かぶき町結婚相談所【土方十四郎編】 〜命を捨てた男の欠けたピース〜   作:Madocca

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『かぶき町結婚相談所・土方十四郎編』第7話です。

蛇山との一騎討ちを制し、
屯所で祝宴を挙げる土方と乙羽。

土方の武士として刀を振るう理由、
彼が初めて手に入れた「生きる理由」——。

それらが、

武骨で
不器用だが、

深いプロポーズの言葉となって、

乙羽に捧げられる。

——が、
翌日からの新婚生活は、

土方の心臓が幾つあっても足りないものに…。

※今後は【ジャンプ発売日】に更新予定です!
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#7 プロポーズはディナーのあとで

「よし野郎ども静まれぇぇぇい!!」

 

近藤の胴声を打ち消すように、大広間の乱痴気騒ぎが一瞬だけ静まった。

 

近藤は顔を真っ赤にし、酒で揺れる体を引きずりながら上座の二人へと歩み寄ると、盃をバシッと床に叩きつけた。

 

「乙羽ちゃんの『家族になりたい』って言葉……

 

聞いたな!?

泣いたな!?

涙で畳が沼になったな!?

 

だがな……

 

まだ足りん!!

足りんのだよ!!

 

トシぃぃぉぉっ!

 

お前、

男として

 

大事なことを一つ

 

忘れてんじゃねぇのかぁぁぁっ!?」

 

「あ……?

何が足りねぇんだよ、近藤さん。

酒ならそこに山ほど……」

 

「プロポーズだよ!バカ野郎がぁぁぁぁっ!!」

 

近藤の叫びに、隊士たちが「そうだそうだーっ!!」「ハッキリ聞いたことねぇぞーっ!」「男見せろ副長ぉぉぉっ!」と一斉に拳を突き上げた。

 

すささっ、と影のように近藤の隣へ滑り込んできた沖田総悟が、どこから取り出したのか巨大なメガホンを土方の耳元に突きつける。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「土方さん。

 

ここで

ビシッと公開プロポーズ決めねぇと、

 

明日から

隊士たちのナメられ度が三倍に跳ね上がりますぜ。

 

まあ、失敗して乙羽さんに振られたら、

 

俺が喜んで

副長の座と乙羽さんをいただきやすがねぃ」

 

「てめぇにやるわけねぇだろーが!!」

 

土方はブチ切れながら沖田を蹴り飛ばしたが、周りの隊士たちの野次と熱気は、もはや抑えきれない。

 

(プロポーズ……だと……?)

 

土方は顔を真っ赤にして横を見た。

 

乙羽が大きな目をパチパチさせ、自分を真っ直ぐに見つめている。

その無垢な瞳に映る自分の顔は、情けないほどに焦り切っていた。

 

「……たく、ウロチョロうっせぇんだよドブネズミ共が」

 

土方は舌打ちを一つすると、ゆっくりと立ち上がった。

 

騒がしかった大広間が、一瞬でしんと静まり返る。

 

土方は腰の村麻紗の柄にそっと手を置き、武士としての最も深い敬意と覚悟を示す動作で、

 

乙羽の前へと正座し直した。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「乙羽」

 

低く、響く声。

 

いつもの「鬼の副長」の厳しさではなく、

 

一人の男としての、

嘘偽りのない不器用な声だった。

 

「俺は……見ての通りの刀しか振れねぇ男だ。

 

血と泥に塗れて、

いつ死ぬかも分からねぇ身の上だ。

 

……あんたが憧れるような、

 

綺麗で

平和な未来なんて、

 

見せてやれねぇかもしれねぇ」

 

土方は煙草を指で摘み、ふっと紫煙を吐き出した。

 

「だけどな……

 

あんたが『ごめんなさい』って泣く夜は、

俺が全部叩き斬る。

 

あんたが『私なんて』って自分を卑下するなら、

 

俺が一生かけて

あんたの価値を証明してやる。

 

俺の命も、この刀も……

 

あんたを笑わせるためだけに使う」

 

土方は乙羽の瞳を、逸らさずにじっと見つめた。

 

「……俺の、

 

最初で

最後の女になってくれ。

 

俺と……

 

結婚してくれ」

 

静寂。

そして――。

 

「うおおおぁぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 

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近藤が大号泣で天井を仰ぎ、

隊士たちが酒を撒き散らしながら大爆発した。

 

「副長男前ぇぇぇっ!」

「エモすぎるだろチクショウ!!」

「俺も土方さんにプロポーズされたいぃぃぃっ!」

 

「ちっ、思ったより綺麗にまとめやがって……」と呟く沖田も、口元には悔しそうな、けれど温かい笑みを浮かべていた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

◇

 

「……ここが、俺の部屋だ」

 

祝宴がようやくおひらきとなり、土方のエスコートで真選組屯所の最深部にある離れの部屋に通された乙羽。

 

隊士たちのバカ騒ぎが嘘のように静かな夜の中、行灯の柔らかい光が畳を照らしている。

 

土方は照れくさそうに頭をかきながら、乙羽の荷物を部屋の隅へ置いた。

 

「狭ぇし、むさ苦しい場所だが……

 

今日からここが、

お前と俺の部屋だ」

 

土方は乙羽の前に腰を下ろすと、

少し思い詰めたような顔をして言った。

 

「そういえば……

 いつまでも『土方さん』ってのも変だろ。

 

 ……『十四郎』って呼んでいいぞ。

 

 ……というか、

 呼んでほしい、

 

 かな」

 

語尾が小さくなり、顔を背ける土方。

 

その不器用な優しさと、

 

「十四郎」という名前の響き。

 

乙羽の胸に、じわじわと「新妻になったんだ」という実感が、あふれるほどの幸せと共に押し寄せてきた。

 

 

◇

 

――しかし、翌日からの新婚生活は、

 

土方にとって、

心臓がいくつあっても足りない毎日の連続となった。

 

庭付きの大きな邸宅で何不自由なく育った

令嬢・乙羽にとって、

 

男百人がひしめく武士の屯所は、

 

あまりにも「常識」が違いすぎたのである。

 

ある日の夕方。

 

お風呂上がりの乙羽は、火照った体を冷まそうと、濡れた髪を拭きながら無防備にも部屋の縁側に腰掛け、ぼんやりと空を眺めていた。

 

薄手の浴衣一枚。

 

夕風に揺れる裾から、チラリと覗く白く美しい足首と首筋。

 

そこへ、夕方の巡回を終えた隊士たちが通りかかった。

 

「……あ」

「乙羽……様……?」

「お、お風呂上がり……!? え、天使……?

 屯所に天使がご降臨なさった……!?」

 

鼻血を吹き出して倒れる隊士、

拝み始める隊士、

あまりの尊さに卒倒する隊士たちで

 

庭は大惨事に。

 

「な、なんだなんだ!? 敵襲か!?」

 

騒ぎを聞きつけた近藤が走ってきたが、

縁側の乙羽を見るや否や「ぶっ!?」と豪快に鼻血を噴射。

 

「ト、トシぃぃぃっ!

 

 乙羽ちゃんが!

 

 乙羽ちゃんが

 眩しすぎて目がぁぁぁっ!」

 

「おい、なんの騒ぎだテメェら――」

 

そこへ、隊務を終えた土方が歩いてきた。

 

そして、浴衣姿で涼んでいる乙羽と、

それを見て群がるドブネズミ(隊士)たちの構図を

 

視界に入れた瞬間。

 

ゴゴゴゴゴ……と、

 

土方の背後に目に見えるほどの

漆黒の殺気が立ち上った。

 

「テ……メェ……ら……」

 

「ひぃっ!? 副長殺気が! 殺気がダダ漏れです!!」

 

「俺の嫁を……

そんなスケベな目で見てんじゃねぇぇぇぇぇっ!!」

 

バカァァァンッ!!

 

土方は村麻紗を柄ごと叩きつけ、庭の石燈籠を一撃で粉砕した。

 

隊士たちは「ギャァァァッ!」「副長の嫉妬で屯所が滅ぶぅぅぅっ!」と悲鳴を上げて逃げ惑う。

 

土方は肩で息をしながら、大急ぎで自分の隊服の上着を脱ぐと、縁側に座る乙羽の肩へ乱暴かつ優しくバサッと羽織らせた。

 

前をぎゅっとはだけないように締めながら、

顔を真っ赤にして乙羽に怒鳴る(というより焦る)。

 

「乙羽ぁぁぁっ!

 お前なぁぁっ!

 

 男だらけの屯所でそんな格好して

 縁側に出る奴があるかバカ野郎っ!!

 

 俺以外の男に

 そんな無防備な姿見せてんじゃねぇ!!」

 

過保護ターボエンジンが全開になった土方は、乙羽の手を引いて部屋の中へと連れ込むと、ピシャッと障子を閉めたのだった。

 

乙羽のぱっちりした目が、驚きで更に大きくなる。

土方が帰宅したことに気づいた乙羽。

 

「え……? 十四郎さん? おかえりなさい」

 

その透き通った声と、一切の邪気もない天使のような微笑み。

 

「と……しろう……さん……!?」

 

直撃弾を脳内に食らった土方は、

あまりの破壊力に

 

「ぐはっ!」と胸を押さえて

 

その場に卒倒しかけた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

さっきまでの「鬼の副長」の激怒はどこへやら、

顔面はゆでダコのように真っ赤に染まり、

 

目の前で首をかしげる新妻の可愛さに、

 

息をするのも忘れてフリーズしてしまう。

 

(殺す気か……!?

 俺を可愛さで殺す気かこの女はぁぁぁっ!?)

 

「おかえりなさい」

 

――武士として血みどろの戦場を駆け抜け、

死と隣り合わせで生きてきた土方の人生に、

 

これほど甘く、

愛おしく、

胸を締め付ける言葉が

 

あっただろうか。

 

屯所の隊士たちを

恐怖のどん底に叩き落としたばかりの男が、

 

今や自分の部屋で、

畳に膝をついたままプルプルと震えている。

 

「あ……ああ、ただいま……」

 

絞り出すような声で返事をしながら、

 

土方は照れくささの限界を突破し、

バッと顔を背けてポケットから煙草を取り出した。

 

しかし、手が震えてライターの火がうまくつかない。

 

「……たく、反省してねぇだろ、お前は」

 

土方は煙草をくわえたまま、

乱暴に乙羽の頭へ大きな手をぽん、と乗せた。

 

手つきは乱暴だが、

 

その触れ方は壊れものを扱うように

どこまでも優しい。

 

「『おかえり』は嬉しいがな……

 

屯所の野郎どもは、全員が飢えた狼みたいなもんだ。

 

お前のその……

可愛すぎる姿を見せていいのは、俺の前だけだ。 

 

分かったか?」

 

そう言いながら、土方は乙羽の羽織り直した隊服の襟元を、隙間がないようにしっかりと正してやる。

 

「……ほら、髪がまだ濡れてんだろ。

 風邪ひくだろーが」

 

土方は溜息をつきながら、押入れから清潔な手ぬぐいを取り出すと、乙羽の背後に回った。

 

そして、愛おしくてたまらないというように、その濡れたピンク色の髪を優しく、ゆっくりと拭い始めた。

 

「これからは……俺がちゃんと守ってやるからな。

 

屯所のルールも、

俺とのルールも……

 

一つずつ覚えていけばいい」

 

髪を拭く土方の手から、ほんのりと煙草とマヨネーズ(?)の匂い、そして男らしい体温が伝わってくる。

 

「十四郎さん……」

 

髪を拭いてもらったのは、何年ぶりだろう。

まだ乙羽が小さい頃のことだ。

 

(お父さん……)

 

乙羽の父親は、元華族の品位ある人物だった。

 

子煩悩で非常に優しく、お風呂上がりの乙羽の濡れた髪をよく拭いてくれた。

気が強い乙羽の母親の小言も、黙って穏やかに聞いていた。

 

(……飢えた狼?)

 

隊士たちを例えた土方の言葉は、乙羽にとって聞き慣れないものだった。乙羽の周りには、たとえ表面上であっても、ニコニコと余裕ある佇まいの男性が多かった。

 

乙羽は、土方に尋ねた。

 

「隊士のみなさん、いつもお腹空いてるの?」

 

「ぶふっ……! げほっ! ぐほっ……!?」

 

乙羽の真顔での問いかけに、煙草を吸おうとしていた土方は豪快にむせ返り、涙目になりながら激しく咳き込んだ。

 

「けっ……吸った煙が変なとこ入った……っ!

 

お、お前……っ!

なんでそうなるんだよバカ野郎っ!!」

 

乙羽のどこまでも純粋で破天荒な天然ぶりに、

土方は頭を抱えて天井を仰いだ。

 

「『お腹が空いてる』じゃねぇよ!

物理的な胃袋の話じゃなくてだな……

 

いや、確かにあいつらは大食いだが

そうじゃなくて!

 

男が綺麗な女の子を見た時の……

その、なんだ……

 

『狼』ってのは例えだ、例え!!」

 

身振り手振りを交えて必死に説明しようとするものの、箱入り娘の乙羽に「男のスケベ心」をどう解説すればいいのか分からず、

 

土方の顔は、急速に茹で上がっていく。

 

「あーもうっ! とにかく!

 

あいつらは腹を空かせた野良犬以下だと思っとけ!

 

特に総悟の奴とか

近藤さんとか、

 

屯所の男どもに

 

無防備な顔見せちゃダメなんだよ!」

 

そう言いながら、髪を拭く手だけは絶対に止めず、

どこまでも優しく乙羽の頭を撫で下ろす土方。

 

亡き父親の温もりを重ね合わせ、安心しきった様子でちょこんと座っている乙羽の姿に、土方は不意に毒気を抜かれてしまった。

 

ふっと柔らかい溜息をつくと、土方は乙羽の隣に腰を下ろし、手ぬぐいを畳んで、その小さな肩をそっと己の体に引き寄せた。

 

「……たく。

 

お前みたいな世間知らずで

守ってやりたくなるような奴、

 

放っておけるわけねぇだろ」

 

土方は乙羽の額に、愛おしさを込めて優しく自分の額をこつんと当てた。

 

「屯所の食糧の心配する前に……

 

自分の夫の心配をしやがれ。

 

俺だってな……

 

お前がそんな顔して

『十四郎さん』なんて呼ぶたびに、

 

理性が飛びそうになってんだからな」

 

耳元で低く囁く土方の声。

 

その瞬間、屯所の廊下から「副長ー! 今夜の夕飯マヨネーズが切れて……って、ひぃぃぃっ! すみませんお邪魔しましたぁぁっ!」と山崎が悲鳴を上げて走り去っていったのだった。

 

 

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