破滅確定の悪役貴族だけど、ここから入れる保険はありますか?   作:双葉鳴

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楽園への案内状

「兄さん、聖女の子。あんまり脅すと嫌われちゃうよ? せっかく僕たちに協力してくれてるのに」

 

 来客二人を客室に運び終わってから、アルフはコモーノの自室で先ほど聖女に対して脅した言葉を気にかけていた。

 

「あれ、なんでお前がそれ知ってんだ?」

 

「この屋敷の中に僕の目が何個あると思ってるの? 見るだけなら人形じゃなくても盗み見出来るんだけど?」

 

「それもそうだな」

 

 考えるまでもない。

 擬鎧そのものはなんでも作れる。

 大変なのは憑依して操る場合だ。

 

「と言うか、お前はあいつの実家が悪の親玉だって知らないんだっけか」

 

「それってこの世界の原作の?」

 

「ああ、教会を唆したのはあいつの親父だぜ? そしてあいつは今操り人形状態だ。王女様と同じだな」

 

 信じられない、とアルフは瞠目する。

 

「待って、でも今日の彼女、王宮で見かけた時と随分と違和感なかったよ?」

 

「そりゃ本人は生まれた時から親の奴隷だしな。違和感なくて当たり前だ。あの家、ヒッパル男爵家は素質のある子供を教会の下部組織である孤児院から養子として引き取り、自分の子供として送り込んでくる敵国のスパイだ。あいつ自体に悪気はなくても、行動は全て記録されている」

 

 アルフはようやく合点がいったと頷いた。

 昨日今日の仕込みじゃないなら気づかなくても当たり前だ。

 見てわかる仕込みじゃない。

 生まれた時からなら年季が入ってて当然か。

 何せアルフよりも熟練なのだ。

 

「それって姫様と同様の記憶洗浄?」

 

「そんなところだ。だから形に残らない魔法文字を使ってのやり取りを徹底させた。オレが王子様を拐かした実行犯だってことはもう教会に握られてる。だからその件を出汁に脅してくる前に釘を刺した。これ以上うちの事を嗅ぎまわれば聖女だからと見逃さないぞ、ってな?」

 

「そう言う事だったの……でも本人は囚われの身なんでしょ? なんとか出来ない?」

 

 アルフの呼びかけに、コモーノは少し困った様に眉を顰めながら腕を組む。

 コモーノとしても見捨てられるほど薄情ではない。

 

 だが実際のところこの件に関してはどん詰まりも良いところだった。

 

「なんとかしてやりたいのは山々なんだが、現状打つ手なしなんだ。唯一救う方法があるとすれば、魂を引っこ抜いて、お前の作った擬鎧に押し込めるぐらいだが、それは無理だろ?」

 

「いや、この件は僕に任せてくれる? もしかしたら解決できるかもしれない」

 

「なに? まさかオレの知らないスキルでも発見したのか?」

 

「ううん、きっと知ってる奴。でもゲーム内効果とは少し違う奴」

 

「そんなのあったか?」

 

「フレンド機能。実はサリィを登録したら、彼女も僕と同様の効果を限定的に使えたんだ」

 

 アルフの返答に、コモーノはその手があったかと手を打つ。

 

「それか! 確か強敵に挑むときに呼ぶ助っ人みたいなものだよな? それに組み込む?」

 

「一応やらせてくれない? 失敗したらごめんだけど」

 

「外交に関わる。絶対成功させろ。責任はオレが持つ」

 

「わかった。じゃあ全力で取り掛かるね。忙しくなるからすぐ来れなくなるから従者はサリィに任せるね」

 

「まぁ、それは仕方ないか。チップにプリンでも渡せば良いか?」

 

「最近舌が肥えてきてるから絹ごしレアチーズとかの方がいいかも?」

 

「滑らか系がお好みか。了解した。菓子で釣れるなら安いもんだな」

 

「本当だよね。兄さんもパメロや僕以外にもっと従者雇った方がいいんじゃない? 僕一人じゃ大変だよ」

 

 それなぁと思い浮かべるコモーノ。

 実際のところ部下として雇うなら秘密は守ってくれて、その上で冒険者のAランク以上の腕利きは欲しい。

 問題があるとすればその条件に見合う人材がいなくて、欲しくても枠はあまりまくっていると言うのが現状だった。

 

 一人だけ論外な相手が目の前にいるが、コモーノは目を伏せて見なかったことにする。

 

 Aランク以上希望でSSSランクとA+ランクの従者を従えておいて、これ以上望めばバチが当たるぜ、と言いたいが口には出さないのだ。

 

 すでにアルフレッドが擬鎧によって半端なAランク100人分の働きをしてくれるのに、それ以上を望むべきではないとも考えていた。

 

「お前に出来ない事をパメロには任せられないってのが本音だ。正直、お前と比べたらパメロですら見劣りする。それ以下を雇ってオレが満足すると思うか?」

 

「ぶー、そうやって僕を酷使するのは違うと思いまーす」

 

「チップは弾んでるじゃないか」

 

「そりゃ兄さんのスイーツを1番に食べられて幸せですけどー?」

 

「だがアルフ、考えてもみろ。もし今以上に従者が増えるとする。するとお前の出番は減り、オレの手製のスイーツもお前の口に入る機会は減る。それでも良いんなら雇うが?」

 

「ぐむむむむむ……」

 

 アルフはその場で腕を組み、眉を寄せながら考え込んだ。

 スイーツによってつられたことは認める。

 だが一番の権利を獲得しておきながら、この段階から量を差っ引かれる事を想定してなかった顔であった。

 

「そういうことだ。この件を乗り越えれば休暇をくれてやる」

 

「失敗したら?」

 

「スグエンキル家は教会から異端審問を受けておしまいだ。当然抵抗するが、教会と共倒れだな。国は魔剣使いを一人失い、戦力ダウン。ここに隣国が待ってましたと戦争をふっかけてくる。この国って結構ご近所から恨み買ってるからな。最悪のバッドエンドに突入する」

 

「僕の想像の斜め上に転がるんだ?」

 

「知らないのか? スグエンキル家はバッドエンド100%なんだぜ? まるで死ぬことが台本で決まってるかの様な不遇っぷりで笑えないんだ。ちなみに、お前ももう死んでる筋書きだぜ?」

 

「それは許せないね?」

 

 アルフの作り物の瞳が燃え上がる様にギラギラし出す。

 

「だろ? オレが今からテコ入れして見せてもお先真っ暗。お前の楽園を民が望みまくってる理由はそこだ。教会はネット王国以外にも外部組織を持つ。いざという時はこの国を切るだけで良い」

 

「外道じゃん」

 

「外道だよ。ヒッパル家はその外道のパトロンの一つだ。状況が悪くなればすぐトカゲの尻尾の様に切り離す。そんな奴らと心中決めるのは遠慮したい」

 

「うわ、僕責任重大じゃん!」

 

 事ここに至ってようやく自分に割り振られた責任を重大視するアルフ。

 

「だからそう言ってるじゃんか。王女を拐かしたと報じられてもお家が潰れ、教会に喧嘩売っても内部告発でお家お取り潰し。バッドエンド待ったなしなんだって。いっそ国を見捨ててお前んとこに移住したいくらいだぜ」

 

「兄さんがいかに薄氷の上を歩いていたか理解したよ。確かにそんな状況で聖女様を引き込むのは悪手だね」

 

「だろ? 内側から全部曝け出して寄越せって襲いかかってくるぞ。手に入れられなかったら、壊そうと動き出す。ある意味で単純な連中だ」

 

「そんな人達が教会の幹部だって? 神様がお嘆きになるよ?」

 

「あいつらの御神体は自分達だからな。わがまま放題してるぞ。これもきっと筋書き通りだ」

 

「最悪じゃん。よく売れたね、このゲーム」

 

「外装詐欺だよなぁ、表向きのシナリオと起用声優、イラストだけが優秀なんだが一皮剥いたらドロドロの憎愛劇と来たもんだ。最初は楽しめるんだが、どのルートでも絶対に死ぬキャラがいてな……」

 

「それが兄さん?」

 

「まぁな」

 

 コモーノは胸を張って言葉を返す。

 アルフは「うわぁ」と心の中で唸った。

 100%のバッドエンドルートに争おうとしてる兄の足を引っ張るわけにはいかないと、全力で取り掛かる事を決めたのである。

 

 

 

 ◆ー◆ー◆ー◆

 

 

 その世界に二つのアバターが生み出された。

 どう見てもアルフそっくりな女の子、まるで双子の様に生まれた少女達は自分の容姿とかけ離れすぎて最初こそパニックになった。

 

『あれ、ここどこ?』

 

『分かりません、気がついたらここに』

 

『私はスグエンキル家に遊びにきていたんです』

 

『私も、マーナ様とご一緒に』

 

『では貴女はカーミなの』

 

『そう言う貴女はマーナ様?』

 

 だなんて会話が続く。

 

『突然のご無礼失礼しました。しかし現状この手段でしかお二人をお助け出来なかったのでご容赦くださいませ』

 

『あなたは?』

 

『僕はアルフレッド。兄様がいつもお世話になっています』

 

『確か弟さんは殺したと、お聞きになっています』

 

『では、ここは死後の世界?』

 

『いいえ』

 

『ならばここはどこかしら?』

 

『楽園、とそう呼んでおります。外界とは大きな隔たりがあり、僕はこの場所の管理者をしております』

 

『ここが、楽園……』

 

『見てください、マーナ様。あそこに大きな亀がいます』

 

『霊亀ユグドラシル? では本当にここは楽園なのね』

 

 ここはもう一方の世界。

 アナザーキングダム。

 アルフレッドが支配する職能の内側の世界。

 

 表に出せば問題になるものが溢れている、ある意味で楽園と呼ばれる場所だった。

 

『おぼっちゃま、お時間でございます』

 

『わかった』

 

 こちら側でフレンド登録したサリィが声をかけてくる。

 一度登録したら、いつでもこちらにやって来れる。

 

 眠っているとき限定で来れる夢の世界。

 それが楽園。

 アナザーキングダム。

 

 確かにそこに有るのに現実には存在しない、幻の王国。

 

『ではお嬢様方、この世界をごゆっくりご堪能くださいませ。お帰りの際は願えば叶います。そしてご来場の際はもう一度この世界に来たいと願えば叶います』

 

 二人の少女は回を見合わせ、同時に現実で自分に不都合なことが起こり過ぎているからとここで頻繁に落ち合う約束をする様になる。

 

 内側にストレスを吐き出す場所を用意してもらった形で、それぞれは元の肉体へ帰った。

 本当に願えばいつでも戻って来れると、内緒話はその世界で行う様になるマーナとカーミだった。

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