破滅確定の悪役貴族だけど、ここから入れる保険はありますか? 作:双葉鳴
スグエンキル家に探りを入れていた間者からの一報を聞き、リボイス・シット侯爵は不敵に笑う。
それを見て側に控えた部下のオリマスが探るように尋ねた。
「どうされました?」
「いや、存外に息子の代は荒れそうだと思ってな」
「不安要素でもございましたか?」
「無能と思われたスグエンキルの嫡子が存外に曲者なようだ。たった今、実力を隠していたと報告を受けた。それを聞いてどっちの殿下に取り入るか迷ってる」
「性格に難ありとの報告もございます」
「ああ、それも含めて演技の可能性が出てきた。噂に惑わされるな」
「左様にございますか。して、主様はどちらを担ぐおつもりで?」
ネット王国には二つの派閥がある。
病弱だが民からの信頼が厚い第一王子。
体の頑強さだけが取り柄の横暴な第二王子。
共に王族に相応しいスペックを持つが、国を率いるのに向いているのは第一王子に軍配が上がる。
安牌を打つなら第一王子一択だ。
しかしリボイスは国防の要を司るシット家の当主であり王弟。
王位継承権を巡って兄マリオンと幾度も競ってきた。
だからこそ王の思惑がわかる。
これは家臣の貴族たちを篩にかける罠なのだと。
無能を祭り上げてもろとも根切りにする腹づもりだろうと言うことはわかっていた。
だからこそリボイスは判断を迷った。
他の貴族の子息が敵に回ろうと、鍛え上げた我が子ならば勝てる。
その結果を持ってどちらかの王子を味方につけるだろう。
しかしスグエンキルの動きが全くわからない。
ただの無能であれば捨て置いたが、なまじ有能だと敵になった時が怖い。
何せ相手は魔剣士。
国に楯突く相手に刃を向ける狂犬だ。
条件次第では最強の盾を持つ息子を討伐しかねない貫通力を持つ。
王国最強の矛と対立するのだけは得策ではない。
だからどう転ぶか時間が欲しかった。
「まだその時ではない。あと五年、学園に入学する迄は保留とせよ。私の目を持ってしても判断しかねる」
「しかしご子息の方はそうはいきますまい。デビュタントも済ませており、家柄から付き合いも多い。学園に入るまでに方針を伝えねばなりません」
「アレも誰に似たのか野心が強いからな。スグエンキルの息子がどう出るか、そこを見守れ。なんなら弱みも握ってこい。少しぐらいシット家の利になる情報があれば良いが」
「ハッ」
部下のオリマスを送り出し、もう一人暇そうにソファでくつろぐ部下のココニーへと目配せする。
「お前もいけ、ココニー」
「えー、だるーい」
ココニーはオリマスと同じ契約を結んだ公爵家の隠密である。
オリマスと違い契約を重んじて、契約以外の仕事を嫌う。
リボイスからしてみたら扱いのむずかしい駒だった。
「本当に……殺し以外はダメだなお前は」
「ニシシ、あたしらは契約は守るよ? それ以外は知らなーい」
「オリマスは言うことを聞くと言うのに、お前ときたら……」
「あいつは馬鹿正直に契約以外を守りたがる、同胞の面汚しだよ。おかげで今現在とても迷惑してる」
「ったく、いいから行け。お前が居ると息子が怖がって入ってこれんだろうが」
「ったく、しょうがないにゃあ。それじゃあ邪魔者は退散しますか」
室内にこもっていた殺気の緩和で退室を悟る。
その後、控えめなノックに返事をし、リボイスの可愛い息子が恐る恐る室内を覗き込んで来た。
「父様、あの怖い女は行きましたか?」
「先ほど追い払った。お前でも怖いか? あの穀潰しは」
「底が見えない相手は何を考えているからわからないので怖いです」
「そうか。お前が言うのだからそうなのだろう」
リボイスの息子、ファルキンは幼い頃より聡かった。
その上で授かった職能はディバインナイト。
王国騎士の中でも名誉ある聖騎士。
魔剣士と王国の国防を担う両翼。
幼くして才覚の高い自慢の息子だった。
「して、今回お呼びされた件は?」
「実はスグエンキルの子息が実力を隠していた疑いが出てきた」
「スグエンキルと言われると魔剣士を引いたコモーノですね。アレが……僕はそうは思いません」
「デビュタントの時と同一人物と思わない方がいいとのことだ。あとで映像記録を送る。仲良くするにせよ、距離をとるにせよ、そこはお前に一任する」
「すごい、と言われても職能の力あってのものでしょう?」
「だといいのだがな」
「父様から見てもスグエンキル侯爵家は気になると?」
「お前をどっちの王子に付かせるか迷う程度には気になっている」
「それほどまでの事ですか……」
「ただの無能であればこれほど頭を悩ませずに済んだが、あとはお前次第だ。兄上……国王は、この国のためならなんでもするお方だ。王子もろとも抹殺するくらいの事はする。くれぐれも気に入られたからと言って気を抜くな。その時こそ向こうにとっても千載一遇の暗殺チャンスなのだ。それで私の弟は死んだ。兄とは腹違いだった、たったそれだけの理由で消された」
「では王位継承権すら利用されてると見ていいですか?」
「兄上ならする。あの方は常に信頼をおく部下以外をまるで信用してないからな。国の膿を残らず粛正するのに多少国防の要が目減りしようとお気になさらない方だ。そう言う意味ではお前でも消されかねん。さて、どっちに付くべきか。お前もよく考えて行動せよ」
「分かりました、父様」
リボイスに言われてファルキンは軽く会釈して退室した。
聡いが故に道は間違えぬだろう。
しかしまだ10歳。
幼い頃から手が掛からないからこそ不気味であった。
しかし当のファルキンにとって、ここまでは順調である。
(父様はこのストーリーを知らないから慎重にならざるを得ないんだ。スグエンキル家は無能であればあるほど引き立つと。まさに僕のためだけに居る存在。僕がこのストーリーの主人公だって知ったら父様は気でも狂ったかと疑いかねない。あとは学園に入るまでに、魔王になるまでの記憶を封じればいい事だ。確かあいつには既にいくつかの罪があったな。そこを突いてやれば簡単にボロを出すだろう。あー、今から学園に行くのが楽しみだなぁ)
ファルキン=シット侯爵子息。
彼はここで生まれる前に前世の記憶を持っていた。
主人公であるファルキンは、王位継承権を持つ王子と同学年で生まれ、どちらを王にするかで異なるエンディングを迎える。
その際に立ち塞がるラスボスがスグエンキル家のコモーノだった。
ファルキンの選んだ王子とは別の王子につき、最強の盾と矛のラストバトルを勝ち抜かねばエンディングに辿り着けない。
そのための準備を着々と進めてきた。
あとはストーリー通りに倒し切ればなんの問題もない。
そう思ってファルキンは学園に入った後の無双シーンを夢見ていた。
今更ですが、名前は適当です。