破滅確定の悪役貴族だけど、ここから入れる保険はありますか? 作:双葉鳴
コモーノが家族団欒をした午後、おすそ分けの品は冷蔵保存されてアルフレッドの元まで運ばれた。
その際持ち込まれた映像水晶により、今後会話を行う試みである。
水晶越しの会話は、呪縛の効力が及ばずに会話が可能だった。
あの時の会談では出来なかった無駄話に花を咲かせてると、すぐに今回の茶会の出来事を問題視するような声が上がる。
「それはそれとして、兄さんはどっちとくっつくの?」
『どっちとは?』
「王女様と聖女。どっちも可愛くて権力がある。貴族にとっても高嶺の花だ」
『どっちもゴメンだよ』
「だろうね」
最初から答えを分かっていながらも、アルフレッドは兄の気が変わる可能性を考慮して尋ねていた。
『正直、こんな簡単に釣れたのは肩透かしだ』
「だよね。兄さん的には汚名返上のつもりでの持ち込み品。誰かを釣る意図はなかった」
『オレはお前のやらかし(霊草ニュクス)をうやむやにしたいだけだったんだけどな』
「それ以外の意図はないの?」
『ないとは言い切れんが、母様の社交界での立場が良くなればいいなと手を打っておいた』
「けど、それを王女様に邪魔されたと?」
『お前本当にその場所から動いてないのか? まるで見てきたようにモノを言い当てるじゃないか』
「僕はもともと頭脳派だよ? 兄さんは分かりやすいから想像しやすいんだ。王女様の思考も手に取るようにわかる。問題は聖女様だね」
アルフレッドは貿易で手に入れたチェス板の駒を進める。
まるでこれからの攻略を進める為の駒がどう出るかを予測しているかの様だ。
『ああ、あれは相当腹黒いぞ。本人がどの程度かはわからんが、親は相当欲深い。うちはオレの失敗と金回りの悪さから挨拶もせずに遠巻きにされてた。でも王女様が後ろ盾になった途端にすり寄ってきた』
「すぐ裏切るタイプだよね。その癖周りの誰も信用はしてない。娘すら自分が成り上がる為の小道具扱いか。そりゃあ兄さんが警戒するのも無理はない」
『だろ? お前だったらどう対処する?』
「僕はそうだなー」
アルフレッドは駒を進めていき、ポーンで相手陣地のポーンを払った。
「捨て置いても問題ないと見る」
『その心は?』
「ただの玉の輿願望。上位貴族のしがらみを一つも理解してないのが窺える。金の切れ目が縁の切れ目。風向き次第で向こうから縁を切ってくるよ。うちの家名って歴史の教科書に載るくらいに有名だから」
『まぁ、だろうな。問題は裏切った時の対処だ。オレは構わんが、魔剣のアスティがどう出るかわからん』
「国の右腕を謀るとか死罪でしょ。聖女様の方はともかく、親は生かしちゃおけないよね」
『生殺与奪の権限はオレが握るが、どうしたもんかなぁ』
水晶の向こう側で、テーブルに一緒に座る少女がもぐもぐと菓子を食べ進めている。
魔剣の精霊であると紹介された時は流石のアルフレッドもびっくりしたが、こんな小さい子なのかと知って安堵したのを覚えている。
映像水晶越しでなら見える、一族代々の呪縛の根源。
今は映像水晶越しだから大人しくしてくれているが、面と向かえばまた暴れかねない恐ろしさがある。
無邪気だからこそ、どこまでも残酷になれるのだ。
『そういえばアルフレッド』
「なぁに?」
『お前ジョブレベルいくつになった?』
「んー? なにジョブレベルって」
『いや、なんでもない。そうか、ゲームじゃないからレベル制じゃないのか。それは迂闊だった』
「なんの話?」
『実はさ、父様や母様がお前に謝罪したがってるんだ。呪縛によって酷い言葉を言ってしまった。酷いことをしてしまったと。だからお前に屋敷に来てもらって直接顔を見たいと言ってきた』
「それは……多分ダメなんでしょ?」
『正直にいえば、呪縛を無効化できてないから厳しいな。だが裏技があるんだ』
「裏技?」
『そいつはだな……』
小声でゴニョゴニョと語るコモーノに、アルフレッドはそんな技があるのか! と感銘を受けた。
それは王の采配の従者を、取り出し自在に操ることができるとのことだ。
どうしても従者の容姿はアルフレッドに似る。
それをうまいこと使って、自由に動けるアバターにしてしまうということだった。
基礎スペックはアルフレッドの1/3まで落ちてしまうが、従者なので王の采配による危険度はなく、安全に会話ができる。
そして記憶の鍵を使用することで、視覚だけでなく嗅覚、触覚、味覚などの五感もしっかり体験できるようになっている。
その代わり消費する記憶の鍵も膨大で、コモーノはレベルによって獲得できる数が変動する入手量を確かめたくてアルフレッドに尋ねていたのだ。
「それなら、うん。今すぐできるよ」
『本当か!?』
「兄さんのお陰でお金に余裕はあるからね。それに兄さんが雑談感覚で攻略情報教えてくれるから記憶の鍵はたくさん余ってるんだ。それを従者に使えばいいの?」
『ああ、でも使うのは取り出してからにしろ』
「取り出す前に使うとどうなるの?」
『お前がアナザーキングダムの世界に入ったキリになる。言ったろ? これは裏技なんだ』
「先に聞いておいてよかった。取り出した後はどうするの?」
『まずは肉体制御に鍵を一個使う。頭で動きたいように動かすことができるが、結構体力を持ってかれるからなぁ。それが出来たら一つ一つ乗り越えていくんだ』
「リハビリしてるようなもの?」
『感覚的には近い。新しい体を作るんだ。NPCに命を与えるものだからな。ちなみに、従者は死んでも復活する。ゲームではそれでゾンビアタックしてたな』
「あはは、確かにそれは裏技だ。でも……」
『お前を追い出した父様に顔を合わせる勇気は出ないか?』
「ううん、そういうんじゃなくて」
『じゃあなんだ?』
「その肉体はあくまで作り物でしょ? 他人から見たら気味悪がられたりしないかなって」
『その点は大丈夫だ。NPCが操ると人形みたいになるが、操るのが人間なら、動きが人間臭くなる。それに記憶の鍵を使った分だけより人間に近くなる。最初は心配事ばかりだが、俺も協力するから。正直、お前の力を借りたいんだ』
「兄さん……分かったよ。僕、頑張ってみる」
『頑張ってくれるか! もしお前が擬鎧をマスターしたら、従者としてビシバシ扱き使ってやるからな!』
「その代わり、新作スイーツは一番に食べさせてよ?」
『一番はパメロだな』
「じゃあ二番! これは絶対だよ?」
『二番はアスティが居る。こいつの制御をスイーツ関連にしたからこれはオレの今後の人生に大きく影響する。だから三番目でいいか?』
「ぶー。アスティよりもパメロがいちばんの理由はなにさー」
『あいつはオレの従者だぞ? 一応表向きの従者として優遇してやらにゃ、主人として面目が立たん。それに……』
「それに?」
『あいつは女だ。分かるだろ? 主人として責任を取ってやらにゃいけないんだよ。本人にその気はなくとも、ロルフがなんて言うか……』
「兄さんも隅におけないね」
『そんなわけでお前は三番手だ、アルフレッド』
「りょーかい。でも従者として運用するのに表向きではないのはどうして?」
『擬鎧には活動時間がある。慣らしていかないと人間と同様には動けない。だから最初は家族との団欒に耐えられる程度で様子を見る。従者として扱うのはそれからだ』
「遠い道のりだね」
『そうだぞ。言ったろ? 裏技だって。裏技系は大体が制作会社の意図してない挙動だ。バグの類だな。最初はろくに体を動かせない。でもそんなバグの挙動を執念で動かす奴がいた。多くの検証ガチ勢が匙を投げた中、やり切った男は賞賛された。変態と揶揄されたがな』
「それを僕に課す兄さんは鬼畜だね!」
『お前だって作りたてのスイーツを口にしたいだろ? 別にオレは今まで通りだっていいんだぜ? やるかやらないかはお前が決めろよ、アルフレッド。これはただの提案だからな』
コモーノは散々押しておきながら、最後の最後で引いた。
アルフレッドは話を最後まで聞いて、今更諦める選択肢はなかった。
自分の存在が明るみになるのは困る。
それでも両親に一目会いたい。
映像水晶越しの味気ない風景ではなく、肉眼越しの顔を。
その為だったら、やってやれないことはない。
「じゃあやり切ったら、なんでもひとつ言うことを聞いてもらうからね?」
『オレに叶えられる範囲でな?』
「どうしよっかなー?」
離れに閉じ込められて1ヶ月。
ベッドの上で指示出ししてるのはもう飽きた。
今度は自分が動き出す。でも、それをするには敵が多すぎた。
敵を作らない為の擬鎧。
それを纏い、操る未来を夢想しワクワクに支配されるアルフレッド。
コモーノとの通信を切った後は、過酷なリハビリ訓練に精を出した。
何度もサリィを驚かせたのはいうまでもない。
擬鎧活動中は本人が眠りっぱなしになるので、ニート活動しているアルフレッドがうってつけなんですねー!