即死回避持ち転生者、自分の身を顧みず戦ってたら部下の妖達が盛大に曇った 作:⅓夜城
夜の帳が下りた、とある町外れ。
ひび割れたアスファルトの道路を1人必死に走るやや幼い少女がいた。
「はぁ…はぁ…なに…なにあれぇ…!」
息を切らしながら呟くその背後からは……異形の怪物が追ってきていた。
「Gyuoooo‼︎‼︎‼︎」
肉塊から手足が伸びたような異形の怪物は、赤い体液を撒き散らしながら道路をべちゃんべちゃんと不気味な足音を立てて少女との距離を詰めていく。
「ッ…!」
後ろを振り返り、反射的に引き攣った声が漏れ出るのも構わず、少女はひたすら人気のない道路を走り続ける。
雲が月や星を隠している中、等間隔の街灯のみを頼りにだ。
当然、足元に気を配る余裕などない。
「きゃっ!?」
アスファルトのヒビに足を取られ、危うく転倒しかける少女。幸いバランスを崩しただけで済むも、異形との距離は一層縮まってしまった。
「ッ……」
恐怖に顔を歪ませつつ、必死に街へと向かって再び足を動かし始める。
確かに街へたどり着きさえすれば助かるのは事実だろう。しかし、異形がそれを許すとは限らない。
「Gyuoooo‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎」
咆哮、やや遅れ、跳躍。
少女の背に迫らんとしていた異形は複数ある足で同時に地面を打ち、思い切り跳ね上がって、その体躯をものともせずに少女の頭上を飛び越える。
…そして少女の行方を塞ぐかのように着地すると、水音が響き、赤い体液がアスファルトに撒き散らされた。
「Gyuoooaaaa!!!!」
「え…」
顔に嗜虐的な嗤いを浮かべ、少女へにじり寄る異形。
更に新たな手足を生えさせ一層不気味なカタチへと変貌すると、その増えた手を一斉に伸ばした。
「こないで…!」
当然の事ながら、少女は元来た道を引き返そうとする。だが振り返った瞬間彼女の視界に映ったのは、別の異形。
瞬く街頭の下に照らし出される、明らかに人間とは異なる姿。…こちらは人間の胴体に複数の手のみが生え、まるでムカデのように地面を這いながら少女へと迫っていた。
「Gttttttttt…」
双方見た目だけならまるで別の存在に見えるだろう。
ただし、2つの異形には共通する点もある。まずはどちらも
「Gyuoooo‼︎‼︎‼︎」
「Gttttttttttt…‼︎‼︎」
「い、いや…」
前後を挟まれ、膝に力を込めることも叶わず、絶望をその顔に浮かべながらへたり込む。
途端に異形達は少女めがけて飛びかかり———
「連邦3式戦技、
————血反吐を吐きながら吹き飛ばされた。
「…え?」
突然の事に困惑の声をあげる少女。
そこへ、
「大丈夫か?」
◇
間に合った。
赤黒い2つの肉塊が、蒼白い光の粒子…〈神素〉へと戻る様子を確認しながら、俺、
「グスッ…」
「もう大丈夫だ。ほら」
緊張が解けたのか泣き出す少女に、首にかけていた狐の意匠のお守りを渡す。市販品ではあるが、少しは精神安定に役立つはずだ。
「…にしても、あまり遠くじゃなくて助かったぜ」
出動要請が出てからすぐに動いたが、認識阻害の術が周囲に展開されていた上、専用の装備も持ち合わせてなかったから危うく犠牲者を出すところだった。
幸い、
「ありがとうな、
「こんなの朝飯前よ」
俺の言葉に背後から応える声。
後ろを振り返ると、白い長髪に紅い瞳の少女…真白が佇んでいた。
「この程度の下位妖の術、白蛇である私に敵うわけないでしょう?」
「だとしてもだ、
確かにそうね、と真白が頷いた瞬間、辺りに轟音が鳴り響く。
見やると道路脇の空き地から土煙が立ち上っていて、中から2つの影が現れた。
肩に大槍を担いだ赤髪の美鬼、
…問題児共のお出ましだ。
「おいおい、私が何が苦手だって?」
「聞き捨てならないね」
なぜか抗議の声が飛んでくる。お前ら一回自分の後ろ見てみろよ、空き地に大穴開いてるじゃん。
…そう言いたいのをグッと我慢し、俺は視線を再び少女に戻す。
先ほどまで顔を歪めて泣いていたが、すでにその瞳から涙は出ていない。
「落ち着いたか」
「……うん」
「そうか…よし、じゃあ親のところに送り届けてやる」
言いながら手を差し出すと、鼻をすすりながら立ち上がって手を握ってくる。しかし、その足は未だ震えていた。
小学校中学年頃のこの子には、かなりキツイ体験だったことだろう。本当に、間に合ってよかった。
思い、俺は耳に装着したインカムへ告げる。
「薄明より司令部、要救助者の回収に成功。帰還する」
『本部了解。すぐに回収のヘリを送る。それまで気を付けろよ』
「了解」
これでよし、と。ここからは楽な仕事だ。もし別の醜妖が襲ってきても真白達が祓ってくれるし、俺が通信を入れた事で展開してる
…任務完了。
僅かな安堵と共に少女の手を引いて歩き出すと、後ろを着いてくる琴華が話しかけてきた。
「主殿、くる途中でそっちの様子を伺ってるヤツら2匹を捕らえたんだけど良かったかな」
言いながら見せてきたのは、彼女の神通力に囚われた青い炎2つ。
人を惑わす要注意妖の一種、鬼火だ。
「問題ない。十中八九ソイツらがこの子を惑わせた犯人だ。さっきの醜妖に協力しておこぼれを貰うつもりだったんだろう」
「なら良かった。僕らの姿を見た途端逃げ出したから怪しかったんだよね」
「……そうか」
ぶっちゃけ鬼と天狗に睨まれたら下位妖なんてみんな逃げてくと思うが…まぁ良い。
「一旦本部に移送だな。俺達は現行犯の妖を祓う権限はあるが、様子を伺ってただけならここの土地神に聞き取りしないと」
「そうだね」
それだけ言い、俺は再び前を向いて歩き始める。
同時に雲に隠れていた2つの月が顔を出し、月光が周囲を薄く照らす。されど視界に入る森の奥は未だ闇に包まれていて、ナニカが潜んでいるかもしれないという僅かな恐怖が想起された。
「あの…お兄さん…」
「ん?どうした?」
「お兄さんは妖が、怖くないの…?」
「…そうだなぁ」
真白達をチラチラ見ながらの少女の疑問に、歩みを止めることなく考える。
彼女程の年齢なら、このような疑問を持つのも仕方ないだろう。ましてやさっきまで醜妖に追われていたんだからなおさらだ。
でも…
「俺はあまり怖くないかな。見た目は違っても、大半の妖は俺たちと友達だからね」
「友達…」
「あぁ」
街を歩けば下位妖なんかすぐに会えるし、中位妖だってそこまで珍しい存在じゃない。俺にとって妖は、例外を除いて姿が違うだけの隣人だ。
…まぁ一切恐怖が無いわけじゃないけどな。敵意剥き出しの上位妖なんて対峙しただけで寿命が縮む。
だが俺は軍人であり…何より妖や神との調和を是とする国〈真和連邦〉に暮らす人間だ。そんな国に住んでるのに、その辺の下位妖を怖がってたらおかしいだろう?
「私は…」
「しーんー、腹減ったから先帰って良いか?」
「金剛おまえ今回何も働いてないだろ、せめて警護くらい最後までしやがれ」
「えぇー…」
口をへの字にしながら言う金剛。飯くらい先に食べてこれば良いのに。
……話が逸れた。
「兎も角、コイツらに関しては心配しなくて良い。すぐに納得するのは難しいだろうけど」
「…わかった」
「ん、説教くさくなっちまったな。悪い」
ううん、と首を振る少女
さっきまで醜妖に殺されかけていたのに切り替えが早い。流石は
「真、あれ」
「お、きたか」
真白の指さす方向で、連続する重低音と共にサーチライトが瞬いた。光の発信源はみるみるうちに近づいて来て、やがて俺たちの頭上で停止する。
そして真和連邦軍の大型軍用ヘリ…その下部に備えられたスピーカーから声が放たれた。
『スパロウ3より薄明。お迎えだ』
「…感謝する」
◇
数十分後。
「お母さん…!!」
「綾…良かった…」
ヘリポートに降りた俺たちの眼前で、親子の再会が成される。母親と思しき女性と抱き合う少女の目には、先ほどとは違う涙が浮かんでいた。
これにて一件落着。後は…
「真…」
「主殿…」
振り返り、物欲しそうな顔をしている真白と琴華の方を向く。ちなみに金剛はヘリの中で爆睡中だ。
「分かった分かった、ここじゃ目立つから家帰ったらな?」