破滅確定の悪役貴族だけど、ここから入れる保険はありますか? 作:双葉鳴
「えっ、王家に乗り込む? その上で王子様の身代わりだって!? ムリムリムリ! と言うか国家反逆罪の嫌疑かけられるよそれ!」
「まぁまぁ人助けだと思って。正直ルード様は毒殺一歩手前だ。でもお前の擬鎧なら毒は効かないだろ? 万が一他殺でもセーブポイントであるベッドの上で復活する。そう言う点でお前はうってつけなんだよ。なぁに、ルード様の活動時間はそう多くない。それにオレはスグエンキル家の後継者だぜ? もし国家反逆罪だって言うんならアスティがオレを放っておかないだろ?」
「今そこで地面に埋め込んでる魔剣に目を合わせて同じこともう一回言ってみて?」
ガタガタガタン!
魔剣ジャスティスはハンマーで地面に縫い付けて、その上で錘が乗せられていた。
自在に動かれたらコモーノの首を狙いかねない。
「オレは第一王子の頼みで学園入学まで匿うって決めたんだ。いいか、アルフレッド。王位継承権を引き継ぐまで、どっちにも公平に王位継承はある! だからただ匿うだけなら、国家反逆罪にはならない!」
「魔剣は無茶苦茶反応してるけど?」
「実は求められた菓子の量があまりにも多くて力技で解決した背景がある。そのためにお前に交渉しにきたんだ。とりあえずこれ」
コモーノがポケットからスッとメモ帳を取り出す。
受け取ったアルフレッドは、ゲッという顔をした。
アスティの求めた菓子の量はアルフレッドの想定する100倍くらいあった。
逆に言えばそれぐらい魔剣にとって今回の件は飲み込むには重い一件である。
つまり魔剣からしてもルードは王に相応しくないと判定されていたのだ。
ストーリーにそんな縛りあったっけか?
まだ主人公がどのルートに進むかわからないのに、もうこんな強制力が働いてるなんて……と思うコモーノ。
その日は魔剣を宥めるのに三日三晩使った。
◆ー◆ー◆ー◆
日を改め、二週間後。
大荷物はマーナ王女向けのデザートという名目でアルフレッドの擬鎧を持ち込むコモーノ。
憑依するまで生体反応はないので、そのまま素通りする。
今回は大掛かりなケーキを持ってきた。
チョコレートで土台を作ったピエスモンテである。
高く積み上げた台の上に、フルーツで彩られたアントルメ。
数種類のプチガトー。
今回は王女マーナの誕生を祝してのもてなしだ。
それがケーキなのはスグエンキルならではだろう。
本来はウエディングなどの特別な日に贈呈される品々だが、国の王女なのだから問題ない。
全員が見守る中、台の下に隠されたアルフレッドの擬鎧がソファへと降ろされる。
まるで眠っているかのような状態。
これが人形だと聞かされて皆は信じられないと状況を伺っていた。
「アル、頼む」
コモーノが映像水晶を通じてアルフレッドに連絡をよこすと、アルフレッドがルードに似せた擬鎧に憑依する。
『……初めまして、皆々様』
「しゃべった! 本当にお兄様みたいだわ」
見た目こそルードだが、まだキャラが定まってないのが丸わかりである。
僕はそんなふうに喋らないぞ、と言いたげにルード本人はムッとする。
「では私はここに座ればいいのか?」
アルフレッドが座ってきた窮屈な台の中に、収まろうとするルードに、コモーノは申し訳ありませんと平謝りした。
「ではマーナ様、ルード様をお頼み申します」
「ええ、新しいお兄様の事は任せてちょうだい」
「これは……事が明るみになった時、大混乱が起こるでしょうね」
毒味薬のカーミは、他人事のように笑う。
この少女はどこか部外者のような立ち回りをするが、聖女という役割を担った以上に絶対に裏切らないと信頼もしていた。
なんせ自分が将来嫁ぐ相手である。
可能であればルードの方が色々楽できそうだと考えての協力だ。
弱みを握ってる方が、自分の意見は通しやすいと言う考えが透けて見える。
一見か弱そうなのに胆力だけなら大人顔負けだ。
それとも聖女になればそれくらいのことやってのける胆力が養えるのかもしれない。
「事が明るみになれば私の魔剣が発動する。くれぐれも手は煩わせないでくれよ?」
「ほほほ、首謀者がよく言いますこと」
お互いに笑い合う。
「では、私はこれで。また次の茶会でお会いしましょう」
笑顔で別れ、そのままアルフレッドの別邸へと運び込む。
道中の移動でお尻に深刻なダメージを受けたルードは、酷い目にあったと恨みがましい視線をコモーノへと向けた。
「ようこそ、我が家へ。狭い場所ですがどうぞ」
出迎えにきたのはアルフだ。
コモーノの前に出るには本人では大事になりすぎる。
部下という面目も兼ねてアルフは案内人として優秀だった。
「世話になる」
「お召し物はこちらに置いておきますね」
「ああ……と言うか」
ルードは室内を見渡した。
質素でありながらどこか気品を感じさせる室内。
調度品は必要最低限だが、機能的で王宮の自室に引けを取らない。
「スグエンキル家は客室でもここまでのレベルなのか?」
「この場所が特別なのでございますよ。コモーノ様の大事なお客様と聞いております」
そう言えば、自分の立場は伏せて伝えると言われていた。
ここにいる間は身分関係なく過ごしてほしいとも。
「ふぅ」
開け放たれた窓から入り込む風の心地よさに嘆息する。
急に職務から離れることになって、考える時間ができた。
時間によって差し出される菓子のグレードは下がるものの、毒を心配しなくてもいいのでお腹いっぱいになるまでいただいた。
入浴も着替えも全部一人でしなくてはいけなかったが、いつ命を狙われるとも分からない状況と比べたらまるで天国だった。
ルードは満喫するうち、この屋敷にもう一人同年代の子供が住んでることに気がつく。
案内役のメイドは、その子供の付き人だと思うと納得した。
「ねぇ、君。君もこの場所に匿われてきたのかい?」
ルードはアルフレッドへと声をかける。
「申し訳ございませんお客様。今アルフレッド様はお仕事中でして。あと十数分もすればお時間が空きますので、またその時おいでくださいませんか?」
「すまない、自分以外の子供がいると知ってつい」
「いいえ、アルフレッド様もきっとお喜びになられますわ」
「ではまた後で」
何時頃行けばいいか聞くのを忘れてルードは自室に篭ると羊皮紙にメモを書き留める。
そこまで没入していたつもりはないけど、気がつけば窓からの日差しはすっかり落ち込んでいた。
夕暮れにはご飯の時間だと呼ばれ、席につくともう一人の子供と出会った。
「改めまして。ここの屋敷の主人をしているアルフレッドです。本日は碌にお相手もできずに申し訳ありませんでした」
「いやいや、こちらも急に押しかけて申し訳ない」
なぜか始まる謙遜合戦。
次第に、どちらともなく吹き出し笑い合う。
「ぷっ」
「フフフ。なんだか悪くもないのに謙遜しあってて可笑しいな」
「本当に」
「改めて、ルードだ」
「もしかして第一王子様?」
「今はプライベートのお忍びだ。無礼講で頼む。世話になってる場所でまで権力を振りかざすつもりはないよ」
「そう言っていただけるとありがたいです。改めてよろしくお願いします。サリィ、お夕飯は?」
「今お持ちしますね?」
鼻腔をくすぐるいい香り。
すぐに自分が空腹であると気がついて、後頭部をかく。
「お腹がお空きでしょう。平民の食事が口に合うかはわかりませんが」
「いや、空腹は最高のスパイスだと言うだろう?」
「お口に合わなければ無理していただかなくても宜しいんですよ?」
「今は腹が空いてるからな。たくさんお代わりしてもいいか?」
「こんなものでいいのならいくらでもお食べください」
ルードは久しぶりに暖かな食事をとった。
きちんと食材の味がする。
変に薬草臭くないし、舌先が痺れることもなかった。
食べた後に体調が悪くなることもない。
最初はどうなることかと思ったが、今回は匿ってもらって正解だと思った。