貞操逆転世界を三大欲求強めに生きるだけ   作:逆転逆転逆転逆転逆転

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5話 苦くて甘い、そんな味

 

「……散らかってるけど、入って」

「おー、ここが先輩の部屋ですか」

 

 まあ一人暮らしだし、正確には寝室というのが近い気もするけど、細かいことは気にしなくていいだろう。

 

 暗い室内をパッと見渡してみる。

 うん、すっごい簡素だ。

 ベッドと、机と、クマのぬいぐるみが一匹、あと、僕のお目当てのスナック菓子も置いてあった。ふむ、後で頂くとしよう。

 

 それと……ん、これなんだろ。

 

 僕は机の上に置かれてあった黒いタブレットのようなものに目をつける。

 隣から「……あ」という先輩の声が漏れ出たが気にしなくていいだろう。

 

「——あれ、確かこれって。

 ペンタブ?」

 

 確かお絵描きするときに使うやつだ。

 部室にもあったので覚えている。

 あっちのはただの板だったけど、こっちは液晶もついていて、すごくゴージャスである。うん、絶対高い。

 

「先輩って、絵、描くんですか?」

「……まぁ、うん」

 

 それは驚きである。

 部室にいるときも、飲み会のときもそんな話は聞いたことがない。

 先輩方も一度も言ってなかったはずだ。

 

「いつも、どんなの書いてるんです?

 ぼく、一回も見せてもらったことないんですが」

「……そんなのどうでもいいでしょ。

 それより、ほら、こっち来て」

 

 尋ねる僕だが、先輩は答えようとしない。

 僕の身体は一瞬にして、先輩に引っ張られ、ベッドの上に座ることになってしまった。

 

「ビールもある分持ってきた。

 飲み直すん、でしょ?」

「おー、気が利きますね。

 まあ飲めないんですけど」

 

 ま、絵のことは後で聞くとしよう。

 お酒が入ったら先輩の口も軽くなるかもしれないし。

 

「でも、乾杯だけはしときますか」

「ん、そうしよ」

 

 ということで。

 

「かんぱーい!」

「乾杯」

 

 二度目の乾杯を機に、本格的な飲み直しがスタートした。

 

 

 

 そして、数十分後。

 

「ん、あまはる、こっち、きて」

「ちょっとー、酔っ払いの介護はしたくないんですけどー。

 んにゃ、どこ触ってるんです」

「天春はほんと、可愛い子だね」

「んあー、また言った。

 もう、せんぱいのばかぁ」

 

 僕ら互いに身体をくっつけて、ベッドの上にいた。

 手にはビールとお菓子。

 顔は互いに真っ赤に染まっている。

 

 ……先輩はごくごく飲んでたから当然だけど、匂いのせいで僕も酔ってしまった。さっきから頭がふわふわするし、今ならなんでもできる気がする。うおー。

 

「ねー、絵のこと教えてくださいよー」

「おしえない。

 こどもの見るものじゃ、ないし」

 

 酔いを言い訳に、先輩から絵のことを聞き出そうと身体を密着させるが、中々に手強い。というか、完全に子ども扱いされている。

 ……むー、ゆるせない、こうなったら、強硬手段だ。

 

「——よし、仕返ししてやります」

「……んぁ、どこ行くの、天春」

 

 僕は重い身体を持ち上げ、先ほどの液タブの方へと移動した。

 理由は簡単、聞いてダメなら、触ってみろということである。

 

 ……ふむふむ、この液タブ、下にあるパソコンと繋がっているのか。

 お、タップしたら電源ついた。

 なになに、パスワードを入力してください、とな。

 

「せんぱーい、パスワード、なんですー?」

「っひく、んにゃ、37、56、4」

「ずいぶんと物騒なんですね。

 お、開いた」

 

 てか完全に酔ってるな先輩。

 意外と、お酒には弱いようだ。

 いつもだったら絶対教えないのに、ふふ、弱点を見つけてしまった。

 

 ま、そんなことより。

 今は先輩の液タブの方が大切である。

 

 実を言うと、結構興味があるのだ、先輩の絵というやつには。

 だって、いつも何を考えているか分からない先輩の絵だよ。

 謎の宇宙生命とかを描いててもおかしくない、もしくは三回見たら死ぬ絵とか。それで音夢さん辺りに見せてガチビビりさせてそうである。

 

 そんなことを考えていると画面にウィンドウが表示される。

 びっしりとアプリが詰められたその空間に、思わず僕の手が止まった。

 

 ……んー、よくわかんないけど、これじゃないだろうか。

 

「モノは試し、ポチッとな」

 

 なんちゃらかんたらペイントって書いてたし、それにタスクバーのいちばん右っ側にあったしね。お酒もあって、軽くなっている僕の右手は何の躊躇もせず、そのアプリアイコンをクリックした。

 

 すると。

 

「——あ、でた」

 

 次の瞬間、フルスクリーンとなったモニターにはデカデカと一枚のイラストが表示された。

 

 画面いっぱいが使われた、大きくて、見やすいイラスト。丁寧な色塗りもされてるし、完成度が高く、リアリティーにも溢れて、いる。

 

 ——絵には、二人の人物が描かれていた。

 

 一人は男の子だった。

 背が小さくて、クリクリとした瞳に、一瞬、女の子と見間違いそうなる細い身体をしている、男の子。

 

 もう一人は女の子だった。

 背が大きくて、ムッとした感じが伝わる、ウルフカットの怖そうな女の子。

 

 クマのぬいぐるみが置かれた、女の子の部屋で二人は会話をしている。

 場所は、ベッドの、上。

 そして、服は。

 

 ——互いに、一糸纏わない、裸の状態で。

 

『あ、っあ、いぐ、やめ、つ、せんぱ、い。

 やだ、やだぁ、もう、ち○ちんいじめるの、やだよぉ』

『これで、五回目。

 あんな可愛い顔して、そっちは元気なんだね」

『いや、いやっ、しらない、ぼく、こんなの、しらない』

『ぜったい、やめてあげないから。私をこんなことにしたのは、ぜんぶ、君のせいなんだから』

 

「——ん?」

 

 なんだこれは?

 ……え、これが、先輩の描いてるっていう、絵?

 この、すごく、ものすっごく、その、えと……エッチな、絵が?

 

 心臓がどくどくと脈打つのを感じる。

 見てはいけないものを見てしまった、ま、まさか、先輩に、こんな趣味があったとは。

 

 僕は咄嗟に目を背けようとする、けど。

 

 そこにある、一つの名前が、目に入ってしまった。

 

『天春が悪いんだから、ほいほい、着いてきちゃって。

 襲われるに、決まってるでしょ』

 

「……これ、僕と同じ名前?」

 

 そのとき。

 

「——天春、なに、してんの?」

 

 背中から、声が聞こえた。

 

「あ、先輩」

 

 僕の背後には、先輩がいた。

 酔いが覚めたのか、真っ赤だった彼女の顔は、ひどく変色している。

 具体的には、すっごい青色に。

 

「それ、わたしの、絵。

 なんで、みてるの、あまはるが」

 

 完全に正気を取り戻している先輩。

 彼女は僕の肩にドンと手を置きながら、問を投げかけてくる。

 

「こ、こっそり、見ちゃいました。

 それで、あ、あの、一つ、質問して、いいですか?」

 

 けど。

 質問があるのは、僕も同じだ。

 

「なんでこの絵の中の僕は裸にされて、このおっきな女の子と抱き合ってるんですか?」

 

「……」

 

「ぼく、こんなこと言ったことないですよね?

 おち○ちんいじめってなんのことですか?

 せんぱいは、なにを思ってこれを描かれたんですか?」

 

「それは、その」

 

 先輩は数秒言い淀んだあと、まるで、開き直ったかのように言葉を放つ。

 

「——そうなったら、いいなって」

「あ、そうなんですね」

 

「……」

「……」

 

 ふむ。

 つまり、こういうことだろう。

 先輩は僕がこの絵の通りになることを望んでいる、要するに、こんな感じに二人でベッドで抱き合って、僕が、先輩にいじめられて、そして……

 

 ——あ、どういう反応すればいいの、これ。

 

 それに対する、僕の答えはこうだった。

 

「……も、もー、せんぱいのえっち——」

 

 

「天春が、悪い。

 こんな、ほいほい着いてきて」

 

 直後、僕の身体はベッドに落ちた。

 うん、どうやら、間違いだったみたい、僕の反応。

 

 先輩は止まらない。

 ぎゅっと彼女の腕によってホールドされた身体は、完全に押し倒されて、身動き一つすら取れない。

 

「悪い女ばかりって、教えてあげたのに。

 ちゃんと、忠告してあげたのに」

「ちょ、ちょっと、掴むの、痛いですって」

「うる、さい」

 

 瞬間、僕の口の中を、甘い感触が襲う。

 鼻をつんざくお酒の匂い。

 暴れ出す、先輩の舌が、僕の脳を激しく揺らした。

 

 もう、仕方ない、人だ。

 

「……あま、はる?」

「強引なんですから。

 ほら、いいですよ、まったく可愛い人ですね」

「……いい、って」

「言ったじゃないですか。

 僕も、悪い子だって」

 

 言った直後、僕は困惑する先輩目掛けて、そっと、唇を合わせた。

 何秒も、何十秒も、ずっと。

 手慣れたキスを、何度も、繰り返す。

 

「ん、まだちょっと、ビール、残っちゃってますね、せんぱい」

 

 先輩との初めてのキスは、ひどく苦くて、舌が焼けるくらい熱かったけど。

 

 でも、微かな甘みがあったのも、事実だった。

 




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