破滅確定の悪役貴族だけど、ここから入れる保険はありますか? 作:双葉鳴
「そうか、アルフレッドは受け取ったか」
「はい。ぜひ次もおつけくださいと一筆認めております」
「きっとメイドが毒味と称して全部食ったのだろう」
「身に覚えがありすぎますね」
「なんだかんだで、お前もオレの料理に興味を示したきっかけだもんな」
「意外な才能だと感銘を受けています」
「一応オレはお前の主人なんだが? 軽口が過ぎるだろう」
コモーノはパメロを見据え、馴れ馴れしい従者へと小言をこぼす。
「口が過ぎました。しかし記載した食材は送られてきませんね」
話を変える様に、メモに対する返しを指摘した。
しかしコモーノはアルフレッドらしくないと裏を読む。
「あいつの事だ、口に入れてそれで旨みを占めてから次のステップに進むつもりだろう。昔から腹黒いんだ、あいつは」
「アルフレッド様のことになるとムキになられますね?」
「ムキにもなるさ。負けっぱなしなんだぞ? あいつには。それにあいつに敵愾心を抱くのは血筋だ。オレに限った事じゃない」
「それについてはなんとも。僕は面会しておりませんから」
「書面でのやり取りなのはそういう事だ。お前も今の弟を見たらきっと許せなくなる。最初こそはその才能に、次第にこいつは生かしておいたら国に仇なす存在になると気分が一方的に傾く様になる」
「そこまでですか?」
「そこまでなんだよ、あいつの手にした職能は」
「コモーノ様はどうやってそれをお知りに?」
「ニュクスの存在を知った時、察した。あいつはヤバいものを手にしたと。文字化け職能はな、ただ文字化けしてるから無能というわけじゃないんだ」
「その話、こんな場所でしていいものなんですか?」
「そうだな、続きはスポーツでもしながら行うか。お前、剣の腕に覚えはあるか?」
「侯爵家に仕える以上、父からそれなりに齧っておけと取得しましたが……」
「なら少し付き合え。中庭がいいか」
「秘密のおしゃべりの場をそんな公にして良いのですか?」
「公だから、人の集まる場所だから、会話じゃなくて動きの方に人々は注視するだろう?」
「それは確かに」
「それにこれらは他愛のない憶測だよ。的を射たものじゃない。もし読唇術に長けたものが紛れ込んでも問題ないさ。お前もそのつもりで会話を交わせ」
「聞かれても問題ないのに隠す必要とは?」
「誰が敵かを探る目的もある。お前はオレのお目つき役だろう? なのにオレを探る目があるならそれはなんだ? 父様のお目付役か? それとも外部からの目か? どちらにせよそこははっきりさせておきたい」
「確かに漏れるにしたってどこに行き着くかは知っておきたいですね。そこまでお考えでしたか」
「なんだ、オレが料理にハマり出した出来損ないの侯爵子息だとでも思っていたか?」
「コメントは控えさせて頂きます」
それは肯定してる様なもんだぞ、とコモーノは促しパメロは肩をすくめた。
そして舞台は裏庭へ、コモーノは従者と初めて手を合わせる。
そこにはメイドや使用人の他に、執事ロルフの顔もあった。
母アレサがテーブルを持ってきて茶会まで始めてしまった。
これでは内緒話どころではない。
が、コモーノもパメロも手を抜けない勝負となる。
動き出しから技の出し方、剣術と言いつつ殴る蹴るも交えての子供の喧嘩を演じつつ、内緒話に集中する。
「ははは、今まで力をお隠しになられていたのですか?」
「なんの話だ? まだウォーミングアップですらないぞ?」
が、コモーノが話そうにも肝心のパメロの演技があまりにも白々しくて話に身が入らなかった。
「アルフレッドならオレに技を放つ余裕すら与えなかった!」
グラビティ。
コモーノの得意とする重力魔法だ。
パメロが攻撃に転じる時に発動し、自分が動く時にだけ解除する。
コモーノは魔力総量が圧倒的に少ないため、発動しっぱなしにするには骨が折れた。
けどこの方法なら、一方的に殴れる。
原作知識による、初見殺しなやり方だ。
「あはは、あの方はつくづく化け物なんだなって痛感します!」
(本当に、全ての技を発動前に潰してくる、身体強化すらする前に転がされた事も何度か。身体能力までアホほど強いとか生粋のチートだろあいつ! その上で王の采配だ。天は二物も三物も与えたって事だよ。くそーオレもそんなチート欲しい!)
内心でそう思うコモーノだが、パメロから見てもコモーノも大概な能力所持者である。
開幕『重力操作』で半径10メートルの力場が5倍になり、動きが制限されたところに放たれる魔法を交えた隙の少ない三連撃。
パメロは捌ききれずに転がされて天を見上げていた。
それを見下ろすコモーノは余裕綽々。
力量が圧倒的に違うと気付かされる。
苦しくも若くして天才と言わしめたアルフレッドに食いついてその技量を伸ばした剣士。
それがコモーノなのだ。
もし同世代にアルフレッドが居なかったら、その才能の上に胡座をかいていたに違いない。
「これでは会話どころではありませんね」
「だが、思いもよらないところで話題を攫った。見ろ、観客の顔を。オレたちが内緒話をしていたことに気を向けてる奴はいないだろ?」
「僕は随分と恥をかかせられました」
「主人としての面目躍如だ。少しくらいかいたとしても誉だろ?」
「お陰様で余暇を過ごす時間が減りそうです」
チラリとロルフを見据えるパメロ。
顔はニコニコとしていたが、こめかみがピクピクとしていた。
これはお小言だけでは済まないだろう。
ご愁傷様、内心で宥めつつコモーノは周囲から集められる視線に応えた。
その中で怪しい動きをするメイドに当たりをつけた。
◆ー◆ー◆ー◆
別室にて。
パメロはコモーノと先ほどの試合での情報収集の成果を語る。
「本当にこちらを伺っている者がいたのですか?」
「ああ、網を張ったら案の定間抜けが引っ掛かった。だがあれがウチで雇っているメイドかの判別がつかん」
「変装の類だと?」
「多分な。あらゆる場所であの顔を見る。が、朝一同に会する食事の場では見ない。そんなことってあるか?」
「出入り商人の誰かが放ったスパイでしょうか? 素性を洗いますか?」
「かもな。だがそいつは洗わなくていい」
「宜しいので?」
「オレが活躍して、その後姿を消した。弟を探りにきた相手じゃない。なら探るだけ無駄だ。どうせ無能な跡取りがどれくらい使える人間かの調査に来たのだろう」
「王国の手のものでしょうか?」
「だろうな。で、本題だが」
「アルフレッド様の職能でしたか。コモーノ様の力を見せつけた後では今更でしょうが」
「あいつは常にオレの上に居る。お前に勝った程度で覆せる差じゃないんだよ。その上で職能が常識を逸している」
正直、あの程度の力でイキれるほどコモーノは満足してなかった。
アルフレッドにまるで至れてないのを痛感してるからである。
だから今の自分が褒められても全く嬉しくもないのであった。
「凄すぎて理解が追いつかないというのが正直な感想です。コモーノ様ですら太刀打ちできないと?」
「その為の布石が料理だ。プリンならあいつとの深過ぎる溝に一石を投じることができる」
「そこ迄でしたか。今日も早速お作りに?」
「言っておくがお前の分はないぞ? 母様に目をつけられてな。どこかの口の軽いメイドが零したのだろう。ハァ、余計な手間ばかり増えたものだよ」
「評価が上がって良いことではありませんか」
「まだまだこれからさ。なんせオレはスグエンキル家の跡取りなんだから。この程度で満足してちゃ先はない。これから忙しくなるぞ」
「まずは奥方様を倒さねばなりませんね」
「ああ」
調理室に赴くなり、何故か室内で待機していた