うちに転移してきた魔女がエロゲ出身すぎる 作:匿名希望
「どうだ? 魔法は使えるようになったか?」
「はぁっ♡ はぁ♡ ……はい、多分」
肩で息をする九重がこちらに寄りかかりながら頷く。
「固有魔法はどうなった?」
「……消却は使えそうですが、固有魔法じゃなさそうです。うーん」
こめかみを両手でぐりぐりと押しながらうめく。
そして——
「……! わかりました! 私の新しい固有魔法は……魅了です!」
「魅了? それって……」
「はい。誘惑したり、そういうことが出来るみたいです」
「なるほどな……」
「試してみてもいいですか? 先輩?」
「試すって俺にか?」
「はい。まあ、返事は待ちませんけどね、えいっ!」
「あ、おいっ!」
俺が止める暇もなく、九重が魔法を発動した……らしい。
だが……
「……九重、今ほんとに魔法使ったか?」
「……え、はい。使いましたけど……効いてないですか?」
「……ああ、多分」
「な、なんで!? 間違いなく使ったのに!」
「……まあ、いいんじゃないか。きっと、何かの役には立つだろ」
「先輩を誘惑出来なきゃ何の意味もないですよこんな魔法!」
今一度自身を確認してみるが、特に変わったところは見受けられない。
気分も、欲情するようなことにはなっていなかった。
「うぅ……せっかく先輩ともう一回戦、したかったのに」
「病み上がりなんだから、今日はもうしないぞ。一応先生に診てもらおう。呼んでくるから服着とけ」
「……はぁい」
肩を落とす九重に服を渡し、自分もサッと着替えて、部屋を出る。
すると、ちょうど千里の部屋から日陰先生が出てきたところだった。
「おや、誠治くん。もう終わったのかい?」
「……はい。新しい固有魔法が使えるようになったそうなので、先生に診てもらおうと思いまして」
「なるほど、そうなったんだね。分かった。じゃあ、少し様子を診にいくよ」
千里を連れて三人で部屋に戻る。
一分程度しか離れていなかったが、九重はしっかりと服を着なおしていた。
「それで? 九重くんはどんな魔法が固有魔法になったんだい?」
「魅了の魔法、でした。特に異性を誘惑したりできるようなんですが……」
「誠治くんには効かなかったかい?」
「……はい」
「まあ、あれだけの魔力量があれば、並大抵の魔法は無力化できるよね」
日陰先生の言葉に九重が肩を落とす。
「魔法って無力化できるのか?」
その姿を見ながら、俺は隣の千里に聞いた。
「ええ、まあ、理論上はって話だったんだけど。誠治クラスの魔力量になると本当に起きるようね」
「理論って言うのは?」
「うーん、まあ、大雑把に言えば、魔力量を比べて明らかに力に開きがあるときに、無条件で効かなくなる、みたいな? そんな感じよ」
「なるほど? でも、俺フェルの転移魔法は効くよな?」
「それは……確かにそうね? なんでかしら?」
どうやら千里もわからないらしい。
じゃあ、お手上げか、なんて思っていれば、日陰先生がこちらを振り返った。
「それは、魔法を受ける側、つまり、今の話なら誠治くんが魔法を受け入れるかどうかを無意識化で判断しているんだよ。誠治くんは最初からフェルのことをちゃんと信頼してたってことだね」
「む……」
「ふふっ、そうだったんだ。誠治」
「……そりゃあの時は目の前で魔法を見せられたし、そもそも自宅に転移してきたところを見せられた後だったからな。信じない方が難しいだろ」
「まあ、そうね。でも、それに比べて、元後輩ちゃんは……ふふふっ可哀そうに」
「……喧嘩売ってるんですか?」
「いいえ、違うわよ?」
ああ、また始まってしまった。
どうにも千里と九重は犬猿の仲と言うか、馬が合わないというか、そんな感じらしい。
隙あらばマウント合戦を始めようとする。
「まあ、転移と魅了じゃ条件も違うからね」
そんなマウント合戦に火つけ役の日陰先生が水をかける。
この人も場を乱したいのか、そうじゃないのかよくわからないな……。
「それで日陰先生、九重はどうなんですか? もう大丈夫なんです?」
とは言え、話の流れが変わったのは確か。
この機を逃すまいと、俺は話を変えにかかる。
「うん。そうだね。私としては消却の魔女の実験もしてみたかったんだけど仕方がない。もう普通に生活して大丈夫だよ」
「そうですか。良かったな九重」
存外あっさりとした結末だが、まあ、亡くなったものが新しくなって戻ったのだから、それはそうか。
「はい! ……ですが、私はこれからどうすればいいんでしょう?」
なんて考えていれば、九重の顔は一変して、今度は不安の色がにじむ。
確かに、九重は今後どうすべきなのだろうか?
デリートの動きが分からない以上、このままここで帰すわけにもいかないだろうし……。
「……会長に言って、協会の一員になればいいんじゃない?」
すると、先ほどまでマウント合戦に興じていた千里がそう言った。
「え? 私が、ですか?」
「他に誰がいるのよ? と言うか、誠治を守りたいんだったら、そうしなきゃダメでしょ。誠治は協会の一員なんだから」
「確かに、痴……千里さんの言う通りですね」
「……ここではフェルと呼んで。ルールだから」
「そうでしたか……分かりましたフェルさん」
なんだか、友情の芽生えを目にしたような、そんな感覚がある。
このまま二人には仲良くなってほしいものだが……。
「さて、じゃあ、九重くんの加入なんかについてはフェルに任せるよ。誠治くんは私についてきてくれるかい?」
「え? 今度は何ですか?」
「この間言っただろう? 君の固有魔法を活かす魔法を教えてあげようと思ってね」
「あ、そういえば、九重のことも実験だったんですっけ?」
「そうだね。まあ、期待通りの結果、という訳ではなかったんだけど……きっと大丈夫だろうから」
「そんな感じでほんとに大丈夫なんですか?」
「もちろん。さ、行こうか」
千里の方に助けを求めるが、心配そうな視線こそ向けてくるものの、それ以上は動かない。
そのまま俺は診察室へ連行されていった。
◇◇◇
「よし、じゃあ誠治くんの固有魔法、絶倫、を活かす魔法を教えるよ」
診察室に入って、椅子に掛けた途端、何の前振りもなく日陰先生は切り出した。
「は、はい。でも、一体どうやって生かすんですか? 大量の魔力を継続的に使い続けないと行使できない魔法があるとか?」
「おお、すごいね。その通りだよ」
マダ〇テをイメージしながら冗談めかして聞いてみれば、なんと正解だったらしい。
日陰先生が少し驚いたような顔をしている。
「え? ほんとに?」
「そうだよ。この魔法はずっと熱望されていたんだけどね、中々使用に耐えうる人材がいなくてね。そのせいで私も研究者だけでなく医者までやらされる羽目になってるんだよ」
……? マダ〇テで医療問題が解決するのか?
消却の魔女もびっくりなくらい直接的な方法で対象を消し去ってしまえば、治療の必要がないとか、そういうこと?
いや、そんな魔法使いにはなりたくないんですけど……。
「まあ、この魔法は難しいから、かなり練習を積んでもらうことになるけどね。そうじゃないと、相手を廃人にさせちゃうから……」
「廃人? 影も形もなく消し去るのではなく?」
「……ん? 待ちたまえ誠治くん。キミは一体どんな魔法をイメージしているんだい?」
「え、そりゃ、ドラ〇エのマダ〇テみたいな……」
「……ふっ、はっはっはっ! 違うよ! そんな大規模破壊魔法じゃない。もはや正反対と言ってもいいくらいだよ」
正反対?
その言葉の意味するところはよくわからないが、どうやらマダ〇テと言うのは俺の勘違いだったらしい。
じゃあ、一体どんな魔法なんだ。
大量の魔力を使い続けないといけない魔法って。
「すまない。明言していない私も悪かったね。君に使えるようになってもらいたい魔法はいわゆる回復魔法ってやつだよ」
「回復魔法? それってあの……」
「ああ、そうだよ。HPを回復させるようなあれだ」
「……なるほど? でも、そんな回復魔法と廃人にどんな関連が?」
「回復魔法と言っても、現実の人間の体力は数字じゃないだろう? 傷を再生するのにもエネルギーを使っているわけだ。そんなエネルギーの代わりを担うのが回復魔法なんだけど……そうだな。誠治くん、成人男性の一日の摂取カロリーの目安は知ってるかな?」
「確か2200キロカロリーとかでしたっけ?」
「うん、そのくらいだね。そんな中でいきなり30000キロカロリーを無理やり接種させられたらどうなる?」
「どうなる……かは分からないですけど、きついのは確かですね」
「うん、死ぬからね。まあ、つまりそういうことさ。許容範囲を超えた回復、いわばオーバーヒールをしてしまうと、相手を廃人にしてしまう魔法なんだよ回復魔法ってのはね」
「なるほど……」
つまり、回復魔法は大量の魔力消費を継続的にし続けるし、許容範囲を見誤れば相手を廃人にしてしまう、と。
……確かに前者の条件は俺でクリアできるかもしれないけど、そんな怖い魔法使いたくないんだが……。
「ま、そういうわけで、回復魔法は誠治くんにぴったりだろう?」
「いやいや、この間ロスティに怒られたこと忘れたんですか? 俺がやったら端から廃人にさせちゃいますよ」
「……だから、魔力量を調節する訓練をしてもらうんだろう? それとも、自分の才能を活かせなくていいのかい?」
「……いや、それは」
「それに、この魔法が使えるようになれば、キミも守られるだけの存在ではなくなるんだよ? キミを守ってくれる仲間を癒すことが出来る。それに……最終手段だけど、キミが抵抗する切り札にもなるんだよ?」
「……」
確かに、日陰先生の言っていることは尤もだ。
先日デリートの襲撃に遭った際は偶然やら奇跡のおかげで、何も失わずに済んだ。
だが、あの時、デリートが本気で俺の確保に動いていた場合、千里も九重と同じように魔力を消され、転移がなくなり、逃げ場のない俺は成すすべなく捕まっていただろう。
そんな俺に仲間の支援をする手段と、最悪の事態を防ぐための切り札が出来る。
断る理由はない……。
「分かりました。回復魔法を教えて下さい」
覚悟を決める。
俺もいつまでも守ってもらうだけの存在ではいられない。
もちろん、どうしようもない状態に陥らない限り、廃人にしてしまうような魔法はデリートが相手だろうと使うつもりはない。
あくまで目的は支援と治療を行える回復手段としての回復魔法を覚えることだ。
「その覚悟やよし。じゃあ、回復魔法を教えるけど、私も使えるわけじゃないから、感覚は自分で掴んでね?」
「……え?」
「そりゃそうだろう? この魔法はそもそも誠治くんほどの魔力量がないと発動さえできないんだから」
「……それで、本当に覚えられるんですか?」
「もちろん。だって、そうじゃないと魔法は使えるようにならないだろう? 魔法については明確に卵より鶏が先に生まれているんだから」
……確かに。固有魔法の存在を考えればその通りだが……。
「聞いたところによると、回復魔法のコツは肉体を魔力で補う感覚だそうだよ。魔力を体の部位に変質させるような、そんな感覚だと聞いた」
「……変質させる」
魔力の解放はせずに、感覚の中の魔力で自身の身体を作ってみる。
大雑把な型取りから、爪や髪の毛、細かい体毛までを意識してみる。
すると、まるで鏡を見たかのような、自分とそっくりの魔力人形をイメージすることが出来た。
……あとはこれを欠損した部位に補うような感覚なのだろうか?
「日陰先生、この部屋にカッターか何かありませんか?」
「……誠治くん。まさかとは思うけど、自分の身体で回復魔法を試そうとしているのかい?」
「……はい。だって、それ以外に方法はないでしょう? 自分の魔力ならオーバーヒールになることもないでしょうし……」
「いや、それは分からないだろう……とにかく、回復魔法を使うのは魔力の出力を制御できるようになってからにしてくれ。全く、冷や汗をかかせないでくれたまえ。私も大概マッドサイエンティストな自覚はあるのだが、キミは天然サイコパスだね」
日陰先生が珍しく青い顔をしながら止めてくる。
「そこまで言いますか……」
「言うとも。キミがここで廃人になりでもしたら、私はフェルにもロスティにも会長にも九重くんにもボコボコにされたうえで打ち首だよ」
打ち首って、そんな処刑みたいな……。
「いや、なにもそこまで……」
「されるよ。キミ、意外と鈍そうだから言っておくけど、ハーレムの道を進み始めた以上、誰かに入れ込んだりするのはダメだよ? 女の嫉妬は簡単に地獄を生むからね」
「………………」
急に真剣な顔をして、怖いことを言う日陰先生。
しかし、身に覚えがないわけではなかった。
千里はまだ、嫉妬を表に出してくれるから良いものの、会長さんは結局爆発して、風呂に乗り込んでくることになった。
あの程度で済んだから良かったものの、確かに、そんなバカな、なんて笑い飛ばせる話ではない。
「くれぐれも、自分と、周りの女の子たちを大切にね」
「はい」
この人に冷静に諭されるからこそ、本当にそうしようと思える。
迂闊な行動はとらないようにしなくては。
「……よし、じゃあ、魔力の出力を絞る訓練から始めようか。まずは出口を作るところから、指先なんかからちょろちょろ出るようなイメージで魔力を解放してみてくれたまえ」
「……こうですか?」
「……キミのちょろちょろは、ジェット水流なのかい?」
「………………」
俺の回復魔法までの道のりは長そうだった。