うちに転移してきた魔女がエロゲ出身すぎる 作:匿名希望
「な、何事ですかっ!?」
どたどたと足音が聞こえたかと思えば、次の瞬間には勢いよく部屋の扉が開かれ、ロスティが入ってくる。
どうやら普通に心配させてしまったようだ。
「あ、ロスティ。悪い、ちょっと日陰先生に魔力を見せてくれって言われて解放してみたら、出しすぎちまったみたいで」
「だ、出しすぎたって……誠治さん! そんな量じゃなかったですよ! ほんっとうに危ないので今後は気を付けてください!」
「悪い……」
「まあまあ、ロスティ。そう怒らないでくれ。私が頼んだことだ。それに、この地下はかなり厚く作られているだろう?」
「誠治さんの部屋ほどは厚くしてないですっ! 知らなかったとはいえ、先生も気を付けてください!」
「……すまなかったよ」
推定140センチに叱られる大人二人の図は中々見られないだろう。
「本当に反省してくださいよ! 全くもう……今日は実験とか、もうやめてくださいね。空間に歪が出来ていないかも確認しなきゃいけないんですから」
「ああ、分かったよ。……と、いう訳だ。悪かったね誠治君、フェル。続きはまた後日と言うことにしよう」
「そう、ですね」
「分かったわ。戻りましょう、誠治」
「ああ」
こうして結局、実験は俺の能力と固有魔法が被っていることが判明しただけで強制終了してしまった。
いや、まあ、もう切り替えてますけどね?
うん……。
「……おっと、そうだ誠治くん。君の固有魔法だけどね、もしかしたらすごいことに使えるかもしれないよ」
「……え?」
去り際、部屋を出る直前の俺の背中に日陰先生がそんな言葉を投げかけてきた。
「少し、君用に調整しなくちゃいけないけど、期待してもらって構わない。それじゃあ、私は数日ここに籠らせてもらうから、九重くんが目を覚ましたり、何かあれば呼びに来てくれたまえ」
「は、はぁ……分かりました」
期待、期待かぁ……。
喜ぶべきなのかもしれないが、正直この固有魔法の友好的な活用方法が本当にマダ○テくらいしか思いつかない。
そのせいで、どうにも素直に喜べなかった。
「誠治、行きましょ?」
「あ、おう」
何とも微妙なものを心中に抱えながら、俺たちは診察室を出るのだった。
◇◇◇
翌日、夜。
今日は会長さんこそ忙しそうにしていたが、デリートの件が片付いていない以上、外出するわけにもいかない俺たちは一日暇で、もう付きっ切りにしている必要はないと言われていた九重の様子を見守っていた。
「なんだか、九重さんの顔色が良くなってないかしら?」
「ああ、なんとなくそんな気がするよな」
夕食後、千里と二人で九重の部屋に戻ってきてはそんな会話をする。
「これなら目を覚ますのも本当にもうすぐそうね。そうだ、誠治、手とか握ってあげたら? ほら、漫画とかではあるじゃない。王子様のキスで目を覚ます~みたいなの」
「馬鹿言うなよ、そんな少女漫画的展開、現実にあってたまるか……」
軽口を叩き合いながらも、魔法があるくらいだしな……と思い直した俺は九重の手を握ってみる。
「……ほらな、やっぱりそんなことにならないだろ?」
「ふふっ、そうね。でも、また少し——」
言いかけて、千里が言葉を止める。
その目は九重にくぎ付けにされているようだった。
「千里?」
不思議に思いながら、俺も九重の方に目を向ける。
すると——
「——ぱい。せ——」
わずかな物音でも掻き消えそうなほどにごく小さく、それこそ蚊の鳴くような声。
だが確かに、九重が何かを喋っていた。
「せ、誠治!」
「ああ、千里、日陰先生を呼んできてくれ!」
「ええ!」
千里は咄嗟に立ち上がり、飛び出すように部屋を出ていく。
俺はその様子を横目に見送りながら、九重に声を掛けた。
「九重! 九重! 目が覚めたのか?」
「せん——い。なま、え……」
「なんだ? なまえ……名前か? 名前を呼べばいいのか?」
俺が問い返せば、これまたごくわずかに九重の首が動いた。
「分かった。悠月、何か、ほしいものはあるか? 今用意できるものなら俺が持ってくるが……」
「……ふく、ぬがせて、ください」
「服? ……苦しいのか?」
再び小さな首肯。
苦しいとなれば、断るわけにはいかない。
「じゃあ、脱がせるからな?」
布団をめくり、九重の服のボタンへ手を掛ける。
「——んぁっ」
パチパチと一つずつ、外していけば、それに呼応するように九重の息が跳ねた。
すべてを外し終えると、今度は握ったままの片手を九重の手が誘導するように動かしていく。
「……九重?」
「……な、まえ」
「……ああ、そうだったな。悠月、この手は?」
俺の確認に答えるより先に、九重が自身の胸の上でその動きを止めた。
ただ、動きは止めていても、中々の力で俺の手を自身の胸の中に埋めようと引き込んでいる。
「ゆ、悠月?」
「……そこに、んっ。手があると……安心——んぅ——する、んです」
「……そ、そうか」
そう言われてしまえば、無理に引きはがすわけにもいかず、俺は自身の左手を悠月の好きなようにさせた。
「んっ、せんぱ——」
……好きなように、させた。
「誠治! 連れてきたわっ、よ?」
そうこうしているうちに肩で息をした千里が部屋に戻ってくる。
だが、その必死の顔色はこの状況を見るなり、般若のような怒りの顔に変わっていく。
「……誠治? あなた、何をしているのかしら? 私に先生を呼びに行かせたのもそれが狙いなの? まさかあなたが病床に伏せる女の子を手籠めにしようとするような人間だとは思わなかったわ」
「ま、待ってくれ。違う、これは違うんだ。九重が苦しいって言うから——」
「んっ……せんぱい……さっきみたいに、名前で呼んでください」
「……確信犯ね」
「ち、違うって!」
「違うって言うなら、まずはその手を離したらどう? この変態!」
「なぁっ!?」
九重に掴まれているのとは反対の、手持無沙汰にしていた右手が強く引かれる。
だが、どういう訳か、ここに来て、九重に掴まれている手にも強い力が加わった。
「離しなさいよ! 昨日の夜あれだけしたのに、まだ足りなかったの?」
「だから、これは違くて——」
「む……せんぱい、下着もいいです、よ?」
「ゆ、悠月。お前、さては起きてるんだな? 起きてるだろ!」
「離しなさい」「せんぱい」
両側に引かれ、まるで綱引きの綱のようになる。
誰か、誰か何とかしてくれ……。
「……これはこれは、ずいぶんと面白いことになっているようだね」
そんな俺の願いが通じたのか、ゆっくりと歩いてきた様子の日陰先生が部屋に顔を覗かせた。
「ひ、日陰先生。この状況をなんとかしてください」
「うーん、私、力って弱いんだよね」
「そ、そこを何とか——」
Sっ気のある笑みを浮かべて、ニヨニヨとこちらを見回す日陰先生。
「ひ、日陰先生!」
「ふふっ、分かったよ」
さすがに耐えかねて、もう一度名前を呼べば、仕方なさそうに立ち上がり、こう言った。
「フェル、九重くんをしっかりと見てみるんだ。もう、目を覚ましてる。おそらく、誠治くんは九重くんの言われた通りにしただけだと思うよ?」
「先生、ですが……」
言いながら、九重に目を向ける千里。
千里と九重の目がばっちりと合う。
「「………………」」
「あ、あんた……」
「痴女さんは相変わらず、変態的な恰好をしているんですね」
「うっさい! と言うかいつの間に……」
「痴女さんが先輩に手を握ってみたら? と提案していた時ですね。ふふっ、おかげさまでいい思いが出来ました」
「なっ!? 心配して先生を呼んできてあげたのに」
「心配してくれたんですか? ありがとうございますぅ」
「……元後輩の分際で」
「ふん! 痴女さんだってただの痴女の癖に」
バチバチと火花を散らしあう千里と九重。
喧嘩もやめてほしいけど、とりあえず、俺を引っ張り合うのをやめてほしい。
「ふむ、この調子なら、魔力器官以外は全く問題なさそうだね。以前もだったけど消却の魔女はその辺り甘いのか、それとも魔力器官にしか作用させられないのか……全く、興味が尽きないね」
日陰先生も、そんな冷静に分析してないで、二人を諫めたなら、しっかり最後まで諫めてほしい。
しかし、そんな俺の願いは届かず、結局、千里と九重の睨み合いに挟まれたまま、数分間気の休まらない思いをし続けた。
「……さて、じゃあ、問診をしていくよ。少しでも違和感があったら、隠さず伝えてくれるかな?」
「分かりました」
しばらくして、ようやく解放された俺をよそに、日陰先生は九重への問診を始めていた。
その首には医者らしく聴診器が下げられており、そのせいで、九重はまだ服のボタンを直していない。
視線のやり場と隣にいる千里からの追求の視線が痛いので早くしまってほしいのだが……。
「……じゃあ、最後、魔法は使えるかな?」
しばらく問答が続き、日陰先生が最後の質問をした。
「魔法は……」
九重がヘッドボードに預けていた体をゆっくりと起こしながら手を握ったり開いたりする。
「……使えませんね。まるで、魔法が使えるようになる前の身体に戻ったみたいです」
「……なるほど。九重くんはそっちのタイプだったか」
「そっち?」
「ああ。消却の魔女に魔力を奪われた人はね、まるっきり魔法が使えなくなる人と、発動の感覚はあるけど魔法が出ない、みたいになる人に別れるんだよ。キミも消却の魔女だろうに、知らなかったのかい?」
「はい……あまり人には使わなかったですし……確認とかはわざわざしたことがなかったです」
「ふむ……まあ、たしかに消却の魔法は決まれば一撃必殺みたいなところはあるからね」
日陰先生は興味深げに九重を見回す。
その瞳は何かを捉えているような、猛禽類の如き光を宿していた。
そんな瞳に見つめられた緊張ゆえか九重の体に力がこもる。
「さて、ここからは先の話になるんだけど。九重くん、キミはまた魔法を使いたいと思うかい?」
「……また、使えるようになるんですか?」
「ああ、幸運なことに魔力の元があるからね。いや、いると言った方が正しいかな?」
日陰先生の瞳が今度は俺を射抜いた。
「誠治くん。私はね、興味があるんだよ。元魔法使いだった九重くんが再び魔法使いになった時、同じ魔法が固有魔法となるのか、それともまた別の魔法を得るのか」
そこに浮かんでいるのはマッドな笑み。
変人的な……とか、そんな程度では到底片付けられない、狂気にも似た笑みを携えていた。
「……これが実験の続きですか?」
「まあ、そうとも言うね。それからキミが私の思っている魔法が使えるかどうかの判定でもある」
「そうですか……」
どうするべきか。
そもそも俺の一存で決めていいことなのかわからない。
九重はすでに消却の魔女、デリートから破門を言い渡されていたし、現に魔力も消し去られている。
だが、それでも一度は敵対関係にあった存在だ。
そんな九重にもう一度魔法を与えていいものなのか。
加えて、俺が魔力の元として、相手を魔法使いにする。
それはつまり、性的興奮を伴う接触が必要なわけで……。
今一度、九重へ視線を向ける。
「九重……お前は俺たちの味方か?」
「もう、彼女の決定に従う立場にはないですから。私は先輩たちの味方になれます」
「もう一度、魔法を使いたいと思うか?」
「先輩を守る力はほしい、です」
俺が九重に質問をしていれば、静かに千里と日陰先生は部屋の外へ出ていった。
九重が再び魔女になることを咎める必要はないと判断したのだろう。
「……九重」
「名前で、悠月って呼んでください」
「……分かった。悠月、俺が魔力の元としての力を発動する条件は知っているか?」
「……いえ」
若干、頬を赤らめながら、目線を逸らす。
知らないが、察しはついているってところか?
「そうか。……まあ、端的に言えば、性的興奮を伴う接触が俺の条件なんだ」
「そ、そうですか……じゃあ」
悠月が診察が終わって留めていたボタンに手を掛けようとする。
俺はそれを止めながら、続けた。
「それでも、魔女に戻りたいと思うのか? お前は前に言ってたよな? 魔法なんて使えない方がいいって」
「それは……言いましたけど。その理由は先輩も知っての通り、私に魔法を与えたのがあの女だったからです。誰かに指示されるのではなく、自分の好きに動ける魔女になら、なってもいいと思います。……それに、先輩を守りたいのは嘘偽りのない私の本心ですから」
「……分かった」
九重の手を離す。
するとボタンに向かっていたその手は行く先を変え、今度は俺の首へと巻き付いた。
「先輩、今日は絶対逃がしませんから。あの時みたいに、学生だから、なんて言わせませんよ」
耳元で囁かれるそんな言葉。
少し前に悠月と同棲していた時を思い出させる一言だった。
「分かってるよ。でも、病み上がりだからな。何かあったらすぐに言えよ」
「はい。分かってます」
これ以上ない、とでも言うような笑みを浮かべ、そっと目を閉じる悠月。
影が重なり、一つになっていく。
♡♡♡ ——枢木・ライアフェルト・千里視点——
「黙って出てきたけど、いいのかい?」
九重さんの部屋を出て、私の部屋までついてきた日陰先生がおもむろにそんなことを聞いてくる。
「いいも何も、私に止める権利はないですし。九重さんが誠治を裏切るとも思えませんから」
「ふぅん……その割には、機嫌が悪そうだ」
「……そうですか?」
「うん。ふふっ、悩める乙女は大変だね」
「……そんなのじゃないですから。……それより先生、誠治に使わせようとしている魔法ってどんな魔法なんですか?」
からかうような先生の視線に耐えかねて、私は話題を変えた。
「あー、それはね、フェルも知ってると思うけど、あの希少魔法だよ」
「希少魔法?」
「うん、回復魔法。治療魔法と言ってもいいかもしれないね。誠治君の魔力量に固有魔法の魔力切れを起こさないという特性があれば、使い手の安否を気にせずに回復魔法を行使できるんじゃないか、と思ってね」
「回復魔法……確かに、誠治の特性とは相性が良さそうですが……」
「まあ、心配する気持ちもわかるよ。だって回復魔法は……一歩間違えば、相手を廃人にもしてしまえるからね」
軽い調子で言ってみせる先生に、私はああ、この人はこういう人だった、と改めて思い直すのだった。