うちに転移してきた魔女がエロゲ出身すぎる 作:匿名希望。
へ? そう言いたいのは俺の方だよ。
呆然とした表情の三人に吐き出しかけた言葉を飲み込む。
なんだよ絶倫って。ふざけてるだろ。
魔力切れを起こさない。
それは確かに強い、ゲーム風に言えばMPが無限ってことだ。
間違いなく最強の魔法と言ってもいい。
だけど、だったら無限とか、もっとかっこいい感じの言い方があっただろ!
なんでよりにもよって絶倫なんだよ!
……こんなの、会長さんの鑑定眼で視られでもしたら——
「魔力切れを起こさないって、すごいじゃない! そんな魔法聞いたことないわよ!」
「はい! 間違いなく最強の魔法ですよ!」
「そうだね……もはや規格外と言ってもいいレベルだ。誠治君、念のため確認させてもらってもいいかな?」
なんて思う暇もなく、会長さんがじっとこちらを見つめてくる。
「あ、ちょ、待って——」
「……ふっ、これは。なるほどね」
俺の制止も甲斐なく、俺にその眼を向けた会長さんがおかしそうに噴出した後でそう呟いた。
「誠治、それで? なんて言う魔法なのよ?」
「私も! 聞きたいです!!」
そんな俺の内心など知らずに、千里とロスティは目をキラキラと輝かせてこちらに迫ってきた。
「いや、まあ、その……なんだ。名前とか、別にいいだろ? な?」
言いたくない。
言いたくなさすぎる。
だって、これを言ったら間違いなく俺は……絶倫の魔法使いになってしまう。
最悪だ。
この言葉の組み合わせ以上に最悪なものがあるか?
この並びではどう考えても魔法使いが別の意味にしか捉えられない。
まだ俺三十じゃないし、そもそも童貞でもないのに……不名誉すぎるだろ。
「誠治さん! 魔法の名前って重要なんですよ! 固有魔法は持ち主をその人たらしめるものでもあるんです! 私なら虚空の魔女、フェルなら転移の魔女、会長なら看破の魔女みたいに通名にもなるんです。ですから、教えてください!」
ロスティの一言で完全に心が折られる。
虚空? 転移? 看破? ……かっこよすぎるだろ!!
それに、敵かもしれないけど九重は消却の魔女だし……。
それに対して俺は何だ? 絶倫だぞ!?
心の内で激しい突っ込みが嵐を起こす。
そんな俺を面白そうな目で笑いを堪えながら見る会長さん。
許せない。
「ほら、誠治。もったいぶってないで。早く教えなさいよ」
「誠治さん!」
「……っぅ」
期待に満ちた二人の瞳。
その少し後ろで辛抱たまらないと目に涙まで溜め始める会長。
会長は後で絶対泣かす。
「……笑うなよ?」
「笑わないわよ。大丈夫、どんなに中二病全開な名前でもそういうものだから」
「そうですよ! 魔法使いとしてアイデンティティになるものですから。笑うなんてありえません!」
俺の弱気な確認に、二人がフォロー線を張ってくれる。
でも、そうじゃない。
さっきから罪のないロスティの言葉がグサグサと俺の心に刺さっていた。
とは言え、この追求から逃れきることは無理だろうと、心を決める。
「……絶倫」
「……ん?」
「……え?」
「プフッ!」
千里とロスティがこちらを二度見するのと、会長が噴き出すのは全く同時だった。
「俺の魔法は絶倫、だ。つまりロスティの教えてくれた通りなら……絶倫の魔法使い、ってことになる」
「……ふっ、うふふ! あははははっ! ぜ、絶倫って!」
「……や、やっぱり誠治さんは——ふぇ、フェル! 笑ったらダメですよ!」
続いて、千里も声を上げて笑い出し、そんな声に何かを言いかけていたロスティは寸でのところで踏みとどまって千里を制止する。
「で、でもだって、ロスティ。聞いた? 絶倫よ……あははっ!」
「おい! 笑うなって言っただろ!」
「それは、ごめんなさいだけど……だって、ふふっ」
「いいじゃないか誠治君。君にはぴったりだよ」
「ふ、二人とも! 破廉恥ですよ!」
だが、千里と会長さんの笑いは止まらない。
そんな二人と俺を交互に見た後で、ロスティが慰めるように言ってくれた。
「あの、誠治さん。私はいいと思いますよ? すごい男性って感じがして」
しかし、その言葉がとどめの一撃となり、俺は机に突っ伏した。
◇◇◇
「……それで、誠治君、君は明日消却の魔女である九重君と話をするってことだったけど、どんな話をするのかは決まっているのかい?」
しばらくして、二人から謝罪され、俺もいつまでも子供のように拗ねているのは情けないと、二人を許した後で、会長さんが切り出してきた。
「ああ。ある程度は決まってるよ。俺はあいつが無差別に人を襲ったりするとはどうしても思えないからな。その辺りを確かめるつもりだ」
「そうか……。フェルについて行ってもらうとは言え、くれぐれも気を付けておくれよ」
「分かってるよ。俺のやばさは俺も十分理解しているつもりだ」
「ああ、君が記憶を消されて彼女に連れ去られてしまえば、この国はあっという間にギルドに支配されてしまう」
「大丈夫、私がいるんだから。逃げることに関しては私の右に出る者はいないわ!」
「フェル、君もだよ。魔法が消されてしまえば、誰だって普通の人間と一緒なんだから」
「もちろん、分かってるわよ」
少し前までとは違い、緊張した雰囲気が場に流れる。
「そういえば、誠治さん。私の渡した袋はまだ持っていますか?」
「ん? ああ、持ってるぞ。よくわかってないけど、お守り代わりに、ほら」
俺は千里との共同生活が始まる前にロスティにもらった小さな巾着のようなそれをポケットから取り出して見せる。
「良かったです。消却の魔女と会う時も、必ず持って行ってくださいね?」
「おう。けど、これ、なんなんだ?」
「その袋の中は私の作ったこの魔女協会とはまた別の空間につながっているんです。そこに指定した相手を閉じ込めることができる魔道具なんですよ!」
「……なんだそれ、最強のアイテムじゃないか」
「いえ、でも、普通の人は開くことすらできないですから。誠治さんの魔力量あってのアイテムなんです。それに、ここの維持にだいぶ魔力を使ってしまっているので、量産はできませんし」
「そうなのか……でも、俺が持っていれば最強ってことだよな?」
「……そうですね! 誠治さんの魔力と私の魔法があれば、最強です!」
なんだか不安があるような様子だったが、ロスティはそう言って笑ってくれた。
「……さて、それじゃあ今日はもう休もうか。明日の予定は夜ってことだったけど、万全を期すに越したことはないからね。それじゃ、ロスティ、お風呂に行こうか」
「え? 私ですか?」
「偶には背中でも流しておくれよ」
「……いいですけど」
「あ、じゃあ、私も一緒に入るわ」
「いや、フェル。君は後だ。それより、明日のために誠治君と二人で作戦会議でもしておいた方がいいんじゃないかい?」
「え……?」
「それじゃ、ごゆっくり。ロスティ、行くよ」
「お、おやすみなさい! 誠治さん、フェル! ま、待ってください会長~」
足早に部屋を出ていく会長さんとロスティ。
それを二人で見送る。
「万全を期すって……そういうこと」
二人の影が見えなくなったところで、千里が呟いた。
「ん? どういうことだ?」
「……ちょっと手、貸して」
「あ、おう」
言われるがままに千里へ手を差し出せば、すぐに視界が光に包まれる。
そして、気が付けば俺たちは、協会の俺の部屋に居た。
「……千里?」
「……ねえ、誠治。魔法使いにとって一番大事なものって何だと思う?」
並んでベッドに腰を掛ければ、いきなり千里がそんなことを聞いてくる。
「それは魔力じゃないのか?」
「そうね、それも間違いではないわ。でもね……」
俺が答えれば、その答えをやんわりと否定しながら、俺の膝の上に跨った。
「魔法はイメージが重要って、最初に言ったでしょう?」
「あ、ああ」
「そんなイメージ次第では、水に火をつけることだってできるのが魔法なの」
「そ、そうなのか」
ゆっくりとこちらへ体重を預けてくる千里を受け止める。
体面に柔らかな二つの果実がこれでもかと押し付けられていた。
「だから、魔法使いにとって一番大事なものはイメージ力なのよ。だから、だからね」
不意に少し体を押された。
支えのない俺の上体はベッドに倒され、膝に跨っている千里に押し倒されたような状態になる。
「私にもっと誠治をイメージさせて。身体に触れていなくても、あなたと一緒に転移ができるくらい、あなたの存在を私に刻み付けてほしいの」
「千里……」
「誠治……九重さんの話をちゃんと聞いて、しっかり二人でここに戻りましょう。そして、また、あの部屋で共同生活をしましょう」
「……ああ」
影が一つに重なる。
絡み合った二人の影はお互いの存在を深く刻み込むように、揺れていた。
♡♡♡ ——会長視点——
「……あの会長。どうして急にお風呂に?」
大浴場、と言うほどの大きさではないが、家庭と比べると大きな浴場の脱衣所で、ロスティが聞いてきた。
「さっきも言ったとおりだよ。万全を期すためさ」
「作戦会議のことですか?」
「ああ」
「私たちがいるとやりにくいのでしょうか?」
「……まあ、そうだね。私たちがいると中々高度なことになってしまうからね」
「?」
何のことだか本当に分かっていなさそうなロスティに思わず苦笑いを浮かべてしまう。
でも、それがこの子の良いところでもある。
「さ、私たちももしものために備えなきゃだからね。ゆっくり疲れを取ろうじゃないか」
「疲れって言っても、私たちはこの一週間任務にも出ずに誠治さんの訓練に付き合ってただけじゃないですか!」
「それはそれ。これはこれさ。ほら、ロスティ、お姉さんの背中を流してよ」
椅子に座ってシャワーを浴びる。
ロスティを連れてきてよかった。
そうでなかったら………………無意識に伸びかけた手を引っ込める。
ははっ……アラサーの初めてを奪った責任は重いんだからね? 誠治君。
◇◇◇ ——九重悠月視点——
仕事を終わらせて、会社を出る。
「あ、九重さん。明日有給なんだっけ?」
「はい。すみません。急な話で」
「いいよいいよ。ゆっくり休んでね。それじゃ、また来週」
出口のところで、上司に声を掛けられた。
「はい。ありがとうございます!」
ゆっくり、か。
そういうわけには絶対に行かないであろう明日を思うと気が重くなる。
でも、そんな感情は一切表に出さずに、私は笑顔で上司に応え、会社を後にした。
駅のホームには同じく仕事帰りであろう人々の顔ぶれが並んでいる。
毎回同じ時間ではないとはいえ、週五でこの生活をしていれば、段々と周りの顔も覚えていくものだ。
特に降車駅ともなれば、その機会は増す。
「あの、少しいいですか?」
そのせいだろうか?
電車を降りたところで何度か見覚えのある、同い年か、少し上くらいの男性が声を掛けてきた。
「……なんでしょうか?」
「いきなりすみません。いつもここで降りられていますよね?」
「……はい、そうですが。それが何か?」
「……いえ、ナンパとかでは決してないんですが、その……いつもと大分表情が違ったので……少し心配で」
「……。そうでしたか。ご心配ありがとうございます。でも、結構です。少し仕事が忙しくなって疲れているだけですから」
「そ、そうですよね……すみません。いきなりこんな、話しかけてしまって。でも、何かあれば——」
言いながら男は私の手に何かを握らせる。
「それ、自分の連絡先なので。いつでも連絡してください。相談とか、乗りますから!」
「……」
「そ、それでは。失礼します、いい夜をっ!」
そして、それだけを言い残し、男は改札の方へ走っていった。
「……結局ナンパじゃないですか。それに今時電話番号なんて……」
握らされた手を開けば、小さな紙に十一桁の番号が書かれていた。
何とも古典的と言うか……奥ゆかしいというか……。
ぐいぐい来る輩と比べれば、相対的には悪くないが、それでも普通に気持ち悪い。
「はぁ……」
もう一度その紙を、今度は握りつぶすようにして握りこむ。
そして、手を開けば、もうそこには何も残っていなかった。
「……先輩」
改札を抜け、自宅への道を歩きながら、私は夜空に先輩を思い浮かべていた。
どうして、こんなことになってしまったんだろう?
あの日、あの人からの連絡を無視してしまえばよかったのに。
先輩の部屋から感じた魔法の気配にも気が付かないふりをしていれば良かったのに。
「……もう迷惑を掛けないって、そう決めていたのに」
私の呟きは宵の空へと吸い込まれ消えていく。
すると、そんなタイミングでスマホが震えた。
嫌な予感を感じ取りながら、その通知を開けば——
『期限は明日だけど、大丈夫かな? 九重君』
今回の元凶がすべてを見透かしたように、そう送ってきていた。
「——っ」
苦虫を嚙み潰したかのように、苦い味が口いっぱいに広がる。
しかし、私は落ち着いて返信をした。
『明日、決行します』
『そう。良い報告を期待しているよ』
大丈夫。
私はうまくやれる。
ハメ匿3応援ありがとうございました!!
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