錬金術師、ブチギレる。   作:テムテムLvMAX

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これ超えたらコメディ、これ超えたらコメディ!


2話 錬金術師、死地に行く。

 ファティマ・リィ・ゼレティア、その名前だけは聞いたことがある、俺のいた田舎の町でさえ、その名前は轟いていた。

 

 主に、悪名として。

 

 今代の王、ゼレティア8世王の統治は最も素晴らしく、苛烈だと言われている。その理由は8世王が敬虔な『イクリプス神教』の信者だからと言われている。

 異端を許さず、妥協を許さず、惰弱、脆弱を許さず、いっそ過激なまでに弱さと異端を許さない、そう言う教義があると言うよりも神自身がそうだという。

 

 だが、王が自らに課すもの、自身に対するスタンスだ、他者にそれを押し付けることはない、なかった、だが身内は違うのだと、人は言う。

 

 ファティマ・リィ・ゼレティアは第一王女、一番薫陶を受けたのだろう、魔法師の才能もずば抜けているから力もある、だが、まだ17の子供だ、自分以上に他人の弱さと異端を許さない、ある意味立場で歪んだ人間だ。

 

 世間はそう見ている、俺もそう見ている。

 

 だからこそ、悪名。

 

 高飛車女、クソ女、頭空っぽ、色々と罵倒が浮かぶが、まぁ無理だ、口は封じられているし両膝は地面と接地している、両手は背中で固定されている。

 

 端的に、罪人のように捕まった。

 

 王都に着いた俺は真っ先に地図に従ってカマルが契約したという空き家に訪れた、だが待ち伏せていたように現れた兵士に取り囲まれ、あまつさえ王女殿下が直々に店を荒らしたとあって、俺の思考は冷えていった、怒りで頭が冷えると言う珍しい体験だった。

 

 侮辱に対する暴言、挑発に対する怒り、しかしここは王都、ゼレティア王国、彼女に勝てる道理はなく、俺は反逆罪を理由に捕まった。

 

 地下牢に入れられた、それも光の届かず、階段を何百段下りたかも分からないほど深い場所、彼女の()()に使われている場所であることを察するには時間を要さなかった。

 分からないのはどうして錬金術師であると言うだけで侮辱されたのか、魔法師というカテゴリーの中に錬金術師はいる、俺の常識が正しければ褒められはすれど貶め晒されるようなことは無い、はずだ。

 

 やはり、本人に聞くしかないだろう。

 

 松明の明かりが照らし出す彼女、間に丈夫で太い鉄格子を挟んで、俺が向き合う。

 

 

「第一王女に楯突く愚かで哀れで虚しい人間? 名前は? あー、話せないのね、残念……ははっ、猿轡、外してやりなさい」

「ぐっ! ……乱暴だな」

 

 

 彼女に仕える兵士の一人が力任せに猿轡を外す、やっと自由に呼吸が出来た、彼女に物申すために呼吸を整える時間すらもったいない。

 

 今一度、睨みつけるよう彼女を見る。

 

 濃い紫色の長髪、金の瞳、白亜の肌、そして竜とバラ、騎士が刺繍によって描かれた紫紺のドレス、歩く絵画と言われればそうだろう。

 女性として魅力的だが、人間的にドクズのゲスだ、側だけで評価を下すなど、やはりナンセンスだ。

 

 

「アキールだ、覚えておけ小娘があっ!?」

「あら、口が悪いと手が出るわよ」

 

 

 無言で兵士に殴られた、やり慣れてるなコイツら。

 

 

「チッ……妄信的で考えなしの兵士しか相手がいないんだろう頭空っ、がぁっ……!」

 

 

 今度は腹を蹴り飛ばされる、だが体を支えられているため、衝撃がもろに伝わる。

 痛いのは耐えられる、魔力で無意識に痛みを和らげるんだと知っている、だがダメージは軽減されない。

 

 

「元気ねぇ今回の獲物は……ははは」

 

 

 虚ろな笑いだ、反吐が出る、今から俺が死のうと朽ちようと、どうでもいい、痛めつけたいだけの目だ。

 だが、許してやろう、許してやるのが大人だ、そして大人は子供に教えてやるものだとカマルからもジンからも教わった。

 さぁ、ワガママ娘、お前のようなクズのワガママも聞いてやるぞ、大人だからな。

 

 

「何が望みだ」

「望み、望みねぇ……」

 

 

 わざとらしく顎に指を置くファティマに苛立ちを抑えるのに精一杯だが、耐える。

 錬金術を、錬金術師をバカにして、捕まえて、痛めつけて、何を望むのか、待った。

 

 

「何もないわ、ただ死んでちょうだい」

 

 

 事もなげに言うのか、命が相当軽い、あるいは数字に見えている、あぁ言い方を改めよう、クソガキじゃなく人間モドキだコイツは、倫理観がネジ曲がって反対向いて正解と不正解が全部逆だ。

 

 しかし、だから納得して死ねるわけじゃない、俺はまだカマルの恩を返せてない、死にたくもない、だから生きる。生きるための道を探す、コイツを乗せて僅かでも生きる道を探す。

 

 

「何故、そこまで錬金術師を嫌うんだ」

「何故? 何故……何故ねぇ、学のない貴方に分かるように伝えるのは骨が折れるわね、まぁお願い次第かな?」

「頼む、聞かせてくれ」

「足りないわ」

「……お願いします、教えてください」

「王族に敬意を払う作法すら知らないのね、これだから低俗な錬金術師は嫌いなのよ」

 

 

 最敬礼をしろと、言葉にしない侮辱を込められている、なら、良いだろう、俺の命が俺の頭より軽い訳がない。

 

 

「この通りだ」

 

 

 3年世話になったカマルに対しても過剰と言わしめた作法、膝を突き頭を下げ、両手は地面へ軽く付ける、縛られて身動きが取りづらいが、そう見せかけるくらいはできた。

 

 

「プライドすら無いのね」

 

 

 どの道晒す事しか頭になかったか、その発言は。

 

 

「良いでしょう良いでしょう、話してあげましょう……」

「ケッ」

 

「まず、魔法師について、魔法師は位によって分けられているの、3から1位、そして特位、超位、神位…………、3位ですら、才能と確かな努力がなければ名乗ることすらできない、まして1位など一握り、特位より上は長き歴史のなかで数えるほど……本来、魔法師称えられて当然、敬われて当然、その為に技を磨き己を錬磨するのよ」

 

 そこで彼女は言葉を切り、あからさまに大きなため息を作る。

 

 

「はぁ、だと言うのに……錬金術師? 頭がおかしいんじゃないの? 魔法師たらんとする才能も努力もない人間が、意地汚くしがみつく様な職を私が認めるとでも? そのような体たらくでこの王都に居を構える? 頭が痛くなるわ……本当に、父上も老いたものね、錬金術自体3位魔法師ですら片手間で出来るの、わざわざ……ハッ、わざわざ職としている可哀想な人間には、分からないでしょうね?」

 

 

 血管が持たない……今にも、今にもはち切れそうだ……。

 

 錬金術がまるで低俗な技のように蔑まれていることも、錬金術師がまるで魔法師の落ちこぼれであるように宣うことも……っ!

 知らないのか、知らないんだろうな、お前が馬鹿にする錬金術師たち、その先人の技、研鑽が今に豊かさをもたらしていくれていることが!

 

 

「聞けよ、ファティマ、お前は錬金術師を舐めている、これ以上なく舐めきっている、一体自分がどういう土台に立っているか分かってない、世間知らずの大馬鹿野郎が」

 

 ぶん殴られる、蹴り飛ばされる、そして硬い金属のあしらわれた小手で裏拳を頬に食らう、口から血と肉が吐き出されるが、やめない、痛みに慣れた、魔力とアドレナリンが作用している以上そうなる。

 

 

「へぇ? 私が世間知らず、世間こそ、この私だと思わない? この国を統べる者、統治する者が世間知らずなわけがない、でしょう?」

「……なら、こうだ……俺がお前が本当に世間知らずだと証明しよう」

「あははは……何を言うかと思えば……全く、1ミリも理解できない言葉、けれど、ええ、けれど私は貴方のような反骨心あるものが……情けなく私の脚にすがりつく様を見るのが、大好き……」

 

 

 全く倒錯した趣味をお持ちだことで、気味が悪いほど人間性が破綻している。

 だが、乗ってきた、頭が足りてねぇから乗ってきた、乗せられた、俺が提案して、アイツが承諾した、だからこれでいい、そして何よりも俺が世話になった人さえ馬鹿にするような、これから敬うべき人達さえ微塵も敬意を示さないその態度に、その鼻っ柱に一撃入れて、詫びも入れさせる。

 

 それで、終わり、それで許す。

 

 

「なら、あぁ……貴方も魔法師の端くれ……本当に、1章一節、そのほんの一欠片でも魔法師だと言うならば……『真紅の巨魔獣(ベヒモス・スカーレッド)』を、どうか倒してきてください」

 

 

 彼女の聖女然とした祈りの所作はその実、俺への当てつけと不可能なクエストを頼み死地へ追い込む邪悪な悪魔のようだ。

 ざわり、ざわり、彼女の側に控えている兵士ですら、何か動揺している、その名前は俺は知らない。

 

 ならばいい、いらない恐怖もなければ蛮勇もない、ただ知り、ただ倒す、そいつがいかに強大な魔王だとしても、今の俺はそれを超える怒りが原動力だ、どんな奴でもブッ倒す。

 

 

「良いだろう、今すぐにでも持ってきてやる」

「……貴方、流石に頭が悪いわね」

「ブーメランと言うおもちゃを知っているか、知っていれば皮肉として送ろう、知らなければお前はバカだ」

「ま、こんな手合い滅多にいないわね……この男を『血赤の森(ロッソ・フォレスト)』へ、1週間で首を持ってきたならば……貴方の言う事を何でも、それこそ()()()聞いて上げるわ、あははは……っ!」

 

 

 ……いつか痛いしっぺ返しを受けてもらうつもりだった、だったら、俺が帰ってきた時だ。

 

 

「良く、覚えておくことだ……、錬金術師を馬鹿にした、その報いを震えて待て」

「素敵な遺言どうも」

 

 

 俺は、麻袋を頭から被せられ猿轡を噛まされ、何か魔法による睡眠効果に抗えず、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「起きろ! 罪人!」

「がっ!?」

 

 

 腹部に鈍い痛みが走る、目覚ましにして激し過ぎる痛みだった、不意に蹴られた内臓がヒクヒクと痙攣するがそれを堪えて、立ち上がる。

 

 いつの間にか拘束具が全て外され、最低限服と言えるボロ布を着せられていた。

 

 辺りを見る、血が全てを作ったような紅さがある針葉樹林だ、植生なんかは専門外だが……雪もない、肌寒くもない場所に針葉樹林がある、というのが何か不思議な感覚だ。

 

 

「痛っ……チッ」

 

 

 体のあちこちが痛むが、魔力はいつも通りだ、ほっとけば自然治癒が働いて傷もなくなるだろう、魔力様々だな、崇拝すべきは神より魔力だと思うのだがね。

 

 

「王女殿下の命令を今一度伝える、猶予1週間以内でこの『血赤の森(ロッソ・フォレスト)』に潜む『真紅の巨魔獣(ベヒモス・スカーレッド)』の討伐をせよ」

 

 

 俺のくだらない思考に更にくだらない命令が割り込んでくる、スクロールを上下に広げ読み上げる兵士の姿は滑稽だ、笑いが出る、その忠義を立てたのか相手があの人間モドキなのだから、さもありなん。

 

 

「じゃあ、俺は俺で好きにする」

 

 

 俺は兵士の制止の声を聞き入れず、ビビって追いかけてこない腰抜けを放置して、悠々と針葉樹林へと繰り出した。

 

 

 さてと……真面目にどうしよっか、明日死ぬかもしれん、理性ってのは要らない時に戻ってくるんだな。

 

 

 

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