うちに転移してきた魔女がエロゲ出身すぎる 作:匿名希望
千里の追求を躱すこと一日。
気が付けば二度の出前を頼み、昨日入れなかった風呂にも入って、平日の休みを満喫してしまっていた。
「もう、夜か……」
ソファに背を預けながら、カーテン隙間から見える空はすでに暗い。
今日の魔法訓練は朝のあれ以降なく、魔法がある日常も、意外とこんなもんか、なんて思っている俺がいた。
午後になってからの千里はと言えば、今朝の九重との出来事を協会に報告すると言って、寝室に籠ってしまっている。
寝室……そういえば、今日千里はどこで寝るつもりなのだろう?
まさか、同衾なんてことは……。
「……ねぇ、誠治。ちょっとこっち来て」
「ん? なんかあったか?」
そんなことを考えていれば、急に寝室から顔を出した千里に手招きをされて、俺は彼女の方による。
すると——
「——! やっぱり。……誠治、一旦ここ離れるわよ」
「は? 急に?」
「いいから!」
無理やり手を掴まれて、視界が光に包まれる。
これは……転移魔法の光?
急にどうして?
そう思ったのも束の間、気が付けば俺たちはどこか知らない通りに出ていた。
どういう訳か靴も履いている。
「お、おい千里。急にどうしたんだよ」
「いいから、ちょっとこっち」
手を引かれるがままに夜の街を歩く。
自分の住んでいるあたりの地理は一通り頭に入れているはずだが、ここの知識はない。
つまり、かなりの距離を転移していると考えていいだろう。
「……とりあえずここでいいかしら」
「お、おい。ここって……」
すると、千里は通りからも中が見えないような奥まった作りになっている建物の入口へとずんずん足を進めていく。
その力は強く、有無を言わさぬ圧力があった。
「……ねえ、チェックインって」
だが、客室選択パネルの前に立つと、途端に弱弱しい声でこちらを振り返った。
「……いや、まずここに連れてきた理由を説明してくれよ」
その目立つパネル以外、意外と普通のホテルと相違ないフロント。
パネルともう一つ違いを上げるとすれば、ホテルマンがいないことだろうか。
「……その話も、中でするわ。とりあえず今日はここに……泊まる」
「えぇ……。ほんと急に何があったんだよ」
ぼやきながら、立ち位置を変わり、空室になっている部屋を宿泊で選択する。
俺だって特別慣れているわけではないが、現代人ならばこのくらい初見でも対応できそうなのに……と思う反面、内心で気持ちの悪い歓びがあったことはこのまま胸の内に秘めておく。
そのまま出てきた番号札を暖簾のついたフロントに渡せば、引き換えるように鍵が渡された。
「……とりあえず、部屋に行くか」
「……ええ」
静寂な空間に小さく足音だけが響く。
別にこれからどう、という訳でもないと思うのだが、本能的に心拍数が上がってしまう。
エレベーターが降りてきた音がして、ふと我に返るも、今度は狭い室内で二人きり。
千里の呼吸の音がくっきりと耳に届く。
「……」
「……」
……この空気は、さすがにまずいな。
現在の雰囲気が想起させるのは、今朝、九重が来る前までの温度感。
あの時、九重が来るのが十分遅かったら——。
ポン! と静かな空間には十分すぎるほどの音が鳴り、エレベーターが停止する。
「……着いたみたいだな」
とりあえず、何かしゃべらないと、と、口を開き、先んじてエレベーターを降りる。
すると、少し後から降りてきた千里がキュッと俺の服の裾を掴んだ。
何事かと視線を落としかけて、理由に気が付く。
「ほんと信じらんない! せっかく久しぶりのデートだからって張り切っておしゃれしたのに。昼間からこんなに延長して……。もう19時なんだけど!」
「ごめん、ごめんって。でも、お前が可愛すぎてさ……」
「そんな言葉には乗せられないから……!」
視線の先、ちょうど開かれた扉から若い男女カップルが出てきた。
口調では刺々しく反応している女性の方も甘えるように男性の腕に抱きついており、今この瞬間まで、その室内で何が行われていたかは明白だった。
もちろん、こういう場所で他人をまじまじと見るのはマナー違反だ。
だが、選択パネルの操作も覚束なかった千里には十分すぎる刺激だったようで、そちらを見つめたまま固まってしまっていた。
ロスティに対してだったり、これまでの積極性からこの程度なら何でもないのだろうと思っていたのだが、意外とそうでもないらしい。
「……ほら、千里」
なんて思ったものの、さすがにいつまでもこうしてはいられないので、肩に手を回し進むように促す。
「……っ」
すると咄嗟に下を向いた千里が耳まで真っ赤に染めながら、歩幅をごくわずかに動き始めた。
「ふふっ。見て、あのカップル。なんか可愛くない?」
「こら、あんまり見ちゃダメだろ?」
そんな声が聞こえてくる。
俺の服の裾を握る手の力が少し弱くなったのが分かった。
「……開けるぞ」
入室待機のランプが付いた扉を開け、部屋に入る。
千里が入ったのを確認して後ろ手に扉を閉めれば、オートロックで鍵がかかり、再びの密室。
特に選んだ訳でもないので、部屋にはクイーンサイズの円形ベッドとテレビが設置されているだけだった。
ベッドに並んで腰を掛ける。
今日以上に椅子の重要性を感じる日はおそらくないだろう。
「……それで、どうして急にこんなところに来たんだ?」
深呼吸を一つ。
それから、努めて冷静な口調で、そのわけを尋ねた。
膝に手を置いてお行儀よく固まっている千里も、少しずつ落ち着いてきたのか、耳の赤が引いていき、やがて口を開いた。
「それは……監視されていたからよ。ごめんなさい。私が機械音痴で協会に送るメールを作るだけで半日も使っちゃったから、気が付くのが遅くなってしまったわ」
「監視? 俺が、ってことだよな?」
「ええ」
「どうしてだ? 千里が認識を阻害する魔法をかけていてくれたんじゃなかったのか?」
「それは、そうなのだけど……。ねぇ、誠治。やっぱり今朝のあの子、怪しいかもしれないわ」
「怪しいって、九重が、か? 確かにあいつが魔法使いだってのには驚いたけど、あいつは嘘を吐くような奴じゃないと思うぞ」
「……そう、よね。でも、あの子は部屋に入ってしばらくするまで、私の魔力探知にも引っかからなかったの。自分で言うのもなんだけど、私の魔力探知はかなりのレベルよ。だから、警戒して損はないと思う」
「そうか……」
九重が……敵、かもしれない。
急に突きつけられた言葉に嫌な想像ばかりが頭をよぎる。
今朝だって同じことは考えたはずなのに、一度、敵じゃないと思ったからなのか、途端に悪い方向へ想像が膨らんでしまった。
「……で、その監視の目から離れるためにここへ?」
「そう、ね。……半分はその目的よ」
だからってわざわざラブホを選ぶことはないだろうに、と思ったが、千里はそれ以上に気になる発言をする。
「半分?」
「……あのね、誠治。魔法使いの強さは基本的に魔力量の多さで決まるのよ」
「お、おう?」
「もちろん、固有魔法がすごく特殊で対人特化な魔法だったり、攻撃的な魔法の場合はその限りでもないんだけど、基本的にはそうなの。それで、その魔力量なんだけど、後天的に上げることはすごく難しいのよ」
「そ、そうなのか」
まるで何かの言い訳を並び立てるような勢いで千里は捲し立てる。
「でも、でも、ね。その……誠治、の、力があれば……」
かと思えば、途端に勢いがなくなり、声も小さくなっていく。
でも、言いたいことは伝わった。
「つまり……なんだ、その……」
「え、ええ……そうよ」
真面目な雰囲気からは一変。
再び、エレベーター内のような空気が立ち込める。
「あなたを、その……守るためにも…………朝の続きを、しましょう?」
そんな微妙な空気を艶やかに塗り替えたのは千里の一言だった。
「……千里は、いいのか?」
俺を守るため。
これ以上ないほどの言い訳を与えてもらっているのに、俺は確認をしてしまう。
だが——
「……いいわ。誠治なら」
頬を朱に染めながらも、まっすぐに千里は退路を断ってきた。
これは……とてもじゃないが逃げられる空気ではない。
ここまでお膳立てしてもらって退くというのはもはや据え膳どころの騒ぎではない。
それは千里に失礼というものだ。
「……分かった」
隣に座る千里に顔を向ける。
動作が重なり、ばっちりと視線が交錯した。
肩に手を置き、グッとベッドへ押し倒す。
ただでさえきわどい格好の千里に覆いかぶさっている状況。
視界が彼女の身体に占められる。
「……その、初めて、だから……優しくしてね?」
「……善処する」
俺の言葉に、千里が目を閉じて応えた。
小さく主張するようにすぼめられた唇に、段々と顔を近づけていき——
「ん♡♡」
♡♡♡
寝転がって見上げた天井、聞こえてくるはシャワーの音。
ついつい寄せられる視線を理性でなんとか振り切ろうとするも、鼻孔をつく淫猥な残り香とともに、弱い理性はいとも簡単に吹っ飛んだ。
視線の先、透けたバスルームでは、つい先ほどまでここで嬌声を上げて乱れていた千里の姿。
服に覆われていない彼女の身体は胸の柔らかさとは別に、しっかりとしたメリハリのある身体だった。
……これまでの接触による魔力の増幅経験から、事後は当分目を覚まさなくなるのでは? と最初は思ったが、そうではなかった。
直接の行為は魔力の増幅量が多いのだろうか?
初めこそやられっぱなしの千里だったが、最後の方ではまるで体力が回復したかのように積極的になっていた。
本当に、先ほど華を散らしたばかりの女性とは思えないほどで、気づけばこちらの体力が空っぽだ。
シャワーの音が止まり、バスルームの扉が開く。
「……シャワー、いいわよ」
「……おう」
しかし、そんな積極性も、一度ことを終えてしまえば冷静になってしまい、今ではまた何とも言えない空気が部屋中に立ち込めていた。
千里と入れ替わる形でバスルームに入り、シャワーを浴びる。
こんな中で熱いお湯を浴びていたら、すぐにのぼせてしまいそうだったので、ひとまず冷水シャワーを浴びておいた。
◇◇◇ ——枢木千里視点——
「……しちゃった」
備え付けのドライヤーで髪を乾かしながら、その音に紛れるように小さくこぼす。
自慢の銀髪を手櫛で梳きながら、自然と手が下腹部まで降りて行った。
「……さっきまで、ここに……」
思い出しかけて、勢いよく首を振る。
髪に残っていた水滴が鏡に跳ねた。
そんな水滴を追って、鏡に映る自分と目が合う。
映るのは、もちろんいつもの自分。
だが、自分の目にも、自分自身が艶っぽく見えた。
「——っ」
咄嗟に目線を逸らす。
何よりも、自分の顔がつい先ほどまでの出来事を物語っていた。
◇◇◇
シャワーを終えて、バスルームを出る。
すると、千里が小さく手招きをしていた。
「……どうした?」
「ここ、座って。髪、乾かしてあげるわ」
「あ、おう……」
言われるがままに千里の前に座ると、ドライヤーのスイッチが入り、俺の髪に優しい温風が当たり始める。
少し緊張で強張っていた体も、程よい温度の風に溶かされ、俺はされるがままになる。
「ねぇ、誠治」
半分ほど乾いてきたか、というところで千里が声を掛けてきた。
「なんだ?」
「……その、ありがと」
「いや、お礼を言うのはどちらかと言えば、俺だろ。守ってもらうのに、こんなことまで」
「ううん、私が言いたいの。なんだか今、すごく満たされてて」
「……そうか」
鏡越しに見る千里の顔は、俺の願望フィルターも掛かっているかもしれないが、確かに満足そうに見えた。
「あのね。実は私、魔力量がそんなに多くなかったのよ」
「そうなのか?」
「ええ。私の家は魔法使いの一族でね。固有魔法こそ、すごく貴重な転移魔法だったけど、それでもあまり期待はされてなかったわ。魔女の任務は戦闘を伴うことも多いから」
一度言葉を区切り、少し態勢を変える。
そしてまた、続きを話し出した。
「私はそれが、魔力の少なさと認めてもらえていないことがコンプレックスでね。だから、今、誠治が私を求めてくれて、それで実感できるほど魔力量の増加を感じて、すごく、すごく嬉しいのよ」
「……反応に、困るな」
「ふふっ、そのままでいいのよ!」
言いながら、ドライヤーを置いて、後ろから抱き着いてくる。
「ねえ、誠治。あなたの力はとても貴重ですごい力よ。今、改めて実感してる」
「……ああ」
「でも私、独り占めしようとは思わないわ。……もちろん、誠治が求めてくれる分には、いいのだけど……」
「……」
「だから、だからね。もし、必要なら、私に遠慮したりする必要はないわ。きっと、それが、その力を持っている誠治のためでもあるし」
「千里……」
きっと、第三者男性的に見れば、嬉しいことなのだろう。
エロゲ風に言えば、ハーレムルートの肯定のようなセリフだ。
けど、当事者視点で受け取ってみれば、少し寂しい言葉でもあった。
「……でも、私が誠治を守る役割で、一番近くにいるってところは譲るつもりはないから」
「……そうか」
「そ、それだけ! じゃあ、寝ましょ。あ、シーツ替えたいわね。タンスにあるかしら?」
「多分、あると思うぞ」
少しだけ胸に渦巻いたモヤモヤした感情を飲み込んで、俺たちの夜は更けていった。
ちょっと生々しく描写しすぎたかも、です。笑
コメディのつもりがだいぶしっとりしてしまった。
本番シーンは需要あれば、ハメ匿終了後に別で書くかも?