BLEACHの世界に転生したけど何故かステータス画面があるんだが 作:最強主人公2
「朔、起きたの?」
柔らかな声が聞こえて、朔はゆっくりと目を開けた
視界に入ったのは、いつもの女性の顔だった
この数日で、朔は少しずつこの女性のことを理解し始めていた
どうやら自分の母親らしい
名前まではまだ分からないが、毎日のように自分の世話をしてくれていることだけは分かる
「……あぅ」
「ふふっ、今日も元気ね」
母親が笑いながら朔を抱き上げる
まだ首も完全には安定していないため、されるがままになるしかない
最初はこの状況にかなり戸惑っていたが、数日も経てば少し慣れてくるものだった
何より、赤ちゃんという立場は思っていた以上に自由がない
自分で歩けない
自分で食事を用意できない
自分で服を着ることもできない
そして、眠くなれば勝手に眠ってしまう
「……赤ちゃんって大変だな」
心の中で呟きながら、朔は母親に抱かれたまま部屋を見回す
木造の家
畳の部屋
障子
前世の日本にもありそうな風景だが、どこか違う
その違和感の正体を、朔はまだ掴めていなかった
しかし、数日間生活しているうちに、少しずつ気づいたこともある
まず、この家にはテレビがない
当然、スマートフォンもない
電気そのものは使われているようだが、生活用品の多くは前世とはかなり違っている
そして何より気になるのが、外から感じる奇妙な気配だった
「……これが霊圧なのか?」
朔は目を閉じる
すると、周囲に漂っている何かが、ほんの僅かに感じ取れた
空気とは違う
匂いとも違う
目には見えないが、確かにそこに存在している
朔が意識を集中させると、それに反応するようにステータス画面が現れた
【感知能力:4】
「……やっぱり」
まだ数値は低い
だからなのか、感じ取れるものも非常に曖昧だった
それでも、前世では絶対に感じられなかったものが、この世界では確かに存在している
つまり、ここは間違いなく普通の世界ではない
朔が考え込んでいると、母親が不思議そうに顔を覗き込んできた
「どうしたの?」
「……あぅ」
「お腹空いたのかしら?」
「違うんだけどな……」
当然、母親には伝わらない
仕方なく朔は大人しく抱かれながら、周囲の会話を聞くことにした
それが、今の自分にできる一番の情報収集だった
しばらくして、隣の部屋から男性の声が聞こえてくる
「今日は少し遅くなる」
「分かったわ」
「最近、南側で虚の目撃が増えているらしい」
その言葉を聞いた瞬間、朔の思考が止まった
「……虚?」
聞き間違いではない
確かに聞こえた
母親も特に驚いた様子を見せない
「また増えたの?」
「ああ、死神の連中も警戒しているみたいだ」
朔の目が大きく開く
死神
虚
その二つの言葉が出てきた時点で、もう疑う余地はなかった
ここは本当にBLEACHの世界だ
しかも、少なくともこの世界では死神や虚が存在することが、ある程度知られているらしい
「……マジか」
前世で何度も見た名前
漫画やアニメの中でしか存在しなかったもの
それが、今は自分のすぐ近くに存在している
朔は母親の腕の中で固まっていた
怖い
正直、怖い
虚なんてまともに戦える相手ではない
今の自分は赤ちゃんで、歩くことすらできない
そんな状態で虚に遭遇したら、何もできずに終わる
「……絶対に強くならないと」
心の中でそう呟く
その瞬間、視界の端に小さな文字が浮かんだ
【新規目標を確認】
朔は目を見開いた
【目標:基礎能力の向上】
【達成条件:対象者自身の能力を成長させる】
【報酬:条件達成後に決定】
「……目標?」
初めて見る表示だった
朔が意識を向けると、画面にはそれ以上の情報が表示されない
「なるほど……」
システムは、ただ数字を表示するだけではないらしい
もしかすると、自分の行動や成長に応じて何かしらの反応を返してくれるのかもしれない
なら、試してみる価値はある
朔は小さな手を握った
もちろん、今の身体では大したことはできない
腕を動かすだけでも疲れるし、少し身体を起こそうとするだけで息が切れる
それでも、やれることから始めるしかない
まずは身体を動かす
少しずつ筋肉を使う
身体が成長したら歩く
歩けるようになったら走る
そして、その先で剣術を学ぶ
「……剣、か」
朔の脳裏に斬魄刀が浮かぶ
まだ自分には存在しない
ステータスにも【未解放】と表示されている
だが、いつか手に入れることができるのなら、そのときまでに自分自身を鍛えておきたい
そんなことを考えていると、隣の部屋から再び男性の声が聞こえてきた
「それと、明日は少し早く帰れると思う」
「本当?」
「ああ、隊の仕事もそこまで多くないからな」
朔はその言葉を聞き逃さなかった
「隊……?」
母親が少し笑いながら答える
「じゃあ、明日は朔と一緒にいられるわね」
「ああ」
その会話を聞きながら、朔はじっと天井を見つめた
まだ分からないことだらけだ
この家族が何者なのか
自分がどこに住んでいるのか
そして、父親が言った「隊」が何を意味しているのか
朔はその言葉を頭の中で何度も繰り返した
「……明日、聞けるかな」
もちろん、今の朔に質問することはできない
代わりに、眠る前にもう一度だけステータス画面を開いてみる
【Lv.1】
【EXP:0 / 100】
【SP:0】
【AP:0】
何も変わっていない
「まあ、そんな簡単には上がらないよな」
画面を閉じようとした、そのときだった
【感知能力:4】
その数字の横に、一瞬だけ小さな文字が浮かび上がった
【微量の霊圧反応を検知】
「……え?」
朔は思わず目を見開いた
だが、もう一度確認しようとした瞬間には、その表示は消えていた
【感知能力:4】
いつものステータス画面だけが残っている
「今の……なんだったんだ?」
システムが何かを検知した
そう考えるのが自然だったが、相手が何なのかまでは分からない
そもそも、朔自身がまだ霊圧というものを正確に理解できていない
ただ、ひとつだけ分かることがある
この家の近くに、自分以外の霊的な存在がいる
その可能性は高そうだった
朔はしばらく画面を眺めていたが、やがて眠気に負けて目を閉じた
赤ん坊の身体は、とにかく眠い
どれだけ考え事をしていても、身体のほうが先に限界を迎えてしまう
「……まあ、明日だな」
そんなことを考えながら、朔は眠りについた
翌朝
朔が目を覚ますと、いつもより家の中が騒がしかった
「ほら、朔。お父さんよ」
母親に抱き上げられ、朔は声のした方向へ顔を向ける
そこには、一人の男性が立っていた
黒い髪に、穏やかな目
年齢は三十代前半くらいだろうか
普段着の上に羽織を重ねており、腰には一本の刀が差されている
「おはよう、朔」
男性が笑う
「……!」
刀
その瞬間、朔の意識が一気に覚醒した
昨日の会話が頭をよぎる
死神
隊
そして、今目の前にある刀
「もしかして……」
朔は必死に男性を観察した
すると、視界の端にステータス画面が浮かぶ
【対象:神代 ○○】
【種族:死神】
【霊圧:測定中】
「……っ!」
やっぱり
父親は死神だった
しかも、システムは目の前の人物を対象として認識している
朔は思わず身を乗り出そうとしたが、身体が思うように動かず、結局は母親の腕の中でもぞもぞするだけだった
「はは、元気だな」
父親が近づいてくる
そして朔の頭を優しく撫でた
「昨日は遅くなって悪かったな」
「最近、虚が増えてるんでしょう?」
「ああ」
父親の表情が少しだけ真剣になる
「現世側の境界付近で、妙な動きがあるらしい」
「妙な動き?」
「まだ詳しいことは分からない、ただ……普通の虚だけじゃない可能性もある」
朔は黙って二人の会話を聞いていた
虚だけじゃない
その言葉に、少し嫌な予感がする
しかし、今の自分には何もできない
知識はある
原作の展開も、ある程度なら知っている
だが、この世界が原作と完全に同じ時間軸なのかどうかは分からない
自分が生まれた時代すら、まだ把握できていない
それに、原作知識があるからといって、何でも知っているわけではない
BLEACHには、原作で明かされていない部分も数多く存在する
「……まずは情報だな」
朔は心の中でそう決めた
強くなることも重要だ
だが、それ以上に、この世界のことを知らなければならない
自分がどこにいるのか
いつの時代なのか
父親が所属している隊は何番隊なのか
そして、自分が将来どこへ行くことになるのか
「朔?」
母親が不思議そうに顔を覗き込む
「どうしたの?」
「……あう」
「ふふ、眠いのかしら」
違う
そう言いたかったが、今は「あう」としか言えない
すると父親が笑った
「俺に似て、考え事が多い子になるかもしれないな」
「あなたに似たら大変ね」
「ひどいな」
二人の会話を聞きながら、朔は少しだけ安心した
この世界は危険だ
虚がいる
死神がいる
原作に登場するような、とんでもない存在だっているかもしれない
それでも、この家の中には穏やかな時間がある
少なくとも今は、それを大切にしてもいいのかもしれない
その日の昼過ぎ
父親が出かける準備を始めた
腰に刀を差し、羽織を整える
その姿を見て、朔はじっと刀を見つめた
「……刀」
声にはならなかったが、目だけは完全に刀へ向いていたらしい
父親が気づく
「これが気になるのか?」
父親が刀の柄に手を添える
「これは斬魄刀っていうんだ」
「……!」
その言葉を聞いた瞬間、朔の中で何かが繋がった
やはり、この世界は間違いなくBLEACHだ
しかも、父親はただの死神ではない
斬魄刀を持っている
ならば、死神として活動している可能性が高い
「いつか朔にも見せてやる」
父親はそう言って、刀から手を離した
「ただし、今はまだ触らないほうがいい」
「……あぅ」
「もう少し大きくなってからだな」
朔は少し不満だった
当然だ
目の前に本物の斬魄刀があるのに、赤ん坊だから触れない
これほどもどかしいことはない
父親はそんな朔を見て笑いながら、母親に向き直った
「じゃあ、行ってくる」
「気をつけてね」
「ああ」
玄関へ向かう父親を、朔は目で追う
その背中が見えなくなったところで、朔はもう一度ステータス画面を開いた
【Lv.1】
【EXP:0 / 100】
【HP:100】
【霊圧:10】
【霊圧操作:5】
【斬術:5】
【白打:5】
【歩法:6】
【鬼道:1】
【霊体強度:5】
【精神力:8】
【反応速度:6】
【感知能力:4】
【幸運:10】
【SP:0】
【AP:0】
「……やっぱり、変化なし」
だが、朔はそこで諦めなかった
ステータスが上がらないなら、まずは身体を鍛える
今の自分にできることは限られている
それでも、手を握る
足を動かす
身体を起こそうとする
何度も繰り返す
すると――
【身体能力の成長を確認】
【微量のEXPを獲得しました】
「……え?」
初めて、EXPの数字が動いた
【EXP:1 / 100】
朔はしばらく画面を見つめたまま、瞬きすらしなかった
「……そういうことか」
経験値は、戦闘だけで得るものではない
少なくとも、このシステムでは
自分自身が成長することそのものが、経験として認識されるらしい
朔は小さな手を握り直した
そして、もう一度だけ身体を動かした
【微量のEXPを獲得しました】
【EXP:2 / 100】
「……よし」
今度は、はっきりと笑った
【微量のEXPを獲得しました】
【EXP:3 / 100】
「……本当に増えるんだな」
朔は表示された数字をじっと見つめていた
昨日までは【EXP:0 / 100】だったはずなのに、身体を動かしているうちに少しずつ数字が増えている
どうやら、このシステムにおける経験値は戦闘だけで獲得するものではないらしい
身体を動かすことも、何かを覚えることも、自分自身が成長する行為であれば経験として認識される可能性がある
「だったら、今の俺でもできることはあるな」
問題は、今の身体が赤ん坊だということだった
腕を動かすだけで疲れるし、寝返りをするだけでも一苦労だ
歩くことなど到底できない
前世なら当たり前だったことが、今では一つひとつ練習しなければできない
それでも、朔は焦らなかった
時間はある
少なくとも、今すぐ何かをしなければならないわけではない
それよりも先に、この世界について知る必要がある
朔はまだ、自分がどこにいるのかすら正確には知らない
ただ、昨日までの会話から一つだけ確かなことがあった
ここは『BLEACH』の世界だ
「死神と虚が普通に存在する世界、か……」
そう考えていると、襖が静かに開いた
「朔、起きたの?」
母親が顔を覗かせる
「……あう」
「ふふ、やっぱり起きてたのね」
母親は笑いながら朔を抱き上げ、そのまま縁側へ向かった
外へ出ると、穏やかな風が吹いていた
木造の家々が並び、道には人が行き交っている
その中には、黒い死覇装を身に纏った人間もいる
朔はその姿を目で追った
「……死神」
昨日までなら、漫画やアニメの中にしか存在しなかった姿
それが今は、自分の目の前を普通に歩いている
しかも、誰もそれを珍しいものとして見ていない
「やっぱり……ここは本当に尸魂界なんだな」
自分が今いる場所について、朔はそう考えていた
しかし、それ以上のことは分からない
瀞霊廷がどこにあるのか
自分の家が何処にあるのか
護廷十三隊が現在どんな状態なのか
原作で知っている知識が、この時代にもそのまま当てはまるのか
それすら分からない
そもそも、朔は今がいつなのか知らなかった
前世で知っている『BLEACH』の物語が、この世界のどの時代にあたるのかも判断できない
「……時間軸までは分からないか」
原作知識があるとはいえ、全てを知っているわけではない
むしろ、自分が生きている時代についての情報がほとんどない以上、知識をそのまま信じるのは危険だった
「まずは今の時代を知らないとな」
そのときだった
道の向こうから、二人の死神が歩いてくる
「昨日の虚、もう処理されたらしいぞ」
「そうなのか?」
「ああ、隊の連中が討伐したって話だ」
「最近、多いよな」
「仕方ないさ、この辺りは最近ちょっと不安定だからな」
朔は聞き耳を立てた
虚
やはり、この世界では虚の存在が珍しくないらしい
しかし、それ以上に気になる言葉があった
「隊」
昨日、父親もその言葉を口にしていた
父親は死神であり、腰には斬魄刀を差している
ならば、その「隊」というのは護廷十三隊なのだろうか
朔は母親の顔を見上げた
聞きたい
今すぐ聞きたい
だが、当然ながら言葉が出ない
「……あぅ」
「どうしたの?」
「……」
「お腹空いたのかしら?」
「違うんだけどな……」
心の中で呟きながら、朔は小さく息を吐いた
今の自分にできる情報収集は、誰かの会話を聞くことくらいしかない
なら、焦る必要はない
これから成長していけば、いくらでも知る機会はある
その日の午後
父親が帰ってきた
「ただいま」
「おかえりなさい」
母親が玄関へ向かう
朔もその声を聞いて顔を向けた
父親はいつものように黒い死覇装を身に纏い、腰には斬魄刀を差している
「朔は?」
「こっちよ」
父親が近づいてくる
「お、起きてたか」
「……あう」
「はは、元気そうだな」
父親は朔の頭を優しく撫でた
その手つきには、戦場に立つ死神とは思えないほどの優しさがあった
「今日も虚が出たんでしょう?」
母親が尋ねる
「ああ、一体だけな」
「怪我は?」
「ない」
「本当に?」
「本当だって」
父親が苦笑する
朔は二人の会話を聞きながら、父親の腰にある斬魄刀へ視線を向けた
すると、父親が気づいた
「また刀を見てるな」
「……!」
「気になるのか?」
朔は無意識に頷きそうになった
「これは斬魄刀だ」
「……!」
「いつか大きくなったら、朔にも見せてやる」
父親が笑う
「ただ、今はまだ触らせられないな」
「……あぅ」
「もう少し大きくなってからだ」
朔は少しだけ不満そうな顔をした
本物の斬魄刀が目の前にあるというのに、赤ん坊だから触れない
なんとも歯痒い
だが、そこで一つ気づいた
父親が斬魄刀について話しているとき、その表情にはどこか誇らしげなものがあった
「……斬魄刀って、やっぱり死神にとって大切なものなんだな」
朔はそう考えた
ならば、自分にもいつか斬魄刀が与えられるのだろうか
ステータス画面には、確かにこう表示されていた
【斬魄刀システム】
【未解放】
今はまだ何も分からない
それでも、いつか自分も手にすることになるのなら、その時までに強くなっておきたい
その夜
家の中が静かになった頃、朔は一人で身体を動かしていた
腕を伸ばす
足を動かす
身体を起こす
何度も繰り返す
「んっ……!」
身体が前へ動く
ほんの少しだけだった
それでも、確かに動いた
【身体能力の成長を確認】
【微量のEXPを獲得しました】
【EXP:18 / 100】
「……よし」
朔は嬉しくなった
さらにもう一度、身体を動かす
今度は少しだけ距離が伸びた
【微量のEXPを獲得しました】
【EXP:19 / 100】
「やっぱり……」
経験値は、自分の成長によって増える
なら、今は身体を鍛えることだけでも意味がある
歩けるようになったら、もっと動く
走れるようになったら、さらに動く
そして、身体が成長したら剣術を学ぶ
「その前に……まずは喋れるようにならないとな」
自分で情報を集めるためにも、それが一番必要だった
朔は床に手をついた
そして、母親がいる部屋の方向へ身体を動かそうとする
一歩
二歩
そんなものはまだ無理だ
それでも、少しずつ前へ進む
すると、背後から声がした
「朔?」
母親が起きてきたらしい
「こんな時間に何してるの?」
「……!」
朔は振り返る
母親が驚いた顔でこちらを見ている
「もしかして……歩こうとしてるの?」
「……あう」
「ふふっ、まだ早いわよ」
母親は笑いながら近づいてきた
そして、朔を抱き上げる
「でも、頑張り屋さんね」
「……」
「お父さんに似たのかしら」
そう言って、母親は朔を胸元へ抱き寄せた
朔はその腕の中で目を閉じる
まだ何も分からない
自分が何番隊に関係しているのかも、この家がどこにあるのかも、これから何が起こるのかも
ただ一つだけ確かなのは、ここが前世とはまったく違う世界だということだった
そして、いつか自分の足で歩いて、この世界を自分の目で確かめる必要がある
「……早く、大きくならないとな」
小さな声は、まだ言葉にはならなかった
「ん? 何か言った?」
「……あう」
「ふふっ」
母親の笑い声が、静かな家の中に響いた。