錬金術師、ブチギレる。   作:テムテムLvMAX

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 ファティマ視点が入ります。

あとエセ科学ね!ファンタジーということで一つ許してね。


11話 錬金術師、戦いを超えて。後編

 コロシアム、その来賓用観客席、ゆったりとしたスペースを確保してあるここには、私と、ゲルズ先生と、セロビリア先生の三人が……いた。

 

 はて、ゲルズ先生は審判でしたよね?

 

「ゲルズ先生、審判は?」

「むぉ? 分身がちゃーんとあそこにおるじゃろ、邪魔にならない様に魔法で隠しておる、合理的にサボったんじゃ」

「あはは、流石御大! よっ魔大公! 人類最強!」

「セロビリア、お前さん変な方向に吹っ切れとりゃせんか……?」

「え? あー、そうかもね、だって振って湧いたように固有魔法持ちの錬金術師が来たんだもん、そして今、あそこで戦ってる、これが狂わずにいられるかっての! 興奮して止まらねぇ〜っ!」

「自覚あるんですね……」

 

 

 セロビリア先生の指さす方に、我が妹(カエリエ)と死闘を演じる我が本体(アキール)がいる。

 彼は戦いになると性格が変わるようね、雨や嵐やと振り注ぐ氷の弾幕のなかでも、笑っている、楽しんでいる、自信を失わず反骨心にあふれている。

 

 

「アキール、突如として現れた錬金術師の希望の星……いやはや、なんとも……ファティマや、お前さんのお父様は何か言っておったか?」

「さぁて、私は追放の身、絶縁されて久しく、忘れてしまいましたわ」

「狸親父っぷりは娘にも遺伝しておるのか、アヤツが何も言わんわけないじゃろ」

「え? 何? 意味深な話? 聞いていい奴?」

「お前も一応担任じゃし、何より薄々気がついておろう、この国の錬金術の扱いの悪さ、その本来の意味、そして彼の存在が辿り着く所をな?」

「うわ、やっぱり意味深なやつだった……分かんないよ? 私分かんないけど?」

「それよりも試合に、いえ、決闘でしたね、注目なさった方がよろしいかと」

 

 

 カエリエが本気の目をしている、100を超す氷の槍が彼へと殺到させて飽和攻撃をしかけるが、だが彼はそれに臆することなくその右腕を差し出して、やはり笑う。

 セロビリア先生は興奮を隠さずにその様子を見たままに、口に出していく、まるで期待されていた結果を超えてくるような実験を見る学者のような目で。

 

 

「ひゃー! 一位魔法師の魔法を真正面から押さえ込んでる!」

「ほぉ〜やるもんじゃな、『属性魔法』の氷をものともしないとはのぉ」

「魔法から生まれたものは魔法でのみ干渉できる、だけどアレはそうじゃない……何あれ?」

「そうじゃなぁ……あの腕の機能は魔力の吸収、にしては機能がどの魔法具より……下手すれば国宝のアレより酷いんじゃが……触れる前から魔法も分解しておらんか?」

 

 

 氷の槍が触れる前から削り取られて形を無くして彼に届くことはない、まるで空間から魔力が消えていくような、魔法師からしたら恐怖でしかない。

 あまりにも可哀想になってカエリエの声に耳を傾けると案の定彼女は恐れを口にしていた。

 

 

「馬鹿な……あり得ない……何なのだ! それは!?」

「馬鹿には見えない盾だ」

「いい加減にしろ!」

「俺には見える、つまりお前は俺より馬鹿」

「〜〜ッ!!! 貴様が死んでもあの世でまた殺す!」

 

 

 え? 性格変わりすぎじゃない我が本体(アキール)。

 

 いや、今はあの異常な吸収力の秘密が知りたい、何か知っているだろうセロビリア先生が得意げに話したそうにするので、これ幸いとゲルズ先生共々彼女にご教授いただく。

 

 

「セロビリア先生、わかるなら教えてくれないかしら」

「ふふん! 説明しよう! 前提としてあの腕は彼の錬金術によって作られた意味がわかんないくらい性能がいい魔法具だよ、私が知ってるのは調整前の状態だけどね、見た限り今のあの腕は……」

 

 

 と、言いながら、手を日差しにして遠くを見つめるようにアキールをみる、合点がいったようにほぉと声を漏らした。

 

 

「あの異常な吸収力の要因は腕そのものの吸収力に加えて……魔法自体を錬成してるってことかな、何食ってそんなこと思いついたのかな」

「なんかものすごく意味のわからない事を言われたような気がするんじゃが?」

 

 

 ……なんだろう、この話を聞いてしまったら頭が痛くなる気がする。

 

「錬成対象はあの氷と腕も含まれてる? 魔法を魔力に還元する、腕に魔力を追加する、って二段の処理をしてる、よく見れば空間中に魔力で描かれた錬成陣が重なって浮いているのが見えるよ、アレも腕に仕込んだ機能の一つかもね……完全に魔法殺しに来てて震えるよ……」

「他者の魔法を自らの魔力へ還元じゃと? レベルの高い魔法師ほど魔力には意思が乗ることは知っておろう、それが魔法に強弱を付け、他の魔力と混ざらないようにして、指向性を持たせるのじゃぞ、それを……無視か、しかも錬金術でか……錬金術ってモノに対する魔法じゃろ、魔法に対して無力のはずじゃろ」

「魔法に干渉できるのは魔法のみ、と言う原理と矛盾しないのだけれどね、錬金術もまた魔法だから」

「錬金術側に矛盾があるのぉ……魔法をモノと見なせるような、そんななにかがあるのか? ……なにを錬成しておるんじゃ?」

 

 

 その前提がある、いくら氷だと言っても魔法は魔法、自然の氷ではない以上錬金術の効果範囲外、では、一体なにを錬成しているのか、常識的に魔力そのものはモ(・)ノ(・)で(・)は(・)な(・)い(・)し。

 これに気がついているのは、この会場でも私たち三人だけ、特にセロビリア先生は錬金術分野のエキスパート、驚きは私たち以上のはずなのに、顔が歪むほど、笑っている

 

「彼には魔力がどう見えているんだろう、錬金術はモノにしか使えない魔法なのに、でも現に魔法すら対象に含めてる……何あれ、何あれ……っ!!」

 

 

 彼の銀腕が触れる空間が今度は氷の槍を留めている、ピタリとその場へ静止させている、何も魔法の分解、魔力の吸収だけでなく、停止もできるのね、その光景に思わず私の口はたっぷりと息を吐き出した。

 攻撃魔法をものともしない勇敢さに? 常識はずれの錬金術に? いいえ、そうではなくて、これこそ──

 

 ──王家に語り継がれた錬金術の真理に至る者の姿なのだと納得した。

 

 彼が留めた氷の槍はカエリエの制御を離れて、その矛先を彼女に向けた、そして100を超す氷の槍は主人を変えて襲いかかる、これも錬金術が使われているとセロビリア先生は見ている。

 とは言え元の主人にとって氷は自分の体のようなもの、カエリエは難なく相殺し、意趣返しに怒り心頭になる余裕がある。

 

 そこからは乱射とそれを跳ね返すラリーが始まる、打ち出しては跳ね返し、打ち出しては跳ね返し、互いに場の魔力を奪い合い、見えない魔力支配合戦も始まる。

 

 恐らく彼は気が付いていない、自分が一体何をしているのか、広く知られた錬金術は彼が思う程万能ではない、彼は自分が錬金術と思い込んだ何かを、涼しい顔をして形にしている、彼の周りもただの錬金術だと思っているからなにも言わない。

 

 きっと彼は「錬金術は元々ここまで出来た」と言うだろう、確かにそう、しかしそこまで出来ない様に枷が掛けられている、その枷があるからこそ誰にでも使える、いわば画一的な枠のように機能しているもの、倫理観とはまた違う、もっと上位の存在が仕掛けた枷。

 その枷を踏み越え、全てを自分の感覚に落とし込み、理論に基づいて創り上げる、自由に創るとはつまり神の創造の御業に手を掛けたことに他ならない。

 

 そもそも、金を作るわけでもないのに錬金術と名前がつけられたのは広め残す為の戦略、古い名前は王家のみが知り、その使い手をずっと探していた。

 

 彼こそ、始まりの王の技を持つ者、私はそんな彼の右腕となったのは、偶然ではない。

 お父様、私は、これで良いのです、これこそ王家の務めというものでしょう。

 

 

「厄介な娘に育ったもんじゃ、アレを見て〝正解〟だなんて考えておらんか?」

「巷では問題児だの王族の面汚しだの言われていますからね、拾ってくれた人が強いほうが頼りがいがありますわよね?」

「ますます父親に似よるな……」

 

 

 あら、ゲルズ先生は渋い顔をしてしまわれた、私の愛想笑いは練習が必要のようね。

 

 

「……錬金術ってそんな秘密の多い魔法だっけ、アレは彼がおかしいだけなような?」

「そもそも人間の王の作った魔法と言うだけで大ありじゃ、本来なら魔法は人間の手で作るなど不可能だったんじゃからの」

「あ、異種族の前で錬金術使う時物凄くキレるのそれが理由だったり? 人間嫌いじゃんあの人たち」

「と言うよりも、神が身近な存在には許せないじゃろうな」

「また意味深なこと言ってる!」

「ほほほ、年を経るごとに口数だけ増えての〜、内容まで保証出来んの〜」

「このロクデナシィ……!」

 

 

 セロビリア先生が苦虫を噛み潰したような顔でゲルズ先生を睨む、そのお方、先々代の王の頃からそんな感じらしいですね、もう諦めになったほうがよろしいかと。

 王国の生き字引、魔大公ゲルズ、今こうして柔和でおどけた翁を装っているぐらいが丁度よいのでしょう。

 

 

「さてと、お話もそこそこにして、アキール君を応援しようかな、頑張れアキール君! 行け! 刺せ! もげーッ!」

「一応、あの子の姉なんですけど?」

「……行けーっ! カエリエ王女! もげーっ! 腕狙え腕ー! 腕なくなったらただの雑魚だーッ!」

「こわ……教え子じゃろ……」

 

 

 倫理観を無くしてからが本番らしいですわよ、錬金術師って。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

 何か、とてつもなく侮辱されてる気がする。

 

 

「お前か!」

「何がだ!」

 

 

 違うみたいだな……。

 

 

 現在、氷の槍が毎秒100単位で飛んでくる豪槍地帯に踏みとどまっている、冗談は抜きにしてカエリエの氷の槍が途切れない弾幕になって俺を押さえつけている。

 

 

「いくら魔法が吸収出来ようがその限界はあるだろう? また腕を壊してやろう」

 

 

 賢い、容量限界を想定している、一位魔法師の魔力を全部この腕に納められる訳では無いのは、確かにそうだ。

 

 その限界はもうすぐそこに来ているのも事実、この腕に色々と仕込んだ結果魔力バカ食い腕になったが、この猛攻に流石に収支が上回ってる、とは言え君は俺に致命打が与えられないじゃないか? 。

 

 錬金術を使った魔法自体の錬成は大成功、1週間と言う期間で腕自体に機能として持たせた。

 魔法は魔法でのみ干渉できる、という原則を知った俺は錬成陣をフィルターに使うのは成功すると踏んだ、成功した、次に課題だったのは魔法の還元だった。

 

 結論から言うと、魔法そのものを錬金術の対象に出来ないのは一時的な魔力の集合体だからだ、物理的な結束が弱くて状態が不安定だから錬成すると不成立に終わる、と言うのが出来ないという言葉の正体だ。

 仮に安定した魔力の結晶と言うのがあれば錬成可能だろう。

 

 それに加えて、意識が乗る事で他者に使えない魔力、これを意識下魔力と仮に呼ぶ、他者の意識下魔力で錬成するとゲーム機でCD再生みたいな事をさせられてる気分になる。

 

 だが、俺は閃いた、魔法を構成するのは魔力、そして魔力の正体は何か……これを追求することにした、魔法が駄目なら魔力そのものをターゲットにする、何処から一つと見るか、という話だ。

 

 やってることはモノの構成を知ろうとした前世の錬金術と同じ道程だ、魔力を小さく小さく小さくして最後に残ったモノを見る……と言うのは設備的に無理、電子顕微鏡とか無いからね、用意するにしても1週間ではまず無理だ。

 

 なので、俺は魔力が元素であることを仮定し、更に、つまり物理的なものである証明をすることにした、デスマ中に三徹したが……ま、予想の通り魔力は元素だった、想定よりもずっとヤバいやつだが。

 

 因みに確かめた方法だが、仮に元素、物質的なものならある程度密度があれば固体になるまで圧縮すればいいだろうと思って、錬成陣を用いて空間中の魔力を三日三晩圧縮して集め続けた、三日三晩やってちょっぴりの雫ができる程度だが……。

 

 とても青白くて強い光を放ったのである、魔力だけ圧縮したのにだ、こわひ。

 

 怖かった、死んだかと思った。

 

 だが、助かった、魔力が何にでもなる性質と、精神感応性があるお陰で事故にはならなかった、物理的なものである証明も出来たことになるかな、魔力って放射性物質だったりしないかと不安になったが……。

 

 それはそれとして、錬金術は魔力を錬成可能という結論に至る。

 え? 猪討伐の時に足りない水素を魔力で補ったろって? あれば水素に魔力をくっつけるような物、つまりモノを増幅する考え方だった。

 だが今回のは魔法という現象の核になる魔力という物質オンリー、それだけで錬成可能なのかを確かめたかった、魔力が物質でない可能性もあったわけだ、磁力みたいにな。

 

 

 そろそろ努力の振り返りをやめて決着を付ける為に動き出すか、魔力の貯蓄も十分出来ている。

 一位魔法師の魔力を十分溜め込んだこの腕はまさに一撃必殺の威力を見せてくれるだろう。

 

 カエリエもそろそろ可哀想になってきたからな。

 

 

「おい……貴様、なぜ限界が来ない?」

「そもそも限界が来れば安全弁が働いて、余分な魔力は排出されるようにしているが? アホか君、だから馬鹿には見えない盾が見えないんだよ」

「な、ぁ、なぁ……! 貴様、貴様、貴様……!」

 

 

 一気に肌に触れる魔力が増えた、カエリエの怒りが魔力を増幅した、精神感応性がある元素だからその理屈はある意味合っているな、つまり強い感情は一時的強化を可能にすると……不味くなってきたな。

 

 数百の氷の槍は、毎秒数千の氷の粒に替わり俺の頭上からジャンジャンバリバリ銃弾のように振り注ぐ、大当たりにしては数が多いが、それもまた魔力を吸い取ることで無効化出来る、しかしそれと並行してアイツは遂に詠唱を始めた。

 

 阻止しなければまずい、直感はそう言ってるがこの氷の銃弾がこの防御を超えてきそうになっている、吸収スピートが追いつかなくなってきた。

 

 

「『天上の神に奉る、右手に凍つく心、左手に結する心、我が捧げし供物を糧に、凍てつく塔で天地を結んだ怒りの日の再演を』!」

 

 

 聞いたことがない詠唱が完成してしまった。

 

 

「大魔法だと!?」

「ま、まずい! アレが使えるってことは特位並みだぞ!」

「逃げろ! 死ぬぞ!」

「ど、どこへ行けって言うのよ!? アレ見てみなさいよ! コロシアム全体が凍り始めてるのよ!?」

 

 

 聞こえてくるのは怒号、悲鳴、叫声、そのどれもが自分の命を守ろうとして逃げ惑う人の声、観客席をチラリと見れば、行き場を失ったアリのように迷い、ぶつかり、殺到する人だかりが見える、コロシアムの至るところが氷漬けになっていく。

 

 完成した詠唱は、いわゆる大魔法らしいな、ああ確かに大魔法。

 

 

 空が見えなくなるほど巨大な、長大な、氷の塔、天上の神が怒りに任せて空から投げてきたと思わせるほど高く大きい塔が、全て氷によって成形され、鋭く尖った塔頂部を俺へと向けて落ちて来る、凄まじい速さで迫ってくる。

 逃げるなど無理、サッカーコート並みの広さがあった石舞台も、それを内包したコロシアムも、すでに完全に氷漬け、俺はアレと向き合うことを強制されている。

 

 

「大魔法『天を結ぶ氷の逆さ塔(アイシクルバベル)』」

 

 

 名前があるのか、いいね、名前。

 

 

「……怖くはない、対処可能だ、相変わらず冷えてるな俺、あの塔より冷えてるよ、いつかファティマに言われたな、『いつでも切り捨てられそう』って……当たってるなぁアレ」

 

 

 ……短い付き合いだった、さようなら、俺の右腕。

 

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 

 右腕の神経接続を解除、更に安全弁を停止し魔力を限界まで蓄積、同時に右腕を切除、左手でそれを空へ投げ捨てる、錬成陣を3重で起動し全部を魔力圧縮で動作させる、実験の日のように。

 

 タイマーは5秒、俺は全力で逃げた。

 

 

「逃げた……いや、貴様っ?!」

「俺は、太陽を盗んだぞ!」

 

 

 瞬間、何もかも吹っ飛んだ。

 

 

 

 ──そして世界は青白く染まった

 

 

 

 

 




 おかしいな……こんな試合になるはずじゃ……
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