あっという間に1週間、2週間、3週間、一ヶ月。
文学的に例えるなら光陰矢の如し、洒落てる言い回しだね、この世界流に言うならば神の瞬きの間にだ。
俺はすっかり元気いっぱい、錬金術の調子もいい、法術窮理院の皆も俺の回復を喜んでくれている、耳を傾ければ、ほら、聞こえてくる。
「例の男が復帰したようだな……第二王女を殺しかけたのによく顔を出せる」
「『
「おとなしく負けていればよかったのよ」
「持ち込んだ魔法具を爆発させたらしいな……常識はないのか常識は……」
「ファティマ様を手放さないために無理に引き分けにしたとか……誇りや潔さはないみたいだな」
「流石は、錬金術師サマ、ホードバルドさんが可哀想になる」
喜んでる、ははっ。
影から退院祝いをくれる貴族たちを横に置いておくとして、タリオから提案されていたタリオガールズとの顔合わせをしようと思う。
既にその旨を伝えてあり、場所は広くて集まりやすい食堂だ、いつものテーブル席は7人席へと変更して、食べながらゆっくりと、と言うのがコンセプト。
ファティマは妹のカエリエに付きっきりらしく、ここ最近は1日に一回顔を合わせるだけ、家族思いなやつだね、カエリエが自殺未遂したとか聞いて、俺はちょっと少し僅かに重く責任を感じていたりする。
「さて、と……今日は何を食うかな……」
この食堂、何でも出てくる、一流のシェフが腕によりを掛けて要望を叶えてくれるのだ、大抵は名前だけ伝えると作ってくれるがシェフ達が知らないものや、既存レシピをカスタムしたい時は、要望書を渡すことになっている。
俺は要望書片手に、調理場とホールを隔てるカウンターへと足を運ぶ、手の空いているシェフを見つけて声を掛ける。
「これ作れます?」
「拝見します……鶏の油揚げ……ああ、例の唐揚げですね、しかも詳しい調理方法まで……少々お待ちを、すぐにお持ちしますよ」
「挟むからパンも、あと適当に香辛料も」
「合わせてお持ちします」
いやー、快復祝いは唐揚げでしょう、アツアツジューシーな鶏肉、濃いくらい味のついた衣、米がないのでパンに挟むがこれもうまい、名付けて唐揚げサンド、たまに食うからレシピ覚えてくれたみたいだ。
ふふ、食の錬金術師と呼んでくれたまえ。
やることはやったから、待ち時間は席で時間を潰すに限る、席はあらかじめ確保済みらしく、指定席の札がテーブルへと立てられている、貴族ばかりの学校はこういう事を許すらしい。
「待つばかり……か」
待ち時間は辛い、周囲の視線は痛いし、ファティマと軽口叩き合う事も出来ないし、現代人マストアイテムであるスマホもない。聞こえてくる俺の噂をラジオに外を眺め黄昏るくらいしかやることがない。
「お待たせです〜!」
唐揚げサンド、到着。持ってきたのはタリオだ、俺の昼メシを把握してる……?
そして、堂々たる佇まいの5人の貴族女性がタリオの後ろに控えている、笑ったり微笑んだり囁いたり、俺を見てそれぞれ反応が違うが、共通点は皆美人だということ。
タリオ、どうしてこれがハーレムじゃないと言えるんだよ、羨ましい。
ファティマがいるが、アイツは右腕だし……愛とか恋とか言う前に子供だからな、気分次第でいい相手を見つけてフラッと消えると思うんだ。
今はそんなこと考えずともいいか、タリオとガールズが着席して、食事も用意しているので、もう始めちゃおう。
「タリオ、進行役を頼む」
「はい、おまかせを!」
今回は彼からの提案、彼に任せるのが筋だろう。
タリオは少し思案してから、自分の隣から紹介することにしたようだ。
始まりは前髪で目元を隠した身長のある女性、紋様のある曲刀を持っている、魔法具と言うやつだろう。
因みに帯刀は許されてる、ゲルズ先生の魔法で校舎内は全員無敵になっているから。
「この方はグエネアさん、魔法と剣術の師匠、とっても頼れるお姉さんって感じで、僕も毎日勉強教えてもらってる」
「やぁやぁ、グエネアさんだよ、タリ坊からはよく聞かされるよ君の話、これでも特位魔法師だから君も相談に乗ってあげるし、君も気楽に話しかけてね、じゃよろしく」
「よろしくお願いします……特位魔法師、か……」
「凄いでしょ、グエ姉」
前髪の隙間からちらりと見えた目が、下手なことを言うと斬る、そんな剣呑な気配をまとったので思わず目をそらした。その先にはタリオが次に紹介する女性がいる。
修道女姿の敬虔な信徒に見える女性、目を合わせると微笑んでくれたが、形だけだ。
「こちらはリヴェンナさん、格闘術の先生をしてもらってます、あと、料理が凄くて……もうほっぺた落ちるよ!」
「ご紹介に預かりました、改めて私はリヴェンナと申します、私から言いたいことは一つ、イクリプス神教に興味ありませんか? よければお食事をしながらでも」
「はい、勧誘はあとでね」
「むぅ、この人はハマると思うのですが……信徒拡大のチャンスが……」
神様ガチ勢はちょっと近寄りがたいぞぉ。
タリオは慣れた手つきでなだめすかして、次の女性を紹介してくれる。
まっすぐに俺を見つめる彼女は何処かタリオと似たような、似てないような。
タリオガールズのなかでも特に小柄で幼い印象を受ける、前髪もぱっつんなので、西洋の座敷わらしみたいだ。
「僕の義妹です」
「義妹のサティです、錬金術は役に立ちますか?」
「え? あ……たぶん」
「ならいいです、お義兄ちゃんをよろしくお願いします」
「こらサティ、そんな話し方は失礼だよ、ごめんなさいアキールさん、昔からこうで……」
「エー、そんなことは無い、モン、きゅるるん」
「全部棒読みじゃないか、まぁ、よろしく義妹ちゃん」
「サティを呼ぶときはサティと呼んでください、それ以外は無視します」
もう話すことはないとサティは目を閉じたので仕方なく次に向く、と、その女性はタリオより早く口を開く。
快活、そして魅惑的、自分に自信があるのか露出の多い、しかし下品にならない程度のシャツの着崩しが洒落ている。雑に整えられた髪は何処かさっぱりした性格を印象づける。
「よう! オレはアイナリア! 熱かったぜあの試合! 0と100だった予想をぶち抜いてきたなぁ! 次も期待させてもらうぜ!」
「ちょ、アイナリア……まぁ、いいか、この人はアイナリア、すんごいギャンブラー、でもね、子供に優しいママって感じで、孤児院では人気者だよ、賭けで勝った分は寄付もしてるんだ」
「オレがママだって?! ……ふふ、全く、ふふふ……」
「……タリオ、早合点ってのも言い忘れてないか?」
「そうかなぁ? そんな事ないと思うけど、焦るギャンブラーは二流だっていつも言ってるし」
背中を鍛える魔法とか、背中を守る魔法とか用意したほうがいい、助言はあとでしておいた。
アイナリアのギャンブラー精神に完全に火が付く前に最後の方へと移る。
最後は、この国では珍しい日系の顔立ちをしたごく普通の女性だった、日本ならきっと見過ごしているだろう、所作もどことなく貴族らしさがない。
雰囲気的な話になるが、目立たない事を普段意識してるような気もする。
「えー、アキールさん、この人はアリス、使用人なんですけど占いで未来を当てる凄い人です、どんな魔法かも教えてくれないですけど、何度も助けてもらってます、内緒にしてくださいね?」
「初めまして……ですよね?」
「そうだと思う」
「……こんな人知らないなぁやっぱり」
「えっと、大丈夫か?」
「え! あ! はい! 私はアリスといいます!」
挙動不審だなぁ、なんだろうか、彼女、俺を一番警戒している様な、親しみを持っている様な魔力の動きをする、他の人たちは刃物みたいに研ぎ澄まされてて怖いのに。
「アリスさんは貴族……じゃなかったか? ファティマがそう言ってたんだが……」
「それでしたら、私は一応貴族ですけど元平民の養子です、義父の命令でホードバルド家で使用人をしてますので……以前王女様のパーティに一度参加しただけですが、よく覚えてましたね」
やっぱりある程度魔法の才能があると貴族は養子に取るのか……ここが貴族学校になる理由が見えてきたな、平民用を作らなくていい仕組みが自然に出来上がってるわけだ。
「そう言えばタリオも同じだったな」
「そうですよ、僕なんかよりずっと魔法が上手で一生懸命だし、仕事は丁寧で何でもできます! アリス以上の使用人は居ないんですよ? ホードバルド家一です!」
「は、恥ずかし〜……」
どんな人物か大体分かったのでタリオの追撃を止めつつ話を切り上げる、タリオめ、褒め殺しの天才か、わかっててやってる悪魔かどっちだ、前者だろうな。
「OK、その辺で、そろそろ食べようぜ」
「はい、僕の友達は皆頼れるいい人たちでしょ?」
「言い切ったな……お前」
「自慢の友達ですから!」
「……しーらね」
アリスさん以外の目がタリオの背中を突き刺すようだ、アリスさんは濁ってた、一番重そうだが……。
それからは好きな物とか、最近の話題とか、貴族あるあるとかで盛り上がって食事を終える、ひとまず俺に対する彼女たちの警戒心は落ち着いたように思う。
「で、皆様、俺はタリオ様といい関係を築いてますってのは伝わりました?」
ちょっとばかり嫌味を含めて言葉を投げかけると、彼女らはそれぞれに答えを返してくる。
「おやおや、まぁ警戒してたよりずっと頭がおかしいから心配してないよ、私」
全員が頷いた、タリオも頷いた、彼らの中で俺の扱いが決定したような、そうでないような。
そろそろ昼の時間が終わりを迎える今、タリオは忘れていたものを思い出したらしく、俺へと向き直る。
「そうだ、3ヶ月後にある『ダンジョン遠征』に、僕たちと一緒に行きませんか? 最大10人のパーティで実際にダンジョンに挑むんです」
「ダンジョン、面白そうだな……ファティマも誘っていいか?」
「はい! 元からそのつもりです! ダンジョン遠征で行くダンジョンは低級の低層域だと聞きます、でも面白い素材があるかも!」
「それはいいな、3ヶ月後か……腕を準備しておこう」
「おお! 新しい腕を楽しみにしてます!」
約束を交わしたあたりで午後の開始時刻になり俺とタリオは錬金術学へ、ガールズたちは各々の学科へと向かった。
ダンジョン、なんと響きがいいんだろう、新素材、未知の素材、探究心がくすぐられる。
今度は壊れない腕を作ろう、探索向きで、最低限身を守れる防御機能もほしい、位置情報もあると便利だろうな。
そう言えば以前に魔力由来の通信機器の理論を草案まで組み立てたな、この3ヶ月でモノにして、探索に役立てようか。
「凄いヤバい気配」
「なんてことを……セロビリア先生だって喜ぶ発明ですよ」
「……なら良し!」
「自然に流したけどそれって止めないと行けないのでは……ま、アキールさんだし……」
◆
今日も今日とて勉学に励む、頭の中は別の事で一杯だけども。
腕の設計、搭載する機能、試行錯誤、1週間掛けても完成形が見えてこなかったが、今日ものんびりと授業を受けつつ、錬金術の理論を学ぶ、意外と馬鹿にできない発想や着眼点があるので、そこは認めて吸収する。
特に初代ゼレティア王の逸話や偉業などは、錬金術を編み出しだけあって錬金術に対する事細かな情報があるので面白い。魔法があるのに科学的な知見を有し、それでいて魔法師の視点で事を起こす、何か不思議な王様だ。
今日の授業は特に面白かったなと思い返しつつ、寮へと帰る道すがら、紫紺の髪が目の前で揺れた。
「……ファティマ……じゃないな、誰だ?」
女性だ、俺より頭一つ背が低く、紫紺の髪を持つ、濃紺のブレザーとズボンで少しボーイッシュに整えられていたが、前が空いた所から膨らみが見えている。
女性は、少し落ち着かない様子で俺を見る、口を開け、閉じ、ふぅと息を吐く。
「私はカエリエ、今から付いてきてほしい、話がある」
「……驚いた、もっと身長が高くて男っぽいと思ったが……口調以外完全に女だな、姉がいいと妹も美人だな」
「アレは魔法を最大限活かすための技だ、口調は元々だよ、我が精霊は面食いでね」
彼女は笑う、フッと笑うその仕草もファティマに似ている、と言うか似せている。
姉の為に俺に魔法決闘を仕掛けただけあると、一人で感心するのだった。
「そういやファティマは?」
「そこにいる」
「そうか、なら行こう」
「……私が言うのも何だが、貴様にとって姉は何なのだ」
「右腕かな、本人がそう言うから、俺もそう思ってる」
「まぁ……いい……ではこちらへ、離れるなよ」
全く最近次から次へお呼ばれすることが多い、やろうと思うと呼びつけられる、これがモテ期かもしれないな。
彼女の小さい歩幅に合わせて俺は背中を追いかける、しばらく歩くと人気が薄くなった校舎のとある一室の前へと、辿り着く、ここは日当たりが悪く既に夜のようにくらい。
「ここから先で聞いた話、他言無用で頼む」
「……それどんな話?」
「王家にまつわる話だ……実は私も、内容まで聞かされてない」
「俺とお前に話があるって感じか」
「そのようだ」
気になる内容は、扉の先の彼女に聞くとしよう。