BLEACHの世界に転生したけど何故かステータス画面があるんだが 作:最強主人公2
色々忙しくて更新遅れちゃいました〜すんませんでした!
一応ストックはまだまだある
陸神さん、就職希望者さん、akiあきhiroひろ9981さん、インドのお茶さん評価ありがとうございます!
霊王宮の朝は、静かだった。
空には雲ひとつなく、果ての見えない青が広がっている。地上の尸魂界とは違い、太陽が昇る気配も、夜が明ける気配も曖昧だった。それでも、霊王宮には確かな時間の流れが存在していた。
少なくとも、神代朔にとってはそうだった。
「……ん」
柔らかな布団の中で、朔は小さく身じろぎした。目を開けると、見慣れない天井が視界に入る。しばらくぼんやりと眺めてから、昨夜の出来事を思い出し、身体を起こした。
ここは霊王宮。
護廷十三隊とは別格の存在である零番隊が住まう場所。そして、その中心には、三界の均衡を支える霊王がいる。
原作で知っていた場所に、自分がいる。
何度考えても、現実味がなかった。
しかも、連れてきたのは兵主部一兵衛。原作を最後まで読んだ朔からすれば、警戒するなというほうが無理な相手だ。
あの男は、ただの僧侶ではない。
尸魂界の歴史そのものに関わり、名前を支配し、存在の在り方すら変えてしまう。そんな相手が、なぜ生まれて間もない自分をわざわざ霊王宮まで連れてきたのか。
考えても答えは出なかった。
「……かえ、る」
口から出たのは、たったそれだけだった。
両親はもういない。帰る場所があるのかさえ、朔には分からない。
それでも、ここにいたいとは思わなかった。
「おや、起きたかい!」
襖が開いた。
現れたのは、サングラスをかけた派手な装いの男――二枚屋王悦だった。片手には湯気の立つ椀と、小さな盆を抱えている。
「グッモーニン、ボーイ! よく眠れたカイ? ほらほら、朝ごはんでショウ!」
「……おうえつ、さん?」
「イエース! ちゃんボク特製の朝食をお届けに参上! 栄養満点、霊子もたっぷり、食べれば元気百倍! チェケラ!」
王悦は朔の隣に腰を下ろし、盆を置いた。
椀から漂うのは、優しい出汁の香りだった。添えられた料理も、幼い身体でも食べやすいように細かく調理されている。
朔は少しだけ目を見開いた。
霊王宮で食事を出されること自体は不思議ではない。問題は、王悦が自分を扱う様子だった。
まるで、本当に幼い子供の世話をしているようだ。
「……ここ、いて、いい?」
王悦の手が止まった。
朔自身、うまく言葉にできたとは思っていない。けれど、聞きたかったことは伝わったはずだった。
王悦はすぐには答えず、朔の顔をじっと見つめた。
やがて、普段の陽気な調子を少しだけ抑え、口を開いた。
「少なくとも、今すぐ出ていけなんて言うヤツはいねぇよ」
「……ほんと?」
「ああ。腹が減ったら食べる。眠くなったら眠る。分からないことがあったら聞く。それでいいんだゼ」
王悦は椀を手に取り、朔が持ちやすいように支えてやった。
「ほら、食べな。温かいうちが一番うまいからよ」
「……じぶんで」
「あいよ。そいつは失礼!」
王悦はあっさりと椀を渡した。
朔は少しむっとしながら椀を受け取り、慎重に口をつける。
温かい。
喉を通った出汁の味が、胸の奥にじんわりと広がった。
前世の記憶を持つ朔にとって、食事そのものは珍しくもない。だが、誰かに用意してもらった温かな食事を、こんな気持ちで口にするのは初めてだった。
両親が亡くなってから、まだそれほど時間は経っていない。
悲しみが消えたわけではない。忘れられるはずもなかった。
それでも、目の前の男は、何も聞かずに食事を用意してくれた。
「……おいしい」
小さな声だった。
王悦は一瞬だけ目を丸くし、それから、花が咲くように笑った。
「そいつはよかった! ちゃんボクの料理の腕も捨てたもんじゃねぇってことデショウ!」
その声が、部屋の中に明るく響いた。
朔は、ほんの少しだけ肩の力を抜いた。
◇
朝食を終えた朔が王悦に連れられて外へ出ると、離殿の庭では、刀が何振りも並べられていた。
どれも見たことのない形状をしている。美しい刀身を持つものもあれば、見るからに異様な姿をしたものもある。いずれも、迂闊に触れてはならないと本能に告げるような気配を放っていた。
「オーッ、チャン朔! グッモーニンでショウ!」
王悦は大げさに両腕を広げた。
「ちゃんボクの離殿へようこそ! 刀の聖地、霊王宮! ここでミーに会えるとは、ユーも相当ラッキーなベイビーでショウ! チェケラ!」
「……うるさい」
「ノォォォォッ!? 朝っぱらからそれ!?」
王悦は大げさに胸を押さえた。
「この刀神に向かって、うるさいとは! なんというストレートなパンチ! ポゥ!」
朔は困ったように王悦を見上げた。
しばらくして、王悦は咳払いをひとつし、並べられた刀を指し示した。
「ま、いいでショウ! ところでチャン朔、刀に興味はあるかい?」
「……ある」
即答だった。
王悦の表情から、わずかにふざけた色が消えた。
「ほう?」
朔は庭に並んだ刀を見つめる。
原作の知識があるからこそ、二枚屋王悦がどれほど特別な存在なのかを知っている。すべての死神が手にする浅打を生み出した、刀の神。
その本人が、目の前にいる。
興味を抱かないはずがなかった。
「……つよく、なりたい」
「強く、ねぇ」
王悦は朔の顔を覗き込んだ。
「何のために?」
朔は答えられなかった。
両親を守れなかった自分が嫌だった。あの虚を前に、何もできなかったことが悔しかった。もう二度と、大切なものを失いたくない。
けれど、幼い口では、そのすべてを伝えることができない。
「……まもる」
ようやく出た言葉は、それだけだった。
王悦はしばらく黙っていた。
そして、普段の陽気な表情を少しだけ引き締める。
「そっか」
彼は並べていた刀の一本を手に取った。刀身を光にかざし、傷ひとつない刃を確かめる。
「なら、覚えときな。刀ってのは、強くなるためだけに握るもんじゃねぇ。誰かを守るってんなら、なおさらだ」
低く、渋い声だった。
「守る相手が何を望んでるのか。自分が何を斬ろうとしてるのか。それも分からねぇまま振るう刀は、いずれ持ち主を斬る」
王悦は刀を鞘へ納めた。
「ま、今すぐ分かれとは言わねぇ。お前はまだ小せぇからな」
そして、いつもの笑顔に戻る。
「まずは食って寝て、でっかくなること! それが一番の修行でショウ! ポゥ!」
「……それ、しゅぎょう?」
「そうだとも!」
「……ほんとに?」
「そこ疑うトコ!?」
王悦の声が庭に響いた。
そのやり取りを、少し離れた廊下から眺めている影があった。
兵主部一兵衛である。
彼は何も言わず、朔の様子を見つめていた。
幼い身体。未熟な言葉。まだ何ひとつ、自分の力を理解していない子供。
だが、その存在を取り巻くものには、説明のつかない違和感があった。
一兵衛は目を細め、やがて踵を返した。
今はまだ、急ぐ必要はない。
◇
その日から、朔の霊王宮での暮らしが始まった。
朝は王悦の用意した食事を食べ、昼は離殿の庭や廊下を歩き回り、疲れれば眠る。王悦に刀を見せてもらうこともあれば、天示郎に捕まって、身体の動かし方を教えられることもあった。
「おい、朔! そっち行くんじゃねぇ!」
「……なんで?」
「なんでじゃねぇ! そこは湯の流れが強ぇんだよ! ガキが落ちたら面倒だろがよォ!」
「……おちない」
「その自信はどっから来やがった!?」
天示郎は朔の襟首をつまみ、ひょいと抱き上げた。
「ったく、目ぇ離すとすぐこれだ。チビのくせに好奇心だけはいっちょ前かよ!」
「……ちび、ちがう」
「ハッ! じゃあ何だってんだ!」
「……さく」
「そりゃ名前だろがよォ!」
天示郎の怒鳴り声が、離殿にこだました。
その様子を見ていた千手丸は、口元に袖を添えて優雅に笑う。
「麒麟寺、そちの声は少々大きすぎるのでは御座いませんか。幼子が怯えてしまいまする」
「怯えてねぇだろ! なあ、朔!」
「……うるさい」
「テメェ!」
「ほほほ。嫌われておるようで御座いますな」
「誰が嫌われてるってんだ!」
千手丸は楽しげに目を細めた。
朔は天示郎に抱えられたまま、少しだけ口元を緩めた。
こんなふうに誰かとやり取りをする日が来るとは、思っていなかった。
まだ両親のことを思い出す夜はある。ふとした瞬間に、胸の奥が締めつけられることもある。
それでも、霊王宮で過ごす時間は、少しずつ朔の中に積み重なっていった。
そして、朔が霊王宮へ来てから、どれほどの時間が過ぎただろうか。
地上とは異なる時間の流れの中で、季節の移ろいを正確に数えることは難しかった。それでも、幼かった身体は確実に成長し、言葉は増え、歩みはしっかりとしたものへ変わっていった。
王悦の用意した食事を残さず食べ、天示郎の厳しい言葉に食らいつき、王悦の刀を飽きずに眺め、千手丸の鋭い視線にも臆さなくなった。
そして、ある日。
霊王宮の一角に設けられた修練場で、朔は一本の木刀を握っていた。
もう、誰かに支えてもらわなければ立てない子供ではない。
少し幼さを残しながらも、少年と呼べる姿へと成長していた。
「構えろ、朔」
天示郎が腕を組み、正面に立つ。
「今日は逃げんじゃねぇぞ。足を止めたら、その時点で負けだ。相手の刃を見てから動くんじゃ遅ぇ。肩、腰、足。どこに力が入ったかを見て、次の一手を読め」
「……分かった」
「返事が小せぇ!」
「分かった!」
「よし!」
天示郎が木刀を構えた。
次の瞬間、踏み込みとともに鋭い一撃が放たれる。
朔は反射的に木刀を掲げた。乾いた音が響き、両腕に衝撃が走る。力では敵わない。受け止めたままでは押し切られる。
ならば、正面から受け続ける必要はない。
朔は木刀を滑らせ、天示郎の刃を斜めに逃がした。同時に半歩だけ横へ踏み込み、相手の懐へ入ろうとする。
「おっ!」
天示郎が口角を上げた。
だが、朔の木刀が届く寸前、天示郎の足が動いた。
身体を捻り、朔の踏み込みを外す。空を切った木刀の勢いに引かれ、朔の体勢が崩れた。
その背中に、木刀の先が軽く触れる。
「そこまでだ」
朔は悔しそうに唇を噛んだ。
「……あと、すこし」
「その少しが埋まらねぇから負けんだよ。だが、今のは悪くねぇ。刃を受け流した判断も、懐へ入ろうとしたのもな」
天示郎は木刀を肩に担いだ。
「次は、踏み込んだ後のことまで考えろ。斬り込んで終わりじゃねぇ。相手が避けたらどうする。受けられたらどうする。外した瞬間に、次の手を出せるようにしとけ」
「……うん」
朔は木刀を握り直した。
強くなりたい。
その思いは、今も変わっていない。
けれど、かつてのように、ただ力を求めているわけではなかった。
守るためには、知る必要がある。技を磨き、相手を見極め、自分の弱さを認めなければならない。
そして、いつか必ず、自分の足で歩いていく。
原作の知識を持つ朔には、この先に待つ数々の悲劇も、強大な敵の存在も分かっていた。
だが、それらがいつ起こるのかは分からない。自分が今いる時代も、正確には知らない。
だからこそ、今できることを積み重ねるしかなかった。
朔は木刀を構え直し、天示郎を見据えた。
「……もう一回」
「ハッ! いい面構えじゃねぇか!」
天示郎が笑う。
「来い、朔! 今度は一本取ってみやがれ!」
朔は床を蹴った。
木刀が風を切り、二人の影が修練場に交差する。
その様子を、回廊の向こうから見ていた王悦が、腕を組んで目を細めた。
「……へぇ」
王悦は朔の手元から目を離さなかった。
木刀の握り方。踏み込みの癖。受け流した後に残るわずかな隙。
まだ粗削りだ。技術も、経験も、圧倒的に足りない。
それでも、朔は一度見た動きを、次の手合わせで少しずつ修正していた。
「……面白ぇな」
王悦の声が、ほんのわずかに低くなる。
修練場では、朔が再び天示郎へと斬り込んでいた。
その一撃は、先ほどよりもわずかに鋭かった。
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