貞操逆転世界を三大欲求強めに生きるだけ   作:逆転逆転逆転逆転逆転

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4話 お泊まり

 

 飲み屋からだいたい歩いて二十分ほどの距離にあるマンション。そこそこ大きくもあり、家賃を想像したらガタガタ震えだすような、そんな場所に僕は先輩と一緒にいた。

 つまるところ、今日はお泊まりである。

 

「わーい、わーい。

 久しぶりの湯船です、うれしいです、せんぱい、ありがとです」

「……久しぶりって、

 普段、どんな生活してるの?」

「今住んでるとこはシャワーしかないんです。

 あんまり、高いとこには行けないので」

「行けない?」

 

 怪訝そうな顔をした先輩の横をするりと通り抜け、僕は彼女の指さす浴室へと足を運ぶ。

 意外と歩いたし、さっさと入ってしまった方がいいだろう。

 

「あ、どうせなら一緒にはいっちゃいます?」

「……」

 

 残念ながら返事はない。

 うむ、実はシャイなのかもしれないな、先輩は。

 

「じゃ、お先失礼しますね、先輩」

 

 そんなことを考えながら、僕は浴室の扉を開けた。

 

 

 入浴中は特にイベントが起こることもなく、先輩の匂いがするボディソープで身体を洗って、湯船に浸かった。湯加減はちょっぴり冷たかったけど、お風呂を貸してもらってる立場である、贅沢は言わない。

 

 そうして浴槽を出たとき、僕は気づく。

 

 ……あれ。

 

「服、ないじゃん」

 

 そう、タオルの隣、洗濯機の上、棚。

 どこを探しても僕の着替えがないのだ。

 ……いや、当然と言えば当然な気もするけど、先輩、服の準備とかしてなかった。

 

 素っ裸で出歩くのは流石の僕でも気が引ける。

 見られて嫌とかは特にないが、それが原因で先輩と気まずくなったりしたら嫌だし。

 

 ということで、僕は叫んだ。

 

「せんぱーい、服ないでーす!

 男の子の後輩が素っ裸で浴槽に立ってまーす!

 わりと寒いです!」

「……すぐ行く」

 

 数十秒後、浴室に投げ込まれたのは、一つのパジャマであった。

 ピンク色の可愛い感じのやつである。

 先輩の私物だろうか、中々意外な趣味である。

 

 それと、もう一つ。

 折りたたまれたパジャマの内側、黒色の紐の見える三角形状の衣服。

 ふむ、これは間違いない。

 

 下着だ、これ、先輩の。

 

 

 

「んぁ、でましたよー、せんぱい」

 

 火照った身体をタオルで拭きながら、僕はリビングへと戻った。

 当然、服は着ている。先輩のぶかぶかなパジャマを、ダボっとさせながらだ。

 ……当然、下着はつけてないけど。

 

 いや、だって、流石にアレを履くのは僕の中ではNGである。

 確実になにか別のものに目覚めてしまう。僕はあくまで男の子であり、そういう趣味など毛ほどもないのだ。

 

 そんな言い訳をかましながら、僕は先輩の方へ視線を向ける。

 

「……何見てるの」

「ん、髪下ろした先輩も可愛いなーって、思っただけです」

 

 思ったことを口にしながら。

 

「……可愛さで言ったら、天春の方がよっぽど上だと思う。

 そのパジャマ、私より似合ってるし」

「んー、それって褒め言葉です?」

「うん」

「ふーむ」

 

 男に対して可愛いというのは、少し微妙な表現である。

 女の子というものは大抵何にでも可愛いと言うが、そのほとんどは感想に困ったときに言う言葉である、と、この前音夢さんが愚痴っていたのを思い出す。……いや、音夢さんに言うのは絶対本心からな気もするけど。

 

 そんなことを考えながら、僕は火照った身体を冷ますため、先輩に声をかける。

 

「先輩、飲み物ってあります?」

「ん、冷蔵庫にあるから、適当に持ってきて」

「はいはい、ついでに先輩の分もなんか持ってきますね」

 

 そう言ってから、僕は台所の方にあった冷蔵庫まで歩いた。

 デカさもあって、見つけるのは早い。

 パカっと開いてみると、そこには自炊用であろう大量の食材が置かれてあった。大半は手をつけていないようだが。

 

 勿体なさにお腹を鳴らしながらも、僕は目的の物。

 飲み物のある側面側へと目を滑らせる。

 

 すると、気づいた。

 

「……あれ?」

 

 そこに置いてある、いくつかの黄色い缶。

 まだ二十歳になってない彼女の家には決して、あってはならないもの。

 デカデカと「生」と書かれたア○ヒスーパードライの姿に。

 

「ふむ」

 

 僕はそっと一本を手に取って、台所を後にした。

 

 

 

「——これ、お酒ですよね、せんぱい」

 

 リビングに戻ると同時、キンキンに冷えたビールを先輩のほっぺに押し付ける。一瞬、ビクっとした。可愛い。

 

「……前にあの二人が家に来たときに置いてったやつ。

 べつに、普段から飲んだりはしてない」

 

「ほんとですかぁ?

 ふふふ、信じられませんねー」

 

 からかう僕に対して、先輩はため息をついている。

 今の話が嘘っぱちというわけではなさそうだが、見てる感じ飲んだこと自体はありそうな感じがする。だって、冷蔵庫の一番前に入ってたんだもん。

 

「……貸してそれ」

 

 そんなことを考えていると、先輩が無理やり、僕の手からビールを奪い取る。力は強い、抵抗もできず、ビールは僕の手から離れ去って行き、

 

 そして。

 

「——あ」

「これで、証拠隠滅」

 

 プシュッ、という音とともに、豪快に、お酒を先輩の口へと流れこんでいった。ごくごくと、一瞬で。

 まだ、飲んじゃ駄目なのに。

 

「ど、どんな味です?」

「べつに。

 味とかどうでもいい、飲めれば、なんでも」

 

 僕はじーっと、先輩の口元を見つめる。

 手にはアサ○スーパードライ。

 飲み干したと思ったビールだけど、まだちょっとだけ、残っているようだ。

 

 すると、視線に気づいたのか、先輩が言葉を溢す。

 

「はぁ、ほんと、悪い子なんだね。

 ……いいよ、あげる」

 

 同時、僕の目の前には先輩の手が差し出される。

 ビールを持った、先輩の手が。

 

 ……こういうのは、勢いが重要である。

 僕は先輩から缶を貰うと同時、一気に喉の奥の奥へとお酒を流し込んだ。

 

「う、うえっ、にがぃ、なにこれ」

 

 すぐむせた、うえ、まずい。

 

「げほっ、けほ」

 

 初めて飲んだけど……

 これは、ちょっと、きびしいかもしれない。

 喉が焼けるみたいにシュワシュワしてるし、なにより、苦い。

 

「せんぱぃ、なんか、甘いものないですか」

「ないけど」

 

 僕は先輩にすがりついて甘味を求めるが、答えはNO。

 口中に残った苦味が僕の脳をちくちくと刺激する。

 

 ……うぅ、よくよく考えれば、僕コーヒーすら飲めないし、ビールなんか飲めるわけなかった。なんで先輩たちはこんなのをいっぱい飲めるのだろう、ずるい、ずるすぎる。

 

 そんなことを考えながら、悶える僕。

 見下ろす先輩の視線は、僕の口元に向いていた。

 

 すると。

 

「……私の部屋に、お菓子あった気もする」

「そうなんですかっ!」

 

 現れた救世主に、僕は這いつくばっていた状態から立ち上がる。お菓子、それこそ今の僕が最も求めているものだ。

 

「なら、決まりです」

 

 そして、どうせお菓子を食べるのなら、答えは一つだ。

 今は深夜一時頃、普段の僕ならとっくに寝ている時間だが、お泊まりという状況は、眠気なんか容易く覚ましてしまうほど刺激的である。

 

 ということで。

 

「先輩の部屋で、飲み直しとしましょう。

 せっかく、お酒もあるんですからね」

 

 こうして、二人っきりの、二次会が始まる。

 

 

 他の二人には決して知られてはならない、秘密の二次会が。

 

 




次回、えっっっっっ回!
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