うちに転移してきた魔女がエロゲ出身すぎる 作:匿名希望
それはあまりに急な出来事だった。
「はぁ、ただいまっと……ま、返事なんてないけどな」
いつも通りの仕事帰り。
もうすぐ日を跨ごうかと言う時間に家に帰った俺はぼやきながら、鞄をベッドの脚辺りに放り投げ、スーツを脱ぐ。
そして着替えもせずに下着姿でベッドに腰を掛けた時だった。
「きゃぁぁぁぁっ!」
突然、女性の悲鳴のような声が聞こえたかと思えば、俺の全身が光に包まれる。
「な、なんだっ!?」
あまりに突然の出来事に戸惑い、咄嗟に俺以外誰も居ないはずの部屋をぐるりと見まわす。
そして視線が天井の方へ向いたその時——
「ぁんっ♡」
強い衝撃と共に、俺の顔を暴力的な柔らかさが襲う。
その衝撃のまま俺はベッドに倒れ込むと、顔の上にある柔らかな二つの何かがむぎゅっと潰れたような感覚があった。
「痛ったぁ……、もう! 本当にここで合っているのよね?」
俺の上から、女性らしい声が聞こえる。
……女性?
ということは、この柔らかさの正体は——?
思考より先に脊髄反射で、俺の手が柔らかい膨らみに伸びる。
——むにゅ。
「あん♡ ……ちょっと、さっきから何なの、このおっぱいの下の感覚——は」
俺の体に手をついて上体を起こしたその女性と目が合う。
「え……?」
「あ……」
一瞬の気まずい沈黙。
目下の状況はと言えば、下着姿の男が初対面の女性の胸を鷲掴みにしているという……。
かつてないほどに高速回転した思考が、状況のまずさと、この後に起こりうる最悪をはじき出す。
「いや、これは……違くて……」
「きゃぁぁぁぁぁああああっ!!」
しかし、高速回転したのは思考だけ。
俺の対応、口の回りが突然早くなるわけなく、二度目の悲鳴とともに、俺の右頬は撃ち抜かれた。
◇◇◇
「……え、えっと、いきなり殴ったことは謝るわ。ごめんなさい」
数分後、着替えをした俺と、その間に状況を飲み込んだらしい美女が低姿勢で謝罪をしてきた。
スラリと伸ばされた髪は、人生で関わってきた人の中では見たことのない色をしている。
水色? いや、グレー? それとも銀なのだろうか?
白髪とは明らかに違うものの、淡い色をしている。
だが、それ以上に目を引くのが……胸だ。
いや、先ほど触れてしまった膨らみが目の前にあるから目を引かれているのではない。
何と言うか、こう、エロゲでしか見ないような谷間がガッツリと開いた服を着ているのだ。
どのくらいかと言われれば、それはもうガッツリだ。
頭を下げると、ただでさえ大きなそれが重力によってすこし縦長に形を変えて………………これを見るなという方が無理というものだ。
「い、いや、まあ、俺もその……触っちゃったし……」
「……いえ、それもあなたには不可抗力だったでしょうし」
顔を上げた美女と目が合うも、あんなことがあっては、にこやかな初対面とはいかず……。
若干紅潮した頬と、微妙な雰囲気がなんとも気まずかった。
「……えっと、その、うちになんか用?」
とはいえ、このままでは意味が分からなすぎるので、俺の方から話を切り出した。
「あ、そ、そうよね。……まさか一般人を巻き込んでしまうなんて。……でも、転移の瞬間を見られてしまった以上、何も言わないというわけにはいかないし……」
美女は何やら一人でぶつぶつと呟いた後で、真剣な面持ちでこちらを向き直る。
「まずは……そうね。自己紹介をさせてもらうわ。私は枢木・ライアフェルト・千里。信じられないかもしれないけれど、本物の魔女よ」
「……はい?」
ミドルネームに……魔女?
いったいこの子は何を言っているんだ?
顔立ちはそれこそ別世界から飛び出してきたかのように美しいが、ミドルネームが付くような外国の血筋が入っているようには見えない。
あくまで顔立ちについてだが。
だが、本題はそこではない。
……魔女?
魔女ってなんだよ。
あれか? とんがり帽子に地味な色のローブなんか羽織っちゃって、ステッキみたいな杖を持ってるあれなのか?
だが、彼女は杖どころか帽子も被っていないし、体のラインを覆い隠すローブとは正反対な、体のラインを強調するような……直接的に言えばどスケベな格好をしている。
これで魔女は無理があるだろう。
「まあ、いきなり言っても信じられないわよね……。でも、ここまで聞いてしまった以上、あなたには協力してもらう必要があるわ」
「え? ええっ!? 今、そっちから話してきたよね?」
「……細かいことはいいわ。なんだか気まずくて忘れていたけれど、私がここに来たのも目的があったんだから!」
勢いですべてを誤魔化すように立ち上がると、枢木・ライアフェルト・千里と名乗った魔女は俺の部屋を物色し始めた。
「お、おい! いきなりなんだよ! というか、誤魔化さず一から十までちゃんと説明しろよ! 一応言っておくが、ここは俺の家だ。今ここで警察に電話してやったっていいんだぞ?」
脅すようで若干悪いような気がしたが、よくよく考えれば、突如部屋に入り込んできた魔女に右頬を撃ち抜かれただけの俺はただの被害者だ。
これは当然の権利だろう。
……いや、胸触ったのは、ほら、不可抗力だし。
携帯を取り出し、電話のキーパッドをちらつかせる。
「はぁ……。わかったわ。警察を呼ばれても面倒だし……でも、その代わり——」
ベッドの下をまさぐっていた魔女が仕方ないとため息をついて、こちらを振り返る。
かと思えば、いつの間にか俺の隣にすり寄ってきて、俺の手を掴み、その手を自身の服の中に突っ込んだ。
先ほど以上に直接的な触感が指先の繊細な神経から伝わってくる。
肉体のほのかな温度としっとりとした柔らかさに指が沈む。
一瞬で思考がピンクに染まった。
「これから聞いたことを他言したら、あなたに連れ込まれて犯されたって、こっちが訴えるから」
だが、色っぽさを微塵も感じさせない瞳と、その冷徹な口調に、俺の思考は一気に冷めていった。
◇◇◇
「改めて、私は
テーブルに着きなおし、改めて向いあった俺に彼女は再度自己紹介をしてくる。
「……俺は
被害者側である俺が主導権を握られているのはいささか不服ではあるが、それ以上に気になることが多すぎる。
「千里でいいわ。……そうね。確かに何も説明しないっていうのはさすがに理不尽だったわよね。でも、この話を聞いてもらうからには、あなたには魔女の存在を信じてもらう必要があるし、絶対に他言しないことも求められるわ。これは申し訳ないけど、規則だから」
「……ああ、分かったよ。魔女の存在も信じるし、他言もしない」
冗談だろうと笑い飛ばすには、真剣すぎる千里さんの剣幕に、俺は応じることにした。
そもそも急に部屋に美女が降ってくるなんて状況、魔法や超常現象でないと説明がつかないだろう。
もちろん未だ「馬鹿言え!」と思う自分が内心にいないわけではないが、それを上回る状況が現実に起こってしまっているのだから、仕方ない。
「ありがとう。じゃあ、説明するけど……そうね。まずは実際に見てもらった方が早いかしら」
千里さんはそう言うと立ち上がり、手のひらを上に向けて手を伸ばした。
「見てて、これが魔法よ」
千里さんの手のほうへ視線を向ける。
すると、ボッと空気が燃える音がして、千里さんの手の上に人の頭よりもさらに一回りほど大きいサイズの火の玉が出現した。
「おおっ!」
「……あら?」
初めて見る本物の魔法に興奮する俺と、何やら不審そうな顔をする千里さん。
「すごいな……本当に魔女なんだな」
「……ええ。この通り、この世界には魔法が存在するの」
「ああ、これを見せられれば信じるよ。けど、それがどうして、俺の家に来ることになったんだ?」
「それについては、私たちの立場が関係しているのだけど……」
千里さんはそう言いつつ、またも俺の部屋をぐるっと見回す。
「どうかしたか?」
「……誠治、あなた、何か魔法を増幅させるような道具について心当たりはない?」
「今しがた魔法の存在を知った俺が、そんなものに心当たりがあるわけないだろ?」
「そうよね……でも……」
なおもきょろきょろと部屋を見る千里さん。
だが、どうやらめぼしいものは見つからなかったのか、テーブルに座りなおす。
「ええっと、そう。私がここに来た理由だったわね」
「ああ」
「それは、この辺りから強力な魔力の気配を感じたからなの」
「魔力の気配? なんだそれ」
「うーん、こればっかりは感覚的なものだから説明は難しいんだけど……なんか圧? みたいなものがあるのよ」
「なるほど? で、千里さんはそれを見つけるためにここに来たと?」
「敬称もいらないわよ。でも、その通り。その気配の元に向けて転移の魔法を使ったんだけど、そしたら誠治の家だったってわけ」
俺の家に魔力、ねぇ?
ここには新卒から二年ほど住んでいるが、大したものは置いていない。
生活に必要な家具と、趣味の本やゲーム程度だ。
とても何かがあるようには思えないが。
「その魔力の元? を探していた理由は何なんだ? 例えば俺に害があったりするのか?」
「……そうね。無いとは言い切れないわ。さっき、私の立場の話を少し出したでしょう?」
「ん? ああ、なんか言ってたな。私たちの立場が~、とかなんとか」
「そう。私は魔女協会っていう組織に所属しているのだけど、魔女も一枚岩ではないの」
「と言うと?」
「私たちが正義側だとすれば、悪側の組織も存在するのよ。それが通称ギルドと呼ばれる魔女の組織。彼女たちは魔力の開放を目的に活動しているの」
「魔力の開放?」
「ええ。さっき私が魔法を使って見せたでしょう? でも、あれって、別に特別なことじゃないの。魔法は使えるようになるきっかけさえあれば、誰にでも扱えるものなのよ」
「誰にでも? ってことは俺にも魔法が使えるのか?」
「ええ、理論的にはそうなるわね。でも、その話は一旦いいわ。それで、彼女たちは魔女を増やして、魔法、魔力による世界の支配を目論んでいるのよ」
「それが魔力の開放ってことか?」
「そういうことね」
世界の支配、か。
いきなり話が飛躍した感は否めないが、先に見せられた火の魔法を見ればあながち嘘とも思えない。
あんな力を誰でも使えるようになったら、世界の秩序がおかしくなるのは明らかだ。
「それで、俺への害ってのは結局何なんだ?」
「それは……巻き込んでしまった私が言えたことじゃないのだけど、こちら側の事情に巻き込まれる可能性があることよ」
「こちら側の事情?」
「ええ。さっき言ったでしょう? 魔法は魔法を使えるようになるきっかけさえあれば誰にでも使えるようになるって」
「ああ、言ってたな」
「それが、私の探していた魔力の元との接触なの。つまり、この家にある魔力の元をどうにかしない限り、あなたの家はギルドの標的になるのよ」
「それは……。そもそも魔力の元ってそんなに希少なものなのか? それこそ、俺の家から探さないといけないくらい。組織が二つもあるくらいだ。魔女もそこそこな人数はいるんだろう? 例えば千里が使った魔力の元を狙うとかじゃダメなのか?」
「魔力の元で魔法使いになれる人数はその元がどれだけの力を持っているかによるのよ。基本的に魔力の元となる物一つにつき魔法を使えるようにできるのは一人くらいなの。でも、ここから感じたのはそんな普通の元とは違う。すごく強い力だったから、急いで来たわけなのよ」
「俺がもうすでにその魔力の元と接触してしまっている可能性はないのか?」
「それはほぼあり得ないわね。魔力の元との接触と言っても、単に触れるだけで接触判定になるわけじゃないのよ。その元によって色々な条件があるの」
「なるほどな……」
千里がここに来た理由についてはあらかた理解できた。
話の通り、彼女は俺の家にあるという魔力の元とやらをギルドに使われてしまう前に回収するためにここに来たのだろう。
そうとなれば、彼女を追い返す必要はない。
それどころか、出来るだけ早くその魔力の元を見つけ出して、回収してほしい。
面倒ごとはごめんだからな。
「よし、分かった。そういうことなら、好きに探してくれ」
俺はひとまず、まだ探られていないクローゼットの扉を開く。
だが、その時だった。
「ありがと――! いえ、待って誠治。その必要はないかもしれないわ。……でも、そんなまさか? こんなことって——」
呼び止められて、千里のほうを振り返る。
すると、彼女の顔は驚愕に目を丸くしていた。
千里が口元に手を当て、信じられないという表情をしたままこちらに歩いてくる。
「千里? どうしたんだ? 何か見つけたのか?」
問いかけるも反応はない。
その代わりに俺の頬へ、千里の手が伸ばされた。
「へっ? 千里? 急に何——」
「やっぱり。道理であなたの真上に転移したわけだわ!」
急接近され、千里の纏う甘い香りと蠱惑的な色気が俺の思考を鈍らせる。
一方で、千里は納得、とでもいうような声を上げた。
「誠治。魔力の元が分かったわ! あなたよ! ここにある魔力の元はあなただったのよ!」