媚 び を ウ ル フ   作:けもみみだいすき

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第7話 強敵を倒す前に、尾行することにしました

ユーキは、どうやら村から人が消える現象と、その犯人を探してこの地までやってきたらしい。

 

「村から人が消える、ですか?」

 

「ああ。周辺のいくつかの村で、似たような話を聞いた。家屋が破壊され、人だけがいなくなっている」

 

それを聞いて、私は少し考える。

 

そして。

 

「…それなら、私に心当たりがあります」

 

数日前に見た、あの巨人。

家をまるで積み木のように壊し、村を歩き回っていた化け物。

 

あれ以外に考えられない。

 

「この近くに、前に見つけた村があります」

 

「そうか。そこに、案内できるか?」

 

「もちろんです!」

 

こうして私たちは、以前私が訪れた廃村へ向かうことになった。

 

 

 

 

 

 

「…ここです」

 

村に足を踏み入れた瞬間。

数日前と変わらない、異様な光景が広がっていた。

 

壊れた家、崩れた壁、そして地面に散らばる木材。

 

人の気配は、まったくない。

私の耳が、鳥の声すら拾わない。

 

何度見ても、嫌な場所だ。

 

ここには確かに人が暮らしていたはずなのに。

今はまるで、村だけが取り残されている。

 

ユーキは周囲を見回しながら、ゆっくりと歩く。

そして、壊れた家の跡を見ながら呟いた。

 

「これは……かなり大きな魔物の仕業だな」

 

「えぇ」

 

私は頷く。

 

「しかも、めっちゃ強そうでした」

 

「……そいつを見たのか?」

 

「はい」

 

私は、以前ここで見たことを話した。

 

巨大な身体。一本の角と大きな棍棒。

 

家を次々と破壊していたこと。

そして、その巨体で村の中を歩き回り、何かを探していたこと。

 

「なるほど」

 

「多分ですけど、人間がいないか探してたんじゃないですかね」

 

ユーキは顎に手を当て、少し考え込む。

 

「それなら、おそらく番がいるのだろう」

 

「……番?」

 

「ああ」

 

「番って……」

 

嫌な予感がする。

 

「普通に、夫婦とか、そういう意味ですか?」

 

「そうだ」

 

あの巨人に、番。

 

「…………なんか、想像したくないなぁ」

 

私の頭の中に、巨大なサイクロプスが二体並んでいる光景が浮かぶ。地獄絵図である。

 

くっそ怖い。

 

ただでさえ一体でも十分怖いのに、二体とか勘弁してほしい。

 

「魔物にはな」

 

ユーキが続ける。

 

「自然発生するものと、生き物と同じように、番を作って生まれるものがいる」

 

「へー…」

 

魔物にもそういう違いがあるのか。

 

今まで魔物なんて、ゲームの敵キャラくらいにしか考えていなかった。

倒したら消えるもの、そんな認識だったのだ。

 

「じゃあ、あの巨人にも番がいて、そのために……」

 

「可能性は高い。おそらく、番か子供のために食料を集めているのだろう」

 

「……人間が、食料に」

 

ますます会いたくない。

できれば一生会いたくなかった。

 

などと考えていた、そのとき。

 

「――しっ」

 

突然、ユーキが人差し指を口元に当てた。

 

「静かに」

 

「え?」

 

「何か来る」

 

「……!」

 

私は慌てて耳を澄ます。

最初は何も聞こえなかった。

 

だが。

 

……ズン。

 

「……?」

 

地面が、わずかに揺れた。

 

ズン。ズン。ズン。

 

次第に、その揺れが大きくなっていく。

 

「……来たな」

 

ユーキが村の入口へ視線を向けた。

私もそちらを見る。

 

そして、見えた。

 

遠くの木々の向こうから、ゆっくりと姿を現す巨大な影。

 

一本の角。異様に大きな身体。手には、巨大な棍棒。

 

間違いない。

 

「……あ」

 

数日前に見た、あの巨人だ。

 

「サイクロプス……」

 

思わず呟く。

 

以前よりも、はっきりと見える。

そして改めて思った。

 

「でっか……」

 

いやデカすぎる。

ユーキの身長の五倍くらいあるんじゃないか?私だと、八倍ぐらいか。

 

正確なところは分からないが、とにかく大きい。

あんなものに殴られたら、私なら一発で人生終了だ。

 

いや、人生というか、肉体が終了する。

ミンチよりひでぇ目にあいそうだ。

 

もし見つかって食料として連れて行かれたとする。

それだったとしても、サイアクなめにあわされそうなよかんがする。

 

「よし」

 

ユーキが腰の剣に手をかけた。

 

「手っ取り早く倒そう」

 

「え?」

 

シュッと、剣が鞘から抜かれる。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!」

 

「なんだ?」

 

「いやいやいや!」

 

私は慌ててユーキの腕を掴みそうになって――

 

直前でやめた。やっぱり怖いから。

代わりに、必死に声だけを上げる。

 

「ユーキさんの五倍くらい大きいですよ!」

 

「そうだな」

 

「そうだな、じゃないです!」

 

「問題ない」

 

「問題ありますって!」

 

ユーキは平然としている。あれが怖くないのか。

 

「いくら貴方が強くたって、あんなの勝てっこないです!」

 

「心配いらない」

 

「いや、心配しますよ!」

 

「俺なら、あれぐらいの魔物は普通に倒せる」

 

「…………は?」

 

普通に、あれを、倒せる。

 

……。

 

やっぱり、この人おかしい。

いや、強いのは知っていた。知っていたけど。

 

「でも、あんなに大きいですよ!?」

 

「大きさと強さは別だ」

 

「いや、それはそうですけど!」

 

たしかに理屈としては分かる。

大きいから必ず強いとは限らない。

 

でも、目の前にいるのは巨大な角と棍棒を持った化け物なのだ。

どう考えても危険物である。

 

しかもユーキは、一人で突っ込もうとしている。

 

「そ、それでも、ちょっと待ちましょうよ!」

 

「……?」

 

ユーキがこちらを見る。

 

「なぜだ?」

 

「なぜって……」

 

言葉に詰まる。

別に、私が戦うわけじゃないのだ。

 

ユーキなら勝てると言っている。

だったら任せればいい。それが一番安全なのかもしれない。

 

なのに。

 

なんとなく、嫌だった。

 

この世界に来て、初めてまともに話した人。

私を魔物だと疑いながらも、殺さずに助けてくれた人。

 

翻訳魔法を使ってくれて。

私の回復魔法について教えてくれて。

 

そして今、こんなに近くで生きている。

 

もし。

 

もし、万が一にもあの巨人に負けたら。

 

私はまた一人になる。

また誰とも話さない、寂しい生活に戻る。

 

それに――

 

「……町」

 

「は?」

 

そう。

 

この人には、いつか人間の町へ連れて行ってもらえるかもしれない。

 

もしここで死なれたら、その可能性もなくなる。

 

うん。

 

これは別に心配しているわけではない。

 

打算だ。完全に打算。

私は打算的なオオカミ少女なのだ。

 

だから止めるのだ。

……たぶん。

 

「……あっ!」

 

そこで、私は思いついた。

 

「そ、そうだ!」

 

「?」

 

「番がいるなら!」

 

私は巨人のほうを見る。

巨人は村の中をゆっくりと歩きながら、壊れた家をさらに棍棒で叩き壊している。

 

ズガンッ!

 

「ひっ」

 

音だけでも怖い。

だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。

 

「後をつけましょう!」

 

「後を?」

 

「はい!」

 

私は勢いよく頷く。

 

「そのまま倒すんじゃなくて、あいつの後をつけて、巣まで行くんです!」

 

ユーキが黙って私を見る。

 

「そこで不意打ちして倒しましょう!」

 

「………」

 

「それなら、もっと安全ですよね?」

 

私はさらに続ける。

 

「それに、もしかしたら……」

 

「……連れ去られた人間がいるかもしれない、か」

 

「そうです!さっすがユーキさん!話がお早い!」

 

私は手をにぎにぎと揉みながら答えた。

 

「村から人が消えているなら、あの魔物が連れていった可能性がありますよね。巣に行けば、生きている人がいるかもしれませんよ!」

 

ユーキはしばらく巨人を見つめていた。

 

そして。

 

「……確かにそうだな」

 

剣を鞘へ戻す。

 

「少し様子を見よう」

 

「よ、よかったぁ……」

 

思わずへなへなと息を吐く。

 

危なかった。

 

もし今すぐ戦っていたら、ユーキが勝てるかどうかを見守るだけでも心臓が持たない。

 

私は物陰に身を隠しつつ観察する。

ユーキも少し離れた場所で、巨人から姿が見えないように身を低くした。

 

「……あいつ、どこへ向かうんでしょうね」

 

「分からない。だから見るんだろ」

 

「あっ、はい」

 

私たちは黙って巨人を観察する。

巨人はしばらく村を歩き回り、残っている家を次々と壊していく。

 

ズガン。

 

ズガン。

 

ズガン。

 

そのたびに、木材が吹き飛ぶ。

 

私は思わず身を縮める。

 

やっぱり怖い。

あんなものに見つかったら、私は一瞬でぺちゃんこだ。

 

隣を見る。

 

初めて彼の顔をちゃんと見た気がする。

如何にもな欧米人っぽい金髪と綺麗な翡翠色の瞳。顔も整ってて、普通の女性ならコロッと惚れちゃいそうだ。

 

私は元が男性だから安心だけど。

 

ユーキはじっと巨人を見ている。怖がっている様子はない。

……本当に、この人は大丈夫なのだろうか。

 

そんなことを考えていると、やがて巨人が村の外へ向かって歩き始めた。

 

「……動いた」

 

ユーキが小声で言う。

 

「そうですね」

 

私も頷く。

 

距離を保ちながら、後をつける。

巨人の足跡は、誰が見ても分かるほど大きい。

 

これなら追跡するのも難しくない。

 

「……これなんだか、探偵みたいですね。尾行ですよ尾行!」

 

「静かにしろ」

 

「はい」

 

こうして私たちは、村を荒らす巨人の後を追い、その根城を探すことになった。

 

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