝アウト〟のシグナルを出す。直井先生と眼が合ってお互いに頷く。音駒の点数になった。【1-3】。
「だあっ!? サーセン!!」
「「「ドンマイドンマイ!」」」
もうちょっと角度を気にすれば入ってたなー。
「「「ナイスジャッジ!」」」
「犬岡! サーブ頼むぞ!」
「はい!」
そして、犬岡がサーブってことは黒尾先輩が前衛に上がるローテだ。見た感じレフトとかでもやってけそうながする。
「梟谷の木葉に『今日烏野と練習試合する』って言ったら『えーマジぃ? じゃあ繋護の様子見てきてよー』って言われたから色々見させて貰うから」
「試合に集中して下さーい」
「良いからいけ! 黒尾!」
「分かってるよ、やっくん!」
……何て言うか、ネズミ算とか押しつけてきそう、黒尾先輩。
そして夜久先輩に背中を押し出された黒尾先輩がネットまで走って行く。
「試合でるんだよな?」
「出ますよ。今分析中です」
「あー、怖いぜ」
通りすがりの夜久先輩とちょろっと話をしてラインズマンの仕事に戻る。
秋紀先輩元気かな。元気にしてそうだけど。……ていうか、ここにいたらめっちゃ話し掛けられる? もしかして立ち位置間違ったかも。
「「「犬岡、1本ナイッサー!」」」
「1本集中!」
「「「オォーッス!」」」
犬岡がフローターサーブを打ってボールの行方を追う。フットフォールトは無かった。
◎
【2-6】、【3-8】と烏野高校が優勢の状態で試合が展開する様子を見て、烏養一繋は孫の活躍を応援する祖父として目の前の練習試合を楽しんでいた。
「10番の子が動き回ることでブロックを分散させてる、って認識であってる?」
「ああ、そうだぞ。蠅みたいなもんだ。目の前のブンブン飛び回るとイラッとするだろ?」
「蠅って……。せめてアーティストとかにしようよ」
「いーや。目を瞑って打ってるような未熟者は人扱いしなくて良い。一歩間違えたら着地ミスで怪我するだろうよ」
「えっ、目を瞑ってるの!?」
右の席に猫又真緒、左の席に猫又美緒、猫又真緒の隣の席に込田彩音が座って試合を観戦していて、チラホラと挨拶をするOBから「監督、指導の時と全然ちげぇ。孫溺愛してるただの爺ちゃんじゃん」と思われている烏養一繋だった。
自分が指導していない烏野高校男子バレー部を見ることに少し疎外感を覚えていたものの、一歩離れることで冷静になってる自分がいることに烏養一繋は気づく。
「まあ、音駒も対策考えてるだろ。考えるバレーは昔からやってたし」
「なんというか、〝観察中〟って感じだよね」
「猫の方のお祖父ちゃんの表情が『どうやって調理しようかな?』って感じだもん」
「だな」
烏養一繋の懸念通り、最大5点差あった点差が次第に少なくなっていき、【7-11】で烏野高校がリードしている場面で猫又育史がタイムアウトを要求した。
◎
音駒がタイムアウトを使った。聞いてないようで聞く振りをしながらミーティングを盗み聞きする。……いやいやいや、これは別に変なことじゃない。対戦校の分析は重要なお仕事です。
「確かに〝面白い〟チームだ。だが、対抗策は十分あるな。黒尾、分かるか?」
「はい。
まず10番に1本目を取らせて助走を遅らせる。ブロックで誘導してやっくんに取らせる。あえて10番にブロックを付けずに3番と5番だけにブロックを付く、などです」
「だな。
レフトの3番と5番は鋭いスパイクを打ってくるが、1番は高さ、10番と11番はパワー不足とまだまだ弱点は多い。10番の時はデディケートシフトで誘導、あるいは全員下がってみようか。犬岡は10番を追ってワンタッチ狙い、夜久はバックレフトで拾え」
「はい!」
「あと、10番は足の長いスパイクを打ってこねえ。前詰めて処理しよう」
「「「はい!」」」
やっぱり弱点バレてるかー。流石猫又先生。
ちらっと猫又先生眼が合った。
「ああ、うん。孫の表情が『それ正解』って言ってるから正しいな。やってみよう」
「「「はい!」」」
……嘘ー、顔出てた? あばばばば。
ミーティングが終わって、音駒の皆さんに案の定絡まれる。特に黒尾先輩。
「ここでラインズマンはミスったんじゃ無いのぉ?」
「試合やれば分かることですし。あと、じっくり観察して対抗していく。それが猫又先生の作るチームでしょう?」
「……よく地味とか言われるんだけどなー。あー、何というか手の内バラされてる気がしてめっちゃ嫌だ」
「直井先生が現役の前からのチームも知ってますからね。映像が残ってる分の試合は全部頭に入ってます。2007年度の春高も現地で見て録画で復習してますしね。それの約30年分です」
「くうっ! 大人しそうな顔してマジ怖え!」
「ほら、試合に集中して下さい」
練習試合とはいえ、他校なんだから。なれ合い禁止!
翔陽への対策はバッチリはまって、点差が次第に小さくなっては逆転された。でも、スガ先輩とのツーセッターとか山口の攻撃力補強、木下先輩のピンチサーブと負けていない。
でも、結局【27-25】とあと一歩の所で1セット取られた。
各チームのミーティングが始まるからフラッグを置いて烏野高校側のコートに戻る。
「惜しいところまではいってる。が、あと一歩って所だな。決して明らかに負けてるってわけじゃねえ。チーム力としての仕上がりが音駒の方が上って事で俺達の攻撃は十分通用してる。
次のセット、リベロは猫又だ。西谷は身体冷えないようにジャージ着ておけよ。着替えても良いから」
「「はい!」」
よーし、試合だー。
「繋護、一泡吹かせろよ!」
「分かってますよー」
「5分くらい間空くからその間に身体温めとけよ」
「はい!」
やったるぜ。
◆
一方、音駒高校男子バレー部も烏野高校と同じようにミーティングを行っていた。そして、猫又繋護がアップをする様子が見えて、猫又育史が改めて注意を促す。
「烏野が将来性のあるチームって言うのは分かったと思う。今セットを取れたのはウチの方がほんのちょっとチーム力が上回っていたからだ。
9番と10番だけに注目してたら他からガブッと喰われる。よく見て、落ち着いて対処していこう」
「「「はい!」」」
「あと、次のセット孫が出るっぽいから伝えておく。あいつセッターやれるから思いも寄らぬ所から色々とねじ込んでくるぞ。見た目に反して好戦的だ。9番からのアタックもさっきよりも増えるだろうから注意しとけ」
「「「はい!」」」
中学1年の秋からユニフォームを貰い、中学3年までずっと正リベロとして試合に出ていた。付いたあだ名は〝庵里の化け猫〟。
千葉県の県大会と関東大会でベストリベロ賞を獲得し、幼い頃から烏養一繋と猫又育史にバレーボールを教えて貰っていた猫又繋護が今試合に出場する。
◆
2セット目が始まってポジションの確認も終わる。あっちはポジション自体変えないみたいだ。
音駒
2 海先輩 4 山本先輩 7 犬岡
1 黒尾先輩(夜久先輩) 6 福永先輩 5 孤爪先輩
烏野
1 キャプテン 10 翔陽 5 田中先輩
3 東峰先輩 11 月島(俺) 9 影山
サーブは烏野で、影山スタート。
サイドラインで月島と入れ替わる。
「黒尾先輩ブロック上手だから参考になるかも」
「ん」
月島とハイタッチして、一礼したらコートに入ってバックセンターへと向かっていく。ポジショナルフォールトを取られないように東峰先輩との位置関係には気を付けないと。
「「「影山、1本ナイッサー!!」」」
「強いの来るぞ! 1本集中!」
福永先輩と海先輩は足の長いスパイクを打ってくることが多かったから若干後ろ際で良い。他の3人は割と叩き付けてくる。それに孤爪先輩が前衛の時はツーで落としてくることが多いって感じかな。
直井先生が笛を吹いて、影山がジャンプサーブを打った。狙いは孤爪先輩がセットアップに走るバックライト。同時に俺はバックrレフトに移動して、東峰先輩はバックセンターに移動する。
「「「犬岡!」」」
「ぐっ……! カバーお願いします!」
犬岡が触ってボールがその場に大きく上がる。そして、更にそのボールを福永先輩がレフトの海先輩に二段で上げた。
「「「レフト来るぞ!」」」
ライトのキャプテンとセンターの翔陽がブロックについた。
「せーのっ!」
「「「ブロック2枚!」」」
「ふっ……!」
「「ノー!」」
海先輩のスパイクは翔陽のブロックが完成する前に上から打たれて伸びてくる。バックレフト寄りのバックセンターに落ちてきたけど読んでた。ぱっと動いてアンダーで拾う。
「「「ナイスレシーブ!」」」「カウンター!」
「レフトォ!」「影山!」「ライト!」
「いけっ!」
「ワンチ!」
翔陽は「変人速攻だけがお前の武器じゃねえからな。他の打ち方も練習しとけよ」って烏養コーチに言われてるのをやっと理解したみたいで、空中で相手のブロッカー陣を避けるように頑張ってる。
今回もAからBに跳んで犬岡の右手に当たったボールは猫又先生の座ってるベンチまで飛んでいってキャッチした。ワンタッチでこっちの得点だ。【0-1】。
「ッシャア!」
「「「ナイス日向!」」」
「猫又もナイスレシーブ」
「はい!」
コート中央に集まってペチペチハイタッチしていく。
「スパイクを叩き付けるのがバレーじゃねえからな! 〝小さな巨人〟目指してんだろ! だったらいろんなことやってみろ! 足りてねえ体格の分を頭で補え!」
「オス!」
翔陽が時折呟く「宇内さんならどうしてた?」って言葉。
良いねえ、上手な人のプレーを真似する所から上達して自分なりのプレーを作れるから、この合宿でOBの色んな試合を観察・分析してるけど、翔陽のバレーIQは順調に伸びてる。まだまだ下手っぴだけどな。
「日向にまけてらんねえ……! 影山、俺にもトスくれ!」
「「俺も」」
「田中さん、東峰さん、澤村さん。……はい!」
「バッタアタックもやっていきましょう。上げていきますよ~」
「後輩が頼もしすぎて辛い」
「それな。負けたくない」
頑張って下さい、キャプテン! 悩みの種は俺達かもしれませんけど!
それはともかく、影山のサーブはまだ続いてる。
「犬岡と孤爪さんレシーブまだ安定してないから狙っていきます」
「だな。良し、もう1本頼むぞ!」
「はい!」
影山がエンドラインまで行くのを見送って、相手コートを見据える。
翔陽と影山の変人速攻をはじめとする烏野の多彩な武器で点を取れば、あるいは音駒の「今の取るのかよー!?」っていう悲鳴やら歓声。そういった中でこのゴミ捨て場の決戦を全国でやるんだ。
「「「影山! もう1本ナイッサー!!」」」
影山に声をかけて深呼吸する。
俺がセンターへの速攻やらサイドへの平行、影山へのトスをして攻撃パターンが増えたこともあって2セット目は【22-25】でウチが取った。おし。これで転校の話は無くなったはず。……多分。
やっぱりリベロからもトスできれば攻撃パターンが増えるし、特に影山みたいに身長があってジャンプサーブを打てるセッター、……話を聞く限り青葉城西の影山の中学の先輩も、スパイクを決められると勝ち上がれる。伊達に首都圏の中学と練習試合して負けてきてない。
勝ち上がれるチームはやっぱり6人全員上手でオールラウンダーだ。リベロであってもスパイク打てる事もあるし。
「おーし、良くやった。
西谷、お前からのトスがあると、相手はあたふたしてやっぱりスパイカーが楽になる。『リベロもトス上げてくるのかよー』って。オーバーにはどんどん挑戦していって欲しい」
「はい!」
1セット目と2セット目を比べてみると、ノヤ先輩が二段トスを上げるときはどうしてもレフト2人だけになってブロックで仕留められることが多かった。上を目指すならやっぱり大事なことだと思う。特に影山を使えるようになればね。
「ちょっとここらで雰囲気変えてみるか。次は菅原をメインとしたオーダーを試してみよう。菅原、成田行って来い!」
「「はい!」」
「一旦影山と日向は外な。外から見るのも勉強だからじっくり見ろよ。あと身体冷やさないように」
「「はい!」」
「縁下は途中で田中と、木下もピンサーで出す予定だ。
場合によっては月島と山口を変えてみようかなとも思ってるからその3人は特に準備しておいてくれ。
菅原。怪我とかで無ければ、俺は2試合目菅原から変えるつもりは無い。3年の意地をしっかり見せてこい!」
「はい!」
スガ先輩のオーラがすげえ。やったるぜー。
全員で円陣を組む。
「烏野ー! ファイ!!」
「「「オォーッス!」」」
音駒に限らず、相手に新しいことをされると対応していくので精一杯になるから後手に回ることが多い。慣れさせない為にも色々試すのは良いよな。
こういっちゃなんだけど、音駒は東京の高校だから全国大会でしか当たらないし。下手に青葉城西とかで試すと「こういうのやってきたよな」って対策を取られる。そう言った意味ではお互いに都合の良い練習試合の相手だ。もっとウチが強くならないとバランス悪いけど。
◆
一方、音駒高校男子バレー部一同もミーティングを行っていた。
「夜久、芝山。
今のセットで俺の孫がやってたみたいに、リベロからコンビを使えると攻撃パターンが増える。セッターが1本目を触ったときやセッターが追いつけない場合はリベロからトスを上げられると相手にプレッシャーを与えられるから明日以降練習していこう」
「「はい!」」
「ウチは全体的に高さが足りない。黒尾と犬岡だけが330cm越えてるからよ。
高さが足りねえ分、速さと多彩さで勝負するしかねえ。山本、福永、海はそのつもりでな。レシーブ、そしてコンビだ」
「「はい!」」
「おし。烏野がどんな学校か分かってきたと思う。これから1セットも譲るなよ」
「「「はい!」」」
大人2人を除いた部員達で円陣を組む。
「音駒ー! ファイ!!」
「「「オォーッス!」」」
スタメンの6人が3セット目に向けてコートの中に入っていく。
◆
3セット目。
スガ先輩をメインセッターに置いたローテーションだ。ちなみに俺が先に出る。
音駒
2 海先輩 4 山本先輩 7 犬岡
1 黒尾先輩(夜久先輩) 6 福永先輩 5 孤爪先輩
烏野
3 東峰先輩 11 月島 2 スガ先輩
1 キャプテン 8 成田先輩(俺) 5 田中先輩
音駒は変えてないっぽい。でもこっちのコートを見て割と動揺してた。
「あ、あれ? なんか目茶苦茶変わってないですか? 烏野」
「翔陽がいないっす!」
「落ち着け、始まる前からびびってんじゃねえぞ 山本! 犬岡!」
「夜久さん! ウィッス!」
サーブはこっちから。つまり田中先輩からだ。
「「「田中! 1本ナイッサー!」」」「「「1本ナイッサーです!」」」
「おーし! やったるぜぇ!!」
アウトになりそうだな。
エンドラインで肩をぶん回す田中先輩を見て失礼ながらそう思った。
「1本集中!」
「「「はい!」」」
コート外から黒尾先輩の声が聞えてきてあっちは若干落ち着いたみたいだ。
直井先生が笛を鳴らして、田中先輩がフローターサーブを打つ。狙いは犬岡の後ろ。まあ、でも案の定というかアウトっぽいボールを犬岡が拾った。
「レフト!」「セミ!」「ライト!」
「……海君!」
孤爪先輩が上げたのはレフトの海先輩。スガ先輩とセンターの月島がライト側に移動してブロックに跳んだ。
「せーのっ!」
「「「ブロック2枚!」」」
バックセンターで海先輩のモーションをよく見る。
助走――クロス。
身体の向き――クロス。
視線――スガ先輩の左手を見た。
スイング――クロス。
⇒スガ先輩の左手を利用したブロックアウト!
後ろに吹飛ばしてきそうだったから一歩後ろに下がる。
「ふっ!」
「ノー!」「ワンチ!」
「「「後ろだ!」」」
はーい、読んでましたよー。
と言うことで、スガ先輩の左手に当たったボールがライト側のエンドラインを越える勢いで吹飛んでいく。追いかけて追いかけて、ボールをコートに戻るように大きく戻した。ターンしてコートの中に向けて走る。よしよし、良い感じに返球できたぞ。
「スガー!」「センター!」
「旭!!」
まずは東峰先輩に決めて貰おうって感じだ。スガ先輩がレフトにオープントスを上げたのも見ながら急いで戻ってそのままブロックフォローに入る。
あっちはライトの海先輩とセンターの犬岡、レフトの山本先輩の3人がしっかりとブロックに付いた。
「「「せーのっ!」」」
「「「ブロック3枚!」」」
「っし!」
「ワンチ!」「ノー!」「ノー!」
東峰先輩のスパイクは海先輩の右手の指先に当たって鋭い軌道で相手コートのバックライトに突き刺さった。偶然かもしれないけど目茶苦茶良いコース。先制点は烏野、【0-1】。
「おし!」
「「ナイスキー旭!」」「「「ナイスキー!」」」
「ねこもナイスカバー!」
「はい!」
コート中央に集まってペチペチハイタッチ。
東峰先輩にはゆったりとしたオープントスの方が打ちやすそうだ。……まあ、平行とかも打って貰わないとこの先困るけど。
3セット目が終わった。【29-27】で音駒の勝ち。
うーん、最後に粘り負けしたなー。まあしょうがない。
田中先輩と交替した縁下先輩は考えてプレー出来るから器用な印象だったし、成田先輩も変人速攻こそ無いけど安定したクイックとブロックで正直翔陽よりもやりやすいし。ブロックも頑張ってくれ、翔陽。
「日向の変人速攻ももちろん武器だ。でも成田と菅原の安定した速攻も武器になるし、後衛としては成田の方が多分やりやすいと思う。現時点ではな。
全員まだまだ下手くそで伸びしろは沢山ある。合宿中に見つかった課題もこれから潰していこう。
ということで? 先生、昼だよな?」
「ええ、時間も時間ですし。そのつもりで猫又先生と打ち合わせしています」
壁時計は12時ちょっと過ぎた辺りだ。13時くらいから始めると大体あと6セットあたりかな?
「じゃ、まずは簡単にクールダウンして着替えておけ。ユニフォーム日光に当てておくと汗気にならなくなるぞー。
じゃあ始めろー」
「「「はい!」」」
まずはダウン、そしてお昼だー。ごはーん!!
◎
部員にクールダウンをするように伝えて、猫又育史と直井学は2人で打ち合わせをしていた。
「やっぱり攻撃面ですね」
「そうだな、コンビの練習にリエーフの成長。あと球彦の育成とリベロ2人のトス技術。まだまだ詰めていかないとな。それにどうしても研磨のスタミナが心配だ」
「ですね」
6月のインターハイ予選を勝ち抜くために2人で強化案を出しながら「ああだこうだ」と話し合う。
一旦落ち着くと、直井学が感心したように呟いた。
「……それにしても〝面白い〟です、相変らず」
「烏養の時から新しいことに挑戦してたからな。それが繋心にも伝わっていた。学もコーチの勉強ちゃんとしとけよ?」
「うっ、はい」
烏養一繋が監督を引退したように、猫又育史もまた自身の引退を考える歳になっていた。今の所猫又繋護達今の1年生の卒業と併せて引退すると直井学に伝えていて、最大で2年半、その間に直井学は自立して指導出来るようにしなければならない。
「よっ、猫又、直井」
「おお、烏養か」「こんにちは! 烏養先生!」
猫又育史と直井学がお昼にしようと移動していると、烏養一繋が2人に声をかけた。立ち話が始まる。
「相変わらず繋いでくるな、お前のチームは」
「それがウチだからよ。……にしても烏野は面白いチームだな。繋心が指導者になっても変わりやしねえ」
「あいつ、バレーの実力はそこそこだが、教えるのは上手かったからな」
「それ言ってやれよ」
「言わねえよ、調子乗るだろうが」
「違いねえ」
烏養繋心の性格を知る3人は大きく笑う。
そして、武田一鉄と烏養繋心もその場に現れた。
「猫又先生と直井先生! っ! 烏養先生も! 挨拶が遅れて申し訳ありません!」「げっ、ジジイ何してんだ」
「先生は止して下さい、武田先生。今は孫の活躍を見に来た祖父ですから。繋心、いちゃ悪いか? あん?」
「いんや? 別に?」
烏野高校に赴任して男子バレー部の顧問になることが決定して以来、烏養一繋を知る若林智子から「烏養先生が『もし何かあれば連絡してきて下さい』と仰ってました。それに坂ノ下商店のお孫さんがコーチを引き受けたいとも。私もバレー部の応援頑張りますね!」と伝えられて、武田一鉄は迷わず電話した。
それ以来、武田一鉄は烏養一繋から男子バレー部の運用について学んでいる。
「烏養はどうすんだ、昼」
「美繋に弁当作って貰ってる」
「じゃあおまえさんも来い。武田先生と繋心もそれでいいか?」
「ええ、是非!」「……いいぞ」
武田一鉄は嬉々として、烏養繋心は渋々と返事をして一緒に昼食を取ることが決まった。
「武田先生と繋心はこれから買うのか?」
「いえ、合宿期間中サポートして頂いてた家庭科部の先生に作って頂いてます」
「ほーん、若林先生だったか。ウチも家庭科部に協力して貰えねえか聞いてみるか」
「ええ、正直な話軽食だけでもお願いしたいです」
この20年家庭科部のサポートを受けていたことを知ってる猫又育史がすぐに若林智子の存在に行き当たった。
この合宿から帰ったら「家庭科部におにぎりでもお願いできないか?」と考える2人だ。
◎
若林先生から合宿中最後となるご飯を受け取る。いわゆる補食だ。食べやすいサイズのおにぎり3つとオレンジジュース、あとバナナ。
見たところ音駒もおんなじ。というか、完全に同じだ。用意するの面倒くさいもんね、考えるのも。
一緒にお昼を取ろうってことで、食べる前に恒例の若林先生による簡単な説明が入った。
「今、皆の手元にあるのがいわゆる〝補食〟というもので、スポーツ前や間食に良いとされているものです。
どれも消化吸収が早くて、糖分は身体のエネルギーになる。それでいて疲労回復に役立つクエン酸とかビタミンCね。食べ過ぎても動けなくなっちゃうからマックス腹八分位で大丈夫。
ゼリー飲料は15時前に飲むと良いと思うよ。それでは今日の説明は終わりです」
「「「ありがとうございました!!」」」
今日見に来てた他の先生とご飯行くらしくて、若林先生はそれだけ伝えて離れていった。両校の部員だけで昼ご飯だ。「一緒に食べようぜ」って話が出たらしい。
「えーっと、宮城と東京とまず逢わない2校がこうして練習試合をしています。先生方の縁に感謝してご飯を食べましょう。午後も頑張るぞ、と言うことで頂きます!」
「「「頂きます!!」」」
まずはおにぎりから食べよ。ラップを剥いでいってと。
「それにしてもこっちの方空気美味しいよなー! 空気が美味いってやっと分かった気がする」
「分かる。都内と全然違う」
「まあ田舎だし人少ないし」
「コンビニなんて20時で終わるんだぞー」
「「「えっ。マジかよ!?」」」
「そもそもコンビニまで30分くらいかかるよなー」
「それはもうコンビニじゃなくね……?」
3年生は3年生、2年生は2年生、1年は1年で簡単に纏まって、3年生同士は割と打ち解けてる感じ。2年生は田中先輩と山本先輩がうる、賑やかだ。
1年は翔陽と犬岡がワーワーキャーキャー。
俺はと言うと、数学でいう○○かつ△△かつ□□の中にいる。つまり中心。……逃げられない!
「繋護って千葉からこっちじゃん? ケータイとか使いたくならないの?」
「んー、特に? こっちの方静かですしバレーに集中できますよ?」
「あー、ねこ、たまにスマホ家に置いてきてる。そういった不便さはあんまり聞かないな」
「へー」
「ちなみにスマホの充電3日に1回で事足りるくらいです」
「「「マジかよ!?」」」
だって何かあれば校内放送と家の電話で事足りるし。スマホのゲームもやらないし。ぶっちゃけ必要ない。あと視力悪くしたくないからね。まあでも、あったら便利ってことは分かってるつもりだ。
音駒の皆の中でも特に孤爪先輩が驚いてた。多分ゲームが好きなんだろうな。ウチは皆で遊べるパーティーゲームしか買わないルールがあるから、マリオパーティとかマリオカートしかない。家にあるのはゲームキューブ位で、ここ数年はもっぱらボードゲームばっかりだ。
「本当に首都圏に住んでた?」
「住んでましたよ? ディズニーとか浅草とか墨田区総合体育館とか行ってますし」
「〝アサクサ〟! 知ってる!! 凄いところ!!」「レジャー施設の中に体育館が入るのか……」
……変か? 家から近いんだけどな。
「今度は東京で練習試合やりたいよな」
「分かる。東京行ってみたい」
「あー、梟谷グループって言うので練習試合してて、都合が合えば烏野誘うかもな。いや、適当言えないけど」
梟谷グループ。
東京の梟谷学園、音駒高校。神奈川の生川高校。埼玉の森然高校の4校で集まっては合同で練習したり練習試合をしてる。猫の方の祖父ちゃんが行ってたから知ってた。
「「「行きたいです!」」」
「いや、俺に言われても。
……まあ、でも、繋護がいるから可能性は高いと思うぞ。梟谷には繋護の中学から進学してる奴多いし。なぁ?」
皆の視線が俺に来る。ひえっ、真ん中だから恐いんだよ。
「ええ。
梟谷に行った中学の同級生に【ゴールデンウィーク、音駒と練習試合するー】ってメッセージ送ったら、【俺達も宮城行きたかった!!】って返ってきました。可能性は高いんじゃないかなーって」
「世間狭いな……」
東峰先輩の言葉に同意、の前に俺がそういう環境にいたからだと思ってる。
祖父ちゃん同士の因縁故の烏野と音駒の関係。選手を酷使しないように身体作りをしっかりとしていて、バレーが強い中学を選んだこと。
バレーが強い中学からは高校でも強い学校を選ぶことが多いから必然的に井闥山とか梟谷に進学する人が多くなる。
ちなみに庵里中から井闥山の方は20分くらい、梟谷は40分弱で通えるから井闥山に進学する人が多い。井闥山の特進とかは難関国立大にも対応してるから割と人気だ。制服も良いし。
【登場人物まとめ】
月島佳乃 月島明光と月島蛍の母