破滅確定の悪役貴族だけど、ここから入れる保険はありますか? 作:双葉鳴
『数日間お世話になりました』
『また、王宮で』
『ええ、その時はうんと豪勢なスイーツをご用意しますよ』
マーナ王女が舞い込んでから数日の時間はあっという間に流れた。
コモーノも楽園に新たにアバターを取得し、特定の合図を使ってログイン。
そこで持ち合わせた情報を開示し合う事を数日のうちに行なっていた。
ログイン時の行動までは流石に抜き出しできまい。
これは操るもの達の目を掻い潜るために必要な措置だった。
◆ー◆ー◆ー◆
そして五年の月日が経つ。
今や多くの人々が楽園へのログイン権を所有しており。
現実と夢現を行ったり来たりできるようになっていた。
ネット王国の反乱の芽は日増しに増大しており、それらを煽動できてると思い込んでいる教会が聖女カーミを代表として据え置き、本編がスタートする。
舞台が整い、役者が揃った。
病弱な王子ルード。
俺様系王子ケーベン。
主人公のファルキンが学園へと通う。
だが、その中のどこにもコモーノの姿はなかった。
「どう言う事だ! コモーノはどこだ!」
上位貴族、または成績優秀者のみが在籍できるAクラスにそんな言葉が響き渡る。
事情を知ってる者は内心で苦笑し、事情を知らぬ者はそう言えばと首を傾げる。
「あらあらファルキン様。そんなに大声を出して朝から何事ですの?」
「カーミ嬢。そう言えばあなたはコモーノと懇意にされておりましたね。あいつがどこに行ったかお知りになられませんか?」
「知ってはおります。けれど、わたくしは口が硬いんです。おいそれとその情報を流すほど薄情ではありません」
口元を扇子で隠し、涼やかな視線を向けるカーミ。
五年前の食いしん坊のカーミはもうどこにもいない。
たった五年でわがままボディを我が物とし、聖女として遜色ないマナーをも身につけていた。
彼女を誰が男爵家の令嬢と貶められようか。
その身のこなしもさることながら、振る舞いも上位貴族のそれだった。
対してファルキンは5年前と変わらず。
むしろ当時よりも僻みっぽくなっていた。
口を開けばコモーノ、コモーノとうるさい。
まるで田舎貴族がクラスを間違えて喚いているようだった。
「彼はもう爵位を継いでいるからね、学園で箔付する必要はないんだ。だから発言には気をつけなければいけないよ? コモーノ、ではなくコモーノ侯爵だ。今の彼は家を背負って立つ人物になっている。公爵家の令息だからと我儘を通すのは筋違いさ」
そこへ意見を通すのはコモーノとすっかり仲の良いルード。
今この場にいるのはアルフの擬鎧ではなく本物だ。
半年間の療養ですっかり本来の体調を取り戻し、更にはスグエンキル家の別館で四年間の修行を行いパーフェクト王子様として成長を遂げている。
すでに毒すら克服して、呪いも片手で打ち消すほどの魔力操作を身につけている。
実の父から『より手がつけられなくなった』とお墨付きをもらっていた。
「あら、種明かしをされるなんてルード様はお人よしですのね」
「なに!?」
「そうやって気に食わない相手に噛み付いてばかりではお家が知れますことよ?」
「ファルキン、言われてんなぁ?」
ルードの口から真実を聞き、カーミに追い打ちをかけられたファルキンは顔を真っ赤にして震えることしかできない。
ケーベンに至っては配下がそんな体たらくでこの先大丈夫か? と言う不安要素しかなかった。
◆ー◆ー◆ー◆
ところ変わってスグエンキル侯爵家。
「では行って参ります、父様」
「ああ、行ってこいコモーノ。国王様に失礼のないようにするのだぞ?」
「我が魔剣ジャスティスに賭けて」
それは魔剣士にとって命を賭けるに値する契約だ。
この日、コモーノは王宮にて新たな主へと忠誠を誓うべく屋敷を後にした。
今までの活動は全てこの日のための布石。
コモーノは屋敷の門から出ずに、そのまま別館へと向かい、弟アルフレッドと対峙する。
今にも魔剣は飛びかかりそうなほどに苛立ってるが、後もう少しの我慢だ。
「ようやくこの日が来たね、兄さん」
「ああ、急いでも五年かかった」
コモーノはアルフレッドの前に跪く。
アルフレッドがコモーノの頭に手を置き、契約が書き換えられた。
「霊国アルファード初代国王アルフレッドが命ずる。魔剣士コモーノ=スグエンキルよ。私に忠誠を誓うか?」
「我が魔剣ジャスティスに賭けて」
「これにより契約は果たされた。以後、私と共に国を盛り上げていこう」
「ああ」
王様ムーブのアルフレッドに対し、コモーノはすぐに忠臣ムーブを打ち切り、いつもの兄の態度をとった。
そこは演技でも敬意を尽くしてほしいところだった。
これにてスグエンキル家の呪い、呪縛は完全に新王国アルファードに切り替わる。
この国、1番厄介なところがあるとすれば、この世に存在しない架空の国である点だ。
国王アルフレッドが許可した者しかログイン権を有することができず、攻め滅ぼそうにもその世界への侵入ができないと言うネット国からしたら非常にいやらしい立ち位置にあった。
夢の中なので毒殺も呪いも効果を発しないのだ。
まずは忠臣のスグエンキルが裏切り。
聖女カーミ、第一王子ルード、第一王女マーナまでがすでにこの国の移住者として契約済みだ。
「それで、兄さんはこれからどうするの?」
「取り敢えず、いろんなところを見てまわりたい。実際にゲーム以外の要素も多いじゃん? ゲームは学園生活がメインなところもあるし、それ以外の世界を知るのも面白いと思って」
「いいねー、お土産は期待しても?」
「お前も一緒に行くんだよ」
コツン、とアルフレッドの頭にゲンコツを落とす。
痛くもないのに痛そうに非難するアルフレッド。
国とのしがらみから解放されたコモーノ達は、新しい旅支度を始めるのだった。
◆ー◆ー◆ー◆
「彼は旅立った頃かしら?」
「かな?」
学園の教室で、窓の外を眺めてカーミがぼやいた。
相槌を打つルードもコモーノはじっとしてられないタチだからと数年来の悪友の身を案じていた。
「結局ここ数年は直接顔を合わせる機会もありませんでしたわ」
「お互いに詰めに入っていたしね」
「でも、スイーツタイムまで打ち切らなくたって! マーナ様も嘆かわしく思っておりましたのよ?」
「いつでも食べられるじゃないの。それに彼にはこの世界は狭すぎた。そう言うことなんでしょ?」
「確かにそうですわね。次会う時までに色々と要望を聞いてもらいませんと!」
「女性は怖いね。僕は彼を遠巻きに応援することしかできないや」
本編開始の裏側で。
自由に振る舞う姿を思い、ルードはそっと瞳を閉じる。
本来だったら楽しい学園生活を送れるはずだった。
五年間、全く敵わないコモーノに今度こそ一泡吹かせてやるつもりでいたが、その勝負よりも世界を取った親友を妬ましくも羨ましく思った。
早く自分も弟に王位を押し付けて旅支度をしよう。
そう考えたら今のうちにやることはたくさんあった。
「旅支度ならわたくしもお仲間に入れてくださいまし」
「聖女が国を離れられるの?」
「守る国がここにありませんもの」
「それは王族としては耳が痛い限りだが、マーナにはなんて言う?」
「あら? マーナ様もお誘いにならないの?」
「あの子も連れてくのか……」
それは自由がなくなりそうだなと思うルードであった。
◆ー◆ー◆ー◆
本編がスタートして数ヶ月が過ぎた頃。
明らかに予測していなかった事態に陥ったと知ったクーシャは、コモーノから差し入れられたスイーツにすっかり夢中になっていた。
あいつらばかりずるいと権力を使ってデリバリーを使ったのが功を奏して、今ではその空間にいながら夢のような時間を過ごせている。
毎日幸せなので色んな見過ごし事案が発生するも全ては後の祭りで……
「あれ? なんでスグエンキル家が消滅してんの? あの子いなくなったらストーリーに破綻が! ちょっと! どうしてルードと聖女がどこかもわからない国に亡命してんの? 王女はどうでもいいけど。あーーーー教会が瓦解してるぅううううう! なんで!? いつどこでこんな事になったの? そうだ、スグエンキルはどこ行ったの?」
クーシャは画面中を探し回る。
なんせデリバリーサービスの起点にはスグエンキル家が深く関わっていたからだ。
消滅したらクーシャの幸せな時間が同時に消え去る事を意味している。
それはあってはならない。
クーシャの中でスイーツの有無はこの世界の管理者生活の中で優先度が最上位に位置する物になっていたからだ。
こうしてストーリーの強制力は空中分解し、コモーノ達はストーリーから脱却。
自由を得るのだった。
おしまい
これにて終幕。
短い間でしたがお付き合いありがとうございました。