うちに転移してきた魔女がエロゲ出身すぎる 作:匿名希望
世界が段々と色を取り戻していく。
白一色だった視界が、見慣れた景色に変わった。
「帰ってきたのか……ほんとにすごいな転移の魔法って」
そこは昨日千里が転移してきた俺の部屋のベッドの上。
今回は一緒に転移してきたおかげか、ハプニングもなかった。
「でしょう? さて、ひとまず荷解きをしたいのだけど……いや、その前に魔力を抑える方法だけ教えましょうか」
手をつないだままの千里が反対に持っていたスーツケースを放り出しこちらを向く。
格好とは裏腹に、その表情はいたって真面目だ。
「そんな帰宅早々に出来るようなものなのか?」
「ええ。魔法を使うのには少しコツがいるのだけど。溢れる魔力を抑えるだけなら、簡単ね」
「……なら、向こうで教えてくれた方が安全だったんじゃ?」
「協会は特殊な場所だもの。なるべく普段と違うことはしたくなかったのよ。そもそも誠治というイレギュラーを連れ帰っていたんだから」
「なるほど? まあ、そういうことなら、よろしく頼む」
「はい。じゃあ、もう片方の手も私と合わせて」
つないでいた手を一度離し、胸の前でハイタッチするかのようにして、千里と手を合わせる。
「いい? これから、私の魔力をあなたに流すわ。そうすると体が勝手に魔力を認識するようになるから。そしたら後は器の中に魔力を収めるイメージをしてみて。じゃあ、行くわよ」
千里の問いかけに頷けば、彼女はスッと目を閉じた。
数秒、合わせた手の感覚に集中していれば、段々と温かい何かが流れ込んでくるような感覚があった。
……これが魔力、なのか?
そう思った瞬間——
「——っ!?」
まるで巨大な滝を目の前にしたかのような轟音が耳に響くようになる。
だが、轟音なのに不思議とうるさく感じないところがまさに滝の様だった。
「どうやら、感じ取れたみたいね? わかったでしょう? あなたがどれだけ規格外の魔力を持っているかが」
片目だけを開けて、千里が言う。
「ああ。確かにこれは、早く抑えないと見つかりそうだ」
「そうよ。さ、感じ取れたなら次は抑えるイメージよ。あなたが魔力をどんなふうに感じているかはわからないけど、今はまるで奔流。それを少しずつ弱くする感じで」
千里の言葉に耳を貸しながら、俺はゆっくりと滝から流れ落ちる水量を少なくするようにイメージしていく。
水を枯らすのではなく、ダムに溜め込むようなイメージ。
千里の言うような器の感覚はわからないが、この溢れる水量をすべて貯水できるようなダムをイメージの中で作り上げてみる。
すると——。
「……すごい、さっきまでの垂れ流し状態が嘘みたい」
聞こえるようになったばかりの轟音はすっかり聞こえなくなり、俺自身の中にも確かに魔力をこぼさず留めておけているという感覚が芽生える。
この感じなら……俺は試しに、ダムの水門を少しだけ開けるイメージをしてみる。
「……! 誠治、これは自分でやっているのよね?」
「ああ。抑えられたなら出す方もいけるかな、と思ってさ」
「すごいわ! 簡単とは言ったけれど、こんなにすぐできるほどのものじゃないもの!」
「そ、そうか?」
「ええ、誠治にはきっと魔法の才能があるのね」
「そういうものなのか?」
「そうよ! 魔法なんて理論体系も整っていない未知の力だもの。どれだけ魔法を使いこなせるは、現在では完全に本人の才能次第なの。その点、感じたばかりの魔力をここまで完璧に制御できるあなたの才能は相当なものよ」
社会人、いや、大学生になって親元を離れてから、こう、手放しに褒められることなんて全くなかったせいか、どうにも気恥ずかしい。
でも、なんとなく千里はお世辞ではなく本心から褒めてくれていることが伝わってくるので悪い気はしなかった。
「……これでひとまずはギルドから狙われなくなるのか?」
「いえ、そういうわけではないわ。狙われにくくはなるでしょうけど、いくら制御ができてもあなたは魔力の元だから。特有の気配ばかりは消すことができないの。今は私が認識を阻害する魔法をかけているからそこまでの危険はないでしょうけど、会社を辞めてもらったのもそういう理由からよ」
「……そうか。いったいどうして俺は魔力の元なんかになっちまったんだろうな?」
「それはそうね。会長でも例を聞いたことがないとなると、本当に珍しい事象に遭遇してしまったわね」
「ほんとだよ……運がいいのか悪運が強いのか? ……あ、そういえば——」
言いかけて、口ごもる。
そんな俺を千里が不思議そうな顔で見つめた。
「どうしたのよ?」
「……いや、なんでもない」
「なによ、そこまで言いかけておいて。これから共同生活する仲でしょう? お互い隠し事はなしよ」
視線を床に落とした俺の視界に潜り込むように千里が顔を覗き込んでくる。
ムッとした表情の中に追及のまなざし。
言いかけてしまった以上、俺の落ち度か。
「……分かった。でも、引かないでくれよ?」
「ええ。あなたには昨日、会長とはしたないことをしちゃってるもの……。今さら並大抵のことじゃ引かないわよ」
……はしたないこと。
そういえば、俺に魔力を増幅させる力があるとわかった時の二人の攻めより方は確かになかなかの刺激だった。
「……そういうことなら。あのさ、俺が魔力の元としての力を働かせるのって異性との性的興奮を伴う接触なんだろ?」
「ええ、そうね」
「そうなると、さ。俺、今後一生……そういうことできなくないか? それとも、今みたいに魔力を抑えていれば、大丈夫だったりするのか?」
そんなことか、と言われそうな問題かもしれないが、俺からしてみれば大問題だ。
確かに、千里たちと関わることによってかなり大きく人生の賭けに出た。一応安定して、そこそこ実績を出していた会社を辞め、魔法という訳の分からない世界に足を踏み出した。
でも、今後の人生の色々まで捨ててしまったつもりはない。
できることなら結婚したいし、子供も欲しいと思っている。
でも、俺が魔力の元の力を持ってしまっている限り、そういう行為をしたら、不用意に魔女を増やす結果につながってしまう。
そんな危険が考えられる限り、俺はこの質問をしないわけにはいかなかった。
「……そうね。まず、あなたは魔力の元。だから、魔力を抑えていたとしてもその力の働きにはほとんど意味がないはずよ。今も気配は出続けているからね」
「……そうか。いや、そうだよな……」
神妙な顔で俺の質問に答える千里に、俺は肩を落とさずにはいられなかった。
「でも、その……そういうことができない、という訳ではないわ」
だが、そこに一本のクモの糸が垂らされる。
「本当かっ!?」
俺は即座にその糸に飛びついた。
「ええ。その……魔女相手なら、魔力を増幅させるだけだもの。すでに魔女になっている相手なら、心配ないでしょう?」
恥ずかしそうにしながら、なぜか上目遣いで言ってくる千里。
「……た、確かにな」
「……ええ、そうでしょう?」
何とも言えない、甘い空気が漂う。
二十代半ば、男女が二人。同じ屋根の下、ベッドの上。
状況は、完璧に整っていた。
「……確認、しておく?」
不意に、千里が目を閉じた。
ほんの少し、唇をすぼめ、顔をこちらに向ける。
心なしか、彼女は腕で胸を持ち上げ、こちらを誘惑してきているようだった。
「……」
ゴクリと生唾を飲み込む。
ちらりと時計に目をやれば、まだ昼過ぎ。
隣室はどちらも社会人だったはずで、居ないだろう。
何も気にするところはない。
俺も決意を固め、何かを待つ唇へ誘い込まれるように近づいていき——。
「————ピンポーン!」
千里の唇と触れかけた瞬間、甲高いインターホンの音が狭い室内にこだました。
俺たちはビクッと身体を震わせ、サッと顔を逸らす。
「……出ないの?」
「あ、ああ、ちょっと出てくる」
少しだけ不満そうな顔。
でも、ここで無視してもう一度……と行けるだけの勇気も、関係性もまだ築けてはいなかった。
口いっぱいに広がる後悔の味を噛みしめながら玄関の扉を開ける。
「はい、どちら様ですk——っ!?」
「先輩っ!」
すると突然、ドンっという衝撃とともに誰かが俺に飛びついてきた。
受け止めきれずに、尻もちをつく。
「ッテテ……いきなりなんだ? って、お前——!」
尻もちをついた俺の上に覆いかぶさるようになっている女性。
その顔には見覚えがあった。
彼女はつい昨日まで、同じ職場で働いていた後輩。
一年違いで入ってきて、俺が教育担当をした九重悠月だ。
「先輩! 引継ぎも、それどころか一言の相談もなく退職ってどういうことですか! 私、今朝、いきなり先輩が辞めたって聞かされて、仕事も何もかも手につかなくて……。先輩とは仲良くできてると思ってたのに。う、うぅ……」
飛びついて押し倒して、矢継ぎ早に並べ立てたかと思えば、今度は泣き出してしまった。
「こ、九重。ちょっと落ち着け、な?」
「う゛う゛ぅ……ぜんぱいぃ……どうじで辞めちゃったんでずがぁ……」
涙やら鼻水やらでせっかくのかわいい顔が台無しになってしまっている。
こうなっては仕方がない。俺は九重が泣き止むまで、しばらくそのまま待ち続けた。
「……グズッ。説明を求めます」
数分してようやく落ち着いたらしい九重が立ち上がり、俺を見下ろすように聞いてくる。
「いや、それはやむにやまれぬ事情があってな。……ってか、お前会社はどうしたんだよ? まだ仕事中だろ?」
「…………パニックでミスを起こしまくって、帰されました。午後休使わされたの、先輩のせいですからね」
「それは責任転嫁がすぎるだろ……」
九重は去年入ってきた新人の中でもかなり優秀な社員だ。
教えたことはすぐに吸収し、細かいチェックにも余念がない。
そんな彼女がミスを連発するとは……なんだか申し訳ないことをしてしまった。
「……それで? どうして急に辞めちゃったんですか?」
「いや、それは……」
咄嗟に思考を巡らせるも、上手い言い訳は出てこない。
そればかりか——
「……誠治? なにかあったの?」
なかなか戻らない俺を心配してだろうか。
リビングへとつながっている扉が開かれ、千里がこちらに顔を出す。
「は?」
「え?」
二人の声が重なった。
どういう訳か部屋の空気が一段、冷たくなったような気がする。
「……だれよあんた?」
「ち、痴女! 先輩、なんで家に痴女がいるんですか!」
「痴女じゃないわよ! 誠治、誰なのこの子」
「先輩! 誰なんですかこの痴女は!」
バチバチと火花が散っている。
ああ、なるほど。これが俗にいう修羅場ってやつなのか。
いや、別にどちらかと付き合ってるわけでも浮気しているわけでもないから厳密には違うのかもしれないけど、きっと空気感は同じだろう。
いったいどうしてこうなったんだ。
「……とりあえず、九重も上がってくれ」
しかし、そんな疑問を口に出したところで答えてくれる相手はここにはいない。
自分の感情は全部飲み込んで、俺は会社の後輩も自宅に上げた。
◇◇◇
「……それで、詳しく説明していただけるんですよね? 先輩?」
椅子は二脚しかないので、小さなローテーブルを三人で囲む。
ジト目でこちらを睨んだ九重が最初に切り出した。
「詳しく、と言ってもな」
魔法については他言厳禁、出会った時からそう言われているため話せることがない。
俺は横目で千里に助けを求めた。
「……私たちは仕事のパートナーなの。業務内容については規定上話せないわ」
「仕事のパートナー? 馬鹿言わないでください。あなたはどう見てもプロの人ですよね? 先輩が呼んだ。それに、仕事のパートナーは私ですから」
「プ、プロの人って……あなたね」
「違うって言うなら、その恰好はどうやって説明するんですか?」
「……」
千里の言い訳は九重に簡単に切り返され、なぜか俺が睨まれる。
「……あー、九重。彼女は本当に俺の仕事のパートナーなんだ。恰好は、そうだな。趣味だ。彼女の」
「……先輩」
九重の方からも睨まれる。
でも、俺は嘘はついていない。
「それで、千里。彼女は九重悠月。俺の前の職場の後輩だ。俺が辞めたと聞いて突撃してきたらしい」
「……ふぅん」
千里は見定めるように九重を見た。
その視線に反応するように九重も千里を見る。
「……なるほど、そういうこと」
「なるほど、そういうことでしたか」
だが、二人は突然、ほぼ同じタイミングでそう言うと立ち上がった。
「魔女め! 誠治から離れなさい!」
「先輩から離れてください! この痴魔女!」
「……はい?」
二人が俺を取り合うように左右から腕を引き、あろうことかお互いを魔女と呼び合った。
「おい、千里、何言って——」
「誠治、早く私の後ろに! 彼女は魔女よ!」
「先輩、こっちです。先輩は私が保護します!」
ちょっと体調不良をこじらせたので明日の更新がない(かも)です。
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