BLEACHの世界に転生したけど何故かステータス画面があるんだが 作:最強主人公2
それから、さらに月日が流れた。
朔の身体は少しずつ大きくなり、今では壁や家具に手をつけば、自分の身体を支えて立ち上がれるようになっていた。
「……立てる」
誰に聞かせるでもなく、朔は小さく呟いた。
まだ足元は頼りないが、以前のように寝返りをするだけで精一杯だった頃とは比べものにならない。
そして何より、最近は少しずつ言葉を話せるようになってきた。
「おかあ……さん」
「……え?」
台所にいた母親が振り返る。
「今、なんて言ったの?」
朔は自分でも驚いていた。
口から出したかった言葉が、ようやく声になったのだ。
「おかあさん」
「……!」
母親の目が大きく開く。
「もう一回言って?」
「おかあさん」
「……ふふっ」
母親は嬉しそうに笑い、すぐに朔のところまで駆け寄ってきた。
「ちゃんと言えたわね、朔」
「うん」
「まあ……」
母親は朔を抱き上げ、そのまま何度も頭を撫でる。
「お父さんにも教えてあげないと」
「おとうさん」
「そうそう、お父さん」
「おとうさん」
「ふふっ」
朔自身も少し嬉しかった。
言葉を話せるようになれば、ようやく自分から質問できる。
これまで聞きたいことはいくらでもあった。
ここがどこなのか。
母親は何者なのか。
父親はどこの隊に所属しているのか。
そして、自分が生きているこの世界で、死神たちはどんな生活をしているのか。
だが、いきなり全部を聞くわけにはいかない。
前世の記憶を持っていることを知られるのも避けたい。
だから、朔は子供らしく振る舞いながら、少しずつ情報を集めることにした。
その日の夕方、父親が帰ってきた。
「ただいま」
「おかえりなさい」
「朔は?」
「こっちよ」
父親が部屋へ入ってくる。
その瞬間、朔は立ち上がった。
壁に手をついて、ゆっくりと身体を支える。
父親が目を丸くした。
「お……?」
朔は父親へ向かって、一歩だけ足を動かす。
ぐらり、と身体が揺れた。
それでも倒れず、もう一歩。
「朔?」
三歩目を出そうとした瞬間、足がもつれた。
「危ない!」
父親がすぐに駆け寄り、朔の身体を抱き止める。
「……!」
「ははっ、今のは惜しかったな」
父親は笑いながら朔を抱き上げる。
「歩けるようになったのか?」
「うん」
「おお……」
父親の顔に嬉しそうな笑みが浮かぶ。
「すごいじゃないか、朔」
「へへ……」
思わず笑ってしまう。
その瞬間、視界の端に文字が浮かんだ。
【成長を確認】
【EXPを獲得しました】
【EXP:32 / 100】
「……順調だな」
朔は心の中で呟いた。
しかし、次に表示されたものを見て、少しだけ眉を寄せる。
【レベルアップ条件:未達成】
「まだ上がらないか」
EXPが増えても、一定値に達するまではレベルアップしないらしい。
100まであと68。
今の成長速度なら、まだしばらく時間がかかるだろう。
「朔?」
父親の声で、朔は意識を戻した。
「どうした?」
「……おとうさん」
「ん?」
「おとうさんは……しにがみ?」
父親が一瞬だけ目を丸くした。
母親も少し驚いた顔をする。
だが、すぐに父親は笑った。
「ああ、そうだぞ」
「どこの……たい?」
その質問をした瞬間、父親の表情が少し変わった。
ほんの一瞬だった。
けれど、朔は見逃さなかった。
「隊?」
「うん」
父親は少し考えたあと、朔の頭に手を置いた。
「よく知ってるな」
「おとうさん、いつも……たいって言ってる」
「そうだったか」
父親は苦笑した。
「俺は護廷十三隊の隊士だ」
「……!」
やはりそうだった。
朔は心の中で息を呑む。
護廷十三隊。
その名前を聞いただけで、前世で見ていた作品の記憶が次々と蘇ってくる。
隊長、副隊長、席官、一般隊士。
斬魄刀。
始解。
卍解。
鬼道。
瞬歩。
そして、その先にいる数え切れないほどの強者たち。
「おとうさん……つよい?」
「どうだろうな」
父親は少し困ったように笑った。
「まだまだ強くならないといけないさ」
その答えを聞いて、朔は少し意外に思った。
父親は自分が死神であることを誇っているわけではない。
むしろ、自分はまだ未熟だと考えているようだった。
「じゃあ……」
朔は父親の腰にある斬魄刀を見る。
「その刀……しゃべる?」
「……」
父親の動きが止まった。
母親もこちらを見る。
「……どうしてそう思った?」
「BLEACHでは……」
危ない。
朔は慌てて言葉を止める。
「……本で、そういう話を聞いた」
苦し紛れにそう答えると、父親は少し考えた。
「まあ、似たようなものだな」
「やっぱり?」
「ああ」
父親は腰の斬魄刀へ手を添えた。
「斬魄刀には、それぞれ名前がある」
朔は黙って聞いていた。
「そして、その刀には持ち主とは別の意思がある」
その言葉を聞いた瞬間、朔の胸が高鳴った。
斬魄刀には意思がある。
原作で知っていた知識と一致している。
「じゃあ……おとうさんの刀にも?」
「ああ」
「名前は?」
父親は少しだけ笑った。
「それは秘密だ」
「えー」
「まだ朔には早い」
「むぅ……」
頬を膨らませると、父親が笑う。
「もう少し大きくなったら教えてやる」
「ほんと?」
「ああ、約束だ」
朔はその言葉を聞いて、父親の顔を見つめた。
この約束を、忘れないようにしようと思った。
その夜、布団に入った朔は一人でステータス画面を開いた。
【Lv.1】
【EXP:32 / 100】
【HP:100】
【霊圧:10】
【霊圧操作:5】
【斬術:5】
【白打:5】
【歩法:6】
【鬼道:1】
【霊体強度:5】
【精神力:8】
【反応速度:6】
【感知能力:4】
【幸運:10】
【SP:0】
【AP:0】
数字はほとんど変わっていない。
しかし、朔は焦っていなかった。
まだ始まったばかりだ。
それに、今日になって一つ分かったことがある。
この世界には、本当に護廷十三隊が存在している。
父親もその一員だ。
ならば、これから成長していけば、いつか自分もその世界に関わることになるかもしれない。
「……その前に、まずは歩く練習だな」
朔は布団の中で小さく笑った。
そして翌朝。
目を覚ました朔が部屋を出ると、いつもなら朝食の準備をしている母親の姿がなかった。
「……おかあさん?」
返事がない。
朔は少し不思議に思いながら、家の中を見回した。
すると、玄関のほうから物音が聞こえた。
「……?」
朔がゆっくりと歩いていくと、玄関には見慣れない黒い死覇装の男が立っていた。
男は朔を見ると、静かに頭を下げた。
「神代朔だな?」
「……うん」
「お父上から伝言を預かっている」
男の声は、いつも聞いている死神たちのものとは少し違っていた。
「今日からしばらく、外には出ないほうがいい」
「……なんで?」
男は答える前に、一度だけ外へ視線を向けた。
「昨夜、この近くで虚が確認された」
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その言葉を聞いた瞬間、朔の胸がざわついた。
「……おとうさんは?」
男はすぐには答えなかった。
ほんの僅かな沈黙だったが、それだけで嫌な予感がした。
「隊長からの命令で、周辺の警戒に入っている」
「……隊長?」
「そうだ」
男は玄関の外へ目を向ける。
「昨夜から虚の出現数が増えている。しかも、ただの偶発的な出現ではない可能性がある」
「おとうさん……大丈夫?」
「心配するな」
男はそう言ったものの、その声音には完全な安心がなかった。
「神代隊士は腕の立つ死神だ。そう簡単にやられることはない」
「……神代隊士」
朔はその言葉を聞いて、少しだけ引っかかった。
ただの隊士なら、わざわざこの男が家まで来て伝言をするだろうか。
それに、以前から父親について話す死神たちの態度も少し妙だった。
父親が帰ってくると、誰もが一度は姿勢を正す。
名前を呼ぶときも、どこか慎重だ。
ただの一般隊士に対する態度ではないように思える。
「おとうさんって……偉いの?」
男が一瞬だけ黙った。
「……それは、お前が大きくなってから本人に聞け」
その答えが、かえって気になった。
「分かった」
男は朔の頭を軽く撫でると、玄関へ向かう。
「母親と一緒に家の中にいろ。何があっても外へ出るな」
「……うん」
男が去っていく。
静かになった家の中で、朔はしばらく玄関を見つめていた。
「おかあさん」
「どうしたの?」
「おとうさん、帰ってくる?」
母親は少しだけ困ったように笑った。
「もちろんよ」
「ほんと?」
「ええ。いつもそうでしょう?」
「……うん」
母親は朔を抱き寄せる。
「大丈夫よ」
その言葉を聞いて、朔は少しだけ安心した。
だが、その日の夜になっても父親は帰ってこなかった。
外はすっかり暗くなっている。
母親は何度も玄関を見た。
「……遅いわね」
「おとうさん……」
「きっと仕事が長引いているだけよ」
そう言いながら、母親自身も不安そうだった。
そのときだった。
――ドンッ。
遠くで何かがぶつかるような音がした。
家が僅かに揺れる。
朔は顔を上げた。
「……今の何?」
母親の表情が変わる。
「朔」
「うん?」
「こっちに来て」
いつもの優しい声ではなかった。
母親は朔を抱き上げると、家の奥へ移動する。
そして、障子を閉めた。
「おかあさん?」
「静かにしてね」
「……うん」
外から、何かを引きずるような音が聞こえてくる。
続いて、低い唸り声。
朔の背中に寒気が走った。
「……虚?」
母親が息を呑む。
「どうして……」
その瞬間、玄関のほうから轟音が響いた。
家の壁が震える。
母親は朔を強く抱き締めた。
「大丈夫」
そう言いながら、母親の手は震えていた。
「お母さんがいるから、大丈夫よ」
しかし、朔には分かってしまった。
母親も怖がっている。
そして次の瞬間、外から聞き慣れた声が響いた。
「――そこから離れろ!」
「おとうさん!」
父親の声だった。
朔は思わず立ち上がろうとする。
「おとうさん!」
「朔、動かないで!」
母親が叫ぶ。
外では何度も激しい音が響いている。
刀がぶつかる音。
地面を踏み込む音。
そして、父親の怒鳴り声。
「ここから先へは行かせない!」
その直後、父親とは別の死神の声が響いた。
「神代隊士! そいつはお前を狙っている!」
「分かっている!」
「違う、ただの虚じゃない! さっきから家の霊圧を探っている!」
「……何?」
一瞬、外が静かになる。
「まさか……」
父親の声が低くなる。
「この家にいるのは俺じゃない」
「だったら――」
「朔だ」
その名前が聞こえた瞬間、朔は息を呑んだ。
「……俺の子供を狙っているのか?」
「可能性が高い!」
「なぜだ!」
「分からない! だが、あの虚は他の魂には目もくれず、ずっとこの家だけを追っている!」
朔は母親の顔を見た。
母親も、その話を聞いていた。
「……どうして朔を?」
父親が叫ぶ。
「理由は後だ! まず家から離せ!」
「無理だ!」
父親の声が響く。
「ここで俺たちが離れれば、あいつは朔を狙う!」
「だったら家の外へ――」
「それも駄目だ!」
父親が怒鳴った。
「外へ出れば、朔の霊圧が周囲に漏れる!」
朔はその言葉に引っかかった。
霊圧。
自分の霊圧。
まさか、それが原因なのか。
【微量の霊圧反応を検知】
以前、突然表示された文字が脳裏をよぎる。
自分は普通の赤ん坊ではない。
この世界に生まれてから、ずっとそうだった。
そして、もしかすると――
この虚は、自分を見つけた。
「おかあさん……」
母親が朔を見る。
「どうしたの?」
「ぼくの……せい?」
「違うわ」
母親はすぐに首を横に振った。
「あなたのせいじゃない」
「でも……」
「絶対に違う」
母親は朔を強く抱き締める。
「この子には何もさせない」
その声には、今まで聞いたことのない強さがあった。
外では再び戦闘が始まる。
父親が叫ぶ。
「ここから先へは行かせない!」
虚の咆哮が響き、家全体が震える。
そのとき、朔は父親の霊圧が一気に膨れ上がるのを感じた。
普段とはまるで違う。
「……おとうさん?」
そして、父親が何かを呟いた。
「――まだ、お前の名前を教えるわけにはいかないな」
腰の斬魄刀へ手を添える。
その言葉の意味を、朔には理解できなかった。
ただ、父親が本気で戦おうとしていることだけは分かった。
「朔!」
「うん!」
「絶対に、ここから動くな!」
「……分かった!」
次の瞬間、外から凄まじい衝撃音が響いた。
「――ッ!」
母親が朔を抱き締める。
父親の声が聞こえた。
「来るな!」
その声の直後、家の壁が大きく揺れた。
朔は母親の胸に顔を埋めた。
「おとうさん……」
返事はない。
「おとうさん……?」
しばらくして、外から小さな声が聞こえた。
「……朔」
父親だった。
「おとうさん!」
朔は母親の腕から降りようとする。
だが、母親は離さない。
「待って」
「でも……!」
「まだよ」
母親の声が震えている。
「もう少しだけ……」
玄関の向こうから、父親の声が聞こえた。
「二人とも……無事か?」
「ええ」
母親が答える。
「私も、朔も無事よ」
「そうか……」
その声には、安堵が混じっていた。
だが、その直後だった。
父親が何かに気づいたように息を呑む。
「……まずい」
「どうしたの?」
「まだ一体いる」
「え?」
「さっきのは囮だ」
父親の声が低くなる。
「本命は最初から、俺たちが戦っている間に家へ回り込んでいた」
母親が朔を抱く腕に力を込める。
「……嘘」
「裏手だ!」
父親が叫んだ。
次の瞬間、家の奥から大きな音が響いた。
「朔!」
父親の声。
母親は咄嗟に朔を抱き締め、その身体で庇った。
「おかあさん!」
「大丈夫!」
再び静寂が訪れる。
朔には何が起きたのか分からなかった。
ただ、母親の腕の力だけが異様に強くなっている。
「朔……」
「うん」
「あなたは……この家から出ちゃだめよ」
「……?」
母親が微笑んだ。
その笑顔は、いつものものだった。
「大丈夫だから」
その言葉の直後、外から父親の声が響いた。
「――朔!」
その声を最後に、すべての音が途切れた。
「おとうさん?」
返事はない。
「おとうさん……?」
母親も答えない。
朔は不安になって、母親の顔を見る。
「おかあさん……?」
母親は朔を抱いたまま、動かなかった。
その身体から、少しずつ力が抜けていく。
「……朔」
「うん」
「ごめんね……」
「なんで?」
「……あなたは、生きて」
母親の声が、かすかに震えた。
「強くならなくていいから……ちゃんと、生きて」
「おかあさん?」
それ以上、母親は答えなかった。
朔は何度も呼びかけた。
「おかあさん」
返事はない。
「おかあさん……」
それでも、返事はなかった。
やがて外から別の死神たちが駆け込んできた。
「神代隊士!」
「周囲を確認しろ!」
「虚はどうした!」
「討ち取った! だが……」
その声が途中で止まる。
朔を見つけた死神が、言葉を失った。
「……子供がいる」
「朔!」
誰かが駆け寄ってくる。
だが、朔は動かなかった。
母親の服を、小さな手で握ったまま離さない。
「おかあさん……」
返事はない。
そのとき、朔の視界にステータス画面が浮かび上がった。
【精神状態の急激な変化を確認】
【精神力:8】
数字は変わっていない。
それでも、今までとは何かが違っていた。
胸の奥が痛い。
息が苦しい。
頭の中が真っ白になる。
そして、ほんの少し離れた場所に、父親の斬魄刀が落ちていた。
鞘から抜かれた刀身が、月明かりを静かに反射している。
朔はその刀を見つめた。
昨日まで、父親は笑っていた。
「もう少し大きくなったら教えてやる」
そう言っていた。
その約束だけが、頭から離れなかった。