錬金術師、ブチギレる。   作:テムテムLvMAX

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荒すぎるあらすじ 主人公、腕ないなった。


5話 錬金術師、始まる。

 厳かな雰囲気の中、俺はたるんだ意識を引き締めるのに精一杯だった。

 

 

「『真紅の巨魔獣(ベヒモス・スカーレッド)』討伐の功績を認め、ゼレティア王国を代表し、グラグ・レ・ゼレティアより直々に褒賞を授与するものである」

 

 

 うるさいくらい大きな声で、俺以外の者にも聞かせるためとは言え、鼓膜が震える感覚が分かるくらい大きく、宰相らしき人物が宣言する、宰相って偉い人だよな、こういうこともするの?

 

 しかし、何をどう間違ったら王都の最深部にある王宮まで連れてこられて、なおかつ王様と謁見する羽目になるんだと、冷静な部分がツッコミを入れている。

 興奮した部分が周囲を見ろ、景観はどんな感じだ、集まった人間は全員貴族なのかと暴れるので、俺はそれに負けた。理性と本能の乖離がアレ以降酷くて叶わない、本来二つで一つだろ君ら。

 

 そもそもここは、王都にある城の中、王の権威を示し王族が暮らす王宮である、平民は外観すら知ることもできず、貴族ですら安々と足を踏み入れることは出来ない。

 

 そしてここは、王宮の中でも最上位に位置する部屋、王の間だ、王とはゼレティア8世王である、またの名をグラグ・レ・ゼレティアという。

 

 王の間は王に謁見をするための部屋であり、新たな法律を宣言する場所であり、威厳と立場を持って罪を犯した貴族を自らを法として断罪する場所だ。

 あと一つ使い道を上げるなら、今の俺のように『国家に対する大きな貢献』をした人間とかを評価する場だ。

 

 

「錬金術師アキール、面をあげよ」

「やっとか」

 

 

 宰相より宣言があって初めて頭を上げ、周りを見る事が出来る、赤い絨毯は見飽きていた。

 

 頭を上げ、立ち上がろうとして……バランスが取れず少しふらりとする、それを隣に控えていた騎士に助けてもらう、迷惑を掛けましたと言えば向こうはものすごい勢いで首を振る。

 

 

「隻腕の勇者様をお支えできて、光栄です」

 

 

 隻腕の勇者様、俺のことだ、勇者なんて柄ではない。

 どちらかと言うと物理学者になりたかった、せめて何かの学者になりたかった哀れな錬金術師だ、君たちの舐め腐った王女殿下のせいで勇者になったんだよ。

 

 騎士から目を離すと今度は王の間にいる人間の多さに驚く、王の間は広い、絶対性と威厳を示すために金や銀の宝飾品、凝った細工のシャンデリア、華美な鎧や剣を飾られている、その上で五十人を越す人間がまばらに並んで余裕があるスペースだ、ここに住める。

 

 そしてこの場の主である王のおわす玉座は、豪華絢爛の体現だった、青、赤、白の宝石が散りばめられた肘掛け、高い背もたれの上に飾られた神の後光をイメージされた装飾、何よりも椅子のフレームの至る所が金で作られている。

 

 それに目を奪われてしまうが、そこから視線を横にずらすと見知ったクソ野郎が澄まし顔でそこにいる、玉座の横に小さい玉座があってそこへ腰を下ろしていた。

 

 

「よくぞ、よくぞやり遂げた、君と、君をこの国へと導いた神の運命に感謝を捧げる……形式張った式は嫌いだ、英雄殿もそうだろう?」

 

 

 ハハハと笑いながら玉座から立ち上がり、興奮した面持ちで一歩ずつ俺へと近付いてくるゼレティア8世王、この場にいるものはそれに驚き、あるいは見定めているようでもあった。

 

 俺はどちらでもなく困惑していた、王がかなり軽い。

 

 ゼレティア8世王は見た目だけはいい王女殿下の親だけあって金髪碧眼のダンディなイケメンだ、若々しさと老練さが同居する丁度中間、努めて王たらんとする訳でなく、王として生きるのが当たり前という意識が振る舞いに現れている。

 

 ゼレティア8世王は俺の前まで来ると、右腕あっただろう場所に手をかざし、撫でるように上から下へと動かす。

 

 

「ううむ、名誉の負傷とは言え……辛いものだ、本人はもちろん、我々も英雄の体に深い傷があることが居た堪れない」

「いえ、重傷ですが、問題ありません」

「おお、そうか、それを事もなげに言い切ってしまうとは流石の度量だ、さて、まずは話をしよう、まだ歩きにくいだろうから手を貸そう」

「では、遠慮なく」

 

 

 俺の側に控えていた騎士を手で離れるように指示を出すと手を取り、俺を玉座の前へ導く、僅かな距離とは言え王自らのエスコート、外野は騒々しくなるが、宰相は一睨みで黙らせる。

 

 玉座の近くまで来ると王は玉座へと崩して座り、俺はその前へ控えた、クソと目が合った、奴はすぐに視線を外して今にも逃げ出そうとしている、父親はそれを知ってか知らずか、娘へ意識を割いていた。

 

 

「ああ、楽にしてくれ、皆大仰なんだよ」

 

 

 そう言うならと俺は少しだらけた姿勢で立ち、文句がありそうな貴族の視線を背に王の次の言葉を待った。

 

 

「さて、英雄よ……色々と言いたいだろうが先に聞かせてくれ、かの『真紅の巨魔獣(ベヒモス・スカーレッド)』をいかにして倒し、その首を城下まで一人で引きずったのだ? 英雄自らに英雄譚を語らせるようで悪いがな」

 

 

 王の砕けた、しかし礼節を忘れない言葉に、そして少年のようなその目に、俺は語るべきと思った。

 一つ一つを深く思い出すことは無理だが、全体の流れというのは覚えている。

 

 思い出すように俺は語るのだった。

 

 

「奴は強敵でした、私の攻撃が効かず、万事休す所を攻撃され──―」

 

 

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

 

「げほっ……げほっ……」

 

 

 俺はついに奴を倒した、成功したんだ、自分に許された技を駆使して、死ぬほど痛い目を見たが、それでも最後には俺が勝った。

 

 全身に水銀が回り切り口からも銀色を垂れ流し、僅かな痙攣もない真紅の巨魔獣(ベヒモス・スカーレッド)を見下ろす。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 首を持って帰るって話だったが、この首デカすぎないか?

 

 控えめに言って俺の状態は最悪だ、右腕がない、魔力も底、足はまだ動くが筋が痛い、走れそうにない。

 

 どうやってコイツを持って帰るんだ、バスより大きくビルより重い、重機があったとしてもこのまま持って帰るなんて出来ない。

 解体し、頭だけ持って帰るのが現実的かと思えば、頭だけで何トンもありそうなサイズ。

 

 数トン単位で耐えられる構造で、人間一人が動かせる装置、そんな都合のいいモノがあればいいが。

 

 

「……車か?」

 

 

 一日かけて魔力を回復し、植物繊維のロープと木造クレーンを錬成、更に巨大なリアカーを生成して、頭だけ切断して乗せる。

 

 

「無理だよな」

 

 

 人力は無理だ。

 

 

 軽くなればあるいは……だが、錬金術に質量を減らす方法なんてあったかどうか、今から編み出すのも難しい、質量は減らせない、重さの絶対値は変わらない。

 世の中には重力魔法という便利な魔法があるようだが、位階の高い魔法師が気合入れて使うような汎用性の面で使いにくいものだと聞く。

 

 どうにか軽くできないものが、浮いてくれればなぁ。

 

 近くに川があれば浮力を追加して水の力で運べそうだが、あいにく水はない、川を作るゴリ押し作戦はもっとアホ。

 

 俺は理系だ、理系らしい馬鹿になろう。

 

 浮力で思いついたが、要は重さの軽減があればいい、水素は大気より軽い、かつて飛行船が浮いたように、この超馬鹿デカい猪を浮かせればいい。

 

 ありがとうヒンデンブルク号。

 

 

「水素はある、木もある、うん、やれるな」

 

 

 早速木という木を植物繊維の布にする、この時木の水分を別に取っておく、大きい四角して繋ぎ合わせる、魔力で柔軟性と耐久性を強化して布の目をなるべく細かく加工する、球形の骨組みに布を被せ余った部分は錬成してきり落とす、落とした部分は錬成し直して再利用、はい気球の完成。

 

 そして木の水分を錬金術で分解して水素を発生させる、これを気球内に完全に満ちるまで続けて浮いたら止め、気球の穴を閉じる。

 

 これを何度か繰り返して20ほど作る、全部括り付けてやっと死体が浮き上がる、後はコイツが全力疾走して一直線に道を作ってくれた場所を通るだけだ。

 

 気球で浮かせた猪の化け物をローブ一つで引っ張るだけでも結構疲労したが、その程度で運搬出来た訳だ。

 

血赤の森(ロッソ・フォレスト)』は意外にも王都に近く、何キロか離れるが、森を抜けたすぐに王都が視界に入る、歩くのは億劫だっだか、あの女に一目こいつを見せてやりたかったんだ、理系のストレス耐性舐めんなよ、実験なんて結果が出るまでやり続けて結果が出なかった発狂してやり直すんだぞ。

 

 

 こうして1週間以内に、俺は王都へと戻ったのだった。

 

 

 

 

 ◆

 

 

 

 

 

「と、言った結末でございます」

 

「…………錬金術師ってこんなのだっけ?」

「陛下、心の声が漏れてますよ、引き締めてください」

「あ、うん……なるほど大義であった」

 

 

 適当に取り繕い過ぎだろ。

 

 呆けていたが、事の顛末を語り終えると王は満足そうにうなずき、宰相を側に呼び耳打ちし、宰相も納得したように頷いてからまた元の位置へ下がった。

 

 王は自慢の髭をさすり、ニヤリとしつつ、視線は娘と俺を2度往復し、これでいいとばかりに髭から手を離す。

 

 

「常識の範疇に収まらないその発想力と技術、そして胆力はまさに英雄だ、イクリプス神もその勇気に天より祝福なさるだろう」

 

 

 王の顔に、これは前置きですよ、と書いてある、物理的に書いてあるわけじゃないがあからさまにそう見える。

 ここから次にいう言葉が大事な部分だからしっかり聞けと宰相が見つめてくる、姿勢を正して傾聴する。

 

 

「本来ならば金貨や宝、特権を与える所であるが……先に娘が『何でもする』と約束そうだな」

「おと……っ、陛下、私はそのような──」

 

 

 クソ娘さんが割って入る、しかし王は視線で黙殺した、娘は頭を下げすぐに引き下がるが僅かに見えた表情には絶望が浮かんでいた。

 錬金術師イジメがバレてないとでも思っていたのか、それとも自分の情報が筒抜けになっていたことに恐れているのか……どちらでも俺は構わない、報いを受けてもらうつもりだった。

 

 

「したそうだ、ならばその約束を違えては、王家の恥だ、何なりと叶えよう、英雄よ……望むなら娘でも、地位でもな」

「陛下っ!」

「控えろファティマ、ここを何処と心得る」

「……失礼……しました……」

 

 

 話の分かってない貴族たちがざわめき立つが、今度は宰相は止めない、状況を利用したいのか、はたまたどうでもいいのか。

 

 確かに何でもするという約束は交わしたような気がする、しかしそれを王女殿下ではなく王が言い出すとは、狙いは? そもそもあの猪一匹にそれが許される何かがあったのか? 今更、不思議に思えてくる。

 

「一つ質問させていただいてよろしいですか」 

「ああ、認める、なんだ?」

「あの『真紅の巨魔獣(ベヒモス・スカーレッド)』は、そこまでの魔物だったのですか? 強いのは強かったですが……それなりの魔法師ならば苦戦は無かったでしょう?」

 

 

 ──シーン……

 

 

 沈黙に音はない、だが今回は音がしたようにすら感じる。

 

 宰相が噴き出した、王が目頭を押さえ出す、騎士たちが歓声を上げ、貴族たちは常識について打ち合わせを始めた。

 

 

「……何も知らないで倒したのか?」

「何分田舎の出でして、魔物の情報に疎く……」

「……アレは、気まぐれにでも暴れれば森一つ、街一つ消し飛ぶような魔物だった、一位魔法師が束になってもその毛皮は貫けず、巨大な牙はあらゆる盾を破壊するのだと」

 

 

 ふぅん、と、思わず口に出た。

 宰相、何も分かってねぇなコイツって顔するのやめろ。

 

「無知か?」

 

 言い方違うだけでほぼその通りだとっ!

 

 

「まぁよい、英雄譚の英雄は、規格外だ、そのような事も……あったかな?」

「陛下」

「む、すまん。では改めて、何でもよいぞ、褒美として望むものを言え、ふふ、『賢王の本棚(キングライブラリ)』の閲覧や『法術窮理院』への入学資格、色々とできるぞ、王だからな」

 

 

 どれも面白そうだ、心惹かれるものだが……。

 俺の望むもの、たった一つだ、たった一つだけどうやっても叶えたい、クソ女、王女殿下、頭の軽いアホ、言い直そう。

 ファティマ王女殿下に置かれましては錬金術師をバカにした報いを受けやがれ下さい。と。

 

 

「私が望むものは一つ、ファティマ・リィ・ゼレティアが侮辱した全ての錬金術師への謝罪、そして錬金術師を魔法師のなり損ないと見下すその心根を改めていただきたい」

 

「ほう、それが願いか?」

 

 

 ファティマの手が俺を狙い激情に染まる顔は、俺の生存を許さないと言っていた。

 その手にはすでに三回殺せる量の魔力が渦巻いている、宰相は冷や汗を垂らしながらファティマから離れ、王は逆に握手でもするように手を差し出す。

 

 

「王族に対して謝罪を要求などと!! ふざけているのか錬金術師風情が!」

「やめよファティマ、元は貴様が招いた必然であろうが」

 

 

 ふっ、と魔力が掻き消える、他者の魔力へ干渉し、魔法の成立を妨害する、などというのは高等テクだ、詠唱があればそこから魔力の流れを推察、判断して妨害は可能だ。

 無詠唱はそもそも無数の選択肢から一つ選ぶようなクイズになる、あとは特別に魔力の流れに見覚えがあるとか。

 

 まぁ、家族なら、普通に後者なのだろう、癖を把握し切った王の勝ちだ。

 

 

「何故止めるのです陛下!」

 

「お前のやったこと、やって来たことを全て許してきたが……錬金術師へ個人的な怨みをぶつけ追放などとふざけた事をするとは思いもよらなかった、私は悲しいぞ、そして怒っているぞ、かなりな」

 

「それは認めましょう、ですが、錬金術師は魔法師にもなれない浅学非才の輩共! 魔法師の真似事をしているに過ぎない、弱さと異端を許さないイクリプス神、いいえ、陛下の思想に合致しない不届き者だっ!」

 

「だから死ねと言ったのか? だから『血赤の森(ロッソ・フォレスト)』へと送り込むのか? 自らの正義を信じる割には、自ら刑を下すことなく、責任を負わぬ貴様がそれを言うのか?」

 

「この王都から錬金術師が一匹残らず駆除出来れば、何をどうしようと同じ事、理路整然とした過程よりも、カオスであろうと結果が最優先だと思いませんか陛下、お父様……?」

 

「思わぬ」

 

 

 最後には弱々しく、言いたいことを言い尽くしたファティマが消え入るように縋りつく、しかし、王は王だ、王の間にいる間は肉親にも王の理屈を突きつける、王の絶対を叩きつける。

 

 もはや、誰も口を開こうとしない、先ほどまでの和気藹々とした雰囲気は一転して全員が処刑台へと登り始める罪人のように黙りこくる、沈黙以上の選択肢があるなら、縋りつきたい。

 

 そういう意味では、空気を読まない俺の声が、鶴の一声に聞こえただろう。

 

 

「では、私はこれで失礼する」

 

「……何だと?」

 

「謝罪は受け取れなかったが、この場にて自らの心中を吐き出し、王に断罪されるのを待つ女に、何を求めるのか……私はもう得るものがない」

 

「そうか……なら、今すぐ渡したいものがある」

 

「それは?」

 

「この娘だ、もはや王族として置いておくわけにもいかぬ、だが、その失った右腕代わりにはなるだろう、どうだ? そうでなくとも()()()()()()()

 

 

 王の提案、特に最後の言葉に彼女の肩が跳ねる、錬金術師に対し好きしてよい、それはつまり人体を使った錬成でさえ、好きにしてよい、そういうニュアンスが含まれる。

 

 貴族たちに動揺が訪れる、止めようとする者、促す者、静観する者、企む者、反応は様々だが、損得と数字が友達の貴族は誰も彼女の反応を見ない。

 

 俺にこの不良債権を押し付ける理由は何だ? いくらなんでも第一王女をこんな適当に放流していいはず無い、俺は政治に疎いが、こんな大胆な話では苦手も得意も無い。

 

 

「受け取らなければ?」

 

「処断だ、我が国を支える錬金術師へと反逆行為、見逃せるはずがない、そして積み重なった罪は命か、あらゆるすべての特権を手放すか、どちらかでのみ許される」

 

 

 なんか、遠回しに受け取れと言われているような気がしてならない、要らない、こんな女いらない、だけど、目の前で殺すとか言われて、しかも実の父親にそんな風に言われてる。

 錬金術師を貶めた動機も年相応の物だ、親に言われた事を忠実に、自分なりに解釈してやっている、それを間違っていると誰も言えない立場にいた事が不幸の始まりだ。

 

 

「……ここまでの事件はこれ以外に?」

「宰相」

「今回のような事は初めてです、それまでは錬金術師への嫌がらせ、第三者を通じた暴力など……命を奪うに至ってはおりません」 

 

 

 ため息を付く、更にため息、もう一回ため息、うんざりだ。

 

 だが、見過ごせない、無視できない、したくても本能も理性も許してくれない、右も左も分からない俺にジンとカマルは親切にしてくれた、何もない俺に与えてくれた。

 

 だからじゃないが、そんな俺が今、すべてを失った女を無視して帰れば、小さくとも、心に一生残る傷になる、それはあまりにも鬱陶しい、原因が奴の自業自得だとしても……はぁ、全く。

 

 

「はぁ、分かりました、引き取ります」

 

「とのことだ、ファティマ、最後の情である、別れを告げることを許そう、だが今後ゼレティアと名乗ることを許さない、名乗れば反逆罪で処刑台へ送る」

 

 

 ただのファティマは幽鬼のようにフラフラと立ち、辛うじて、王や俺には聞こえる、蚊の羽音のようなか細い声を生じた。

 

 

「さ……よ、う……なら、お父様、兄弟たちを…………よろしく、お……願いします」

 

 

 その場で、彼女は停止した。そこだけ時間が止まったように、何もかも止まった。

 

 

「行くぞ」

 

 

 俺は腕を掴み、少し乱暴に引いて歩く、心神喪失と言うのはこういうことか、無抵抗についてくる、まるで高飛車だったのが嘘のように。

 

 

 

 

 

 俺の新生活は、一人の女の終わりから始まった。

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