貞操逆転世界を三大欲求強めに生きるだけ 作:逆転逆転逆転逆転逆転
飲み屋からだいたい歩いて二十分ほどの距離にあるマンション。そこそこ大きくもあり、家賃を想像したらガタガタ震えだすような、そんな場所に僕は先輩と一緒にいた。
つまるところ、今日はお泊まりである。
「わーい、わーい。
久しぶりの湯船です、うれしいです、せんぱい、ありがとです」
「……久しぶりって、
普段、どんな生活してるの?」
「今住んでるとこはシャワーしかないんです。
あんまり、高いとこには行けないので」
「行けない?」
怪訝そうな顔をした先輩の横をするりと通り抜け、僕は彼女の指さす浴室へと足を運ぶ。
意外と歩いたし、さっさと入ってしまった方がいいだろう。
「あ、どうせなら一緒にはいっちゃいます?」
「……」
残念ながら返事はない。
うむ、実はシャイなのかもしれないな、先輩は。
「じゃ、お先失礼しますね、先輩」
そんなことを考えながら、僕は浴室の扉を開けた。
入浴中は特にイベントが起こることもなく、先輩の匂いがするボディソープで身体を洗って、湯船に浸かった。湯加減はちょっぴり冷たかったけど、お風呂を貸してもらってる立場である、贅沢は言わない。
そうして浴槽を出たとき、僕は気づく。
……あれ。
「服、ないじゃん」
そう、タオルの隣、洗濯機の上、棚。
どこを探しても僕の着替えがないのだ。
……いや、当然と言えば当然な気もするけど、先輩、服の準備とかしてなかった。
素っ裸で出歩くのは流石の僕でも気が引ける。
見られて嫌とかは特にないが、それが原因で先輩と気まずくなったりしたら嫌だし。
ということで、僕は叫んだ。
「せんぱーい、服ないでーす!
男の子の後輩が素っ裸で浴槽に立ってまーす!
わりと寒いです!」
「……すぐ行く」
数十秒後、浴室に投げ込まれたのは、一つのパジャマであった。
ピンク色の可愛い感じのやつである。
先輩の私物だろうか、中々意外な趣味である。
それと、もう一つ。
折りたたまれたパジャマの内側、黒色の紐の見える三角形状の衣服。
ふむ、これは間違いない。
下着だ、これ、先輩の。
「んぁ、でましたよー、せんぱい」
火照った身体をタオルで拭きながら、僕はリビングへと戻った。
当然、服は着ている。先輩のぶかぶかなパジャマを、ダボっとさせながらだ。
……当然、下着はつけてないけど。
いや、だって、流石にアレを履くのは僕の中ではNGである。
確実になにか別のものに目覚めてしまう。僕はあくまで男の子であり、そういう趣味など毛ほどもないのだ。
そんな言い訳をかましながら、僕は先輩の方へ視線を向ける。
「……何見てるの」
「ん、髪下ろした先輩も可愛いなーって、思っただけです」
思ったことを口にしながら。
「……可愛さで言ったら、天春の方がよっぽど上だと思う。
そのパジャマ、私より似合ってるし」
「んー、それって褒め言葉です?」
「うん」
「ふーむ」
男に対して可愛いというのは、少し微妙な表現である。
女の子というものは大抵何にでも可愛いと言うが、そのほとんどは感想に困ったときに言う言葉である、と、この前音夢さんが愚痴っていたのを思い出す。……いや、音夢さんに言うのは絶対本心からな気もするけど。
そんなことを考えながら、僕は火照った身体を冷ますため、先輩に声をかける。
「先輩、飲み物ってあります?」
「ん、冷蔵庫にあるから、適当に持ってきて」
「はいはい、ついでに先輩の分もなんか持ってきますね」
そう言ってから、僕は台所の方にあった冷蔵庫まで歩いた。
デカさもあって、見つけるのは早い。
パカっと開いてみると、そこには自炊用であろう大量の食材が置かれてあった。大半は手をつけていないようだが。
勿体なさにお腹を鳴らしながらも、僕は目的の物。
飲み物のある側面側へと目を滑らせる。
すると、気づいた。
「……あれ?」
そこに置いてある、いくつかの黄色い缶。
まだ二十歳になってない彼女の家には決して、あってはならないもの。
デカデカと「生」と書かれたア○ヒスーパードライの姿に。
「ふむ」
僕はそっと一本を手に取って、台所を後にした。
「——これ、お酒ですよね、せんぱい」
リビングに戻ると同時、キンキンに冷えたビールを先輩のほっぺに押し付ける。一瞬、ビクっとした。可愛い。
「……前にあの二人が家に来たときに置いてったやつ。
べつに、普段から飲んだりはしてない」
「ほんとですかぁ?
ふふふ、信じられませんねー」
からかう僕に対して、先輩はため息をついている。
今の話が嘘っぱちというわけではなさそうだが、見てる感じ飲んだこと自体はありそうな感じがする。だって、冷蔵庫の一番前に入ってたんだもん。
「……貸してそれ」
そんなことを考えていると、先輩が無理やり、僕の手からビールを奪い取る。力は強い、抵抗もできず、ビールは僕の手から離れ去って行き、
そして。
「——あ」
「これで、証拠隠滅」
プシュッ、という音とともに、豪快に、お酒を先輩の口へと流れこんでいった。ごくごくと、一瞬で。
まだ、飲んじゃ駄目なのに。
「ど、どんな味です?」
「べつに。
味とかどうでもいい、飲めれば、なんでも」
僕はじーっと、先輩の口元を見つめる。
手にはアサ○スーパードライ。
飲み干したと思ったビールだけど、まだちょっとだけ、残っているようだ。
すると、視線に気づいたのか、先輩が言葉を溢す。
「はぁ、ほんと、悪い子なんだね。
……いいよ、あげる」
同時、僕の目の前には先輩の手が差し出される。
ビールを持った、先輩の手が。
……こういうのは、勢いが重要である。
僕は先輩から缶を貰うと同時、一気に喉の奥の奥へとお酒を流し込んだ。
「う、うえっ、にがぃ、なにこれ」
すぐむせた、うえ、まずい。
「げほっ、けほ」
初めて飲んだけど……
これは、ちょっと、きびしいかもしれない。
喉が焼けるみたいにシュワシュワしてるし、なにより、苦い。
「せんぱぃ、なんか、甘いものないですか」
「ないけど」
僕は先輩にすがりついて甘味を求めるが、答えはNO。
口中に残った苦味が僕の脳をちくちくと刺激する。
……うぅ、よくよく考えれば、僕コーヒーすら飲めないし、ビールなんか飲めるわけなかった。なんで先輩たちはこんなのをいっぱい飲めるのだろう、ずるい、ずるすぎる。
そんなことを考えながら、悶える僕。
見下ろす先輩の視線は、僕の口元に向いていた。
すると。
「……私の部屋に、お菓子あった気もする」
「そうなんですかっ!」
現れた救世主に、僕は這いつくばっていた状態から立ち上がる。お菓子、それこそ今の僕が最も求めているものだ。
「なら、決まりです」
そして、どうせお菓子を食べるのなら、答えは一つだ。
今は深夜一時頃、普段の僕ならとっくに寝ている時間だが、お泊まりという状況は、眠気なんか容易く覚ましてしまうほど刺激的である。
ということで。
「先輩の部屋で、飲み直しとしましょう。
せっかく、お酒もあるんですからね」
こうして、二人っきりの、二次会が始まる。
他の二人には決して知られてはならない、秘密の二次会が。
次回、えっっっっっ回!
BANされないように気をつけよう!