貞操逆転世界を三代欲求強めに生きるだけ 作:逆転逆転逆転逆転逆転
「——この度文芸サークルに入ることになりました。
一年、天春楓です」
少し上擦った高い声。
入学して何度目の自己紹介かは分からないが、未だに緊張というものには慣れやしない。
そんなことを考えながら、僕は目の前の彼女らへ向かって言葉を放つ。
「まだ大学生活にもあまり慣れていませんが、皆さんと一緒に活動して、いっぱい仲良くなれたらいいなって思っています」
彼女らの集まる視線の位置はバラバラだ。
少し気恥ずかしさも感じながら、僕は言葉を続ける。
「それと」
そうそう、これだけはちゃんと言っておかないといけない。
自己紹介において最も大事なことである。
僕はこのために文芸サークルにやってきたと言っても過言ではないのだから。
「——僕は人より三代欲求が強めです。
なので、いっばい、色んなことを誘ってもらえると、すごく喜んじゃいます」
そう伝えたと同時。
僕の視線は部室内に置かれているとある物たちへと集まり出す。
大量のお菓子。
人を駄目にするタイプのクッション。
袋とじ。
うん、やはり、ここが正解だったみたいだ。
「では、よろしくお願いします!」
最後僕は深々とお辞儀をかましてから、硬直する彼女たちへと目を向けた。
「よ、よろしくねー、うん、うんうん!
歓迎するよ! うちは部員三人しかいないからね。
天春くんが来てくれて、ほんと、助かるよ!
……あ、そうだ! せっかくだし、今から一緒にご飯で——」
「ほんとに、男の子、きた。
こわい、やだ、わたし、もう寝る」
「…………男」
色とりどりの反応を見せる彼女たちにニコッと笑みを浮かべてから、僕は真っ直ぐ、彼女たちの方へと歩み寄るのだった。
高校三年、ちょうど受験勉強真っ只中というときである。
僕の世界は変わってしまった。
朝起きて、テレビでやっていたのは僕と同じくらいの歳の男の子が女の人に襲われたというニュース。
「我慢ができなかった」とデカデカ表示されたテロップは真っ赤に装飾され、ネットの声というところには口に出すのも憚れるような過激な言葉に溢れていた。
そんなニュースを、なんだなんだ珍しいこともあるもんだとボケーっとしてたのも束の間、二階からやってきた姉に馬鹿みたいな勢いで抱きしめられて、僕はこの世界の真相を知ってしまった。
どうにも今僕がいる世界には、男の人が全然いないらしい。男女比で言うと、だいたい1:20ほどだ。
珍獣というほど少なくはないが、大体クラスに一人いるかいないか程度の人数である。
実際、高校のクラスには僕しか男がいなかったし。
また、それが原因で男女の性格……いや、価値観?も変わっているらしい。例えば、男の子に積極的な女の子が増えたり、である。
まぁ、正直そこら辺はよく分かっていない。
前の世界にも肉食系女子というのはいたし、食べるのも食べられるのも得意だった僕にとっては、それならそれでOKである。
そんなどうでもいいことは置いといて、ともかく、世界は変わってしまったのだ。
そして、それは始まりでもある。
高校三年の夏。
地獄の勉強漬けの毎日は終わり、僕はこの世界において、希少な男という存在として、薔薇色の学園生活を満喫することになる——
はずだった。
「……ぜんぜん変わってないんだけど、僕の生活」
世界が変わってから半年ほど経っても、僕の生活は一向に変わろうとする素振りを見せなかった。
理由は単純である。
だって、僕、受験生なんだもん。
世界が変わっても、僕のポンコツな脳みそくんは変わってないんだもん。ついでに、せっかく覚えてた歴史の教科書の内容が全部変わっててぶち切れたもん。女体化ヒ○ラーとか僕知らないもん。
……いや、ほんとね、中途半端なプライドで推薦を蹴ったのが問題だったよね。
この世界、男子推薦とかいう都合の良いシステムあるからどんな大学だって、顔パスで行けるというのにね。
ほんとなにやってるんだろうね。
そんな状況で、薔薇色の学園生活とか言ってられるわけがない。D判定の模試結果を半年で覆すためには学業以外に構う余裕なんてないのだ。
ということで。
僕の勉強漬け生活は終わることはなかった。
いや、むしろ悪化した、主に女体化たちのせいで。
走れメロスがメロちゃんとセリちゃんの濃厚百合小説になってたし、漱石のこころは先生がタイムスリップしてKを救う話に変わっていた。人を舐めるのもいい加減にしろよ。
——まぁとはいえ。
そんなことがありつつも、僕の受験は何とか成功という形で幕を下ろすことができた。
史上初、一般入試で某有名国立大学に入学することになった男子生徒。それがこの僕、天春楓である。
合格できたのは素直に嬉しい。
中学の頃からの夢だったし、気になるサークル、授業だって存在する。
だが、しかし、だ。
僕にとってはそれらよりももっと大切なことが存在する。
毎日死んだような目をしながら、絶食し、一切睡眠も取らず、ときどきティッシュを食べながら行っていた受験勉強。ストレスの塊のような生活に瞼とパンツを濡らしながら耐えてきた僕には——ご褒美が必要なのだ。
そう、それこそが、当時満たされなかったら欲求の数々。
つまるところ、三代欲求である。
食欲、睡眠欲、性欲。
人間誰しもに備わっているそれらは、決して排除することのできない大切なものだ。
ある偉人は言った。
「フフフ…へただなあ、カ○ジくん。
へたっぴさ........!欲望の解放のさせ方がへた..。
いいかい、贅沢ってのは小出しじゃダメなんだ。
やるときはきっちりやらないと、ちがうかい?」
多分、こんな感じのことを。
そう、だから僕には必要なのだ。
受験期に溜まってしまったストレスを解消するため、小出しじゃない、本当の欲求の解放というものが。
だから、こそ。
「大学入ったらぜったい、もっと、遊んでやる。
自分に素直になって、好きなこと、好きなだけするんだ。
いっぱい食べて、いっぱい寝て、そして、いっぱい——」
こうして、僕の中で一つのルールができることになった。
——大学では、絶対に三代欲求には逆らわない、と。
「——それじゃー、かんぱーい!!」
かこーん、というジョッキが触れる音が聞こえて、僕の意識は急激に覚醒する。
「ということで、天春くんが我らが文芸部に入ってから、一か月が経ちました!
総員、拍手喝采をお願いします!」
「んぁ、ぱちぱちー」
「……」
今日は僕のサークル在籍一ヶ月のパーティ、つまり。
「ガンガン飲んじゃうよーっ!!
ほら、天春くん、私の隣空いてるよ」
「えへへ、ありがとうございます。
櫻井さん」
飲み会であるっ!!