しかし疲れて書き直す気力がない。そして、そろそろ仕事行ってきます。
《とりあえず注意書き》
この小説は、
□時系列を気にしない方
□キャラ崩壊を気にしない方
□心の広い方
向きです。
0. prologue
IS操縦者育成学校。その中に青年が入ることはない、女の園。
しかし、2か月前とある日本人男児がその学園の門をくぐった。その名を織斑一夏。『地球は自転している』並みに、不動の常識であった『ISは女性しか操縦することが出来ない』という考えを覆した高校1年生。
ISが発表された当時よりも、そこからの世界の反応は迅速だった。いや、あれから世界は学んだのだ。IS関連の事柄は最優先で対応すべきだと。それを証拠に後発の南米、アフリカ諸国、フランスといった国々は大きく国力で劣り始めているではないか。
ある者は、『彼を調べたい』、ある者は『他にもIS適性を持つ男がいるのではないか』。
様々な思惑が光の速さで辺りを飛び回り、国際IS委員会は織斑一夏の身柄引き渡し命令が出し、世界中で男児を対象としたIS適性検査が行われた。
そして、その結果。
世界で二番目の男性が見つかった。織斑一夏と同じく日本で。そして、おあつらえ向きに織斑一夏とは異なり、織斑千冬や篠ノ之束といった強力なバックアップはいない。日本政府は二回目のIS委員会の引き渡し要請に耐えられず、擁護されず後ろ盾もない少年は、哀れ、ただの男児から世界最注目のモルモットになる――ことはなかった。
「もうIS学園の編入手続き済ませたんで、お気遣いなく!」
現れた錚々たる委員会重役、政府幹部に、少年はこう言い放ったのだ。
素晴らしき哉、IS学園には第21項『本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。』という特記事項がある。委員会、幹部の対応よりも早く少年が学園に帰属すると決定していることが救いになった。
世界の面々はたった16歳の少年が身を守るための最善策を選んだ知力とその行動力を前にして、感嘆したのだった。
「いぉおおっしゃ!!首を洗って待ってろよ!!篠ノ之箒ィ!!!」
その少年・
1. side 《1st class》
その日も一年一組は平常運転だった。
「一夏ぁ!今日私酢豚作って来たの。食べるわよね!」
「一夏、私もだッ!弁当を作りすぎたから……手伝え!」
「一夏さん!わたくしも!偶然朝早く起きまして、偶然お昼を作ったのですが、わたくし特製サンドイッチを食べていただけませんこと?」
「お、おう」
「一夏モテるねぇ」
「シャルル、お前も一緒に食べようぜ」
女子高に咲く青い薔薇こと(※一部女子いわく)織斑一夏と専用機持ち達の攻防戦――とはいえど、彼が防戦一方なのだが――は本日も勃発している。
「約束だからね!それじゃ!」
攻撃側はイギリス、中国、IS創造者篠ノ之束博士の妹という有名人たちである。そのメンバーは一般の人間からすると、興味の対象になるのかもしれないのだが、一年一組にとっては、すでにそのような対象からははずれていた。つまるところ、『一夏ハーレム』の一言で彼女たちは片付く。そこに昨日から黄金の貴公子こと(※一部女子いわく)シャルル・デュノアが加わった。しかし、それでも一年一組にすでに彼は溶け込んでいるのだった。
彼があまりに女顔ということもあるのかもしれないし、今後の展開を一組が本能で感じ、『一夏ハーレム』と彼をくくっているからかもしれなかった。
中心である織斑一夏は隣のクラスからわざわざやって来た中国の専用機持ちに手を振りながら思った。
ここ最近は女子に妙な暴力をふるわれることのなくなった。嬉しいことに今日はお弁当までくれるという。ここまで決して平坦な人生を歩んできたわけではない織斑一夏は満足していた。
この調子が続けばいい。
彼は平凡をいつも望んでいる。さすがに転入生はもう来るまい。このメンバーは自分のことをよく構ってくれるし、幼馴染とも再会出来た。たまに女子三名がひどく険悪になることがあるが、それは喧嘩するほど仲が良いというやつだろう。昨日からシャルルという男子が入って来たし、最近ではISにも慣れてきて学園も住みやすくなった。
そんな彼が「三組に転入生が来たんだって!」という声にげんなりしたとしても、誰が責められよう。「しかも二人!」という声にさらにげんなりしたとしても、……これは言わずもがなだ。
だが、彼の反応は一般とは異なったらしい。女子はわっと湧き、三組に殺到しようとドアへ向かった。『殺到しようと』というのはそれが防がれたためである。
「座れ」
黒スーツと揃いのスリット入りスカートから惜しげもなく形良い脚をだし、このクラスの女王様もとい、担任が入る。
織斑千冬。
その一声で、打ち寄せた波が引くよりも早く女子は行動した。千冬が教壇に上がるまでには全員席に着いて居住まいを正していたのだから、その統率と機動性はちょっとした軍隊以上である。入学初日から2か月経ち、このクラスもここまで調教、もとい訓練をされたのだ。
しかし、それもHR間のみらしかった。HRが終わり、千冬が出た瞬間、一組の女子たちは実に美しい隊列を組み、廊下を走らない競歩で三組に向かおうとしたのだ。『向かおうとした』というのはそれが再度防がれたためである。
ドアが開いた。
殺人的なスピードで。しかも、前後のドアが同時に。
もし女子たちが走っていたなら、ドアが開く数瞬前にドアノブに手をかけることに成功し、その結果手首がドアノブごとひねりあげられていたに違いない。まこと、規則を守ることには意味があるのである。
女子たちが反応できずに固まる中で、前後のドアを開けた人物が同時に動いた。
「織斑一夏ッ!!」「篠ノ之箒ッ!!」
ここにISハイパーセンサーを身に着けている人物がいたならば、この状況がよく理解できたであろう。前のドアを開けたのは銀髪で片目に眼帯をしている少女で、一組唯一の男子生徒の名を冷たく呼んだ。後ろのドアを開けたのは黒い学生服に身を包んだ長身の少年で、一組随一のツンデレ少女の名を熱く叫んだ。
「「……」」
学園内ではISの無断使用は禁止されている。見事に入学後訓練された彼女たち(ただし、一名男子含む)の中でハイパーセンサーを使用した者はおらず、結局のところ、教室内で現状を一瞬で把握できた者はただ一人たりともいなかった。
そして、静かな空気が流れ、
バシッ!!
その空気を切り裂くがごとく、鋭利な音が教室に響いた。
クラスが騒然とする。
少女が、憎悪にまみれる瞳で前列にいる織斑一夏を見つけ、素早く近づき、張り手をしたのだ。
「私は認めない。貴様があの人のおとうt「篠ノ之箒!勝負だ!!」」
「は……?」
「?何を認めないんだよ?」
「だから、貴様がきょうk「積年の恨みを晴らしてやる!!!」」
「……貴様、私の邪魔だてをするつもりか」
「は?どこがだよ?それより俺は篠ノ之箒に「お前は黙ってろ」」
クラスはさらに騒然とした。一体どういう状況なのか。
説明を求める無数の目の中、少女と少年は喧嘩を始めた。
「お前のせいで篠ノ之箒との話が進まねぇじゃないか!」
「はっ!くだらない。私の用件の方が重要だ」
「はぁ?くだらないだとぉ?!俺はこの日を待ってたんだよ!……10か月」
「ふっ!片腹痛いな!私は1年半だ!!」
「長っ……!ま……負けた」
「ふーはははっ!そこで指をくわえて見ているがいい!!」
低レベルだ。低レベルすぎる。
ここで大分クラスの空気は弛緩していた。だが、そんな中ゴーイングマイウェイ、我が道独走な少女は仁王立ちをかました。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか!」
あの言い合いの後、150cmにも満たない低身長をふんぬっとそらし、言い放った彼女の姿は滑稽を通り越して哀れだった。一部の女子はこれ以上もないほど張ったにも関わらず美しい直線を描いている胸部にも哀れな目線を注いでいる。
何はともあれ、言われた一夏の方は叩かれたのにも関わらず、困惑した表情である。よくも分からない掛け合いを見せられた上でいきなりシリアスな気分に転換できるほど、彼の精神のフットワークは軽くない。
「うむ、もういいぞ」
満足そうに眼をすがめ、彼女はあごで隣の男子に合図をした。本来なら怒るところだろうが、彼は「ぃよっしゃ!次は俺だな!!」と上機嫌にすたすたっとお目当ての女子高生の前に出た。
正直お腹一杯な一年一組の女子は次の授業の予習をしたりお菓子を食べたりしながら少年の言うことを待っている。
「篠ノ之箒!あの日からお前のことを忘れたことはなかった!与えられてきた数々の雪辱……!今こそ晴らしてみせる!さぁ、ISを展開するんだ!そして勝負だ!!」
少年を見るクラスの目は滑稽を飛び越え、哀れを吹き飛ばし、
「誰だ?」
「……なっ?!この俺にあんな屈辱的な経験をさせたくせに、忘れただとぉ?!」
「は?!私は何もお前にした記憶はおろか、会った記憶すらないぞ?!」
一気に不審者を見るものになった。
言っていることは支離滅裂。クラスメートに因縁をつける。IS学園に男。
クラスの女子が冷静にIS展開方法を頭の中で整理して立ち上がる中、流れを変えたのは、やはりこのクラスの支配者だった。
バシッ!!!バスッ!!!
「ボーデヴィッヒ、岸谷、自分のクラスに帰れ」
「~…!!!も、申し訳ありません、教官!」
「~…!!!お、俺はまだ篠ノ之箒と」
バシッ!!
「は や く 教室に戻れと言っているのだが」
「「はい!!」」
嵐のように来た二人はささっとその一言で退室する。
台風一過。
一気に静けさを取り戻した教室に千冬のハイヒールの音が響く。しかし、教科書を持ち、教壇の上に立った彼女は瞬きをした。
天高く、無数の手が挙がっている。
彼女はため息をついた。
「はぁ……貴様らも色々聞きたいことがあるだろうが、手を降ろせ」
手を降ろす彼女らの瞳が輝いていて一言一句聞き漏らすまいとしているのを見て織斑千冬は授業もこれくらい真面目に聞けばいいのにと思わざるを得なかった。
「あいつらは三組の転校生だ。一人はドイツ出身、ラウラ・ボーデヴィッヒ。もう一人は岸谷弘毅……
IS操縦が出来る世界、三番目の男だ」
「……」
教室に一瞬落ちる沈黙。
そして、
「えええええええぇえええっぇえええ???!!!!!!!」「あの不審者が?!」「というか私の持論が!男子操縦者=イケメンの法則がっ!崩れたっ!!!」「あんな残念系男子がっ?!!!」
教室の悲鳴やら絶叫やら(本人から言わせれば誹謗中傷の嵐だろう)が、クラスを震撼させる中、織斑千冬は今日何度目か分からないため息をこっそりもらすのであった。
2. side 《Cecilia Alcott》
「ともあれ、昼食の時間ですわ」
セシリア・オルコットは怒涛の午前中を思い、ため息をついた。一限目終わりの休憩時間に乗り込んできた妙な男……確か岸谷弘毅か、彼に箒が切れ、昼休みに話を聞くことになってしまったのは記憶に真新しい。眉間にしわを寄せ、篠ノ之箒はそれでも丁寧な手つきで弁当箱を出している。一夏とシャルルは「お弁当楽しみだねぇ」というほのぼのとした会話をしている。大勢の女生徒が屋上にひしめいている中で、だ。さすが自分が選んだ男なだけあって肝が据わっている!と思えればいいのだが、セシリアはそこまで盲目ではない。
「……というか、こいつ誰よ?!」
「鈴さん。わたくしも知りたいですわ」
「何故か屋上にこんなにたくさんの人がいるってのは何で?!」
「皆さんも事情が知りたいからですわ」
二組の鳳鈴音だけではなく、自分も知りたいのだ。女生徒たちも知りたいから、オーディエンスさながらに自分たちを取り巻いているのだろう。
「そういや、えーと…?」
「岸谷弘毅。弘毅でいいぞ!」
「ああ、俺は織斑一夏。一夏って呼んでくれ」「僕はシャルルで」
何故か自己紹介の流れになっており、彼女は最小限の名前を告げつつ、尋ねた。この人たちに任せていては昼休憩が足りない。
「セシリア・オルコットですわ。ところで、岸谷さん。箒さんとはどういうご関係でして?」
「長年の敵だ!俺と篠ノ之箒はいくせn「だから私には身に覚えがないと言っている!」」
「!俺は覚えてたのに、バカぁ!!」「誰がバカだ?!」
二人とも学習能力がないとは思う。
「ああ、もう話が進みませんわ」とつぶやき、サンドイッチのバスケットを開けたセシリアに影が落ちた。
「そういうときは新聞部のこの黛薫子にお任せを!」
きらっと反射した光の先を見ると、眼鏡をかけた知的な少女がいた。この女生徒にかつて言ったことのない発言をねつ造されかかった彼女は箒と同様に眉根を寄せた。……いや、自分が一夏に惚れているのは嘘ではないが何も人前で言うことではないと思うのだ。
「まぁまぁ、私は新聞部。嘘は書かない主義だから」と思考を読んだかのように微笑む薫子には腹が立つが、まぁ、彼女に任せることが一番な気がした。これ以上ため息をついて、幸運を逃したくない。ただでさえ、意中の彼を狙っている女子は多いのだから、運は少しでも消費したくないのである。
「だっから!俺はお前にズバーッ!とやられたから、ISで」
それにこの殿方とは話が合いそうもありませんし。
****
岸谷弘毅は小6のときから剣道を始めた。彼いわく、「ちょーっとやんちゃで元気でかわいすぎるお年頃だったからさ、毎日喧嘩しちゃったりもの壊したりしてたら、『そんなに元気ならスポーツでもしろ』って言われてさ。一番近い剣道の道場に入ったんだよね」。ちなみに、目が合っただけで彼は殴り掛かっていたそうだ。まるっきり狂犬である。
まぁ、エネルギーを剣道で昇華させようという周りの対応は功を奏した。彼は才能があったようで、始めてすぐ全国大会に出場をすることができたのだ。もちろん彼は天狗になっていた。このまま一気に優勝。その場にいる人間全員倒してやる!と意気込んでいた。そんな彼だから、二回戦で敗北を期したのは、それこそ天変地異。予想だもしていない事態であった。しかも、体格差などほとんどない相手だ。鮮やかな面一本。体格差がない以上、技術の差だと思うしかなかった。小学生なので稽古着と防具、面の上からは性別も分からなかったが、トーナメント表には『篠ノ之箒』という名前が記載されていた。
「え、それだけなの?負けたってだけで?」
「いやまぁ、……結構なことだろ!」
「うーん?」
彼はまじめに練習を始めた。
『篠ノ之箒』とやらは、小4から全国大会に出場し続けている選手だそうで、剣道界では有名らしい。ただ、小4以降全国さまざまな地方の大会に出場していて、同じ地方の大会には出ない。おそらくIS関連の姉の影響だろう、可哀想に……と言っていたのは道場のおじさんだ。ただ、弘毅からしてみてみれば自分も可哀想であった。何しろ、もう一度戦いたいのに同じ大会に出ることがないのだ。篠ノ之箒は引っ越ししすぎである。
という訳で、彼がもし篠ノ之箒と戦えるとしたら全国大会という各地方の優秀者が集う場でしかなかった。おまけに期間は3年。なぜならば高校生にもなると力の差が開きすぎるため、男女別の部になるのだ。男女混合での試合は中学生の間まででしかない。しかも女子の場合は希望者のみのようだった。
今まで色々なものにあたる不良少年だった彼は朝から晩まで剣道の練習に明け暮れた。
「希望と言うことは、箒ちゃんが混合の部に出ない可能性もあったでしょう?どうしてそれで練習に打ち込めたのかな?」
「思いもしなかった!あはは!」
弘毅は馬鹿だっ……いや、野生の勘で箒との再戦のチャンスを悟り、練習をした。
そのころにはISという機械が出現してその戦闘に剣道の技術が日本では採用されたために、IS訓練の一環として学ぶ女性が出始めた。剣道をする人間は増えたが、真剣に試合をする人間が増えた訳ではない。道場でも「こんな基礎じゃなくて剣術をさっさと教えなさいよ」という女性が現れたし、弘毅が買い出しの命令をされることがあったが彼はもう暴力に走ることはなかった。いわく、「運動になるし、厄介ごと起こして大会に出れなくなるのは嫌だったからさ」。
そして、彼は年に一度の全国大会に出続けた。
中1のときは三回戦で箒とあたった。負けた。
中2のときは四回戦で箒とあたった。負けた。
中3のときは――
******
「ああ、中3、去年は箒が優勝したんだったよな」
「……これでも決勝で戦ったんだぜ?」
「それで、負けたから再戦ね。でも、何でISなのよ?」
「そりゃ、篠ノ之箒は女だからな」
セシリアは数瞬彼の顔をじっと見た。
ISが登場して以後性別を口にすると、何らかのニュアンスが含まれると感じていた。女は『男』と口にするとき、優越感が。男が『女』と言うときは畏怖の感情、悔しさなどの感情が。
だが、彼からはそれを感じない。まっすぐに箒を見ながら話を続ける。目をそらしたのは篠ノ之箒の方だった。
「?」
違和感。箒は自分から目をそらすような性格ではないし、女扱いをしたのは彼女の想い人ではない。
セシリアは首を傾げたが、男は気にしていないようだ。
「IS同士の剣道なら、男女の体格差も力も関係ないだろ?真っ向勝負の、真剣勝負が出来ると思ったからさ」とこともなげに話している。
「ISを操縦できて良かった。お前のお姉さんに感謝しなきゃいけないな」と言う弘毅は、セシリアの考える『理想の男』のようだった。後ろ盾のない彼はIS操縦者となって様々な苦難を味わったはずで、学園にもほとんど女ばかりで暮らしづらいことが多いだろう。だがその中でも卑屈にならず強く生きている。まぁ、一夏には及ばないが、彼も自分が認めてもいい『男』のようだ。
「……分かった。受けて立つ」
「よっしゃああぁあああ!!」
「うるさい!」
「あ、弘毅。お前、IS操縦したことないだろ?それじゃ、対等な勝負なんて出来ないだろ」
「一夏の言うとおりだよ。まず、操作法を練習しないと……」
「え?ISってドカーとやってグニャーとしたら動くもんだろ?」
「何か弘毅って箒と似たことを言うな……」
「な、何だと?!一夏、撤回しろ!」
……やはりただのバカっぽい。
セシリアは即座に先ほどの考えを撤回しながら、残り少ない昼休みの間にいかにして一夏にサンドイッチを食べてもらうか考え始めたのだった。
3. side 《Koki Kishitani》
俺は頭が良くないが、言われずとも自分の境遇は知っているつもりだ。両親はどっかで生きているみたいだが、俺を捨てたようで、それを感じていた俺は世の中の何もかもが嫌いだった。誰も俺を好きになってくれない世界、捨てた親は帰ってこない現実、孤児の俺を憐れむ目も。世界は真っ黒だった。
俺は、小さなことでも腹が立て、かんしゃくを起こしまくった。
相手が上級生だろうがその辺のヤンキーだろうが、投げ飛ばして、蹴り飛ばして、地面に叩きつけて、倒す。周りはさらに引いていき、親戚はそのたび俺をたらい回しした。
最終的に、血のつながりが遠すぎて説明を放棄したくなるような親戚のじいさんに預けられた。じいさんは剣道場を営んでいて、そこに通わされたのだ。
「お前は力が強いな」
と初めて頭をなでられた。
じいさんは変人だったのだ。
それもドがつく程の。
そんな人間に褒められて、こそばゆい思いをした俺も結構な変人なんだろうが。
何にせよ、剣道は俺に向いていたようだ。力をふるってもいい場、はけ口が出来たせいか、外ではあまり暴れなくなった。剣道だけは黒い中でたった一つ真っ白に灯っている自分の光になった。
だが、調子に乗りすぎた。
力が強かった俺はあっさり周りの同年代を抜いてしまった。というか技や型を極めるまでもないほど力が強かった。剣道ですら他人を叩きのめしすぎて道場生ともなじめなくなる。畏怖の視線に、せっかく出来た『好き』が『嫌い』に変わりつつあった。
「お前は力が強いな」
と肩を軽く叩かれた。もう褒め言葉ではないが、暴力を振るった後俺と話すやつは初めてだった。それもじいさんは、どうやらただでさえ数少ない道場生をさらに失った後だったのにも関わらず、だ。
偏屈なじいさん、暴力的な俺の最悪な二コンボにより、道場の人口密度は最小値をマークしていた。いや……いくらじいさんの性格が悪かろうと今までぎりぎり10人いた道場が一桁になったのは完全に俺のせいだ。
「剣道、やめたい」
ある日俺はじいさんに言った。それがじいさんの為になると思ったのだ。続けて「もう相手いないし」とか言おうとした次の瞬間だった。ウソがばれないように目をそらしていたのが間違いだった。
じいさんが俺を打ちのめした。容赦なく。
そして、「ふ、まだ弱いガキンチョのくせに」と言った。飛びかかった俺をじいさんはうるさいハエのように叩き落とした。まぁ、「まだ弱い」というのは本当で、俺は全国大会で会ったのだ。自分より強いやつ。
篠ノ之箒。
試合場に音もなく進み出て、礼をし、蹲踞した。キレイだった。
「始め」
ぼけっとしている最中審判の声が遠くで聞こえ、何とか俺は最初の一撃を受け止めることが出来た。腕に力をかけて押し返す。力は俺よりないようで相手は後方に下がった。
勝てる。勝てるはずだ。
相手がすっとした姿勢をとった。思わずまた見惚れた。たいてい俺の相手は一あわせすると恐怖で背が丸まったり剣先が落ちたりして明らかに戦力を喪失していたはずだ。
うまく言えないけど、とにかく今回の相手はキレイで、剣道以外にこんな真っ白な存在があるんだと思った。
竹刀の打突部が刃筋正しく俺の頭に当たり、
「一本」
で、負けていた。
何じゃそりゃ。
ぼけっとしてたのは自分のせいだけど。何だか腹が立ってきて俺は試合後すぐに相手の元に行った。
ぴんと伸びた姿勢、歩き方ひとつとっても、やっぱりキレイだった。
稽古着自体が、そいつが着ると「きっちり」と喜びの声を上げているようだ。俺のはしょうがなさそうに着られているくせに。
「次はお前を叩きのめす」
気付けば喧嘩のときに言うような言葉をかけてしまっていた。
「……」
そいつは黙っていた。俺ならこんなことを言われたらその場で殴り掛かる。
だが、やつは面をゆっくりはずしてこちらを見た。
女だ。目つきといい、顔立ちといい、きりっとしているが、長く伸びた髪が女だと思わせた。その髪の毛は汗でべったり乱れ、紅潮した頬に張り付いて顔を隠していたが、それでも強い眼差しは俺の奥まで届いた。
「力に溺れるようなやつに私は負けない。叩きのめすことが強さのはずがない。強さを見誤るな」
同世代の、自分より強くて、しかも女に、真正面から諭されたのは初めてだった。
だからか、あっさり俺は受け入れたのだ。
力じゃない。俺は強くない。侮蔑とも思えるその言葉に俺は驚くくらいほっとしていた。親がいなくて他のやつよりずっと力が強くて人よりキレやすくて溶け込めなくて仲良くなれなくて『好き』が作れなくて嫌な奴で。
自分ひとり。
そう思ってたから。
篠ノ之箒は俺を恐れないし強くないと思っている。俺を怒る、――俺が傍に行っても傷つけないですむ人間だ。何だか会うだけで自分の曲がったところがまっすぐになるような気がするキレイな存在。
俺は強くなりたいと初めて願った。これまではますますひとりになる気がして強くなろうと考えたことすらなかったのに、あいつに追いつきたい一心で、そう願った。
道場のやつと初めて話して、足さばき、竹刀の使い方を教わった。
最初は驚き、恐る恐るといったふうに接してきていたやつらも数か月経つころには道場内外を問わず話しをするようになった。
一人じゃなくなった。
篠ノ之箒のことを話すと、応援もしてくれた。
俺が「あいつに追いつきたい」とか「キレイだった」とか言ったときは、すごくにやにやしてたけど。
「お前って相当『篠ノ之箒』が好きなんだな」
「そうだな」
篠ノ之箒は『好き』で『白』だ。剣道と箒。二つ揃ってまるでオセロみたいにその周りのものも『好き』になっていった。世界は真っ黒じゃなくなった。
中1。箒に負けた。ただ、前よりいい勝負になった気がする。
中2。箒に負けた。ただ、惜しかったと思う。次には……
そして、最後の年。中3。
おあつらえ向きの決勝戦。俺はかつてないほどの絶望を味わっていた。
篠ノ之箒が。
弱かった。
力では明らかに俺の方が勝っている。それは女だから当たり前だし初めて対戦したときから分かっていたが、これまであいつは技術でそれをカバーしてきたはず。そして負けない精神力、集中力で俺を圧倒していたんだ。だけど、その日はめちゃくちゃで、もうここには俺が求めていた篠ノ之箒はいないんだと思った。何より面の間からほのかに見えた目。
叩きのめしてやろうという目。力任せに振り下ろす竹刀。ぶつかるたびほの暗い喜びに歪む唇。
(まるで小学生のときの俺、じゃねーか……!)
型も技のきれも精微さもなく、愉快そうに木の棒を力いっぱい振る箒は子どもみたいで、楽しそうで、哀れで、かなしくて、力に溺れていた。俺は耐えきれず、無様にその場で泣き崩れた。
終わりの音と、一瞬見えたのは――正気に戻ったかのように揺れる、篠ノ之箒の目。
そのとき絶望するのはまだ早いと感じた。
ああ、まだ俺たちの戦いは終わっていない。こんな後味が悪い戦いが最後じゃダメなんだ。
せめてもう一度。
仕切り直しをしよーぜ、篠ノ之箒!!!!
そうは思えど、もう試合をする機会がない。力の差が男女ではありすぎる。どうすればいいんだろう、と全国大会から悩みに悩んで10か月。そんなに強くないオツムがバーストして、いっそ俺が性転換でもするかくらい考えて、でも金ねぇとか考えていた頃。
IS適性テストでBをとったのだ。どうやら俺の身体が性別の壁を超える前に、執念が性別の壁を越えたらしい。IS。これなら同等の力で戦える!神様、サンキュー!
……聞くところによると、ISを動かすには技術や勉強、練習をしなきゃいけないみたいなんだが!それでも性転換より簡単だろうさ。一夏が何故か顔色悪くサンドイッチを食べながら、「じゃあ、俺たちと一緒に放課後練習しようぜ」とも言ってくれているし。
それよりも。
「あー、でも放課後は剣道部見ておきたいしなぁ。ISの練習は剣道の後からだな。篠ノ之箒もそうなんだろ?案内してくれ」
「私は……」
「そうだな、箒。そろそろ部活にも顔を出せよ」
「ん?どーいうことだ?」
ふっと篠ノ之箒は視線を逸らした。
「箒はいつも俺の練習に付き合ってくれてるから、部活に出ていないんだよ。俺はいいって言ってるんだけどな」
「……幽霊部員ってことか?」
「……部活時間が終わった後に部長の好意で、個人練習をさせてもらっている」
だから、何でさ。
この『篠ノ之箒』は俺を知らなくて、俺の考える箒とは違くて……――
「お前は何なんだ!篠ノ之箒のアホンダラ!!」
小学生以下の叫び声がむなしく響いた。