『
天を突くほど真っ直ぐ伸びる大木はまるで真っ赤な槍が天におわす神を殺さんとするが如く、これ見たのが詩人ならそう評するだろう。
「……手持ちは……食料もなしか」
拷問するだけしてゴミを捨てるように投げ出された訳だ、道具も、食べ物も、飲水も一から確保しなければ、1週間のというクソ慈悲深き猶予ははただの凌遅刑となる。
苦しみに悶え神に祈る趣味はない、まだ魔力が漲るうちに俺は水から確保することにする。
まず、水とは何か、水素と酸素というのが科学での答えだ、それはこの世界でも間違いがない、恐らく。
恐らくというのは、魔力が未知の元素である可能性を考慮してだ、いやひょっとすれば素粒子まで辿ることになるかもしれない。
今はそれを論じないが、魔力が万能の元素であればこそ、魔法が成立するのだろう。
で、話を水に戻す。
一定量の酸素水素の結合をしてやれば欲しいだけの水になる、錬金術師はモノに特化した魔法師だ、ファティマの言うように他の魔法師の落ちこぼれではない。
ここには大気がある、なら水素も酸素もある、割合の問題として水を作るに足りないかもしれない……なら? その不足分は? そう、魔力がある、推定万能の元素だ。
「これをこうのこう」
枝を広い地面へ五芒星を描く、魔力で錬成陣を描いてもいいが、少しでもケチる、節約だ。
本来なら錬成陣の上に物を乗せ、錬金術師が指向性を与えたうえで魔力を流す。
だが、今回やろうとするのは大気の結合と、その不足を魔力で補うだ、更に魔力を自分のものではなく第三者、今回は自然界にあるものを使う、相応に難度は高まる。
しかし五芒星でも出来る位に俺の3年は有意義な物だった、クソ女めがいちいち晒す知恵と技術と少量の魔力によって奇跡を引き起こす。
錬成陣が光る、そして直ぐにチャポンと水球が浮かび上がる。
「ふむ……理論通り、まぁ、この程度か」
錬成陣はそのまま、逆に還元するとそれは霧散した、で、もう一度錬成陣に魔力を流す、水球は同じように出来た。
「再現性あり、1+1は2、だ」
素晴らしいこれこそ錬金術師のなせる技だ、俺の科学知識も、忘れる前に脳へ刻んでおいてよかった。
異端だろう、知識を自分に錬成した、魔力が意思に反応する観点から記憶すらそうだろうと思ってな、事実出来た、もう知っていた科学知識は忘れないだろう、可逆的にだが。
それと、これを応用すればゲームのスキルスロットのようなことも可能になるかもしれない、代償は脳の負荷だが。
まぁ、これも、異世界出身の錬金術師としての俺の専売特許だ。
「冷えてるな、少し温めるか」
目の前の水球を少し加熱する、これも錬成陣を書き換えずあくまで魔力の指向性だけでやる。
錬成陣は魔法師の詠唱に該当するとはカマルも良く言っていた、だから恐らく詠唱で発動する魔法も同じ事が可能だ、魔力操作だけで発動後の魔法を少し操作するだけなのだから、水の魔法で水を操作して形を変えるようなものだと認識している。
十分に、ほんのりと湯気が出る程度に暖まった水球に口をつけ吸う……前に思い出した。
「これ、純水か……」
普段水と思って飲むものとは違って味は全くなかった。
「井戸水、美味かったんだな」
自然の恵みに感謝しつつ、次は食物を準備する、こうなることがわかっていれば生物学でも取っておけばよかった。
後悔が異世界にまで来ても先に立ってくれないので、自前の知識と異世界での知識を頼ることになる。
まずカマルは錬金術師であり、薬屋だ、時間のかかる薬の精製を錬金術でスキップ出来るのだから強いに決まってる、そして薬膳料理と言う概念のもと健康的な食品にも精通していた、肉や野菜を錬成するより料理したほうが手軽だから、自然と世の錬金術師はそうなる、らしい。
でだ、その知識から食べられそうな植物をこの針葉樹林から探す……のは無理、植生が違いすぎる。
だがね、薬の原料を自前で調達する時、入るのは森だ、森は危険だ、何故危険か? 獰猛な魔物や野生生物がいるからだ。
この針葉樹林にもそこかしこに野生生物の痕跡が残る、クソの匂いや歩いた道、泥浴びや爪研ぎ、木の皮を剥ぎ取って食う草食動物も居るんだろう。
そうだ、獣の痕跡を狩人のように見つけられる、カマルの世話になったからと喜んで狩人は教えてくれた。
であればそれを活かして、狩る。
錬金術師は魔法師や戦士などのように戦えないがトラップはお手の物、俺の場合直接戦闘を想定した戦い方も用意してあるが……まぁ普通は錬金術師は殴り合いなんてしないし、弓も持たない。
誘引トラップは簡単だ、簡単すぎて罠とも言えない、錬成陣を使い俺の血の匂いを増幅するだけでいい。
捕獲なんてしない、掛かった獣を確実に狩る処刑トラップを作る、踏み込んだモノを強制錬成して肉の塊に変える、相手の魔力操作次第で弾かれるが大体野生生物は魔力を意図的に操作できない、そも生物錬成は禁忌だが、そんな
「血を垂らし、ミンチトラップを敷き……後は姿でも隠しておくか」
準備を終えれば大木に錬成陣を描き、螺旋状の階段を作り上へと上がる、一応危険があるので、纏うボロ布に錬成陣を描いて獣の爪も通さない強度を与えておく。
ここまで魔力はほとんど消費されない、俺の魔力が多いからと言えるが、コツさえ掴めば錬金術が消費の少ない魔法だ。
実物が必要とは言えこの汎用性、幾ら無能が憎いからとなぜこの便利さまで殺そうとするのか、全くあの為政者はアホの極みだ、愚の骨頂だ。
恨み節はいくらでも、しかし脳のリソースが勿体ない、しばし思考を無にして獲物を待つ。
1時間もしないうちに哀れな子羊が一匹、まぁ、猪系の魔物だが、食いでありそうでよい。
「ぎ」
「ほう、ああなるのか」
悲鳴も許さずミンチか……飛び散ったわけじゃないが、足があらぬ方向に捩じ切れ、全身の骨がボキボキに粉砕されている十キロ程度の生肉団子が出来上がった。
「まかり間違っても人に向けられないな」
錬成陣は禁忌に対するセーフティが仕込まれている、それは術者の倫理観と道徳に依るもの、無意識に人をミンチにするようなことが無いってだけだ、人によっては犬猫はミンチにしてしまうかもしれない、そもそも錬成陣に不純物を近寄らせたくないなら事前に避けるがね。
向こう1週間分の肉団子が確保できた所で血の匂いを撒き散らす錬成陣を破棄し、肉団子を作った錬成陣は少し手を加え可食部だけにする、最後に腐敗にしぼり状態変化を停止するモノに書き換える。
「1=1の極みだな」
それはそれ、これはこれ、1は1。
さてと、魔力の方は余裕があるが、頭を使うと腹が減った。
大木からスプーンを作り、肉団子を掬い取り、錬成陣で熱々に熱した水球を生み出し、茹でる、というか鍋る。
森に漂う場違いなほどのよい香り、少し獣臭がする、仕留め方が悪いな、今度は踏んだ瞬間から内臓と骨と血と皮をバラバラにする錬成陣にしよう。
満足できる味だったとは言い難いが、少なくともスタミナは戻る、そして思考リソースも満たされたような気がする、食べることは生きること、名言だな。
「次は道具か……道具か……どうする?」
道具、それは錬金術師には大事な要素になる、錬金術師が錬成陣を使う時、それ素材を揃え終えてから。
素材を揃えるために必要なのが道具だ、例えば薬を煮詰める工程を錬成陣でスキップすると人によって濃縮具合がマチマチの液体が出来上がる、それは煮詰めるという行為に対する認知差だし、人の意思という不安定さに依るものだから。
だから、錬金術師は均質を望む場合、間違いない手段を取る、薬草を煮詰めるであれば煮切るとか、水かさが一定を下回ったとか、計量カップを使うとか、絶対値を持ってくる。
まぁカマルは一切そんな事しなかったが、あの人薬に関しては製作工程全スキップの一撃クラフトだからな……俺もあの段階になりたいと何度思ったことか、錬成陣に絶対値を組み込む方法とかあるんだろうか、プログラミングに片足っ込んだようなような錬成陣になるか……?
話が逸れた。
道具はそれだけ重要だ、と言う事である。
今必要な道具は、『
「構想だけしておいてよかった、いずれとは思っていたが……今か」
完成度は望めまい、スクラップ同然の武器になるだろうが……あの王女殿下の鼻っ柱へし折るチャンスを楽しみに、頑張るとしよう。
今から用意するのは、ズバリ『銃』だ。
野生生物のように錬成陣でミンチに出来れば戦わずに済む、だがそれは奴の首を持って帰れない事を意味する、更に懸念として魔法耐性が高い可能性だ。
大仰な名前で呼ばれている以上、何かしら一癖あるはずで、魔法師が活躍する世界でなお恐れられるとするなら魔法耐性が高いということだ。
接近戦など愚の骨頂、遠距離からチクチクやる。
実のところ作るのは簡単だ、耐久性や火薬、弾薬の問題は魔力と錬成陣でなんとかなる。
五芒星錬成陣の頂点に更に五芒星を並べるいわゆる『多重錬成陣』と呼ばれる方法を使えば、木材を鋼鉄並みの強度に引き上げることが出来る、だが魔力消費が問題で乗算されているかごっそり減る、更に素材自体に強化限界があるようで度を越した強化は素材が耐えれず破損した、許容魔力量と表現するがそれをオーバーすれば壊れる。
「まぁ……獣狩だ、バレルは長く、ライフリングはバッチリ、重心を使いやすく……銃の知識が映画留まりか……辛いな」
とかなんとか言いながら見様見真似で原理だけ再現した、形をつくり試しながら都度細部をいじれば素人でも作れた、いわゆるウィンチェスターライフル、手元でレバーアクションを起こすやつといえばいいか……こればっかりは各々調べるようにしてくれ。
ただ、重量は木材かつ軽量化してある、耐久性は鋼鉄で、体に合わせた大きさは取り回しも悪くない、はずだ。
撃鉄がないがそれに相当する部分に錬成陣を仕込み、圧縮空気で弾き出す方式を取る、バレルはほぼ摩擦がなく、反動も少ない、弾としての威力は見込めないのは当然だ、しかし弾は錬成陣を刻んだ特別製、着弾を発動条件にして空気を破裂させより食い込む、食い込んだあと毒素に変わるようにしてある。
流石の錬金術もここまでやると魔力が馬鹿にならない、仕損じれば次がない程度には魔力が空になった。
これでダメなら大人しく森を破壊するような無茶な錬成をするか、死ぬか、屈辱を堪えて王女殿下の靴を舐めながら舌を噛む。
準備は整った、後は獲物を探して狩る。
向こうも気がついているだろう、縄張りに人間が来たことくらい。
俺の王女殿下の怒り、止められるものなら止めてみろ。