かぶき町結婚相談所【土方十四郎編】 〜命を捨てた男の欠けたピース〜   作:Madocca

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『かぶき町結婚相談所・土方十四郎編』第9話です。

武家屋敷で育った
お嬢様育ちの乙羽も

男だらけの屯所生活に慣れた頃…

これって、ドラマでよく見るあれですよね⁈

乙羽に起きた体調の異変は
私の実体験です。

最悪(!?)の出会いから始まる二人の関係や、真選組のドタバタな日常、そして互いの傷を優しく癒やしていく愛の軌跡を、挿絵(AIイラスト)と共にお届けします。

※今後は【ジャンプ発売日】に更新予定です!
少しでも楽しんでいただけましたら、いいね、ブクマ、評価やコメントをいただけますと大変励みになります❣️


▫︎▪️▫︎第二部▫︎▪️▫︎はまったピース七変化▫︎▪️▫︎
#9 奥さまはゲロイン


――そして、数ヶ月の月日が流れて。

 

「う……」

 

ある朝。

いつものように朝食の支度をしていた乙羽が、

 

突如として胸を押さえ、

口元を抑えてしゃがみ込んだ。

 

「乙羽!? どうした、大丈夫か!?」

 

顔色を変えて駆け寄る土方。

 

「……十四郎さん……なんだか…気持ち悪い……」

 

「なっ……毒か!?

蛇山の生き残りか!?

 

山崎ぃぃっ!

医者だ!

 

幕府の最高医を呼んでこいぇぇぇっ!」

 

パニックになる土方を余所に、

通りかかった近藤が乙羽の様子を見て、

 

ハッと目を見開いた。

 

「ト、トシ……待て……!

これはお前……まさか……!!」

 

「に……おい……ご飯……醤油……っ!」

 

溢れ出る涙も拭えぬまま、

乙羽は床に手をつき、

 

小さな体を激しく震わせていた。

 

普段なら愛おしいはずの、

 

炊き立てのご飯の甘い湯気と、

香ばしい醤油の匂い。

 

それが今の乙羽には耐えがたい猛毒のように

鼻腔を刺し、

 

激しい吐き気が容赦なく襲いかかってくる。

 

「乙羽っ……!!」

 

土方は顔面を蒼白にさせ、膝から畳へ滑り込むように駆け寄った。

 

「おい、しっかりしろ!

 

飯か!?

醤油か!?

 

誰だ、

炊事場にこんな匂い充満させた奴はぁぁぁっ!

 

畳ごと引っ剥がして

裏の川にぶち込めぇぇぇっ!!」

 

パニックのあまり完全に理性を失い、

屯所の破壊を命じ始める土方。

 

その背中で、大声を聞きつけた近藤がズカズカと上がり込んできた。

 

「トシ! 叫んでる暇があったら

乙羽ちゃんの背中を撫でてやれ!

 

いいか、ご飯の匂いがダメ……

 

これは……間違いないぞ!!」

 

近藤はボロ泣きしながら、土方の両肩を掴んで激しく揺さぶった。

 

「つわりだぁぁぁぁぁっ!!

 

乙羽ちゃんのお腹に……

 

お前と乙羽ちゃんの

赤ちゃんができたんだよぉぉぉぉっ!!」

 

「つ……わ……り……? あか……ちゃん……!?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

雷に打たれたように、土方が絶句する。

 

鬼の副長と呼ばれた男の手が、

見たこともないほどプルプルと震えていた。

 

土方は、

慌てて己の服の袖で乙羽の涙を優しく拭い、

 

割れ物を扱う以上の慎重さで、

小さな背中をさすり始めた。

 

その大きな手からは、

 

動揺と

それ以上の愛おしさが

 

痛いほど伝わってくる。

 

「乙羽……大丈夫か……?

痛ぇところはねぇか……?

 

俺の匂いはどうだ、煙草臭くねぇか……!?」

 

土方は、

自分が吸っていた煙草を速攻で庭へ投げ捨てると、

 

乙羽の顔を心配そうに覗き込んだ。

 

「山崎ぃぃぃっ!

江戸一番の産婦人科医を連れてこい!

 

籠じゃ遅ぇ、馬を引いてこい!

 

いや俺が担いで走る!!」

 

「副長、落ち着いてください!

まだお医者さん呼んでませんからぁぁっ!」

 

「うるせぇぇぇっ!

 

乙羽に何かあったら

 

テメェら全員

切り捨て御免だぞおいぁぁぁっ!!」

 

屯所中を揺るがす土方の怒号とパニック。

 

だが、

乙羽を抱きかかえるその手だけは、

 

どこまでも温かく、

震えながらも決して離さまいと強く優しかった。

 

「……吐く……吐く……っ!」

 

口元を必死に手で押さえ、

溢れ出る涙と激しい吐き気に翻弄される乙羽。

 

自分の体の中で何が起きているのかも分からず、

ただ恐怖と苦しさでパニックになり、

 

小さな体を折り曲げて啜り泣く。

 

「乙羽っ!

 

我慢すんな、吐いていい!

 

全部出しちまえ!!」

 

土方の目が血走り、

 

速攻で部屋の奥から

大きな桶と綺麗な手ぬぐいを

 

とんぼ返りで持ってきた。

 

「近藤さん!

庭の風上に回って、飯の匂いを全部追い払え!

 

山崎ぃぃっ! 医者はまだかぁぁぁっ!!」

 

土方は背中から抱きかかえるようにして

乙羽の体を支え、桶を抱えさせると、

 

大きな手で優しく、けれどしっかりと背中を擦り始めた。

 

「大丈夫だ……大丈夫だぞ乙羽。

 

俺がついてる。

 

苦しいな、怖ぇよな……

全部吐いちゃえ」

 

「んん……っ、おえっ……くぅぅ……っ」

 

込み上げるものを吐き出しながら、

苦しさにボロボロと涙を流す乙羽。

 

土方は自分が着ていた上着を脱いで乙羽の肩に掛け、髪が汚れないよう優しく束ねて押さえながら、

 

何度も何度も

耳元で声をかけ続けた。

 

「よしよし、偉いぞ……全部出せ。

大丈夫だ、俺はどこにも行かねぇからな」

 

やがて、

ひとしきり吐き終えた乙羽が、呼吸を荒くしながら

 

ぐったりと土方の胸の中に倒れ込む。

 

そこへ、息を切らした山崎が老医師を連れて雪崩れ込んできた。

 

「ふ、副長!

幕府御用達の御医者様をお連れしましたぁぁっ!」

 

「医者! 速攻で診ろ!

毒か!? 奇病か!?

 

乙羽が……

乙羽が死にそうなほど苦しんでんだよぉぉっ!!」

 

土方の殺気立った剣幕に、冷や汗をかきながらも、

 

老医師は落ち着いて乙羽の脈を取り、

お腹のあたりに手を当てて、静かに診察を進めた。

 

そして、ふっと表情を緩めると、

深々と頭を下げた。

 

「副長……ご安心くだされ。

お毒でも病でもございません」

 

「……あ? じゃあなんでこんなに苦しんでんだよ!

吐いて泣いてんだぞ!?」

 

医師は微笑みながら、

 

土方と、

土方の胸の中で不安そうに揺れる乙羽の目を

 

交互に見つめた。

 

「お二人のお命……ご懐妊でございます。

 

これは『御懐妊の兆し(つわり)』というもの。

 

奥様のご体内にて、

新しい小さな命が

 

健やかに育ち始めている証拠でございますよ」

 

「ご……かいにん……?」

 

呆然と呟く土方。

 

そして、

土方の胸の中で小さく震えていた乙羽も、

 

涙で濡れた目を大きく見開いた。

 

自分の体の中で起きている

恐ろしいパニックの正体――

 

それは、

大好きな「とうしろうさん」との間に宿った、

 

愛しい新しい命の産声だった。

 

「あ……かちゃん……?

私と……十四郎さんの……?」

 

言葉の意味がゆっくりと頭に染み渡り、

乙羽の瞳から再びボロボロと涙が溢れ出す。

 

だが、今度の涙は恐怖ではなく、

溢れんばかりの愛おしさと感動の涙だった。

 

土方は、自分の手が激しく震えているのに気づいた。

 

「赤ちゃん……俺と……お前の……」

 

土方はゆっくりと膝をつき直し、

まだ信じられないというように、

 

壊れ物を触るような手つきで、

乙羽のまだ平らなお腹に、

 

そっと大きな手のひらを重ねた。

 

「乙羽……苦しかったな……

知らねぇで焦らせて……ごめんな……っ」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「鬼の副長」と呼ばれた男の目から、

ぽろりと大きな涙が畳へこぼれ落ちた。

 

土方は乙羽をぎゅっと、

けれどお腹を締め付けないように

 

優しく優しく抱きしめた。

 

「ありがとう……

 

乙羽……。

 

俺を……

父親にしてくれて……っ!」

 

ふと、自分の下腹部に

温かいものがあることに気づいた乙羽。

 

まだ起き上がる体力もなく、

目を開けるだけで精一杯だが、

 

そこには確かに

 

「自分のものではない意思」が存在していた。

 

思えば、ここ最近、体が重かった。

 

土方に心配をかけたくないという気持ちが、

無意識に、ただの疲れだろうと思わせていた。

 

突然、じわじわと脳内に広がる母性。

 

土方に守られてばかりの自分が、

守るべきものを得た瞬間だった。

 

「……十四郎さん

 

……嬉しい……

 

私たちの

赤ちゃん……」

 

涙で濡れた乙羽の頬に、

土方は己の大きな手をそっと添えた。

 

愛おしさと愛撫を込めて

親指で涙を拭い、

 

何度も何度も頷く。

 

「ああ……

俺たちの赤ちゃんだ。

 

乙羽、よく頑張ったな……

 

ありがとう……っ」

 

二人が命の温もりに浸る傍らで、

老医師は診察道具を収めながら、

 

正座する土方に向かって表情を正し、

 

重々しく言った。

 

「副長、これからが本番でございますぞ。

 

父親として、

幾つか

 

固くお守りいただきたいことがございます」

 

「……言え。何でも守る」

 

土方は涙を拭い、

真剣そのものの目で医師を見つめた。

 

「まず、奥様は現在『妊娠12週目』でございます。

 

もうじき安定期に入りますゆえ、

つわりも徐々に軽くなってまいりますが、

 

まだ決して油断はできませぬ。

 

無理は

絶対に厳禁でございます」

 

「無理……。重ぇ物を持たせたりとかか?」

 

「左様でございます。

重い物を持たせるなど論外。

 

そして何より、

転倒や強い衝撃だけは

 

絶対に避けねばなりませぬ。

 

屯所内での激しい運動や、

隊士たちのドタバタに巻き込ませぬよう、

 

徹底してお守りくだされ」

 

「当然だ。

 

触れようとした奴は

全員叩き斬る」

 

「それから、ご入浴についてでございますが……」

 

医師の言葉に、土方はピクリと眉を跳ね上げた。

 

「湯気が部屋に籠もると、その匂いや熱気で

再びえずいてしまうことがございます。

 

入浴は、奥様の気分が良い時に限ること。

 

そして……

どうしてもお湯に入るのが無理そうな日は、

 

旦那様である副長が

温かい手ぬぐいで

 

優しく

 

お体を拭いて差し上げてください」

 

「お、俺が……体を拭く……!?」

 

土方は顔を真っ赤にしながらも、

胸の前でドシッと拳を握り締めた。

 

「分かった……!

 

掃除も洗濯も、

体の清拭も……

 

全部俺がやる!!

 

乙羽には指一本動かせさせねぇ!!」

 

「副長、気合が入るのは結構ですが、

 

まずはその殺気を抑えて

奥様を休ませて差し上げなされ」

 

医師の苦笑いに、

土方はハッと息を呑み、

 

急いで表情を和らげると、

 

胸の中でぐったりとしている乙羽を

ゆっくりと敷布団の上へと横たえた。

 

羽織をそっと掛け直し、

その枕元に寄り添って腰を下ろす。

 

「乙羽……聞いたな?

今日から、お前は絶対安静だ。

 

お風呂も食事も、

 

俺が全部面倒見るからな」

 

土方は乙羽の小さく温かい手をギュッと握りしめ、

自分に言い聞かせるように、

 

そして愛おしそうに囁いた。

 

「俺たちの赤ちゃんも……

 

お前のことも、

 

命にかえても

守り抜いてやる」

 

「十四郎さん……

 

夢を叶えてくれて、ありがとう……

 

私、十四郎さんの子のママになれる……」

 

愛おしそうに目を細め、

幸せ噛みしめるように呟く乙羽。

 

その健気で可愛らしい笑顔に、

土方の心根は完全にノックアウトされていた。

 

「バカ言え……

お前が俺をパパにしてくれるんだろ……」

 

土方は照れ隠しに顔を背けながらも、

 

繋いだ手にそっと自分の額を寄せ、

深い愛おしさに浸っていた。

 

――まさにその時。

 

ピコン! ピコンピコンピコンピコンッ!!

 

静かな静寂をぶち破り、

 

土方の懐の端末が

狂ったように爆発的な通知音を鳴らし始めた。

 

「あ……? なんだ一体……」

 

土方が鬱陶しそうに端末を取り出すと、

 

画面には『真選組・全体グループ(隊士300名)』の通知数が「99+」と表示されていた。

 

【沖田総悟】:速報。鬼の副長・土方十四郎氏、医者から『嫁の体を拭いてやれ』と言われるも、純情すぎて手が震え、指一本触れられないヘタレであることが判明しやした。

 

【沖田総悟】:【悲報】土方さん、妻の清拭(せいしき)すらできず、屯所内でただの置物化。副長降格のお知らせ。

 

【隊士A】:マジですか!? あの鬼の副長が!?

【隊士B】:体の清拭もできないなんて……男としてどうなんですか副長ぉぉぉっ!

【隊士C】:俺が代わりに乙羽様の体を拭いて差し上げましょうか!?(切腹覚悟)

 

【近藤勲】:トシぃぃぃぃっ! 男だろぉぉぉっ! 照れてる場合かぁぁぁっ! 乙羽ちゃんと赤ん坊のために腹括ってしっかり拭いてやれぇぇぇっ! 応援してるぞトシぃぃぃっ!!(※大泣きスタンプ10連打)

 

「総〜〜〜〜悟ぉぉぉぉぉぉっ!!

 

テメェ

余計なデマ流してんじゃねぇぇぇぇっ!!」

 

土方の血管が額でブチ切れ、

画面を叩き割りそうな勢いでブチギレる。

 

「第一、『ヘタレ』じゃねぇ!

嫁の身体を拭くなんて

 

……その……

 

ただの配慮だろーがバカ野郎っ!!」

 

通知の嵐は止まらない。

 

『副長ファイティン!』『ヘタレ副長!』『童貞卒業おめでとうございます!』などと適当な煽りスタンプが滝のように流れていく。

 

顔面を限界突破の真っ赤にした土方は、

思わず端末を畳へ叩きつけた。

 

「てめぇら全員、

明日から地獄の100万回素振りだァァァッ!!」

 

怒号を響かせつつも、

土方は慌てて乙羽の方を振り向き、

 

冷や汗をダラダラ流しながら、

必死に言い訳を始めた。

 

「お、おい乙羽! 違ぇぞ!

俺はヘタレなんかじゃねぇからな!?

 

お前が……その、嫌じゃなければ!

 

俺がちゃんと……

頭から足の先まで拭いてやるからなっ!!」

 

過保護と

照れくささと

爆発的な怒りが混ざり合い、

 

もはや収拾がつかなくなっている土方であった。

 

 

【挿絵表示】

 

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