破滅確定の悪役貴族だけど、ここから入れる保険はありますか? 作:双葉鳴
王城では、なかなか意識を閉ざさないルードに対ししびれを切らす様に錫杖を強く打ち付ける音が響く。
「ええい、まだルードは堕ちぬのか!」
四年の月日をかけて衰弱させたはずの第一王子。
しかし国王マリオンの思惑では、もっと早い段階で操り人形にしているはずだった。
そう、本来のストーリーではルードはマリオンに操られた傀儡状態で始まる。
すんでのところでコモーノが余計なおせっかいを入れたせいで、国王マリオンの堪忍袋の緒がぶち切れる寸前だった。
「陛下。何故そうまでルード様に拘るので?」
「口を開いて良いなどと許可した覚えはないぞ、リボイス。あの子は危険なのだ。私を追い落としかねない職能を持った。あれが私の後を継げば、まず間違いなく過去の罪を贖う様に動くだろう。少しの必要悪も見過ごせぬ性格だ」
「つまり都合が悪いと?」
「悪いか?」
「いいえ、承知しました。しかしそれを聞いたらケーベン様はいい気分にはならぬでしょう」
「あれを操ったところで何も得られぬからな。操らずとも私の手の内よ。だが、ルードは分からん」
なるほど、とリボイスは顎に手を置く。
マリオンにとって、よく分からない内の一人には当然リボイスも含まれている。
どれだけ皮肉を言おうと交わされるので、最近は言うだけ無駄だと諦めていた。
「マーナ様はどうなされるので?」
「他国に嫁がせて、こちらに協力させる以外の役に立つと思うか?」
「子供まで自分の手の内にしなければならぬと本気でお思いで?」
「私の政策になんの問題がある?」
ないとは言い切れぬ。
むしろありまくるだとリボイスは目で訴えるが、マリオンは真っ向からそれを打ち消した。
今更嫌味が通じないのはお互い様である。
「それより、スグエンキル家の子息の位階が四段階に至った話はお耳に入れられましたか?」
「聞いている。随分と順調に育っているそうじゃないか」
「マーナ様と何やら企んでいるご様子だとか」
「あの娘に王位継承権はない。企んだところですでに手遅れ。私にとってなんの利用価値もない」
「ですがスグエンキルには絆消失によるバフがあります。絆が育てば育つほどバフの威力は上昇する。いざという時切られたら陛下であろうと侮れないのでは?」
「馬鹿なことを申すな。それこそこちらにとって好都合であろう。何せスグエンキルの呪縛は我ら王族に剣を向けられぬ盟約がかけられている。そして王に逆らえば魔剣に殺されるのはスグエンキルの方だ。魔剣士にとっての王とは、絶対に逆らえない契約主なのだ!」
安全圏から見守っている。
万が一裏切られても、その為の保険は完璧だとマリオンは勢いづく。
リボイスはそんな兄に対して、その臆病さが実の弟すら信用できずに手をかけたと言う事実を拭いきれそうもない。
兄にとって自分より優秀な弟は目障りでしかないのだ。
頼ることもせず、疑わしければ殺せと強行策に出た時は己の眼を疑ったほどである。
そんな兄に、いつ自分は切られるか分からぬと、リボイスは恐々としていた。
王弟といえど、その地位は盤石ではない。
そんな高いリスクの中で探る様に言葉を並べる。
「それはそうと、下級貴族の間で霊亀ユグドラシルの目撃情報が流れています」
「どこぞの国の入れ知恵か?」
「でしょうね。どうされます?」
「疑わしければ殺せ。それが王命である」
「承知いたしました。でしたら息子を遣わせようと思います」
「もう運用できるのか?」
「誰に似たのか、優秀なもので」
「ならば成果を出して見せよ」
「必ずや陛下のお役に立たせましょう」
◆ー◆ー◆ー◆
国の中心で勝手に遠征先を決められた息子ファルキンは、王命と聞いて眼を大きく見開いた。
こんなイベント知らないと言わんばかりだ。
「陛下からの直々の命令だ。見事使命を達成して見せよ!」
「畏まりました! 我が命に変えて!」
「そう簡単に命を捨てられては困るな。生きて帰ってこい。どうせ事件解決までは望んでおらん。お前がどれだけ動けるかを示せ」
「了解しました」
初めてのお使いは、噂の出所を調べろと言うものだった。
そこで他家の情報に聡い妹へ頼って足を運ぶ。
「グレイス、少しいいか?」
「あらお兄様からだなんて珍しい。明日はきっと槍が降るわね」
「縁起の悪いことを言うな。それに俺に槍など効かん」
「自分だけは生き残る自信はおありなのね?」
「まぁ、そう言う職能だからな」
「せめて手の届く限りの命は助けませんと。公爵家の子息として最低限の義務を果たしませんと」
初手皮肉。
身内には手厳しい妹が、何故かコモーノにメロメロと言うのだからよく分からない。
「で、物は相談なんだが」
「お待ちになって。何故私がお兄様の相談に乗ると言う体でお話しされてるのです? まずそこからでしょう? 私も忙しいのです。お手を煩わせるのなら、まずそちらから譲歩すべきでしょう」
「くっ」
扇子で口元を隠し、嫌だわと視線を流すグレイス。
ここ最近妹はすっかりコモーノに洗脳されつつある。
やれどの菓子がうまいだの、王都の菓子は気品がないのだの。
口を開けばコモーノ賛美ばかりで、実の兄を讃えぬ妹にファルキンは目くじらを立てていた。
「なら今度掛け合って我が家に招待してみせる。それで手を打ってくれぬか?」
「それは嬉しいですけど、マーナ様専任の職人を借り入れるなど、王家に宣戦布告でも致しますの?」
「友の願いを聞き入れてくれる奴だと信じている」
「まぁ、お友達だなんてどの口が言うのです? いつも忌々しそうに熱視線を送っておられるではないですか」
「ぐぬぬ……もういい!」
口では勝てぬと察したファルキンは、踵を返して屋敷を後にした。
◆ー◆ー◆ー◆
少数の護衛を率いて、王都の貴族街を歩く。
と、そこへ似た様な装いの貴族が聞き込みをしていた。
「失礼、君はどこの家の者だ? 俺はファルキン。シット公爵家のファルキンである」
頭が高い、控えおろうぐらいの気持ちで言うが、相手の反応は無視だった。
何度か声をかけて、ようやく振り返った顔は……
「あぁ! お前はコモーノ!」
よく知った顔だった。
なんなら今一番顔を合わせたくない存在である。
「何をやっておられるんです、ファルキン様。最初聞いた時は幻聴だと思いましたよ。何故貴方様のようなお方が、こんな場所へ?」
「そう言うお前も爵位は俺とそう変わんないじゃないか」
「論点をすり替えないでください。オレは別にいいんです。いざという時には魔剣の力があります。ですがあなた様の力はいまだ未熟。それに怪我をしたらリボイス卿が心配されます。ささ、ここはどうぞお引き取りを」
「そうやって帰らせようと思っても無駄だぞ? 俺には王命があるのだ!」
ばさり、とファルキンは書状を見せつけた。
「なんでこんなもの持ってきてるんです? 奪われたらどうするおつもりだったんです?」
コモーノにとっては全てがお粗末。
書状はわかる。
けどそれは大義名分を見せびらかすためのものではない。
紛失すれば貴族としての信用を失いかねないものだ。
こいつバカなんじゃないか?
コモーノの視線は格上の貴族に向ける物ではなくなっていた。
「う、うううるさーい。勝負だ、コモーノ! お前を倒して妹の信頼を取り戻す!」
「グレイス嬢を? 一体なんのお話ですか。と、容疑者が動き出したのでお静かに」
「むぐ、もが! この俺を誰だと思っている」
コモーノは素早く身を屈めると、ファルキンのうるさい口を塞いでアスティに容疑者の方向に剣先を向ける手段に出た。
召喚した魔剣は同じ魔剣士にしか目視できない。
その特性を活かし、コモーノは情報収集を行なっていた。
本来ならアルフレッドに任せる仕事だったが、急遽割り振ったルード様なり変わり計画で手いっぱいだからと断られて今がある。
「静かにしてください。護衛の皆さんが白い目で見てますよ?」
「そんなことない!」
「まぁ別にいいですが。着いてきてください」
「何故お前が指揮を取る? 俺の方が爵位は上だぞ? 指揮を取るなら俺だろうが」
「良いですから。どうやら同じ情報を探ってるようですし、ちょうど良いので手伝ってください」
「何? 手伝うと言うのなら貴様の方だろう!」
「じゃあそれで良いですから、行きますよ!」
コモーノは足早に屋台の影に隠れた。
魔剣に見張りをしてもらいながらの尾行だ。
コツさえわかればお手のものだった。
指揮が取れないからと癇癪を起こすファルキンは、コモーノに追いつくので精一杯だった。
うーん、邪魔