烏野高校の猫又君   作:青黄紅白

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2012年5月④

 次の日、朝登校してきて月島のお兄さんが出てる試合のDVDを何枚か持って1年4組を訪れた。扉側から顔を覗かせて、入り口に近い席の女子生徒に声をかけて月島と山口を呼んで貰う。祖父ちゃんがこまめに整理してくれて焼くの楽だったわ。

 

「月島きゅ~ん! 男子バレー部の猫又君が呼んでるよぉ~! あと山口君も」

「ん? ああ。ありがとう」

「良いの良いの! きゃぁー! 月島きゅんと話しちゃった~!」

 

 ……朝からすげぇもんを見ちまったぜ。〝月島きゅん〟って呼ばれてるのか。

 月島が俺の方を見てきたからDVDをヒラヒラさせると、納得したような表情で一つ頷いて山口の方に向かっていった。

 そのまま2人が俺の方に来る。

 

「おはー」

「ん」「おはー」

「合宿中言ってた11番の先輩が出てる試合のDVDね。インターハイ予選とその前後の練習試合。何か不備があったら言って」

「ありがと」「サンキュ!」

「じゃ、これで」

 

 任務かんりょー。5組に戻ろーっと。

 

 

 放課後になった。

 図書館で本を見繕って帰ろうとしたら……。「男子バレー部の繋護、……あ、猫又繋護っている?」って翔陽の声が聞えてきた。影山もいる。ノート持ってるぅ……。

 

「ねこ君? ほら、あそこ」

「あっ、繋護ー! 失礼します!」

「失礼します!」

 

 自分の鞄とノートを持って2人して俺の方に来た。……あー、「勉強教えてくれー」が現実になったか。たっく、しょうがねえなー。

 

「5組に用事なんて珍しいじゃん」

「勉強を教えて下さい!」「下さい」

「……まあ、いいか。ほれ、座れ」

 

 翔陽は俺の前の席の杉本勉の席、影山は左前の星野陽一の席を借りて席に座った。この2人が赤点のボーダーラインの40点を超えるようにしていくのか。……面倒くさいな。やるっきゃないか。

 姉ちゃんと彩音ちゃんの学校の過去問とか受験で使ってた大学の過去問、進路相談室で借りた烏野の直近5年の過去問をまとめたファイルを取り出して手に持つ。

 

「教科は?」

「全部!」「全部」

「はぁ~ん?」

 

 案の定全部出来ないのか。はー、勉強しておけよー。

 

「小テストは?」

「持ってきてない!」「無い」

 

 コイツら~! ……まあいいや。

 去年の英語と数学の過去問を取り出して、翔陽には英語、影山には数学のプリントを渡す。

 

「えっ、何!? 繋護カンニングしてんの!?」

「違いまーす。これ去年の中間テストな」

「なんで持ってんだ?」

「進路相談室知らない? 去年までの定期テストとか赤本とかまとめて貸し出ししてるの」

「へー! そんなのあるんだ!」「知らない」

 

 入学して説明あっただろうがよー!! ……まあいいや。予想してたし。

 

「ぶっちゃけ、もう時間無いから『こういう問題が出やすいよ』、『だからこれを覚えよう』って方針で行く」

「……でもそんな上手くいく?」

「『この時期はこういう分野をやります』ってカリキュラムによって決まってるから先生毎の出題方法が分かれば割と点数稼ぎやすい。

 特に、高校初っぱなの中間テストだから中学の復習も出てくるし、どっちかというとそっちの方がメインだ。今は色んな先生の問題をやって覚えていく。そうすれば赤点は免れるはずだ。……多分」

「多分!?」

「だって2人勉強嫌いでしょ?」

「嫌い!」「……嫌いだ」

 

 ほーら、案の定。

 

「2人の場合は『一つ一つ説明して覚えていく』って方法より『まずやって出てきたものを覚える』って方法の方が絶対良い。1分考えて、分からなかったら答えごと覚えるってやり方で行くぞ」

「オス!」「……おす」

 

 月島の場合は1つ1つをある程度説明した方が分かると思う。

 分かりやすく言えば、取扱説明書を読んである程度内容を理解してから機械類を触るタイプか、機械類を触ってなんとなく理解してから出来ない所を覚えていくタイプか。そのどっちか。

 

「赤点取ったらインターハイ予選出られないと思えよ。今はやれ。とにかくやれ。試合に出たいなら」

「「……はい」」

 

 俺も井闥山の特進クラスの過去問やろーっと。

 

◇

 

 帰宅した月島蛍は猫又繋護から受け取った6年前に月島明光が出場したインターハイ予選決勝の白鳥沢学園戦のDVDをリビングで見ていた。

 合宿中に月島明光がコートに出た点数を確認していたのでその部分を何度も見返している。これで4度目だ。

 そのうち、母の月島佳乃が夕食の買い出しから帰ってきた。

 

「お帰り」

「あら、今日は早かったのね」

「合宿の疲れを取れってさ」

「そうなの。……あら? 丸山君じゃない、懐かしいわね~」

「丸山君?」

「そう、明光の1つ上のキャプテン。その試合で今出てるでしょ?」

「……流石に名前は知らないよ」

「そう? 小学校も忙しかったもんね」

 

 一旦会話を切り上げた月島佳乃は鼻歌交じりに買ってきた食材を冷蔵庫の中に入れていく。烏養一繋、若林智子と猫又美繋が監修した高校生アスリートに向けてのレシピは月島家でも利用されていた。

 その間にも月島蛍は試合のDVDの視聴を続ける。すると、ピンチサーバーで月島明光が出場した。

 

「あら、明光が出場した試合だったのね」

「……母さん知ってたの?」

「もちろんよ~、応援に行ったもの」

「……僕知らなかったんだけど」

「んー、確かこの日小学校の交通安全教室かなんかじゃなかったかしら? それかバレークラブ?」

「……そうだったかもしれない」

 

 月島蛍が記憶をたぐり寄せると、定かではないものの、外部から指導者を呼んでの交通安全教室に参加したような覚えがあった。「試合見に行きたい」と要望を伝えたら「スタメンとってからな」と断られたような気もする。

 

「兄ちゃん試合出てたんだ」

「あれ? 知らなかった? 

 高2の秋くらいから成長痛が激しくなっちゃってドクターストップかかって練習も控えめになっちゃったものね。そしたら1つ下の宇内君がメキメキ伸びちゃってさ。そのままレギュラー落ち。

 まあ、でも『もう少し仕事に慣れたら社会人サークルにでも入ろうかなー』って昨日言ってたから、そのうちOBとして練習試合しにくるんじゃない?」

「えー……」

 

 月島蛍が嫌そうに返事をすると、月島佳乃は苦笑した。

 

「前は『兄ちゃん兄ちゃん』って何処行くにも後ろ着いていったのにね~」

「……昔の話じゃん」

「そこまで前じゃ無いでしょうが。

 ……あ、昨日烏養先生とお話ししたんだけど、『まだまだ体重足りてないから増やせ』って仰ってらしたから頑張って食べなさいよ~」

「うん」

 

 DVDの視聴を辞めた月島蛍は立上がってそのままキッチンへと向かった。

 

「何? お夕飯まだだけど」

「……手伝う。何かやることある?」

「えっ。……えっ!?」

 

 「麦茶でも取りに来たのかな~」と思って冷蔵庫の前から退いた月島佳乃は次男の思わぬ発言に耳を疑った。耳が遠くなったかと思ってそのまま次男を見るが、月島蛍は相変らずバツの悪そうな表情でそこに立つ。

 

「どうしたのよ、何か変なもの食べた?」

「そういうのじゃない。コーチが『オフの日くらい家の手伝いしろ』って」

「ああ、なるほど。

 ……そうね、蛍も高校生なんだから料理の一つや二つ出来た方が良いかも。やっぱり仙台の方に行かないと仕事も限られちゃうし」

「まだ家出るって決めたわけじゃ……」

「だとしてもよ。

 余裕があるときに少しずつやっておいた方が良いんじゃない? 大学行くにしても仙台の方行くしかないし。大学くらいは出ておきなさいよーっていうのは私もお父さんも言ってるでしょ? つまりひとり暮らしをする可能性は高い。ね?」

「……分かった」

 

 月島蛍が第一志望としている大学はどうしても自宅からだと相当な時間がかかる。となれば、学生寮などの利用もあり得るため、自炊をはじめとする家事を自分でしなければならない。

 今現在の自分がひとり暮らしを始めたらどうなるか? ということを考えなくても、生活できないのは分かっている為、家を出る準備はしておくに越したことはない、と月島蛍は判断する。

 終わりの無い家事を延々と繰り返す母親に頭が上がらない。

 

「……いつも色々してくれてありがと、母さん」

「んー? 何か言ったー?」

「この距離なんだし聞えてない訳無いでしょ」

「最近耳が遠くなってきたのよねー。

 ……あ、明光が『蛍から連絡来ない~』ってぼやいてたから『元気~?』位は送ってあげなさいよー。あんたたち兄弟なんだから。もしかしたらルームシェアだってするかもよ?」

「んー」

「今日はカレーにしようと思ってるから。美味しいし栄養満点だし、何より手軽に作れる。案外カレーって馬鹿に出来ないのよ?」

「んー」

 

 「都合悪くなると生返事になるところお父さんと明光にそっくり」と続けながら、2人は夕食の準備を進めていく。

 

◇

 

 5分解かせて答えを写すって作業を翔陽と影山にやらせながら、俺は俺で勉強を進めていた。

 2人の頭からプスプス煙が上がってるような気がする。

 

「教科書を5回音読するだけでも変わるから、2人ともまず中学の教科書を最低3周しろ」

 

 そう言うと、翔陽が挙手をした。発言を許す。

 

「もう使わないと思って捨てた!」

「はいおバカー。何やってんねん?

 教科書って目茶苦茶優秀な参考書なんだから捨てるなよ。んー、どうすっか……」

 

 小テストの振り返りと過去問、後は教科書でいける、はず。俺なら。でもこの2人はなー……。

 

「……せめて高校の教科書は最低3周しろ。あとは小テストの復習と過去問やって答えを覚える、だ。

 大丈夫、中間テストは2週間後。赤点を防ぐことはできるはずだ。……多分」

「多分!?」

「朝起きてストレッチの時間とか着替えの時、風呂上がりの時とかで少しずつやってけ。じゃないと試合には出られないぞ。『これ見たことある!』を増やしていくが勉強の鉄則だ。分かったな?」

「オス!」「おす」

 

 こいつら留年しそー。……ていうか良く高校入学できたな。

 

 

 

 朝練の着替えの時間を利用して、早速翔陽と影山は単語帳なんかを開いて勉強を始めた。そんな2人を見て月島と山口が感心したように笑ってる。

 

「勉強頑張れよー、日向、影山」

「分かってる!」「……うぬん」

「どんな感じ? この2人」

「翔陽の方が若干良い。

 高校初のテストなんか中学の復習メインのはずなのに中学の教科書捨てたって元気よく言うから、こいつら高校にバレーしかしに来てない。このままだとマジで留年しそう」

「「やっぱり」」

「うるせえ! 月島、山口!」

「月島と山口もこの2人の面倒見てよ」

「「えー」」

 

 仲いいな、この2人!

 

「勉強してないこの2人が悪いんでしょ」

「それはそう」

 

 結局勉強してない翔陽と影山が悪い。うん。

 

 

 2年生達が部室に現れたらもっとカオスになった。

 

「「日向と影山が勉強してるだと!?」」

「田中と西谷も後輩見習えよー」

「「ほぎゃあ……!?」」

 

 その後、「テストなんて無くなっちまえばいいんだ!」って言ったのが田中先輩で、「鉛筆コロコロで乗り切ってやる!!」って言ったのがノヤ先輩。……記述式はどうすんだ?

 

「せっかく4月から良い雰囲気でバレー出来てるんだから、マジで田中と西谷も頑張れよ。分かんないところあったら俺達で教え合うからさ」

「縁下さん……! 成田さん……! 木下さん……!」「力ー! 一仁! 久志!」

「「うぉぉぉぉ!! 先輩達には負けねえ!」」

 

 ……なんだこりゃ。

 そろそろキャプテン達来るから体育館の準備行って来よー。

 

 

 放課後になった。

 着替えてコートの準備も終わってミーティングに入ると、烏養コーチが突然変なことを言い出す。

 

「今年度のインターハイの会場分かる人ー」

 

 2012年度のインターハイの会場は富山県だ。こっからだとかなり面倒くさい。新幹線でも東京に行ってからの方が楽だし。車とかバスだと6時間くらいかかる。ひえっ。

 烏養コーチの意図が分からないけど、条件には該当するから手を挙げる。他にもキャプテンとスガ先輩、影山と月島が手を挙げた。

 

「おい、自分達のことなんだから知っとけよ。……まあそれはいい。

 春高なら首都圏の体育館って決まってるけど、インターハイとなると、北は北海道、南は沖縄と何処になるか分からねえ。ちなみに今年は富山だ」

「「「トヤマ!! ……ってどこだ?」」」

 

 行ったことないけど、多分宮城とそこまで雰囲気は変わらないはず。いや、分かんね。

 

「日本地図広げられても場所が分からねえ奴も多いだろう。正直行くにはかなり面倒くさい場所だ。一番簡単なルートが東京まで新幹線で出て富山に向かう方法だな。

 何が言いたいかというと、敵はコートを挟んだ対戦校だけじゃねえってことだ。

 知らねえ土地に知らねえ会場だとか長時間の移動、慣れない生活リズム……。いくらこの体育館で強くても本番の会場で実力を発揮できなければ負ける。

 じゃあ何をするか? 〝移動に慣れる〟ことだ。青城戦のバスで影山と猫又が何をしてたのか分かる奴挙手」

 

 青葉城西高校の時……? 移動するときは寝るって決めてるから寝てたはず。あ、そういうことね。

 「何してたっけ?」、「さあ? 席遠かったし」なんて会話が聞えてくる中、最終的にスガ先輩が指名された。

 

「確か2人共寝てました」

「そう。

 北川第一っつう強豪校と千葉県の強豪校出身の2人は遠征で色んな所に行ってるから〝移動中は体力回復に努める〟って教わってんだよ。つまり〝自分のコンディションを整える〟事が出来る。

 その一方で日向はダウンしてたよな」

 

 この場にいる全員が翔陽を見て、翔陽は「すみませんでした!」って情けない悲鳴と共に謝った。

 話に戻る。

 

「強豪校が何で強いのかっていうと、色んな所に行って色んな所と試合をして、大会の雰囲気とか移動に慣れてるからだ。つまり場数を踏むことで〝普段通り〟を出来るように訓練してる。

 2010年度のインターハイなんて沖縄だぞ沖縄。飛行機に乗らねえといけなかった。

 そういうことで、同じ県の学校に手の内をバラさないって事も考えて、今後積極的に他県の学校とも練習試合をしていく。ちなみに次の日曜日に新幹線で福島に行くからな」

「「「新幹線!?」」」「「「福島!?」」」

「そうだ。京都とか大阪、広島、福岡県で開催されうることを考えると、学校のバスよりも慣れると楽な新幹線での移動に慣れないといけない。

 ゴールデンウィークの音駒もそうだ。

 家庭によってはほとんど使わない新幹線を利用する。慣れない宮城県で色んな学校と練習試合をするってな。そういう意味じゃ今のウチは他校よりも数段出遅れてる。

 ま、いきなり全部やろうとすると潰れるから少しずつやっていこう」

「「「はい!」」」

 

 しょうがないんだけど、全国を出て勝ち進むためにはバレーの実力、知識だけじゃなくて経験、大会の雰囲気、他校とのやりとり等々も覚えていくしか無い。はー、大変だ。

 

 

 

 起きてー、朝練行ってー、授業受けてー、放課後練してー、寝るーって日を繰り返すとあっという間に日曜日になった。と言うことで、今日は福島県にある熊山東高校と練習試合だ。

 9時から13時までの午前練習で、学校から市営バスで仙台駅、仙台駅から新幹線で福島駅、福島駅から歩いて10分ほどって簡単そうで実は乗り換えが面倒なルートを通っていく。ちなみに1時間強かかる予定。

 新幹線の移動時間は少ないけど学校からのバスの本数が少なくてちょっと面倒。

 

「バスや新幹線では他のお客さんも一緒に搭乗されていますからね。周りに気を付けるようにお願いします」

「「「はい!」」」

「昔から新幹線に慣れるって名目でジジイが親しくしてた学校だ。俺も行ったことあるし、実力も同じくらい。慣れない移動で疲れると思うけど、今日はそれ込みで経験して欲しい。

 負けていい試合なんかねえけど、あんまり上手くいかない1日だとも思う。まあでも勝つぞ」

「「「はい!」」」

 

 時間はいつもの朝練と同じくらいに集まってこれから学校を出る。個人で持っていくもの、ボールとかボール籠、ビデオカメラ、救急箱と必要なものもちゃんと持ってきてる。

 福島駅で降りる事ってほとんどないからなー。ちょっとワクワク。

 

 

 熊山東高校に到着。至って普通の学校だ。

 ガラガラのバスにまばらな人の自由席、今日が休日でよかったと思う。平日ならもっと大変だっただろうな。

 慣れない移動で体力を消耗したせいで、なんとなく全体的に動きが悪い。首都圏だと電車とバスがメインだけど、こっちの方って保護者の送迎がメインだし。

 

「移動って結構疲れるだろ」

「「「……はい」」」

「なるべく学校のバスとかで行けるようにしたいけど、富山だとか大阪とか広島、福岡に行くことになったら新幹線とか飛行機で移動することになる。こればっかりは少しずつ慣れていくしかない。

 慣れない移動、慣れない会場、慣れない雰囲気。そういったもので実力を発揮できなくて負けるチームを嫌って程見てきた。全国に行くならこういった経験も必要だぞ」

「「「はい!」」」

「よーし、じゃあ行くぞー」

「「「オォーッス!」」」

 

 いざ征かん、体育館へ!

 

 

 熊山東高校と6セットやって、2セット取って烏野に戻ってきた。

 休日だから子連れの家族もいたりと朝行くよりも疲れた気がする。帰ってきたときには翔陽とか田中先輩、ノヤ先輩もぐったりしてた。

 

「おーし、お疲れさん。何かいつもより疲れたろ?」

「「「……はい」」」

「そういうことだ。ホームである自分達の体育館ならそこまで気にならなくても、ちょっと遠征に行くと自分達のペースに乗れない。

 でも、強豪校は自分達のペースに乗れるように場数を踏んで大会に挑んでる。

 学校のバスで送ってくれる武田先生にはきちんとお礼言うんだぞ」

「「「ありがとうございます!」」」

 

 「いえいえ、そんな! 僕にできることはこれくらいで」って俺達の突然のお礼に武田先生が慌てだして、ワチャワチャし始めた。

 

「部活指導にやりがいを持つ教員がいる一方で適当に済ます教員もいんだ。武田先生がバレー部の顧問で良かったよ」

「……もー、烏養君、褒めすぎですよ!」

「いやいや、本当だっつの。

 さてと、じゃあ残った音駒戦と今日の熊山東戦を振り返ろう。視聴覚室行くぞー」

「「「オォーッス」」」

 

 ゾロゾロと視聴覚室まで向かっていく。

 

 

 

 来週から中間テストが始まるけど、申請をすれば最終下校時間までは部活が出来る。これも武田先生のおかげです。ありがたやーありがたやー。俺は別にテスト期間だからって特別勉強する時間を増やしたりするわけじゃ無いけど。だっていつもやってるし。

 って言ったら「なのだよ」って語尾に付けるキャラクターみたいだなって言われた。いや、だからアニメ見ないんだって。でも「なのだよ」君面白そうなのだよ。……言いにくいな。

 

「インターハイ決まったら俺達も月バリに載るんだぞ!」

「勝たねえとなー」

「当たり前だろー?」

 

 そして今日は15日。月刊バリボーの発売日だ。

 烏野は部費で買ってるから、部活が終わって学ランに着替え終わった3年生から順に回し読みしてる。

 

「んぎぎぎぎ! 俺も月バリ見たい!」

「テスト来週からだぞー? ちゃんと勉強しろって。赤点取ったら短縮ですら部活出来なくなるんだから。勉強は義務だぎーむー」

「ぐぎぎ!!」「……うぬん」

 

 今日も相変らず翔陽と影山はヒイヒイ言ってる。

 ……実際の所、授業でもちゃんと回答できる様になってるらしくてこれなら赤点は無いと思う。うんうん、俺とか月島、山口の教え方が良いからだね。

 

「ていうかさ、なんか慣れてるよね、猫又。先生みたい」

「んー? あー、中学の話になっちゃうんだけど、部則で70点未満取ったらお叱り受けたんだよね。顧問が勉強も大事にしろって考えの先生だったから。

 『教え合えば自分の理解も深まるだろ?』ってことで教え合ってた」

「流石強豪校。……しかも70点!? 大変だー。日向なんか無理じゃん」

「なんだと!?」

 

 手を止めるんじゃねーぞー。おらおら。

 月バリを読み終わったらしいキャプテンとスガ先輩がこっちの方に近付いてきてヒソヒソ話し掛けてきた。

 

「……実際の所どうなんだ?」

「赤点は超えると思います。自分が目指してるのは70点ですね」

「そこまでいける?」

「というか、中学の復習メインなのに40点以下ってこれから授業についていけなく無いですか? 本当に留年しそうなんですけど」

「「……確かに」」

 

 中学から高校に上がって、勉強が一気に難しくなるって姉ちゃんと彩音ちゃんも言ってたし、これからどんどん難しくなる。中学の内容も碌に出来なかったらこの先本当にまずい。

 

「げえっ!? ウシワカがジャパン!?」

「「何ですか!?」」

 

 ……あー。まあ、いいか。もう集中できてなかったし。翔陽と影山は〝高校注目選手〟の記事の牛島若利選手のページを見てすげーすげー言いだした。

 

「あっ! イタチヤマのサクサ! とコモリ……? 繋護ー、知ってる?」

 

 んー? キヨ君とモト君?

 翔陽がこっちに月バリを見せてくると、そのページにはキヨ君とモト君の2人が載ってた。前会ったのは去年の12月だったっけ。「早くケータイ持てー」って愚痴られて連絡先だけ渡された。どうしろっちゅうんや。

 

「小学生の時にバレークラブが一緒だった。2年くらい一緒にやってたよ。小4、5って」

「「「何!?」」」

「そんなに驚くことですか?」

「やっぱ小学生の時から上手かったのか?」

 

 思い返すけど、そうでもなかった気がする。俺もそうだし。

 

「身体出来てないからそんなに? やっぱり小5、小6の方が体格良かったし」

「それもそうか」

 

 とは言っても、女子の方が先に成長期を迎える場合が多いから割とコテンパテンにされたような気がする。

 中学になるとネットの高さも変わるし、男子も成長期を迎えるから力関係は逆転すると思うけど。

 

「ほら、もう終わりだ。家帰ってテスト勉強だ。鍵閉めるぞー」

「「「ウィーッス……」」」

 

 各々キャプテンに返事をして帰る準備を進めていく。

 

 

 

 次の日の朝練が終わると、ミーティングでインターハイ予選の組み合わせを知らされた。

 初戦は常波高校、2戦目は伊達工業高校と桜下高校の勝った方、3戦目は1回戦の千川北高校と大岬高校の勝った方とシード校の青葉城西高校が対戦して勝ち上がった方。4戦目以降は他のブロックを勝ち上がった学校って感じだ。ま、やるしか無いね。

 

「公式戦に出る以上どの学校もインターハイ進出をかけて必死に練習してる。俺達がこうしてる間にも他の学校も練習してるって事を忘れるなよ。〝負けに来る〟学校なんてねえからな」

「「「はい!」」」

「宮城からインターハイに出られるのは1校だけだからな。1回負ければ即終了。あと2週間強個人としてもチームとしてもレベルアップしていく」

「「「はい!」」」

「おーし、じゃあ勉強してこい。マジで赤点は辞めろ、マジで。絶対にだぞ!!」

「「「お、おす!」」」

 

 さ、頑張っていきましょー。

 

 

 

 3月の県民大会で負けた伊達工業高校と影山の先輩がいる青葉城西高校と対戦する可能性が高いって知らされてから、3年生の3人と2年生のノヤ先輩、影山がそれぞれの学校にびびってた。そんな中でもテスト勉強と部活に明け暮れて、あっという間に中間テストも終わった。

 中学の復習メインってこともあって全教科95点以上を穫れた。よしよし。この調子で頑張って、推薦取れるようにしていこう。予備校とか塾にかけるお金も減らしていきたいし。つか行かねえ。

 そして、翔陽と影山も赤点を回避した。

 

「繋護! 見てくれよ! 国語なんか65点越えた!」

「俺も! 数学60点とか初めて獲ったんだ!」

「おーし、良くやったなー。これからも勉強していくからなー」

「「えっ」」

 

 何ショック受けてんだ。このボゲェ。日向ボゲェ! 影山ボゲェ!

 

「当たり前だろー? 勉強だってバレーと同じで1日や2日でなんとかなるもんじゃないんだ。毎日10分だけでもやればテスト期間が楽になるんだから。

 ……あ、それとも留年して1つ下とか2つ下のバレー部の後輩から『日向先輩、影山先輩』って呼ばれながら同じ教室で勉強したいのかー?」

「ヤダ!」「ふざけんじゃねえ!」

「だろー? ちなみに16歳から18歳までしか大会に出られないから4年も5年も高校生として大会出られないからなー」

「そうなの!?」「そうなのか!?」「っ!!」

 

 こいつらマジかよ。ってなんか東峰先輩がダメージ受けてるんだけど。なんで?

 

「すみません、東峰先輩。何か気に触ること言っちゃったようです。すみません」

「いや! 大丈夫大丈夫! ほらー、旭も後輩に心配させんじゃねえ!」

「分かってるよスガぁ!」

 

 ……なんだ?

 東峰先輩とスガ先輩がワチャワチャし始めてポカンと見るしかできない。

 

「あー、旭ってよく社会人に間違われるんだよね。強面って言うかさ。

 公式戦とかでよく『烏野のアズマネって5年留年してるらしいぞ』とか言われるんだ」

「大地もやめろー!」

「うるさいぞー、ひげちょこ!」

「髭剃ってくるから!」

「でもツルンツルンの旭さんも変っすよね!」

「変!? 西谷もやめろよー……」

 

 めっちゃ弄られてるんだけど、東峰先輩。

 ……まあ、確かに? 「男子バレー部の東峰先輩って落ち武者みたいだよねー」とかって話し掛けられたことあるけども。でも別に「ざっけんじゃねえぞオラァ!」とか聞いたこともない。口の悪さなら繋心兄ちゃんの方が数倍やばいと思うし。金髪にしたらヤンキーだし。

 事情は分かった。でも大会の登録メンバーってことは出場できる条件は満たしてるってことだし、勝手に言わせておけば良い。わざわざ付き合う必要はない。

 

「そういえば、何のお話だっけ? ……あ、そうだ。着替えの時間とかで少しずつやっていこうな」

「えぇーっ! 何でだよ! テスト終わったばっかじゃん!」

「期末テストは7月。つまりあと1ヶ月ちょっとだ。これから高校の内容に変わっていくんだからもっと難しくなるんだよ。2人とも留年の危機だぞ。月島と山口からも何か言ってやれー」

 

 我関せずって顔をした月島と苦笑してる山口を無理矢理巻き込んでやった。

 

「えー……。まあ、猫又の言うとおりでしょ。ていうか、君らよく烏野にも受かったね。このテストでその点数ってまずいよ」

「月島のマジトーンだ……」「うぬん……」

「毎日風呂上がりとかでやれば良いんだし。な? 日向と影山も頑張ってこう?」

「「山口……!」」

 

 なんかさー、俺と月島が虐めてるみたいじゃん。この感じー。納得いかねー。

 

「ガハハ! 日向、影山! この田中先輩が勉強教えてやるからな!」

「おい田中ー。お前今回のテストで化学41点だっただろー、ギリギリなんだからちゃんと勉強しろー」

「補習受けないんだから良いんだよ!」

 

 田中先輩、ノヤ先輩、翔陽と影山の4人も無事にテストを乗り切ったようで良かった良かった。

 

「お前らもテストの点数で後輩に舐められないようにな」

「「お、おす!」」

 

 キャプテンの瞳孔のハイライトが消えてる……!

 

 

 

 日曜日の夜、彩音ちゃんと電話をしてから勉強をしていると、繋心兄ちゃんが家に来た。家自体すぐ近くにあるから別に不思議でも無い。夜ご飯でも食べに来たのかな?

 と思ったら、違う内容だったっぽい。そのまま祖父ちゃんと話し始める。

 

「そんでジジイ。明後日から放課後来てくれ。体調も問題ねえんだろ?」

「任せろ」

 

 ……おー、これは地獄を見ることになりますねぇ。

 

「おばさん、ジジイ大丈夫なんだよな?」

「うん数値も安定してるし大丈夫。5年前よりも良い感じ。ぶっちゃけ監督復帰できそうよ」

「今は俺が見てんだ。させねえ!」

「奪うなんて言ってねえだろうが繋心!!」

 

 管理栄養士の資格を持った母さんが栄養バランスとかを考えてこの5年間食事をしてたこともあって、烏の方の祖父ちゃん祖母ちゃんも猫の方の祖父ちゃん祖母ちゃんもかなり良い感じらしい。本当に良かった。

 

「ってことだ。最後の追い込み期間だぞ繋護」

「はーい」

 

 残り1週間。出来ることはどんどん増やしていかないと。

 

 

 

 そして迎えた火曜日の放課後。体育館で準備をしていると烏養コーチと烏養元監督がやってきた。2、3年生は盛大にびびり散らかしてて、翔陽と影山は「うぉぉぉ!!」って感じだ。特に影山はめっちゃ興奮してる。

 集合の号令がかかってミーティングが始まった。

 

「えーっと。インターハイ予選までもう1週間を切った。ということで、最後の追い上げだ。プレッシャーを感じて貰うためにもウチのジジイにも来て貰った。緊張感増すだろ?」

「「「……は、はい!」」」

 

 烏養元監督とお遊びじゃ無い練習をするのはすげー久しぶりだ。楽しみだな。

 今度は烏養元監督が話し始めた。

 

「2、3年はちょくちょく顔を合わせたことがあるな。1年は初めまして、5年前以前にここで指導していた烏養一繋だ。

 インハイ予選まではあと1週間ってことで、繋心から頼まれて少し見させて貰うことになった。

 繋心も言ってるだろうけど、3セット目の終盤、【25-24】であと1点取られたら負けるって感覚でボールを追え。目の前の1点を疎かにするチームは負けるぞ」

「「「はい!」」」

 

 そして烏養コーチのターン。

 

「そんないきなりハードな事をして貰うわけじゃねえぞ。怪我をさせたいわけじゃねえからな。ただ、いつも3年にも手伝って貰ってる球出しをジジイにもやってもらって、効率的に時間を使っていく。

 1球でも多く触って公式戦に挑もう」

「「「はい!」」」

「おーし、じゃあアップから。いってこーい」

「「「はい!」」」

 

 キャプテンの「烏野ー! ファイ!!」ってかけ声に返事をしてまずはアップから始める。

 さあ、地獄の始まりだ。

 

 

 『ボールから目を離すな!』とか『今ので負けだぞ! それで納得できんのか!?』とか『ちゃんと声出せ!』とかって烏養元監督の怒声が響きながらも練習を続けて、今日の部活が終わった。

 

「2、3年は去年見たときよりも大分よくなってんな。1年も身体が出来てきて安定してるように見える。が、まだまだ足りねえ。

 1週間で劇的に伸びることはあんましねえだろうから、『絶対コートにボールを落とさない』って気持ちを忘れるな。気持ちで勝っていけよ」

「「「はい!」」」

「水木金と残り3日間こうしてジジイにも見て貰うから最後集中していこう」

「「「はい!」」」

「気を付けー! 礼!」

「「「ありがとうございましたー!!」」」

 

 ツーメンとかスリーメンをいつもより多くやったからしんどい。でも楽しかった。

 

 

 片付けを終えて、部室で着替える。すると先輩達の会話が聞えてきた。主に3年生と田中先輩とノヤ先輩。

 

「……なんか、去年よりも練習について行けるようになってる気がする」

「俺も」「俺も」「俺もっす!」

「いや、もちろん厳しいのは厳しいんだけどさ。足ガクガクだし。でも前より対応できるようになった、のか?」

 

 そりゃあ身体作りをしてきて、スペックが上がったからだと思いまーす。

 最大60の力の人が58とか59でやりくりするのと、最大85の力の人が58とか59でやりくりするのだとやっぱり違いますからねー。

 そんな風に心の中で答えては、着替えを続けていく。

 

「大地さん、多分コーチが身体作りをしてくれてるからだと思いますよ」

「なるほど。そうだな」

「……それにしてもこんなに違うものなんすね」

「ああ。全然違う。疲れにくくなったし、色々と出来るようになった気がするよ」

「だな!」「そっすね!!」

 

 栄養学って本当に大事!!

 

 

 

 練習中、烏養元監督とも相談したらしい烏養コーチにノヤ先輩と一緒に呼ばれて、俺達の起用について説明が入った。

 

「ぶっちゃけ、西谷も猫又もしっかりと役割を果たしてくれるからどうしようか目茶苦茶悩んでる」

「俺もそう思います、コーチ! 繋護上手いっすから!」

「ありがとう御座います!」

「一緒にあいつらのこと支えてやろうな!」

「はい!」

 

 ノヤ先輩と手を組んで決意を固めてると、烏養コーチが苦笑する。

 

「そんで、西谷の方が2、3年全員と打ち解けててやりやすそうだからまずはメインでいく。初っ端から雰囲気を作っていってくれ」

「オーッス!」

 

 まあ想像してた。

 チームはチームなんだけど、やっぱり完全にハマりきってない。もちろん4月当初よりは断然チームとしても仕上がってるんだけど。

 東峰先輩はノヤ先輩が一緒にいた方がリラックス出来てるような気もする。こればっかりは1年の下積みがあるからしょうが無い。

 

「猫又の場合は、苦しい場面での交替を想定してる。『ちょっと嫌な流れだなー、雰囲気変えたいなー』って時だ。

 他には相手が積極的にセッターを狙ってきた際に第二のセッターとして動くときとかな。2人ともいつでも出られるようにしておけよ」

「「はい!」」

「出てない方は相手チームの分析をしてくれ。つまりアナリストだな。

 相手選手の癖とかどこが弱点か、とかな。こっちが有利にいけるように色々と発見してほしい。

 それで烏野を救ってくれ、まだまだ粗が多いチームだから。頼むぞ」

「「はい!」」

 

 「あの13番めっちゃ上手ぇ!」って言われるように頑張って、勝ち抜いていこう。インハイ予選はもうすぐだ。




【登場人物まとめ】
杉本務 1年5組
丸山新一 月島明光の1つ上(88年産まれ?)高校卒業後は仙台大学でバレーを続けた。

熊山東高校 福島県にあるオリジナル高校 モデル校は郡山北工業高校

小ネタ
・月刊バリボーの元ネタである月刊バレーボールは15日発売なので、そちらに合わせています。
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