うちに転移してきた魔女がエロゲ出身すぎる 作:匿名希望。
翌日昼過ぎ。
会長さんも含めたみんなで九重の部屋に集まり、この部屋で出来る程度の魔法の訓練をしたりして、過ごしていれば、魔女協会に俺たち以外の訪問者が表れた。
「あれ~? 会長? ロスティ? 引きこもり組の君たちが部屋にも執務室にもいないなんて、どこにいるのかな?」
廊下から、そんな声が聞こえて、俺は何事かと身構えるも、三人に焦った様子はなかった。
「……全く。来るなら連絡を寄越してほしいものだね」
「先生がこちらに来るのは珍しいですよね。会長、なにか連絡をしたんですか?」
「ああ。誠治君と九重君のことで少しね。でも、昨日の深夜にしたんだけど……まさか翌日にやってくるとは」
会長さんとロスティがそんなやり取りをしている。
「フェル、先生って?」
「魔法使い専門の医者のことよ。きっと九重さんを診るために来てくれたんだと思うわ」
「ああ、なるほど……往診してもらえるなら安心だな」
「……そうだといいけど」
「?」
言いながら、フェルが立ち上がり、部屋の扉を開けて顔を出した。
「日陰先生、こっちです」
「ん? おおっ! フェルじゃないか! なんだなんだ。出迎えもなしかと思えば、もしかしてほかのみんなもそこにいるのかな?」
「はい。ここが先生の目的であろう九重さんの部屋ですから」
「九重……はて?」
「消却の魔女ですよ」
「ほう。九重と言うのか、消却の魔女は」
「ええ、まあ、詳しい話は中で」
千里が知らない人を連れて入ってくる。
彼女が日陰先生と呼んだその人物は、何と言うか抜けている感じの雰囲気を纏っていた。
抜けている、と言うかだらっとしている、とでもいうのだろうか?
髪はよく言えばボーイッシュな感じだが、どちらかと言えば、手入れを面倒くさがって短く切り揃えているようなそんな印象。
こう言っては悪いが、想像していた専門医のイメージ像とは少し……いやかなり違っていた。
「へぇ? これはまた……懐かしい状態の患者だね」
「先生はこの状態をご存じなんですか?」
「もちろん。だって、二年前の消却の魔女による被害を受けた魔法使いたちを診たのも私だからね」
「その時は治ったんですか?」
「うーん、治った、治らないの基準をどこに置くかに寄るよね。まあ、少なくとも、魔力を消された後で以前のように魔法を使えた人間は一人もいなかったよ」
「……そうですか」
部屋に入って早々、九重の方に目を光らせた日陰先生。
その口元には奇妙な笑みが浮いていた。
「……おっと、初対面の人がいるのに、つい患者を優先してしまったよ。君が魔力の元になってしまったという永礼君、だったかな? 日陰村雨と言う。魔法使いの専門医をさせてもらっているよ。よろしく」
そんな笑みを隠さないままに、今度は俺の方を見て自己紹介をしてくる。
「ああ、どうも。ちょっと前から魔女協会でお世話になっている永礼誠治です。よろしくお願いします」
差し出された手を取って握手をする。
すると、日陰先生はそのまま俺の手を色々な角度から握ったり、触ったりし始めた。
「……あの?」
「……いやぁ、すまないね。患者以外の男性に触れるのは久しぶりだったから、つい興味深くて」
「は、はぁ……?」
興味深いと言われると、なんとなく意識してしまいそうなところだが、この人の触り方からはそういう欲求を刺激するような部分は一切感じられず、本当に自分の興味に素直なだけなのだろうという感覚ばかりが浮かんでくる。
やはり、魔法使いの専門医なんかをやっているくらいだから、相当な変人なのだろう。
「……あの、それより九重は大丈夫なんですか?」
まるで実験動物にされているかのような手つきで手を触られながら、俺は本題へと入る。
「ん? ああ、大丈夫か大丈夫じゃないかと言われれば大丈夫ではないだろうね。この子は魔力を綺麗さっぱり消されている。ん~そうだね。魔法使いにとって魔力って言うのは、ある種臓器みたいなものなのだよ。だから、それをいきなり体内から消されたら、まあ、大丈夫ではないよねって話さ」
「……そんな」
「ああ、でも、そんなに心配しないでほしい。だからと言って一生目を覚まさないとか、そういうわけではないから。ただ……」
「……ただ?」
「……いや、これはそこの九重さん? が目を覚ましてからにしよう。もう数日もしないうちに目を覚ますと思うよ」
「そうですか……」
九重が目を覚ますと聞いて安心を覚える半面、その直前の大丈夫ではないという発言がひどく気になる。
ただ、専門医が言う以上、その通りなのだろうし、俺に出来ることは何もない。
「うん。容体の急変とかもこの様子ならないだろうし、もう付きっ切りで面倒を見ていなくても大丈夫だよ。それより永礼くんのことが気になるね。ぜひ色々試させてほしい」
「……はぁ、まあ、俺に出来ることなら」
「誠治、あんまり安請け合いはするものじゃないわ。先生、それ、私も付き添っていいかしら?」
「……仕方ないな。いいよ。ってことで、会長、ロスティ、永礼君とフェルを借りていくよ」
「はぁ……いいけど、夕ご飯前には開放してあげてくれるかな?」
「もちろん。……あ、ロスティ、今回の往診で鍵が壊れたから新しいのを頼めるかな?」
「……えぇっ!? 壊したんですか!? ……わかりましたよ。……でも、一体どんな使い方をすれば私の鍵を壊せるんですか……」
鍵?
何だろう鍵って?
今回の往診で、って言うことはここに来るのに鍵が必要だったりするのだろうか。
そういえば、そもそもここって転移以外でどうやって来るんだろう?
そんな疑問が降って湧く。
「フェル、鍵ってなんだ?」
「……ああ、そういえば誠治は私の転移でしかここに来たことがないものね。ここはロスティの作った空間でしょう? だから、外から戻るときには鍵を使わないといけないの。本来は。その鍵の話ね」
「なるほど。……ロスティの魔法って改めてすごいんだな」
「そうね。ロスティがいなきゃ成立しないことが魔女協会には多すぎるわ」
「でも、フェルの転移も無法だな。鍵がなきゃ入れない空間に直接転移できるんだから」
「ま、まぁね? それほどでも、あるかも……」
照れる千里の横で、俺は内心、唇を嚙みしめていた。
みんなすごい固有魔法で羨ましい限りだ。
それに比べて、俺は……くそっ、思い出さないようにしていたのに。
ほんと何なんだよ絶倫って……。
「おーい、永礼くん、フェル。行くよ」
「あ、はい」
「今行くわ」
何とも言えない感情を胸に抱きながら、俺たちは九重の部屋を後にした。
◇◇◇
協会内の階段を降り、会長さんの執務室やキッチンダイニングのある階も通り過ぎると、まるで地下階のような雰囲気の階に出た。
……まあ、そもそもこの魔女協会には窓がないため、どこも地下階のような雰囲気なのだが。
やはりメインの階の下に来たという点が作用しているのだろうか?
そんな地下階を日陰先生は迷いなくずんずん進んでいき、一つの扉を開いた。
「……うーん、ここに来たのも久しぶりだね。ま、永礼くんにフェルも好きに掛けてくれ。まずは問診と行こうか」
そこはまさに診察室のような部屋で、数台のモニターに背後の棚には何やら薬品を思わせる瓶の数々が並んでいた。
ここに座ると、だらっとした雰囲気の日陰先生もその身に纏う白衣の力もあってかだいぶ医者に見える。
「さて、じゃあ色々質問をさせてもらうよ。まずは……そうだね。永礼くん、君が魔力の元になったのは何時かな?」
「……おそらく、半月前くらいですかね?」
「そうね。私が誠治の魔力を観測したのがそのくらいだったから」
「ふむ……。じゃあ、次。君が魔力の元として力を発揮する条件は?」
「……せ、性的興奮を伴う接触、です」
「なるほど。それは会長が見たのかな?」
「はい」
改め問われると答えにくいが、さすがは医者と言ったところか。
一切余計な反応は見せずに淡々と受け答えをしてくれる。
「もう、誰かに試したりは?」
「……それは、どうなるんでしょう?」
魔力の元と言うのは、人を魔法使いに変えられる存在のことを言う、はず。
そう考えれば、俺はまだ、誰も魔法使いにはしていない。
ただ、俺に備わった特性として魔力の増幅はほぼ毎日行っている。
これは、一体どういう判定になるのだろうか?
「先生、誠治は特性として、魔力を増幅させることが出来るのよ。だから、新しく魔法使いを生み出してはいないけど、魔力の増幅なら、私たちが体験済みよ」
なんて迷っていれば、俺に変わって千里が答えてくれた。
一切の迷いなく堂々としていてすごい。
「へぇ? 魔力を増幅ね……なるほど、つながりが見えてきたよ。それで、その力を狙った消却の魔女に狙われたんだね……あれ、そういえば、九重さんも消却の魔女なんじゃなかったかい?」
「そうね。なんでも消却の魔女の弟子? だったらしいわよ」
「へぇ、まあ、同じ固有魔法を持つ魔法使いがいるのは珍しいことじゃないけど……消却が二人いたとはね。……ま、その辺は今はいいか。それで、フェル。体験済みってことだけど、それは一通り済ませているって認識でいいのかい?」
「ええ」
「なるほど。……じゃあ、ロスティがびっくりしない程度に君の魔力を見せてもらえるかな?」
「分かったわ」
フェルが抑えていた魔力を解放する。
すると、ドッと部屋が何かで覆いこまれたかのような感覚を覚えた。
「ほう! 魔力量の少なさに悩んでいた君がこれほどの魔力を眉一つ動かさずに扱えるようになるとは……どうやら、本当に増幅の力も持っているみたいだね」
「……やっぱり昨晩のでかなり増えているわ」
驚き、興味深そうな顔をして辺りを見回す日陰先生の横で、千里が耳打ちしてくる。
「……そ、そうか。良かったな」
「ええ」
ただ、そんなことを言われてもどう反応していいかわからず、とりあえず頷いて誤魔化しておいた。千里は満足そうな表情をしていたので、きっと正解だったのだろう。
「……なるほど。永礼くんの魔力の元としての力はよくわかったよ。じゃあ次は永礼くんの魔法使いとしての力を見せてもらおうかな。とりあえずフェルみたいな感じで魔力を解放して見せてくれるかな?」
千里が魔力を引っ込めると、今度は俺の番になった。
そういえばあの日、初めて魔力の制御を教えてもらった日以来、魔力を解放していなかった。
いや、強化魔法の練習はしていたのだから解放はしていたのか?
その辺がいまいちまだよくわかっていないが、とりあえず意識的に魔力を解放するというのは久しぶりだった。
「じゃあ、いきますね」
「うん、頼むよ」
千里が言うには俺の魔力はありえないほどに大きい。
これが魔力の元のせいなのか、そもそも俺に才能があったのかはわからないが、ここで全解放は恐らくよくないだろう。
なるべく慎重に、ダムの放水口を緩めるような感覚で魔力を解放する。
……こんなものか?
目を閉じて、感覚的にはさっきの千里と同じくらいの魔力を解放してみる。
だが——
「——っ!? これは……!」
「せ、誠治! やりすぎよ! もういいから魔力を抑えて!」
どうやら、出力を絞り誤ったらしい。
日陰先生の顔は驚きと笑みに歪み、千里もだいぶ取り乱している。
「わ、分かった」
やっぱり自分ではそんなに大量に魔力を解放したつもりはなかったのだが、二人の反応的にかなりまずい量を解放してしまったのだと咄嗟に魔力を抑え込んだ。
「……まさか、これほどとはね。けど永礼くん、今の、本気じゃないんだろう?」
「……ええ、まぁ」
「誠治、あなた、私が魔力を抑える方法を教えた時より魔力が増えているわよ」
「……え?」
「……なるほど。どうやら、永礼くんの魔力を増幅させる力は相手の魔力を増幅させるとともに、自分の魔力も増幅させているみたいだね」
「……ほんと、あの日誠治に接触できたのが私で良かった。誠治がデリートに取り込まれていたら、って思うと、もう恐ろしくてたまらないわ」
千里が肩を抱いて、身を震わせる仕草をする。
そのレベルだったのか……。
と言うか、俺自身の魔力も増幅してる?
千里は感覚的に魔力の増幅が分かっているようだが、俺にはそんな実感は一切ない。
「……それで、永礼くん。こんな大きな魔力を持つ君の固有魔法は一体何なんだい?」
………………。
いや、うん、まあ、そうなるよな。
日陰先生から向けられる期待の籠った目が痛い。
「……その、絶倫、です」
「ん?」
「……絶倫です。魔力切れを起こさないそうで……」
「……なるほど。それは、すごく強力な固有魔法だね」
「で、ですよね……」
日陰先生の目から期待の色が消えていくのが分かった。
……わかってますよ。
魔力のわりに地味だし、固有魔法の段階では、こんなに大量な魔力を一切生かせませんからね。
と言うか、魔力が切れないってことは、本来俺に一以上の魔力っていらないんだよな……。
うわ、余計なことに気が付いてしまった。
……中にはマダ〇テみたいな全魔力を込めて発動する、みたいな魔法があるのだろうか?
そういう魔法があれば、最強になれそうだけど……いや、別に最強になりたいとは思わないけどさ。
固有魔法のことを考えるたびにネガティブな俺が顔出す。
「誠治、どうしてそんなに肩を落としてるのよ。実際あなたの魔法がすごいのは事実なのよ。また色々魔法を教えてあげるから」
「ああ……ありがとうフェル」
そんな俺を千里が慰めてくれた。
宝の持ち腐れだけど、腐っても宝は宝。
そうだよな。別に、この魔力量、もしくは固有魔法どっちかを活かせればいいんだ。
切り替えよう。
「……魔力切れを起こさない、か。そうなると……あれが使えるかもしれないね」
と、俺が自分に言い聞かせている横で、日陰先生の目が怪しく光っていた。