うちに転移してきた魔女がエロゲ出身すぎる 作:匿名希望
なんとなく気まずくて、背中合わせで入ったベッド。
サイズのおかげでお互いのことを気にする必要はないが、それは物理的な話。
心情的には先ほどの言葉もあって、なんとなく眠れなかった。
「ねぇ、誠治。まだ起きてる?」
そんな気配を察してか、千里が声を掛けてきた。
「ああ、起きてる」
「なんか、寝れないわよね」
「だな」
体勢を仰向けに変えれば、タイミングを同じくして千里も仰向けに。
そうして俺たちは顔を見合わせた。
「なんか、不思議な感じ。誠治とはまだ出会って二日目なのに、二日とも同じベッドで寝ちゃってる」
「一日目のあれをカウントするのはどうかと思うけどな」
「まあ、そうね。……あ、そういえば明日以降のことだけど」
「あ、おう。そうだよな。俺たち一応監視の目を逃れるためにここに来たんだもんな」
すっかり忘れてしまっていたが、ここに来た目的は千里が監視に気付いたからだ。
目的の半分は、だが。
「そうよ。それで、その件の報告に会長から返信があったの。監視者はギルドで間違いないだろうって。ねぇ、誠治、やっぱり……」
千里の顔に少しだけ影が落ちる。
「……九重がギルドと関係している可能性が高い、か」
「ええ、残念ながら。状況証拠的には、そう見るしかないわ。けど、今日直接私たちを監視していたのは彼女ではないと思うの」
「それは会長が?」
「いえ、私の魔力探知よ。あの子の魔力は私でもすぐには見分けがつかないほど巧妙に隠されているわ。それこそ、魔力を隠すような固有魔法を持っているんじゃないかってほどにね」
「なるほど。報告を終えてすぐに探知できたということは九重ではない可能性が高いってことか」
「そういうこと。まあ、希望的な意見かもしれないけど」
「いや、そう言ってくれるだけでも助かるよ。つい一昨日まで直属の後輩だった子と敵同士とか、中々飲み込めないからな」
千里の気遣いに少し心が軽くなる。
でも、だからこそ、俺も注意しようと思った。
「……それで、明日以降はどうするんだ?」
「それについては、申し訳ないんだけど、監視者を炙り出すために明日の早朝に転移で家へ戻るわ。それで、明日はできるだけ外出をしましょう」
「つまり、囮捜査ってことか?」
「言葉を選ばずに言えば、そうね。でも、街中では派手に魔法は使えないはず。ギルドが目指すのは魔法で社会を支配することだから。ある程度の力が自分たちの元に集まるまでは大きな動きは取れないはずよ」
「ある程度の力……か」
おそらくここで言う力の意味するところは魔法使いの数のことだろう。
つまり、今のギルドは数がいないから大胆な動きはできないということで、逆を言えば、数さえ集まれば遠慮しない連中だということ。
そして、俺は、そんなギルドに力を与えうる存在。
自分の立場の重要性を改めて思い知る。
「大丈夫、誠治のことは私が守るから」
「女の子に守ってもらってばっかりじゃ、なぁ……」
「まあ、そういうことなら明日からの魔法訓練も頑張ってついてくるのね」
「それはもちろん。やっぱり魔法は憧れだからな」
そんな話をしていれば、どちらからともなく声がトーンダウンしていき、気が付けば入眠していた。
◇◇◇
翌朝、俺の掛けておいた目覚ましで二人同時に目を覚ますと身支度もそこそこに清算を済ませ、ホテルを出る。
人通りの少ない道を行き、完全にすべての死角となる路地裏に入ってから、千里の転移魔法で俺たちは自宅へと帰ってきた。
「……監視は、うん。ついてるわ。きっと一晩中見張っているんでしょうね」
「距離とか位置とかはわからないのか?」
「いや、わからないこともないけど、そこまで詳細に探ろうとすると今度は相手側にこちらが監視に気付いていることがバレちゃうのよ」
「なるほど。魔法も万能じゃないんだな」
「そうよ。意外とこれで不便なことも多いのよ、夢のない話かもだけど」
リビングに上がり、テレビをつける。
朝のニュース番組では、魔法とは関係のない社会の情報が報道されている。
つい先日までは俺もそれが当然だと思っていたが、魔法の存在を知った今、色々な事件や事故が魔法によるものかもしれないと思うと、少し見え方が変わる気がした。
「朝ご飯くらい、買ってからくればよかったな」
「そうね。……でもちょうどいいわ。近くのコンビニまで買いに行きましょう」
「早速か。よし、分かった」
サッと準備を整えて、再び外へ出る。
この時間にスーツ以外の恰好で外に出るのはなんだか不思議な気分だった。
徒歩二分ほどのコンビニまで歩き、店内へ入ったところで千里に聞く。
「どうだ? 監視の様子は」
「動いてないわね。どうやら、ギルドにはまだ誠治が魔力の元だってことはバレてないみたい」
「でも、俺からは隠しきれないほどの気配が出てるんじゃ?」
「ええ。でも、あまりにも気配が大きいし濃いから、数時間移動した程度じゃ、部屋に残った気配も消えないのよ。それに私みたいな移動する魔法を使うような魔法使いじゃない限り、そんなにこまめに気配を確認しなおしたりもしないから」
「そういうものなのか」
「ええ。探知にも魔力を使うもの」
そんな会話をしながら、俺たちは朝食分の買い物を済ませた。
「さて、じゃあ、戻るか」
会計を終え、いえに向けて歩き出そうとした時——。
「先輩っ! おはようございます!」
突然、背後から声を掛けられ、振り返れば、そこにはこれから出社するのであろう九重の姿があった。
「こ、九重? お前、一体なんでこんなところに」
隣で、千里が少しだけ警戒態勢に入ったのが分かる。
だが、九重はそんな様子を気にすることなく続けた。
「だって、昨日あれから何度も連絡したのに先輩既読すら付けてくれないんですもん! 先輩に文句言ってから出社してやろうと思って回ってみました」
言われて、そういえば昨日から全く確認していなかったスマホを見る。
そこには確かに数件の通知が溜まっていた。
「悪かったよ。でも、遠回り、だよな? まだ、出社には早いけど」
「先輩の顔が見れると思えば、このくらいなんでもないです。……でも、こんな朝からコンビニなんて、千里さん。もしかして料理できないんですか?」
「……急に何よ。できなかったら悪いのかしら?」
「ええ、悪いです。先輩の家に住み着いておいて、料理もしないなんて。ねぇ、先輩? 私なら朝のうちにお昼の分まで料理しておけますし、夜ご飯も毎日手料理を振舞えますよ。千里さんから私に乗り換えませんか?」
「なっ! 駄目よ! それに住み着いてるんじゃないわ。護衛よ!」
「千里さんには聞いてません。ね、先輩。護衛も私でも大丈夫です。こう見えて意外と腕には自信があるんですよ」
「……ぐぬぅ」
甘えたような九重の視線と悔しそうな千里の視線。
そして、早朝の往来で繰り広げられる修羅場? を見る周りの視線。
たくさんの視線に刺されて、俺は——
全力で走って逃げた。
「あ! 先輩! 逃げるのはだめですよ!」
「そうよ誠治! 遠慮せずに私を選べばいいのよ!」
だが、これはあまり良い手段ではなかったようで、走る俺の背後にそんな言葉が飛んできて、周囲からの視線がさらにすごいことになる。
「分かった。分かったから! 一旦、騒ぐのはやめてくれ!」
そんな視線に耐え切れず、俺は追いかけてきた二人の身体を掴み、そう言い聞かせた。
ああ、もう、本当に!
敵とか味方とか関係ない。この二人は混ぜるな危険すぎる。
だが、俺の受難はまだまだ終わらない。
肩を掴んだ、少なくとも俺はそのつもりだった。
走ってくる二人に対して、振り返っていきなり掴んだことも災いしたのだろう。
俺の手はギリギリで肩に届かず、その少し下、手がちょうど乗せられるほどに大きな、二人の膨らみの上に着地していた。
「ぁんっ♡」
「んぅ♡」
二人の声が上ずる。
「いや、そうはならんやろ!」
と、誰かの声が聞こえた気がしたが、本当にその通りだ。
だが、現実では起こってしまっている。
「や、やだ、誠治。こんなところで……」
「せ、先輩……昨日に引き続き……」
そしてなぜか振り払うでもなく頬を朱に染める二人。
何事かと、周囲の騒ぎも大きくなってきた。
「ちょ、ちょっと待て、二人とも。一旦、一旦落ち着いてくれ」
「お、落ち着いてるわよ」
「……そうですよ。先輩が選んでくれれば、解決です」
上目遣いの美女二人に迫られる。
こんな状況でなければ最高のシチュエーションだろう。
ただ、今の俺には全然ありがたくないシチュエーションだった。
「ああ、もう分かったから。九重。お前は早く会社に行け」
「やった! 私を選んでくれるのね! 誠治!」
「むぅ……。先輩のすけこまし」
「勘弁してくれ……」
結局片側ずつ二人に手を抱かれ、両手に華な立派なくず男の出来上がりだった。
もう、どうにでもなれと、腕はそのまま好きにさせておき、俺は少しでも早く家へ帰るために歩を早めることだけに集中することにした。
「ふふっ、朝から楽しかったですね」
マンションの前までやってきて、小悪魔めいた表情の九重が呟く。
「俺の胃はもう限界だよ」
「そうね、私もそろそろお腹すいたわ」
「……」
そんな九重に嫌味を返してみれば、天然な答えが千里から返ってきた。
「と言うか九重、お前ほんとに時間大丈夫か?」
「はい。大丈夫です。でも、確かにそろそろ行かなきゃですね」
「早く行きなさい。私は誠治と朝ご飯食べるから」
「……いつまでもそのポジションに自分が入れると思わないでくださいね痴女さん」
「ふん、何とでも言ってなさい」
数秒の睨み合い、でも、今度は不毛だとわかったのか、二人はすぐにやめる。
「あ、そうだ。あんた、ほんとにギルドじゃなくて流れなのよね?」
かと思えば、千里がいきなり揺さぶりをかけるようなことを言ってのける。
「……? はい、そうですが」
「そう。ならいいけど、私たちの部屋に監視がつけられてるみたいだから。もしかしたらあんたも巻き込まれるかもね。せいぜい気をつけなさい」
「監視……? そうですか。ご忠告ありがとうございます。先輩、気を付けてくださいね」
「あ、ああ。悪いな、巻き込んだみたいで」
「いえ、全然。先輩の事情になら、いくらでも巻き込んでくださいっ!」
可愛らしい効果音でも付きそうなウインクをして見せる九重。
なんだか、会社での印象と昨日からの印象でだいぶ差が出てきたな。
「あ、そろそろほんとに時間なので! 先輩、今度は返信してくださいよ!」
「おう、仕事頑張れよ」
手首の腕時計に視線を落としたかと思えば駅の方へ走っていく九重を千里と見送る。
少し行った先で、一度こちらを振り返り、満面の笑みを見せて、九重は去っていった。
「……本当にすごい子ね。今回も声を掛けられるまで全然気づけなかったわ」
マンションのエレベーター内で、千里がぼやく。
「それより千里。だいぶ思い切ったことをしたな」
「そうね。でも、疑い続けても精神が疲弊するだけかなって。成果もあったでしょ」
「……ああ。それはまあ、そうだな。あの九重の感じ——」
「ええ。彼女は監視のことを本当に知らないようだったわよね」
エレベーターを降り、部屋の鍵を開けてから続ける。
「だな。あの反応は嘘には見えなかった。あれが嘘なら俺は本当に九重が信じられなくなる」
「きっと本当でしょう。あの子、本気で誠治のことが好きみたいだし」
「………………となると、やっぱりギルドの所属じゃないってのも嘘じゃなさそうだよな」
「ええ、でも、彼女とギルドのつながりが否定できたわけじゃないわ。まあ、それでも、彼女に対してはそこまで気を張らなくてもいいかもね」
「ああ。でも、ああいうカマかけはいきなりはやめてくれよ。心臓に悪い」
「ふふっ、でも言うでしょ? 敵を騙すならまず味方からって」
「……女って怖い」
「役者って言ってよ」
ひと悶着ありながらも、今日も日常が流れていく。
◇◇◇ ——九重悠月視点——
「……監視。やっぱり一度組織を出た私は信用されていませんでしたか」
誠治たちがマンションに入っていくのを確認した後で、悠月は駅へ向かうのをやめていた。
そして、今向かっている先は——
「……ですが、これは立派な契約違反。見張り役は私に任せるとあの人は言っていたんだから」
廃ビルの前で歩を止める。
そして、足音どころか影も消えるように悠月の姿が消えた。
「なあ、あの部屋っていつまで見張ってればいいんだ?」
「馬鹿。次の指示があるまでに決まってんだろ?」
「いや、でもよ。もう、一日経つぞ。それに、あんなデカい魔力の気配。いつまでも見てなくてもいいだろ」
「そうかもしれんが、ただ見てるだけで大金が入るんだ。黙って従っておくのが吉ってもんだろ」
「まあ、そうか……」
その廃ビルの一室では、二人の男が双眼鏡を片手に誠治の部屋を監視していた。
「それより、考えるなら、報酬の使い道にしようぜ」
「ああ、そうだ——な?」
会話をしていた一人の男が身体に違和感を覚える。
だが、次の瞬間には……
「……ぁが、な、にが……」
彼らは二人とも、胸を強く抑えながら、その場に転がっていた。
「……痴女さんはどうでもいいですが、先輩に害意を向けるなら、私は容赦しません」
消えゆく意識の中、男たちが最後に聞いたのは影の方から聞こえるそんな声だった、かもしれない。