俺は、俺は……、俺は誰だっけ……俺、俺は……? 俺。
「いた……い……」
「起きた? 大馬鹿者」
「それはないぜ……君……あ、誰だっけ」
「やっぱり軽く記憶障害出てるわね、貴方はアキール、私はファティマ、ここは法術窮理院の保健室」
アキール、俺はアキール、彼女はファティマ、ファティマ。
ああそうか、俺はあの後気を失ったんだ、自爆覚悟の攻撃で、その後どうなったんだ。
「あの後、どうなった?」
「一応ゲルズ先生の契約が効いていて、コロシアムの保護魔法が仕事して、誰も死者は出てないわ、けれど近年稀に見る馬鹿の2人が加減なしに魔法を使ったせいで、コロシアムは大破したし決闘は引き分けに終わったのよ」
「そうか……引き分けか……もう一回やるのか?」
「馬鹿、やらせるわけないでしょ、死にかけたくせに元気ね」
死にかけた? そんな感じはないがな、体は正常に動くし、痛みはあるけど欠損はないし、右腕はまた新しく作ればいい。
そんな風に考えているのが読まれたらしくファティマに頭を叩かれた、そこそこ痛い。
「いたッ、病人だぞ、見てみろこの全身包帯マンの姿を……で、いつまで病人らしく養生してたらいい?」
「医師によれば早くて一ヶ月、魔法で治せる部分は治したから後は精神と体力を戻すだけよ」
「長いな、腕を作り直したいし、『
さっさと退院してやりたい事をやる。
立ち上がろうして置いたその手をファティマにつかまれた。
「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!」
「なんだよ」
「冷静さがないの気がついてる?」
「ああ……そう、だな…………なんか、まだ精神が落ち着かない感じがあるな」
「後遺症ね、長い緊張状態からいきなり気絶したからよ、寝てれば時間とともに治るわ」
「はぁ……なら、寝てよう、仕方ない、その前に俺の倫理観と一緒に吹き飛んだ妹さんはどうなってる? 重症か?」
「貴方が一番の重症よ、彼女はピンピンしてるわ」
不幸中の幸いだな。
寝てる間は暇だな、新しい腕の設計でもしてればいいか、こうなると左腕も何か欲しくなるな、右腕投げ捨てても左腕で戦えるようになればもっと安全だし、そうすると必要なのはガントレットか? いや腕時計型にするのも──
「おとなしく寝てなさいよ?」
「……うす」
「じゃあね、私はカエリエ……妹の見舞いに行ってくる」
「何処か悪いのか、重症じゃないのに」
「肉体的には軽視よ、でも心理面はもう二度と立ち直れないかもしれない位重症も重症」
「……そんなに? ……俺も行ったほうがいいか?」
「今度こそ決着付くわよ」
「……あーい、おとなしくしてます」
ファティマが保健室から出ていくと入れ替わりでセロビリア先生が入室してくる、後ろにはタリオもついてきていた。
ちらりと見えたタリオガールズの視線が怖かった、軽いホラーだよ。
「あ! 起きてますね、大丈夫ですかアキールさん?」
「まぁ、平気だ」
「派手にやったねぇ……それに、大魔法に対して相討ちに持っていくあの最後の技、技? なにあれ? 教えてよ……ねぇねぇ……?」
「セロビリア先生、アキールさんはまだ目覚めたばかりですよ!?」
俺の寝るベッドに座り込み顔を近づける彼女は、目を恐ろしく見開いて、見つめると吸い込まれそうになる、倫理観と常識を置いてきた目ではなかろうか。
答えに困るモノを、どう答えようかと悩む、恐らく原理的にはかの忌まわしき爆弾だが、兵器にされても困るし詳しい説明はしないほうがいい、だろう。
いくら魔力由来で放射されたものが端から魔力へ変わっていくとしても、瞬間的にはその様な性質を持っていることに他ならないし。
なんでそんな事分かるのかって? 魔力が精神感応性の物質だから状態を把握出来るんだ、この世界では人間の感覚が精密機器より鋭いらしいね。
「アレは……強い爆弾みたいなものです」
「魔力を火薬代わりに?」
「腕と、そこに溜まった魔力を、瞬間的に熱を放つ物体へ錬成したんですよ、あるでしょ発熱する金属、あの魔法にも勝てるだろうと思って」
「……ふぅん……確かに錬成陣の範疇で、操作できるね、あの溜まりに溜まった魔力を全部熱としてにしてはって感じだけど……、コロシアムの石舞台が一部ガラスになりかけてたのはそれが理由か、一応納得出来る説明だね」
原理は違うけどね、結果的にそうなったということで許してほしい、偶然の産物だし、魔力がここまで万能で不安定なものだと知らなかった。
「先生的にはアレを兵器に転用したいって誰かいい出さないか心配だね、なんせ錬金術で出来てしまうからね」
「1位魔法師並みの魔力を用意する所からになりますが」
「そうなんだよね〜、意識下に置かれた魔力が干渉し合うに決まってるから、一人で量を用意しないと、しかも短時間で」
「そこまでするならそのまま戦場へ行く方が強いって話です」
「それを君、土壇場でやったんだけど、どうする?」
あ、うーん、困ったな。
「大量の魔力を集めるのに、君のやったことがそのまま使えそうだけど……魔法の還元……とかね?」
「……分かるんですか、流石……けど教えませんよ」
「意識下の魔力をどうやって自分のものにしたかだけ、教えてもらえない?」
セロビリア先生にはここだけが謎なのだろうか、他にも聞きたそうにしているが……あ、もしかして何処かの貴族から聞いてこいと言われているとか、そこで一番穏当な部分を聞いている……とするならその気遣いを無駄にしてはいけないな、俺は気が使えるんだ。
「まぁそこなら、そこは大した話じゃないんですよ、錬成陣通してこっちの意識で上書きしたというだけです」
「それって普通は無理なんだけど、他人の魔力が混ざってたら錬成は成功しないはず、指向性がなくなるからね」
「魔力そのものを対象に、俺の魔力でアイツの魔力を──」
「ストップストップストップ」
止められてしまった、なんで?
「君、本当に……いや、予想の候補にいたけどね、本当に魔力を対象に錬成したのかい?」
「そうですよ」
「えーと、錬成陣で遠回しに別の魔法を行使してるってことになるんだけど?」
「言われてみればその通りだ、じゃあ何の特別性もないですね」
「バカバカバカバカ」
ファティマにも言われたな。
「手順を決めて組み立てたら大魔法並みのモノが素人にも使える可能性が出てくるだろそれ!」
「あー……その見方があるか」
「考えてなかったって事は別の目的からそこへ辿り着いたのか、クレイジーだな君!」
魔力そのものを錬成出来れば、一から十まで魔力のモノになる、それはつまり魔法である、と。
工夫すれば大魔法も作れるだろうと言うのは間違いではない、俺はそもそも魔力を物理的なものであると確認できて満足してたからな、その可能性と言うのが頭になかった。
「それ口外無用で、君だけに留めといてね、タリオ君、君もね」
「は、はい!」
「……いつかバレる時が来るとして、その時は?」
セロビリア先生だって、この可能性が分からないはずがない、恐らくゲルズ先生も、立場的にこの事を知っているはず。
「君含め情報を封殺する事になる、ゲルズ先生にはその役目もある」
「気をつけます、全力で、全力で守り通します!」
「よろしい」
暗に殺すぞと言われた気がするんだ、気のせいだろうけど、気のせいだろうけど!
セロビリア先生との話はここで終わって、タリオが会話を始める。
「あの、こんな時に言うのもよくない気もするけど、治ったら僕の友達を紹介させて下さい、彼女たち僕が危ない友達と遊んでると思ってて、ここに来るのも強く引き止められたんです、だから顔合わせをして安心してもらいたいんです……大丈夫ですか?」
「良いよ、まぁ、いつまでも逃げられないと思ってたし」
「逃げる……? ま、まぁ、顔合わせをすれば僕の憧れたアキールさんが、とても愉快で良い人だと伝わるはずです……倫理観はないですけど」
「プッ」
笑ったなセロビリア先生、今度授業に出た時を覚えておけ、必ず復讐するからな、タリオが俺の事を倫理観のない錬金術師とか思ってるからって笑ってはいけないのだ!!
「ではこれで失礼します、お大事にアキールさん! 戻ってくるまでに錬金術もっと上手くなってますから!」
「じゃあ私も言いたいこと言ったし、安静にねー」
嵐のような2人だった、セロビリア先生は兎も角、タリオも段々可愛らしさが無くなってきたな、いや、男の可愛らしさについて議論するところではないが。
誰もいない保健室は静かだ、当たり前なんだが。
保健室に人がいないのは、治癒魔法があるから怪我をしてもその場で治る、長い時間を掛けて治すこともなければ、安静を要する状態になったりしないから。
治癒魔法が効果を発揮しない怪我は逆に窮理院を飛び出して病院行きだ、意外と高度な外科医療が受けられると聞いたことがある。
俺は丁度、珍しく保健室を使うラインの怪我だったと言うだけだ、魔法で精神も治せれば早いが、意識下魔力の都合上、他者の精神に作用する魔法なんて被害が大きくなる可能性だってある訳だ。
「はぁ〜……暇だ」
無益な事を考えて暇を潰すしかない、ベッドから動けない上に、手元に暇を潰す本もない、せめて本があれば、図鑑でもいい、妥協して教本でもいい。
念じた所で無いものはない、本の魔法とかあればいいのに。
「寝るしかないかぁ……ふわぁ……」
目を閉じて枕に頭を預ける、貴族ばかりが通う学校だけあって一流の寝具を用意してあるのか、とてもふわふわで柔らかい。
眠気が薄くとも、すぐに入眠出来そう──
◆
「こんにちは、貴方」
何の夢だろうか、とりあえず、俺に花畑を夢見る感性は無かったと思ったが。
それに目の前の女性は俺の意思に反して自由に話している。
明晰夢、なのか? 何か致命的に違うような。
「当たり、ここは精神の世界、夢とは違うの」
当たりだった。女性は柔らかく笑う。ふとその笑顔が誰かに重なる、しかし誰かまでははっきりしない、人が好きな人、いつも笑顔な人なんだろう、きっといつも人が周りにいるんだろうな。
「これを伝えに来たの。あの子のこと、
あの子?捨てる?……ファティマのことか? いや、目の前の女性はファティマとは似ても似つかないが……じゃあ、誰だ? 誰のことなんだ。
それに、前から見ている子たちとは誰なんだ、俺の理解を促すような言い方をしていないし、ぼかしたい事情があるのか、本人にその気がないのか。
駄目だな、何も分からない、僅かな情報から暫定的にファティマの関係者だとするしかないな、ファティマを見守る人たちがいるという事になるが、居てもおかしくないしな。
「それで、貴女はいったい…………だ……れ、だ……?」
夢の中で、急激に眠気を感じて、抗うことは出来ずに意識を落としていく、急展開に理解は追いつかないが、魔法がある世界で非論理的だと不可能だと論じることは辞めたのだ。
ありのまま受け入れる、それから考える、実に面白い、それでいい。
◆
目を覚ます。さわやかな風が頬を撫でた。
「んぅ……はぁ……なんかいい夢見た……な訳ないか……」
また一つ、厄介なことが増えた。
こんな調子で、錬金術の発展なんてして行けるのだろうか、この法術窮理院に来てから厄介ごとの解決に力を注いでいるような気がしてならない。
厄介事、ああ厄介事、厄介事。
タリオの背後が気になる、ファティマの妹も気になる。
それに加えて右腕を新しく作りたい、伝説の鉱石も見つけたい、もっと錬金術を発展させたい。
カマル、王都は忙しい、田舎でのんびり錬金術師やってた頃が懐かしいよ、今なら貴方の気持ちが分かる。
意外とやりたいことをやり続けるのは大変だな、もう挫けそうだ、けど俺頑張るから。