地球侵略しに来た私、ダンジョン攻略者になりました 〜塔に刺さってるその宇宙船、私のです〜 作:人類の味方
宇宙船の中にいたはずなのに、知らない廃墟にいる。
床はボロボロになった石畳で、空いた隙間からは雑草が生えている。周囲には、囲むものを失ったボロボロの壁が点在している。天井は高いけれど、目をこらせば岩肌が見える。息を吸い込めば、どこからか漂う獣臭さが鼻孔の奥へと流れ込む。
「……ここどこ?」
頭の中にまるで星雲がかかっているようだ。ここにいる理由も、直前に何をしていたのかも全然思い出せない。
「そもそも私って……誰だっけ……うわっ」
ブゥンという音と共に目の前に突然、光の球が現れた。それは10個以上に分裂し、互いに離れるように動いたあとそれぞれ大きくなって円を描いた。そのうちの一つに、少女の姿が映った。長く伸びた銀色の髪が、頭部に生えた2つの真紅の角を引き立たせている。彼女は質のよさそうな赤い軍服を纏っているけれど、どこか怯えた表情を見せていた。
……いや違う、これ今の私だ。
思い出した。私はレイラ=ケテルバアル。
クリフォ星の王族であり、ここに映る真紅の角はその証だ。
記憶がゆっくりと蘇ってくる。そうだ私は……私達はこの星を侵略しに来たんだ。
〜〜〜〜
「ようやくこのときが来ましたね、姫様」
宇宙船の艦長席に座っている私の後ろから、感極まった声が届いた。振り返らなくてもわかる。シャハルだ。
クリフォ星換算で私より2歳上の女性。王族に仕える一族の出身。側頭部から伸びる白い角——私達クリフォ星人の特徴だ——と、なにより、ピンク色のつややかな髪が美しい。それが羨ましくて、小さい頃は、私の銀の髪と交換してとか言ったんだっけ。できるわけないのにね。
「ありがとう、シャハル。私を支えてくれて」
本当に、長い道のりだった。長距離ワープを20回は重ねてようやくたどり着いた未開の地だ。ここまで来るのにおよそ1年かかった。
「あなたが居てくれたから、私は自分の船団を率いるって夢を諦めずに済んだ。そして、今、こうして誰も手をつけてない星まで来れた」
「いいえ、成し遂げたのは姫様です。父や兄の力に頼らず、自らの力で船団を組織し、ここまで率いた……レイラ様の」
「て、照れるなあ」
「半年前、お家に帰りたいと泣き出したときはどうしようかと思いましたが」
「今言わなくても良くない?」
シャハルが言っているのは私がホームシックになったときのことだ。でも仕方ないじゃん。代わり映えのしない宇宙を1年間見続けるのがここまできついとは思ってなかったもん。
「そんな恥は、これから栄光で塗りつぶしてしまえばいいのです。姫様、そろそろ時間です」
「……侵略が終わったら、ちゃんと忘れてよ?」
席の端末を操作し、ホログラムを起動する。私は深呼吸を一度した後、艦内通信を全てONにした。
食堂から戦闘機の格納庫、反物質エンジンの機関室まで、余すことなく、艦橋とつながった。
「諸君、傾聴せよ。レイラ=ケテルバアルである」
私の声は震えてないだろうか。
王にふさわしくない、か弱い娘に聞こえていないだろうか。
よぎる不安を飲み下して、私は言葉を紡ぐ。
「長旅、ご苦労であった。未踏破領域を横断し、我々はついに目的地へと到達した。そして目の前の青い星、誰の手もつけられていない原石が我々を待っている」
仲間を率いて船を駆り、この広い宇宙を蹂躙する。その中に浮かぶ、きらめく宝石に戦いを挑み、勝ち取る。
お祖父様の語るそんな冒険譚が好きだった。いつか私も冒険に出たいと憧れた。
そして今、私の夢が叶う。
「これを落とし、私達の歴史に新たなページを刻もう!」
そして、私の人生に。ここにいるみんなの名前を刻むんだ。
「さあ——侵略の時間だ!」
宇宙戦艦は壁越しに声なんて通さない。けれど私は確かに鬨の声を聞いた。
1年も退屈な旅に付き合わせたのに、やる気のある奴らだな。ま、継承権なんてほぼない私についてくるやつらなんだから、当然か。
ふと、頬が濡れた感覚があった。誰だろう、艦橋で飲み物こぼしたやつは。私の顔にかかったじゃないか。まったく。
「——見事な演説でした」
「お世辞はいいって……で、戦闘準備は整ってる?」
「はい。戦闘機はいつでも発艦可能な状態。戦艦の外部兵装も問題ありません。」
「よし……あとは、あの”人類”ってやつがどの程度の脅威か、よね」
人類……って自分たちを表現するしかない時点で、文明レベルはたかが知れているけれど。
ようは異星人との接触経験が一切ないということだ。
惑星に地球って名前をつけていることからもわかる。いつか外宇宙に進出した時どう名乗るつもりだったんだろう。まあいい。平定したあとは私が名前を考えてやろう。
「プランに基づいて、ニホンに降りる。海を自然の防壁にするわ」
「承知いたしました。着陸目標……トウキョウ。降下開始!」
号令を合図に、船が動き出す。クリフォ星の最先端技術で作られたステルス迷彩は、低文明に見破れはしない。船は着陸態勢に入り、大気圏へと突入を開始した。
「……妙ですね」
「どうしたの?」
シャハルは今、先行させた偵察機を操作して地上の様子を確認している。
「着陸場所ですが、地中より妙な振動が確認されています」
「振動? プレート運動によるものではなく?」
「傾向が違います……これはいったい——!?」
突然、船の中に警報が鳴り響いた。
「地上より高速で迫る物体を検知!」
「偵察機より映像を出します!」
最初がクルーの叫びで、次がシャハルの声だった。
艦橋の大型モニターに出たのは地を割り、空へと勢い良く伸びていく謎の構造物だった。
そして——この構造物の先にあるのは私達の船だ!
「回避しろ!」
「ダメです、間に合いません!」
「ならば迎撃しろ!」
「もうやってます! ですが——速度が落ちません!」
なんだと。おのれ地球人、やってくれる——!
「総員、対ショック体勢!……レイラっ!」
シャハルの叫びと衝撃が私を襲ったのは同時だった。
惑星間電磁砲すら耐えるはずの装甲を突き破り、黒い何かが艦橋を貫いた。衝撃波が私達の身体を容赦なく打ち付ける。
『緊急プロトコル発動。内部時間凍結開始』
「シャハル——!」
私はシャハルに手を伸ばそうとしたけれど、激痛に苛まれた身体はうまく動かない。
シャハルの動きが止まったのを認識したと同時に、私の視界は白く包まれた。
『王族用緊急プロトコル発動。次元脱出開始』
そして私は、この世界から断絶した。
〜〜〜〜
「思い、出した……!」
おのれ地球人め。よくも私の船を、仲間たちを。
クリフォの誇る技術の結晶がいともたやすく破壊された。信じられないことだけど、受け入れるしかない。でも、いったいどうやって? この星にそんな技術力があるようには思えなかった。
「シャハル……」
それにみんな。無事だろうか。意識が途切れる直前、時間凍結が発動していたはずだ。あれは乗組員たちを守るための最終手段で、不慮の隕石事故とかで船が大破したとき、全滅をさけるために行われる。
時間が止まっている間はダメージを受けない。でも、助けなければ永遠に時間が止まったままだ。それに、敵が解除する手段を持っていたら意味がない。
でも、私も時間凍結されるはずじゃ——いや、意識が途切れる直前に機械音声が言っていた。
王族用緊急プロトコル——多分私だけ次元の狭間に避難させられたんだ。聞かされてないって、そんなの。父と兄のお節介だろう。生命体は次元の裏にしまえなかったと思うけど、いつの間にその点をクリアしたんだろう。……もしかして、私がほぼ死にかけてたからできたのかな。
いや、今はとにかく、早くみんなを助けないと。
「でも、どこに行けば」
画面を操作して船の信号を探知しようとしたけど、なにかに阻まれている。まずは外に出るべきよね。
「ギャギャッ!」
「ん?」
背後から薄汚い声がした。
振り返れば、そこに居たのは――。
「地球人?」
二足歩行をしている。手に棒のような道具を持っている。上半身は裸だけど、腰にボロ布を巻いて衣服としている。だから多分地球人だ。
でも、あいつらの肌って緑色だったっけ?
「ギャッ……グギャギャッ!」
別の方向からも同じような声がした。
いつの間にか私は、緑色の肌を持つ地球人に囲まれていた。
地球人(緑色)