今回はシリアスに仕上げました。
一つに収まらなかったので分割。
この場に居る大勢の人間が俺を見る、この場に居る大勢の人間がアイツを見る。
カエリエはファティマの妹、つまり女なのだが、彼女は彼と言って差し支えないほどの男装をしている、身長が高く、中性的な顔つき、ファティマに似た紫紺の髪を短く束ね、紳士のように振る舞う。
「男にしたファティマみたいな感じか、ムカつくほどイケメンだな……こんな場所じゃなけりゃ近寄ってじっくり見てみたいね」
この碁盤目状の石舞台はかなり広く、サッカーコートとしても使えそうなほど、だが魔法師同士の戦いはこれでも狭い方だと聞く、俗に大魔法、と呼ばれるものはこの範囲に収めるのも困難だとか、今は関係ないが魔法というのはそれだけ俺の常識の外にある。
方や錬金術師、方や一位魔法師、周囲の人間にとってどちらが勝つなど語るまでもない、と言うのは雰囲気からでも分かる。
錬金術師は戦えない、魔法がまともに使えない、魔法師のなり損ない、錬金術はあらゆる魔法より下等である。
一度は俺が覆した常識だが、しかし長い時間を掛けて染み込んだ認識は簡単に変わらない、常識と言うのは簡単に変わらないから常識だ。
常識と言う概念を知識の平均値と捉えるなら、俺が一人、たった一度飛び出した所で、平均は上がらないだろう、しかし何度も極端な値を叩き出せば話は変わる。
知っているかな、俺の法術窮理院での目標は『錬金術の発展』そしてそれは『再評価』に繋がるはずだ、俺は地位向上などとは言わない。
ただ錬金術を見直させ、蔑むものが一体なんなのか考えさせる、その上でくだらない手慰みだと言うならば受け入れよう、褒めるなら勝手に褒めろ、感謝も謝罪も俺ではなく蔑んできたすべての錬金術師へさせてやるさ。
「貴様は錬金術師だそうだな、ファティマ姉様が嫌悪する者がなぜ姉様と共にある? 許せないなんて話ではない、
「怖い妹を持って姉も大変だな、君のお姉様には俺の腕と引き換えに、改心させただけだが……どうだろうな、錬金術自体はまだ下に見てるかもな」
ファティマとは和解しただけで錬金術自体を見直させた訳では無いからな、それは今からになるだろうし、今のファティマは随分としおらしくなったから、もうすでに見直してくれてもいそうだが、やはりアイツには本心から参ったと言わせてみたいもんだ。
「その話がどこまで本当か怪しいものだね、隻腕の英雄と持て囃されているのも、そもそも姉様が貴様を死地へ追い込んだと言う話も、何かもでっち上げ、ご自慢の錬金術とやらで作った
まぁ随分と見たいものを見ている、いや、与えられた情報から理想を描き出す想像力はむしろ評価したいな。
錬金術や科学のような知識の探求は、まず好奇心から始まり、次に想像力へと繋がり、そして成果へ繋げる努力へと辿り着く。
辻褄合わせだけ上手くても、それでは駄目だが。
「へぇ凄い想像力だ、錬金術向いてるよ」
「……首を跳ね、屍を晒してやる」
「ゲルズ先生が居るのにぃ?」
「ぶち殺す」
せっかく褒めたのに、気に入らないのか、俺たちって気が合わないな、俺が煽ったせいか、くはは。
かの人物、カエリエ・ザン・ゼレティアは錬金術を嫌悪する姉と同じだ、以前のファティマを更に酷くして再現したらこうなるだろう。
正義感の暴走と言うか、価値観の拡大解釈と言うか、王族という立場は青少年には少し相応しくないみたいだな。
こうなって来るとゼレティア8世王の教育が気になってくるが、家庭の事情なんてどうでもいい。
「……ふぅ、血が昇りすぎた。……おや? 貴様は隻腕だった筈だが、
「倫理観何処に置いてきたんだ、母親の中か? コイツはお前の為に用意した特別製だ、転生するくらい痛いぞ、これで忘れ物を取りに行かせてやるよ」
「ふふ、そろそろ……勝負と行こう、お互い殺りたくてウズウズしてきただろう?」
「お前だけだろ……とは、言えねぇな」
カエリエが静かになる、呼応して俺も静かになる、サッカーコート並みのだだっ広さを持つ石舞台が、それだけで静けさに包まれる。
石舞台へゲルズ先生が上がってくる、あの孫化計画とか言うふざけた人間には、今は見えないほど真剣な面持ちで、腕を振り上げた。
「『我が命じる、汝らの魔と血と魂をこの手に収める、命はこの手にあると知れ』」
事前に説明されていたが気分が悪い魔法だな。
これは契約魔法、それも強制効果のあるものだ、内容は第三者に命を預けることでお互いに殺せないようにし、更に契約者に対する緊急停止機能付きの魔法だ、肉体は保護されないので重傷もあり得るが、回復魔法で回復できる程度に抑えられる。
ゲルズ先生はそれが終わると手のうちにある見えないものを確かめつつ、開始の号令を下す。
「双方、構え、『
ゲルズ先生はその場からすぐに消える、透明化と非実体化を魔法で成していると聞いている。
「ファティマ姉様を返してもらうぞ!」
俺が動くより早くカエリエは大の字に両手を広げ、掌中に無数の小さい氷を作り出す、空気が一瞬にして凍るような冷気が漂い、すぐさま発射される。
「無詠唱ってやつか」
かなりの速度を持って発射された氷を真横へと走ることで回避する、その背後で着弾した場所に大きな氷塊が出来上がっていく、なるほど見た目は小さいが当たれば即死だ。
避けた先へともうすでに何十発も撃ち込まれる、まずは距離を詰めたい、右腕を使って氷を弾く。
「ふ、なにか仕込んでいるだろうと思ったさ、それごと凍れ」
彼女が石を投げるように氷の礫をなげ、すぐに指をパチンと鳴らせば礫はキラリと光る霧状に変化し空気を冷やしながら広がる。
それを何度も、俺の接近を跳ね除けながら、繰り返し繰り返しやると、石舞台はアイスリンクに変化して、しんしんと雪降る場となった。
「さぁ、芯から凍てついてくれ、永久凍結なら、貴様を殺したも同然だ」
「…………優秀なのが腹立つな」
足場が不安定だ、しかも粗がない鏡面のような凍りっぷりに感心する、しかし、こちらは攻め手を失ってない、あきらめるなんてことも無い。
僅かに右腕に力を込める。
「ん? ……その腕、魔力を吸うのか」
「いいだろ?」
「自分の腕を魔法具にしたのか、イかれてるな貴様」
「そう言うな、魔法師と戦うための仕方ない犠牲だ」
掌を見せるように前へ突き出し、姿勢は左半身を後ろにずらす、腕に魔力が漲る感覚を覚える、この腕は特別製だ、どこがどう特別なのか、三日三晩教えてやろうか? 決着をつけて後にな。
「コイツは『
「くく、やってみなよ……私がその可能性とやらをここで凍らせてあげよう」
10、20、30、飛んで100、カエリエの頭上に広がる氷の槍たちは、無造作に作られた返しと、いびつな棘を纏い、貫いたものを確実に殺すために発射された。
雨のように槍が降る、雪のように氷が降る。
だが、もう腕は起動した。動けば決まる、その前に、今日に至るまでを振り返る、交わした言葉、交わした約束を。
◆
カエリエ・ザン・ゼレティア、ファティマの妹、俺は彼女を知らないが、彼女は俺を知っている。
しかも『
拒否も出来たらしいが、俺はそれを知らず、勝負を受けることにした。
対戦相手の事はやはり姉であるファティマに聞くのが手っ取り早いがそれは叶わなかった。
『魔法決闘』の幾つかのルールに引っかかるらしいのだ、そもそもこの『魔法決闘』自体は法術窮理院が認めるもので、その法的効力は王の発言と同等である。
で、話を出来ない一番の理由はファティマが魔法決闘によって左右される立場であること、なのだとか。
魔法決闘を無視して彼女を連れ出したり関わったりするのは、公平ではなく、更に対戦相手に意図的な働きかけをさせないため、だとか。
魔法決闘とは、とにかく公平にした力尽くの裁判、といった感想、やろうと思えば爵位もぶんどれるらしい、良いのかそれで。
魔法決闘の全てをセロビリア先生から聞かされた時、かなり面倒なことに巻き込まれと思った。
挑まれた側は最長一年、最短一日の準備期間が与えられる、なので俺はとりあえず1週間をもらった、1週間あれば錬金術師には何でもできる。
ひとまず作戦会議を開くため、セロビリア先生に教室を借りてタリオを呼んだ、タリオガールズが怖い、紹介は魔法決闘が終わってからということでタリオに手を打ってもらった。
今回は『
「どうする? 普通に勝てないと思うんだけど」
「隻腕の英雄アキールさんなら何とかしそうですけど……そうですね、噂では一位魔法師で、氷の使い手……しかも天才的な嗜虐思考を持つとか、戦った相手は皆氷像にされてるらしいですよ」
「ホントに王族か?」
「ファティマさんとかそうだったんですけど」
「あ〜……忘れてた」
ゼレティア王家問題児多すぎだろ。
「勝ち筋ってなんだろうな、普通にカチカチになって負けそうだ」
「炎系魔法使えますか?」
「錬金術オンリーだ」
「流石の英雄様! ……でも今回は無茶ですよ! ……それにその、腕も無いんじゃ……」
「確かに……」
「錬金術はそもそも戦闘向けじゃないですから……アキールさんやっぱおかしいですね!」
嫌味にしか聞こえないタイミングだけど、まぁタリオだから許すか。
ここで見に徹していたセロビリア先生が入ってる。
「ねぇねぇアキール君、魔法具とか作れる?」
「魔法具ですか? ……まぁ、やろうと思えば? でもちゃんとしたものは作ったことないですね」
「実はね、魔法決闘って魔法具の持ち込みはオッケーなんだよ、腕を魔法具にしちゃえばいろいろ解決するよ?」
なるほど! その手が……その手を作るところからスタートなんですね!
「……先生って天才?」
「天才ですよ?」
「あの……錬金術師って倫理観ないと上達しない感じですか? なんでただの義腕にしないんですか?」
「「そっちのほうが面白いから? /だろ?」」
「僕、錬金術師になれるのかな……」
先生、やはりセロビリア先生も錬金術師だ、探求者でありロマンチストなんだ。
そう、科学は理屈を求めるが、科学者はロマンチストなんだ、新しい理屈を探して回るロマンチスト。
早速先生は素材をどっさりと教室に持ってきてくれた、1週間で魔法具の義手を仕上げるのはいい勉強になるね、なんていいながら。
「タリオ君は私と一緒に見学、恐らく彼は凄いものを作るよ」
「はい!」
はは、期待大だな、答えるようなものを作らないとな、さて、だいたい使いたいものは揃っている。
金属、木材、宝石、薬品、などなど……種類は多い。
腕のコンセプトはもう決まっている、今後魔法師や魔法を使う魔物との戦いに備えたいわば『アンチ魔法』な腕を作る。
今回ばかりは五芒星ではなく六芒星の錬成陣を用いて、最高の腕にするのだ。
腕のベースは金属、銅のようなモノと、金のようなモノ、どちらも魔力伝導率、保持力がいいと聞いたことがある。
腕を作るにあって柔らかい金属を使うことは決まっていたので迷いながら採用、色は魔力伝導率上げに銀メッキするので銀色になる予定。
アガートラム! ってね。
さっと二つを錬成陣に投げ込んで、ざっくりと腕の形に錬成する、六芒星ならば腕をコピーしたように作ることも可能だ。
「ヒュー、結構筋肉ついてる」
「うわぁ……傷口が……」
「あんま見ると気持ち悪くなるぞタリオ」
服を脱ぎ、肩口に腕を引っ付け、錬成して引っ付ける、肉と金属が融着する光景は中々凄い、後これ軽く生物錬金って禁忌なんだが、先生止めなかったな……。
「重……」
この段階でまだ腕の形をしているだけで動かないし、神経は繋がってないし、腕が重すぎて重心が傾く、なので先に重さをどうにかする。
六芒星の周りに更に六芒星を周りに描く、『多重錬成陣』の六芒星バージョンだ、3重なのでかなり強力で、かなり魔力を持っていかれるが、六芒星にすると意外と軽い。
そして、腕に施すのは魔力で浮遊する性質、軽くする方法は以前ベヒモス持って帰る時に質量を減らす方向で考えていたが、そんなことするより物自体に浮いてもらうほうがコストが安いし、質量分のパワーを得られる。
目論見は成功した。
次に、神経をつなぐ、これは錬成陣を描き直して、改めて3重錬成陣にして、元々あった神経を意識するように魔力に指向性を持たせて何度か錬成する、一度で成功しなくとも何回か意識を変えながらやると、神経らしきモノが増えて無事動くようになった、ぎこち無い所もあるが、錬成しながら動かしながら調整すると誤差は修整できた。
久しぶりの右腕に嬉しくなる、これで思う存分に飯が食える。
「よし、いいな」
「ほー……?」
「あれはどう言う錬成陣なんです先生?」
「私も分かんないな……?」
「神経を繋いだんですよ、ほら、指先まで自由に動く」
「え……魔力制御じゃなくて物理的に繋いだの?! 変態!」
……確かに魔力で腕と思考を同期させるほうがいいか、ま、繋いだ方がレスポンスいいけどね。
さて、ここからが本題で、この腕に性質を追加するとしよう。
錬金術は性質を付与することに長ける、付与魔法と言うのがあるんだが、あっちは機能を付与することに長ける。
錬金術はモノ自体の魔法、つまりモノの本質を作り変えるんだ、付与魔法は追加することがメインだから減算除算が出来ないと考えてくれればいい。
で、追加する性質を駆使すれば回路のようなものを作ることも可能で簡単に言えば機械化できる、魔法オンリーの付与魔法のほうが作業は早いんだがね、魔法無効化とかあると使えなくなるらしいから、そういうのに頼らず錬金術でモノ自体にそういう性質を持たせると無効化されないとか、何かの本で読んだ、カマルの蔵書だったかな。
色々と弄くった結果、魔力を吸い取り蓄積し、任意の形で放出する腕が出来上がった。
今の俺にできる最高の腕だ、誰にだって負けないだろう、最悪腕だけ残るかも知れないが。
これでも課題はある、物理的な耐久力が元の金属並みと言う事、魔力伝導率100%ではないのでロスがあること。
耐久力は魔力と錬金術でカバーできるとはいえ一気壊されるとどうしょうもない、魔力伝導率は高いほど吸収放出の効率が上がる。
「ふむふむ……」
「……凄い、凄いぞアキール君! ……六芒星の錬成陣はまさか固有魔法かな?」
「……分かんないですけど、六芒星だと物凄く調子いいですね、ミスもないし、完璧に仕上がる」
「やっぱり固有魔法だ、その人にしか使えないものだよ、大事にするんだね」
結構悩んでた六芒星の秘密が、俺にしか使えない魔法だというのがサラリと明かされたんだが?
こんな感じてゆるゆると腕を作ったので一日、この後調整に次ぐ調整で魔法決闘前日まで掛かったが、腕調整デスマーチを乗り越えて俺は完成させた。
唯一無二の魔法具にして、使えば終わる、そんな腕が。