うちに転移してきた魔女がエロゲ出身すぎる 作:匿名希望
◇◇◇ ——九重悠月視点——
「九重君、フェルは戻ったかい?」
「いえ、まだ……」
「……これは、私の判断ミスだね」
「……ま、まだ、捕まったという訳ではないんじゃ」
フェルさんが回収に出てから数十分。
それまでは数分に一回、患者を連れて戻ってはまた転移を繰り返していたのだが、四人目の回収に行ってから、もう数十分の時間が経っていた。
幸いなことに先輩の治療は順調な様で、手の空いた日陰先生の確認も無事成功で通っていたのだが、ここに来てまさかの事態だった。
「いや、フェルがこんなに戻らないのはさすがにおかしい。それに、私の頼み事とはいえ、彼女に課されている任務は誠治君の護衛だろう? ……フェルがそれを後回しにして他のことをするとは到底思えないよ」
「それは……」
否定できなかった。
まだ関わり始めて短いが、そのくらいのことは分かる。
つまりフェルさんは……。
「日陰先生、こっちも終わりました」
暗い雰囲気の漂い始めた私たちの元へ先輩が出てくる。
「あ、ああ。確認するよ……少し、休憩するかい?」
「いえ、俺には魔力切れがありませんから。次も行きます」
「そうか。じゃあ、頼むよ」
日陰先生はまだ伝えないことにしたようだ、が……いいのだろうか?
問題の先送りにしかならないこの判断が、いいものだとは思えない。
ただ、私もフェルさんが戻らないことを今先輩に伝える勇気はなかった。
◇◇◇ ——永礼誠治視点——
しばらくすれば、回復魔法の行使にも慣れてきて、一人にかかる時間はだいぶ短くなっていた。
そして、今——
「よし、これで最後、ですかね?」
「……ああ」
この診察室に並んでいた全員への治療が終了した。
だが、どうしてだろう?
全員無事治療を終えたはずなのに、九重も日陰先生も暗い顔をしている。
「二人とも? ……そういえばフェルは?」
顔を出すたびに思っていたが、いつの間にか千里がいなくなっている。
日陰先生の手伝いでもしているのかと思っていたが、どうやらそれも違うようだし……。
「あ、あの先輩——」
「九重君、私が言うよ」
すると、九重が口を開きかけて、それを日陰先生が遮った。
「フェルは……私の指示で患者の回収に向かい……おそらく、消却の魔女の手にかかっている」
「……はい?」
脳が言葉の理解を拒んだ。
日陰先生は何を言っている?
フェルがデリートの手にかかった?
「九重君、判断が遅くなって申し訳ないが、誠治君を連れて逃げてくれ」
「え、でも……」
「ここには間もなく消却の魔女が来るだろう。彼女の目的は間違いなく誠治君なんだ。本当なら治療を終わらせた時点でフェルと一緒にいろんなところを飛び回ってもらって、魔力の痕跡を色々なところに撒き散らす計画だったんだが、フェルがいない以上、少しでも遠くに逃げてもらうしかない」
「……先輩」
「残念ながら、それはもうできないよ」
混乱する思考の中、聞き馴染みのない声が診察室に響いた。
「——っ!? まさかっ!」
九重が勢いよく振り向く。
それにつられて、俺と日陰先生も扉の方に目を向けた。
「病院の階段くらいスロープがついてもいいとは思わないかい? いや、余計な怪我を増やしてしまうだけなのかな?」
そこに姿を現したのは、長身の女性。
あの日と同じ、黒にほど近い藍色のローブを着た、いかにもな魔女、デリートが車椅子に千里を乗せて立っていた。
「どうやってここに!?」
九重が臨戦態勢を取りながら問う。
「私を誰だと思っているんだい? このくらいの魔道具を見破れないはずがないだろう。まあ、私以外に見破れるとも思わないけど」
そんな九重をあざ笑うかの如く余裕な表情を浮かべながらデリートは、まっすぐに俺を見つめた。
「さて、永礼誠治君。今度こそ私と来るんだ。今、改めて見て確信したよ。キミは他とは違う。私の探し求めていた存在だ。さぁ、世界の実権でも、好きなもの全てをキミに与えよう。だから、私と一緒に」
こちらに向けて手を伸ばす。
以前も似たようなセリフを聞かされたが、今回は前回より必死さが籠っているような気がした。
だが、もはやそんなこともすべてどうでもよかった。
「千里は、フェルは無事なのか?」
俺の目にはデリートなどかけらも映っていない。
今、俺の思考にあるのは車椅子の上で目を閉じている千里のことのみ。
「……はぁ、無事だよ。抵抗されないように眠らせただけさ。キミとの交渉材料になると思ったからね」
「交渉材料だと?」
「ああ。取引と行こうじゃないか。私はこの転移の魔女をキミたちに帰す。その代わり、キミの時間を少し貰いたいんだ」
「時間?」
「先輩! 乗っちゃダメです!」
俺とデリートの問答に九重が口を挟む。
だが——
「部外者は黙っていてくれるかい?」
次の瞬間、九重の声が失われた。
口は動いているが、音が耳に届かない。
「……おい」
「まぁ、そう怒らないでおくれ。大丈夫、数分喋れなくしただけさ。それで、キミはどうするんだい?」
「……先に、フェルの無事を確認させろ。話はそれからだ」
「……ま、それはそうだね。取引はフェアにいかないと」
俺の言葉にデリートは車椅子に沿えていた手を離した。
「先生、フェルの状態の確認を」
「……あ、ああ」
日陰先生はかなり動揺している様子だったが、俺の指示でフェルの様子を診始めると、今度は俺の手が横に引かれる。
「……!!」
隣では、声の出せなくなった九重が必死で首を振って、俺を止めようとしていた。
だが、俺は我が身可愛さに千里を見捨てることはできない。
「気にするな九重。これは俺が選んだことだ」
「……!!!」
目元に涙を溜めながら必死で首を振る九重だが、こればかりは譲れない。
天秤に千里が乗せられた時点で、俺自身の価値が俺の中で彼女より重くなることはありえない。
「……誠治君、フェルは間違いなくただ眠っているだけだよ。深い睡眠だからちょっとやそっとじゃ起きないかもしれないけど、数時間もすれば自然と目を覚ます」
「そうですか……」
「さて、どうするかな? 永礼誠治君?」
日陰先生の報告に、少しだけ安堵する。
なら、もう俺に選択肢はない。
「デリート、時間とは、具体的にどのくらいだ?」
「そうだね……一、二時間、でどうだい?」
「その程度の俺の時間のために、こんな大きな騒ぎを?」
「私からすれば、それほど重要なことなんだよ。さぁ、どうかな? キミの二時間と転移の魔女の交換。悪くない取引だと思うけど」
「いいだろう」
「よし、交渉成立だね。じゃあ、転移の魔女はここに置いていくよ。そこのお医者さん、この辺りに個室の病室は? そこで話をさせてほしいんだけど」
「……ここを出て右の突き当りの部屋が個室、だが」
「そう、じゃあ永礼誠治君、行こうか」
「ああ」
相変わらず九重は首を振っているが、たった一、二時間でこの騒動に決着を付けられるかもしれないとなれば、断る道理はなかった。
九重の手をそっと外し、デリートの後ろをついて歩く。
デリートは扉の前で一度立ち止まり、振り返った。
「二時間は私たちが出てくるまで邪魔を入れないでね? 私も楽しくて消却の力を使ってるわけじゃないんだから」
主に九重に向けて投げられたその言葉には、口調や言葉以上の圧が込められていた。
「……誠治君。すまない、九重君は私が責任をもって止めておく。そっちは任せた」
「はい」
日陰先生にフェルと九重のことを任せて、俺はデリートと共に部屋を出た。
◇◇◇
日陰先生に言われた通り、診察室を出て右に曲がり、少し歩くとまさに病院の個室と言う部屋が向かい合う形で並んでいた。
デリートはその片方の扉を開け、俺もそれに続いて部屋に入る。
中には当然誰もいない。
使われていない病室のため机もなければ椅子もなく、あるのは一台のベッドだけだった。
デリートはそんなベッドに腰を掛けると、横に座れとベッドを叩いた。
俺は人二人分ほどの感覚を開けてそこに座る。
「ようやくゆっくりキミと話すことが出来るね」
「目的はなんだ?」
まるで世間話でも始めるかのような切り出しを、俺はさっさと目的を言えと切り捨てる。
「連れないね。まあ、いいや。まずはキミがギルドをどんな組織だと思っているのか教えてくれるかな」
「ギルド? 魔法で世界の支配を目論んでいるんだろ?」
「まあ、表向きはそうだね。けど、実際は違うんだよ」
「?」
どんな強引な手段を取られるのかと、身構えていたのだが、急に何の話だろう?
だが、口は挟まずに続きを聞く。
「その昔はそんな風に思っていたこともあったんだけどね。今は、人集めの看板として使っているだけ、私はそんなもの求めていないんだよ」
「……? じゃあ、何が目的で魔女協会……と言うか、俺に手を出してきてたんだ?」
「それは、さっきも言った通り、キミが私の探し求めていた存在だからさ」
「なんだよそれ? 魔力の元が欲しかったってことか?」
「いや、そうじゃない。私が欲しかったのはキミそのものさ」
「俺?」
「そうだよ」
話が見えない。
そう思っていたところに急にデリートの手が伸ばされ、肩を掴まれる。
「何を……!」
「やっぱり!」
魔法発動の感覚を覚え、咄嗟にその手を振り払おうとしたが、それより先に、何かを確信したかのような声でデリートが立ち上がった。
「やっぱり私の勘は間違っていなかった。居たんだね、私と同じ存在が!」
「おい、話が見えないんだが。お前はさっきから何を言っている?」
「永礼君。キミは私と同じ、悠久の時を生きる魔法使いだ」
「……は?」
悠久の時を生きる?
こいつは何を言っているんだ?
と、言うか、こいつは本当に俺たちが恐れていた消却の魔女なのか?
病室から移動してきてからというもの、まるで怖さを感じなくなっている。
まるで本当に、心の底から俺を探していたかのような、そんな感覚さえ覚えてしまう。
「やっと終わるんだ、私の孤独が……」
「おい、一人で感動してるんじゃなくて説明をしろよ。どういうことだ?」
「……ああ、そうだったね。最初から説明するよ」
涙を拭うように目じりを擦りながら、ベッドに座りなおしたデリートが少し体をこちらに傾けて話し始めた。
「——という訳で、不老の私は同類を見つけるために、居ないなら同類を生み出すためにギルドを使って魔力の元を探していたという訳だよ」
語られた話は、確かに中々に壮絶で、絶望的で、そして非常に身勝手な話だった。
同情の余地が無いとは言わない。
不老者の苦労なんて、想像したこともないし、想像してみればその孤独が精神を蝕んでしまうのもおかしくはないと思う。
だが、それでも、こいつの身勝手はあまりに多くの被害を出しすぎている。
「永礼君、私の魔法で魔力が消せないということは、キミも不老のはずだ。なあ、これからは二人で生きていかないかい? 不老でも二人一緒に居れば怖くないさ!」
だから、もしデリートの言う通り、俺が不老になっているのだとしても、ここで彼女の手を取るわけにはいかない。
「悪いが、それはできない。俺には帰る場所がある」
「……でも、その場所もあと数十年もすればなくなるよ?」
「だとしても、だ。それに、俺が不老かはまだ分からないしな」
「……キミも私を受け入れてくれないんだね」
「それは違う。もしお前にその気があるなら、居場所を紹介してやってもいい」
「居場所? 私に?」
「ああ。受け入れてもらえるかどうかはお前次第だがな」
「……」
「ただ、受け入れてもらうためにお前のねじれた価値観を直す必要はあるだろうな。まずは不老だからって普通の人間に受け入れてもらうことを諦めている点は直すべきだ。それから、自分の目的のために不特定多数を巻き込んでも構わないという思想も良くない。それから——」
そうして、俺とデリートの話し合いはいつの間にか俺の説教の時間に変わっていた。
「……本当に、本当にそれで、私が受け入れてもらえると?」
「絶対とは言わないが、一度考えてみろ。もし仮に俺がお前と同じ不老だとして、そんな俺に居場所があるんだぞ? な? 不老が居場所を作れない理由にはならないだろ?」
「それは、永礼君がまだ不老かどうかわからないからで……」
「面倒な奴だな……。俺の仲間を紹介してやるって言ってんだ。お前が考えを改めて、これまでしてきたことを償えば、きっとみんなは認めてくれる。お前と二人で行ってやることはできないけど、仲間に加えてやることはできるかもしれないって言ってるんだよ」
「……私を、仲間に?」
「ああ。そもそも魔女なんて希少な存在をやってるんだ。少ない数の中で争うなんて無意味だろ?」
「……もし、受け入れてもらえなかったら?」
「……じゃあ、その時は俺が個人的に友達になってやるよ」
「……いいのかい?」
「もちろん、これまでの行いを反省して、しっかり償ったらな? 俺は別にお前に何かされたわけじゃないから、恨みも特にないしな」
だいたい一時間ほどだろうか?
デリートと話して出てきた感想は、体だけ大きくなった思春期の子供のようだ、と言うものだ。
親とうまくいかなかったことや、不老と言う現実、諸々が重なって精神的な成長に大きな歪が出来てしまっている、そんな雰囲気を感じてしまった。
あんなに恐れられていた存在、ロスティや九重のトラウマになるような存在なのに、俺はどうしてもこの魔女を見捨てる気にはなれなかった。
「——ありがとう、永礼君」
「ああ——って、おい!」
下を向いていた顔を上げ、お礼を言ってきたかと思えば、いきなり押し倒すように飛びついてくる。
体のラインをすっぽりと覆い隠す魔女のローブ越しに触れる身体はその長身と同じで、すごいものを持っていた。
「友達、友達か……永礼君、こんなに心の穴が埋まったように感じるのは久しぶりだよ」
「あ、ああ、そうか。それは分かったから、一旦どいてくれないか?」
想像以上にローブが薄く、そして、おそらくこの魔女は中に着るべきものを着ていない。
薄い布越しにあんな所やこんな所の感触がダイレクトに伝わってくる。
まずい……!
「いいじゃないか、あと一時間はキミの時間を貰っている——んっ♡ ……え?」
デリートから甘い声が漏れる。
「……そういえば、知らないのか。俺が魔力の元として力を発揮する条件は——性的興奮を伴う接触、だ」
これ以上動いて、余計なところに触ってしまう前に俺は自らその条件を開示した。
だが——
「……へぇ? それはつまり、私の身体に興奮してくれてるってことでいいのかい?」
さっきまで思春期の子供のようなことで悩んでいたデリートの表情が変わる。
「お、おい。ちょっと待て。お前、状況分かってるのか? 仲間に紹介してやるとは言ったが、まだお前と俺は敵同士——」
「敵同士なら、食って食われての関係でもおかしくないだろう? 親と言う存在にいい記憶がなかったからしたことがないんだけど、キミのおかげで少し考え方が変わったからね。私の百年物を食らってくれるかい?」
とんでもないことを宣いながら、一気にローブを脱ぎ捨てるデリート。
巨や爆のレベルではない、もはや長、いや超と言うべきそれが俺の視界を覆い隠す。
なんとか抵抗を試みるも、俺の条件が満たされ、嬌声と共に、力を増していくデリートに俺は敵わない。
「どう考えても俺が食われてんじゃねぇか……」
「ふふっ、聞いたことがあるよ。世間にはこういうことをする友達もいるって」
「それはお前の求めてる友達じゃ——」
「♡♡♡」
空気が変わりすぎて風邪をひきそうですが、本作は本来こういう話なんです……!笑