かぶき町結婚相談所【土方十四郎編】 〜命を捨てた男の欠けたピース〜   作:Madocca

11 / 11
お越しいただきありがとうございます!
『かぶき町結婚相談所・土方十四郎編』第8話です。

背負ってきたものはまるで違う。

けれど、二人が孤独の果てに求めていた

「本当の居場所」は、

最初から同じ場所にあったのだー

土方と乙羽の魂の共鳴
感じていただけたら嬉しいです。

そしてー
いよいよ銀さん登場☆



#8 二次のワイドショー

爽やかな夕風が、江戸城下の賑やかな街並みを吹き抜けていく。

 

先ほど髪を乾かしてもらったばかりの乙羽は、土方の隣を少し遠慮がちに、けれど満ち足りた歩幅で歩いていた。

 

男臭い屯所を少し離れ、夫婦となって歩む夕刻の散歩。

 

夕日に染まる江戸の街並みはどこまでも美しく、乙羽の心を優しく包み込んでいた。

 

だが――

 

そんな穏やかな時間をぶち壊すように、

向こうからダラダラと歩いてくる一人の男がいた。

 

銀髪の天然パーマ、

死んだ魚のような目。

 

木刀を腰に差し、

いちご牛乳のパックを啜りながら

 

ニヤニヤと不気味な笑みを浮かべている男――

 

万事屋銀ちゃんこと、坂田銀時である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

(あ、あの人は……万事屋の……!)

 

実は乙羽は、蛇山の強引な手回しに困り果てて万事屋へ相談に訪れたことがあった。

 

その際、銀時は

「うちは泥沼の愛憎劇はお断りなんだよ」と言いつつも、

 

陰でこっそり

 

土方たちの動向を気にしてくれていた経緯がある。

 

「やあやあやあ、

これはこれは

 

真選組の『鬼の副長』様と、

今や江戸中の時の人、乙羽ちゃんじゃ

 

あ〜りませんか」

 

銀時はわざとらしく手を叩きながら、二人の前で足を止めた。

 

「な~んだテメェは、銀時。

相変わらず死んだ魚の目しやがって。

 

俺たちの邪魔すんなら斬るぞ」

 

土方が煩わしそうに手を刀の柄へやると、

銀時はニヤリと鼻で笑い、着物の懐から

 

一冊の瓦版

――江戸のワイドショー誌を取り出した。

 

「おいおい、ツンツンすんなって多串くん。

 

……それより見ろよコレ。

 

『ワイドショー・江戸のからくりテレビ』の

特別大特集号だ」

 

ドーンと誌面の表紙を飾っていたのは、

第5章でのあの壮絶な一騎打ちの瞬間……

 

そして、

 

土方に必死にしがみつく

乙羽の超ドアップ写真

 

だった。

 

見出しには、極太の文字でこう踊っている。

 

『【激震】大蛇組潰しの一部始終!

 

少女の愛の叫び

「あなたじゃないとダメなんです!」

「独りにしたらダメになっちゃう!」

 

全江戸の涙を誘い、

 

空前の流行語大賞内定へ!?』

 

「なっ……なん……だ……コレはぁぁぁぁっ!?」

 

土方の顔から、一気に血の気が引いた。

 

銀時は腹を抱えて「ギャハハハ!」と大爆発した。

 

「知らねぇの!?

 

あの時、江戸城のからくりカメラが

バッチリ全国生中継してたんだよ!

 

今や

幕府の役人も、

かぶき町のキャバ嬢も、

寺子屋のガキどもまで

 

『独りにしたらダメになっちゃう~♡』って真似して

 

大バズり!

 

乙羽ちゃんの愛の叫びが

 

TikTok(からくり動画)で

何百万再生されてると思ってんだよバカ野郎!!」

 

「ぜ、全国……生中継……!?」

 

土方は膝から崩れ落ちそうになった。

 

自分と乙羽の、

あの恥ずかしくも甘酸っぱい一幕が、

 

江戸全域どころか、

全国の茶の間に垂れ流されていたという事実。

 

銀時は容赦なく乙羽へ向き直ると、

ニヤニヤしながら語りかけた。

 

「やー乙羽ちゃん、お久しぶり。

相変わらず可憐だねぇ。

 

まさか、あの時相談に来たお嬢さんが、

このマヨネーズ妖怪を

 

『あなたじゃないとダメ』なんて

 

公開告白で回収してくれるとはね。

 

江戸の平和を守ってくれて

マジ感謝だわ。

 

ちなみに今、

かぶき町じゃ

 

『乙羽ちゃんアクスタ』が

 

転売ヤーによって高値で取引されてっからね」

 

「て、転売……アクスタぁぁぁっ!?」

 

土方は村麻紗を爆速で抜き放ち、

銀時の首元へ突きつけた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「てめぇぇぇ銀時ぃぃぃっ!!

 

乙羽のグッズを

勝手に作って売ってんのは

 

どこのどいつだぁぁぁっ!!

 

全員切腹だァァァッ!!」

 

「落ち着けよ多串! 俺じゃねぇよ!

 

発案者は

真選組の総悟くんだよ!

 

『土方さんを煽るために量産しやした』って言ってたぞ!」

 

「あの総悟がああぁぁぁっ!!」

 

 

◇

 

「……あ、あの、十四郎さん……」

 

銀時とギャーギャーやり合っているうちに、気がつけば散歩道の周りには大量の町人たちが集まっていた。

 

「あ! あの二人だ!」

「『ダメになっちゃう』のカップルだ!」

「乙羽ちゃん可愛い〜!」

「土方さん男前〜!」

 

キャーキャーと黄色い声援とカメラのレンズ(からくり)が一斉に向けられる。

 

箱入り娘として静かに生きてきた乙羽にとって、この異常な注目と社会現象はあまりにも刺激が強すぎた。

 

恐怖と恥ずかしさで肩をすくめ、

 

顔を真っ赤にして

土方の隊服の裾をギュッと握りしめる。

 

「……っ!」

 

乙羽の不安を察した瞬間、土方の目つきが変わった。

 

「チッ……ドブネズミ共が群がりやがって」

 

土方は銀時を蹴り飛ばすと、

乙羽の肩を抱き寄せるようにして引き寄せ、

 

自らの隊服の羽織りで、彼女の顔を覆い隠した。

 

「見るな、乙羽。……行くぞ」

 

土方は一瞬で冷徹な「鬼の副長」の気迫を放ち、

集まった野次馬を一睨みで威圧すると、

 

乙羽を姫抱っこするようにしっかりと抱え上げ、

 

爆風のような速度で

真選組屯所へと逃げ帰ったのだった。

 

 

◇

 

「ふぅ……ふぅ……。大丈夫か、乙羽」

 

屯所の奥深き自分たちの部屋。

 

障子をピシャリと閉め、ようやく静寂を取り戻した室内で、土方は肩で息をしながら乙羽を畳の上へそっと下ろした。

 

乙羽はまだ心臓をバクバクさせながら、

土方の羽織から顔を覗かせた。

 

「は、はい……十四郎さん……。

まさか、あんなことになっていただなんて……」

 

「……たく、総悟の奴、あとで地獄のシゴキ決定だ」

 

土方は毒づきながら、部屋の真ん中に鎮座する膳の前に座り込んだ。

 

そして、何事もなかったかのように

懐から「あるもの」を取り出した。

 

鮮やかな赤と黄色のチューブ。

 

そう、天下の至宝――『マヨネーズ』である。

 

土方は、夕飯の残りのどんぶり飯の上に、まるでソフトクリームのように美しく、とぐろを巻くマヨネーズをこれでもかと絞り出し始めた。

 

白米が見えなくなるほどの

 

激盛マヨネーズご飯(マヨ丼)。

 

乙羽は目を丸くした。

 

これまで見る機会のなかった、

土方十四郎の「真の姿」。

 

(こ……これが噂の……マヨネーズ……?)

 

あまりの量と、部屋に漂う強烈な酸っぱい匂いに、

乙羽は驚きを隠せない。

 

土方はマヨ丼を愛おしそうに見つめると、

ふっと静かな目を乙羽に向けた。

 

「……不思議そうな顔してんな」

 

土方は豪快にマヨ丼を一口口に運ぶと、

どこか遠い目をして、静かに語り始めた。

 

「俺がなぜ……そこまでマヨネーズにこだわるか、

話したことなかったな」

 

乙羽は静かに頷き、土方の言葉に耳を傾けた。

 

「俺はな……

 

武州の貧しい郷士の家に生まれ、

身寄りもなく、ずっと一人で生きてきた。

 

血と泥に塗れて、

明日食うものもねぇような日々の連続だった」

 

土方は煙草ではなく、マヨネーズのチューブを愛おしそうに握りしめる。

 

「そんな過酷な日々の中でな……

 

初めて口にしたのが、このマヨネーズだったんだ。

 

どんなに冷え切った冷や飯でも、

どんなに不味い雑草でも……

 

これをかければ、カロリーになり、

生きるための『エネルギー』になった。

 

俺にとって、マヨネーズは単なる調味料じゃねぇ。

 

命を繋ぎ止めてくれた……

『生きるための糧』だったんだよ」

 

土方は少し照れくさそうに口元を緩め、

乙羽を真っ直ぐに見つめた。

 

「……まあ、今はすっかり味覚がマヨネーズに支配されちまった駄目な男だがな。

 

だけど……

 

孤独だった俺の命を繋いでくれたからこそ、

 

俺は生き残り、

真選組を作り、

 

こうしてお前と出会うことができた」

 

土方はマヨネーズのチューブを乙羽の前に差し出し、真剣な目つきで言った。

 

「乙羽。……俺にとってマヨネーズは命の恩人だ。

 

そして……お前は俺の『命の理由』だ。

 

……味覚がおかしい夫で苦労かけるかもしれねぇが、

これだけは分かっててほしい」

 

「十四郎さん……」

 

乙羽は、小さく息を吐いた。

 

育ちは違えども、

土方の孤独が乙羽の胸に染み込んできた。

 

「私も……実は……」

 

そう言って、土方の目の前に、

小さな鍵のレプリカを差し出した。

 

古ぼけた銀の鍵。

 

あまり見ないデザインだった。

 

「これは、私が小さい頃に、父がくれたんです。

 

公務で外国に行ったときに、

その国の古い言い伝えで、

 

『幸せの扉を開ける鍵』だと。

 

父は、まだ子どもの私に言ってくれました。

 

乙羽を愛してくれる人は必ずいる。

その人に出会えるまで、持っておきなさいと。」

 

レプリカを自分の手のひらに置いて、乙羽は続けた。

 

「でも……

 

変なデザインですよね。

色も綺麗じゃないし……

 

でも、私は、この鍵を握りしめて、

父の言葉を信じていました。

 

だから、十四郎さんに会えたんです。」

 

乙羽は、潤んだ目で土方を見つめた。

 

古ぼけた銀の鍵。

 

決して豪奢ではなく、

風雪に耐えてきたようなその小さなレプリカを、

 

乙羽は愛おしそうに握りしめていた。

 

土方は、

口元についたマヨネーズを半紙で拭うことも忘れ、

 

その鍵と乙羽の瞳をじっと見つめた。

 

(幸せの扉を……開ける鍵……)

 

貧困と血生臭い戦いの中で、

マヨネーズを命の糧として生き延びてきた己と、

 

過酷な境遇の中で、

父親の言葉と一本の鍵を信じ抜いて生きてきた乙羽。

 

背負ってきたものはまるで違う。

 

けれど、二人が孤独の果てに求めていた

 

「本当の居場所」は、

 

最初から同じ場所にあったのだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「……変なデザインなんかじゃねぇよ」

 

土方は静かに手を伸ばすと、乙羽の手のひらごと、その小さな鍵を大きな手で包み込んだ。

 

武士のゴツゴツとした温かい手のひらが、乙羽の華奢な手を優しく包み込んでいく。

 

「……そいつは、ちゃんと役目を果たしたんだよ。

お前が俺を見つけてくれたんだからな」

 

土方は包み込んだ手に少しだけ力を込めると、

愛おしさに耐えかねたように乙羽を引き寄せ、

 

その額へそっと唇を寄せた。

 

深い愛と、生涯をかけた誓いを込めた口づけ。

 

「……マヨネーズしかねぇ男だが……

 

お前が握りしめてきたその『鍵』に、

嘘はつかせねぇ。

 

俺が……お前を一生幸せにしてやる」

 

「……十四郎さん……っ」

 

乙羽の目から、ぽろぽろと零れ落ちる温かな涙。

 

二人が静かに見つめ合い、甘い空気が最高潮に達した

 

――まさにその時である。

 

ドガァァァァンッ!!

 

「副長ォォォっ! 大変です!

 

庭で総悟と近藤さんが

『乙羽ちゃんアクスタ』の売上金を巡って

 

本気の刀チャンバラ始めて

 

屯所の壁が崩壊しましたァァァっ!」

 

悲鳴を上げて飛び込んできた山崎が、

抱き合う二人の姿を見てフリーズした。

 

「あ……す、すみません……お邪魔しまし――」

 

「山崎ぃぃぃぃぃぃっ!!

 

テメェら全員、

今すぐ切腹だぁぁぁぁっ!!」

 

甘い空気は一瞬で吹き飛び、

土方は村麻紗を抜いて大噴火!

 

マヨ丼を蹴飛ばしそうな勢いで

部屋を飛び出していったのだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。