うちに転移してきた魔女がエロゲ出身すぎる 作:匿名希望。
目の前をデリートの手が掠めようとした瞬間、俺の視界はいつもの光に包まれた。
◇◇◇ ——デリート視点——
「……逃がした? なるほど、彼らがここに来たのも突然だったが、そういうことか。転移魔法とは魔女協会もやはり粒ぞろいだね……ま、人型の魔力の元とは接触できたことだし、あとは九重君をどうするかだけど……」
一人で呟きながら、足元を振り返る。
「……おっと? これはまた……どういうことかな?」
するとそこには、いると思っていた九重悠月の姿がなかった。
「あの転移魔法がそこまでの規模で発動可能? いや、集団転移と言う気配ではなかった。これは、一体どういうことかな?」
◇◇◇ ——永礼誠治視点——
光が晴れて、視界が開かれる。
そこは、初めて協会に転移してきたときと同じ、ロスティの部屋の中だった。
「誠治っ! 無事!?」
だが、そんなことを気にする間もなく、千里が俺に飛びつくようにしながら確認してきた。
「大丈夫だ、千里。おかげさまでな」
そんな千里を受け止めながら、答えてみせる。
でも、俺はそんなこと以上に九重のことが気がかりだった。
「……誠治、その……九重さんのことはごめんなさい」
「……いや、千里の判断は正しかったと思う。それに——」
謝る千里に俺は手に握られているロスティの巾着袋を見せた。
「……もし、俺の行動が間に合っていれば、転移の瞬間、俺はこの袋の空間に九重を閉じ込めた、はずだ」
「——!? それ本当!?」
「おそらく、間に合っていれば、だが」
「すぐにロスティに確認してもらいましょう!」
「ああ」
表情に希望の色を宿した千里の後を追って、俺も部屋を出た。
◇◇◇
いつものキッチンダイニングではなく、今日向かった先は会長さんの執務室。
建物の内装に似合わない門のような両開きの扉が付いているあそこだ。
「会長! ロスティいるっ?」
勢いよく扉を開き、駆け込んだ千里が叫ぶ。
「フェルっ!? もう話は終わったのですか?」
すると、中から驚いたような声とともにロスティが顔を見せた。
「ロスティ! 良かった! ちょっと確認してほしいことがあるの! 誠治、袋出して」
「おう」
千里の勢いに流されるまま、俺は九重を閉じ込めているはずの袋を見せた。
何やらジッとタブレット端末のようなものを眺め、作業中だった様子のロスティがその手を止めて、こちらを見る。
「そんなに慌てて一体どうしたのです……ってそれ! もしかして使ったのですか!?」
すると、いきなり血相を変えた様子で、立ち上がった。
「……あ、ああ。ダメだったか?」
「……いえ、ダメではもちろんないですが、使ったということは危険があったということですよね? 二人そろっているということは大丈夫そうですが……まさか本当に使うことになるとは思わなかったです。何があったのですか?」
俺からその巾着袋を受け取りながら、ロスティが聞いてくる。
「詳しい話は会長が来てからするけど、消却の魔女が襲ってきたのよ」
「誠治さんの後輩さんが、ですか?」
「違うわ。消却の魔女はね、二人いたの」
「二人……? 一体どういう……いえ、それより今はこっちですね。何を確認すれば良いのですか?」
「ああ、その中に九重がいるかどうかを確認してほしいんだ。そしてできれば、その袋を開けてほしい」
「……中身の確認は分かりました。間違いなく、誰かがいます、けど……その……一度閉じ込めた袋を開けるのは……難しいです」
視線を伏せながら、ロスティが言う。
「そんなっ!? どうして?」
「元々誠治さんの魔力量をあてにして一度開けることだけを前提に作ったものですから。それにいくら魔力があっても空間の解除は私しかできませんし。でも、私では袋を開けることができないので……」
「俺がもう一度こじ開けて、その間にロスティが魔法を解くのはダメなのか?」
「……袋を開いている間、閉じられていない空間がどうなってしまうのか、私にもわからないんです。もしかしたら、空間ごと九重さんの存在が消えてしまうかもしれません。完璧にタイミングを合わせられれば話は別だと思いますが、二人での作業になる以上、ほぼ不可能だと思います」
「……くそっ」
思わず悪態を吐いてしまう。
あの瞬間は名案だと、火事場の馬鹿力ならぬ火事場のひらめきだと思ったのに。
九重を逃がせても、閉じ込めたままになっては意味がないじゃないか。
「すみません。私が仕組みについてもっと詳しく説明しておけば……」
「いや、使ったのは俺だ。俺の責任だよ」
「……違うわ。私が九重さんを見殺しにしようとしたからよ……」
「いや、さっきも言ったがフェルは間違ってない。俺の選択の結果だ」
「でも……」
堂々巡りの責任の負い合い。
どんよりとした空気が辺りを包む。
そんな時——背後で扉の開く音がした。
「——っ! 誠治君、フェル、戻ったのかい?」
振り返れば、見慣れない眼鏡をかけた会長さんの姿があった。
落ち着きを取り繕っているが、ここまで走ってきたのか、若干肩で息をしている様子だった。
「会長。はい、今しがた戻りました」
「そうか……その様子だと、色々あったみたいだね?」
「……」
言いながら、会長さんがソファへ腰を掛けた。
「辛いところ、申し訳ないけど、まずは報告を聞かせてくれないか?」
「……誠治、大丈夫?」
「……ああ。いつまでもこうしていても意味はないだろう。九重からもらった情報は活かさないと」
「そう、よね」
なんとか空元気を振り絞り、千里に答えてから奥歯を噛みしめる。
まだ、この手の中に彼女がいるのに。
なのに、助けられない。
無力な自分が憎くてたまらなかった。
四人でソファに腰を掛け、事の経緯を話す。
「まずは、さっきロスティには話したけど、消却の魔女は二人いたわ」
「……二人?」
「ええ。誠治の後輩である九重さんともう一人、デリートと名乗る長身の魔女よ。九重さんの話では彼女がギルドの長とも言っていたわね」
「デリート、ギルドの長……なるほど。どおりで私の遠見でも君たちの様子が見えなかったわけだ。そのデリートとやらは恐らく自身への魔法干渉を消却しているね」
「そんなこと、可能なんですか?」
「分からない。でも、消却の魔女ともなれば、出来てもおかしくはないと思う」
眼鏡を外しながら会長さんが言う。
そういえば、会長さんとロスティはこの機にギルド側の何かを探ろうとしていたとか言っていたけど、その遠見? とやらのことだったのだろうか。
どうやら失敗に終わってしまったようだが。
「それで? 他に得られた情報はあったかい?」
「そうね……あとは、九重さんが消却の魔女になった経緯の話だけど、どうやらデリートと名乗ったあの魔女に直接接触して、何らかの方法で魔女になったそうよ。おそらく会話や、何かへの答え、同意なんかがトリガーになっている魔力の元を持っているとみていいと思う」
「……なるほど。ギルド側も魔法使いを増やす手段は確保しているという訳だね」
「ええ。どれだけ使えるのかはわからないけど……。それから、ギルドの他のメンバーについては知らないってことだったわ」
「そうか……」
会長さんは深くソファに座り直し、そして、今度は千里から視線を俺へと移した。
「それで、誠治君。君はどうしてそんなに落ち込んでいるのかな?」
あえて、空気をこれ以上重くしないように、こういう聞き方をしてくれているのだろう。
でも、そんな気遣いにもうまく答えられないくらい、俺の内心はぐっちゃぐちゃだった。
「……自分が情けなくて」
わかっている。会長さんが聞きたいのはこんなことじゃない。
求められているのは状況の説明で、俺の反省なんかじゃない。
でも、一度吐き出してしまえば、もう止まれなかった。
「俺が、下手を打った。九重の様子がおかしいのなんて誰の目からも明らかだったのに。あいつの言葉をそのまま信じて、そして……」
手の中の巾着袋に視線を落とす。
くそっ! 俺は、どうすればよかったんだ。
「……状況は理解したよ。でも、そこに君の後輩の消却の魔女を回収することはできたんだろう?」
「……ああ。でも、開けられないんじゃ意味がない」
「ロスティ。君が開けられれば、中から誠治君の後輩を助けることはできるのかな?」
「え、あ、はい! 百パーセントと言い切ることは難しいですが、私が開けさえできれば、その瞬間に空間を解除して、助け出すことも可能だと思います。ただ、問題は私の魔力では開けられない、と言うだけで」
尻すぼみにテンションを下げていくロスティの説明。
でも、会長さんは違った。
「なんだ、なら簡単じゃないか」
「——!?」
「会長? どういうこと?」
「……フェル、君まで冷静さを失っているみたいだね。誠治君の特性を忘れたのかい?」
俺の、特性……?
——っ!
そこまで言われてようやく気が付く。
「あっ! そうよ! ロスティの魔力を増やせれば!」
俺たちの視線がロスティに集中した。
「……え、えぇぇぇっ!? それって、それって……!?!?」
「そうだよ。ロスティ、君も誠治君に魔力を増幅してもらえばいいんだ」
「そ、そ、そんなの……はれ——」
「破廉恥かもしれないけど、誠治君の後輩を助けるためだよ」
「うっ、うぅぅ、それは……そうかもですが……」
ロスティの瞳が迷いに揺れている。
だが——ハッとして思い直す。
これを強いるのはダメだろう。
嫌がる相手に無理やりなんて、人助けの建前があっても犯罪だ。
「会長さん。詰めるのはそこまでにしてください。いくら九重を助けるためでも、ロスティの望まないことはしたくありません。……いえ、出来ません」
「誠治君……。でも、それ以外に後輩を助ける方法はないよ?」
「……っ。分かってます。でも……倫理に反することは、九重も望まないと思います」
閉じ込めた本人である俺が、こんなことを言っていいのか。
一瞬の葛藤が脳裏を過るも、俺はそのまま口に出した。
「せ、誠治さんっ!!」
しかし、そんな俺の言葉を塗り替えるくらいの声量とともにロスティが立ち上がった。
「……そ、その……私……い、いや、じゃ、ない、です」
「ロスティ……無理はしなくていい。ありがとう、その気持ちだけで——」
「む、無理なんてしてないですっ! へ、部屋に行きましょう!」
「いや、ロスティ——」
制止しようと呼びかけるも、ロスティはそのまま執務室を出て行ってしまった。
「誠治。行かなきゃだめよ。どうするにしても、今、ロスティはすごく勇気を振り絞ってあなたを部屋に呼んだの。決めるのは、部屋に行ってからにしてあげて」
「フェル……」
「誠治君。君の言葉は尤もだった。ロスティには後で謝っておくよ。けど、今はフェルの言う通り、行ってあげてほしい。もちろん、罪悪感や葛藤、色々あると思う。でも、私の見た限りではロスティの言葉に嘘はなかったよ」
「会長さん……」
……二人に言われても、葛藤は消えない。
この状況では、どうやっても言わせてしまった感が強いからだ。
でも……。
「分かった」
俺の葛藤だけで、ロスティの勇気を無下にしてしまうのも違うと思った。
あそこまで言ってくれているのに、断っては失礼と言うものだ。
する、しないは別にしても、歩み寄ってくれた分、俺も歩み寄るべきだ。
二人に見送られながら、執務室を出る。
向かうのは、ロスティの部屋だ。
◇◇◇
扉の前で一度深呼吸。
そして、三度扉を叩いた。
「……ロスティ、俺だ。入ってもいいか?」
「……はい。入ってください」
一拍遅れて返ってきた返事に少し安堵を覚えながら、扉を開いた。
「お邪魔、します」
「ど、どうぞ」
ベッドの端にちょこんと腰かけたロスティが、隣に来るようにとマットレスを叩いた。
そんなロスティの隣に、人ひとり分の間隔を開けて腰を掛ける。
「……」
「……」
何とも言えない沈黙。
だが、その沈黙はロスティによって破られた。
「……せ、誠治さんは……私でも、その……興奮、出来ますか?」
少しずつ、こちらへ距離を詰めながら、上目遣いでロスティが聞いてくる。
「それは……まあ、出来ると思う、けど……」
「そう、ですか……なら、えいっ!」
俺が答えれば、ロスティは意を決したという様子で俺の腕に抱き着いてきた。
「ロスティ……」
「……今、無理するな、とか言ったら、怒ります。ほんとに、無理してないですから」
「……そう、か」
左腕の温かさをどうすればいいかわからず、それ以外を口にできない。
そんな俺にロスティは続ける。
「……ここだけの、ここだけの話ですよ?」
「ああ」
「フェルと会長が……その……羨ましかったんです」
「……」
「もちろん、魔力増幅のこともあります。ですが、それ以上に、二人とも、大して男性に慣れてないはずなのに、積極的で、その、夜は……。わ、私だってこんなちんちくりんですが、人並みに興味はあるんです。そ、そういうことにも、その……誠治さん、にも……」
そこで一度言葉を区切り、大きく深呼吸してさらに続けた。
「でも、私って、こんな性格ですから……こういうきっかけが無いと、こんな状況になることもあり得ないと思うんです。だから、後輩さんへの引け目や私に対するもの、色々あると思いますが……その、わ、私にも、そういうこと、教えてもらえませんか?」
ロスティがベッドの上で膝立ちになり、俺の頬に唇を合わせた。
「——!」
ここまで言わせて、断ることができるだろうか?
据え膳食わぬは男の恥と言うのなら、据え膳食われぬは女の恥。
そんな恥をロスティにかかせる訳にはいかない。
なにより、こんな状況なのに……確かに興奮を覚えてしまっている俺がいた。
「嫌になったら、いつでも言ってくれ」
「はい。誠治さん。一緒に後輩さんを助けましょう」
「……ああ、ありがとうロスティ」
♡◇◇
「ん♡……誠治さん。今なら、開けられるかもです」
頬を朱に染めながら、ロスティが俺の服の裾をチョンと掴んで言った。
「そうか……じゃあ、頼めるか?」
「はい……行きます」
ロスティが巾着袋の口に指を掛けた。
ゆっくりと力を掛けていく。
「——! 誠治さん! 受け止めてください!!」
そして、口が完全に開いた瞬間、ロスティが叫んだ。
俺は咄嗟にものをキャッチする体勢を取る。
するとその瞬間、袋の中からぐったりとした九重が飛び出してきた。
投稿遅れてすみません!
内容が内容だったので、かなり悩みました。
しっかりとロスティ自身の意志であることが伝わってくれていると幸いです。