うちに転移してきた魔女がエロゲ出身すぎる 作:匿名希望
準備を終えた俺たちは千里の転移で日陰先生の病院へと向かった。
「ここが……?」
九重が困惑したような声で呟いた。
だが、その困惑には俺も同意見だった。
「ここって、かなり有名な大学病院じゃないのか?」
「そうね。ロスティみたいな空間を作る力は特殊で貴重だから。普通にここの中にあるのよ」
ここの中に……ある?
俺の疑問に千里が含みのある言い方で答える。
しかし、それ以上の問答は時間の無駄だとでも言うように、千里は正面の入口から病院の中に入っていった。
病院に入ると、受付件待合になっているエントランスには一般の患者であろう人々が多くみられた。
「……先輩、ほんとにここでいいんですかね?」
「……だよな。でも……」
小声で九重と話していれば、一人で一番端の受付に顔を出し、入館証のような何かを持って千里が戻ってくる。
「じゃあ、行くわよ」
「行くって?」
「ここはここでも、特別な場所があるのよ。ついてきて」
俺と九重は頭上に? を浮かべたまま、もらった入館証を首から下げ、千里の後をついて歩き出す。
診察を待つ患者を通り過ぎて、二階、三階と上がれば、そこは入院病棟になっており、点滴台などを押しながら歩く入院患者が目につくようになる。
そんな患者に紛れ込むように、病棟の廊下をぐるっと一周して、一度階段を降り、再び上がりなおすと……途端に視界が切り替わり、院内の雰囲気もガラッと変わった。
「……どういうことだ?」
「簡単に言えば、秘密基地、みたいなものかしら? この入館証と決まった順路を歩くことでここに入れるの。さすがに一般病棟と一緒には出来ないから」
「ですが、魔法的な何かは感じませんでしたが……」
「そればかりは私にもわからないわね。でも、おそらく魔法じゃなくて魔道具が関係しているのだと思うけど……。まあ、そんなことはいいわ。日陰先生の診察室に行きましょう」
急に人影一つ見かけなくなった病棟を歩いてすぐにあった診察室の扉を開ける。
すると——
「これは……」
「みんな魔法使い!?」
その中は診察室と言うより、巨大な共同病室のようになっており、左右に並べられたベッドに魔法使い、魔女たちが寝かされていた。
「デリートの被害に遭ったのは3人と聞いていたけど、それ以外の負傷者もいるみたいね」
「これはみんな協会所属の魔法使いなのか?」
「……そうね。何人か顔見知りもいるわ。もしかしたら流れの魔法使いが混ざっているかもしれないけど、今回は協会が狙われているようだから——」
「フェルに誠治君、九重君も来てくれたようだね」
千里の言葉を遮るように、奥のカーテンから日陰先生が顔を出す。
「日陰先生、この状況は……」
「まあ、見ての通りだよ。デリートにやられた患者以外にもこれだけ行動不能になる魔法使いが出ている。ギルドが勝負を掛けに来ているね」
「日陰先生以外に医者はいないんですか?」
「残念ながら、私のような奇特な存在は魔法使いの中では少ないからね。でも、一人で同時に10人以上の患者を診るというのは……まあ無理だから、君たちに来てもらったんだよ」
日陰先生は言いながら、俺の肩に手を置く。
「誠治君、回復魔法の首尾はどうかな?」
「……出力制御については、ほぼ完璧に近い、と思います」
「そうか。じゃあすぐに実践と行こう。ここにいるのは昨日中に運びこまれた患者なんだ。襲撃がまだ続いている以上、患者の数は間違いなくまだ増える。でも、ここのベッドの数は限られているからね」
「わ、かりました……」
覚悟は昨日決めた。
それでも、俺のミスで人を廃人にしてしまうような魔法を行使しなければならない責任に手が震える。
「誠治」「先輩」
そんな俺の両手を二人が掴んでくれた。
「大丈夫よ。これまでの練習通りに魔法を使うだけ、ね?」
「先輩は仕事めっちゃ出来る人だったんですから、大丈夫です!」
冷えた指先から、二人の熱が伝わってくる。
……よし。
「ありがとう二人とも。今なら、いける気がする」
「大丈夫かな? じゃあ、早速こっちから、頼むよ」
「分かりました」
「任せたわよ」
「頑張ってください」
背中に二人の応援を受けながら、日陰先生について一つ目のカーテンの中に入る。
ベッドに寝かされていたのは大柄な男性だった。
「彼は見ての通り、腕を反対側にへし折られている……彼も中々腕のいい魔法使いなんだけどね。相手がかなり無理をした肉体強化の魔法で襲ってきていたようだよ」
慣れた口調で話す日陰先生だが、怪我人に慣れていない俺にとってはかなり凄惨な姿だった。
絶対に曲がってはならない角度に折れた腕は、まるで歪な木の枝のように見えた。
「じゃあ、初めてくれ。一人の回復を確認したら、私は別の患者を診させてもらうから」
「分かりました。行きます」
気を失っている男の全身を捉え、治療する部位、腕を強く意識する。
骨や健、筋繊維、血管など、イメージ出来る限りの腕のパーツを、自身の魔法の中に組み上げていく。
そして、組みあがったこれを……。
回復魔法を発動する前に最後の深呼吸。
……いける。
俺は気を失ったままの男の身体にそっと触れた。
すると、男の身体が金色の魔力に包まれる。
「ほぉ……さすがだよ誠治君。あとは治療が終わるまで、その状態を維持してくれ。完了したら、どんどん隣へ移って治療を。頼めるかな?」
「はい。任せてください!」
どうやら、上手くいったようだ。
少しずつ、男の腕があるべき角度へ戻っていく。
険しかった顔も段々と穏やかなものに変わっていった。
そんな姿を見届けて、日陰先生は先にカーテンを出る。
俺はそれを耳で感じながら、さらに治療へ集中した。
◇◇◇ ——九重悠月視点——
先輩の魔法が発動したことはすぐに分かった。
温かい光があふれるように、カーテンの隙間から漏れ出てきて、その柔らかい感覚に魔法を受けていない私たちも包まれたから。
「これが、回復魔法……すごいわね」
「さすがは先輩。ぶっつけ本番でも完璧ですね」
そんなことを言いながら、思わずフェルさんとハイタッチなんかをしてしまう。
ハッと気が付いて、お互い微妙な表情をした後で、笑い合う。
「これで、さらに先輩を渡してしまう訳にはいかなくなりましたね」
「そうね。……でも、協会側にこれだけの被害が出ているということは、ギルド側も大変なことになていそうね」
「そうですね。でも、おそらくギルドは魔法使いを使い捨てにしていますから。不必要となれば、魔力を消し去ってしまえばいいわけですし」
「……確かにね。使うだけ使って、何かあった時の反逆の種を消してしまえる。最悪なやり方だけど、合理的ね」
先輩の入ったカーテンの中から、日陰先生が出てきた。
どうやら先輩はもう一人で大丈夫らしい。
「そういえば、デリートってどんな人なの? あなた一応弟子だったんでしょう?」
先輩のいるカーテンの方を見たままフェルさんが聞いてきた。
「どんな人……ですか。そうですね、よく分からない、と言うのが答えですかね……。名前も年齢も私は彼女について何も知りません。でも、ひたすらに魔力の元に執着していました」
「よく、そんな人の弟子で居たわね……」
「まあ、今考えれば私もそう思いますが、環境が悪かったですから。素直に先輩のところに戻っていれば……いえ、過ぎた話ですね」
もちろん後悔もあるが、あの時彼女についていったおかげで、今はこうして先輩の横に立てているのだから、不幸中の幸いとはまさにこのことだろう。
「……あなたも誠治と同棲していたんだったわね。いまいち経緯が分からないのだけど、帰るところがなかったあなたを誠治が拾ってくれたってことであってる?」
「はい。最初はもうどうなってもいいや、と思って泊めてもらったんですが、先輩、人が良すぎて、平日の朝には私が起きる前に部屋を出てたりしたんですよ? 不用心とか、そういうレベルじゃないですよね」
「ふふっ、でも、誠治らしいかも。だって、私がいきなり誠治の部屋に転移したときも、取り乱してこそいたけど結局すぐに私のことを信じてくれたし」
「ほんとお人好しですよね。魔法も、自分から提案したわけではないですが、回復魔法って。まあ、似合ってはいますけど」
「そうよね。私も合ってると思うわ」
そんな会話をしていれば、先輩のいるカーテンの奥から金色の光が消える。
そして、先輩が出てきた。
「先輩、終わったんですか?」
「ああ、とりあえず一人目は完了だろう」
「もう驚かないけど、早いのね」
「まあ、魔力量の多さとそれが減らないのが俺の特性だからな。じゃ、俺次に行ってくるから」
「はい」
「頑張って」
隣のカーテンの中へ入っていく先輩。
「あんなに緊張してたのに、なんだか晴れやかな顔をしてましたね」
「ほんとにね。……私たちにも、何か出来ることがあればいいのだけど」
「そういうことなら、フェル。ここに行って、患者を回収してきてくれないかな? 新しいデリートの被害者だ」
先輩を見送ったフェルさんが呟くと、その呟きにカーテンから出てきた日陰先生が答える。
手元には被害者の位置を示しているであろう地図が表示されたタブレット端末を持っていた。
「え、でも……私がここを離れる訳には……」
「フェルさん。行ってきてください。そう時間がかかるわけでもないですよね?」
「それは、そうだけど……」
「フェル、頼めるかな? この襲撃で、それまで患者を運んできてくれていた隠密の魔法使いが動けなくなってしまっているんだ。迅速、かつバレずに回収できるのは君しかいないんだよフェル」
「……分かりました。すぐに行ってきます。九重さん、誠治のことは任せるわよ」
「任せてください」
フェルさんの中で、私への信頼と、事の緊急性の釣りあいが取れたのだろう。
フェルさんの先輩への入れ込みようは、自分で言うのもなんだが、私と比肩するかそれ以上だ。
一体先輩が何をしたのかは知らないが、そんなフェルさんが一時的とは言え、私を信じてここを離れる選択をしてくれたことが少しだけ嬉しかった。
「……日陰先生、全部で四人でいいのかしら?」
「ああ。頼むよフェル」
「分かりました」
フェルさんは私にもう一度目線を合わせ、頷くと一瞬にして、視界から消えていった。
一人になったことで、私は一層感覚を研ぎ澄ませる。
先輩が回復魔法を発動した時点でここがバレるのは恐らく時間の問題。
いくら出力が抑えられているからと言って、魔力の元である先輩の気配は抑えられないし、回復魔法の魔力はこれまで見てきたどんな魔法より特殊だ。
私が一人で先輩を守らないといけない時間は恐らく数分に過ぎないだろうが、それでも、気を抜くわけにはいかない。
私は何もいない虚空を睨みつけながら、気を張り巡らせた。
◇◇◇ ——デリート視点——
その魔力を感じたのは突然だった。
長年魔法に携わり続けた私でも、ほとんど覚えのない魔力。
それを感じ取った瞬間、私は確信した。
……釣れた、と。
私が唯一苦手な魔法を上げるとすれば、それは探知魔法だった。
自分の力が強すぎるが故か、小さな気配を見つけるのがあまり得意ではない。
だからこそ、探知魔法が使える者を傍に置いていたのだが、つい先ほど自分でその男の魔法を消してしまった。
そのため、あのまま私の撒いた種に何もかからなかった場合は今回の計画が丸ごと水に流れるところだったが、さすがに、あれだけ魔女協会に被害を与えれば、出てこざるを得なかったのだろう。
「……この位置は病院? ああ、なるほど。彼に回復魔法を覚えさせたのか。確かにあれだけの魔力量があれば、有効的な使い方だね」
「……報告します。我々と戦闘を行った負傷魔法使いたちが運び込まれた場所が分かりました。……の大学病院です」
「ビンゴだね」
「……? あ、あの……」
「ああ、報告お疲れ、じゃあ、寝てて?」
「え? あがぁっ……」
ばたりと音を立てて、報告をしてきた魔女協会の魔女たちにつけていた尾行の男が倒れる。
もう形無しだが、かなりの人数がいたギルドの魔法使いもこれで最後だった。
ただ、目標を見つけた私には、もう誰も必要ない。
「さて、たまには正面から乗り込もうか……いや、でも、転移の魔女がいるんだったか。それは面倒だね……どうしたものか……」
少し、頭を悩ませる。
だが、天は私を味方したらしい。
急に、目の前を光が包む。
ちょうど、さっき魔法を消した魔女協会の魔女がいる辺り。
そこに——。
「……これで、四人目ね。——っ!?」
あの日、永礼誠治の家で私の手から逃げて見せた転移の魔女が現れた。
「なっ、どうして!?」
「これまでは戦った後の場所に私たちが残っていなかったから油断したのかな?」
「——っ!」
「おっと、二度も同じミスはしないんだよ」
すぐに足元の魔女を回収して逃げようとする転移の魔女の魔法を消却する。
「どうしてっ!? なんで魔法が発動しないの!?」
「ふふっ、私の手にかかれば、発動前の魔法を消すくらい造作もないことなんだよ」
「……」
「まあまあ、そう怖い顔をしないでよ。私はただ、永礼誠治君が本物かどうか、確かめたいだけなんだから」
「あんたと誠治を会わせるくらいなら、私がここで刺し違えてでもあんたを止めるわ」
「無理だよ、諦めた方がいい。キミも分かっているだろう? 私とキミの差が、刺し違えたくらいではどうにもならないくらいの差であることに」
「だったら——」
転移の魔女は魔法を使わずに私に向かって飛びかかってきた。
無鉄砲なだけではない。
しっかりと、武道を学んだことのある動き。
ただ……。
「魔法とそれ以外には圧倒的な差があるのは知っているだろうに。よほど誠治君のことが大切なんだね」
強化魔法で強化した肉体に素の肉体が敵う道理はない。
私はあっさりと転移の魔女の拳を受け止めた。
「くっ……」
「ちょうど、キミの対処方法について考えていたところだったんだけど、捕まえてしまえば、こっちのものだよね。じゃあ、行こうか」
「……どこに行くつもり」
「決まっているだろう? 永礼誠治君のいる大学病院だよ。きっとキミがいれば、彼も話を聞いてくれるだろうし、やっぱり正面から行こうか」
「——っ!」
「ああ、そこの魔女も連れて行ってあげるよ。なに、悪い話じゃないだろう?」
「最悪よ」
「ふっ、そうかい。でも、キミに拒否権はないよ。残念ながら、それが力の差、だからね」