即死回避持ち転生者、自分の身を顧みず戦ってたら部下の妖達が盛大に曇った 作:⅓夜城
あぁ、目の前で、大切な人の瞳から光が失われる。まただ。また守れなかった。どうしてもこうなってしまう。今度こそ、彼を死なせなくて済むよう頑張ってるのに。私が役立たずだから、また彼は死んだ。自分の意思で。
白蛇種は策略に長け、また強大な自分自身の力も使い困難を打破してきた。今でこそ鳴りを潜めてはいるけど、真和連邦に居る妖種の中では一番人間と共に在った期間が長いのは有名な話だ。
……私は、そんな一族の中で落ちこぼれだった。別にいじめられてたり、愛を注いでもらえなかったわけじゃない。ただ、私の能力が周りに比べて劣っていただけ。私が勝手に、嫉妬していただけ。
————空歩が使えないなら私がおぶってあげる。
————真白には難しいだろうから休んでて良いわよ。
————無理するな、生まれ持った才能というのは決して無視出来るものではない。
などなど、どれも私を気遣っての振る舞い全てがたまらなく嬉しくて……たまらなく辛かった。
「真白、これ見てみなさい」
「え?」
……人間で言う18歳ほどになった頃、私の住む地の近くに国が鉄道を通すという知らせがあった。
既に私は禊を済ませ、人間社会でごく普通の真和連邦人として暮らすつもりも覚悟もできていたから、ちょうど良い機会と思って工事現場の見学に行こうって、そう思ってたの。
あと、以前と比べてこの時の私は劣等感もだいぶ解消されてて、見学に行くと言った際は両親も姉妹達も笑顔で送り出してくれた。
……その時だった。
「Guu…」
「嘘、でしょ…」
恐らく周囲の掃討が不完全だったか、新たに発生したのか今となっては分からない。だけど、現場に向かっていた私の眼前に、巨大な醜妖が降り立った。
もはや肉塊にしか見えない、かつては大狼だったであろう醜妖が大口を開いて飛びかかってくる。
咄嗟に私は妖術を行使して、その顔面へ火球を当てる、けど…
「効いてない…!?」
大狼の醜妖はまるで意に介することなく、一歩踏み込んでくる。
ヨダレとも体液とも判断できないナニカを口から垂れ流しながら。
「来ないで!」
「Gyuaaaaa‼︎‼︎」
今のは効かなかったけどもう一度当てれば、足止めくらいは出来るはず。
諦めてたまるもんか。
絶対に……生きて帰る!
「白蛇の
背後から一際巨大な白蛇の幻影が姿を現す。私が習得出来た唯一の種族妖術、これなら…!
「……え?」
あれ?なんで木々が逆さまに見え…
あぁ、吹き飛ばされたのか。尻尾で薙ぎ払われて。
痛みは感じないけど、空を飛ぶってこんな感じなのかな。
でもお姉ちゃんは危ないからって森の中を妹達に飛ばせなかったし、やっぱり違うかも。
「ッ…!」
地面に落ちると、尻尾が直撃した脇腹に激しい痛みが走る。
柔らかいはずの土も全然役に立たず、ただ叩きつけられた衝撃だけが伝わってきた。
幸い、骨が折れたりはしてない。ならまだ立ち上がって…!
「こ…の…!…ひッ」
「Gyukkkkkkk……」
視線を上げると————瞳があったであろう、漆黒の窪みと目が合った。
ただの穴であるはずなのに、醜い顔など気にならなくなるほど吸い込まれそうなその窪みはどこまでも黒く虚無で……
恐怖と痛みで決壊寸前だった私の心へ、いとも容易く止めを差した。
「Gyuaaaaaa!!!」
鳴々、醜妖が飛び上がり、頭上から巨大な爪を振り下ろしてくる。
涙が滲み、視界がぼやける。
いやだよ、まだ生きていたい。
こんな才能のない私でも、いつか誰かの役に立てるって、せっかく思え始めてたのに。
せっかく、家族と久しぶりに笑顔で話せたのに。
せっかく、前向きになれて来たのに。
——————終わる、の?
「やっと見つけたぞこの駄犬がぁぁぁぁぁぁ!!!」
瞬間。風が、私へ触れた。
最初に抱いた感想は、同い年?なんていう全く現状に似つかわしくないモノだった。
でも実際、私の目の前で醜妖を蹴り飛ばした人間は———少年と言っても良い顔立ちと、フード付きパーカーに短パンという、こんな森の奥深くにはとても似つかわしくない格好をしていたし————
「手間かけさせやがってッッ!!何だって俺が森中駆けずり回ってテメェを探さないといけないんだよ!」
「Gyan⁉︎⁉︎」
男の子が叫びながら、醜妖の脇腹へ拳を繰り出す。
続け様に後ろ足を薙ぎ払って姿勢を崩させると、何処から取り出したのか、黒光りする片手銃を構えていた。
「悪く思うな?」
炸裂音。
今まで聞いたこともない音に、思わず身をすくめる。でも同時に醜妖が倒れたのを見て、私は自分の心の中に安堵が広がっていくのが分かった。
「ふぃー……討伐完了。勘弁してくれよマジで。あー、こちら薄明、目標の撃破に成功。回収機を要請する」
文句を言いながら何かの機械を取り出した男の子は、何かをその向こうに伝えると、こちらを向き直る。
彼の蒼く澄んだ瞳に映る私は、それは酷い顔だった。目元は赤く腫れ、血と泥で汚れた顔。心配されるのも当然だった。
「え…っと、大丈夫か?」
「……うん。ありがとう。あなたのおかげ」
「お、おう…直球で言われるとなんか照れるな」
彼は言いながら肌を僅かに好調させて、気まずそうに頬をかく。
…………その姿に一瞬見惚れたからだろうか。私がそれに気付いたのは、彼の右足が無くなってからだった。
「な…に…!?コイツ、
「ッ!大丈夫!?」
傷口から血が噴き出し、地面に倒れ込む男の子。すぐに妖術を行使して彼の足を噛みちぎった小柄な醜妖を追い払い、回復の術をかけようと近寄る。
だけど、それは彼自身の手で制された。
「いや、回復術は要らない。俺には、
そう言って男の子が取り出したのは、さっき使っていた片手銃だ。
何をするつもりなの?と問いかけても笑うだけで答えてくれない。ただ後ろを向いてたほうが良いと言われて、それに従う。
追い払った醜妖は私たちを中心に円を描くように歩いていて、今すぐ襲ってくる気配は無かった。
だけど油断はできない。そう思い、妖術の発動準備をしながら構えてると、
炸裂音。
聞こえたのは背後から。
慌てて振り返る——————
「え?」
彼は自らの心臓に銃を突き立て、その銃口と背中から、煙が上がっていた。
一瞬、脳が理解を拒む。…いや、状況の理解は出来ていた、ただその意図が分からなかっただけ。
「な、何してるの!?」
「回復」
「回ふく…?で、でもあなた…!」
「大丈夫だって、ほら」
慌てる私とは対照的に、男の子は自らの胸に出来た傷口を
火傷も伴った丸い跡は、眼前でみるみるうちに塞がっていく。
「どうなってるの…?」
「俺の固有妖術。詳しいことは言えないけどね」
それだけ言い軽く微笑むと、男の子は首を回しながら醜妖へと向き直る。
「さーてと、お前にはどう落とし前を付けてもらおうかな」
言い放ち、腰を落とす彼。
正直信じられなかった。いくら回復のためとは言え、自分で自分の命を断つなんて正気じゃない。
そして何より、悲しかった。私を助けてくれた一瞬前の彼が、もうこの世には存在していないような気がして。
これが、私と彼〈薄明真〉が出会った時の事だ。あの時にはもう下地は出来ていたんだと思う。
……私は真が好きだ。妖と人間なんて枠は関係なく彼に惹かれている。
だからこそ必死に頼み込んで国防軍に入り、死に物狂いで訓練して、今の場所までたどり着いた。
出会った時みたいに、真が自ら命を絶たなくて済むように。
なのに………
「っし、回復…脳、身体機能共に異常なし。やれるな」
またしてもあなたを、私は守れなかった、
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